EDI資料室 2. EDIの実際と問題点 これでEDIの目的や概念、基本的な仕組みについては、理解していただけたと思います。そこで次に、EDIが実際にどのような形で実施されているかについて、また現 実のEDIが直面している問題点について、業界ごとの特徴や今後の技術的なトレンドなどを交えながらご説明いたします。 2-1. 業界毎に異なるEDI標準規格全銀・JCA・CII・EDIFACT… EDIの標準化の考え方からすると、「データ通信もデータ形式も、それぞれただ一つの標準規格がある」という状態がEDIの理想かもしれません。しかし実際には、EDI の標準規格は、業種や業界ごとに複数存在します。これはEDIが、それぞれの業界の商品やサービスが持つ特性や商習慣、取引形態などの違いに応じて、様々な形 で発展してきたことによります。 現在、日本で行われているEDIの全体像は、大まかに金融業・流通業・製造業の3種類の系統に分けると、とらえ易いでしょう。 金融業 まず銀行などの金融業におけるEDIについてです。銀行と企業との間をオンラインで接続し、各種の照会や振込みなどの業務を行う「ファームバンキング」のサービス が、広く利用されています。 企業と銀行間でデータ交換を行う際の標準規約は、全銀協(全国銀行協会)が定めています。データ通信には「全銀協手順通信プロトコル」や「全銀協TCP/IP手順 通信プロトコル」が利用されており、データ形式は「全銀フォーマット」と呼ばれる固定長のデータが利用されています。 なお全銀手順・全銀TCP/IP手順は、金融機関以外の産業界におけるEDIにも広く利用されています。また1997年には、特に産業界向けに、最大レコード長を2KBか ら32KBに拡張した「拡張Z手順」も制定されています。 流通業 流通業は、日本では最も早くからEDIの普及が進んでいる業界の一つです。 POSシステムや統一伝票(ターンアラウンド伝票)などを利用したEOS(Electric Ordering System)、オンライン受発注システムは、スーパーやコンビニその他、全国 のチェーンストアで実施されてきました。その他にも百貨店や量販店、ホームセンター、各種専門店などで活発に利用されています。 これら流通EOSには、日本チェーンストア協会が制定した「JCA手順(J-手順)」が利用されてきました。データ形式に関しては、いわゆる「JCAフォーマット」と呼ばれ る半角英数文字の固定長フォーマットが利用されてきました。 これらJCAフォーマットには、データの1項目として「自由使用欄」が設けられており、この部分は個々の企業ごと独自の形式で使用されている場合があります。その場 合、この自由使用欄のデータ形式へは個別の対応が必要になります。また、JCA以外の固定長独自形式のフォーマットが使用されているケースも、まだまだ多いよう です。 しかしこれらの固定長のデータ形式では、利用できるデータ項目を増やしたり、EDIの実施業務を増やしたりすることが困難です。また各社のフォーマットに個別対応 する必要があるため、システムのメンテナンス性も悪いものでした。 これらの非効率を解消する新しい流通標準EDIとして普及が進んでいるのが『JEDICOS(ジェディコス)』です。 新流通標準EDI『JEDICOS』では、大量のEDIデータを高速な一括伝送や、漢字データなどの使用も可能になった新しい通信手順である「JCA-H手順」と、より広範な 取引業務を実施できる標準メッセージである「JEDICOSメッセージ」を制定しています。 製造業 製造業におけるEDIは、1989年に(社)日本電子機械工業会(EIAJ)が、同業界向け標準メッセージとして「EIAJ標準」を制定したことから、急速に普及しました。そしてこ の「EIAJ標準」をベースに、さらに多くの業界での標準EDIの実現を目指し、電子商取引推進センター(旧CII -産業情報化推進センター)が制定したのが「CII標準」で す。このCII標準は、家電その他の電機機器業界や自動車業界、コンピュータ、石油化学、建築、建設、鉄鋼、電力など、様々な業界で、広く利用されており、国内標準 EDIとも呼ばれています。通信手順については、全銀手順、全銀TCP/IP手順を使用するのが一般的です。 国際標準EDIであるEDIFACTも広く利用されています。半導体メーカーによる国内外を通したEDIや、自動車メーカーと部品メーカーとのEDIにも採用されるなど、今後 も製造EDIの国際化はさらに活発化するでしょう。 EDI資料室 2. EDIの実際と問題点 2-2. EDIの技術動向 VAN型・Web型・XML-EDI 次に、これら多種多様なEDIシステムの技術面の動向についてご紹介いたします。現在一般的に広く利用されているEDIシステムから、今後普及が見こまれている最 新のトレンドまでを、概観しておきましょう。 