前置詞 on、in、at について 小野利恵 0.序論 「時間を示すときに at を

前置詞 on、in 、at について
小野利恵
0.序論
「時間を示すときに at を、曜日を示すときには on を、月を示すときには in を使うこと。」
日本の中学校の英語の授業では時間を示すのに、以上のように教えられる。私たちはこの
ような on、in、at の使い方に何の疑いを持つことなく機械的に覚える。しかし、これらの
前置詞の使用は日本人が最も苦手とする英語の要素の1つである。これら前置詞とは一体
何者なのか。なぜ日本人はこれらを苦手とするのか。一番の問題は機械的な暗記にあると
いえる。なぜ on Monday なのか。なぜ in Monday ではいけないのか。同じような例で、
なぜ in the morning とは言えて in morning とは言えないのか。まずは、このような前置
詞の使い方に対して疑問を持つことが大切である。そして、これらの正体をつかむことに
より日本人にとって英語の前置詞がより身近なものになるのではないか。この論文では on、
in、at による時間の表しかたについて研究していくことにする。
1.本論
1.1 辞書による意味分析
まず、辞書において on、in、at がどのように説明されているのかを見ていきたい。
AT
① Used to show a point in space where someone or something is, or where an event is
happening.
Ex) We’ll meet at my house.
② At a party/club/funeral etc at an event while it is taking place
Ex) I met my wife at a disco.
③ Place where regularly going
Ex) Is Rie still at school? (=does she go to school regularly)
④ Used to show an exact time
Ex) The film starts at 8 o clock.
⑤ Used to show a particular period of time during which something happens
Ex) My husband often works at night.
⑥ Used to show the person or thing that an action is directed or aimed at
Ex) Look at that!
⑦ Used to show the thing that caused an action or feeling
Ex) The children all laughed at his jokes.
⑧ Used to show the subject or activity that you are considering when making a
judgement about someone’s ability
Ex) Rosa is a genius at science.
⑨ Used to show a continuous state or activity
Ex) Two nations at war.
⑩ Used to show a price, rate, level, age, speed
Ex) Old books selling at 10 cents each.
⑪ Used to show that you are trying to do something but are not succeeding or
completing
Ex) George was just picking at his food.
⑫ At the same time
Ex) Ben was putting chocolates in his mouth two at a time.
In
① Used with the name of a container, place, or area to say where someone or
something is
Ex) There is some sugar in the cupboard.
② Used with the names of countries and towns to say where someone or something is
Ex) The taxi man got lost in New York.
③ Used with the names of months, years, seasons etc. to say when something happens.
Ex) I was born in 1979.
④ During a period of time
Ex) It was amazing how much we managed to do in a day.
⑤ At the end of a period of time
Ex) I’ll be with you in a minute.
⑥ Included as part of something
Ex) She said all this in her speech.
⑦ Working at a particular kind of job
Ex )She used to be a teacher, but she is in marketing now.
⑧ Wearing something
Ex) She was dressed in a pink suit.
⑨ Using a particular way of talking or writing
Ex) You speak in Japanese.
⑩ Arranged so as to form a particular shape or group
Ex) People were sitting in small groups chatting.
⑪ Used with numbers or amounts to show a proportion
Ex) One in every 10 children now suffers from asthma.
⑫ Used to show a connection between two things
Ex) Milk is rich in calcium
⑬ Used to show the feelings you have when you do something
Ex) She looked at me in horror.
⑭ Used to say how one person should consider another
Ex) You’ve got a good friend in Pat.
⑮ Because
Ex) The situation is rather complicated in that we have two managing directors.
⑯ Used when giving a total amount
Ex) There were about 800 people in all.
On
① Touching or being supported by a particular surface
Ex) The plates are on the table.
② Hanging from, supported by or connected to a particular thing
Ex) Stand on one foot.
③ In a particular place
Ex) He grew up on a ranch in California.
④ In a particular direction
Ex) On my right sat the Chancellor.
