東映株式会社と東宝株式会社 1 はじめに

東映株式会社と東宝株式会社
~時代の流れとともに変化する映画業界~
国際地域学部 国際地域学科 3 年
1810090192
片岡 明子
1 はじめに
昭和初期から、人々に娯楽を与え、幅広い年代に親しまれ続けてきた映画。近年では、
大型ショッピングモールやデパートに併設されたシネマコンプレックスが多くみられ、映
画館の変化を感じる。また、高度なデジタル化の発達に伴い、3D 映画を公開し話題を集め
た。このように、時代とともに変化している映画業界の現状に興味を持った故、高い国内
シェアを誇る、東映株式会社と東宝株式会社の経営を分析していく。
1‐1
映画業界の現状
映画業界の売上高・シェアでは、1 位に東宝、2 位東映、3 位松竹、4位東北新社となっ
ている。
映画業界の過去の推移を見ると、平成 15 年から 20 年まで業績はほぼ横ばいを続けてい
る。21 年には前年から増加に転じたが、長期的には映画興行収入は伸び悩み傾向にある。
内訳としては 17 年までは洋画シェアが邦画シェアを上回っていたが、18 年以降邦画が洋画
を上回り、国内での洋画離れが進んでいる。邦画では特にTVドラマやコミック、小説な
どのヒット作からの映画化が多く、ある程度の業績が見込める“勝算”映画が主流になっ
ている。映画興行収入が横ばいを続ける中、近年、映画館数は増加傾向にある。特に同一
の施設内に複数のスクリーンがあるシネマコンプレックスの増加が目立つ。
1‐2
両社の概要
東映株式会社
昭和 24 年に東京都品川区五反田に東京映画配給株式会社を設立する。昭和 26 年に東横
映画株式会社、太泉株式会社を吸収合併し、東映株式会社となる。テレビ・ビデオ・アニ
メーションに関しては、業界のトップクラスに位置し活発な事業展開を行っている。テレ
ビドラマシリーズや戦隊ヒーロー等の特撮キャラクター作品といった東映株式会社の特性
を生かした映画作品を製作し、営業拡大を図っている。また、競争激化するシネマコンプ
レックス事業については、株式会社ティ・ジョイにおいて、都内では「新宿バルト 9」など
他社との提携を含め、全国で 18 サイト展開している。全サイトで上映システムのデジタル
化へ積極的に取り組み、オリジナリティー溢れるコンテンツの企画・上映・配信を試み、
新たなる興行形態の展開を図っている。その他、イベント事業、ホテル事業、広告代理事
1
業や CM 制作、貿易業、建築内装業、テナント事業など多彩な展開を行い、経営の安定化
を図っている。
東宝株式会社
東宝株式会社は、映画・演劇の興行を主たる目的として昭和 7 年に株式会社東京宝塚劇
場として設立された。昭和 11 年には日本映画株式会社を合併して、映画演劇興行界確固た
る基盤を確立した。昭和 18 年に東宝株式会社に改称する。創立者、小林一三翁の理念であ
る「朗らかに、清く正しく美しく」を経営の根幹にしている。近年では、シネマコンプレ
ックス間の競争が激化する中、クオリティーの高い消費者ニーズに合った作品を多数提供
するため、ソフトのさらなる充実を図っている。不動産事業においては、8 年の歳月を掛け
「東宝スタジオ改造計画」が完了し、高機能を誇る最新施設を提供している。
1‐3
注意事項
使用するデータは 2007 年から 2011 年までの 5 カ年分の東映株式会社と東宝株式会社の
有価証券報告書を参考にして分析する。連結経営という視点を重視し、各指標の算出にあ
たっては特に断りのない限り、連結データを用いる。また、東映株式会社の有価証券報告
書の会計期間は 4 月 1 日から 3 月 31 日、東宝株式会社の有価証券報告書の会計期間は 3 月
1 日から 2 月 28 日である。また、以下の文章では、東映株式会社を東映、東宝株式会社を
東宝と省略して記載する。
2 収益性
まず、企業の総合的収益性を測定する代表的な指標の一つである、使用総資本事業利益
率(ROI)を用いて分析していく。
使用総資本事業利益率(ROI)
%
10
8.3
8
6
4
6.8
5.17
6.5
4.45
7.8
7
5.48
4.61
5.57
東映
東宝
2
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 1 使用総資本事業利益率(ROI)
図表 1 を見ると、ROI は東映より東宝の方が平均して約 2%ほど高い位置を推移してい
2
る。傾向としては東映、東宝ともに 2009 年に一時上昇、2010 年には下降している。両社
とも推移は同じ動きをしている。このようになった結果を分析していくために、ROI を構
成している、総資本と事業利益の推移をみていくことにする。
百万
