トレーニングメニュ

PART II.声を磨くボイストレーニング(ブレスボイストレーニング)
1.魅力的な声とは、どんな声?
ポピュラーボーカルにおいて、魅力的な声ということを一口で言うことはできません。
さまざまなアーティストが千差万別の魅力的な声で、それぞれのスタイルで活動して
います。そこに多くのファンもついており、誰がよくて、誰が悪いということはありません。
ただ、日本のボーカルの場合は、世界に比べ、劣っていることは否めないでしょう。最
近のバンド(ボーカル以外のパート)のめざましい技術レベルの向上に追いついてい
ないのも、確かです。
ボーカルそのものについては、結局、人の好き嫌いですから、ここで評価しようと思
わないのですが、ボーカルの体、つまり、声を使う技術とそれで表現された音楽性に
ついては、はっきりと捉えないとトレーニングになりません。声については、発声という
器官を最大に利用しているか、表現に対して充分な声のコントロールができているか
という点で、厳しくチェックできます。
まずは、簡単なところから始めてみましょう。
[自分の声のチェック]自分の声を録音して聞いてみましょう。
1.1分間、話したり、何か文章を読んでみる
2.2分間、無伴奏で歌ってみる
自分の声を録音して聞くと、嫌な声に聞こえるものです。これは、内耳を伝わってい
つも聞いている声とは違うからです。しかし、歌であれ、ことばであれ、ほかの人が聞
いてくれるあなたの声は、この録音された声に近いのです。ですから、この声を知り、
この声を魅力的にすることが一番、大切です。自分でも嫌だ、不快だと思う声に人が
感動してくれるはずはありません。
もちろん、自分の声にがっかりすることはありません。他の人と比べたり、他の人をう
らやましがることもしないでください。私たちは、これまであまり、声を意識しないで育
ってきたのです。これからはボイストレーニングで自分の声を何度も聞きながら、鍛え
ていきます。今までやらなかったことをやるのですから、よくならないはずがありません。
事実、ボイストレーニングをやっている人は、皆、よくなっています。
[声を意識して自分の声に慣れること]
1.自分の声をいつも意識します
2.声を意識して、朗読をしてみましょう
Column しぜんに歌えない日本人
私は大きな声で表現しないことをよしとしてきた日本という風土、さらに日本語という、
とても浅い発声の言語をもち、その特質から音声教育もなく育ってきた日本人の声が
よくないのは、仕方がないと思っています。しかし、日本人でも、声をプロとして使って
いる人の声は素晴らしいし、世界で活躍している人もいます。
声というのは、よほど恵まれた人以外は、自分で直していくのは、なかなか難しいの
です。しかし、ふしぜんに声をつくってきた分をトレーニングで直していけば、必ず、
魅力的な声になります。要は、腰を据えてやるかどうかだけなのです。
2.声について知ること
楽器を弾く人は、その楽器のしくみや使い方については、徹底的に学んでいるはず
です。充分に使いこなすためには、当然のことです。それでは、楽器のないボーカル
は、どうすればよいのでしょうか。
ボーカルにも楽器があります。それはあなたの体、全身です。喉頭部にある声帯は、
トランペットのマウスピースみたいなもので、呼気によって振動し、元の音(咽頭原音)
をつくります。それが、体のさまざまなところに共鳴して、声となるわけです。
Q.声は、どうして人によって違うのか
これは、一人ひとりの体や顔が違うのと同じく、人によって声帯から共鳴するところの
大きさ、形まで違うからです。使い方によっても異なってきます。声帯の長さの長い男
性は低くなり、女性は高くなります(弦と同じです)。
Q.声域は広がるのか
声帯を短く使うと高い声が出せます。トレーニング次第で、高いところはかなりのとこ
ろまで、低いところでもある程度まで、声域は広がるものです。しかし、確実に使える
声域をもつことの大切さを考えるならば、最初から無理にハイトーンの獲得など、声域
を広げることに焦点をあてて、トレーニングすべきではないと思います。それよりも、正
しいトレーニングをして、先に確実に表現するに足る声域を確保することが大切です。
1オクターブと少しあれば、ほとんどのボーカルの曲は歌えるからです。
Q.声質は変えられるか
声で、誰の出した声なのかがわかるのは、声の音色のせいです。これは、声の高低
や声量(声の大小)とは別に、声帯と共鳴の仕方で決まります。体格や顔の形の似て
いる人に似た声の多いのもそのためです。
ボイストレーニングは、声をしぜんにより大きなキャパシティで使えるようにしていくの
であり、声そのものを新しくつくっていくわけではありません。しかし、元の発声の仕方
が間違っている人が多いために、トレーニングをしていくと、発声の機能がめざめてい
き、どんどんとよくことが多いのです。声は本当にしぜんに使えるようになると魅力的
なものだからです。
Q.自分の声の種類について知りたい
ポピュラーボーカルでは、特に声を分けていません。ソフトとかハスキーとか、声の
質と使い方から、どんな声かということをイメージとして表現することが多いようです。
Q.年齢とともに声はどうなるか
若いときは相当な無理をしても出せていた声が、年をとるとともに出にくくなったり出
なくなるという話をよく聞きます。これは、正しくボイストレーニングを学んでおかないか
らです。
ボイストレーニングは、声が出にくいときや出ないときの調整にも有効だからです。
声は、小学校で、一応、子供の声としては完成しますが、第二次性徴期により、声
変わりがおこります。これで男性は、1オクターブくらい下がります。このときの声の扱
いは、慎重を要します。
20 歳の前半でも、声はまだまだ安定していません。本当は、10 代などというのは基
本のボイストレーニングにも早いくらいなのです。そして、40 歳前半くらいまで上向き
となっています。音楽の分野において、これだけ、ゆっくりと始めてよいのは、ボーカ
ルくらいではないでしょうか。何歳であろうとボーカルを始めるのに遅すぎるということ
はないのです。
3.声はどうして出るのか
声は、のどにある声帯から生じる音を体全体に共鳴させて出てくるものです。発声
