ナンセンスの有効性 - Tama Art University

所属情報:
[2011年度 多摩美術大学大学院美術研究科 修士論文/
2011, Master Thesis, Graduate School of Art and Design, Tama Art University]
内容情報:
[題目、 ナンセンスの有効性
副題目、 なし
著者名、 石渡 頼子
学籍番号、 31012020
所属
博士前期(修士)課程、
絵画専攻、
研究領域名、油画領域/
Title, effectiveness of nonsence
Name,
Yoriko Ishiwata
Student ID number, 31012020
Oil painting Field,
Paingting Course,
Master Program
所属情報:
[2011年度 多摩美術大学大学院美術研究科 修士論文/
2011, Master Thesis, Graduate School of Art and Design, Tama Art University]
内容情報:
[題目、 ナンセンスの有効性
副題目、 なし
著者名、 石渡 頼子
学籍番号、 31012020
所属
博士前期(修士)課程、
絵画専攻、
研究領域名、油画領域/
Title, effectiveness of nonsence
Name,
Yoriko Ishiwata
Student ID number, 31012020
Oil painting Field,
Paingting Course,
Master Program
目次
はしがき
濁酒造り
1章
行為が出現する条件
2章
影響を与える行為とは
3章
影響を受け、与える為に
4章
ナンセンスの有効性
おわりに
はしがき
ぷふいぷふいぷちぷちと気泡が湧く。蓋を開けるとお酒の匂い。濁酒を作った。かき混
ぜる為に杒子を入れると更にぷつぷつ。本【注1】によれば、初心者におすすめの簡単な
方法を選んだ。はずなのに、失敗した。友人曰く「一回で成功するのは、神だろう」今口
に含んでみたけど、酢に近くなっている。ちなみに酒造法では、個人が売買目的ではない
濁酒をつくることを認めている。ただし、酢は駄目。酢と酒って酒造法で括られるなんて
知らなかった。多分蒸留酒からではないと作れないのかもしれない。
今回の失敗の原因は、おそらく、元を仕込む時や、本仕込み中、蓋を閉めていたからだ
と思う。麹をいれた時は発酵したし、香りも甘くフルーティだった。
「漬物用のポリ容器が
おすすめ」だったから、つい普段の癖で、かっちり捻ってロック。密閉性については、「本
仕込みの最初五日間位、新聞紙を敷いて汚れないように」としかなかった。
「お勝手の生ゴ
ミ用のポリ容器を野良猫が漁らないようにかっちり閉める」とはどこにも書いてなかった。
思い込みってやーね。
もう、八升分(14.4ℓ)のぷふい体をどうしたらいい。化粧品か!
いやいや 100gのボデ
ィバター使うのにどれだけかかるのか。
食材にごめんなさいしながら捨てる。この失敗を糧に、濁酒つくりの精度を磨いていこ
うと思います。
濁酒をつくろうと思った時、材料を揃える時、芸祭の期間に間に合わせて当番中誰かと
飲んだら楽しそうと思った時、ぷつぷつと湧きだした時、失敗した時でさえ、興奮してい
てワクワクした。一人でにやにやしていたと思う。
この楽しさがあるから私は制作を続けられる。
1章 行為が出現する条件
(肉体は身近な客体)
確固たる私というものは無い。欲望に対して、足掻く個体があるだけだ。私というもの
は只の手入れ可能な客体に過ぎない。手入れの範囲は、無駄毛の処理、染毛やパーマ、疲
れたから早く寝よう位。薬剤でタンパク質の配列を変えようが遺伝子は変わらない。一回
薬剤で配列を無理やり壊して人工配列を記憶させる、パーマって考えた人すごい。それで
も自毛に対しては影響を与えない。肉体を完全にコントロールすることは出来ない。肉体
が主体であるなら、私に若白髪は無いし、虫歯が新しい臼歯に生え変わるし、十年来の不
眠症も完治しているはずだ。空だって飛べるし、瞬時に移動出来るから、遅刻しない。妊
娠はどうなるんだろう。あ、ホルモンも自由か。かさぶたに意識はいつまで残るのだろう。
毛抜きで引っ張る時に、あ、
「抜けろ」と思えば抜けるのか。宇宙も行ける。真空なんて物