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
総資本
図表 2、3 は使用総資本を構成する総
資本と事業利益についての推移を示
している。
総資本は東宝が高い水準を保って
いる。傾向としては、両社ともここ 5
年間においてあまり変化は見られな
い。
東映
東宝
図表 2 総資本
事業利益においても東宝の方が高
百万
30,000
事業利益
い水準にある。図表 1 の ROI の動き
25,000
と図表 3 の事業利益の動きが両社と
20,000
もに一致しているため、事業利益の
15,000
変動が影響していることがわかる。
10,000
傾向としては、両社とも多少上下す
5,000
る動きはあるものの、大きな変動は
0
東映
東宝
ない。
図表 3 事業利益
次に、事業利益(営業利益+受取利息+受取配当金+持分法による投資損益)の詳しい内訳を
比較していく。
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
売上高
100
100
100
100
100
売上原価
67.5
67.6
66.9
67.6
67.9
売上総利益
32.5
32.4
33
32.3
32
販売費及び一般管理費
22.8
24.3
23
24
22.5
広告宣伝費
1.8
2.3
1.3
1.7
1.4
営業利益
9.7
8.1
9.9
8.2
9.5
受取利息
0.07
0.1
0.1
0.1
0.06
3
受取配当金
1.6
0.3
0.3
0.3
0.4
1
0.7
(0.0)
0.6
1.2
12.37
9.2
10.3
9.2
11.16
持分法による投資利益
事業利益
図表 4-1 東映の事業利益の構成(単位:%)
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
売上高
100
100
100
100
100
売上原価
62.8
63.1
60.8
55.9
61.7
売上総利益
37.2
36.9
39.2
39.1
38.3
販売費及び一般管理費
25.6
27.2
28.3
29.6
27
4.3
4.7
6.7
5.7
3.6
営業利益
11.6
9.7
10.9
9.4
11.2
受取利息
0.07
0.13
0.08
0.04
0.04
受取配当金
0.69
0.73
0.5
0.4
0.3
持分法による投資利益
0.14
(0.0)
0.5
0.1
0.07
12.77
10.56
11.98
9.94
11.61
広告宣伝費
事業利益
図表 4-2 東宝の事業利益の構成(単位:%)
図表 4-1、4-2 は事業利益の算出過程を百分比で表したものである。
まず、東映では 2008 年と 2010 年に事業利益が減少している。この原因として、営業利益
と受取配当金が減少したのに対して広告宣伝費が増加したためである。
一方東宝でも、2008 年と 2010 年に事業利益が減少している。2008 年の事業利益減少の
原因として、営業利益の減少に対して、販売費及び一般管理費が増加したためである。2010
年の事業利益減少の原因としては、営業利益の減少に対して、売上原価は減少したものの
販売費及び一般管理費が増加したためである。売上原価の減少は、映画製作者に対する配
分金及び原価償却費の減少が原因である。
次に自己資本利益率(ROE)(当期純利益/自己資本×100)について分析していく。
自己資本利益率(ROE)
%
8
6
4
6.7
3.5
7.3
6.2
5.4
3.9
3
3.4
2
1.4
1.1
東映
0
2007年
2008年
2009年
2010年
図表 5 自己資本利益率(ROE)
4
2011年
東宝
自己資本利益率(ROE)は、株主の資本金をもとに、どの程度の利益を上げたかを推定す
る指標であり、株主にとってより直接的で重要な指標である。
図表 5 を見ると、2010 年には東宝が東映を上回っているものの、東映が高い水準である
ことがわかる。2009 年には東映・東宝ともに ROE が大幅に下降している。この下降の原
因は何なのか。ROE を分解して当期純利益と自己資本の推移を見ていく。
自己資本
百万
図表 6 の自己資本の推移をみ
300,000
ると東宝が東映より高い水準に
250,000
ある。傾向としては、両社とも
200,000
あまり変化が見られないため、
150,000
自己資本利益率に影響を及ぼし
100,000
ているのは、当期純利益である
50,000
東映
0
東宝
といえる。
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 6 自己資本
