みずほフィナンシャルグループ寄付講座 「金融機関のリスクマネジメント」- 第5回 クレジットトレーディング(CDS) 2014年5月7日 グローバルクレジット投資部 市場クレジット室 大塚 卓美 目次 1.クレジットトレーディングとは? 2.CDSの商品性 3.CDS市場の構造 4.CDSプレミアムの決まり方 5.CDSトレーディングの実際 6.最近の相場動向 (参考)相場格言・推薦図書 7.演習問題 2 1.クレジット・トレーディングとは? 3 1-1. 売りか? 買いか? A社が赤字決算を発表 Q1 A社の株式(現株): 買い? 売り? Q2 A社の株式オプション: 買い? 売り? Q3 A社向け融資: 貸す? 回収? Q4 A社の社債・CP*: 買い? 売り? Q5 A社のCDS**: 売り? 買い? * コマーシャル・ペーパー(短期社債) **クレジット・デフォルト・スワップ/クレジット・デリバティブ 4 1-2.信用(クレジット)リスク ○貸した金(元本)と利息が約束通り回収できるかどうか ①貸す方法による分類 融資(ローン)、債券*、保証 *社債(企業が発行)、CP(企業が発行)、 国債(国家が発行)、地方債(地方政府が発行) ②借りる相手による分類 企業(コーポレート)債務、ソブリン(国家)債務 ★クレジットトレーディング=信用リスクの売買 借りた金が返せない状態=破綻・破産(デフォルト) 5 1-2.信用リスクの経済的対価 Q1 金を貸す人はどんな経済的メリットがあるのか? A1 約束した利息(金利)をもらう A1´ 当該債権が返済期限前に売却可能で、かつ貸した ときより金利が低下すれば売却益(キャピタル ゲイン)を得る Q2 株式投資する人はどんな金銭的期待をしているのか? A2 配当金をもらう A2´ 買った価格(簿価)より高くなれば売却益を得る 6 1-2.信用リスクの経済的対価 【負債※と株式の違い】※融資、社債、CP等の総称(英語ではDebt) ・利息 :予め決められた金額(金利水準) ・配当金 :その時々の業績次第 ・負債の売却益:一般的には株式のように投資元本の 2倍、3倍のようにはならない ・株式の売却益:企業の成長次第で何倍にもなる ★負債は確実な利息と期限がある代わりに売却益は限定的 7 1-3.CDSとは? 【融資・社債・CPとの相違点】 ・信用リスクを売買する点では、融資・社債・CPと同じ ・元本の回収リスク(倒産リスク)をヘッジできる ○経済効果としては、「保険」と同じ ○形態がデリバティブ ⇒社債や保険と異なるデリバティブならではの 商品性(クレジットショートが容易、等) 8 2.CDSの商品性 9 2-1.定義 ○一定のプレミアムを対価として、ある債務者(参照組織)に関 するクレジットリスクを「プロテクション買い手」から「プロテク ション売り手」に移転させる取引 ① 買い手は定期的にプレミアムを支払う ② 参照組織にデフォルトが発生した場合、売り手は損失額相当を支払う 「予定終了日」を迎えるか、参照組織がデフォルトした時点で取引が終了 プロテクション 買い手 ①プレミアム (定期的) ②損失額相当 (デフォルト時) 参照組織の クレジットリスク 10 プロテクション 売り手 2-2.CDSの特徴 ○用語 ・ 株式や社債:買い=リスクテイク、売り=リスクヘッジ ・CDS:プロテクション「売り」=リスクテイク=クレジット・ロング プロテクション「買い」=リスクヘッジ=クレジット・ショート ○保証契約と異なり、プロテクション買い手と参照組織の間に 債権債務関係が存在する必要がない ○個別の債券やローンと直接関連付ける必要がない(より 一般的に「参照組織のデフォルト」を取り扱う) ○他の大半のデリバティブと同様店頭取引(OTC:Over-TheCounter) 11 2-2.CDSの特徴 <長所> ①“クレジットショート”のポジションを容易に作ることができる。(※1) ②社債残高等に左右されず、年限や元本が自由に設定できる ③初期投資が不要なスワップ形式であり、レバレッジをかけることが可能 ④匿名性が高く、銀行は取引先との関係を維持したまま、BIS上のリスクアセット削 減が可能 ⑤取引条件の標準化(※2)により流動性が高まっており、取引コストが小さい。 (※1)レポ市場の未発達な本邦社債市場では「ショート」から入ることは事実上不可 (※2)例えば、通常、予定終了日は3,6,9,12月の各20日に標準化されており、反対取引をすれば容易 にポジション解消ができるように設計されている 12 2-2.CDSの特徴 ★債務者および債務の種類とは無関係に、純粋なデ フォルトリスクのみの売買が可能 ★取引の相手方(カウンターパーティー)の信用力が 極めて重要 ⇒リーマンショックや欧州債務危機で「カウンター パーティーリスク」が顕在化 13 2-3.取引例 想定元本 期間 参照組織 プレミアム 10億円 5年 (予定終了日: 2019年6月20日) X社の発行する社債 年率100bp (1.0%) (利払日: 3、6、9、12月の各20日) クレジットイベント(Credit Event) 3CE (Bankruptcy、Failure to Pay、Restructuring) クレジットイベント発生時の 決済方法 原則:現金決済 但し、現物決済も可能 (引渡可能債務: 社債もしくはローン) (用語)クレジットイベント⇒デフォルト事由のこと Bankruptcy(法的破綻)、Failure to Pay(支払遅延)、Restructuring(リストラクチャリング) 14 2-3.取引例 1.X社が予定終了日までデフォルトしない場合 ・買い手⇒売り手 プレミアム支払い 10億円×1.0%×5年=50百万円(年10百万円) 銀行がX社に貸し出ししたことと同じ経済効果 (但しカウンターパティーが破綻していない) 15 2-3.取引例 2.X社が倒産しデフォルト事由に該当した場合 ①売り手⇒買い手 【現金決済】(元本-清算価格)*を支払い 【現物決済】 元本額(10億円)を支払い ②買い手⇒売り手 【現金決済】なし 【現物決済】社債を受渡し *X社がどの程度残余財産があるか=回収見込額(回収率) この清算価格はオークションで決定(後述) 16 2-4.CDSの種類 ①個別銘柄(Single Name) ○参照組織が単一(Single Name)のCDS (例) 企業(コーポレート) 国家(ソブリン) 地方政府 17 2-4.②インデックス(Index) ○複数のSingle NameCDSを組み合わせたCDS ・組入れるSingle Nameの割合は同率 -50銘柄の場合は1銘柄当たり2% ・CDS商品の中で最も流動性が高い 【日本企業のインデックス】iTraxx Japanの場合 A社 B社 C社 D社 E社 CDS CDS CDS CDS CDS 流動性が高い 50銘柄を組合わせ …… 定型化 18 iTraxx Japan (アイトラックス) 2-4.②インデックス(Index) ○iTraxx Japanの構成銘柄(シリーズ21) 企業名 比 率 企業名 比 率 企業名 比率 1 大成建設 2% 18 パナソニック 2% 35 オリックス 2% 2 大林組 2% 19 ソニー 2% 36 野村證券 2% 3 清水建設 2% 20 三菱重工業 2% 37 東京海上日動火災保険 2% 4 鹿島建設 2% 21 川崎重工業 2% 38 三井不動産 2% 5 日本たばこ産業 2% 22 日産自動車 2% 39 三菱地所 2% 6 王子ホールディングス 2% 23 トヨタ自動車 2% 40 住友不動産 2% 7 日本製紙 2% 24 リコー 2% 41 JR東日本 2% 8 住友化学 2% 25 丸紅 2% 42 近畿日本鉄道 2% 9 三井化学 2% 26 住友商事 2% 43 阪急阪神ホールディングス 2% (出典:Markit社) 10 新日鐵住金 2% 27 三菱商事 2% 44 日本郵船 2% http://www.markit.com 11 神戸製鋼所 2% 28 イオン 2% 45 商船三井 2% 12 JFEホールディングス 2% 29 りそな銀行 2% 46 川崎汽船 2% 13 小松製作所 2% 30 三菱東京UFJ銀行 2% 47 ANAホールディングス 2% 14 日立製作所 2% 31 みずほ銀行 2% 48 東京電力 2% 15 東芝 2% 32 三井住友銀行 2% 49 中部電力 2% 16 日本電気 2% 33 アコム 2% 50 ソフトバンク 2% 17 富士通 2% 34 SMBCコンシューマーファイナンス 2% 19 毎日の時価は日本 経済新聞のマーケッ ト総合2面にも掲載 2-4. ②インデックス(Index) ○世界の主なインデックス(全てMarkIt社が管理) 名称 地域・参照組織 銘柄数 iTraxx Japan 日本の企業 50 CDX NA IG 米国・カナダの企業 125 iTraxx Europe 欧州の企業 125 iTraxx Australia 豪州の企業 25 iTraxx Asia ex - Japan 日本を除くアジアのソブリン と企業 40 iTraxx SovX W.E. 