理を学べば何ら問題ない。暗黒物質とか思考実験から悶々としたものでなくて、見たてき
たけどあの理論だとさーみたいなノリで。軽く銀河系超えるし、スターウォーズみたいな
のあったよーとか言えるのでしょう。
(欲望が消滅しない理由)
自由にならない物質にしか容れられない概念は、物質なのだろうか。
自我、自意識も、他から影響によって形成されたものだ。無意識の上に自意識がある。自
分というものは他者の影響を受けている。独立した存在ではない。一つの個体の自意識に
こだわり続けるよりも、周りの環境との関係をとらえるほうが有益である。
主体とは概念である。存在することは出来ない。意識がそのまま存在となる空間は無い
のだ。意識≠存在。現在の全体は誰にも把握出来ない。過去の全体の把握は容易だ。現在
を認識することは不可能である。
現実を理想に近づけるために欲望が生まれる。理想と現実は、接近はしても一致はしな
い。脳がある限り理想は尽きない。つまり、欲望は無尽蔵である。
欲望は「与えられた欲望」と「気付いた欲望」がある。与えられた欲望は、圧迫感を与
える性質を備えている。需要をどうにかしてつくる広告代理店のコピーなどが最たる例だ。
「こうでなきゃいけない」を繰り返す。いつまでも完全一致しないことで、更に切迫する。
気付いた欲望は、
「何々していきたいなヨシこうしていこうかな」と意欲が増す働きを備え
ている。
「ほしいものと必要なものがまるっきりごっちゃになっている。食料は必要なもの、チ
ョコレートサンデーはほしいもの。自分を欺いてはいけないよ。最新型のスポーツカーは
必要ではない。豪邸は必要ではない。はっきり言って、そういうものから満足は得られな
い」
【注2】与えられた欲望は、欲しい欲しいもっと欲しいと増長していく。飢えは満たさ
れない。気付いた欲望は、必要なもの。飢えを満たしてくれる。
(感情と行為)
身近な客体である肉体は、他の物質との唯一の媒介です。自分の感情が、肉体から離れ
た物質を変化させはしない。感情は、物質に影響を与えない。行為によって物質は変化す
る。
感情を自分以外にぶつけることは、生産的ではない。感情的な人と接して疲れることは
誰もが経験することと思う。感情は、自分のエネルギー源ではあるが、他人へのエネルギ
ーではない。感情的な姿勢の話を聞いていると、内容より先に感情を垂れ流していること
に気を取られる。
感情を自分の中に溜め、こぼれないように、エネルギーに移すと熱意を帯びる。他人に
伝わりやすいのは、感情的な姿勢よりも、熱意を持った姿勢だ。感情を持つことを否定し
ているわけではない。感情がないと意欲が低下してしんどくなっていくだろう。
気を遣わないと意識すればするほど、気を遣わせちゃってるなぁと、相手に思わせてし
まう。気遣いは、そもそも相手に負担を与えるものではないのに、与えてしまう。気遣い
のやりとりがスムーズな時は、自分に強い意識はない。
執着、固執がある状態では、行為は伝わりにくい。固執から離れた行為の方が人の眼前
に出現しやすいのだ。
2章 行為による影響
アイドルのおっかけをしている知り合いがいた。彼女は、切迫感に満ちてもいたが、と
ても幸せそうであった。高校生という貴重な時間を、おっかけに費やしていた。彼女に接
するまで、おっかけをする意味が全く分からなかった。行動に裏打ちされた幸福感に浸る、
彼女を見て、こういう場合もあるのだなと思った。
浪人が決まった時期に、大好きなバンドが解散していたことを知った。結果を残せなかっ
た受験より、ラストギグを優先していたら良かったのかも、と落ち込んだ。遣り切れなさ
を解消する為に、知り合いの中で一番幸せそうな、彼女に倣ってみた。
メディアから最新情報が定期的に配信される。おっかけている子達のブログには、最新
の写メ、プライベート写真、噂話が溢れていた。一見すると飽和。やがて日に百通以上も
来るメルマガにも慣れる。情報量が足りなくなる。仕方がないので、自分でアウトプット
して、出来上がったデッサンを情報として取り込んでいた。
イコンを愛し、イコンについての情報を集める。彼女達には、意固地だなぁと思う人が多
くいた。愛が、信じるに変わる。頑固に信じ切って、狂信的になる。宗教に似ていた。た
だ、教えを説く団体と大きく違うのが、個体であるということだった。仮に、協力体制を
他の女性ととっていようが、
「私だけの彼」像は誰にも譲らない。ファン、ひとりひとりに
合わせたアイドルが脳内にいることになる。メディアによる洗脳?