において、呼吸法が大切といわれるのは、この声帯そのものをコントロールして、声を
自由に出すことができないからです。もちろん肺を直接、動かすこともできません。
そこで、肺をとり囲む胸郭、横隔膜、助骨の間をつなぐ助骨筋(内助骨筋、外助骨
筋)などが大切な役割を果たします。
「歌うときは、胸式呼吸でなく腹式呼吸を」などといわれていますが、正式には共に
働きながら呼吸は行なわれます。しかし、主として、横隔膜を中心に使って、コントロ
ールしていくことが望ましく、これを習得するために腹式呼吸のトレーニングをするの
です。
声は息を吐くときに出ます。このとき、声帯は緊張して、声門が狭く閉じており、そこ
に呼気(吐く息)が通るときに振動が生じ、声となります。単純にいうと、大きな声を出
すには、強い息を強く閉められた狭い声門に通せばよいわけです。
しかし、トレーニングにあたっては、このようなメカニズムを直接、意識して行なうので
はありません。体から声が直接、声が出るように全体のイメージをつかむようにしてく
ださい。原理を知ることと実践することは、違います。発声器官そのものは操作できな
いのですから、声がよく出るときのイメージをもって行なうべきだからです。
4.のどが疲れたり、痛くなる歌い方やトレーニングはしないこと
発声のトレーニングにおいては、声帯をしめて、それに息をぶつけるようなイメージ
を描いてやらないようにしてください。むしろ、のどなど全く使わず、お腹や胸の中心
くらいで、直接、声を生じさせるようなイメージで行なうとよいでしょう。声楽家をはじめ、
声をうまく使えるようになった人は、皆、そういうイメージをもつことの大切さを語ってい
ます。
私のボイストレーニングでは、のどに負担を与えないことをのどをはずすといって、
必ずのどを開いた状態のイメージ(のどに力が入っていない状態、のど声になってい
ないこと)でトレーニングをするように勧めています。
ボイストレーニングは、のどに負担を与えず、のどを疲れさせないようになって始め
てできるのです。ですから、のどなど全く存在しないようなイメージで、声を出すように
するとよいでしょう。
○高音域を無理しない
ボーカルには、あこがれの高音域でのトレーニングは、最初は、過度にやらないほう
がよいと思います。無理して一時、出るようになっても続くことは稀です。多くの場合は、
のどを壊したり、さらに変なくせをつけて、声そのものの習得も理解もできなくなってし
まいます。たとえ、くせで安定させていつまでも声量もつかず、表現に足らない声しか
出なくなってしまいます。それどころか、高音域の間違ったトレーニングが、全ての他
のトレーニングの効果までもなくしてしまいかねないのです。
多くのボーカルが、人一倍のトレーニングをしていながら、のどを壊したり、いつまで
も上達できなくなっているのは、このためです。劇団でも2、3年たつと、それなりに鍛
えられた声が出せるのに、ボーカルになろうとがんばっている人には、日常の声さえ
かすれ、話すことさえ苦労している人も少なくないのです。これは、間違った方向でボ
イストレーニングをしているからです。
スポーツでは、直接、負荷を与えて必要とする筋肉を鍛えることができます。しかし、
声帯は、先に述べたようになっているので、声を力づくで強くしていくことはできませ
ん。バランスが大切です。必ず、体と息に伴わせて出していくことです。
ですから、私は、のどが疲れたり、痛くなるトレーニングを、やらないように注意して
います。
一番、最初に覚えて欲しいことは、のどを開き、のどや顔面のひびきに頼らないで、
体の中心から正しい声を出すことです。正しい声とは、後で充分に伸びていける可能
性を宿している声ということです。
ですから、声そのものを出すトレーニングと併行して、息を吐いたり、柔軟や体を使
うトレーニングを重視しています。声を出しても、のどを疲れさせずに、体を疲れさせ
るのがよいトレーニングです。
Column のどが疲れたり、痛くなったら…
声帯が炎症をおこしているようなら、トローチを服用するのもよいでしょうが、それ以
外は、あまり甘くないのどあめで充分です。刺激の強いものやのどのかわくような成分
の入っているものは、よくありません。ぬるい湯やコーヒーもよいでしょう。冷たい飲み
ものや氷は、よくありません。
声は心身の影響が直接、現われます。疲れたときは、嫌なことは忘れて、早く寝て、
充分に体の疲れをとることが一番です。
5.うまく声を出していくための方法
まず、あなたのもっている声のなかで一番よい声を出してみましょう。そのためには、
どうすればよいでしょうか。
最初に、一番よい声の発見をしなくてはなりません。今すぐに完成した声は出せま
せん。あなたの声のなかで、ベターな声を知り、それを出すために、悪い声を出さな
いようにするところから始めましょう。そのためには、あなたの声に不必要についてい
る変なくせをとることです。そして、
A.一つの声をより完成度を増していく
B.その声と同じように他の声も出せるようにしていく
この二つのルールを徹底的に守るのです。これを、ハイレベルでどこまで突きつめ
こなしていけるかが、ボイストレーニングの基本です。
○ポピュラーに求める声と声楽との違い(ブレスボイストレーニングの特色)
私のトレーニングは声楽の発声と、よく比べられます。根本的には、私は音楽や歌と
いう点で求めるイメージやスタイルは全く違っても、声を出すことにおいては、同じこと
だと思っていますが、声楽は、次の点でかなり長い年月と完成度を要求されます。
それに対し、ポピュラーのボーカルとして必要最小限のものを短期間で習得し、さ
らに声楽には必要ないが、ポピュラーに不可欠なノウハウを組み込んだのが、ブレス
ボイストレーニングだと思っています。
声楽の特色(条件)
異論はあるかもしれませんが、大体の方向として述べておきます。
1.オリジナルの調(原調)でしか歌わない
2.マイクを使わない
3.レガート、共鳴を中心にする
4.人間の声の美しさを最大限に追求する
つまり、すでに書かれた曲(オペラ、リート)を歌うために、その曲に使われている声
域を確保しなくてはなりません。テノールなら、ハイCのポジションまで必要です。それ
