第3章 - 一般社団法人 社会的包摂サポートセンター

第 1 節 女性専門ライン全国の集計結果
A 相談者属性 / B 相談内容 / C 状態 / D 相談履歴 / E 加害者情報
/ F 子どもに対する暴力
第 2 節 被災地の集計結果
A 相談者属性 / B 相談内容 / C状態 第 3 節 相談内容の特徴と課題
Ⅰ 相談内容の特徴
(1)相談の概況
(2)女性に対する暴力の様相
Ⅱ 類型別にみた相談内容
(1) 10 代女性をめぐる状況
(2)交際相手による「女性への暴力」
(20 歳以上)
(3)夫等からの暴力
(4)家族・親族からの虐待/暴力
(5)職場等における女性に対する暴力
(6)被災地の困難状況
Ⅲ 今後の課題
(1)政府・自治体による検証の実施
(2)緊急ケースへの対応策・機関連携の強化と DV 罪の創設
(3)女性の精神保健上の課題への対応
(4)労働の場における暴力防止への取り組み
(5)女性蔑視・女性への差別意識の克服
女性専門ライン
第3章
第3章 女性専門ライン
第 1 節 女性専門ライン全国の集計結果
集計手続きの概要
1. 対象期間:平成 26 年 4 月 1 日〜 11 月 30 日
2. 対象エリア:全国(岩手県、宮城県、福島県の3県を除く)
3. 条件:11,709 件中、性別不明、年代不明を抜き取ったうえ、ランダム 1000 件抽出したうち女性 992件。
第3章
女性専門ライン(全国)の相談表集計から相談者の属性、相談内容のなかで特徴的であったものについ
て記載した。
女性専門ライン
※全集計結果については http://279338.jp/houkoku/ を参照。
A:相談者属性
●年代
相談者の年代(年齢階層)は、
「40 代」が最も多く 32.2%、
「30 代」25.1%、
「50 代」16.6%、
「20 代」15.9%と続く。年代別に就労状況をみると、いずれの年齢階層でも就労者(仕事があり)よりも
非就労者 ( 仕事なし ) の方が多い。就労者の比率が最も高いのが 20 代で 44.2%、ついで 40 代が 37.4%、
30 代が 35.0%である。
●同居者
「同居者がいる」者が 59.3%。
「家族と同居」が 81.5%である。また、仕事の有無別に同居者の状況をみると、
「仕事なし」の場合、
「同居者がいる」者は 64.2%であるのに対し、
「仕事あり」の場合には「同居者がいる」
者は 53.8%と若干低い。
●相談できる人 約 4 割がなんらかの相談相手がいることが把握された。
「友人」が最も多く 35.6%、
「その他」31.1%、
「家
族」20.8%と続く。
「パートナー」は 3.8%、
「職場の人」は 1.2%と僅かである。
「その他」が一定数あるのは、
DV・性暴力等の相談では身近な人を避ける傾向があるためと推察される。
「その他」の内訳は、弁護士、カ
ウンセラー、医師、ケースワーカー等であった。
仕事ありの者・仕事なしの者の双方ともが「友人」をあげる者が最も多いものの、
「仕事あり」では 48.1%
であるのに対し「仕事なし」の者は 33.5%であり、仕事がある者のほうが相談できる友人が若干多い傾向が
うかがえる。
●就労状況
現在の就労状況をみると、
「仕事あり」が 30.7%、
「仕事なし」が 57.8%である
(情報なし 11.5%)。
「仕事あり」
と把握された者の
「就労形態」は、
「パート・アルバイト」が最も多く41.6%、
「正規」は 21.3%にとどまっている。
また、非正規労働の合計は、約半数(49.2%)を占めている。
100
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
●収入
「収入あり」は 71.9%、
「収入なし」が 11.5%である(情報なし:16.6%)。生活保護を受給している人が
3 割弱を占めており、DV・性暴力と経済困窮との関連が示唆される。
相談者総数のうち、
「家計に問題なし」と把握されたのは 32.7%、
「問題あり」は 24.3%であった(情報なし:
43.0%)。そこで、
「家計に問題がある」241 人について、その状況をみると「収入が低い」が 40.2%と多い。
第3章
ついで
「その他」19.5%、
「収入が不安定」14.9%、
「やりくりができない」11.2%、
「支出が多い」10.0%等となっ
ている。このうち、
「仕事があり」かつ「家計に問題がある」と把握された 88 人をとり出して見たものによると、
女性専門ライン
「収入が低い」に該当する者が 54.5%と半数を超えており、たとえ仕事をしていても十分な収入が得られて
いない状況にある女性が多いことがわかる。
●疾病
「疾病がある」と把握された者が 38.4%いる。疾病の有無の情報がない者が 47.4%いるので、実際には
これより多く疾病がある者がいると推察される。情報なしの者を除き就労状況別にみると、仕事がない者の
うち、80.7%は疾病があることが把握された。疾病ゆえに働くことができない状況があることがわかる。一方、
仕事をしている者でも、23.2%が「疾病がある」状況である。
●自殺念慮
「自殺念慮」について語られた者は 11.6% (115 人 ) であり、約 9 人に 1 人にあたる(情報なし:70.1%)。
115 人について、それがどの時期であるのかを把握すると「現在」ある者が 47.8% (55 人 )、
「過去にあっ
た」者が 39.1%(45 人)である(情報なし 13.9%)。
B 相談内容
「心と体の悩み」62.3%、
「家庭の問題」55.6%、
「DV」53.9%の相談が多く、いずれも 5 割を超えている。
平成 25年度と比較すると、平成 26 年度は「心と体の悩み」の比率が 44.0%から 62.3%に増えている点に
特徴がある。また、
「心と体の悩み」のうち「深刻」である者の比率が顕著に増えている(8.6%→ 25.5%)。
ついで、
「人間関係の悩み」30.5%、
「性的な暴力・ハラスメント」21.3%、
「暮らしやお金の悩み」15.3%、
「被
虐待」14.7%、
「法的・行政関係の悩み」12.1%、
「支援者・支援機関との関係」11.2%、
「仕事の悩み」
10.6%等となっている。
C:状態 「人との関わりの度合いや社会との接点」をみると、
「関わりが狭い・トラブルがある」が 12.0%、
「関わ