いや、洗脳よりは真
理に近いのだろう。
「私だけの彼」が探求されるべき真理。
方法は弁証法による。私とメディアによる弁証法。弁証法を用いているので、到達は出
来ない。接近しかしない。真理への探求心があるのだから、更に接近しなければならない。
「私だけの彼」の偶像の情報はあって余ることはない。偶像の現実は、特に、真理に関係
しない。だから、プライバシーを無視してでも、情報を得ようとする。大体そんな見当が
つくと、自分がいままで好きだったことと性質が違うように感じた。
もちろん好きなポップアイコンはたくさんある。私だって、信仰に近い形で小沢健二を
好いている。彼がいなかったら、J-POPの歴史は今と違ったと思う。
「この愛はメッセ
ージ!祈り!光!」
「喜びを他の誰かとわかりあう!」【注3】とぶっ飛んだセットの中で
歌う彼が大好きだ!
マーシャル・マクルーハンの「メディアはメッセージである」
【注4】から考えると、
「愛」
をメディアとしてとらえ発信していたのだ!
民主主義の最高なかたちを、メロディに乗
せて広めるなんて! とか現在でも勝手に解釈している。
楽曲を買い漁ったり、過去の映像を集めたり、古雑誌を買ったりもしている。歌詞に頻
出する単語をあつめて肖像画にして、世界観を表現した平面作品を制作したりした。その
作品が、復活に影響を与えた可能性は否定出来することはないんだとニヤニヤしながら、
ライブ会場にいたりした。論文を無事提出出来たのは、生放送と告知のおかげだと感謝し
ている。それでも「私だけの彼」的な考えは持てない。きっかけとなった、解散したバン
ドも「私だけの彼ら」とは思わない。
一番自分にとって快いのは、
「なにこれ?」とおもうモノコトに触れた後だ。一瞬湧いて
消えた疑問がきっかけになって、別の問題への糸口が見えたり、普段より気付きが活発に
なる。誰かにその快さを与えたいなと思って制作をする。
心理学の用語に「優しさの返報性」がある。人は誰かに優しくされたから、他人に優し
く出来るというものだ。
「快さの返報性」もあると思う。自分が強く影響を受けたから、そのバンドのように影
響を与えられる人間になりたいのだ。強く影響を受けたから誰にも教えずに独占しようと
は思わない。
「自分が影響を受けた作家に、影響をあたえられるようになりたい」という思いが、私
は始めにある。相関図のように目に見える矢印を期待しているのではない。本を読んでワ
クワクしたり、音楽を聴いてソワソワしたり、故人と知り落胆したりする部分を、言い切
るとこうなる。
3章 環境に適応していく
環境に対する適応能力は、程度の差があれ誰もが備えている。他人との環境とは、コミ
ュニティである。コミュニティに適応する。しきれない、したけれど、なんか、しっくり
こない、というのを改善していく能力が、創造性だ。別に新たなエネルギー減を生み出さ
なくてもいい。ドライバーで例えるならば、お先にどうぞのパッシング、ごめんねーの掌
ひらり、ありがとうのハザード点灯。改良された社会に属している。
秘密の組織が代々創造性を引き継いでいるわけではない。誰もが持つことのできる資質
だ。ゼロから素晴らしいものを産み出すことが創造性ではない。現状に対して、参画して
いくことだ。
「あの人仕事出来ないんだよね」と平気で仕事場で言える人は、発言すること
によって職場の生産性が落ちることに意識が向いていない。
心地よいから、維持していきたい。流れの悪いところをスムーズにしたい。所属してい
