ASEAN 調査団レポート

ASEAN 調査団レポート
(株)レイテック 調査 G 福地 成彦
2016 年 5 月 22~29 日 の日程で、ATIS 新興国の知財調査分科会が企画した ASEAN 調査団に参加させてい
ただきました。参加者は、ATIS 新興国の知財調査分科会のメンバーなど計 9 名です。以下、レポートさせていた
だきます。(※一部「ATIS ASEAN 調査団 報告書」を引用させていただきました。)
<日程>
5 月 22 日(日)
移動(出国→ハノイ)
5 月 23 日(月)
VCCI-IP 事務所
ベトナム知的財産庁(NOIP)
移動(ハノイ→ホーチミン)
5 月 24 日(火)
Pham & Associates
JETRO ホーチミン
5 月 25 日(水)
移動(ホーチミン→ジャカルタ)
5 月 26 日(木)
Am Badar
Hakindah
5 月 27 日(金)
インドネシア知的財産総局(DGIP)
ACEMARK
AKSET LAW(森・濱田松本法律事務所)
5 月 28 日(土)→ 29 日(日)
移動(インドネシア出国→帰国)
<参加者(敬称略)>
西
徳野
誠治
肇
神鋼リサーチ(株)
(株)三菱化学テクノリサーチ
大久保恵司
富士電機(株)
藤井
(株)IHI
由紀
小田三紀雄
(株)日本電気特許情報センター
田端
(株)レイテック
泰広
山本万里子
トヨタテクニカルディベロップメント(株)
香浦
大樹
(国研)科学技術振興機構
福地
成彦
(株)レイテック
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①ベトナム
VCCI-IP 事務所
・日時:
2016 年 5 月 23 日(月)10:00~12:00
・場所:
VCCI Building, 9 Dao Duy Anh-Hanoi, Vietnam
<副所長から事務所概要説明>
当事務所は 1984 年に VCCI(VIETNAM CHAMBER OF COMMERCE AND INDUSTRY:ベトナム商工会議所)
の傘下に 1984 年に設立され、設立後から 5 年間は独占的にベトナムにおける外国企業等の出願代理業務を
行っていた。現在、ベトナムには約 160 の代理人が存在するが、日本から最も多く依頼を受けている。VCCI-IP
の人員は 68 名(うち弁護士/弁理士 24 名)おり、VCCI-IP には 4 つの特許部門(①出願手続、②電気電子、
③化学・生物・医薬、④機械他)がある。外国出願全体の 10-12%、日本からの 35%を担当しているとのこと。
<侵害(予防)調査について>
ベトナムの出願は多いが、権利保護のための調査、侵害予防調査はあまり行われていない。これらの調査は
NOIP(ベトナム知的財産庁)の審査官と協力して行う。
<NOIP との協力について>
NOIP との連携による調査には、公式なものと非公式なものがある。
公式な調査とは、審査請求に対する調査など正式な手続きに基づいて行う調査である。非公式な調査とは、事
務所に来た依頼を NOIP にお願いして調査してもらう調査であり、代理人と審査官の個人的な人脈に基づいて
行われている。NOIP には(IPAS と呼ばれる)庁内部のデータベースがあり、一般的に公開されているデータベ
ースにはないデータを含んでいる。NOIP が調査結果を提供し、判断は代理人が行うという役割分担になって
いる。公式な調査とは異なり事務所側がふさわしい審査官を選べるため、調査効率が良い。非公式ルートであ
れば、公式な調査では対象外になっている侵害予防調査を審査官に行ってもらえるので、審査官への謝礼と
してのコストがかかるものの基本的には非公式ルートを勧めている。VCCI-IP 以外の特許事務所についても
全て同様である。
<特許鑑定について>
かつて鑑定は NOIP で行われていたが、現在 VIPRI(Vietnam Intellectual Property Research Institute=ベトナ
ム知的財産調査研究所)に移管されている。VIPRI は科学技術省により 7,8 年前に設立された鑑定ができる唯
一の(日本でいう財団法人的な)機関となっている。主に商標の侵害調査にかかわるもので特許はあまり行って
いない(体制が整っていない)。VIPRI の鑑定結果は(国の唯一の鑑定機関であるため)証拠として利用可能であ
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り法的拘束力を有する。
効率のよい鑑定方法としては、非公式な調査により初期調査を行い、その後 VIPRI に公式ルートでその調査結
果を提出すると、VIPRI がそれを鑑定結果として出すことになる。逆に権利を有しており模倣品を取り締まる立
場であれば、VIPRI の調査結果は必須ではなく事務所に相談すると行政機関に通報して行政機関(市場管理