図表7の当期純利益を見ると、東宝の方が高
百万
当期純利益
い水準であることがわかる。特徴的なのは、
東映
東宝
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2009年に両社ともに大幅に下降していること
である。これは2009年のリーマンショックの
影響で、東映は少数株主利益が856百万円減少
したためであり、前連結会計年度に比較して
81.5%の減益となった。東宝は、法人税、住
民税及び事業税7,110百万円、法人税等調整額
△131百万円、少数株主利益876百万円を計上
し、前連結会計年度と比べ68.5%減益のとな
った。しかし、特に東宝は2010年、2011年に
は当期純利益を大きく増加させている。その
理由として法人税、住民税及び事業税3,771
百万円、法人税等調整額△630百万円、少数株
主利益878百万円を計上し、前連結会計年度と
比べ243.3%増益になったためである。よって
東宝はリーマンショック後、当期純利益を大
図表7 当期純利益
5
きく持ち直したことがわかる。
図表 5 の ROE での推移で東映が東宝を上回ったのは、東映の方が分母である自己資本が少
ないため、投資利回りが良い結果になった。しかし、近年では東宝が当期純利益を大きく
伸ばしており、ROE の両社の差はわずかになっている。当期純利益は企業のパフォーマン
スを示す指標であるため、東宝の方が優れていると言える。
そして、自己資本利益率(ROE)は、売上高当期純利益率(当期純利益/売上高×100)、総資
本回転率(売上高/総資本×100)、財務レバレッジ(総資産/株主資産)の 3 つの要素に分解する
ことができる。
図表 8 の売上高当期純利益率は、売上
売上高当期純利益率
%
7
6
5
4
3
2
1
0
高に占める当期純利益の比率の指標で
あり、収益性分析の基本的な指標である。
5.8
4.3
3.8
3.9
3.5
5.7
4.7
ここ 5 年間において、売上高当期純利益
率は 2009 年まで東映が上回るも、2009
年を境に東宝が逆転している。図表 7 で
2.3
表れている通り、2010 年に東宝が当期
1
純利益を大幅に増加させたことにより、
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 東映
東映を上回ったといえる。
東宝
図表 8 売上高当期純利益率
回
総資本回転率
東映
東宝
次に、図表 9 の総資本回転率をみてい
く。これは資産活用に関する総合的な指
0.8
標であり、この指標が高いほど総資本の
0.6
回収のスピードが速いことを意味する。
0.4
この指標において、東宝が一貫して高い
0.2
水準にある。傾向としては、両社とも横
ばいである。
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 9 総資本回転率
6
2.5
倍
財務レバレッジ
東映
東宝
次に図表 10 の財務レバレッジをみて
いく。財務レバレッジとは、負債の利用
2
度ないし負債への依存度を表す指標であ
1.5
る。この指標では東映が高い水準にある。
1
傾向としては、両社とも横ばいである。
0.5
よって、東宝の方が東映に比べ借金が少
0
ないことがわかる。
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 10 財務レバレッジ
収益性を分析した結果、すべての指標において東宝が東映を上回っていることがわかっ
た。
3 安全性分析
次に安全性の分析をしていく。まず、連結キャッシュフロー計算書から資金調達活動と
投資活動の状況をみてみる。図表 11 は連結キャッシュフロー計算書における主要項目を抜
粋したものである。
東映
東宝
2010
2011
2010
2011
減損損失
△665
△627
2,030
321
仕入債務の増減額(△は減少)
1,206
1,411
2,084
△742
たな卸資産の増減額(△は増加)
4,524
358
1,466
1,651
営業活動によるキャッシュフロー
13,568
5,556
31,413
29,794
有形固定資産購入額
△3,831
△4,574
△10,990
△13,844
有形固定資産売却額
363
138
830
862
金融債券の回収
327
181
210
165
有価証券購入額
△1,857
449
(0.0)
△499
有価証券売却額
35
54
(0.0)
403
△3,473
△7,442
△9,142
△15,807
Ⅰ営業活動によるキャッシュフロー
Ⅱ投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー
7
Ⅲ財務活動によるキャッシュフロー
長期借入債務の増加
2,300
5,600
515
(0.0)
長期借入債務の返済
△3,119
△4,590
△770
△274
自己株式の取得ほか
△4
△18
2,185
△306
△776
△776
3,760
3,741
△2,552
△1,636
△6,678
△4,857
7,567
△3,688
10,469
7,446
配当金支払額
財務活動によるキャッシュフロー
現金および現金同等物純増加・減少(△)額
図表 11 連結キャッシュフロー計算書(単位:百万円)
営業活動のキャッシュフローをみると、前年に比べ両社とも支出が減少している。原因
として、東映は仕入債務の支出とたな卸資産が減少したためである。東宝は、仕入債務と
減損損失の支出が減少したためである。投資活動のキャッシュフローをみると、前年に比
べ両社とも支出が増加している。原因として、東映は有形固定資産の取得による支出の増加
が主な理由である。東宝は、有形固定資産の取得による支出の増加、投資有価証券の売却によ
る収入の減少、投資有価証券の取得による支出の増加などによるものである。財務活動による
キャッシュフローをみると、前年に比べ両社ともに支出は減少している。東映は、長期借
入債務が増加したためである。一方、東宝は自己株式の取得による支出の減少によるものであ
る。
次に安全性に関する指標をみていく。ここでは、流動比率、当座比率、自己資本比率、
固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオの各指標を取り上げる。
企業の短期的支払能力を表す流動性
%
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
流動比率
東映
の指標として、流動比率と当座比率を見
東宝
ていく。流動比率(流動資産/流動負債×
100)は、短期に支払期限が到来する流動
負債に充当することが可能な流動資産
をどの程度持っているかを表す指標で
ある。一般に 200%以上が好ましいとさ
れている。
両社とも 200%を下回っている。しかし、
傾向としては、東映は下降傾向である半
面、東宝は上昇傾向であり 200%に近付
いてきている。東宝の 2010 年 11 年の大
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
幅な上昇の理由は、流動資産の中でも、
有価証券は前連結会計年度末と比べ
8
図表 12 流動比率
58.0%増加、現先短期貸付金は前連結
会計年度末と比べ 61.3%増加したため、
分子の数値が大きくなったためである。
140
当座比率
%
東映
東宝
120
100
80
60
40
20
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 13 当座比率
当座比率(当座資産/流動負債×100)は 100%を超えていればその企業は安全性が高いとい
える。図表 13 をみると、東映は 100%を上回りつつあり、安全性は高いといえる。一方東
宝は 100%を下回り、下降傾向である。よって、東映の方が流動資産の中でも当座資産を多
く持っていることがわかる。
次に、長期的な支払能力や全体としての安全性を測定する指標として、自己資本比率と
固定長期適合率を分析する。
自己資本比率(自己資本/総資本×
自己資本比率
80
100)が高いということは、利子を支払
う負債が少ないことを意味し、外部の
60
債権者にとって安全性が高いことを意
%40
味する。
20
東映
東宝
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 14 から、東宝が高い水準に位置
している。傾向としては、ここ 5 年間
東映、東宝ともに横ばいである。
図表 14 自己資本比率
固定長期適合率(固定資産/[自己資産
%
150
固定長期適合率
東映
+固定負債]×100)は 100%以下が理
東宝
想的とされている。
100
図表 15 から、2007 年の東映の数値を
除いて両社とも 100%を下回っている
50
ため、長期的な安全性が高いといえる。
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 9
図表 15 固定長期適合率
最後に、インタレスト・カバレッジ・
%インタレスト・カバレッジ・レシオ
140
126
120
112
109
101
100
86.9
80
東映
60
東宝
40
20
0
11.9
9.49
12.6
10.4
13.1
