目 次 WS-D-07 Ryo Matsuda 中皮腫で死亡したホテル・ボイラーマンの事例 松田竜 弁護士、小寺・松田法律事務所[日本] 抄録: 1. 事案の概要 (1)被害者の業務内容 被害者は、昭和38年に被告会社に入社し、平成14年4月に死去するまでの間、ホテルの 機械室及びボイラー室内等において、設備係の業務に従事してきた。 同ホテルの設備係の職員は、ホテルにおいて使用する湯を供給し、暖房をするために、地 下ボイラー室内に設置されたボイラーを稼働させる業務に従事したほか、以下のような石綿 関連業務に従事した。 ボイラーの燃焼室のフランジ部分に使用されていた石綿入りのパッキンの交換作業に従事 した。上記パッキンの交換作業は、パッキンの石綿を切って巻き付けたり取り付けたりする作 業であった。パッキンの石綿は、板状材とひも状材があった。板状材は切って叩いて作業し た。ひも状材は、ほどくだけで飛散した。 また、設備係の職員は、吊り天井の裏側(天井裏)に潜り込み、配管の修理点検の業務に 従事した。天井裏の部分には石綿が吹き付けられており、剥離した石綿が天井裏に落下して いる状況であった。また、天井裏のスペースは、狭いところではダクトの隙間が40cm程度しか ない部分があり、吹き付け石綿に体が触れざるを得なかった。体が触れた部分は、石綿が剥 離し、粉じんが舞った。 ホテルのボイラー室の壁面には、腰の高さより上部には、全面に石綿が吹き付けられてい た。設備係の職員は、年に1∼2回、フランジのガスケット交換の作業に従事した。この作業の 際は、高圧ヘッダーの裏側に入って作業をする必要があった。高圧ヘッダーの裏側は、石綿 の吹き付けられた壁面との隙間が30∼40cmしかなく、設備係の職員の作業服で擦れ、剥離 した石綿の粉じんが舞った。 設備係の職員は、毎月1回は、ボイラー室内の掃き掃除を行っていたが、床に落ちた石綿 の粉じんが舞った。 ホテルの機械室ボイラー室の吸排気は、機械室内に設置してあるボイラーの吸気のため、3 階の屋上から空気を取り入れ、地下にあるファンを回して、機械室内に空気を取り入れてい たが、排気設備は設けられていなかった。 同ホテルの機械室ボイラー室の壁に吹き付けられた石綿の吹き付け面は、表面が劣化し ており、触れると石綿の繊維が飛散するような状態であった。 被害者は、平成13年4月頃から体調が悪化し、同年6月21日に石綿が原因である「悪性胸 膜中皮腫」の診断を受け、平成14年4月に、悪性胸膜中皮腫により死亡した。 なお、被害者は、ホテルの石綿粉じんの飛散する中で稼働したことにより、悪性胸膜中皮 腫を発症したものとして、労災認定を受けている。 (2)同ホテルにおける従業員の安全管理態勢 同ホテルの設備係の職員は、上記のような石綿関連業務を行っていたにもかかわらず、同 ホテルにおいては、①粉じんが作業現場に滞留することのないような排気設備を設けず、② 防じんマスク等の支給も行わないばかりか、石綿粉じんの危険性に関する何らの教育も行わ ず、③散水や噴霧の指導監督も行わず、④昭和55年までは、衛生管理者も置かず、健康診 断も実施せず、昭和55年頃から夜間勤務者の健康診断が行われるようになった後も、石綿に よる健康被害に留意した健康診断を行わず、健康診断の結果についても従業員に詳細説明 することもなく、⑤札幌ロイヤルホテルに吹き付けられた石綿の表面が劣化した後も完全除去 を行わなかった。 2. 提訴の目的 本件事故発生後、被害者の遺族が、ホテルに対し、被害者がホテルの職場環境に起因し て悪性胸膜中皮腫に罹患し死亡した事実につき、ホテルの責任を認め、遺族に対し謝罪し、 今後の同種事故の発生防止策をとるよう申し入れたにもかかわらず、ホテルが責任を認めず、 遺族に対する謝罪をも拒否したため、訴訟を通じて、ホテルの安全管理上の義務違反に基 づく法的責任を明らかにすることを目的として、本訴提起に至った。 3. 訴訟提起後のホテルの対応 石綿作業の内容等の基本的な事実関係から、ホテル業務と被害者の悪性中皮腫発症の 因果関係の有無、ホテルの従業員の安全管理上の義務等法的責任に至るまで、全面的に 争っている。 4. 訴訟経過 平成16年8月27日に第1回口頭弁論、同年10月15日に第2回口頭弁論が行われた。 1. 事案の概要 (1) 被害者の業務内容 被害者は、昭和38年に被告会社に入社し、平成14年4月に死去するまでの間、ホテルの機 械室及びボイラー室内等において、設備係の業務に従事してきた。 同ホテルの設備係の職員は、ホテルにおいて使用する湯を供給し、暖房をするために、地下 ボイラー室内に設置されたボイラーを稼働させる業務に従事したほか、以下のような石綿関 連業務に従事した。 