(59)2010年(平成22年)9月15日 広島県医師会速報(第2095号) 昭和26年8月27日 第3種郵便物承認 花 柚 子 私は花柚子が好きだ。それもあざやかな黄色 ガエルが緑の顔だけ出して「ウオーン、ウオー の花柚子が好きだ。花柚子にはにきびのような ン」と低い声で鳴いていたりした。春先、蓮根 凹凸、弧の美しさを放つ凛としたみてくれ、流 を掘る季節になると、蓮池の水をきるのだが、 行にうとい、ごつごつした少年の日の感触があ この時、何十匹もの食用ガエルを捕らえること る。 ができる。皮をはいで肉を取ってしょうゆ焼き 放課後の寄り道、きゅうり畑の竹のてっぺん にすると、とてもおいしかった。時には解剖 のシオカラトンボ、山の麓の桜の古木にとまる セットの小箱を取り出し、肺のピンクになった 油ゼミ。みずみずしい葉の下に顔を出すさつま 膨らみを丁寧にピンセットで調べたりした。 いも、冷たい小川にきらきら光るフナの群れ、 近くの田んぼにいるイナゴは、からの一升瓶 両側の石垣の間に顔を出すうなぎ、少年時代の に入れて糞を出させ、乾かしたイナゴを油をひ 記憶は鮮明に脳裏に焼きついたままだ。 いたフライパンで炒、砂糖しょうゆで味付けし、 空き家の床の下の子猫を抱いて出る悪童、顔 こんがりと焼くとおいしく仕上がる。 いっぱい蜘蛛の巣をつけ黒く汚れた手、探検 バッタやセミを捕る時は、後ろから羽の付け ごっこで入った洞窟のひんやりした感触、肝だ 根、肩のところを掴む。セミは警戒心が強いか めしに向かった真夜中の墓場。えんこうが棲ん ら、少し難しい。トンボは後ろから、すばやく でいるという川の深み、立ち泳ぎをしながらす 前にしゃくる。飛んでいるハエも捕ることもで るトカゲのつかみ遊び、帰らぬ遠い少年時代。 きた。とまっているハエは場所にもよるけれど、 小学生であったある日、50匹のうなぎを手づ 後ろから飛び立つところをさっと捕る。そして かみで獲ったことがあった。あれは、かんかん 台かなにかにぶつけて脳震盪を起こさせ、気絶 照りが何日も続いた猛暑で、川に注ぐ水もすっ させる。おもむろに紙に包んで水死させる。生 かり無くなってしまっていた。小学校の帰り道 き返ったら逃げるから。 に、小川に架かっている橋の下を覗いて仰天し 学校で飼っていた鶏を潰して(殺して)食べ た。なんと直径1メートルばかりの浅い水溜り たことがある。おなかを開けると数珠つなぎに の中に真っ黒なうなぎのかたまりが、うじゃう 卵黄が並んでいて、金の卵を産む鶏を殺したら じゃと動いているじゃないか。すぐに家からバ 卵が取れなくなった話を思い出した。学校の温 ケツを持って来て、素手でうなぎを全部捕らえ、 室にメタセコイアの種を蒔いた時は、この木が 持ち帰っておふくろに喜ばれた。 何十メートルも伸びたらどうしようかと夜もね 私の住んでいたバラック小屋の裏は蓮池が むれないほど心配した。…少年時代の思い出は あって、夏は美しい蓮の花が咲き乱れていた。 果てしなく続く。 蓮の葉から漏れる日差しは水面にゆらゆら揺れ て、そこにはフナの群れが通り過ぎたり、食用 (碓井 静照)
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