VAN型 EDI VAN型EDIとは、EDI普及の初期の頃から一般的に利用され、最も標準化の進んだEDIとして現在も広く利用されているタイプのEDIです。 具体的には、全銀手順、JCA手順などの標準的な通信手順と、CIIやEDIFACTといった標準メッセージを利用したEDIで、これら従来型のEDIがVANセンターを介して実 施されることが多かったためにVAN型EDIと呼ばれています。VANとは、EDI用の通信回線網の提供や各企業へのEDIデータの振り分け・変換サービスなどを提供して きたネットワークサービスのことです。 また、VAN型EDIでは、バッチプログラムによりシステムを自動化する運用が一般的なため、バッチ型EDIなどとも呼ばれています。 Web型 EDI インターネットの通信環境を利用したEDIです。Web型EDIの場合、取引先企業にはWebブラウザやE-Mailなど、インターネットに接続できる環境さえあればEDIを実施で きるという点が最大の特徴です。 これまでのVAN型EDIの場合に必要だった通信ソフトなどを用意する必要がないため、取引量の少ない多数の企業とのEDIを、それらの取引先に費用的な負担をかけ させずに導入できるというメリットがあります。また、通信コストの削減効果なども期待できます。 反面、Webブラウザを使用するためEDI業務の自動化ができず、「毎回、人がWebブラウザを操作してデータを入力したり、データをダウンロードしたりしなければならな い」といったデメリットがあります。また、各社が手軽に新規のEDIシステムを構築できてしまうことが災いして、「”標準化”の概念を無視した新たな独自のデータフォー マットが考えなしに増やされてしまう」といったデメリットもあります。 この場合、小規模の取引先企業にとっては、Web型EDIを行う取引先が増えるに応じて、より多くの手間や時間が取られることになります。また、各社独自のデータ形 式に対応するために、自社のシステム変更や変換プログラムの作成を強いられるケースが多いようです。標準メッセージを使用するなどして、この問題をクリアしなけ れば、EDI標準化以前の変換地獄と呼ばれた状況に逆戻りしてしまう危険もあります。 XML-EDI HTMLベースのWeb型EDIの問題点を、一気に解消できる次世代の技術として、XMLが注目を集めています。 XMLとは、eXtensible Markup Language(拡張可能なマークアップ言語)の略で、「個々のデータに特定の意味を持たせた属性をつけて、格納したり利用したりすること ができる」という特徴があります。XML形式で文書を作成すれば、コンピュータがデータの意味や種類を読み取ることができるため、HTMLベースのWeb型EDIでは実現 できなかった取引の自動化が可能になります。またXML文書は、文書構造の変換などが非常に簡単にできますので、XMLでデータを記述すれば、異なる企業や異な るシステムの間でのデータ交換がとてもやり易くなるのです。 これらのXMLの利便性を生かし、より広範で運用性の高いEDIを目指すのがXML-EDIです。XML-EDIの主な規格としては、RosettaNet(ロゼッタネット)やebXMLなど があります。 EDI資料室 2. EDIの実際と問題点 2-3. 最適なEDIシステムの構築に向けて これまで見てきましたように、EDI化する業務の内容、取引量や頻度、また、EDIを実施する企業が属する業界や取引先との関係、商習慣などの要素によって、その目 的も形態も様々です。それらのEDI取引を実現するためのEDIシステムもまた、(EDIの標準規格をできる限り利用しながらも)各社にとって最適なものを構築する必要 があります。これは貴社にとっても同様でしょう。 一からプログラムを開発することもできると思いますが、それにかかる開発費用や期間を考えれば、パッケージソフトなどを利用しながらシステムを構築するのが現実 的でしょう。EDIシステムを構築するための製品やソリューションサービスには、数百万~数千万円するような大規模EDIサーバー向けのものから、一本数万円のパソ コン向け通信ソフトまで、機能的にも価格的にも、実に多種多様なものが存在します。 これら多種多様なEDI製品の中から、貴社のEDIシステムにとって最適な製品を取捨選択しなければなりません。そのためにはまず、貴社にとってのEDIの目的を明確 にする必要があります。その上で、「いかに安定的で運用しやすく、無駄のないEDIシステムを構築するか?」を考えると良いでしょう。 そしてこれらの前提条件を踏まえつつ、各製品の使い勝手や過去の稼動・接続実績、導入時や運用開始後のサポート体制、価格といったポイントを見比べながら選 択されることをお勧めします。「貴社のEDI導入の目的に見合った製品を選択するための確かな判断基準を持つこと」が、まず何より重要です。
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