⑤ Used to show the person or thing affected by an action or someone’s behavior
Ex) A tax on cigarettes
⑥ On one of the sides of something such as a river or road
Ex) A café on the river
⑦ At sometime during a particular day
Ex) They arrived on Thursday.
⑧ About a particular subject
Ex) A book on India
⑨ Used to say what money people use to live, the amounts of money someone earns
Ex) People on high salaries should pay more tax.
⑩ Informed used to say that someone takes a particular drug or medicine
Ex) Since she is been on Prozac she is been a different person.
⑪ Using telephone/radio
Ex) I’m on the phone.
⑫ During a trip, journey etc.
Ex) I met several people on the voyage.
⑬ Used to say what has been used to do something
Ex) Phil had torn his shirt on a nail.
⑭ Immediately after something has happened or after someone has done something
Ex) On hearing the news of the air attack most foreigners headed for the border.
⑮ Used to say that someone is a member of a team, organization
Ex) What team did you say your boyfriend was on?
⑯ Compared with another person or thing
Ex) Sales are 10% up on last year.
⑰ Having a particular thing in your pocket or bag
Ex) How much cash do you have on you?
⑱ Spoken used to say that someone will pay for something such as a drink , a meal
Ex) Drinks are on Harold!
【Longman Dictionary of Contemporary English より】
辞書では以上のようにこと細かく、それぞれの意味が用法にあわせて説明されている。
しかし、どれも前置詞のあとにくる単語によってその意味を都合よくあわせているだけと
いう印象が残ってしまう。実際は、そこに大きなコアとなる意味が隠されていると捉えら
れるのではないか。辞書で説明されているような状況的な意味ではなく、それぞれの前置
詞が持つ基本的な意味を次のいくつかの研究で探っていきたい。
1.2 それぞれの研究
ここでは Bennett、阿部、田中の3人の研究内容をわかりやすくするためにも前置詞 over
を使って説明していくことにする。
1.2.1 Bennett 意味成分抽出論
Bennett は語義の裏にある意味構造に注目する意味成分抽出論の代表者として、その名が
知られている。意味成分抽出論では、「1つの語には1つの意味がある」という仮定のもと
で、すべての語義に共通する意義素を抽出し、語義間の意味を捉えている。Bennett は前置
詞のすべての用例に共通したコアを抽出しようとした。Bennett は over が多義的な前置詞
であることに注目し、あらゆる例文から[LOCATIVE superior]を over の語義の基本形とみ
なした。この形に SOURCE、PATH、GOAL といった意味成分を加えていくことで over
の応用的な使い方を説明するのが彼のやり方である。
しかし、ここにはいくつかの問題点が発生する。まず、[LOCATIVE superior]に SOURCE
などの意味成分を加えて over の多義性を説明しているが、これらは、あくまでも over のあ
とにくる動詞との相互作用によって動機づけされた意味成分であり、over 特有の意味成分
とは言い難いといえる。第2に、Bennett の研究では over の用法が網羅されておらず、あ
くまでも限られた用法での分析といえる。最後に、[LOCATIVE superior]を over の基本的
意味としても、これだけでは up や above との違いを指摘することができない。
Bennett の見解は、限られた用法だけのものであり、たくさんの例外に対応することができ
ないとても固定的で柔軟さに欠けるものといえる。また、他の前置詞との絶対的な違いが
指摘できないという問題点もあるといえる。
1.2.2 阿部 一 イメージ化論
阿部は言葉をつかう際に、「言葉を使う側がイメージを膨らませる必要があり、聞き手も
その意味とイメージを考えて解釈する必要がある。」(阿部・98)と述べている。すべての
言葉(今回の場合には前置詞に焦点をおく)にはそのものが持つ基本的なイメージがあり、
そこから話者と聞き手が場面に応じたイメージを膨らませていくという見解だ。
over は、基本的にあるものの上を覆う感じを意味すると阿部は捉えている。但し、覆うと
いっても、それはあくまでもそのものが対象物と同じ、または大きいというのが前提であ
り、小さければ自然と「上」 という意味になるといえる。ここで、Bennett のときと同じよ
うに above との違いについてという問題点が生まれてくる。これに対し阿部は、高さにこ
だわって使われているのが above であり、高さよりもこちら側から向こう側までという連
続性にこだわった使われ方をされているのが over であるとしている。
例)I saw a plane fly over the hill.
