抄録PDF - 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会

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従来法で同定困難な菌種 Dysgonomonas capnocytophagoides について
◎松下 久美子 1)、土黒 康平 1)、有田 昇平 1)、津嶋 かおり 1)、金子 優 1)、磯崎 将博 1)、平井 義彦 1)
社団法人 天草郡市医師会立 天草地域医療センター 1)
【はじめに】2000 年に菌種登録されたグラム陰性通性嫌気
属も考慮し、市販の各種同定キットなどの生化学性状で同
性球桿菌 Dysgonomonas capnocytophagoides は、現在のとこ
定を試みたが菌種の確定には至らなかった。また、VITEK
ろ、従来法を用いた同定では菌種の確定が困難である。今
MS でも同定菌名を得ることができなかったため、16S
回、未だ報告例の少ない本菌が腹腔内膿瘍の患者から検出
rRNA 遺伝子解析を実施した結果、D. capnocytophagoides と
されたので報告する。
同定された。
【症例】患者は 81 歳、女性。平成 24 年 9 月、重症虚血性
【考察】本菌は X 因子要求性、特有な臭気を有する、
腸炎に対し左結腸切除術および人工肛門造設術を施行。術
BTB 乳糖加寒天培地には発育しない、などの特徴があるが、
後に腹腔内膿瘍がみられたが抗菌薬でコントロールし改善
今回の症例は従来法による同定は困難であった。本菌の臨
がみられていた。平成 26 年 8 月 21 日、下腹部正中の創部
床分離例の報告は未だ少なく、市販の同定キットや質量分
下端近傍に膨隆、疼痛みられ近医を受診。CT にて腹腔内膿
析による同定のデータベースには登録されていないため、
瘍を疑い当院紹介、精査加療目的で入院となった。
これらの方法での菌種確定は困難であり誤同定されること
【微生物学的検査】入院時に腹水および創部検体が提出さ
もある。そのため現状での菌種確定は遺伝子学的検査に頼
れた。培養 1 日目、好気条件下のヒツジ血液寒天培地、チ
らざるを得ない。今後さらに本菌のデータが蓄積され、一
ョコレート寒天培地に微小な半透明の集落を認めた。好気
般の検査室でも同定可能になることを期待したい。
条件下では非常に発育が遅く、嫌気条件下の方が発育は良
【謝辞】菌株を同定精査いただきました東京医科大学 微
好であった。塗抹で確認したところグラム陰性短桿菌であ
生物学講座 大楠清文先生に深謝いたします。
り、集落は果物様の甘い臭気を有していた。BTB 乳糖加寒
天培地には発育を認めなかった。嫌気性菌やヘモフィルス
連絡先 0969-24-4111 (内線 164)
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Helicobacter cinaedi による化膿性椎体炎の1例
◎野村 菜美子 1)、竹川 啓史 1)、野上 美由紀 1)、内藤 拓也 1)、仁木 真理恵 1)、田中 佑果 1)、﨑園 賢治 1)、老田 達雄 1)
独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立医療センター 中央市民病院 1)
【はじめに】Helicobacter
cinaedi は人や動物の腸管に棲息
し、免疫不全患者や易感染患者の敗血症の原因菌となると
報告されている。今回、H.
cinaedi による化膿性椎体炎の
ABPC 投与開始後も発熱が持続するため、抗菌薬をドキシ
サイクリン(DOXY)に変更したところ、熱型は安定し、炎症
所見も改善したため、外来フォローとなった。
1 例を経験したので報告する。
【微生物学的検査】
【症例】65 歳 男性 【既往歴】糖尿病
血液培養は BACTEC FX(日本 BD)を使用した。救急外来
【現病歴】2014 年 9 月 28 日頃より 39.5℃の発熱と腰痛を
紹介受診時(10/4)、10/27、11/4 採取の血液培養が、採取後
認め、近医を受診した。その後も発熱が持続するため、
75~90 時間で好気ボトルのみ陽性となった。培養液のグラ
10 月 4 日に再度近医を受診したところ、デング熱が疑われ
ム染色で、3 巻き以上のグラム陰性らせん状桿菌が確認さ
たため当院救急外来へ紹介受診となった。しかし、当院受
れた。サブカルチャーは、35℃、微好気培養で 1 週間行い、
診時はデング熱を疑う所見はなく、全身状態は良好であっ
ヒツジ血液寒天培地、チョコレート寒天培地ともにフィル
た。そのため、総合診療科にて外来フォローとなったが、
ム状の集落を認めた。アピヘリコ(シスメックス)による同
救急外来で採取した血液培養から H. cinaedi が検出された。
定が困難であったため、PCR 法による同定を行い、H.