レシオ([営業利益+受取利息+受取配当
金]/支払利息)を分析する。
インタレスト・カバレッジ・レシオは、
支払わなければならない利息の何倍を
稼いでいるかを示す指標である。図表
16 をみると、東宝が圧倒的に高い水準
に位置している。
2007年2008年2009年2010年2011年
図表 16 インタレスト・カバレッジ・レシオ
東映のインタレスト・カバレッジ・レシオが低い原因として、図表 10 の財務レバレッジ
や図表 14 の自己資本比率からもわかるように、東映の方が東宝に比べ借入金が多いという
差から、東映は支払利息が大きくなっている。2008 年に東宝の数値が下がったのは、図表
3 からわかるように分子の事業利益が減少したためである。2010 年にも事業利益が減少し
ているにもかかわらず、インタレスト・カバレッジ・レシオが減少しなかったのは、分母
の支払利息が減少したためである。
安全性を分析した結果、当座比率を除いては、すべての指標で東宝の方が東映より安全
性が高いとわかった。
4 効率性・生産性分析
次に効率性と生産性をみていく。ここでは収益性分析で触れた総資本回転率の動きを 4
つの資産ごとの回転率に分けて分析する。4 つの資産とは棚卸資産、有形固定資産、売上債
権、投資その他の資産である。
*注意事項
東映の棚卸資産は 2008 年までは棚卸資産として有価証券報告書に記載されていたが、
2009 年度より「棚卸資産の評価に関する会計基準」が変更されたため、それ以降の数値は、
商品及び製品、仕掛品、原材料費及び貯蔵品の 3 つの和を棚卸資産として用いた。
10
回
50
棚卸資産回転率
回
40
2
30
1.5
20
1
10
有形固定資産回転率
0.5
0
0
東映
東映
東宝
東宝
図表 17 棚卸資産回転率
回
図表 18 有形固定資産回転率
売上債権回転率
15
回
3
10
投資その他の資産回転率
2
5
1
0
0
東映
東映
東宝
東宝
図表 19 売上債権回転率
図表 20 投資その他の資産回転率
棚卸資産回転率(売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(売上高/有形固定資産)は、各資産
が効率的に使われているかを測定する指標である。
まず図表 17 の棚卸資産回転率をみると、
両社とも上昇傾向であるが、一貫して東宝が高い水準に位置している。東宝の大幅な上昇
の原因として、分母における棚卸資産の減少が挙げられる。
図表 18 の有形固定資産回転率をみると、
両社ともほぼ横ばい傾向である。しかし東宝は少々
下降傾向である。
続いて、売上債権回転率(売上高/[売掛金+受取手形])と投資その他の資産回転率(売上高/
投資その他の資産)をみていく。図表 19 の売上債権回転率をみると、東宝が高い水準にあり、
より効率的に売上債権を回収していることがわかる。図表 20 の投資その他の資産回転率で
は、やはり東宝が高い水準にある。2009 年までは両社とも上昇していたものの、それ以降
は横ばいである。
効率性・生産性分析において、すべての指標で東宝が高い水準に位置しており、より効
率的に資産を活用していることがわかった。
11
5 成長性分析
2007 年を基準年(100%)として、売上高、総資本、営業利益、純資産の成長性を分析して
いく。
%
東映の成長性
110
105
100
95
90
85
80
75
70
65
60
%
売上高
総資本
東宝の成長性
110
105
100
95
90
85
80
75
70
65
60
営業利益
自己資本
図表 22 東宝の成長性
図表 21 の東映の成長性では、売上高、総資産、自己資本は両社ともほぼ横ばいである。
営業利益においては上昇、下降を繰り返すものの 2011 年には再び上昇している。
一方図表 22 の東宝の成長性では、2009 年の営業利益の上昇に伴い売上高は増加してい
るが、自己資本、総資本は 2007 年から減少している。しかし 2011 年には持ち直しつつあ
る。両社ともここ 5 年間においてはあまり大きな変化はない故、両社とも安定している反
面、成長性が見込めるとはいえないだろう。これは、5 年間において映画人口の変化が見ら
れないことも関わってきている。
6 グループ経営分析
次に両社のグループ経営の評価を行う。地域別セグメントに関しては、東映・東宝とも
に、全セグメントの売上高の合計及び全セグメントの資産の金額の合計額に占める日本の
割合が、いずれも90%を超えており、所在地別セグメント情報の記載を省略しているため、
事業別のみ分析していく。
6-1
連単倍率分析
連単倍率分析では、総資本、売上高、営業利益、当期純利益の 4 つの値に関する連単倍