局など)が動くことになる。商標・意匠についての訴訟は日本企業、欧米企業では実際にある。欧米企業が関
連する特許侵害訴訟を取り扱った事はない。
<VCCI-IP の独自のデータベースについて>
今まで VCCI-IP が出願を行ったものをデータベース化して参照している。
②ベトナム 知的財産庁(NOIP)
・日時:
2016 年 5 月 23 日 (月) 14 時 00 分~16 時 00 分
・場所:
National Office of Intellectual Property (NOIP)
Block A, 386 Nguyen Trai st., Thanh Xuan dist., Hanoi
<PPH, ASPEC について>
ASPEC は 2013 年から現在まで 16 件の申請、PPH は 2016 年 4 月 1 日から始まって 2 か月で 44 件
の申請を受けた。PPH はベトナムと日本の間の協定に基づいてパイロットのプログラムとして始めたもので、
NOIP の処理能力や、他国の出願の審査が後回しになってしまう不平等さの問題があるため、とりあえずパイロ
ットプログラムとして年間 100 件で 3 年間と決めて始めている。
審査における情報提供については、参考資料として歓迎するが、優先度としては、自分達(NOIP)で調べた調
査結果>日米欧などの他の国の特許庁の調査>それ以外の機関が提供するもの、の順となる。日本語の資
料は読めないし、機械翻訳を使うと読みにくく理解しにくいものになるため、資料は英語のものをいただけると
ありがたい。
<データベースに関して>
外部向けデータベースとしての IP Lib(公開公報情報)と Digipat(登録公報情報)については、これら 2 つを
統一させることを考えている。
データベースの英語化について、数年前は行っていたが、JPO からの支援が切れて今は実施していない。
審査官用の内部データベース(IPAS)は、出願されたものは全て入っており毎日更新しているが、IPAS を公開
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用データベースとして用いる(データを共用するような)予定はない。また、IPAS にはスキャンデータが全て格
納されていているが、データベースとして調べられるとかデータ加工できるものではない。
現在、出願は全て紙ベースでしか受け取っていない。電子申告を受け付けるシステムは今年の年末に開始す
る予定にしているが、紙ベースの出願も引き続き受け付ける予定にしている。
2013 年に IPAS のシステムが故障して、その障害によって 2 年間のスキャンデータが消え、スキャンして入
れなおしているところである。
IP Lib で掲載されている案件の 90%は国際出願(PCT)のもので、WIPO や外国の特許庁のデータベースで
調べれば、詳細内容をフルテキストで見ることはできる。
特許の無効化申請については、2011 年は 3 件、2012 年は 4 件、2013 年は 3 件、2014 年は 9 件、
2015 年は 1 件と多くなく、その内約 50%が無効化に成功している。
③ベトナム Pham&Associates 事務所
・日時:
2016 年 5 月 24 日(火)9 時 00 分~11 時 00 分
・場所:
Pham & Associates Ho Chi Minh City Office
8 Nguyen Hue St., 1st
Dist., Ho Chi Minh City, Vietnam
<事務所について>
130 人以上のスタッフ所属。英語、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語対応可。
特許(実案)・・・弁護士 16 人、パラリーガル 3 人
技術分野・・・電子・IT 分野 4 人、機械分野 3 人、医薬分野 2 人、生物学分野 2 人、金属精錬分野 1 人、ポリマ
ー分野 2 人、食品化学分野 2 人、意匠・商標 15 人、訴訟関係部門 10 人。うちパラリーガル 6~7 人で他アシ
スタント。
ハノイに本社オフィスがあり、ホーチミンほかブランチが複数ある。ベトナム法律サービストップ 100 等多数受
賞。
<侵害対応について>
侵害案件の困難性に応じ、事務所内の部署内や、外部と連携して対応する。侵害発見時の対応としては、①
行政措置、②判所訴訟、③仲裁センターの 3 つの手段がある。
①行政措置(税関差止申請):証拠や書類を税関に提出する。取締対応に 2~3 週間かかる。権利者は賠償
金が得られないが、早急に対応できるため、お勧めできる。
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②訴訟:損害賠償訴訟は、侵害の認定だけでなく損害金額の認定も必要であり、損害額の立証は難しくお勧