I saw a plane fly above the hill.
over の場合は、こちらから向こう側までという幅や距離感が生まれるので hill を飛び越
えたという感じがでる。一方、above の場合は、over のような連続的なイメージがないた
め、hill の上空のある一点に静止しているという感じがでると阿部は説明している。
つまり、over の連続的な動作に対して、その一点に注目をしたのが above であるといえる。
over のたくさんの用法に対しては、over のあとにくる単語の特性(例えば village なら静
的な特徴ゆえ、向こう側に存在するということになる。)や文脈によって柔軟にそのイメー
ジを変えて解釈している。
阿部のイメージ化論は、イメージという一見捉え難そうなものを扱っているがとても柔
軟性がある。人間はイメージすることによって物事を理解していくので、人間の思考回路
にあった無理のない論理と言えるだろう。ただし、阿部のイメージ化論では1つの前置詞
に対して具体的かつ固定されたイメージを記述していないので、イメージ図に少し曖昧さ
がありわかりにくいというのが欠点だといえる。
1.2.3 田中茂範 コア図式論
田中は Bennett のような従来のコア理論には強い反発を示している。彼は新たにコア図
式論を唱えた。「 これは『イメージ図式化』、『焦点化』、『図式の変換』を備えた理論であ
り、前置詞の多義性を説明するものである。」(田中・97) としている。前置詞は主に空
間関係を表現する言語手段であり、空間認知はイメージによって行われるとしているとこ
ろは阿部と同じように捉えているといえる。田中は、これらの前置詞の意味の多くはイメ
ージ図式(コア図式)として、記述することができ、すべての前置詞の用法は焦点化とコ
ア図式の変換によって説明することができるとしている。
例)1. The dog jumped over the fence.
(まさに犬がフェンスを飛ぼうとしている状態に注目をしている)
2. The bird is flying over the lake.
(鳥が湖の真上を飛んでいる状態に注目をしている)
3. There is a house over the hill.
(丘の向こう側〔=半円形の最後の部分〕に注目をしている)
4. The queen had strong control over her people.
(女王の力が人々全体を覆っている状態に注目している)
田中は over について、半円形のコア図式を使ってその多義性を説明している。この図式に
はもちろん焦点化の理論が加わっており、半円形の始まりの部分に焦点を当てた場合は起
点(例1)を、真上の場合は移動行程(例2)を、終わりの部分の場合は目標点(例3)
を、半円形の周辺の場合は全体を覆うという意味(例4)で over を解釈するとしている。
例)I saw Superman fly over the city.
I saw Superman fly above the city.
above はランドマークの水準より上位であるとだけ条件づけされているため、この例の場合
は〈スーパーマンが街の上空を飛んだ〉となる。一方、over では、そのコア図式の焦点化
により〈スーパーマンが街の上空を飛んだ〉、〈スーパーマンが街を越えて飛んでいった〉、
〈スーパーマンが街の向こうを飛んだ〉と3通りに解釈することができるとしている。
ここで over と across も比べてみたい。この2つはどちらも〈横断的な移動〉という点で
類似している。しかし、言葉自体が違うのだからそこには必ず違いがあるといえる。
例)5. Maki walks across the river.
Maki walks over the river.
6. Maki walks across the road.
? Maki walks over the road.
