抵抗スポット溶接に代わる、軽合金の画期的な接合法。「第33回日本

新製品・新技術
抵抗スポット溶接に代わる、軽合金の画期的な接合法。
「第33回日本産業技術大賞・審査委員会 特別賞」を受賞
もともと難しい
アルミ合金など軽合金の接合
現在、
わが国の自動車メーカーは、
軽
量化やリサイクルなどの観点からボディ
のアルミニウム化を進めつつある。ボンネッ
トやリアドアの部品などだが、
こうしたアル
ミ合金の薄板構造では、組立工程にお
けるゆがみを最小に抑え、施工能率を
高めるため<点接合法>が用いられて
おり、
その主要な方法は抵抗スポット溶
接である。
抵抗スポット溶接は、
接合対象物を銅
合金製電極ではさみ、数万アンペア以
上の電流を流す。その電気抵抗熱で板
と板の間の界面を溶融させて一体化す
る。そのため、
電気抵抗の大きい炭素鋼
やステンレス鋼など鋼材の溶接には適し
ている。
しかし、
アルミ合金は、鋼材に比
べて電気抵抗が小さいので、発熱させ
るためには鋼材の約3倍の電流が必要で、
溶接施工に多額の電力コストがかかる。
しかも、大容量の電流に耐えられるアル
ミ専用の抵抗スポット溶接システムが必
要で、工場の受電設備の新設・増設が
必要な場合もある。
上下の電極から大容量の電流を流
すため、熱による変形が大きく、接合部
両面に大きな痕跡が残る。電極表面の
損耗も激しく、最大でも数十点から100
点ごとに電極表面の研磨や清掃、
さらに
は電極の交換が必要など非常に手間
がかかる。加えて、
溶接施工時にはチリ
やヒューム
(火花)
が激しく発生するので
作業環境が劣化する。
アルミ合金の接合ではこのほか、
リベッ
トを用いるセルフピアシングリベット法や、
2枚の対象物をかしめて接合するクリン
チング法などがある。
しかし、
リベットなど
副資材のコストや接合部の強度、施工
能率などの面で問題が多く、一部の自
動車ボディなどに適用されるに留まって
いる。
接合点を摩擦熱で軟化させ、
かき混ぜて接合
アルミ合金の<点接合法>が抱える
こうした問題を解決したのが、
川崎重工
とマツダ
(株)
が共同開発した「フリクショ
ンスポット接合法(FSJ
:Fr
i
c
t
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on Spo
t
J
o
i
n
i
ng)」である
(特許取得済み)。
ベースになったのは、
イギリスの溶接
研究機関TWIが1990年代初めに開
発した連続接合法の摩擦撹拌接合法
(FSW)。この方法は、接合ツールを回
転させながら接合面に沿って移動させ、
ツールの回転による摩擦熱で材料を柔
らかくし、
かき混ぜると塑性流動現象によっ
て一体化する。
「FSJ」はFSWを改良、
発展させたも
ので、
先端にネジ付きの突起(ピン)
を持
つ円柱状の接合ツールを回転(1分間
に2,
000∼2,
500回転)
させながら、
400
∼500kg/cm2 の圧力で材料中に押し
込むと、
回転による摩擦熱で材料が柔ら
かくなり、
ピンの周辺で塑性流動現象が
起こって2枚の板が一体化する。
「摩擦熱は400∼500℃。アルミ合金
の融点は630℃ほどなので、溶けるので
はなく軟化です。
これをかき混ぜて一体
化するわけで、
たとえばアイスクリームを
かき混ぜるような感じでしょうか」
(川崎
重工汎用機カンパニーロボットビジネス
センター接合技術グループの瀬田良孝
グループ長)
電力消費量は約20分の1、
クリーンで長寿命
アルミ合金の接合に「FSJ」
を適用す
ると、
次のようなメリットが生まれる。
●省エネルギー
「FSJ」の主な消費エネルギーは接
合ツールを駆動する2台のモータに要す
る電力のみなので、従来の抵抗スポット
溶接に比べて電力消費量が約20分の