率を用いて分析を行う。連単倍率は、連結数値を単体数値で割った値であり、グループ会
社の親会社に対する貢献度がわかる。
12
総資本
営業利益
自己資本
図表 21 東映の成長性
売上高
連単倍率(東映)
倍
連単倍率(東宝)
倍
3
2.5
売上高
2.5
2
2
総資本
1.5
1
0.5
0
売上高
総資本
1.5
1
営業利
益
0.5
当期純
利益
0
図表 23 東映の連単倍率
営業利
益
当期純
利益
図表 24 東宝の連単倍率
東映に関して図表 23 をみると、売上高、総資産、営業利益は 1.5 から 2 倍付近で推移し
ており、グループ会社の貢献が大きいといえる。当期純利益に関しては変動が大きく、2009
年にはグループ会社の当期純利益が大幅に減少したことがわかる。理由は図表 7 で、当期
純利益の推移を分析した通りである。しかし、2010 年にはグループ会社の当期純利益は約
2 倍付近に増加しており、いずれにせよ親会社の当期純利益に対しグループ全体の当期純利
益が大きいといえる。
東宝に関して図表 24 をみると、売上高、総資本、営業利益はすべて 1 を上回っており、
グループ会社の貢献が大きいといえる。特に売上高は 2 倍を超えており、グループ全体で
の利益が非常に大きいことがわかる。しかし、当期純利益はここ 5 年間親会社に頼った状
態であるといえる。ただ、傾向としてはグループ会社の当期純利益は上昇している。
両社を比較すると、東宝の方がグループ全体の売上高貢献が大きいため、グループ経営
は東宝の方が上手くいっているといえる。
6-2
事業別セグメント分析
次に事業別セグメント分析を行う
東映
映像関連
8%
事業別売上高
観光不動産
0%
その他
東宝 事業別売上高
映像関連
6%
観光不動産
演劇関連
その他
7%
30%
63%
86%
図表 25 東映 事業別売上高
図表 26 東宝 事業別売上高
13
百万
100,000
東映
事業別
売上高推移
80,000
映像関連
観光不動産
その他
60,000
40,000
20,000
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 27 東映の事業別売上高推移
百万
150,000
東宝
事業別売上高推移
映像関連
演劇関連
不動産関連
その他
100,000
50,000
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 28 東宝の事業別売上高推移
まず図表 25 の東映の事業別売上高をみると、8 割以上を映像関連事業で占めている。映
像関連事業では映画事業、ビデオ事業、テレビ事業の 3 部門構成されている。映像関連事
業ではグループ全体の会社総数 36 社のうち 26 社であり、主力の事業である。図表 27 の事
業別売上高推移をみても、他の事業に大きな差で映像関連事業が高い売上高である。
8%を占める観光不動産業では、会社総数は 3 社であり、主にホテル営業やゴルフ事業を展
開している。
図表 26 の東宝の事業別売上高をみると、約 6 割が映像関連事業だが、3 割を観光不動産
事業が占めている。観光不動産事業では、主に不動産の賃貸、道路の管理、不動産の保守・
管理を行っている。図表 24 の連単倍率や、図表 28 の事業別売上高推移からもわかるよう
に、東宝はグループにも力を入れており、特に観光不動産事業が重要な事業となっている。
次に両社の事業別営業利益と事業別正味投資額をみていく。
2007 年
映画関連
不動産関連
その他
2008 年
2009 年
2010 年
10,812
7,451
10,310
8,173
2,481
3,162
2,717
2,721
188
224
141
123
図表 29 東映 事業別 営業利益推移
14
2011 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
映像関連
13,878
10,036
13,266
10,447
14,532
演劇関連
3,312
2,383
2,189
1,466
1,172
10,015
11,009
11,437
11,447
10,414
243
121
57
△67
△122
不動産関連
その他
2011 年
図表 30 東宝 事業別 営業利益推移
2007 年
映画関連
不動産関連
2008 年
2009 年
2,448
2,148
3,461
314
△3,568
71
5
2
676
その他
2010 年 2011 年
3,066
△78
2,340
図表 31 東映 事業別 正味投資額推移
2007 年
2008 年
2009 年