るコミュニティに関心を持つことだ。
その行為が、誰かに影響を与える。受けた人は、行為による影響を他の誰かに与えやす
くなる。
影響を受けた例
(中学校の同級生)
中学生の時のこと。授業が開始される時に、私語をまだ止めない立った生徒に「席に座
りなさい」と教師は注意した。背もたれの上に腰掛け、足を座面に置いた瞬間に笑いが起
きた。教師も笑っていた。
パフォーマンスが、授業中という状況を超えた。
(バンクシー)
バンクシーの作品が、彼によって勝手に、有名な美術館に置かれる。彼はグラフィティ
アーティストである。壁や建物に描かれた作品は、落書きである。美術館が作品の価値を
認める。オークションで取引される。彼の落書きは、作品として扱われる。価値の転換は、
誰もが出来ることではない。
それを覆面でやるとか、かっこよすぎる。
(北杜夫)
NASA の土地に侵入してかぐや姫の子孫だ! とパフォーマンスをして、追い出される。
(島田雅彦)
朝の山手線一両に布団を敷いて、すやすや眠るパフォーマンスをする。
(ジェイミーオリバー)
イギリス人シェフのジェイミーオリバー【注5】の活動も社会彫刻である。彼の活動に
学校給食を改善したものがある。
公立校の給食は、ほとんどが加工品。調理師は揚げるか焼くかをするだけ。子供たちは
野菜を見ても名前を答えられない。低い予算でも、健康的な食事を提供出来ることを、シ
ェフの彼は証明します。
27万人分の署名を持参し政府に改善を直訴。280万ポンド(1ポンド120円で換
算すると、3億3600万円)の追加予算を約束してもらう。それでもひとりあたりの予
算は少ない。更に一年後、ブレア首相と会談。給食センターの建設などを提案し、201
1年までの予算、2億4千万ポンド(288億)を追加してもらう。
私も、女子美の学部生の時に、学食が嫌で二年弱「ごはん部」という活動をしていた。
校舎新設の為、私がいた方の校舎の生徒数が多くなっていた。「これだけ人数がいるのに、
よくまわりますよね」
「人気の店舗がオープンする時は行列ですよね」と配膳の列に並んで
いる時に聞こえた。教授がそんなことを言うようじゃ、改善は承認されないなぁと思った。
毎日お弁当持参だと授業に差し障る。水曜日に友達とおかずを持ち寄ることにした。友達
を誘ったのは、コスト削減を兼ねている。一人分のおかずを、持ち寄った人全員で分ける。
人が多ければ、種類も増える。おかずを持ってこれない時は部費を多めに入れてもらった。
部費も金額を決めずに、気持ち分入れてもらうようにした。白米は来れる人分を学校で炊
いた。白米代は毎回部費から捻出することが出来た。やがて些細な問題が積み重なり、活
動を停止した。
だから、食の改善に努める続けるジェイミーを尊敬する。
彼は 30 分以内に数品の料理を作る番組を持っています。ソースを作る時、
パイを焼く時、
既製品にはない利点を説明します。その姿勢は、丁寧で真摯、且つ料理を楽しんでいるこ
とが伝わってきます。給食革命の流れを知らなかった私は、なんで説得にいちいちこだわ
るのかと思った。それくらい、訴えている。
同じように、家庭菜園の番組も、丁寧に野菜の種類や料理方法を説明します。彼は自分
の利点を使って、提案を続けている。
(島袋道浩)
共和の輪ゴムをおばさんが、ホワイトキューブで楽しそうにくぐっている。
島袋道浩の作品を初めて写真で見たのは、映画雑誌だった。部屋のバックナンバーを漁