りがない・トラブルが多い」が 2.5%である。相談電話が必要とされる背景に、社会的孤立状況に追い込ま
れている者が一定数いる現状があることが把握される。
「病気や疾病」が「1 つあり重い・複数で重い・複数で重度」の者が合わせて 9.9%、
「精神的状況(通院
や服薬等を踏まえた病状)」が「病状が重く辛い・非常に重くかなり辛い」者が合わせて 11.1%おり、相談
第3章
101
第3章 女性専門ライン
者の約 10 人に 1 人が心身の不調や疾病が重い状況にあることも把握された。
では、相談者の生活状態については、DV・性暴力等の影響によって、睡眠や食事といった生活の基本的
営み、仕事・学校などの社会的営み、家事・育児などのケア役割など多方面にわたり影響がもたらされてい
る相談者の状況がうかがえる。
D:相談履歴
第3章
女性ラインの相談者は、過去に「相談の経験がある者」が 64.1%おり、6 割以上がなんらかの相談履
歴がある(情報なし:27.9%)。
「病院」が最も多く、なかでも精神科系の病院が約半数を占めている点は、
女性専門ライン
DV・性暴力の影響を端的に示している数値である。身体的な疾患にり病院につながっている者もいる。つ
いで、警察・福祉事務所・市町村自治体の窓口・男女共同参画センターなどが続く。
女性ラインの相談者には関連の深い「男女共同参画センター」
「配偶者暴力相談支援センター」への相談
経験はいずれ 10%未満と低く、このような数値をどう解釈するか、検討を要する。
E:加害者情報
加害者が誰であるかをみると、
「夫」が最も多く55.8%である。
「元夫」
「内縁の夫」もそれぞれ 2.4%である。
「交際相手」は 13.7%、
「元交際相手」も 1.3%いる。
F:子どもに対する暴力
「夫からの暴力」がある相談者のうち、子どもに対する被害が把握された件数は、84 件である。その内
訳をみると、
「精神的暴力」57.1%、
「身体的暴力」23.8%、
「性的暴力」7.1%となっている。
102
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
第 2 節 被災地の集計結果
集計手続きの概要
1. 対象期間:平成 26 年 4 月 1 日〜 11 月 30 日
2. 対象エリア:岩手県、宮城県、福島県の3県
3. 条件:4,171 件中、性別不明、年代不明を抜き取ったうえ、ランダム1,000 件抽出したうち女性997 件。
第3章
女性専門ライン
(被災地)の相談表集計から相談者の属性、相談内容のなかで全国と比して特徴的であっ
たものについて記載した。
女性専門ライン
A: 相談者属性
●年代
全国では 20 代が 15.9%であるのに対し、
被災地では 4.4%である。また、
「60 代」11.8%(全国は 5.0%)、
「70 代以上」3.0%(全国は 1.0%)であり、年齢が高い層も全国版よりも高くなっている。
年代別に就労状況をみると、全国ライン(女性)の「20 代の仕事あり」が 44.2%であるのに対し、被災
地は 64.3%と高くなっている。また、
「50 代の仕事あり」が全国版では 28.7%であるのに対し被災地では
43.2%と高い。それに対し、
「40 代の仕事あり」は全国ライン(女性)では 37.4%であるのに対し、被災地
は 27.2%と低くなっている。
●疾病
「疾病がある」と把握された者が 49.5%いる。就労状況別にみると、仕事がない者のうち、57.7%は疾病
があることが把握された。
「情報なし」を除くと、仕事がない者のうち 86.4%に疾病がある。全国ラインで
は 80.7%であるため、被災地のほうが若干高い。
一方、仕事をしている者でも、38.4%が
「疾病がある」状況である。これを「情報なし」を除いた数値でみると、
仕事をしている者のうち 66.7%に
「疾病がある」ことになる。これは、全国 53.2%とより高い数値になっている。
被災地では、疾病があっても働かねばならない状況があると推察される。
B:相談内容
全国との違いがある点が「仕事の悩み」の比率である。全国では 10.6%であるのに対し、被災地では
24.8%と約 2.5 倍の高さになっている。
次に、詳細分類項目から上位 20 項目の内容をみると、全国ライン(女性)では「DV・本人・精神的・
モラルハラスメント」が最も多いのに対し、被災地では「心と体の悩み・本人・精神的な病気」が最も高く
43.4%である。ついで、
「DV・本人・精神的・モラルハラスメント」が 37.9%、
「心や体の違和感」32.2%、
「家
族との不和」30.2%と続く。
暴力関連事項を取りあげてみると、DV では、
「精神的・モラルハラスメント」37.9%、
「身体的」17.5%、
「経
済的」11.8%、などがみられた。
第3章
103
第3章 女性専門ライン
C:状態
全国と比較して特徴的な点は、
「精神的状況(通院や服薬などを踏まえた病状)」において状況が重い者
の比率が高い点である。
「病状が重く辛い・非常に重くかなり辛い」者が合わせて 17.9%(全国 11.1%)おり、
相談者の約 6 人に 1 人が精神的な不調や疾病が重い状況にあることが把握された。
第3章
では、相談者の生活状態についてどの程度の支障があるのか、
「時々あり」から「常に強く支障あり」まで、
なんらかの支障がある者の割合をみると次のような傾向が把握された。
「睡眠」に支障がある者は合わせて
女性専門ライン
34.4%、
「生活リズム」に支障がある者が 22.5%、
「食事」に支障がある者が 22.3%、
「余暇・楽しみ」
「仕事・
学校・活動」に支障がある者がそれぞれ 20.3%、
「家事・育児・介護」に支障がある者が 19.7%、等となっ
ている。全国と比較すると順位が異なっているが、その理由は「精神的状況」に関する状況の差異にあると
推察される。
104
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
第 3 節 相談内容の特徴と課題
Ⅰ 相談内容の特徴
第3章
(1)相談の概況
女性専門ラインの特徴は、暴力被害に関する相談が圧倒的に多い点にあり、被害を受けた時期は幼少期
女性専門ライン
から高齢期にまで及んでいる。暴力が出現する場は、家庭、学校、職場から、地域社会まで多様である。
その発現形態は、ドメスティック・バイオレンス、性暴力、セクシュアルハラスメント、モラルハラスメント、
