January 2013 NO.7 ブラジルの工業 盛んな自動車産業と航空機産業 ■ ブラジルの工業 なお、ブラジルの自動車販売は、近年概ね右肩上がりでの伸 かつてブラジルはあまり工業が発展しておらず、主な輸出品 びを続けています。ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)の統 目といえば、コーヒーなどの農産物を中心とする一次産品が圧 計によると、特に2005年以降の伸びが大きく、2005年に約 倒的でした。しかしながら、1940年代以降、ブラジル政府によ 170万台であった自動車年間販売台数は、2011年には約 る経済発展計画の導入、大規模な補助金措置の適用、基礎 360万台となっており、6年間で販売台数が2倍以上拡大した 工業の導入と拡大強化措置等々により、ブラジルは紆余曲折 計算になります。 を経ながらも工業化に成功しています。 ブラジルの自動車販売台数 現在、輸出用の工業製品は、自動車や自動車部品、燃料 油、精糖等と多彩ですが、国内向けの製品も含めると、自動車 産業の拡大が顕著です。ブラジルでは国内の市場規模が拡大 していることもあり、自動車生産台数は2000年代半ば頃から、 概ね右肩上がりで増加しています。また、近年注目を集めてい る工業製品として、エンブラエル社の航空機がありますが、同 社はリージョナルジェット機(小型飛行機)の分野で世界有数の 400 (期間:2002年~2012年) (万台) 350 300 250 200 150 企業となっています。 100 50 ■ 自動車の市場規模は世界第4位 0 ブラジルの自動車市場は年間販売台数350万台程度であり、 2002年 2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 (注)2012年は 一部推計値を含む (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 世界第4位の市場規模を誇ります(2010年)。 販売が好調な背景には、近年のめざましい経済成長によって、 中間層の所得が上がり、購買力が向上していることがあるとみ られますが、2012年は特に、政府が景気対策として自動車関 連の減税を行ったことなどもあり、過去最高の販売台数となる ■ ブラジルの自動車生産 ブラジルの自動車産業に特 見込みです。販売動向を車種別にみると、近年の傾向としては、 徴的なのは、外資系企業の進 ファーストエントリーカーのシェアが低下する一方、セダンタイプ 出が進んでいる点で、フィアット、 のシェアが増加傾向にあり、購入単価も上昇しつつあるとみら フォルクスワーゲン、ゼネラル れます。 モーターズ、フォードの4社で販 売シェアの7割以上を占めてい 世界自動車/販売台数ランキング(2010年) ます(2011年)。 (単位:万台) ※上記写真はイメージです この背景には、ブラジルでは国内市場保護のため、自動車の 1位 中国 1,806 車体や自動車部品の輸入に対して高い関税が課されているこ 2位 米国 1,177 とがあります。このため、海外メーカーはブラジル国内に直接工 3位 日本 496 日系メーカーではホンダ、日産、トヨタなどの企業が進出してい 4位 ブラジル 352 ますが、上記4社に比べると生産規模は小規模です。ただ、近 5位 ドイツ 320 場を建設し、現地生産を行う動きが活発化しています。なお、 年は日系メーカーの生産規模も拡大傾向にあります。例えば、 (出所)日本自動車工業会のデータを基に三菱UFJ投信作成 トヨタは、2012年8月にブラジル3ヵ所目となる工場をサンパウ ロ州に開設、年間7万台規模の生産を行うとしています。 ■ ブラジルの自動車はエタノールで走る!? ブラジルの自動車に特徴的なのは、ガソリンにエタノールを混 リージョナルジェット機の世界シェア(2011年) 合させた燃料で走るフレックスカーが中心となっていることで、 現在、国内販売台数のおよそ8割はフレックスカーによって占 められています。ブラジルでは1975年に「プロアルコール計画」 5% 4% エンブラエル を打ち出し、サトウキビ等から作られるエタノール(バイオエタ ノール)を代替燃料として奨励しました。その後、1990年代に スホーイ 27% は一時ガソリン車が主流となっていましたが、2003年にエタ 64% CAIC ノールとガソリンをどのような比率で混合しても走行可能な車(F ボンバルディア FV車)が開発されたことにより、再び市場に普及しました。近年、 バイオエタノールは再生可能なエネルギーとして注目されてお り、フレックスカーはエコな(環境に配慮した)車としても注目さ (注)受注ベース (出所)財団法人日 本航空機開発 協会のデータを基に三菱UFJ投信 作成 れています。 ■ 航空機製造メーカー、エンブラエル社 エンブラエルのジェット機 ブラジルの主要輸出品の一つとして、航空機があります。製 造を行うのは、リージョナルジェット機(小型飛行機)の分野で 世界シェアのおよそ6割程度を占め、シェア第1位(2011年)の メーカー、エンブラエル社です。航空機といえば、米ボーイング 社や仏エアバス社が有名で、新興国であるブラジルに、なぜ最 先端の航空機メーカーがあるのか疑問にもたれる方もいるかも 知れません。 同社の設立は1969年で、もともとは、ブラジル空軍の軍用機 を製造する国営企業でした。1994年に民営化された後、「ER J」等のリージョナルジェット機の販売好調により、経営的にも成 功しています。リージョナルジェット機とは、座席数50~100席 程度の小型ジェット機です。小型であるが故に、滑走路が短い 小規模空港でも利用でき、ハブ空港への旅客集約などのニー ズがあるため、近年、航空業界で需要が高まっています。なお、 エンブラエル社が製造する「エンブラエル170」は、日本航空 (JAL)にも採用された実績を持ちます。 コラム サトウキビからアルコール ブラジルでは、サトウキビから製造される燃料用のアルコールとして「バイオエタノール」が注目を 集めていますが、もう一つ、飲料用のアルコールである「カシャーサ」をご存知でしょうか。 カシャーサ(別名ピンガ)とはブラジルの地酒で、サトウキビの絞り汁を直接発酵、蒸留して作りま す。ほんのり甘くて独特の癖を持った味わいが人気で、近年はアメリカやヨーロッパのレストランや バーでも人気が高まっています。 カシャーサは日本でも購入可能ですので、ブラジル音楽のサンバやボサノヴァを聴きながら、ブ ラジル気分でお酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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