めしない。ベトナムの裁判所は知的財産への案件に慣れていないため、大きな賠償金を得られるケースはほぼ
ないベトナム小企業が海外大企業の権利を侵害した場合、ベトナム小企業が破産するケースがあるため、確実
に権利侵害が判明している場合は「和解」がよく利用される。製薬会社の訴訟が多く、地方裁→高裁→最高裁
と経るため、判決までに最低 3 年はかかり即効性は無い。
③仲裁センター:仲裁で解決するためには、その旨をあらかじめ契約書で合意しておく必要がある。特許侵害
での差止めや損害賠償を行いたい場合は、権利者と侵害者の間であらかじめ契約が存在していないため、仲
裁での最終解決は難しい。双方が向かい合って契約書を締結できない場合は訴訟になる。
<特許出願について>
ASPEC プログラムは、他の ASEAN 諸国との審査協力に関するものであり、ベトナム審査官としては気乗りし
ていない。ベトナム審査官が参考とする外国は、EPO、JP、US、CN、DE、GB、AU、RU 等で、ASEAN 諸国は
対象外である。日本のオフィスアクションをベトナム審査官に送付し、早く権利化ができるように促している。ベト
ナム特許クレームを日本特許クレームと対応させ、さらに日本特許クレームを英語に翻訳して審査官に提出し
ている。
<特許調査について>
約 20 件/年調査依頼ありで日本からの依頼はそのうちの約 4 割。FTO 調査は、1 年で約 10 件の依頼がある。
出願から 19 か月で公開されるが、ガジェットが配信されるまでに約 3 か月かかるため、22 か月後に公開情報
(abstract、図)を確認することができる。他社出願のリーガルステータスを確認する方法は現状難しく、登録に
なったもののみ確認できる。拒絶された内容は公開されない。データベースの更新状況にてリーガルステータ
スを確認できる場合もあるがタイムリーなものではない。
<鑑定について>
法廷では、リーガルオピニオン>専門家意見の順に参考にされるが、行政措置では、リーガルオピニオンも専
門家意見も両方受理される。 VIPRI でリーガルオピニオンを入手した後、NOIP の専門家意見を入手し、食い
違いがないかを確認している。時々意見が食い違うため、事務所内でも検討する。VIPRI 内の専門家 4 人のう
ち、特許担当は 1 人のみ。
<その他>
政府は産学連携を推奨しているが、企業が要求する内容と一致せず、ベトナム外の技術に興味があるため、
企業からベトナム内の大学への投資はされていない。 コンピュータプログラムは、著作権で保護するか、ハー
ドがシステムを持っているという内容で特許として権利化することは可能である。特許権を取得後にライセンス
契約を締結する際、現在は NOIP に登録申請を行う必要がある。
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④ベトナム 日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所
・日時:
2016 年 5 月 23 日(火)13 時 40 分~14 時 40 分
・場所:
14th Floor, Sun Wah Tower
115 Nguyen Hue St., Dist. 1, Ho Chi Minh City, Vietnam
JETRO はタイバンコクを ASEAN の拠点にして、各国にひも付きされている。
<ベトナム経済について>
冊子「ベトナム・ホーチミン市近郊ビジネス情報 2015」を用いて、
(1)全国物流網・大型インフラ案件、(2)各省・市データ、(3)国の概要・歴史、(4)マクロ経済、(5)外国直接
投資、(6)労務/現地調達率、(7)市場としてのベトナム、(8)税務/日本との関係 について、説明を受け
た。
人口は 9,073 万人(2014 年)、面積は約 33 万 km2。人口比は北部、中部、南部でほぼ 1/3 ずつ(中部は
28%でやや少ない)。ASEAN の中では、GDP は、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ラオス、ミャンマー、
カンボジアの順。
南北で気候の違いがある。北部は二毛作で台風も多く、南部は三毛作など北と南でかなり状況は異なる。人口
は北部と南部でほぼ同じであるが、リテイル(物とサービス)が約 2 倍、工業生産は 1.7 倍と南部のほうが経済
活動は活発である。
2011 年の政策転換等により、2012 年に 19 年ぶりに貿易収支は黒字となった。2012 年にサムスンが誘致され
中東などの輸出が増え 19 年ぶりの貿易黒字となった。携帯電話と縫製品が主な輸出品となっている。ただし、
基盤としての鉄が作れないなど課題はある。
平均年齢は 30 歳で、労働人口は多い。家族を大切にして残業はしない。最低賃金は年率 15%で上昇してい