腰痛が持続していたため、10 月 24 日に腰椎 MRI を施行す
cinaedi と同定した。また、椎体生検材料からも同一菌の発
ると、椎体椎間板炎の所見を認めた。さらに、倦怠感が強
育を認めた。
く発熱が持続するため、10 月 31 日に緊急入院となり椎体
【まとめ】
生検が施行された。椎体材料からの PCR で H. cinaedi が検
今回、H. cinaedi による稀な化膿性椎体炎の 1 例を経験し
出されたため、本菌を起因菌とする椎体炎と診断され、ビ
た。
クシリン(ABPC)の抗菌薬投与が開始された。しかし、
連絡先:078-302-4321(内線 3574)
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血液培養より Campylobacter jejuni subsp.jejuni を検出した 1 例
◎小池 祐史 1)、平川 美智子 1)、白土 泰彦 1)、久保 敬補 1)
北海道旅客鉄道株式会社 JR札幌病院 1)
【はじめに】Campylobacter jejuni subsp.jejuni(以下 C.
量分析法にて C. jejuni と同定された。
jejuni)はヒトの Campylobacter 感染症の 95~99%を占めて
【考察】血液培養で陽転しグラム染色で菌体が確認できな
おり主に胃腸炎症状を起こす。しかし C. jejuni による菌血
かった場合、Campylobacter 属・ Helicobacter 属を考慮して
症の報告は少ない。今回、発熱精査目的で入院し腎盂腎炎
進める必要があると考えられる。また、胃腸炎症状を起こ
と診断され軽快した患者の血液培養から C. jejuni を検出し
さず菌血症を起こす症例が存在することが示唆された。
たので報告する。
連絡先 011-208-7150 内線 3238
【症例】87 歳男性。既往歴:高血圧、大腸ポリープ。要介
護者向け高齢者住宅入所中に 38 度台の発熱有り当院救急外
来を受診。加療の為入院。
【細菌学的検査】入院時血液培養 1 セット採血し、翌日朝
Bact/ALERT 3D(シスメックス・ビオメリュー)に装填。
5 日後好気ボトルが陽転した。グラム染色では菌体は確認
できず、培養はヒツジ血液寒天培地(極東)で好気培養を、
変法スキロー寒天培地(日水)を 25℃・ 35℃・ 42℃の微
好気性培養を行い、変法スキロー寒天培地の 35℃・ 42℃微
好気性培養にて発育が認められた。カタラーゼ陽性、オキ
シダーゼ陽性、ナリジクス酸に感受性、セファロチンに抵
抗性。アピ ヘリコ(シスメックス・ビオメリュー)・質
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血液培養より分離され、菌名同定に難渋した Clostridium tertium の 1 症例
◎村上 優佳 1)、和久田 光毅 1)、久野 未稀 1)、濱岸 真奈美 1)、早川 敏 1)、石川 隆志 1)、石井 潤一 1)
藤田保健衛生大学病院 1)
【はじめに】Clostridium tertium は芽胞を形成する偏性嫌
気性グラム陽性桿菌 Clostridium 属の 1 菌種である。本菌
は、土壌を中心として環境中に広く分布している、また
Clostridium 属に属するも、好気培養でも発育する点が特
徴的な菌種である。今回、血液培養より分離されたが、
菌名同定に難渋した経験をしたので報告する。
【症例】患者は 8 ヶ月、男児。腹腔鏡下鎖肛手術による
高位鎖肛の手術目的にて入院した。手術時には SSI 予防
のため CMZ を投与開始した。手術後 3 日目に 39 度の発
熱のため血液培養 1 セット採取後に MEPM を投与。そ
の後、解熱し軽快退院となった。
【細菌学的・遺伝子学的検査】血液培養装置は
VersaTREK(コージンバイオ)を使用した。培養 3 日目
(66 時間後)に好気ボトルのみ陽性となり、グラム染色
にて陰性と判断しかねない陽性桿菌を認めた。ヒツジ血
液寒天培地にて 35℃炭酸ガス培養を行った。翌日、無色
透明の微小コロニーが形成され、ApiCoryne(シスメッ
クス・ビオメリュー)にて Listeria grayi と同定された。
尚、嫌気ボトルは 7 日間培養したが陽性とならなかった。
後日、16S rRNA 遺伝子解析を行ったところ、
C.tertium に 99.9%一致した。再度、陽性ボトルよりブル
セラ HK 寒天培地にて嫌気培養を行うと、翌日白色コロ
ニーが形成され、RapID ANAⅡ(アムコ)にて
C.perfringens 97.66%、C.tertium 1.65%と同定された。好
気ボトルにのみ発育した Clostridium 属であることから、
C.tertium として報告した。
【考察】血液培養検査は培養陽性後迅速な対応が求めら
れるため、陽性ボトルの種類や培養陽性時間を考慮し、
グラム染色結果を1次報告している。今回の症例では好
気ボトルのみ陽性だったため Clostridium 属を含む偏性嫌
気性菌の可能性を早期に除外した。極まれではあるが、
例外となる菌種もあることを再認識した。しかしながら
多くの検査室では、遺伝子解析技術や質量分析計が導入
されていないため、本菌の同定には難渋すると示唆され
る。
藤田保健衛生大学病院 微生物検査室 0562(93)2304