1に低減する。
●シンプル
システムは極めてシンプルで、種々の
補機類が必要ない。冷却水や圧縮エア
なども基本的に不要なので、設備コスト
やランニングコストの大幅な低減が可能。
機械加工に準じた完全自動なので作業
者に熟練や経験を要求しない。
●高品質
接合部の強度は抵抗スポット溶接に
比べてまったく遜色がなく、
安定している。
材料を溶かすほどの摩擦熱ではないので、
マツダの工場で活躍中の「FSJロボッ
トシステム」
(提供:マツダ
(株))
トウエアを組み込むだけで適用できる。
現在、
「FSJロボットシステム」はマツ
ダの新スポーツ車「RX−8」のボンネット
とリアドアの組立工程に導入されて好成
績をあげており、
川崎重工には自動車メー
カーなどから多数の引き合いが寄せられ
ている。
「FSJ」は、
「理論的にはアルミやマグ
ネシウムなど軽合金接合に関しては材
料を問わない」
(瀬田良孝グループ長)
ため、車両や船舶、航空機などの板や
骨構造、
また、
交通標識や建設機械、
家
電製品、
調理器具など幅広い分野への
適用が考えられる。
なお、
「FSJ」は、
「第33回日本産業
技術大賞」
(主催:日刊工業新聞社、
4
月14日に贈賞式)
の「審査委員会特別
賞」
を受賞した。
また、
“世界をつなぐ溶接・
接合技術”がテーマの「2004国際ウエ
ルディングショー」
(7月14日∼17日、
インテッ
クス大阪(大阪国際展示場))
に「FSJ
ロボットシステム」の実機を展示して実
演し、
多くの来場者の注目の的になった。
●
「アルミ合金など軽合金の点接合法で、
『FSJ』が世界標準になる可能性は非
常に大きいと思います」
(瀬田良孝グルー
プ長)
ボンネットやリアドアの組み立てで省エネ・コス
ト低減に大きな成果をあげている。
熱変形がほとんどない。
●長寿命
「FSJ」で用いる接合ツールは10万
点施工後も問題となる消耗がないことが
ユーザーの実績で示されている。
●クリーン
抵抗スポット溶接のようにチリやヒュー
ムが発生しないので職場がクリーンに保
たれる。また、大電流を使わないので電
磁波ノイズが発生しない。
産業用ロボット活用の
接合システムを実用化
川崎重工は「FSJ」の実用化に当たり、
専用ガン
(FSJガン)
を開発。
FSJガンを
多関節ロボットと組み合わせた「FSJロ
ボットシステム」
と
「FSJ定置式システム」
を2003年に製品化した。このシステム
では、
一般的な自動車用アルミ合金(厚
さ1mm×2枚重ね)の場合、接合時間
は従来法とほぼ同じ約1秒。ロボットはガ
ン質量以上の可搬質量を持つカワサキ
ロボットであれば、
専用ガンと制御用ソフ
接合方向
被接合材
接合ツール
ピン
ショルダー
●FSJロボットシステム
●FSJにおける塑性流動の複式図
ピン
●FSJ定置式システム
●FSJプロセスの複式図
回 転
回 転
押圧
●シンプルな機器構成
●抵抗スポット溶接
溶接機電源盤
タイマ
制御装置
ツール回転
ロボット
電源盤
溶接ガン
(1)回転開始
ロボット
電源盤
ロボット
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Kawasaki News
(2)圧入開始
(3)撹拌・一体化
(4)引抜き
(5)仕上がり
接合ガン
軸方向塑性流動
流量・圧力
調整機
チップドレッサ
押圧
裏当て金
●FSJ
抵抗溶接機
回 転
ロボット
コントローラ
135 2004/8
冷却水配管
エア配管
回転塑性流動
ロボット
ロボット
コントローラ
「FSJ」開発のベースとなった摩擦
撹拌接合(FSW)法。
FSJツール先端部
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