に対し、ポピュラーは、自由に移調できます。
また、マイクを使わないで観客の耳にしっかりと届くように、うまく共鳴させて歌わなく
てはいけません。そのため、一語一語をビブラートがかかるレガート唱法で確実に抑
え、ひびかせます。レガートを中心に基本を固めていきます。一つひとつのことばをき
ちんと発音し、統一した音色、ひびきを作品【歌】においても、確実に保持しようとしま
す。するのもそのためです。
そして、声そのものの美しさを追求するため、声帯を含めた先天的な楽器としてのよ
さや素質も問われます。
ポピュラーのボーカルの場合は、声楽家が決して出せないし使わないような声を使
うことも少なくありません。これは、どちらかがよいというよりもスタイルが違うのです。
ポピュラーを見下だしている声楽家は多いのですが、そういう人がカラオケ一曲、構
えないでうまく歌えないのを何度も聞いてきた私は、歌が高尚なものとなって消化でき
なくなっている彼らの多くに同情を禁じ得ません。声楽科から、ポピュラーに移ってく
る人にも、ポピュラーにはポピュラーのより難しいノウハウがあるといっています。それ
は、自分独自の世界を表現し、相手に伝えることだからです。
ボイストレーニングにおいては、声楽の基本は、先に述べた条件をクリアするために、
長い期間を必要とします。ポピュラーにとっては、不要のことも含まれるからです。い
や、ポピュラーを歌うなら、もっと、優先して仕上げていかないことがあるといった方が
よいでしょう。
ブレスボイストレーニングでは、それを次の点から追求しています。
1.ことばを中心に声を深めていく
2.必要以上のひびきをつけない
3.体から、そのまま伝えたいことが声にのっている感覚を大切にする
4.声がハスキーでも息になろうと、よしとする
5.シャウトを取り込む
これを中心にメニュを組むと、最短にして、最大の効果が生まれるのです。つまり、
1.全身から声を出すこと、シャウトすることを優先する
2.レガートより、どちらかというとスタッカートを先に行ない、一声をプロ並みにする
3.メロディのフレーズより、ことばのなかでフレーズをつかんでいく
4.ことばの表現力を徹底的に追求する
5.自分独自の音楽観、ボーカル観を表現していく
ポピュラーボーカルの曲をよく聞くと、多くの人が思っているより、声を伸ばしたり、ひ
びかして歌ってはいないことに気づくはずです。つまり、ことばをしっかりと伝えること
で、聞いている人に曲の世界のイメージを構築させていくのです。
ですから、ことば大切にしなくてはいけません。ことばを発したら、プロと思えるほど
のトレーニングをすることです。つまり、読んだだけで録音しても、歌になるくらい、声
と表現力をもつことが大切です。
そして、このことばを読みこむことで、ことばのフレーズがでてきます。棒読みでなく、
感情を込めてシャウトすると、体が使われるはずです。それをリズムをもとにセンスよく
刻み、さらにメロディを巻き込んでいくのです。こうして魅力的なことばの流れが、歌に
なります。これは、随分と体力、そして息を必要とします。だから、体や息が身につい
ていくのです。つまり、ブレスボイストレーニングは次の順に整えていきます。一貫して、
そこに表現する力、表現に耐える力が問われます。
1.声
2.ことば
3.ことばのフレーズ
4.リズム・グルーヴフレーズ
5.メロディ処理
6.歌のフレーズ
6.リラックスと体操
ボイストレーニングに必要なことは、パワーとリラックスです。リラックスをするだけで
出せる声もありますが、それで、歌一曲が歌いあげられるわけはありません。体中の
力を使いながら歌うわけですから、体の力を鍛えることと、それを正しく使うためにリラ
ックスすることが必要となります。
たとえば、鐘は強く突くと大きく鳴ります。しかし、鐘そのものを別のもので押さえこん
でいると、全くひびきません。強く突くと壊れかねません。バッターでもピッチャーでも、
力一杯、体を使いますが、必ず、リラックスしています。必要なところには、力が入って
いますが、それ以外のところは、全て力が抜けているはずです。つまり、無駄な力が
入っていないのが、何事においてもうまい人なのです。
人間の体が最大に使われるときは必ず、この条件を満たしています。
このことは何か初めてのスポーツを始めたばかりのときを考えると、わかりやすいで
しょう。ほとんどの人は、部分的に力が入り、うまくリラックスできません。早く疲れるし、
はた目にも無格好に見えます。これと同じです。
あなたが初心者でトレーニングを始めると、次のような症状がでてくると思います。
1.息を吐くと、めまいを感じたり、気持ち悪くなる
2.体の一部分、足やお腹が痛くなる
3.立っているだけですぐに疲れる
だから、無理せずに少しずつ慣れていくことです。
力を効率よく使うためには、イメージをうまく描くことです。
1.集中することです 目をきょろきょろさせてはいけません 一点を見ましょう
2.上半身はリラックスしましょう
3.下半身は動かしません 重心を低く保ちます(ただ、足がしびれたり、つったりしな
いよう、適時、動かしても構いません)
4.顔の表情や、お腹はやわらかく
5.意識はへそ下3寸におきます。
それとともに、力一杯、吐いた息がそのまま声となるようにしていきます。このときにも
つイメージとして、私のボイストレーニングでは、声のポジションという考え方をとって
います。
○胸声づくり
日本人の場合は、特に、顔面の上や口のなかでのひびきだけに頼りがちなので、
体の中心、胸の中心に声を集めるようなイメージをもします。本当は、頭(眉間)と胸の
中心との線上で、そのバランスのなかで声を捉えるべきなのですが、ほとんどの人が
体の方の深い声がとれないので、当初のトレーニングでは、胸のまん中に声を集める
ことをやります。
これは次のような効果があります。
1.のどをはずせる
2.ひびきが拡散しない
3.深く強く太い声が出せるようになる
4.声のくせがとれる
5.体全体が共鳴してくる
6.息が深くなる
7.トレーニングとして、体、息を強化できる
8.ことばがそのまま、歌になっていく(よい声になるということ)
9.体で声をコントロールできるようになる