ストーカーなど多様であり、暴力の態様は、身体的暴力・精神的暴力・性的暴力・経済的暴力などが重複し
ている。
更に重要な点は、1 人の人生の軸でみると、子ども期には成育家族や学校/地域社会などにおいて被虐
待/被暴力体験がありながら、成人期には結婚生活において暴力を体験するなど、人生におけるたび重なる
被害体験がある場合が少なくなく、暴力が女性の人生を破壊しているともいえる深刻な様相を呈している点
である。
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」が 2001 年に公布されてから 15 年目に入っ
たなか、女性ラインの相談からは、女性に対する暴力は一向に減少しないばかりか、より深刻化している現
実がみてとれる。また、性の商品化のより一層の低年齢化と一般化、手段・方法の悪質化と相俟って、見知
らぬ者による性暴力のみならず、交際相手との関係性のなかにも暴力的な性が蔓延している実態もある。
また、女性の不安定かつ脆弱な生活基盤の様相も、相談のなかから浮上している。就労している女性は
全国ラインで 30.7%、被災地ラインで 30.3%と低く、就労者に占める正規雇用の割合は 21.3%(全国)、
15.6%(被災地)と僅かである。言い換えれば、不安定雇用に置かれた女性からの相談が多く、また、仕
事に就いていない/就けない状況にある女性からの相談が多く入っている。留意すべきは、たとえ就労収入
のある夫と同居していても、経済的暴力によって生活費を渡されず、女性本人が困窮状況に置かれるケース
も少なくない事実である。
まさに生存権そのものが幾重にも脅かされている日常を、孤立しながらもなんとか生き延びている女性た
ちにとって、女性ラインの相談電話は命綱となっている。
(2)女性に対する暴力の様相
ホットラインには、現在進行中の暴力等についての相談から、過去に体験した暴力被害に関する相談まで、
時間軸からみても様々な相談が寄せられている。過去の被害体験は、2 ~ 3 年前や数年前のものから、自
分の幼少期まで遡るものもあり、被害の持続的影響が明白である。
図表 1・図表 2 は、女性ラインの相談から 1,000 件を抽出し、誰からの暴力を受けたかを延べ件数で把
握したものである。1 人の女性において、複数から暴力を受けている場合もあるため、延べ件数で把握して
いる。その結果をみると、現在進行中の暴力については、591 件の加害者がいる。
「見知らぬ者」は 0.8%
とごく僅かであり、大半が身近な者による暴力である。その内訳は「夫・元夫」が 44.3%、ついで「交際相
手・元交際相手」が 14.7%である。家族・親族による暴力は、
「親」
「兄弟姉妹」
「親族」
「子ども」を合わ
第3章
105
第3章 女性専門ライン
せると 122 件あり、約 2 割に及んでいる。職場関係者による暴力は 4.6%あり、
「上司」
「同僚」
「部下」
「客」
など様々な立場の者が加害者となっている。また、支援者関係が 3.7%あり、その内訳は「教師」
「医師」
「警
察」
「役所職員」
「弁護士」
「検事」
「宗教関係者」
「その他支援者」など多様である(図表 1)。
図表 1:相談時に現在進行中の暴力の加害者
現在の暴力のあった人の加害者(N=591)
第3章
夫・元夫・内縁夫
交際相手・元交際相手
両親(親・両親・義父母)
女性専門ライン
兄弟姉妹(兄弟・兄・姉・妹・弟・義姉・義弟・義兄)
職場関係者(上司・職場関係・同僚・部下・客)
支援者関係(教師・医師・警察・支援者・市職員・宗教関係者・弁護士・検事・セールスマン)
知り合い(知り合い・友人)
不明
0
20
見知らぬ人
40
60
44.3
14.7
夫・元夫・内縁夫
加害者
支援者関係
知り合い
見知らぬ人
不明
述べ件数
交際相手・
元交際相手
子ども(息子・娘・実子)
(単位:%)
100
80
両親
夫
交際相手
両親
父親
母親
その他の親類
兄弟姉妹
子ども
職場関係者
母親(母・義母)
父親(実父・父・義父)
その他の親類(いとこ・舅・舅・祖父・姪・親戚・夫の家族)
5.9
その他
母親 の親類
3.7
父親
内訳
夫・元夫・内縁夫
交際相手・元交際相手
親・両親・義父母
実父・父・義父
母・義母
いとこ・舅・舅・祖父・姪・親戚・夫の家族
兄弟・兄・姉・妹・弟・義姉・義弟・義兄
息子・娘・実子
上司・職場関係・同僚・部下・客
教師・医師・警察・支援者・市職員・宗教関係者・弁護士・検事・
セールスマン
知り合い・友人
見知らぬ人
知り合い
子ども
4.9
4.6
3.7
8.0
兄弟姉妹
支援者関係
職場関係者
不明
3.2
見知らぬ人
件数
構成比(N=424)
262
87
8
35
22
11
29
17
27
44.3%
14.7%
1.4%
5.9%
3.7%
1.9%
4.9%
2.9%
4.6%
22
3.7%
47
5
19
591
8.0%
0.8%
3.2%
100.0%
図表 2 は、過去に体験した暴力の加害者をみたものである。1,000 件の相談中、過去に体験した暴力の
加害者が把握された件数は 424 件にも及んでいる。やはり、
「見知らぬ者」は 2.8%と少なく、大半が身近
な者による暴力である。
「夫・元夫」が 33.5%、
「交際相手・元交際相手」が 9.9%のほか、家族・親族が
加害者であるケースは計 154 件あり、36.3%にも及ぶ。現在進行形の暴力よりも、過去に体験した暴力に
関する相談のほうが、家族や親族に関係しているものが多いことがわかる。言い換えれば、子ども期・若者
期の被害体験が、成人期以降においても持続的に女性の人生に影響を及ぼしているということである。その
ほか、職場関係者が 2.1%、支援者関係が 1.9%、知り合い・友人が 6.4%であり、ストーカー被害も散見さ
れる。
「私の人生を返してほしい」…子ども期の性暴力によって成人した現在でも外出がままならないある女性は、
相談電話のなかでこう訴えている。高校生の時に教師から性暴力を受けた女性は、20 年経ってもフラッシュ
バックに苛まれているという。性暴力は、まさに “人生そのものを奪う暴力 ” である。また、
「年月も経過し
106
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
ているが、男性が自分を性的にしか見てくれない気がする。性行為を無理にしなくてはならないのかと思う