る。
ベトナムには模倣品を作る技術力がない。ほとんどが中国製で、特にハノイの北の国境や辺境地から入ってく
る。このことがほぼ黙認の状態となっている。
ハノイ-ホーチミン間を日本の ODA によって鉄道で結ぶ計画があったが頓挫している。距離が 1,800 km 長く、
その間の中核都市も多くないため、150US$出せば飛行機で、2 時間で行き来できることに対するメリットもなく実
現は難しい。
ホーチミンでは、日本の ODA によって地下鉄工事が進められている。2015 年完成の予定であったが、2020
年に延期となった。これは縦割り行政のせいで国交省の担当と市の交通局の担当とで分断されているためとの
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こと。祝日が約 10 日で日本に比べて少なく土曜日も半ドンということで効率的に生産でき生産量が確保できる
状況にある。
⑤インドネシア Am Badar & Partners. 事務所
・日時:
2016 年 5 月 26 日(木)10 時~12 時 15 分
・場所:
JI.Wahid Hasyim no.14 Jakarta, Indonesia 10340
<事務所概要の説明>
1965 年に Mr. Toetoen Am Badar によって設立された。当事務所は日系企業が一番大きなクライアントになっ
ている。
当事務所からの出願数 2014 年 日本:473、 USA:292、 イギリス:86
当事務所からの出願数 2015 年 日本:398、 USA:358、 韓国:177
(インドネシア全体出願数 2015 年 日本:2,337、 USA:1,409、インドネシア:894
特許調査、特許出願、登録後手続き、リーガルサービス、権利行使、ドメインネ
ーム登録、植物多様性保護などに対応している。
<インドネシアの知財状況の説明>
・2015 年出願は化学:626、 機械:422、 電気電子:253…(IPC 分類による)となっている。
・商標(2015 年)は登録:43,830、拒絶:14,284、取り下げ:708
・意匠(2015 年)は登録:3347、拒絶:198、取り下げ:91
<出願から登録までのフローの説明>
・出願から 36 か月以内に実体審査、審査申請されてから 36 か月以内に査定が出る。
・(特許)拒絶されても審判で成功すると登録になる。審判でも認められない場合には、商事裁判所に提訴可能。
当事務所での査定不服の裁判事例は無いとのこと。
(※商標、意匠のスライドもあったが今回のミーティングでは省略された)
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<PPH, ASPEC について>
PPH、ASPEC はいずれも利用をおすすめしたい。利用する/しないは出願人によることが多い。ASPEC の利用
については、制度は知っているがあまり使われていない。日本企業は PPH の利用を希望し使われるが、
ASPEC は使わない。ASEAN よりは日米欧などの先進国の審査結果を参考にされる。 PPH については(ベトナ
ムでは 100 件/年の制限があったが)インドネシアでは件数制限は特にない。
<特許データベースについて>
特許は、DGIP(インドネシア知的財産総局)の WEB サイトで公開される。ただし言語はインドネシア語である。
出願データのアップロードの遅れなどの理由でデータが入っていないものが時々見かけられる。WEB だけでの
データでは危険なので、DGIP から直接資料を入手することでデータの信ぴょう性を上げている。登録後のクレ
ームを確認したくても出願包袋を閲覧したり取り寄せたりすることができない。登録公報は出ない。
<公式/非公式の調査について>
非公式の調査は DGIP に行って担当に直接聞く形の調査で、4 日間で公式の調査と同様の結果が得られる。
公式では同じものを得るのに 1 か月くらいかかる。非公式の調査では WEB データになっていないものもいただ
ける場合もあり、公式の調査よりもデータが揃っているから非公式調査をおすすめしたい。まず審査官にメール
か電話で第一報をして、直接会ってお願いするという形をとっている。
<AmBadar のデータベースについて>
内部データベース(クライアントの情報を蓄積、割合的に多いのでそれなりの信頼性がある)で調査して、
DGIP(インドネシア知的財産総局)のデータベースでの調査、審査官による「非公式の調査」の順で調査を行
う。
<訴訟について>
特許の無効審判の取り扱いはない。商標ではリンゴスター(ビートルズ)などを取り扱った。
<電子出願について>
著作権、商標では e-filing に対応している。特許、意匠も来年初頭にも対応するとのこと。現在特許は紙ベース