10.声にヴォリューム、感情が入っていく
そのためには、まず、体のこりをほぐしておくことです。柔軟体操やストレッチをトレ
ーニングの前後に必ずやるとよいでしょう。
○柔軟体操
1.首を上下、そして左右にまわす
2.肩を上下、そして前後にまわす
3.腕をまわす
4.前屈したあと、後ろにそる
5.体を横にまげる
6.腰をひねる
7.軽く飛びはねる
8.両腕を上にあげて、目一杯、背筋をのばす
特に次の2箇所は、押さえても痛くないようにいつもほぐしておきましょう。
さらに、表情を豊かにするためのトレーニングをやっておきましょう。ひびきや声のつ
やをつけるためにも役立ちます。
○表情を豊かにするトレーニング
1.頬から上で笑ってみる
2.頬をふくらましたり、へこませたりする
3.眉をつり上げたり、おとしたりする
4.口を左右、上下に動かしたり、まわす
7.腹式呼吸とブレスのトレーニング
それでは、発声の基本である腹式呼吸について、学びましょう。多くの人は、姿勢を
よくして腹式呼吸をマスターすれば歌えると思っていますが、私は逆のように思いま
す。呼吸法のマスターというのは、とても難しく、腹式呼吸は習ったけど、それを使っ
て歌えない人の方が多いのではないでしょうか。本当は、歌えることが大切であり、し
っかりと表現するために腹式呼吸でなくてはならないということです。歌の表現が世界
が腹式呼吸を使わないかぎり、支えられないとなるとしぜんとそういった呼吸法が身に
ついてくるのです。
そういう意味では、自分の表現したい歌の世界があり、それに声量やパワーが必要
であり、それを支えるために、腹式呼吸のトレーニングがあるべきなのです。決して、
歌や声と呼吸法を切り離すべきではありません。
ですから、私は、本当に歌えるようになれば、そのときの呼吸が腹式呼吸であり、そ
のときの姿勢がフォームだといっています。
このことを踏まえた上で、お腹から声が出るようなトレーニングをいくつかやってみま
しょう。
○腹式呼吸のトレーニング
1.お腹に両手の親指をあて、それをはじいてみてください。
2.床に寝ころび、息を吐けるだけ吐いてみてください。
苦しくなったら、力を抜いてください。しぜんと息の入っているのが感じられるでしょ
う。
3.息を吐いてお腹の横や背側が動くのを感じてください。前屈して、やってみましょう。
4.お腹から短く息を何回も吐いてみてください。
5.お腹からできるだけ長く息を吐いてみてください。
6.腹筋を鍛えるために、上体起こしや腕立て伏せをやりましょう。
○ブレスのトレーニング
時計(アナログで秒針のあるもの)を用意してください。
1.5秒で5回、息を吐き、5秒、休んでください。(1分)
慣れてきたら、10 秒で 10 回息を吐き、5秒休んでください。(2分)
2.長く息を 20 秒、伸ばし、10 秒休んでください。(3分)
慣れてきたら、30 秒伸ばし、5秒休んでください。
3.息読みのトレーニング
ブレス(吸気)は、一瞬でできなくてはなりません。また、声を支えるためには、深い
息が必要です。深い息から深い声がとれるようになってきます。そのためにも、毎日の
トレーニングが必修です。
ブレスボイストレーニングでは、ブレスのトレーニングを重視しています。声は出さな
くとも、息を出すトレーニングはしておくようにいっています。それには、次のような理
由があります。
1.音が出ないので、どこでもいつでも練習できる
2.体と息とのつながりが自覚できる
3.早朝など、ウォーミングに最適である
4.のどが疲れていても、さしつかえない
5.息が深くなって初めて、声が自在になる
ボイストレーニングとは、結局、トレーニング中のみならず、日常の生活のなかでボ
ーカルとしての体を常にキープすることが目的です。ですから、声ではのどをつめて
しまったり、荒れてしまうようなときも、息なら声帯をあまり疲れさせずにトレーニングで
きるのです。風邪をひいているときや、体調の悪いときなどもブレスや柔軟のトレーニ
ングを続けていると、回復したときに、うまくトレーニングに入れます。体がなまると声
が出にくくなるからです。
Column 息はポピュラーの表現力の基本
外国人の声の太いのは、息が深いからです。ボーカルは、しっかりとした深い息で、
声を支え、コントロールしているのです。呼吸やブレスのトレーニングは、音声のイメ
ージや音色を構成するときに大きな役割を果します。まさに、息は表現の基本といえ
ましょう。
日本語の発音は浅いのですが、外国語は比較的、深く息を充分にに使うことを要求
されます。フレージングや呼吸法を学ぶのに、外国語の学習は有効だと思います。
8.発音、ことばのトレーニング
発音というのは、母音と子音がきちんとその音として聞こえるようにすることです。声
をことばとしてわかる音に整えるわけです。
「ア、エ、イ、オ、ウ」というのが、母音の発音のトレーニングの基本です。この順の方
がやりやすいからです。
ことばは、日常的に誰でも使っています。それをリズム、メロディがついたり、強弱、
高低をつけても、うまくこなせるようにするためには、基本的なトレーニングが必要で
す。
歌の声をよくするためにトレーニングをしていくと、話している声もよくなってきます。
よく、話し声をよくしてから、歌う声をよくしていくという人がいますが、トレーニングの
場合は、歌の声が先に変わっていくという順で考える方がよいようです(弱い声や、低
い声でよい声で出すのは、本当に声が身についてこないと難しいからです)。
ことばは、日常的に使っているだけに、うまく息を声にしています。息を声にすること
を声たてといいます。効率的に声を使うには息が 100 パーセント、声になっていること
が大切です。すると、息と声との結びつきが必要です。普通は、話している声でしぜ
んとできることが、歌うときにはできなくなります。歌の方がパワーが必要であり、しかも、
それを充分に声にする技術がいるからです。
ここで多くの人は、歌うために声をひびかせてつくってしまいます。つまり、日常的
にも魅力のよい声をさらに音域(特に高音)をとるために、加工(くせをつけて)しまうの
です。これが後で伸びていかなくなる原因となります。
ことばで発声しているところは、決して間違いではないのです。そのとき、ことばで表