り他にも数点見付けた。たしか、国境を越える「ティファナ」とタコを地中海で獲る作品
だったと思う。余りに素敵で、スクラップブック用に切っていた時、違う、スクラップブ
ックを予備校に持って行った時だ。てっきり未公開映画のワンシーンか、ドキュメンタリ
ーの予告だと思っていたら、その人は有名な現代作家だと教えられた。
ワタリウム美術館での展示【注6】で「アートソンジェ山の夜明け」を見た。韓国にて、
日本と韓国の領海で獲れる、太刀魚を使った作品だった。ちなみに、太刀魚のきらめきは
エナメルの原料にもなっている。太刀魚のきらめきによって、交信する、という内容で。
作者の言葉の通りに、他の第三者言語ではなくて、両国の食材による通信を行う。ここが
本当に素晴らしいところ。その後、色々な人々で太刀魚を美味しく頂く。
他にもゴルフを習う映像や、箱にうまれた箱の科白が、箱とともにあった。最後はノリ
ノリで指示の通りに、ホームレスの人に暗号を囁いて、記念品としてのビックイシューを
買った。
今までビッグイシューを購入したことはなかった。
(山科けいすけ)
C 級さらりーまん講座で読んでから、野田首相がジャバザハットにしか見えなくなった。
4章 ナンセンスの有効性
(思い込みが出来るまで)
自分がステレオタイプにとらえられた時の不快さ。それはあなたの思い込みでしょうと
切り捨てることも出来る。でもそうすると誰とも関係を持てなくなってしまう。それ位思
い込みをぶつけられることはよくある。思い込みは何から生まれるのだろうか。
「こうに違
いない」という判断、判断ですらない決めつけは何故されるのか。
凝り固まった認識に由来する。凝固された認識は歪みが生じる。正しい認識があるのなら、
伸縮性が強いはずだ。凝固を放っておけばいくらでも、思い込みが生まれる。更に凝固し
たものが偏見になる。否定を含む意見を述べたとしても、凝固を強化させ、認識にとりこ
まれる。思い込みや偏見に基づいた判断が、更に認識を強化する。認識が思い込みを生み、
思い込みが偏見を生む。
判断を合理的にテンポ良くしないと、毎回立ち止まることになる。現実の速度に置いて
行かれることになる。現実とうまくやってくには、システマチックに成らざるをえない。
速度を止められないように、認識そのものの働きは止められない。
学問や研究は、認識の働きを利用している。確固たる認識をより堅牢にしていく。分野
を開拓し、残すために、丈夫な認識が、後生に引き継がれる。学問や研究は必要だ。恩恵
を受けた社会にいる。でも思い込みは嫌なのだ。これは、自分に対してだけではない。誰
かの他人への思い込みは気分の良いものではない。
「太陽は東から昇る」という考え方もそ
うだ。太陽は同じところにある。凝固する認識、思い込み、偏見が強化される速度を遅く
したい。
否定を含んだ意見を言っても、
「私だけの彼」像を持っている人のように、かえって認識
の強化につながってしまう。
私が考える有効な方法は、否定を含む意見ではなく、ナンセンスである。強靭で他を寄
せ付けない回路に、無価値なものが出現する。一番システムにとっては厄介なことだ。
身を持って体験した。
「2 つの万華鏡を両目で見たら、眉間のチャクラが開くのではない
か」と作品について考察をしていた頃に、首のリンパが突然腫れた。右の鎖骨下まで赤く
腫れ、痛んだ。熱が引くと首筋に親指のしこりが隆起していた。最悪、悪性リンパ種かも
しれないと医者に言われた。生検結果は粉瘤。体の老廃物だった。
「なんで?