例5においては across でも over でも認知されている。しかし、前置詞のあとにおかれてい
る名詞が river から road に変わると over が認知されにくくなる。この差は一体何なのか。
これを説明するには、
〈over が移動動詞と共起するとき、ランドマークはなんらかの障害物
である〉という条件が出されることになる。しかし、例6の road の場合、これを障害物と
捉えるのは難しい。コア図式でも示されているように、ランドマークを越えるということ
は、何かを越えることと考えることができ、その何かを障害物と捉えるのは自然であると
いえる。よって、例6の road の例は認知しがたいものといえる。
コア図式論でのコア図式は、over の全ての用例を網羅しているということが大きな特徴
であるといえる。また、前置詞の意味を複雑な多義構造としてではなく、柔軟な図式とし
て説明されるというのも利点である。つまり、具体的な図式を描けることコア図式の有効
性を決定するキーだといえる。ただし、前置詞の中には in,
over といったコア図式を描き
やすいものと at や by といったコア図式を描きにくいものがあるのが欠点といえる。
コア図式を描けなければ成り立たないこの理論は、阿部のものに比べて若干柔軟性が欠け
るといえるのではないか。
1.3
on・in・at の基本的なイメージ
ここでは、阿部のイメージ論をもとにそれぞれの基本的なイメージを説明していくことに
する。
1.3.1
in のイメージ
in の基本的意味は立体空間の「中に」 であるとしており、この使い方が in の典型であると
いえる。そして、「中に」という意味から自然とそこには境界線がうまれ、中にいれられて
いるという状態や制約といった意味が生じてくる。境界線が生まれることで中は in、外は
out で示すことができる。また、lock や push といった動詞と共起することで意味が派生さ
れ「閉じ込め(られ)る」 や「押し込め(られ)る」 といった意味となる。
1.3.2
at のイメージ
at は日本語でいう「ところ」のような漠然とした場所空間をイメージする前置詞であると
阿部は指摘している。一般的に指摘されるような「点」的用法は漠然とした空間の中を一点
と表している典型的方法といえる。
1.3.3
on のイメージ
on は接触をイメージする前置詞だが、「 ∼の上に」といった平行的な使い方だけでは
限定しすぎてしまう。そこで、壁にかかっているような垂直な状態も視野にいれ、個体と
個体とが接触している状態が on のイメージとしている。come や move といった動詞と共
起した場合はその動詞が接触したままの状態にあるとなり、連続性といった意味がうまれ
る。
1.4 Wierzbicka の見解
Wierzbicka は時間の前置詞について阿部や田中とは違った方向から見解を述べている。
Wierzbicka は、on、in、at のそれぞれが持つ意味と特徴に加えて、人間の生活習慣や心理
的なものも時間の前置詞の選択において影響すると述べている。
1.3.1 At について
at の持つ意味として①点=時間の同時性 ②「∼のところ」という2つを挙げている。
① において、同時性を示すのにはその時間と何かが同時に起こる必要がある。そのため
他の出来事や時計を読むという行為、自然現象といったはっきりとしたレフェレンスポイ
ント(以下 RP)が重要といえる。
また、at は固定的(static)な意味を持ち合わせている。そのため、morning や day とい
った連続性を持ち合わせている単語と共起することはできない。また、Wierzbicka の理論
で興味深いものに、人間の行動パターンによる前置詞の選択というものがある。人間は普
通、日がでている時間に活動をし、日が暮れると休むという行動パターンをとるものであ
る。人間は忙しく動いているときには、時間が気になり、秒針の動きに敏感になるもので
ある。一方、リラックスしているときは特に時間の流れを気にすることもない。この行動
パターンが、流動的で活動的なものを好む in が morning と、固定的な at が night と共起
しやすい理由であるとしている。
1.3.2 On について
空間の on で述べたとおり、on は明確性が重要となる。
例)It happens on Friday.
*It happens on A pril.
