タイ・バンコク都心部における自動車と公共交通機関の選択特性

タイ・バンコク都心部における自動車と公共交通機関の選択特性
明星大学理工学部環境システム学科 05T7-008
一瀬 直稔
1.背景
現在開発途上国においては、経済の発展に伴い都市化が急速に進行しており、都心の交通需要は増
加の一途をたどっている。特に、大都市の道路交通は慢性的な道路渋滞を引き起こしており、この問
題を解決するためにいくつかの大都市では公共交通機関の導入を図っている。今回研究の対象地であ
るタイ・バンコクにおいても 90 年代に入り BTS(高架鉄道)や MRT(地下鉄)の建設が進んだ。しかしな
がら、未だに公共交通機関利用の普及が進まず、交通問題は深刻化している。今後は、根源である交
通渋滞問題、それに起因する環境エネルギー問題を緩和させるために自動車交通から公共交通機関へ
のモーダルシフトを推進しなければならない。しかし、これまでのところ、自動車交通と公共交通機
関の利用実態、とりわけ交通手段選択に関する研究が未だに少ない。
2.目的
バンコク首都圏には、未だに慢性的な交通渋滞を背景に多くの問題がある。経済損失から環境問題、
活動の低下など国から個人にいたるまで幅広い問題となっている。今後は、現在車に依存しきってい
るバンコク首都圏も徐々に BTS のような大量輸送の公共交通に移行させることを推進していかなけれ
ばならない。そこで本研究では、バンコクのサイアムスクエア地区において自動車交通と公共交通の
利用実態を把握するとともに、今後公共交通へ転換を検討するための交通手段選択の傾向を把握し、
モーダルシフトの可能性を探ることを目的とする。
3.内容・方法
1)交通機関利用インタビュー調査
研究対象地域はバンコク、サイアムスクエア地区であ
り、対象地区で実施された交通機関利用インタビュー調
査(平成 19 年 12 月実施)を基に分析を行っていく。
2)GIS でのデータの整理
インタビュー調査で明らかになっている交通の発生地、
BTS の利用駅、道路・BTS(高架鉄道)・MRT(地下鉄道)・
バス路線図などを GIS 上に書き込む。
図 3.1
バンコク道路図
3)交通手段選択の要因分析
調査結果をグラフ化し、抽出した要因を組み合わせていくことにより何が主たる要因としてその交
通機関を使うに至ったのかを解析していく。次に解析ソフトを使って判別分析を行うことにより交通
手段選択の傾向の把握をしていく。
4)交通手段選択の傾向把握
分析でわかった結果や GIS からのデータを基に傾向をつかんでいく。
4.結果
図 4.1 は車(サイアムスクエアの駐車場を利用した自動車)を利用した人の交通選択理由を目的別に
わけたものである。送り迎えで車を利用した人は、
「快適だから」選択したということがいえる。また、
全ての目的で「快適だから」が最も多い結果となっている。車の行動の方が、自由が利くといったこ
とを快適として車を利用しているのだと考えられる。BTS だと路線沿いの場所にしか行けずにそこか
らの移動だと TAXI などを乗り
継いで行かなければならず、面
倒であるからだといえる。
50
45
40
35
送り迎えで「他の交通が利用
30
人
25
数
20
しづらい」から車を利用すると
15
他の交通が利用しづらい
移動時間が他より短い
荷物を運ぶので
天気が悪い
快適だから
その他
10
いう傾向もみられた。これは家
から駅が離れている人がこの
5
0
買物
ような回答をしたことが考えら
図 4.1
業務
食事
会合・打ち合せ
送り迎え
その他
CAR における利用交通理由別目的人数
れる。BTS 路線沿いからの車利用交通は多くみられない。よって BTS など他の交通が利用しづらいた
めに車を利用したと考えられる。
図 4.2 は目的を交通利用理由別に BTS 利用だけをグラフ化したものである。会合・打ち合わせにお
いては「移動時間が他より短い」という理由で BTS を選択したということがいえる。しかし、ここで
は会合・打ち合わせにおいて移動時間が短いという理由のほかに、もう 1 つの理由が考えられる。そ
れは到着時間が正確であるために利用するということである。なぜなら、渋滞のため CAR では正確な
時間に到着できるか分からないためである。ただ純粋に移動時間が短いから BTS を利用したという人
もいると思われるが、そのような理由も考えられる。また、
「移動時間が他より短い」という人の出発
地点をみると 106 人中 60 人が路線沿いから出発していることがわかった。このことは、BTS のような
公共交通が整備されると、モー
ダルシフトが起こることを示
している。
BTS において「荷物を運ぶの
50
45
40
35
他の交通が利用しづらい
移動時間が他より短い
荷物を運ぶので
天気が悪い
快適だから
その他
30
人
25
数
20
で」という理由の人はいなかっ
た。それは車のほうが荷物を運
ぶには便利だからである。また、
「快適だから」という理由も多
15
10
5
0
買物
図 4.2
業務
食事
会合・打ち合せ
送り迎え
その他
BTS における利用交通理由別目的人数
くみられる会合・打ち合わせにおいても先ほどの正確な時間に到着できるといった理由が関
連してきていると考えられる。
5.まとめ
解析結果からいえることは、現状では車の利用が多いが、BTS 利用者も多いことは確かである。だ
がこれは BTS の路線沿いで言えることである。現在はまだ BTS の路線にしても道路にしても整備が追
いついていない状況であり、交通選択できる状態ではないのが現状である。
BTS を利用するにも鉄道、MRT、BUS、TAXI、などの乗り継ぎがないと今は利用することが難しく、
未だバンコク都内のごく一部の地域しかカバーしきれていない現状を考えると今すぐに BTS 利用者を
増やすことは難しい。このことからバンコクの交通は車利用に未だ依存しているといえるだろう。
しかし、シフトできる可能性は大いに考えられる。車を選択した男性の約 8 割は自分で運転してい
る。だが、女性を見ると確かに車を利用する人は男性の倍近くいるものの、自分で運転している人は
約 4 割に過ぎない。この結果を考えると BTS の路線が延長され、より利用範囲が広がることで車から
BTS に移行していく可能性は高いと思われる。