のみで特許庁へ書類の配達に 2 人雇っているとのこと。
<早期公開制度について>
審査早期化に有効である。使わない場合に比べて審査が 6 か月早くなる。
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⑥インドネシア
Hakindah International 事務所
・日時:
2016 年 5 月 26 日(木)14:00~16:00
・場所:
Gedung Gajah Unit AT, Jl.Dr.Saharjo No.111,
Tebet, Jakarta Selatan, 12810, Indonesia
<Hakindah International について>
インドネシアで出願される特許の 5%程度を取り扱っている。クライアントは 100%日本企業。専門スタッフとし
ては、サーチ 3 名(化学・土木建築・機械)のほか、他の部にも各分野の専門家がいる。全ての技術分野で対
応可能とのこと。
<データベース、特許調査について>
DGIP(インドネシア知的財産総局)のデータベースと独自のデータベースを併用している。まず独自のデータ
ベースを参照し、そのあとに庁のデータベースで詳細を参照するやり方で進めている。2 つのデータベースの
併用理由は、DGIP のデータにはギャップがあり、相補的に用いることで補完する。インドネシア国内で独自に
データベースを構築・運用しているのは当事務所を含めて 4 事務所ある。
<審査関係の情報>
審査請求からのファーストアクションは 2,3 年かかる。傾向としては早くなっている。リストアップして月 1 回くらい
見直ししている。審査官に定期的にリマインドをかけていて、3 か月ごとにクライアントに状況を伝えている。他
の国で登録されたものを延ばしたがる傾向、ゼロから審査するものを嫌がる傾向があるとのこと。
<侵害対応>
基本的に自分たちで調査する。範囲が広い場合、例えば侵害品を製造している会社の調査までは(自分たち
でできる範囲やるが)アウトソーシングする。警告書を出して、期限を設けて警察に届けてそれでもだめなら民
事的な手段を取る。
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⑦インドネシア知的財産総局(DGIP)
・日時:
2016 年 5 月 27 日(金)10 時 30 分~12 時 00 分
・場所:
Jalan HR Rasuna Sald Kav 8-9
Kuningan, Jakaruta Selatan
KDI Jakaruta-Indonesia
<DGIP での特許審査について>
審査には full examination (完全審査)と normal examination (通常審査)の 2 つある。完全審査は国内や優先
権主張がない出願の審査で全体の 12%、通常審査は優先権主張をしたもので残りの約 9 割ある。通常審査は
海外の情報があり、それを参考にして内容について審査する。機械系としての参考だが、読むのに 1 日、サー
チに 2 日、書類やレターの作成に 1,2 日かける。機械系で 8 件/1 か月の目標が設定されている。
調査には、無料で使える Espacenet や JPO などのデータベースを用いている。これからは有料のデータベース
を活用していきたい。DGIP 内部のデータベースはチェックに用いている。公開用のデータベースはすでに公
開されているもの、内部のデータベースはそれに加えてプロセス中のものも含まれている。
<DGIP のデータベースについて>
内部用のデータベース、外部向けのデータベース(LADI KI)の 2 つがある。内部用は未公開の出願や審査中
の情報が入っている。外部向けのデータベースは最低 1 週間に 1 回は更新している。月曜から金曜日までのも
のを基本、土日にかけて処理して次週の月曜日には反映される。IPC が付与されていない出願があるが、主と
して国内出願で発生しており、庁内の公開担当が IPC を付与することになっているが十分ではなく、IPC が付
与されていないものが発生している。公開後に IPC が付与されることもあるので、調査件数が違ってくること。フ
ルテキストのデジタル化計画については、今年中にデジタル化は終了する予定で、その後で WEB に反映させ
る。外部向けデータベースは 1991 年以降のものを収録している。2016 年 1 月 4 日以降の公開分はインドネシ
ア語や英語のドキュメントはスキャンされている。データベースの販売については、法律で禁止されているとか
いう話では無い。フルテキストのデジタル化を優先して行っており、その後に外部提供を検討することになる。
<出願包袋の入手について>
登録後であれば、申請書提出の上、有料(1 枚 10,000Rp、 約 90 円)で入手可能。ただし、登録になった経過