現していることをより、パワーアップした声として高く大きく長く表現できる技術があっ
て、歌となるのです。
歌が音楽として、ことばの壁を破れるのは、まさにこの瞬間です。声のパワーや魅力
に意味のわからない言語であっても、その心に何かを伝えることができるのです。そう
でなくては、歌う意味がありません。それならば、ことばでしゃべったり、朗読していれ
ばよいのです。
ですから、「声を歌にする」基準とし、私は次のように定めています。
1.そのキィで思っ切り、シャウトできる
2.かすれない
3.ひびきが拡散しない
4.体と息が統一している
5.のどが疲れない 痛くならない
そして、「大きな声で、そのことをいうよりも、歌ったときに、より体や息が使われてい
る」ことです。歌にはいろんな歌い方がありますが、トレーニングにおいては、ことばよ
りも、体を必要とさせて、体を使っていくことを念頭におきましょう。それであってこそ、
体や息がボーカルとして使えるように変わってくるのです。
○発音とことばについて
発音から、ことばに入るより、ことばはことばとして完成させていくトレーニングを優先
する方がよいでしょう。ことばには感情が入ります。それを伝えようとすると、体も息も
心も動き出します。それを充分に感じることです。
そこに少しリズムとメロディがついただけで、充分に歌になってしまう場合も少なくな
いのです。
それに対し、正しく発音することから始めると、口先だけで整えて、発音ははっきりと
しても、声の魅力や息、体を使えないようにしてしまうことが少なくありません。
Column トレーニングでつくった声
発音は調整のためのトレーニングとしてもよいと思います。無表情で、全く口を動か
さなくとも、日本語は、声として発することができます。ただ、歌として表現するときに、
それでは興ざめですから、口でも表情をつけるわけです。
アナウンサーや、ファーストフードの店員さんも、「いらっしゃいませ」といった、発音
のトレーニングは受けています。しかし、ボーカルと違うのは、予め、決められたマニュ
アルのような発声になってしまうところです。個性からくる声の魅力がないのです。そ
れは、口先でのトレーニングでつくった声だからです。
○ことばのトレーニング
次のことばを感情を入れて、読んでみましょう。
1.晴れたらいいね、山へ行こう 次の日曜 昔みたいに(「晴れたらいいね」)
2.I Love You 今だけは悲しい歌 聞きたくないよ(「I Love You」)
3.何度も言うよ 残さず言うよ 君があふれている(「Say Yes」)
4.いつもの My sweet sweet home(「家に帰ろう」)
5.Can't live without you baby(「六本木心中」)
このとき、体や息を意識して、なるべく大きな声で読んでみます。役者さんになった
つもりで、はっきりと表現しましょう。
1.一緒にね いろんな話をしよう(「晴れたらいいね」)
2.それからまた二人は目を閉じるよ 悲しい歌に愛がしらけてしまわぬように(「I Love
You」)
3.迷わずに Say Yes 迷わずに Say Yes Say Yes Say Yes…(「Say Yes」)
4.空しいこと、結ばれぬ悲しい Destiny(「Destiny」
5.Don't wanna let you go(「六本木心中」)
○1フレーズ(1呼吸)で読むトレーニング
次のことばは一音ずつ増えていきます。一息で大きな声で読んでみましょう。棒読
みにならないように、声にメリハリをつけましょう。
1.あい
2.タクシー
3.サヨナラ
4.土曜の夜
5.ジョージの店
6.眠れなくても
7.よわいねわたしも
8.会いたくなるなんて
9.ふりむいて欲しくない
10.友情が残るはず
11.思いがけずときめく心
12.思い出を燃やし尽くしたら
13.ドアごしに見慣れたあの背中
14.雨にぬれたせいかしら 弱いね
15.あなたにマスターが目くばせしている
(「TAXI」より)
○50 音のトレーニング
発音のトレーニングです。特に、カ、サ、タ行は、難しいので、あとまわしにしてもよ
いでしょう。
1)アエイオウ
カケキコク
サセシソス
タテチトツ
ナネニノヌ
ハヘヒホフ
マメミモム
ヤエイヨユ
ラレリロル
ワエイオウ
ン
2)アエイウエオアオ
カケキコケコカコ
サセシスセソサソ
タテチトテトタト
ナネニノネノナノ
ハヘヒフヘホハホ
マメミモメモマモ
ヤエイユエヨヤヨ
ラレリルレロラロ
ワエイウエオワオ
ン
3)アエイウアエオエ
カケキクカケコケ
サセシスサセソセ
タテチトタテトテ
ナネニヌナネノネ
ハヘヒフハヘホヘ
マメミムマメモメ
ヤエイユヤエヨエ
ラレリルラレロレ
ワエイウワエオエ
ン
○発音のトレーニング
(ア)尼のあわれな愛
(イ)生きたイカいかがです
(ウ)うらの海のウニ
(エ)エッサエッサと餌運び
(オ)押し売りおろおろおかしいね
(カ)噛んだら噛むだけ辛いぜ、からし
(キ)きっと来てるよ、今日だって
(ク)苦しむくらいなら供養する
(ケ)今朝から血糖値の計算
(コ)子供をこきつかう
(サ)皿をさっとふけ
(シ)しらじらしくしらをきる
(ス)酢はすっぱいすよ
(セ)世界を背中に背負ったぜ
(ソ)そっとそばを通る
(タ)たった今闘いに勝った
(チ)チキンとチョコがこっちにある
(ツ)ツキがついたら強いです
(テ)手のひらかえして見てみたら
(ト)父ちゃん、とっとと起きとくれ
(ナ)何もないなら作らなあかん
(ニ)ニラとにんにくの臭い
(ヌ)もぬけのから
(ネ)熱があるね、もうねんね
(ノ)のらネコの歌
(ハ)腹をかかえて浜を走る
(ヒ)広い額の人もいる
(フ)船からあふれる古い古着
(ヘ)変身のヘタな人
(ホ)骨までホレたら本物よ
(マ)マシュマロ丸くて甘い
(ミ)みんなが見ているミロのヴィーナス
(ム)娘の婿にムツゴロウ
(メ)しめしめ飯だよ
(モ)もっと燃えろ、モンタレー
(ヤ)安く売るのはやめちまえ
(ユ)ゆりかご揺らす、ゆっくりと
(ヨ)夜に酔うのはよろしくないよ
(ラ)らせん階段らくらく
(リ)料理の注文、立派にできた
(ル)ルーキーは、今日、留守だよ
(レ)レンコンダイコンどれがどれ?