と辛くなる」という性暴力被害女性の声もあり、セクシュアリティをめぐる尊厳や自己決定が脅かされる社会
状況も浮かび上がっている。
図表 2:過去に体験した暴力の加害者
夫・元夫
交際相手・元交際相手
その他の親類(おじ・姑・小姑・親戚・姉家族)
0
父親(実父・父親・義父)
兄弟姉妹(兄・実兄・姉・兄弟・弟)
子ども(息子・娘)
知り合い(知り合い・友人)
20
見知らぬ人
40
母親(実母・母親・義母)
職場関係者(上司・職場関係・同僚・娘の上司・採用面接官)
不明
60
夫・元夫
加害者
夫
交際相手
両親
父親
母親
その他の親類
兄弟姉妹
子ども
職場関係者
支援者関係
知り合い
見知らぬ人
不明
述べ件数
9.9
交際相手・
元交際相手
10.6
両親
15.6
父親
内訳
夫・元夫
交際相手・元交際相手
親・両親・家族・養父母・義父母
実父・父親・義父
実母・母親・義母
おじ・姑・小姑・親戚・姉家族
兄・実兄・姉・兄弟・弟
息子・娘
上司・職場関係・同僚・娘の上司・採用面接官
教師・医者・看護師・支援者・相談員
知り合い・友人
見知らぬ人
(単位:%)
100
80
その他
の親類
33.5
女性専門ライン
支援者関係(教師・医者・看護師・支援者・相談員)
両親(親・両親・家族・養父母・義父母)
第3章
過去の暴力のあった人の加害者(N=424)
3.5
母親
3.8
子ども
知り合い
6.4
兄弟姉妹 支援者関係
職場関係者
2.8
不明
7.1
見知らぬ人
件数
構成比(N=424)
142
42
45
66
15
8
16
4
9
8
27
12
30
424
33.5%
9.9%
10.6%
15.6%
3.5%
1.9%
3.8%
0.9%
2.1%
1.9%
6.4%
2.8%
7.1%
100.0%
更に、子ども期に虐待/暴力被害を重複して受け、成人以降にも暴力に遭遇するという、まさに “ 暴力の
連続体 ” とも言える人生を送る女性もいる。たとえば、子ども期には親から虐待を受けて育ち、学校でもい
じめに遭い、就職した職場ではパワーハラスメントに遭遇し退職を余儀なくされる。親から逃れるために結
婚したものの、結婚した途端に夫の態度が変わり、
「何もできない。役に立たない」と毎日人格を否定され
る暮らしを余儀なくされているという場合がある。なかには、子ども期の暴力やいじめ被害によって、高校
生の時期に統合失調症と診断された女性が、結婚後には夫に何を言われるかわからない不安から通院に行
けないといった状況もみられる。また、子ども期の “ 暴力の複合体 ” とも言える経験も女性を生涯にわたり苦
しめている。両親や姉妹からは身体的暴力を、兄からは性暴力を余儀なくされた女性は、60 歳を超えても
なお、過去の被害に苦しめられているという。
図 3 は、過去に暴力被害を受けた有無をみたものである。
1,000 件のうち、過去の暴力被害があったものは 47.9%となった。現在のみの被害は 52.1%となり、重
複した被害を受けたものは 12.4%となっている。16.0%の被害体験の無いものの内容は、自分の相談では
なく親族等の被害を相談しているものが主である。
第3章
107
第3章 女性専門ライン
女性専門ラインに電話した相談者の 10 人に 1 人は過去にも現在も暴力被害を受けていたことになる。
図3
0
20
40
60
100(%)
80
現在暴力はないが、過去にはある
438 件 ; 52.1%
104 件 ; 12.4%
第3章
現在暴力はあるが、過去にはない
298 件 ; 35.5%
現在暴力があり、過去にもある
そこで、過去に暴力を受けたことがわかっている相談者 402 件の年齢構成を見てみた。表 4 の通り 40
女性専門ライン
代が一番多い。40 代以上で 6 割となる。これは、過去の被害が長く女性たちを苦しめていることを示して
いる。相談内容を詳細に見ていくと、過去の暴力を受けた時期がわかるものが 204 件あった。表 5 は 204
件の年齢構成を示すものだが、402 件とほぼ同様の分布となっている。
表 4 年代
有効
表 5【過去】あり時期の記入有の年代
年代
度数
パーセント
年代
度数
%
10
6
1.5
10
1
0.5
20
52
12.9
20
36
17.6
30
102
25.4
30
49
24.0
40
143
35.6
40
73
35.8
50
78
19.4
50
35
17.2
60
20
5.0
60
10
4.9
70
1
0.2
合計
204
100.0
合計
402
100.0
過去の被害を悩んでいる期間を分析したのが表 6 と表 7 である。
過去の暴力を受けた時期がわかる 204 件の悩んできた年数を、過去において暴力が終わった時期-現在
の年代としている。204 件は平均すると約 15 年悩みが続いていることがわかる。
※暴力を受けた時期に「数年前」と記入がある場合は、5 年とした
表6
年数
不明
(年)
1
2
3
4
5
6
8
10
12
15
20
30
40
50
合計
件数
14
(件)
17
3
1
1
44
2
2
39
1
2
37
24
12
5
204
(不明
平均年数
抜き)
190
15.2
さらに、204 件中、
「小学生から」、
「幼い時」など未成年の時期に暴力を受けたという記載があるものは
81 件あり、そこだけを抽出してみると、平均約 25 年間悩み続けていることがわかる。
表7
108
社会的包摂サポートセンター
年数(年)
5
10
20
30
40
50 合計 平均年数
件数(件)
1
17
28
19
11
5
81
24.6
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
このような暴力等による被害経験は、女性や子どもの心身に甚大かつ持続的な影響を及ぼすゆえに、女
性ラインでは「心と体の悩み」の相談割合も高い。骨折する、耳が聴こえなくなるなどの身体への直接的な
影響のほか、人との関わりがうまくいかない、夜が怖いといった生活そのものへの支障、PTSD、うつ、不
安障がい、アルコール依存症など様々な症状から精神科やカウンセリングに通院している場合が多くみられ
る。また、
「何度死のうと思ったかわからない」と自殺未遂を繰り返す女性や、
「子どもを殺して自分も死のう
と思った」という女性、夫から「一緒に死のう」