の首に?
なんで左右
十数個も。そんなに数必要かなぁ」結果が出るまで身体は以前のようにしっく
りこない。原因を考えてしまう。この時期の制作速度は格段に落ちた。原因の特定は出来
なかったので、以後生活に気をつけるようになった。
(おしゃべり)
なんでもないことを話す。天国では長い箸を互いに食べさせ合うように、会話によって
互いの脳のストッパーを外しあう。おしゃべり自体はなんでもないことだけど、得られる
楽しさは格別だ。
(最初のペンギン)
海水に潜る前のペンギンの集団。最初のペンギンが潜るとつられて続く。実社会では、
目に見えにくいが、存在はしている。
(エアロゾル)
大気中の目に見えないほど小さなほこり、金属片、海塩などがないと、水滴が存在しな
い。
(エラーに心が動く理由)
映画を見ている時に、場面の気温を感じる。音楽を聴いている時に情景が浮かんだり。
匂い立つような平面作品を見て、記憶が刺激されたりする時がある。通常なら刺激されな
い部分が刺激される。この時私は感動している。
アーティストが境界線で飛び跳ねる。びよーん。好き勝手に踊る。動きに合わせて境界
線もびよんびよん動く。跳躍が終われば、波打った境界線は、やがてもとに戻る。誰かが
飛び跳ねて、結びつかなかった事象が連結、あるいは、凝固した認識が少しゆるみ、震え
る。普段持たない視点を感じる。震えたことでフレームに気づく。この時私は感動してい
る。
(システムとエラー)
私は、テクノロジーには出来ない言葉掛けを繰り返したり、下らないことをし続けるこ
とが、自由意志の証明になるのかもと思っていた。だが、十分に役割があった。
現行のシステムにエラーが発生する。エラーそのものには意味はない。ナンセンスだ。
ただのエラーである。だが、エラーが発生したことには大きな意味がある。エラーを修復
することにより、システムは更新されていく。
おわりに
この論文は、以下の人達のご協力があったから完成しました。ありがとうございます。
イノジン、お母さん、ごはん部に来てくれた人達、こまつさん、さかもと、しば、ともち
ゃん、つーら、てっちゃん、ぬっくん、まゆちゃん、ゆーゆー、会話をしてくれてありが
とう。私は他人の善意で構成されているのだと改めて思った。
注1:前田俊彦、
「ドブロクをつくろう」社団法人農村漁村文化協会、1981 年発行
注2:ミッチ・アルボム、別宮貞徳訳、「モリー先生との火曜日」日本放送出版会、2004
年発行
注3:小沢健二、
「LIFE」
、TO‐イーストワールド、1994 年発行
注4:マーシャル・マクルーハン、栗原裕訳、「メディア論」
、7 頁、株式会社みすず書房、
1987 年発行
注5:ジェイミー・オリヴァー、TV バラエティ、アーティストハウス、2007 年発売
注6:島袋道浩、
「美術の星の人へ」
、ワタリウム美術館、2008 年 12 月 12 日から 2009 年
3 月 15 日
その他参考資料
埴谷雄高、
「死霊ⅠⅡⅢ」
、株式会社講談社、2003 年発行
BANKSY 著、廣渡太郎、財徳薫子訳、株式会社パルコ、2011 年発行
バンクシーとは誰か?、ユリイカ、8 月号、第 43 巻第 9 号、2011 年発刊
埴谷雄高、北杜夫、
「さびしい文学者の時代‐「妄想病」対「躁鬱病」対談」、中央公論新
社、2009 年発行
埴谷雄高、北杜夫、
「難解人間 vs 躁鬱人間」、中央公論新社、2009 年発行
島田雅彦、
「100 年後のぷふい」
、神奈川近代文学館、2007 年 10 月 7 日講演