西欧諸国*のソブリン 15 *Belgium, Denmark, France, Germany, Ireland, Netherland, Norway, Spain, Sweden, Austria, Finland, Italy, Portugal, UK, Cyprus 20 3.CDS市場の構造 21 3-1.世界の市場の時間帯 ○為替だけでなくクレジット市場もシームレス化 -海外HFが日本銘柄をNY時間に取引するケースも増加 東京 アジア 欧州 東京 米国 5時 17時 6時 18時 7時 19時 8時 9時 *各国サマータイム 東証 アジア 欧州 米国 20時 香港、上海 21時 10時 22時 11時 23時 12時 24時 13時 1時 14時 2時 LSE, DAX 15時 3時 16時 4時 22 NYSE 3-2.市場参加者 信用リスクヘッジ (プロテクションの買い手) CDS の売買 金融機関 金融機関 (融資部門:ローンのヘッジ) (投資部門:リスクテイク) (投資部門:社債のヘッジ) 機関投資家、 信用リスクテイク (プロテクションの売り手) 証券会社等 (マーケットメイカー) ヘッジファンド等 機関投資家、 ヘッジファンド等 23 3-3.CDSの利用目的 利用目的 ヘッジ 取引の特徴 社債やローンのポートフォリオを抱える金融機関が、主にクレジットリスクをヘッジする目 的で取引を行う(基本はプロテクションの買いサイド)。 また主に海外のファンドが投資家向けに複数のCDSの買いを組み入れた「テールリスク ファンド」が最近人気に(例:中国の成長減速リスクのヘッジに中国向けの取引が多い日 本企業のCDSを組み込んだファンド等)。 長期の資金運用 主に終了日までの持ち切りを前提としたプロテクション売りサイドのプレーヤー。スワップ 形式ではなく、CDSを組み込んだ債券やローン形式で投資を行う(例えばCLN:クレジッ トリンク債)ことが多い。 短期のトレーディング やアービトラージ 終了日までの持ち切りは前提とせず、純粋に「安く買って高く売る」ことを目指す。クレ ジットマーケットに対する一方向の相場観をもとに単純なプロテクション買い/売りを行う 他、買いと売りの両方を組み合わせた銘柄間のレラティブバリュー取引、年限間のカー ブ取引など、様々。 その他、社債とCDSの裁定取引(ベーシス・トレード)や、株とCDSの裁定取引(キャピタ ル・ストラクチャー・アービトラージ)なども。 ヘッジファンド等海外からの参加者が多いのも特徴。 24 3-4.CDSの残高 ○個別銘柄・インデックス別(グローバル) ・グロス(売りと買いの両建)の金額は莫大だが、ネット(売りと買いを相殺)の 金額ではそれほどでもない。 (出典:DTCC) (2014年4月11日現在 単位:億ドル) 想定元本(グロス) 想定元本(ネット) ネット/グロス 個別銘柄(上位1,000銘柄) 102,966 8,644 8.4% インデックス(トランシェ含む) 100,330 12,861 12.8% 合計 203,297 21,505 10.6% 25 3-4.CDSの残高 ○参照債務 世界上位30 (*ネット残高順:買いと売りの両建てを相殺) (出典:DTCC) (2014/4/11現在 単位:億ドル) 参照債務 想定元本 (グロス) 想定元本 (ネット) 参照債務 想定元本 (グロス) 想定元本 (ネット) 1 イタリア(ソブリン) 3,660.4 193.0 16 オーストリア(ソブリン) 539.6 38.0 2 スペイン(ソブリン) 1,666.7 101.8 17 Royal Bank of Scotland Plc 539.1 24.3 3 フランス(ソブリン) 1,404.8 97.0 18 南アフリカ(ソブリン) 