まず、前者では週7日間のうちいつに起こったのかが、金曜日と示すことで明確に表すこ
とができる。一方、後者は4月という具体的な数字を出しているのにも関わらず on と共起
できないのは、月というのはいくつかの日によって構成されているものであり、4月のい
つに起こったのかを表すことができず、明確性に欠けているからだといえる。
Wierzbicka は on はたくさんの countable parts を持ち合わせているものとは、その明確性
に欠けるため共起できないとしている。この理由により、era、century 、epoch といった期
間の名前とは共起できない。Friday といった曜日は 24 時間に分けることもできるが、普通、
私たちが曜日を示すときは特に必要のない限り1つのものとして考えるので、ここではあ
くまでも独立した1つの個体として捉えている。
on-time limo という言葉がある。これは、まさに予約している時間という明確な時間に
迎えにくるというニュアンスがうまくでているといえる。これが、in-time limo なら、予約
している時間は特に関係なく、何時間以内には必ず目的地へと到着しますというニュアン
スになるといえる。しかし、車で移動する場合、いつ交通渋滞に巻き込まれる可能性があ
るかわからないので、on-time limo の方が、信憑性もありぴったりくるといえる。
1.3.3
in について
in は空間的な幅を持った前置詞であり、countable parts として捉えることができる単語
と共起できる。つまり、ここには〔 全体―部分〕という形が成り立つ。
during と in はどちらもある一定の期間内の行動を示す場合に使われるが、もちろんそこに
は違いが生まれてくる。
例)I heard the people shouting in the night.
I heard the people shouting during the night.
前者では in を使うことにより、夜のどの時期かは特定されていないことになる。つまり
話者は[全体]である夜のどこかの時間[部分]に起きて、人が叫んでいるのを聞いたと
いうことになる。一方,後者の during は連続性を示すという特徴を持ち合わせているので、
夜中中ずっとというニュアンスがうまれる。in ではあくまでも夜というひとつの全体像の
中の一部として認識しているのに対し、during は時間の流れに目を向けているということ
がいえる。
1.4 事例研究
① at 10 o clock
10 時ぴったりを示す。10時になった瞬間と出来事がまさに同時に起こったことを表す
ことができる。
*in 10 o clock
in は幅を持っている前置詞であるので、瞬間を表す10時という言葉とは共起できない。
② at dawn
夜明け(太陽が昇ってきた瞬間)と同時であることを示す。
③ at night
はっきりとした時間を示してはいない。ここでは“夜”という時間の種類を表している。
*at the night
時間の種類を表すことで具体化しているので、the をつけてより具体化させる必要はない。
④ *at day
day という時間の種類を連続性のある個体であると認識できないため。)
⑤ at present
まさに行為をした瞬間と現在が同時に起こったことを示す。
*at future
future がRPとの同時性ではなく連続性を表しているので共起できない。
*at past
past がRPとの同時性ではなく連続性を表しているので共起できない。
⑥ at the beginning
始まりは明確なRPとして取り上げられので容認される。
at the end
終わりは明確なRPとして扱うことができる。
*at the middle
中間は曖昧性が高く、明確なRPとして扱うことができないので非文とされる。
⑦ *at summer
summer を一点の固体的なものとしては取り扱いにくいので容認されない。
in summer
summer は day の連続で成り立っており、countable parts を持ち合わせているので
in と共起できる。
⑧ in April
ひと月は day の連続で成り立っており、連続性が認められる。
⑨ *in Sunday
ひとつの曜日はあくまでも1つの個体として成り立っており、Sunday には時間の
伸縮性がないので in とは共起しない。
on Sunday
他のどの曜日でもないという明確性があり、一つの個体として独立しているので容認
される。
⑩ in time
ある時間の幅の中でという意味になる。また、24時間のうちの一部の時間ともとれる。
on time
明確なある時間と出来事が同時に接触(起こる)する。
⑪ on Christmas day
24 日でも 26 日でもなくクリスマスの日という明確性がでている。ただし、この場合は
日にちを1つの個体として捉えているので、明確な時間帯は含意しない。
at Christmas time
クリスマスの時期にということで at は点としてではなく、「あたり」と解釈する