3,065
2010 年
2011 年
映像関連
1,901
2,764
演劇関連
43
683
不動産関連
13,982
8,620
4,484
760
2,535
その他
△802
24
△4
△6
105
△328
1,517
△221
619
△171
図表 32 東宝 事業別 正味投資額推移
図表 29 をみると、東映の事業別営業利益は観光関連、不動産関連、その他の事業でここ
5 年間横ばいである。図表 31 の正味投資額の推移をみると、映像関連事業に一貫して高い
投資をしていることがわかる。2008 年の不動産関連の投資は、前連結会計年度に連結子会
社であった東映興業不動産株式会社を吸収合併したことに伴い、当連結会計年度において
物件の全般的な見直しを行い、築年数を経過した賃貸マンション等を売却したことによる
支出である。
図表 30 をみると、東宝は、映画関連、不動産関連事業は横ばいである反面、演劇関連と
その他の事業は減少傾向にあることがわかる。図表 32 の正味投資額推移からも、映画関連
と不動産関連事業は資本的支出が大きいのに対し演劇関連事業は投資を抑えていることが
わかる。
7 総合評価
最後に株価純資産倍率(PBR)、株価収益率(PER)、株価を分析していく。
株価純資産倍率PBR
株価収益率PER
株価(取引値)
東映
0.49 倍
8.04 倍
329 円
東宝
1.14 倍
21.43 倍
1,309 円
15
図表 33 PBR・PER・株価(2011 年 9 月 6 日
yahoo ファイナンス参照)
株価収益率
140
121.5
120
100
倍
80
60
57.1
63
40
20
17.6
0
12.1
東映
52.6
34.6
24.7
東宝
21.7
9.7
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
図表 34 株価収益率
株価純資産倍率(PBR)は、時価総額を純資産の簿価で割った値であり、現在の株価が一株
当たりの利益の何倍かを知ることができ、企業評価を行う上で重要な指標の一つである。
図表 33 の両社の PBR をみると、東宝は 1 を上回り評価されている一方、東映は 1 を下回
っており、東映の経営に対して市場参加者は厳しい評価をつけている。
次に株価収益率(PER)は、株価を一株当たりの利益で割ったものであり、現在の株価が一
株当たりの株主資本の何倍かを知ることができる指標である。この基準値は、14 から 20
倍であり、低いほど株が「割安」
、高いほど「割高」ということになる。図表 34 の株価収
益率をみると、
東宝が一貫して高い水準にある。2009 年には両社とも一時上昇したものの、
2010 年以降両社ともに下降傾向である。
最後にこれまでの分析についてまとめをする。
まず収益率の分析では、ほぼすべての指標において東宝が優れていることがわかった。
ただし、株主に直接的な影響を及ぼす自己資本比率(ROE)に関しては、東映が東宝より高い
水準に位置している。しかし、当期純利益は東宝の方が優れたパフォーマンスをしている
といえるので、いずれにせよ東宝が優れているといえる。安全性の分析では、東映は東宝
に比べ負債が多いという違いから、東宝の方が安全性は高いといえる。そして効率性・生
産性分析では、ほぼすべての指標で東宝が優れていることがわかった。成長性分析では、
両社ともに横ばい状態が続いており、映画業界の伸び悩む厳しい現状がわかる。そしてグ
ループ経営分析では、東宝の方がグループ全体の収益が大きいことがわかった。この結果
は事業別セグメント分析に反映せれ、東映は主力の映像関連事業がほとんど売上高を占め
ているのに対して、東宝は観光不動産事業でも安定した売上を保っていることがわかった。
16
この経営の違いから、東宝はより安定した経営を行っていることがわかる。
以上の財務分析結果から、東宝の方が東映より優れていると判断した。今後、伸び悩む
映画業界はどのような新たな戦略を立てるのか。時代とともに変化していく映画に注目し
ていきたい。
参考文献
伊藤邦雄「ゼミナール会計入門(第 8 版)」日本経済出版社 2010 年
東映株式会社公式ホームページ http://www.toei.co.jp/
東宝株式会社公式ホームページ http://www.toho.co.jp/
Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/
業界 SEARCH.com
http://gyokai-search.com/2nd-genre.htm
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