「飛び降りて死ね」と要求されるなど、事件化する寸前と思
第3章
われる死と隣合せの状況まで追い込まれているケースもみられている。
そこで、以下では、相談からみえる女性たちが抱える諸困難について、個人が特定されないように留意し
女性専門ライン
たうえで、傾向をみていく。掲載している事例は守秘義務の観点から加工を施している。
Ⅱ 類型別にみた相談内容
(1) 10 代 女 性 を め ぐ る 状 況
◆ 10 代の相談者は全国で 4.1%、被災地 1.3%と少ないものの、相談内容には女性特有の悩みも多く、
女性が安心して相談できるよりそいホットラインの必要性が確認される。特に、性的な関係におけ
る相談が多くみられ、年上の男性や 10 代の彼との交際において、性行為ばかり求められることに関
する悩みが一定数寄せられている。付き合ってすぐに性行為を要求してくることへの忌避感、「身体
だけが目的なのか」と思ってしまうという葛藤、避妊をしてくれないが怖くて言いだせないという
悩みなど、女性が性的存在とみなされることへの抵抗感がみてとれる。なかには特殊な性行為ばか
りを強要してくるが、断るとナイフで脅されるなど、アダルトビデオの影響ともとれる女性の被害
状況がある。また、暴力的な性行為の結果、妊娠し、流産に至っても、身近な大人には誰にも相談
できず、よりそいホットラインに SOS を求めてくるケースもある。
◆また、登下校中の性暴力被害(小学校期を含む)、父や祖父からのレイプのほか、高校の先生による
執拗な交際の要求と性被害もみられた。なかには、事例にあるように、小学校から高校までの期間、
近所の男性から継続して性被害に遭っているケースもある。それにも関わらず、就職先でもセクハ
ラに遭い、「複雑性 PTSD」と診断され、外出もほとんどできない状況に追い込まれている状況は、
生存権の侵害と言える被害であろう。
◆更に、居場所喪失と暴力の交錯状況にある 10 代女性の状況に目を向ける必要がある。例えば、事例
のように交際相手と同棲している場合、成育家族に DV や性虐待があったために家に居場所がなく、
やむなく避難場所として同棲している場合がある。相談できる大人が得られないなか、危険な家か
ら逃れて安全な住処を求めたはずが、同棲相手からの暴力にも苛まれ、精神を病みながらも袋小路
状態に追い込まれている 10 代女性の存在は、なかなか社会に可視化されていない。
◆ひとり親家庭の子どもが、父親と一緒にお風呂に入ることを強要され、断ると暴力を受ける、母親の
交際相手から暴力を受ける、などの状況に置かれている場合もみられた。10 代で結婚している女性
からの相談では、夫の深刻な暴力被害があった。性の商品化の進行によって性被害の低年齢化が指
摘されて久しいが、女性ラインの相談のなかにもそのような傾向が顕著に表れている。10 代の女性
第3章
109
第3章 女性専門ライン
では、希死念慮やリストカットについて語られるのも特徴である。
◆このような厳しい状況に置かれた 10 代女性が、支援者によって二次被害を受ける場合があることも
付言しなければならない。父親からの性的虐待の影響で入院を余儀なくされたものの、その病棟で
カウンセラーから性的暴力を受けるなど、あってはならない現実が相談電話のなかから浮かび上がっ
ている。
第3章
ː事例:主訴:帰る家がない
女性専門ライン
小さい時からお父さんがお母さんを殴ったりして、家の中がピリピリしいていた。一応高校には行っ
ているけど、今は、家に帰らないで、彼氏の家にいることが多い。家に帰ると色々あるから帰らない。
先生とか、大人に相談すると説教するだけで何もしてくれないから相談したくない。彼氏は、親のこ
とを色々と相談に乗ってくれるけど、セックスばかり求めてくる。本当に嫌で断ると怒るから怖い。行
く場所がないけど、彼氏の家にばかりもいられないし、どうしようか悩んでいたら、彼氏が生活に困っ
ているならこのホットラインに電話したらと言ったから、電話してみた。
ː事例:妊娠したかもしれないが病院に行けない。
交際相手の家で同居している。精神科の薬で生理が止まっていて、彼氏は、避妊してくれない。精
神科の薬とか高くて、彼にも生活費を渡さないと家を追い出されるから、出会い系で客を取っている。
彼も客を取っていることを知っている。客も避妊をしてくれない。妊娠は心配だけれど、行くところも
ないし、仕方がないのかなと思っている。
ː事例:彼からの暴力は嫌だけど、別れられない。
同棲中の彼からの暴言に耐えられなくなって、家を飛び出した。気が付いたら病院に運ばれていて
点滴を打っていた。病院で家族に電話をして、父親が病院に来た。父親から性虐待を受けていたの
で嫌だった。だから、隙を見て病院を抜け出して彼の元に戻った。彼のことを両親は知らない。彼の
暴力は嫌だけれど、子どもができたら彼が変わるかもしれないとも思う。どうしていいのかわからな
い。
ː事例:自分の人生を返してほしい
小学校から高校まで近所のお兄さんから性被害に遭っていた。母親に相談したが、信じてもらえ
なかった。他県の大学に進学したことで被害に遭わなくなったが、その後、就職先でセクハラに遭い、
仕事を辞めた。体調も悪く「複雑性 PTSD」と診断されている。現在、裁判の準備をしているが加害
者が合意だったと言っている。摂食障がいや対人恐怖症もあり、外出は、ほとんどできない。通院
の時に同じ年代の女性を見かけると涙が出てくる。私の人生を返してほしい。
110
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
(2)交際 相 手 に よ る「 女 性 へ の暴 力 」(20 歳以上)
◆交際相手からの暴力においても、精神的暴力のみならず、身体的暴力や性関係の強要など複合的な被
害がみられる。なかには、「女なんだから俺の言うとおりにするのが当たり前」「俺にお金を渡す女
が良い女」等と女性蔑視の言動を受け続けた結果、離別したあと数年たっても心の傷が癒えない場
合もある。それゆえ、新しい恋愛に踏み出す勇気が持てないという悩みも寄せられている。また、セッ
第3章
クスをしないで交際したいにも関わらず、相手からの要求が強く悩んでいるなど、性行動における
一方的/支配的な関係が顕著である。なかには、事例のように同棲相手からの監禁状態におかれつつ、
女性専門ライン
望まない性行為に怯えるケースもあり、いつ事件化してもおかしくない状況のなかで SOS を発して
