データベース 登録 2010.9 シーズ名 癌悪液質(末期がん)における QOL 改善 氏名・所属 等 福田 武史、医学研究科・女性病態医学、講師 <概要> 1987 年、進行癌患者に認められる癌貧血は anemia-inducing substance (AIS)により生じることが報 告された。その後、AIS は貧血のみならず癌の進行にともなって認められる免疫不全にも関与してお り、癌悪液質における体重減少は、AIS により筋タンパク分解亢進および脂肪分解亢進が惹起され生 じることも判明した。そして、担癌個体血漿中の AIS を除去する目的で、反復血漿浄化療法に関する 研究が進められ、AIS を吸着・除去することで、癌の進行にともなって認められる体重減少・貧血・ 免疫不全が改善された。1994 年、担癌個体における体重減少のメカニズムを解明するため、全身電気 伝導度(total body electrical conductivity;TOBEC)を利用した家兎の非観血的体構成成分測定法 (TOBEC 法)が開発された。TOBEC 法を用いて、体構成成分の推移を検討したところ、担癌家兎におい て担癌初期に反復血漿浄化療法でも改善しない lean body mass および体脂肪の減少が観察された。こ れを形態学的に観察したところ、担癌初期にのみ骨格筋細胞および脂肪細胞でアポトーシスの発現が 認められた。これらのことから、担癌個体における体重減少は初期の骨格筋細胞および脂肪細胞のア ポトーシスと、後期の AIS による担癌個体の代謝異常が原因と考えられた。1999 年から、担癌初期に 認められるアポトーシスのメカニズムを解明するために、健常家兎・担癌家兎・食餌制限家兎(体重 減少が担癌家兎と同程度になるように制限)の 3 群に対して、Bax(アポトーシス誘導タンパク)と Bcl-2(アポトーシス抑制タンパク)の発現を免疫組織化学的に検討したところ、Bcl-2 の発現に差は 認められなかったが、Bax の発現は担癌初期の骨格筋細胞および脂肪細胞で有意に強く認められた。 このことから、担癌初期に認められる骨格筋細胞および脂肪細胞におけるアポトーシスには、Bax が 関与している可能性が示唆された。次にこのアポトーシスの異常は、肝・腎・肺・肝などの臓器でも 検討したところ、それらの臓器においてもアポトーシスが亢進しており、このことが癌悪液質におけ る多臓器不全の一因となっていることが示唆された。この癌悪液質におけるアポトーシスの異常に着 目し、今回の検討の着想に至った。 癌悪液質状態におけるアポトーシスの異常亢進状態が、化学療法剤、アポトーシス抑制物質を投与す ることによりどのように変化するかを検討し、化学療法剤の使用法などの工夫により、体重減少の抑 制、多臓器不全の進行抑制など、癌悪液質の予防および治療に寄与できることを明らかにし、その結 果として担癌個体の QOL の改善が期待できる。 Mechanism of Cancer Cachexia liver Kidney Bax Tumor ↓ AIS Host Apoptosis less osmotic resistance lipolysis proteolysis & deformability Inhibition of proliferation spleen adipocyte Lung ↓ multiple organ failure lymphocyte muscle cell body weight loss ↓ immunodeficiency RBC ↓ anemia <アピールポイント> 癌悪液質の病態は未だ不明瞭である点が多く、またこの分野の研究はあまり行われていない。この病 態を解明することにより、進行癌患者の QOL を向上させることができ、末期がんで治療法が無くなっ た際の緩和医療に新しい治療法を提示すことが可能となる。 <利用・用途・応用分野> 癌治療、緩和医療に利用できる。 キーワード 癌悪液質、緩和医療、多臓器不全
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