(ロ)ロバもカバものろのろ
(ワ)私、たわしを乾かしたわ
(ア)アイアイ、おさるの求愛ダンス
(イ)イルカに乗って一緒に行きましょう
(ウ)家で内輪だけで打ち上げ
(エ)延々と絵を描く絵描きさん
(オ)「おとといおいで」と追い払う
(カ)カンカラカンと缶を蹴る
(キ)君ならきっと気が狂う
(ク)クサい芝居をくさす
(ケ)血液型で結婚相手を決定する
(コ)コイツ恋するコメディアン
(サ)桜が咲いた砂糖菓子を作ろう
(シ)知ってしまった、知らない方がよかった秘密
(ス)素直に好きと言えたら
(セ)精一杯の節約
(ソ)空にそびえるそら豆の木
(タ)たまには食べたい鯛のお造り
(チ)小さな愛をちょっとでもチョーダイ
(ツ)ツテで手に入れた成功はツマラナイ
(テ)手っとり早くテーマは“手”でいこう
(ト)隣りのとまり木で鳥があくび
(ナ)無い無い納豆味のガム
(ニ)でかいにしんににんまり
(ヌ)ヌーディストの絵は塗りにい
(ネ)飼い猫を猫かわいがりする猫愛好家
(ノ)のろのろ歩く野牛
(ハ)流行のハヤシライスを食べるハイカラな俳人
(ヒ)日に日に一人に慣れていく
(フ)笛を吹くフーテンの寅さん
(ヘ)へーっ、変な奴
(ホ)星を欲しがる保安官
(マ)町でママとまったりとした抹茶アイスを食べたい
(ミ)港でミミさんを見た
(ム)むしょうに無視するフリするムッツリスケベ
(メ)めでたくメークィーンの芽が出た
(モ)森が燃えてモクモクけむる
(ヤ)奴はやっぱりやわな奴
(ユ)夢は夢でもただの夢じゃない
(ヨ)よく混んでいる洋菓子店
(ラ)ラジオでラッパーがラッパを吹いていた
(リ)「リンダ リンダ」を歌う山本リンダ
(ル)瑠璃色のルーペを持つ流浪の民
(レ)レンゲを摘むレレレのおじさん
(ロ)ろうろうと朗読するロシア人
(ワ)ワイワイ輪投げをしよう
○ことばのメリハリ(プロミナンス)のトレーニング
《二音》
月
渦
影
息
時
風
夢
来る
取る
君
《三音》
悪魔
暮れる
空へ
閉じる
踊る
今は
やがて
そんな
そして
眠る
《四音》
明日も
もうすぐ
出会える
傷つく
離れて
魂
最後の
沈黙
眼差し
断ち切る
《五音》
振り返る
呼びかける
この気分
耳元で
呼んでいる
歌いたい
ほほえみも
忍び寄る
初めての
腕の中
《六音》
古い時計
約束して
好きな君と
駆け落ちした
無我夢中で
怒り狂う
何もかもが
この街から
愛がほしい
連れていって
《七音》
すべて幻
服を脱ぎすて
始まっている
描いた夢も
口笛ならし
静かに眠れ
自分の姿
退屈な日々
君のことだけ
想像しよう
《八音》
思い出せなくて
嘘で固めてく
悲しみ与るな
想いをつのらせ
届かない心
歌ってあげるよ
早く目をさませ
交わした約束
優しい言葉を
痛みにかえて
唇を重ね
《九音》
まぶしい空の下
いつも信じている
優しさを演じる
ひどく疲れ果てた
あなたに捧げたい
自分の夢のため
窓から見える海
君には会えないよ
遠くを見つめると
《十音》
抱きしめた思いだけ
一度だけ抱きしめる
振り向いてほしいのさ
追いかけた欲望は
すべて消えた思い出
君の手をにぎりしめ
あの頃にもどりたい
もう何もほしくない
君に愛されたくて
いつも微笑んでいた
《十一音》
嘘をつくこともできる
ポケットの中のコイン
心のすき間をうめる
こぼれた涙をふいて
君の笑顔をみつめて
心を込めて歌うよ
あやまちに気づいたとき
どうしようもない時に
あなたは知っていたのね
《十二音》
もう声だけが届かない
恐いものなどなにもない
離れてゆく二人の愛
眠れない夜もあるけど
君の瞳がゆれている
君がとてもきれいだから
わからないあなたの心
誰も信じていないから
白い吐息に包まれて
そう、ときめきは止まらない
《十三音》
まだ来ない明日をおびえて
愛に深く傷ついている
声がかれるまで叫んでな
わけもわからず叫びたくて
彼女らには将来がない
君のことを愛してあげる
夜はとても長くてつらい
夢の中で抱きしめている
もう何も言わないでほしい
絶望と孤独の中でも
時の流れに身をまかせて
《十四音》
立ち止まることはできないのだ
通りすぎていく思い出だけ
見なれた街なみをただ見つめ
二人はそれとなく寄り添った
何がなんだかわからない人
大切な気持ちもあるはずさ
どんなに思い続けてみても
いつだって傷ついているんだ
わたしは死ぬほどあなたが好き
君がだんだん近づいてくる
《十五音》
そんなこと僕には関係ない
たまには泣きたい夜もあるんだ
年老いた自分を想像する
息を殺してただ時を待って
泣きつづけわめきちらすばかりで
もう何も感じることができず
夏の匂いがまだ残っている
過去にもどる道が見つからない
やがて疲れ果てて眠るだろう
○歌詞を読むトレーニング
○見上げてごらん夜の星を(永六輔作詞/いずみたく作曲)
見上げてごらん夜の星を
小さな星の 小さな光が
ささやかな幸せをうたってる
見上げてごらん夜の星を
ボクらのように名もない星が
ささやかな幸せを祈ってる