(拒絶理由通知や審査官と代理人、出願人とのやり取り)は今のところは提供できない。内部用データベースに
は登録までの流れが入っている。
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<日本との PPH について>
PPH の利用により審査は早くなっていると考えている。審査官が読んで納得できるかどうかで審査のスピードが
左右する。海外からの資料は参考程度のものとしている。
<電子出願計画について>
特許の e-ファイリングシステムは準備が整いつつある。ただ、オンライン出願の出願料金の支払いがされたか
の認証について、財務当局との確認が不十分であり、これを解決する必要がある。
⑧インドネシア ACEMARK Intellectual Property
事務所
・日時:
2016 年 5 月 27 日(金)14 時 00 分~16 時 00 分
・場所:
ACEMARK Building
Jl. Cikini Raya No. 58 G-H, Jakarta 10330
<事務所概要>
前身の法律事務所から IP 部門が独立して 1999 年設立された。全部で 58 名、弁護士資格 4 名、IP コンサル
タント(弁理士)5 名が在籍している。国内部、国際商標部、国際特許意匠部、Accounting 部(財務担当)、情
報システムマネジメント部の 5 つの部からなり、特許意匠部には 15 名、商標部の方には 20 名が在籍している。
情報システムマネジメント部の 6 名が、ACEMARK のデータベース、システムの開発を担当している。顧客の 3
割が国内で 割が海外。日系企業の占める割合は 5~6 割。概算で、年間で特許 200 件、商標 2,000 件、意匠
200 件を取り扱っている。
<審査、データベース>
PPH の案件は 2012 年から 2015 年の間、15 件取り扱い、登録になったものが 2 件あるが、審査はそれほど早
くなってない印象を持っている。審査を早くするストラテジーとしては、書類をきちんと不備が無いように揃えるこ
とがまず一つで、すぐに実体審査請求を行い、同時に早期公開に申請して、国際的なフェイズに入って、審査
官の手に渡る時にはすべての書類が揃っているという状況にしておくということが前提条件である。出願した後
で、追加資料や、訂正があると、審査官側の方でそのような書類の有無を探したり確認したりするため時間をロ
スして審査が終わるのが遅くなるということがある。
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DGIP のデータには間違いが少なからず含まれている。例えば、意匠の場合では代表的な図を正面図に指定
しても Web に掲載される代表図が側面図であるような場合がある。出願日、公開日、登録日などの日付の間違
いが一番多いとのこと。また変更内容がアップデートされず古い情報のままになっているケースがある。間違っ
ていた場合は書面でもって訂正を要求するけれども、直してくれる時もあるし、直してくれない時もあるとのこと。
ACEMARK が持っている内部データベースは、自分のところで取り扱ったもの以外のものも蓄積しており、
2014 年以降の特許公報については PDF 化・デジタル化を済ませており、それ以前のもの(1991 年以降のも
の)もほぼ PDF 化を済ませている。IPC、要約のキーワード、発明者、番号などでサーチできる。
DGIP の方で 2011~2012 年に IPAS(DGIP 内部のデータベース)への移行があり、その時に古いデータの
ものをシャットダウンしてしまったが、その分のデータは ACEMARK のデータベースでは埋められている。
⑨インドネシア AKSET LAW(森・濱田松本法律事務所)
・日時:
2016 年 5 月 27 日(金)16 時~17 時 30 分
・場所:
The Plaza Office Tower 29th Floor
JI. M.H. Thamrin Kav. 28-30 Jakarta–10350 Indonesia
<インドネシアの弁理士について>
日本では「弁理士」といわれるのに対し、インドネシアでは「IP コンサルタント」といわれる。日本では、理系出身
者が多いが、インドネシアでは文系出身者が多い。森・濱田松本法律事務所では、「IP コンサルタント」がいな
いため、他の事務所と連携して出願を行っている。
<現地での相談内容について>
一番多い相談は、労働問題である。事務所が直接労働者と対面すると、長期化するため、質疑応答や作戦・ス
トーリーの相談を行う。ジャカルタからの相談がほとんどである。ジョイントベンチャーや、株の取得、用地買収、
販路・物流、役所とのやり取りの相談も多い。日本の技術を盗まれぬようプロテクトする手伝いもする。
法改正が多く、さらに実態は法律どおりではないため、法改正にかかわる相談も多い。法律ができたとしても運
