クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)

■ クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)
入院中の抗菌薬関連下痢症の 20~30%、偽膜性腸炎の 90%を占める。
臨床症状は主に抗菌薬の使用によって腸内の正常細菌叢が撹乱された結果 Clostridium
difficile(CD)が増殖し、トキシンが産生されることで症状が出現するが、無症候または軽度の
軟便から、腸穿孔や中毒性巨大結腸症をきたし外科的治療も考慮すべき重篤なものまでさま
ざまである。
健康成人の 3%程度が保菌し、とくに乳児では検出率が高い。検出率は抗菌薬の使用により
20%程度まで上昇する。
<内因性発症>
保菌者の抗菌薬が投与され、腸内の常在菌叢が乱れることで発症する。
<外因性発症>
病院内で発症患者から直接的にまたは医療従事者を介して伝播し発症
■診断
・
便の CD トキシン A/B 迅速検査(細菌特殊検査)
CD トキシン検査の感度は 70~80%にとどまるため、当院では CD トキシンと一緒に CD の抗
原であるグルタミン酸脱水素酵素(GDH)を検出する迅速検査を実施している。
・
便の嫌気培養による検出
当院での CD トキシン検査判定フローチャート
抗菌薬が投与されていた入院患者で下痢が見られる場合は、検査依頼を行う。ただし入院患
者では CD 保菌例も存在するため、感染症を疑わせる臨床症状がない場合は検査を実施しな
い。
感染症が強く疑われる場合は迅速検査の複数回提出や便の嫌気培養提出も推奨されている。
2 歳未満の小児では保菌率が高く病因としての意義が確立していないため、検査は原則として
行わない。
大腸内視鏡検査で偽膜性腸炎の組織所見を確認できる。特異度は高いが感度は 50%と低い
ため、必ずしも必須ではない。
■治療
治療は、メトロニダゾールまたはバンコマイシン散を 10 日間内服。
1) メトロニダゾール 250mg 1 錠を 1 日 4 回、または 2 錠を 1 日 3 回、10 日間
2) バンコマイシン散 125mg を 1 日 4 回、10 日間
(1 バイアル 0.5g を 20ml ブドウ糖に溶解し 5ml ずつ投与でも可、冷蔵保存)
軽症の場合は、効果に大きな差はないため、当院では安価なメトロニダゾールを推奨する。
ただし、メトロニダゾールは過敏症既往に加え、脳・脊髄に器質的疾患を有する患者,妊娠3ヶ
月以内の患者は禁忌、血液疾患・脳膿瘍患者は慎重投与とされており、また CCr<10ml/min、
透析患者は半量へ減量する必要がある。
重症者にはバンコマイシン散が推奨されている。
2010 年 SHEA/IDSA Clostridium difficile 感染症ガイドライン
重症度
基準
初回例
白血球数 15,000 /μL 未満
軽症-中等症
かつ血清クレアチニン値上昇
は発症前から 1.5 倍未満
初回例
重症
白血球数 15,000 /μL 以上
または血清クレアチニン値が
発症前から 1.5 倍以上上昇
初回例
性
度
メトロニダゾール(フラジール®),
500 mg 1 日 3 回経口 10–14
A-I
日間
バンコマイシン散 125 mg 1 日
4 回経口 10–14 日間
低血圧またはショック、イレウ バンコマイシン散 500mg
重症かつ複雑 ス、中毒性巨大結腸症
推奨
推奨治療
B-I
1日
4 回経口または経鼻胃管 10–
14 日間
およびメトロニダゾール, 500 mg
1 日 3 回静注(日本未発売)
複雑性イレウスの場合はバンコ
マイシン経腸併用を考慮
C-III
初回再発
初回例に準じる
(初回再発例・長期治療例では
蓄積性神経毒性の可能性があ
A-II
るためメトロニダゾールは用いな
い)
2 回目以降の再
バンコマイシンの漸減・パルス療
発
法
125mg 1日4回を10–14日
間、その後125 mg 1日2回
B-III
を7日間、125mg 隔日を7日
間、125mg 2-3日毎を2-8週
間
■患者が発生したら
1.
便失禁または感染性の原因がありそうな急性下痢症を呈した場合は検査結果が出る前よ
り接触予防策を実施する。→感染経路別予防策 診断確定前から感染経路別予防策が
必要な症状を参照
2.
CD トキシン・GDH 抗原陽性または便培養でクロストリジウム・ディフィシルが検出された
ら、細菌検査室は ICT メーリングリストで連絡する。
3.
主治医は病棟医長、病棟師長、感染制御部門と相談の上、患者を個室隔離し、接触感染
予防策をとる。個室隔離できない場合は、伝播がおこらないよう接触感染予防策の徹底を
図る。
4.
同じ病棟で下痢症患者が他に出現する場合は、CD トキシン検査の提出をすみやかに行
う。
5.
個室隔離・接触予防策の期間は、下痢が消失して 72 時間(3 日間)を経過するまでとす
る。迅速検査で GDH 抗原のみが陽性の場合は、便培養検出菌株でトキシン陰性が確認
されれば病原性は低いと考えられるため必ずしも治療や接触予防策を要さない。
CD 保菌例では必ずしも接触予防策を要さないため、陰性化を確認するための CD トキシン検
査は不要である。
■伝播予防対策
1.
下痢症患者と接触したら流水と石けんによる手洗いを行う。クロストリジウム・ディフィシル
は芽胞を形成するため、アルコール製剤は無効である。環境消毒には、0.1%以上の次亜
塩素酸を使用する。
2.
早めの診断、トイレのある個室への早めの隔離、患者が複数発生した場合はコホーティン
グが必要である。
3.
接触感染予防策の徹底。更衣やおむつ交換ではエプロンを装着する。聴診器や血圧計は
患者ごとに個別化する。