手をつなごうボクと
おいかけよう夢を
二人なら
苦しくなんかないさ
見上げてごらん夜の星を
小さな星の 小さな光が
ささやかな幸せをうたってる
見上げてごらん夜の星を
ボクらのように名もない星が
ささやかな幸せを祈ってる
○桃色吐息(康珍化作詞/佐藤隆作曲/高橋真梨子歌)
咲かせて 咲かせて 桃色吐息
あなたに 抱かれて
こぼれる華(はな)になる
海の色にそまる ギリシャのワイン
抱かれるたび 素肌 夕焼けになる
ふたりして夜に こぎ出すけれど
だれも愛の国を 見たことがない
さびしいものは あなたの言葉
異国のひびきに似て 不思議
金色 銀色 桃色吐息
きれいと 言われる
時は短かすぎて
明(あか)り採(と)りの 窓に 月は欠けてく
女たちはそっとジュモンをかける
愛が遠くへと 行かないように
きらびやかな夢で 縛(しば)りつけたい
さよならよりも せつないものは
あなたのやさしさ なぜ? 不思議
金色 銀色 桃色吐息
きれいと 言われる
時は短かすぎて
咲かせて 咲かせて 桃色吐息
あなたに 抱かれて
こぼれる華(はな)になる
○なごり雪(伊勢正三作詞・作曲/イルカ歌)
汽車を待つ君の横で僕は
時計を気にしてる
季節はずれの雪が降ってる
東京で見る雪はこれが最後ねと
さみしそうに君がつぶやく
なごり雪も 降るときを知り
ふざけすぎた 季節のあとで
今 春が来て 君はきれいになった
去年より ずっと きれいになった
動き始めた汽車の窓に
顔をつけて
君はなにか言おうとしている
君の唇(くちびる)がさようならと動くことが
こわくて下をむいてた
時がゆけば 幼い君も
大人になると 気づかないまま
今 春が来て 君はきれいになった
去年より ずっと きれいになった
君が去ったホームに残り
落ちてはとける雪を見ていた
今 春が来て 君はきれいになった
去年より ずっと きれいになった
…………
…………
9.発声のトレーニング
声を発し、それを保持(キープ)し、止める、この一連の動きを発声といいます。この
ベースとなるのが、息を吐いて吸う呼吸であり、それを日常よりは、強くコントロールし
ているのが横隔膜などを中心に使った腹式呼吸なのです。
Column 表現に足るパワーアップした声
ブレスボイストレーニングでは、声を息とともにマスターし、パワーアップしていくこと
に焦点をあてています。発声においても、単に声を出すだけではなく、その声が表現
に耐えうるかを常にチェックし、少しでも、大きな器となるようにしていきます。つまり、
常に、声を、より強く、大きく、太く出すということです。それにより、しぜんと、声量と声
域が確保できていくのです。
発生
息を声に変えるところを発生(声たて)といいます。確実に声にして、のどに負担の
かからないようにします。かすれたり、余計にひびいたりするのは、空振りのようなもの
で、のどを痛めるので注意しましょう。
○ことばの発生(「ハッ」)のトレーニング
お腹で息を(ハッハッハッ)と吐いて、お腹でその息を切ります。声は「ハッ」でやって
みます。のどに力が入らないように注意しましょう。
1.(ハッ ハッ ハッ…)息で吐き続ける(1分間)
2.「ハッ ハッ ハッ」3回、「ハッ」といって、1回分休む。(×10 回)
3.(ハッハッ)「ハッ」2回、お腹から(ハッ)と息を吐いて、1回「ハッ」と声にする(×10
回)
4.(ハッハッハッ)「ハッハッハッ」3回息でやり続けて、3回声にする(×10 回)
このときには、次のことに注意しましょう。
1.のどがビリビリとならないように
2.等間隔でリズミカルにする
3.息を体で支えているように(口先の動きにならない)
体を前屈させて行なうと、効果的です。
あまり高くない音域で、のどにかかったり、頭にあまりひびかないようにしましょう。
Column 前屈姿勢でやってみよう
最初は、トレーニングにおいて、前屈姿勢で行なうと、うまく深い声が出やすいようで
す。これは、お腹が(前の方)つぶれて使えないために、腹式呼吸に使わなくてはい
けない側筋や背筋が使われるからです。さらに、重心が下がり、体の中心で声を捉え
る感覚が身につくからだと思います。ただし、後頭部やあごがあがったり、背がまるく
ならないように注意しましょう。
○ことばの終止「ハイ」のトレーニング
「ハッ」という音にイをつけると「ハイ」となります。このことばでトレーニングしましょう。
いそぎすぎないように、自分のペースでやりましょう。
イで切ることで、ことばの終止のトレーニングとなります。
「イ」は口先でなく、体でしっかりと切ることが大切です。口は動かさないようにしまし
ょう。
<( )を息、「 」を声とします>
1.(ハイハイ)「ハイ」2回息で(ハイ)といって、1回「ハイ」と声にする。
2.(ハイ、ハイ)「ハイ」(×10 回)
3.(ハイ、ハイ、ハイ、)「ハイ、ハイ、ハイ」(×10 回)
4.「ハイ、ハイ、ハイ」(×10 回)
Column 「ハッ」「ハイ」を使うのは?