いる相談電話もある。
◆ DV のある夫と離婚したのち子どもと暮らしている母子家庭の女性が、交際相手から子どもの目前で
性行為を強要され、子どもに影響が及ぶ場合もみられる。
◆直接的な暴力以外にも、交際相手に妻子がいることがあとからわかった、交際相手の生活に合わせる
と睡眠時間も短くなり疲れるなど、交際自体に伴う悩みや困難も寄せられている。
ː事例:生きるのが辛い
彼からの暴力を思い出すと眠れなくなる。お酒が止められない。妊娠がわかって、彼が家から出て
行った。その後、流産して、今は、生活保護を受給している。温かい家庭にあこがれていたけれど、
全てがうまくいかない。いつも、父が母を殴っていた。父がいない時に母が「一緒に死のう」と言っ
て首を絞めてきたこともあった。その後、母親が蒸発して、父親と 2 人で暮らしていた。中学を卒業
してから家には帰っていない。
ː事例:交際相手に監禁されていて自由がない
交際相手と同棲して半年。彼は、私が外出することも外部と連絡を取ることも禁止していている。
唯一、外出できるのは、精神科に受診する時だけで、その時も、彼が同行する。望まない性行為もあり、
今日も性行為を求められるかと思うと恐怖心が出てきて電話した。
(3)夫等 か ら の 暴 力
◆夫等からの暴力の相談は、結婚初期の相談から高齢期の相談まで年齢層の幅は広い。結婚後、子ども
を授からないなかで暴力を受けている女性のなかには、性行為の強要があるためにピルを服用して
妊娠しないよう対処しているケースもあった。夫の継続的な不倫と暴力が同時並行している場合も
ある。
◆妻への暴力に加え、子どもへの暴力がある場合も多く、なかには男児が父親と同じように暴力を行使
するようになったり、母親の身体に触る行為をするようになったりすることから、ひとりで悩みを
抱えているケースもみられる。娘に対し風俗で働くことを強要するケースもあり、女性ラインの相
第3章
111
第3章 女性専門ライン
談からは、被害女性とともに、子どもそのものへのケアの必要性が浮かび上がっている。また、暴
力によって女性が精神を病んでいるにも関わらず、夫が妻(女性)の病気を理由に親権を渡さない
と言うなど、離婚調停中に理不尽な事態に直面させられる場合もみられた。
◆経済的暴力が女性に与える影響も甚大である。婚姻前から借金をしている夫が、そのことを隠して
結婚し、その後、妻(女性)は自分の貯金を使い果たし、自分の障害年金も生活費に充てなければ
ならないケースもみられた。「仕事をしない人間には金はいらないだろう」と手持ち金をとりあげら
第3章
れる専業主婦からの SOS もある。生活費を渡されないために、統合失調症であるのに通院もできず、
服薬も叶わないケースもみられた。
女性専門ライン
一方、妻が働いている場合には、子育てと就労の両立に加えて DVに耐える生活が続くなか、気力
を奪われ離婚できない状況に追い込まれている場合もある。DV夫からは「子どもをほったらかしに
して仕事を辞めてしまえ」などと仕事を辞めるよう脅されたり、農業をしているにも関わらず「外
でお金を稼げないやつは物を食べるな」と暴言を吐かれたりし、その影響で暴力から逃れる気力ま
でも奪われていき、暴力と貧困をめぐる悪循環が、女性の暮らしを規制していくのである。女性に
就労収入があることは、暴力被害から逃れるための重要な要素であるものの、気力を奪われている
現実への支えがなければ、暴力からの自由も獲得できないことが示唆される。
◆高齢期の女性が、暴力被害に苛まれながら暮らす様相も深刻である。夫の定年退職後、暴力が一層ひ
どくなるという場合がある。30 年以上結婚生活を続けてきた女性は、身体的暴力の被害に加え、夫
が生活費を僅かしか入れないゆえに、女性本人の年金とパート就労で生活全般を維持してきたもの
の、心身ともに我慢の限界に達し、SOS を求めてきた。
◆公的機関の対応はどうか。DV 防止法施行後、警察の対応に改善がみられていると言われているもの
の、女性専門ラインの相談では、110 番通報したら警察官から「夫婦でよく話し合って解決しなさい」
と言われたというケースもみられた。自治体の相談窓口に駆け込んだにも関わらず、
「シェルターは、
牢屋みたいなので覚悟してください」と言われ、断念したケースや、「シェルターに入ることを希望
したが相談員から実家に身を寄せることを提案された。行き場所がない」というケースもあった。
ː事例:毎日、夫から暴力を受けている
夫が失業し、私が喘息の持病があって、働くことができない。結婚当初から夫の暴力で苦しんで
きたが、失業してから、もっと暴力がエスカレートしている。110 番通報したら、警察官から「夫婦で
よく話し合って解決しなさい」と言われた。先日、また、夫が暴れ出したので警察に駆け込んだら、
「実
家に身を寄せた方がいい」と言われた。でも、両親との関係が悪く、夫との結婚にも反対していた
ので、帰ることもできず、仕方がなく、家に戻った。今週、婦人相談所に相談に行くことになってい
るが、日にちが近づくにつれ不安になってきた。何を話していいのか混乱してきた。
ː事例:夫からの暴力で警察に相談に行ったが被害届が出せない 夫の暴力で数針縫う怪我をした。今は、実家に逃げている。夫の両親は、息子の将来に影響する
ので、被害届を出さないでほしいと言ってきている。怪我をした私を気遣う言葉もなかった。悩んだ
112
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
末に、警察に相談に行ったが、被害届を出したいのなら診断書をもらってきてほしいと言われた。で
も、夫に遭うのではないかと不安。病院は、実家からも遠いので、行くことができない。
ː事例:夫への対応の仕方を教えてほしい
夫は、仕事がうまくいかなくなるとストレス発散のために物を投げたり壊したりする。あまりひどい
第3章
と実家に帰ることもあるが、母親からは、
「妻があまり家を空けるのはよくない」と言われる。母親は、
「あなたが大人になって上手に対応しなさい」というが、うまくいかない。別れたいと思うこともある
女性専門ライン
が、子どものことを思うと両親が揃っていた方がいいと思う。夫の暴力に、どう対応したらいいのでしょ
うか。
ː事例:夫のパチンコ代で貯金がなくなった
夫がパチンコにお金を使い生活が厳しい。お金が足りないので、パートの仕事を始め、月 6 万円く
