特集 コラム アサリは英語で何と言う? 英語辞書編集部 アサリは英語で何と言うのか,という質問が来まし 生から詳しい調査結果が来ました。 た。『ジーニアス和英辞典』では (short-neck) clam まず littleneck clam とは,北米の干潟の二枚貝で としていますが,littleneck としている文献もある, Mercenaria 属 と Protothaca 属 に 属 す る 複 数 種 を 指 確かめてほしい,とのことです。 し,ホ ン ビ ノ ス ガ イ(英 名 (Texas)quahog,別 名 編集委員の N 先生のほか, 『ジーニアス英和大辞 典』で専門語 閲をお願いした貝類の専門家 T 先生 にもお訊きすることにします。 quahog littleneck)が代表のようです。ニューヨーク でボンゴレに quahog が われていることを確かめま した。 まず N 先生から。 「国立環境研究所の EIC ネット, 次にセイヨウアサリは,現在の学名は Venerupis それから長崎県水産部 ホ ー ム ペ ー ジ で も ア サ リ を decussata で日本のアサリとは別属に short-neck clam と訳しています。問題はないと思い 英名は decussate venus, 布は大ブリテン島から地 ますが,ボンゴレのレシピの多くに short-neck clam 中海にかけての干潟です。イタリア料理のパスタのボ ではなく littleneck clam が載っていることなど,気 ンゴレに われるのはこの V. decussata が多いこと, になる点もあります。 」 short-neck clam という英語名が われていることも T 先 生 か ら 暫 定 的 な 回 答 が 来 ま す。「ア サ リ Ruditapes philippinarum は,サハリン以南・日本全 土・中国 岸・台湾・フィリピンに 布します。英語 類され,標準 わかりました。 short-neck clam とはこのセイヨウアサリのことで すから,東アジアに 布するアサリの英語名として 名は Filipino venus です。アサリ属に属する種は,す は, 『 凡社大百科』の記述の通り,Japanese little べて ∼ venus という英語名が付けられています。お 」 neck がふさわしいと思います。 そ ら く,ア サ リ に littleneck clam も し く は short- Japanese little neck[littleneck, little-neck]の neck clam を当てることは,正確にはどちらも間違い 用例がかなりあることはインターネットで確認できま だと思われます。」 した。そのうえで N 先生と相談し,T 先生の結論に ところで, 『 凡社大百科事典』 「アサリ」の項では 英語名を Japanese little neck としていますが,「ボ ンゴラ」の項を見るとイタリアでスパゲッティ・ボン ゴレに 従 っ て 訂 正 す る こ と に 決 め ま し た。た だ し 表 記 は Japanese littleneck とすることになりました。 以上が,来年度版の『ジーニアス和英辞典』「アサ われるセイヨウアサリの学名は Ruditapes リ」の項で実施される小さな修正の背景です。こんな decussata とあり,これはアサリと同属です。ごく近 ふうに,私たちの辞書はより正確な記述をめざして毎 い種だとはいえそうです。また venus を 年少しずつ成長していきます。 った言い 方は専門家以外ではまれであるようです。アサリはア ところで,short-neck clam のボンゴレは 「(日本の メリカやイギリスに存在しない以上,セイヨウアサリ ものと)見た目は似ているが味はかなり違う」 という内 を short-neck clam と言うことが確認されれば,厳密 容のホームページがあったそうです。北米でボンゴレ には別物でもごく近いものとしてこれを当てることも に われる貝もアサリの仲間とは言えないようです。 許容されるのではないか,と 海外でボンゴレを食べた方,いかがでしたか。 えていた矢先,T 先 G .C .D . 英語通信 No .3 6 (No v. 2 0 0 4 ) (T) 11
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