日本人にとって、「ハッ」というのは、かけ声のようで、日常で出している声よりも、お
腹から深く出せて、しかも、お腹で切りやすいようです。「ハイ」というのは、返事に使
います。誰でも大きな声で相手に伝えるために使ったことのあることばの一つでしょう。
他のことばでもよいのですが、なかなか、多くの人に共通に使える音は少ないようで
す。
○ことばの保持「ハーイ」のトレーニング
「ハイ」を伸ばすと、「ハアイ(HAI)」になります。ことばのフレーズを捉えることから、
少しずつレガートの感覚を身につけていきます。ただ、ことばとして使う感覚でこなし
てください。「ハ、ア、イ」と3つの音に聞こえないように気をつけましょう。一つのフレー
ズで「HAI」という一音がついているように発声しましょう。「ハアイ」よりは、「ハーイ」と
いう感覚でやる方がよいようです。「ア」で「ハ」と「イ」をつなげるわけですから、ことば
の保持(キープ)の基本トレーニングとなります。ことばを伸ばすときは、必ず母音で伸
ばします。ですから、このことばを少しずつ伸ばしていくと長いフレーズとなります。
1.ハアイ
2.ハアアイ
3.ハアーアイ
4.ハアーアーアーイ
他の母音でもトレーニングしてみましょう。
ハアイ
ヘエイ
ヒイイ
フウイ
(ヒとフは、難しいので、できなければ無理にやらなくてもよいでしょう)
○声を伸ばすトレーニング
声を均等に伸ばすトレーニングです。少しずつ長く伸ばせるようになりましょう。
1.アーエーイーオーウー
2.アーエーイーオーウーエーアーオー
3.マーメーミーモームー
4.マーマーマーマーマー
5.ラーラーラーラーラー
6.ラーレーリーロールー
7.ガーゲーゴー
8.ハーマーヤーラーワー
9.ヘーメーレー
10.アーオーイー
○伸ばしている声の強さを変えるトレーニング
クレッシェンド(だんだん強く)とデクレッシェンド(だんだん弱く)をつけてみましょう。
<
>
1.アーアーアー
2.アーエーイーオーウー
3.マーメーミーモームー
4.ラーラーラー
5.ラーーーー
6.マーーーー
できるかぎり、音と音との継ぎ目がわからないようにします。
○ことばを伸ばすトレーニング
伸ばすところを変えてみましょう。感情が最も入りやすい伸ばし方を考えてみましょう。
たとえば、「わたし」に対して「わーたし」「わたーし」「わたしー」などと変えられます。
1.とーおーい くもーよ
2.あなたゆえに
3.おーい どこ
4.さよーうならー
5.わすれないでー
6.じゃあねえー
7.ヘェーイ イエーイ イエース
8.ハアー ラ、ラ、ラ
10.音の高さのトレーニング
ここまでのトレーニングで、ことばを長く伸ばしたり、大きくしたりしました。表現を強
めるためには、もう一つの方法があります。それは音の高さを変えることです。原則と
しては、強い感情のストレートな表現は高い音、語りに近い表現ついては、低い音と
なります。ここでは、メロディはつけないで、音の高さだけを変えるトレーニングをして
みましょう。
トレーニングでは、高い音も、低い音も、なるべく体を使ってコントロールするように
努めてください。ひびきやのどにはあまり頼らないでください。つまり、極力、音質をそ
ろえるということです。同じ発声で声が出ることを目指してください。
特に高い音を出すときには、体を目一杯、使って出しているイメージを抱いて、トレ
ーニングしてください。
ことばは体から言い切って構いません。鋭く投げかけるようにしてみてください。ただ
し、のどにぶつけるようではいけません。
音階と音の高さ(キィ)については( )内に表記しますが、変えて構いません。自分
の最も出しやすいキィから始めるとよいでしょう。
半音ずつ下げていき、一番、低い音までいったら、今度は、一番高い音まで上げて
いってください。一音しかついていないのは、その一音のキィでシャウト(言い切る)し
てください。
1.ハイ、ハイ、ハイ(ド、ド、ド)
2.ハイ、ハイ、ハイ(ミ、レ、ド)
3.アオイ(ミ)
4.アオイ(ミミミ)
5.アオイ(ミ)アオイ(ミレド)
6.ハイ、ハイ、ハイ(ド、レ、ミ)
7.ハイ、ハイ、ハイ、ラ、ラ(ソ、ファ、ミ、レ、ド)
8.アオイアオ(ソファミレド)
9.ハイ、ラオ、ララ(ミ、レ、ド)
10.ハイ、アオイ、ラララ(ミ、レ、ド)
、 次にピアノの音を一音聞いてから「ハイ」とシャウトしてみてください。音は、自分が
最も出しやすいところから、半音ずつ上げていきます。声がお腹から出なくなって、ヴ
ォリュームが一つ低い音よりもなくなったら、やめてください。今度は、半音ずつ下げ
ていきます。
次に「ハイ」を「アオイ」に変えてやってみてください。
(ナツメ社「ロックボーカル入門」)