らいの収入はあるが、子どもの保育料で消えてしまう。結婚前に貯めていたお金を切り崩して生活し
ているが、働いても働いても生活は楽にならない。このままでは、私の体力が続かない。何度も夫と
話し合いをしようとしたが逆切れして話し合いにならない。
ː事例:明日が離婚調停で不安
夫の暴力が度重なり、警察沙汰になったこともある。子どもが小さいので、自分も働くことができ
ない。子どもの親でもあるので犯罪者にしたくないと思い、現在は、離婚調停をしている。数年前か
ら夫の暴力が原因で精神科に通院をしている。夫は、私の病気を理由に親権を渡さないと言っており、
明日の調停が不安。
ː事例:夫の DV から逃れられない
結婚して数年。夫からの暴言や暴力が続いている。車の鍵や通帳、保険証も取り上げられている。
実家に帰ったこともあったが、夫が怒鳴り込んで暴れたため、以降、疎遠になっている。子どももお
びえて、押し入れに隠れたり、自分からしがみついて離れない。幼稚園にも行きたがらない。自治体
の相談窓口に駆け込んだが、
「シェルターは、牢屋みたいなので覚悟してください」と言われ、断念した。
ː事例:夫の DV で耐えられない。家を出たいが家族が反対している
妊娠して体調が悪い時に、家事が思うようにできないと夫は、物を投げたり、殴ったりの暴力をふ
るっていた。子どもの検診で夫にビクビクする私の様子を見て、保健師から市の DV 相談を勧められた。
現在も相談を続けている。子どものためにも 1 日も早く家を出たいが、両親から「子どものために我
慢しなさい。世間体が悪い」と責められる。シェルターに入ることを希望したが、相談員から実家に
第3章
113
第3章 女性専門ライン
身を寄せることを提案された。行き場所がない。
(4)家族・ 親 族 か ら の 虐 待 / 暴力
◆父親、母親、義父、義母、兄弟、子ども(息子)、舅・姑、親戚など、日常のなかの身近な存在が暴
力の加害行為に及んでいる。
第3章
◆幼少期など子どもの頃から虐待被害のほか、父親からの性的虐待/性暴力も一定数存在する。母親か
らの虐待を受けて育った女性は現在も精神科に通っており、子ども期の被害体験の影響は、長期に
女性専門ライン
わたって持続している。兄や親戚の男性などからの性行為の強要/性暴力の被害もある。なかには、
兄と弟の双方から性暴力を受けた女性もいる。
婚姻後に夫の DV に晒されているある女性は、自分の子どもへの夫の暴力を目撃するたびに、自分
の子ども期の被害体験がフラッシュバックしてくるという。また、子ども(相談者)への性的虐待
と妻 ( 相談者の母親 ) への DV が重複するなかで育った相談者は、家を出ることができず、一緒に暮
らし続けている母親への葛藤を抱え続けている。総じて、成人した現在でも精神科で投薬を続けて
いる場合が少なくない。
◆子ども(おもに息子)から母親への暴力も深刻である。10 年前に DV のある夫と離婚できたものの、
その後同居する息子が働かないうえに元夫と同じように暴力をふるう場合など、30 ~ 40 代の息子
の暴力被害に 50 ~ 70 代の母親が苦しめられている。なかには、息子夫婦と同居していたものの、
息子の DV によって嫁・孫は出ていってしまい、息子の暴力を一身に受けざるを得ない状況に追い込
まれている場合もある。あるいは、成人した息子からの暴力もあり冷却期間として家を出て別居し
ている女性が、「もうお前の帰る場所はない」と夫から言われるなど、家族ぐるみで孤立状況に追い
込まれている女性の相談も寄せられている。
◆更に、離婚後に実家に戻った際、同居している母親の妹(叔母)から「出戻り」と言われる、姑から
「バカ嫁だから息子(相談者の夫)が借金するんだ」と責められるなど、身近な親族女性からの暴言
による被害も存在している。夫の母親(姑)と同居したものの、夫を溺愛する姑から嫌がらせを受
け続け、身ひとつで家を追い出されたケースもある。夫の両親から息子の将来に影響するために被
害届を出さないでほしいと言われたり、女性の態度が悪いといって「土下座しろ」と要求されたり
するようなケースもあった。なかには、DV 夫が死亡後、義父(舅)から性的暴力を受けるようになっ
たという場合もある。「嫁いびり」という俗語はこのような家族内の支配関係を表現するには適さず、
舅/姑による「嫁」に対する暴力と認識する必要があろう。
自分の親からの理不尽な対応も少なくない。「妻があまり家を空けるのはよくない」「あなたが大人
になって上手に対応しなさい」
「子どものために我慢しなさい。世間体が悪い」などと言われ、女親
であるからといって理解を得られるわけではなく、家族からの孤立していく状況が生み出されてい
る。
(5)職場等 に お け る 女 性 に 対 する 暴 力
◆働いている女性からは、上司からのパワーハラスメントや、同僚や部下からの性暴力などの相談が寄
114
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
せられている。接待の席で上司から罵倒されたり蹴飛ばされたりした女性は、翌日から出勤できな
くなってしまったという。上司がプライバシーに干渉し、
「30 代を過ぎて産まないのは、子宮が腐る」
などという女性蔑視表現で結婚するよう勧めてくるケースもみられた。
◆部下などによるレイプ被害のほか、契約社員である女性が社員から叩かれるなどの暴力行為、訪問先
で怒鳴られ殴られそうになるなど、職場にまつわる暴力被害は様々な形で出現している。契約社員
の女性は、上司に相談したものの正当にとりあってもらえないなど、雇用形態による立場の相違か
第3章
ら被害からの回復がなしえない実態も存在する。
◆このような状況がありながらも、事例のような関係機関による二次被害もある。性暴力によって声を
女性専門ライン
奪われた女性が二次被害にあうことによって、いかに深い社会的孤立状況に追い込まれていくのか、
支援者には鋭敏な想像力が必須である。
ː事例:仕事関係者からレイプされた。相談先がない。
数年前に、仕事関係者からレイプされた。会社に相談したが対応してもらえず、人間不信になり、
退職した。男女共同参画センターに相談に行ったが、ここでは性暴力の相談は受けていないと言われ、
行政機関をたらいまわしにされた。外出するのも怖くなり、行政の電話相談を利用したところ、やっ
と理解してくれそうな人と出会ったが、いきなり年配の女性が電話を変わり、