⑫ at the weekend
週末のところで、週末のあたりでと解釈できる。
⑬ in the morning
朝は人間が活動的な時間であり、時間に敏感になる朝は流動的な in と共起できる。
*in morning
何かを行うにはスペースが必要であり、それを表すには in が使われる。そのため、the
を加えることで範囲を指定することができスペースがうまれる。the を省いてしまうと漠
然としすぎてしまうので非文となる。
⑭ in 2 hours
2 時間という時間の幅に注目している。
⑮ in the 19th century
1 9 世紀をひとつのパートとして捉えている。
⑯ in 1979
1979 年のいつかという明確なことは特に問題にしていない。1979 年という時間の流れ
に注目している。
⑰ on the 7th of January
他のどの日でもなく1月の7日と指定することで、明確性が生まれるので容認される。
⑱ *on April
April は day の連続で成り立っており、4月のどの日なのか明確に表すことができない
ので on とは共起できない。
⑲ *on the 19th century
継続を表す century(century は day の連続で成り立っている)に対して、独立した個
体を表す固定的な on とは共起できない。
3.まとめ
以上の研究で、on、in、at の正体を完全に暴いたとはとてもいえないだろう。しかし、一
つはっきりしたことは、それぞれの前置詞には基本的意味があり、それらのほとんどは空
間的なイメージによってすべての用法を説明できるということである。英語の前置詞とは、
それ一つでも意味を持ち合わせているが、単語と共起したときに初めてその力を発揮する。
単語が前置詞を選ぶのか。それとも、前置詞が単語を選ぶのか。私がこの論文を書いて
いるときにいつも疑問に思っていたことだ。人間は表現したいことを断片的に頭のなかに
浮かべる。この場合、単語の方が前置詞よりもより重要でなおかつ思い描きやすいものと
して存在し、単語によって使える前置詞が選ばれるということがいえる。しかし、前置詞
が本来持ちあわせている力も否定できない。中なのか上なのかが問題になっている場合、
そのすべては前置詞の選択にかかっているからだ。
この論文は、Bennett、阿部、田中、Wierzbicka と4人の研究をもとに進めてきた。
それぞれの研究で、on、in、at がどのようなものかを図やイメージによって説明されてき
た。Herskovits は、これらの前置詞を理想的意味としてそれぞれを次のように定義してい
る。(Herskovits・86)
〈on は幾何的構造物 X が線あるいは面 Y に接触していること。Y が対象 Oy の表面であり、
X が別の対象 Ox の占める空間であるとき、Oy が Ox を指示していること。〉
〈in は幾何的構造物の 1、2、3 次元の幾何的構造物への包み込み〉
〈at はある点が他の点と一致すること〉
ここで定義づけられているものは、確かにそれぞれの前置詞の特徴を捉えているといえる。
しかし、私は言葉とは無限の用法があるものであり、言葉を言葉で説明しその用法を制限
することはできないと考えている。つまり、1つの言葉に対してそのすべての用法を網羅
した言葉の説明は、言葉が持つ柔軟性を考えると不可能ではないかというのが私の見解で
ある。私は、言葉が持つ柔軟性や曖昧性をきちんと説明するためには言葉によって制限す
るよりも図やイメージといったものの方がより妥当性が高いと考える。従って、私は
阿部や田中の理論を支持したい。
前置詞とは何か。これらは、基本的意味を持ち合わせている反面その後に存在する単語
よって意味が派生される柔軟性のとても高いものだということだけは間違いないようだ。
参考文献
・阿部一(1993)『基本英単語の意味とイメージ』 研究社出版
・阿部一(1998)『ダイナミック英文法』 研究社出版
・ Bennett, David C .(1975)“Spatial and Temporal Uses of English Prepositions”
Longman Linguistics Library
・Herskovits, Annette(1986)“Language and spatial cognition”
Press Syndicate of the University of Cambridge
(堂下修司・西田豊明・山田篤共訳(1991)『空間認知と言語理解』オーム社)
・河上誓作(1996)『認知言語学の基礎』 研究社出版
・田中茂範(1987)『基本動詞の意味論 コアとプロトタイプ』 三友社出版
・田中茂範(1993)『わかる 覚える 使える 英単語ネットワーク 前置詞編』アルク
・田中茂範・松本 曜(1997)『空間と移動の表現』研究社出版
・Wierzbicka, Anna(1993) “Why do we say IN April, ON Thursday, AT 10 o clock? In
search of an Explanation” Studies in Language