発達段階に応じた持続可能な発展教育(ESD)の学習効果把握手法に関する研究 ―愛媛県内子町を事例に― br11005 石塚 竣介 指導教員 中口 毅博 1. 研究の背景と目的 現在、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)を中心 に 世 界 中 で ESD(Education for Sustainable イ 環境学習 Development )に関する取組みが行われている。さら ロ 国際理解学習 観察による評価 A に本年度(2014 年度)は日本の中で大きな取り組みの ハ 世界遺産や地域の 文化財等に関する学習 1つである「国連持続可能な開発のための教育の 10 ニ エネルギー学習 制作物による評価 B 年」が終了し、 新たなステップへと移行する年である。 ホ 防災学習 パフォーマンス評価C ESD は幼少期、学齢期そして、成人期といった段階に 自己評価 D 分け、段階的に行うことで、SD な地域づくりの担い ヘ 生物多様性 ト 気候変動 手を育成することができる。そこで、本研究では愛媛 県内子町を対象地域と設定し、町内の保育園(幼少期)、 チ その他に関する学習 小学校(学齢期)、高等学校(成人期)を対象に ESD を意 識した学習活動を行い、その評価物を収集し、評価の 図 2 ESD のねらいと評価方法の関係 検証、学習効果の把握を行ったうえで、評価物の有用 性を検証することを目的とする。さらに、段階的に行 4. 発達段階に対しての調査 う ESD の内容を提案することを目的とする。 実施した学習指導及び収集した評価物を表 1 に 2. 研究の方法 まず、心理学の文献を参考に発達段階の定義づけを まとめる。 行う。これにより、幼少期は内子保育園、学齢期は内 表 1 実施指導及び評価物 子小学校 4 年生、 成人期に内子高校 2 年生を指定した。 つづいて、発達段階ごとに文献を参考にし、発達段 学習活動 評価物 評価の種類 園庭自由遊び 活動状況の観察 観察 階ごとの学習活動の構成を作成するとともに、学習活 幼少期 制作物 制作物 エコ活帳 動の中での評価物の評価方法を設定した。 感想文 パフォーマンス 次に、参与観察を愛媛県内子町の内子保育園、内子 活動状況の観察 観察 制作物 制作物 小学校 4 年生、内子高校 2 年生を対象にそれぞれで、 学齢期 水辺観察調査 感想文 パフォーマンス 学習指導を行った。そこで収集した評価物を有用か判 自己評価 自己評価 断したうえで、ESD からの視点から見た学習効果を把 活動状況の観察 観察 制作物 制作物 握した。この学習効果の特徴の現れ方、評価物からの 成人期 総合的な学習の時間「地域学習」 感想文 パフォーマンス 学習効果をもとに、発達段階ごとの特徴をまとめ、そ アンケート 自己評価 れを用い、持続可能な担い手づくりのための ESD の 内容を考察した。 写真1 園庭自由遊び 写真 2 エコ活帳 図 1 研究のフローチャート 3. ESD のねらいと評価方法の関係 ESD の狙いと評価方法の関係を図 2 に示す。学習指 導要領に基づき、総合的な学習の時間の評価の仕方を 参考にした。ESD のねらいであるイ~チを学習指導し、 それに伴い得た評価物を A~D の評価方法にまとめた。 写真 3 水辺観察調査 写真 4 総合的な学習の時間 表 2 は学習指導から得られた各評価物を ESD にお いての学習指導の中で重要視されている 7 つの点から 今回 3 つを選定し、評価物と照らし合わせ効果が出て いるかを検証した結果である。3 段階に学習効果の大 きさを分類した。 最初に、幼少期~成人期にかけて評価物から得られ る情報が多くなることがわかる。また、成人期では積 極的に参加する態度があまり見られなくなる。幼少期 ~成人期にかけて、多面的・総合的に考える力がつい てくるようになり、思考に関しての発達が伺え、コミ ュニケーションを行う力に関しても成人期にかけて大 きくなっていくようになる。 6. 持続可能な担い手づくりのための ESD の内容 収集した評価物より、幼少期、学齢期、成人期にて の各特徴を見出した。そこで、図 5 を提案する。行政 から ESD センター*1へ財政的支援を行うことで、 ESD センターに学校への支援をする余裕を持たせ、 ESD センター側は発達段階ごとへの支援を行う。本研 究より得られた ESD から見た視点による段階的に行 う教育により、持続可能な社会づくりの担い手を育て ることへと結びつき、将来的に、ESD センターの担い 手、行政への協力をする人間へと成長することで、町 の ESD の向上かつ町の活性化にまでつながる仕組み となると考える。 表 2 ESD の視点から見た発達段階ごとの学習効果 発達段階 評価物 幼少期 (内子保育園) 学齢期 (内子小学校4年生) ● × ●● ● ● ● ×●× ●×● × ●× ●×● × × × × ● ● ● ●● ● A 観察 製作物 B 記録 発表 C 感想文 成人期 (内子高校2年生) ● 自己評価 ● ● × D × ● × ● アンケート 効果の大きさ 大 中 小 ●● ● 効果測 定不能 × ● × 評価項目 1 コミュニケーションを行う力 2 進んで参加する態度 3 多面的・総合的に考える力 色 5. 評価物から得た ESD による各発達段階の特徴 本調査から得られた評価物から発達段階ごとで見ら れた特徴を表 3 に示す。 表 3 本調査から得られた発達段階ごとの特徴 本論分から得られた特徴 ・自分を取り巻く環境、特に人、もの等に影響を受けやすい。特に人 では先生から、ものでは自然からの影響を受ける。 幼少期 ・他の発達段階と比べて積極的に発言し、行動していた。 ・習慣になると当たり前のようにするようになる。 ・得た知識はすぐに活用し、他人に対しても要求する。 ・自分の意見を大事にする。ただし、学習指導を通して考え直すこと が可能であった。 学齢期 ・進んで作業を行っており、模倣しつつ自分の力でやろうとする。 ・自分の考え、できたこと等を人に理解してもらおうとする。 ・自分ひとりの意見よりも友だち等との意見の交換を大切にしてい た。 成人期 ・ものごとを直感的ではなく、多方面から見ることができる。 ・身に付けた力を将来へ活用したいと思う意識がある。 ・自分の役割について自覚する。 図 4 持続可能な担い手づくりのための ESD の内容 *1 ESD センター・・・ESD を効率よく行うために、行政と学校を結ぶ役割、 ESD コーディネート、学校の先生のための ESD の視点からみた評価物の評 価のサポート等を行う場所のこと。 7. 参考文献 1)文部科学省(2013) ESD(Education for Sustainable Development) http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm (2014 年 10 月閲覧) 2)理数教育研究所(2013) Rimse「我が国の ESD の現状 と課題Ⅰ」(2014 年 9 月閲覧) http://www.rimse.or.jp/report/pdf/Rimse06.pdf 3)滝沢武久(2011)ピアジェ理論からみた思考の発達と 心の教育.幼年教育出版(2014 年 12 月閲覧)
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