「あなたの相談は受けら
れません」と言って、電話を切られてしまった。体調が悪く、仕事もできないので貯金を切り崩して
生活している。病院に行きたいが、生活が苦しいので薬の服用を調整して、通院の回数を減らしてい
る。被害の事を忘れようと努力しているけれど、忘れられない。この先、どうしていいかわからない。
(6)被災 地 の 困 難 状 況
◆被災地においては、震災の影響が持続するなかで様々な相談ニーズがみられる。何より、震災後にう
つ病を患い就労や生活が立ち行かなくなったり、うつが高じて自殺未遂に至ったりなど、精神的な
危機状況が続いている女性も少なくない。その背後には、被災の影響ばかりでなく、震災後に夫の
暴言や身体的暴力や監視が酷くなった場合が散見される。
また、被災して仮設住宅に住んでいるものの、数年前に離婚した元夫が仮設住宅を突き止めて来る
ようになったため、転居先を探しているもののなかなか決まらないなど、ただでさえ不安定な仮設
住宅の暮らしが脅かされているケースもある。
◆震災で両親を亡くし 1 人で暮らしているものの、生活のための仕事がきつく体力がもたないという
50 歳代の女性は、何人もの人が休むために自分が休めない状況になっていた。なかには、統合失調
症などで通院しながらも就労する状況もみられる。震災で家族を失うなか、今でも地震があると不
安になる、今でも淋しくて仕方ないと、電話をかけてくる場合もある。夫も子どももなく、職場の
人間関係も悪く、気持ちの休まる人もいないと、孤独を訴える声も寄せられている。
◆また、子どもが 4 年生大学に編入試験で合格したものの、進学費用が不足するという生活費・教育
費の相談も寄せられている。大学等の被災学生への特別対応措置や奨学金などが縮小される傾向も
あり、被災地の子育て家庭への経済的支援も引き続き課題となっている。
第3章
115
第3章 女性専門ライン
Ⅲ 今後の課題
(1)政府・自治体による検証の実施
女性ラインの相談内容からは、悪質な暴力の手段や方法、持続性かつ複合性のある暴力の発現形態など
により、生存権そのものが脅かされる女性の現況が把握される。死と隣合せである重篤な被害状況も多い
第3章
一方、DV 法公布から 15 年目になる現在でも相談機関のスタッフや行政職員、教師や警察等による二次被
害によって支援策からも排除され、精神を病みつつ孤立する女性の姿が浮かび上がっている。
女性専門ライン
しかしながら、子ども虐待の分野で実施されているような「虐待死亡事例の検証」が政府や自治体で実
施されていないために、女性たちの厳しい現状や関連機関の課題は不可視にされている。なぜ、DV による
死亡事件が多発しているにも関わらず、その検証が公的責任のもとで遂行されないのか。子ども虐待と同様
に、DV 政策のなかにおいても政府及び基礎自治体において「DV 死亡事例の検証」を有識者等を交えた会
議で実施し、報告書を公表することが必要である。
(2)緊急ケースへの対応策・機関連携の強化と DV罪の創設
平成 25 年度報告書でも指摘されているように、24 時間電話相談には、その特性から緊急対応を要する
相談電話が入ってくる。現在進行形の DV 被害、性暴力被害、親による虐待被害からの家出など、緊急対応
を要する理由は多様である。
一方で、夫から首を絞められ警察に行ったが、夫婦のトラブルとしか受け止めてもらえなかったなど、いま
だ機能しない関係諸機関の実態も語られている。いかに安心・安全な緊急保護/一時保護を昼夜問わず、1
年 365 日機能させるのか、各地域における再点検と連携の強化が必要である。DV に対応できる医療機関
の整備、警察と医療機関の有機的連携、基礎自治体における女性相談体制の拡充、子どもへの支援策の強
化などを進め、単に「繋ぐ」連携でなく、
「当事者が繋がる」システムの構築が急がれる。性暴力被害者の
ためのワンストップセンターの更なる増設など、社会資源の開発も急務である。同時に、DV 罪の創設につ
いて議論を進める必要がある。
(3)女性の精神保健上の課題への対応
被害体験が長期かつ複合的であるほど、精神疾患も重篤である。子ども期の虐待により親族の支えを失
い、暴力被害により人間関係に支障を来している女性がうつ状態になったり孤立を深めたりする状況も広範
にみられる。
「今は精神的な病気で働けない状況で話をする人もいなく、よりそいホットラインだけが頼りの
日々。親とも絶縁状態」など、よりそいホットラインの存在を糧に生き延びている女性も存在する。ジェンダー
の視点、女性の人権の視点をもったよりそいホットラインの増設を急がねばならないだろう。
同時に、安定した生活基盤をいかに確保できるのか。生活困窮者自立支援法の施行により生活困窮者支
援の窓口が自治体に作られているが、相談員へのジェンダー視点をもった研修が必須である。また、就労促
進による自立に重きが置かれる政策動向のなかで、持続する暴力被害の影響を勘案し、市町村の相談員に
は生活保護などの社会保障給付によって生活基盤を支える支援姿勢が求められよう。
116
社会的包摂サポートセンター
平 成 26 年 度 事 業 報 告 書
(4)労働の場における暴力防止への取り組み
女性が自らの労働によって経済的自立を獲得するプロセスには、幾重もの壁が立ちはだかっていることが
相談のなかからも把握された。職場におけるパワーハラスメント/セクシュアルハラスメント/性暴力は就労
の継続を脅かし、雇用形態による差別が被害の克服を阻害する。非正規労働者の労働環境や劣悪な仕事内
容に加え、更年期障がいなどによって体調が悪化すると、辞めるように追い込まれていくなどパワーハラスメ
第3章
ントに直面する。
「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」
(平
女性専門ライン
成 18 年厚生労働省告示第 615 号)の規定は不十分な点が多く、実態に即して実効性のある内容に改定す
べきである。
(5)女性蔑視・女性への差別意識の克服
女性を性的存在や性的対象物とみなすような性行為の過度な要求、家庭や職場に持ち込まれる女性蔑視
の言動などは、10 代の男性からすでに始まっている。性の商品化が留まることなく進行する現代社会の歪
みが、子どもの人権感覚を鈍麻させている現れといえるだろう。ジェンダー教育の推進とともに、ジェンダー
平等の観点を明確にもった性教育が必要である。
第3章
117