用されないケースが多く、特に、法律が出た直後は予測ができない。法律では、特許ライセンス契約の登録制
度が規定されており、登録していることが対抗要件となる。さらに、2016 年 2 月に施行規則ができたが、現時点
(2016 年 5 月 27 日)では、未確認である。
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法律同士が矛盾しているケースがあるため、インドネシア大統領が「法律の不整合をなくす」ことを目標にして
おり、政府としては上記現状を解決したがっている模様。これは、他の ASEAN 諸国がインドネシアの脅威となる
ことを恐れ、さらに外資の投資の確実性をあげるためと考えられる。日本の「法制局」と同様の部署は存在する
が、うまく機能していない。各省庁がパブリックコメントを聞かずに法律を出すため、改正が多くなる。(大統領令
クラスの法律になると、パブリックコメントを聞く模様)
<知財の相談内容について>
知財関係の相談はあまりなく、さらに特許の侵害についてはほぼない。行政の取り締まり内容に、2012 年から
特許も含まれることになったが、行政の取り締まり能力が低いのが現状である。2015 年に 1 件、行政の差し止め
があった。
<裁判について>
裁判所はさらに機能しておらず、森・濱田松本法律事務所では、裁判を避け和解をするように薦めている。ジャ
カルタの裁判所には、機能している裁判所もあるが、地方の裁判所は特に腐敗している。優秀な裁判官も中に
はいるが、指定はできない。最高裁判所のデータベースは機能しているため、内容が公表されているが、その
他の裁判所はデータベースが機能しておらず、裁判内容は不明である。最高裁判所の判決は、下級裁判所を
拘束することもあるが、その判決内容がスタンダードとなることはない。知財は 2 審まで、ほかの裁判は 3 審ま
で。
<仲裁について>
仲裁センターは、独立機関であり、うまく機能している。インドネシア仲裁委員会(BANI)は、シンガポール仲裁
センターよりも価格が安く、よく使用している。
終わりに(感想など)
ベトナム、インドネシアともにとても活気がありました。特にベトナム ホーチミンのビルやマンショ
ンの建設ラッシュを目の当たりにして、現在進行形の経済成長を感じました。
現地特許庁のデータベースなど、現地の特許事務所の方々の評価や不具合や、その不具合を補うため
の対策として独自のデータベースの構築、非公式な調査など、現地で直接伺うことができ、とても有
意義でした。ASEAN の特許 / 商標 / 意匠 調査 は弊社までご相談下さい。
以上
(補足)特許データベースの特徴について
(※一部、上記レポートと重複あり)
<ベトナム知的財産庁(NOIP)>
1. データ/データベースの特徴
公開用データベースは、IP Lib(公開公報情報)と Digipat(登録公報情報)の 2 つ。これらの統合化
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を検討中とのこと。
データベースの言語はベトナム語(一部英語)だが、英語化は(支援が切れたため)ストップしている。
IP Lib は書誌、分類、要約までしか収納しておらず(→
請求項、明細書、図面は収納していない)、
検索、調査できる範囲もその範囲となる。
2. 欠損しているデータ等の注意点
全出願のデータが公開用のデータベースに登録されているわけではない。途中で出願取消、方式審査
で通らないものなど条件を満たさず、データが登録されないものがある。
(公開できるものは全てしているとのことでしたが・・・)
<インドネシア知的財産総局(DGIP)>
1. データ/データベースの特徴
公開用データベース(LADI KI)は、1991 年以降のものを取り扱っている。更新は週に 1 度のペース。
フルテキストデジタル化に向けて準備中(WEB 更新は来年以降の予定)
2. 欠損しているデータ等の注意点
IPC 分類が付与されていないケースがあるが、そのまま付与しないままデータ登録されている。
(以下、訪問先の事務所からの情報)
出願日、公開日、登録日などの日付の間違いが多い。
変更内容がアップデートされずそのままになっている場合もある。
データのギャップがある。
<ベトナム NOIP、インドネシア DGIP の共通点>
公開用データベースとは別に、内部用データベースとして IPAS と呼ばれるシステムを構築し運用して
いる。出願書類、審査書類などの書類は全てスキャンして蓄積しているが、検索に使えるようなもの
ではない。いずれの国でも途中システムのシャットダウンがあり、データの抜けがありスキャンしな
おしているところである。
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