O-051 胸椎の彎曲の変化が腰仙椎のアライメントに与える影響

O-051
胸椎の彎曲の変化が腰仙椎のアライメントに与える影響
*大石 純子 1), 青木 一治 2), 上原 徹 1), 木村 新吾 1), 前野 圭吾 1), 山田 翔太 1), 山田 寛 1), 稲田 充 3)
1)NTT 西日本東海病院リハビリテーション科
2)名古屋学院大学リハビリテーション学部理学療法学科
3)NTT 西日本東海病院整形外科・脊椎脊髄センター
キーワード:脊柱アライメント, 腰痛, スパイナルマウス
【目的】
脊柱のアライメントに起因する腰痛の原因のひとつに,腰仙
椎部の過度な彎曲が挙げられる.本腰痛に対しては,腰仙椎部
の彎曲の是正が図られるが,アライメントの改善に抵抗する症
例も経験する.このような症例に対して我々は胸椎部の彎曲を
変化させることで,腰仙椎部のアライメントに影響し腰痛が軽
減した症例を多数経験している.今回,胸椎部の彎曲の変化が
腰仙椎部にどのように影響するのか,健常者を対象に検討した
ので報告する.
【対象・方法】
対象は本研究の趣旨を理解し,同意を得た健常成人 20 名で,
内訳は男性 9 名,女性 11 名,平均年齢 22.8±2.2 歳であった.
なお,対象は過去 3 ヵ月間腰痛のないものとした.
胸椎の彎曲を変化させる手技としては,mobilization を使用
した.方法は,腹臥位にて胸腰椎部がフラットになるように腹
部に枕を入れて調整し,胸部最突出部を中心に呼吸に合わせて,
手掌部で 60 回圧した.
脊柱アライメントの測定は立位で行い,Index 社製 Spinal
Mouse(以下,SM)を使用した.測定は胸椎の mobilization
前後に,立位,前屈位,後屈位で行い,胸椎後彎角(以下
TKA)
,腰椎前彎角(以下,LLA)
,仙骨傾斜角(以下,SIA)
を測定した.そして,立位と前屈位から前屈可動域を,立位と
後屈位から後屈可動域を算出した.立位を基本とした測定値は,
胸椎と腰椎の彎曲は後彎角を正,前彎角を負,仙骨傾斜角は前
傾を正,後傾を負とした.
統計学的分析には,郡内における各パラメーターの比較に
Wilcoxon の符号順位検定を用い,郡内での胸椎,腰椎,仙骨の
関係にはピアソンの相関係数を用いた.有意水準はともに 5%
未満とした.
【結果】
1.立位アライメントの変化
胸椎の mobilization により TKA は,42.1±8.4°から 35.3±
7.0°と有意な後彎の減少を得た(p<0.01).この胸椎の変化に
伴い LLA は‐31.7±7.4°から‐27.6±5.1°となり腰椎の前彎
は有意な減少を得た(p<0.01).SIA については,15.4±5.9°
から 15.2±4.5°と若干傾斜角の減少をみるも,有意な変化は
みられなかった.しかし,LLA の変化が 5°以上みられた 8 例
では,SIA は 17.3±6.1°から 15.0±4.7°と有意な減少がみら
れていた(p<0.05)
.
2.可動域の変化
胸椎の mobilization により前屈可動域は,胸椎部は 12.2±
9.8°から 20.7±8.7°と有意な増加をみた(p<0.01).また,
腰椎部は 78.9±12.7°から 76.2±11.8°と有意に減少していた
(p<0.05)
.後屈可動域についてみると,胸椎部は 1.7±10.7°
から 5.9±11.4°と有意な変化はみられなかったが,腰椎部で
は‐19.7±11.1°から‐25.1±10.0°と有意に増加していた
(p<0.05)
.
【考察】
今回の研究より,胸椎部の mobilization は腰仙椎部のアライ
メントに影響することが明らかとなった.胸椎部を柔軟にする
ことにより,腰椎の前彎は減少し,また腰椎の前彎の大きい者
では仙骨の傾斜角にも影響が出た.これは,腰仙椎部の過度な
彎曲を呈する様な患者には有効な治療法になり得ることが考え
られる.また,可動域についてみると前屈では胸椎部の可動域
の増加により腰椎部は減少し,後屈では腰椎部の増加をみた.
これは立位アライメントにおいて腰椎の前彎が減少したため,
見かけ上前屈可動域が減少し,後屈での増加に繋がったものと
考えられた.以上より腰仙椎部のアライメントは胸椎のアライ
メント及び可動性に大きく影響していることがわかった.胸椎
部は肋椎関節と胸郭の存在により安定しており,そのため不良
姿勢が継続されることにより,いわゆる猫背姿勢を呈するよう
になる.この様に胸椎の固定化が生じると患者自身で胸椎の生
理的後彎位の再獲得は困難となり,腰仙椎部の過度な彎曲に影
響し,腰痛発生の原因となることが考えられる.それ故,立位
で腰椎部の過度な前彎を呈している症例に対する胸椎部の
mobilization は,腰痛の改善に有用な方法であると考えられた.
【まとめ】
健常成人 20 名を対象に,胸椎部の彎曲の変化が腰仙椎のア
ライメントに与える影響について検討した.その結果,腰仙椎
部のアライメントは胸椎のアライメント及び可動性に大きく影
響していることがわかった.今回の研究の結果より,胸椎の
mobilization は立位で腰椎の過度な前彎を呈している症例に対
して有用な治療法となることが考えられた.
本研究は,2011 年度名古屋学院大学研究奨励金による研究成
果である.