ボイラーの燃焼室のフランジ部分に使用されていた石綿入りのパッキンの交換作業に従事し た。上記パッキンの交換作業は、パッキンの石綿を切って巻き付けたり取り付けたりする作業 であった。パッキンの石綿は、板状材とひも状材があった。板状材は切って叩いて作業した。 ひも状材は、ほどくだけで飛散した。 また、設備係の職員は、吊り天井の裏側(天井裏)に潜り込み、配管の修理点検の業務に従 事した。天井裏の部分には石綿が吹き付けられており、剥離した石綿が天井裏に落下してい る状況であった。また、天井裏のスペースは、狭いところではダクトの隙間が40cm程度しかな い部分があり、吹き付け石綿に体が触れざるを得なかった。体が触れた部分は、石綿が剥離 し、粉じんが舞った。 ホテルのボイラー室の壁面には、腰の高さより上部には、全面に石綿が吹き付けられていた。 設備係の職員は、年に1∼2回、フランジのガスケット交換の作業に従事した。この作業の際 は、高圧ヘッダーの裏側に入って作業をする必要があった。高圧ヘッダーの裏側は、石綿の 吹き付けられた壁面との隙間が30∼40cmしかなく、設備係の職員の作業服で擦れ、剥離した 石綿の粉じんが舞った。 設備係の職員は、毎月1回は、ボイラー室内の掃き掃除を行っていたが、床に落ちた石綿の 粉塵が舞った。 ホテルの機械室ボイラー室の吸排気は、機械室内に設置してあるボイラーの吸気のため、3 階の屋上から空気を取り入れ、地下にあるファンを回して、機械室内に空気を取り入れてい たが、排気設備は設けられていなかった。 同ホテルの機械室ボイラー室の壁に吹き付けられた石綿の吹き付け面は、表面が劣化して おり、触れると石綿の繊維が飛散するような状態であった。 被害者は、平成13年4月頃から体調が悪化し、同年6月21日に石綿が原因である「悪性胸膜 中皮腫」の診断を受け、平成14年4月に、悪性胸膜中皮腫により死亡した。 なお、被害者は、ホテルの石綿粉じんの飛散する中で稼働したことにより、悪性胸膜中皮腫 を発症したものとして、労災認定を受けている。 (2) 同ホテルにおける従業員の安全管理態勢 同ホテルの設備係の職員は、上記のような石綿関連業務を行っていたにもかかわらず、同ホ テルにおいては、①粉じんが作業現場に滞留することのないような排気設備を設けず、②防 じんマスク等の支給も行わないばかりか、石綿粉じんの危険性に関する何らの教育も行わず、 ③散水や噴霧の指導監督も行わず、④昭和55年までは、衛生管理者も置かず、健康診断も 実施せず、昭和55年頃から夜間勤務者の健康診断が行われるようになった後も、石綿による 健康被害に留意した健康診断を行わず、健康診断の結果についても従業員に詳細説明す ることもなく、⑤ホテルに吹き付けられた石綿の表面が劣化した後も完全除去を行わなかった。 2. 提訴の目的 本件事故発生後、被害者の遺族が、ホテルに対し、被害者がホテルの職場環境に起因して 悪性胸膜中皮腫に罹患し死亡した事実につき、ホテルの責任を認め、遺族に対し謝罪し、今 後の同種事故の発生防止策をとるよう申し入れたにもかかわらず、ホテルが責任を認めず、 遺族に対する謝罪をも拒否したため、訴訟を通じて、ホテルの安全管理上の義務違反に基 づく法的責任を明らかにすることを目的として、本訴提起に至った。 3. 訴訟提起後のホテルの対応 石綿作業の内容等の基本的な事実関係から、ホテル業務と被害者の悪性中皮腫発症の因 果関係の有無、ホテルの従業員の安全管理上の義務等法的責任に至るまで、全面的に争っ ている。 すなわち、ガスケットの交換作業において石綿を叩いたり、ほどいたりして使用しない、天井 裏には石綿が吹き付けられていたが、高温多湿であるため、石綿を含む粉じんが舞うことは ない、壁面に石綿が吹き付けられていたが、床面に石綿が落下して石綿の粉じんが舞うこと はなく、また平成元年に内部浸透固化封じ込め剤により処理済みであるので、石綿は飛散し ない、粉じんマスクを配布すべき義務はない、悪性中皮腫と肺ガンとの鑑別は困難である、 悪性中皮腫であったとしてもホテルの石綿が原因とは言えない、等の主張を行っている。 4. 訴訟経過 平成16年8月27日に第1回口頭弁論、同年10月15日に第2回口頭弁論が行われた。被害者 側から、病理検査により、標本の生検が行われ、悪性中皮腫であることの確定診断を受けた こと、被害者が長年にわたりホテルでともに稼働した同僚が石綿肺に罹患しており、因果関係 が明白であることなどを主張した。次回期日は、同年11月26日に予定されている。 次⇒
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