518.2 47.2 4 ブラジル(ソブリン) 1,282.2 171.4 19 Banco Santander S.A. 514.2 26.9 5 トルコ(ソブリン) 1,232.8 91.5 20 ベルギー(ソブリン) 512.7 28.2 6 ドイツ(ソブリン) 1,199.7 114.2 21 MBIA Insurance Corporation 481.9 16.0 7 ロシア(ソブリン) 1,188.8 83.2 22 Intesa Sanpaolo S.p.A. 477.6 17.9 8 メキシコ(ソブリン) 998.8 118.8 23 Morgan Stanley 465.3 26.6 9 中国(ソブリン) 763.6 120.2 24 ハンガリー(ソブリン) 460.1 12.0 10 韓国(ソブリン) 680.0 70.4 25 Deutsche Bank AG 455.2 44.9 11 ポルトガル(ソブリン) 671.5 26.2 26 JPMorgan Chase & Co 443.1 41.6 12 日本(ソブリン) 636.0 93.1 27 Goldman Sachs Group Inc 438.0 28.1 13 Bank of America Corporation 607.5 41.9 28 Banco Bilbao Vizcaya Argentaria S.A. 431.3 19.9 14 英国(ソブリン) 592.5 53.2 29 Telecom Italia S.p.A. (new) 418.9 23.2 15 General Electric Capital Corporation 561.5 85.1 30 Citigroup Inc 401.5 18.4 26 3-4.CDSの残高 ○参照債務 日本銘柄の上位 (*ネット残高順:買いと売りの両建てを相殺) (出典:DTCC) (2014年4月11日現在 単位:億ドル) 参照債務 想定元本 (グロス) 想定元本 (ネット) 参照債務 想定元本 (グロス) 想定元本 (ネット) 12 日本(ソブリン) 636.0 93.1 519 オリックス 55.2 6.0 348 ソニー 90.4 9.7 524 SMBCコンシューマーファイナンス 54.1 2.9 388 みずほ銀行 82.8 7.9 539 パナソニック 52.0 6.9 392 三菱東京UFJ銀行 82.1 5.6 576 フジクラ 46.2 5.5 412 JFEホールディングス 78.6 19.3 580 日本郵船 45.7 8.1 418 日本製紙グループ 78.1 17.7 581 東京電力 45.7 3.4 427 新日鉄住金 76.7 11.7 599 川崎重工業 42.2 6.8 441 神戸製鋼所 72.8 16.5 604 日立 41.6 3.9 445 トヨタ 71.5 10.8 605 丸紅 41.5 6.4 453 東芝 68.9 9.8 611 アコム 40.9 3.8 458 三井化学 68.3 15.2 629 伊藤忠 38.6 7.8 461 商船三井 67.5 11.6 652 ANA 36.1 5.7 498 王子ホールディングス 57.9 15.5 664 JFEスチール 35.3 4.4 507 三井住友銀行 56.7 2.8 665 三菱商事 34.9 7.5 508 日産自動車 56.5 7.2 667 ホンダ 34.8 4.5 27 4.CDSプレミアムの決まり方 28 4-1.クレジット・スプレッド ○信用リスクの経済的対価 ①融資⇒ 貸出金利 ②社債⇒ 社債金利 ③保険/保証⇒ 保険料/保証料 ④CDS⇒ CDSプレミアム Q.①~④をその性質に応じて2つに分類すると その組み合わせは? 29 4-2.貸出金利及び社債金利の決まり方 ○基準金利(Base Rate)+α α 国債基準 ⇒T+α 銀行間レート基準 ⇒L+α ・クレジットリスクに見合う部分=デフォルトリスク ・流動性リスクに見合う部分=売りたいときに売れるか -とくに社債の場合 ・国債金利(最も信用力が高いはず) 基準 (例)日本国債(JGB:Japanese Government Bond) 米国債(US Treasury)、ドイツ国債(Bunds) 金利 ・銀行間レート(民間企業より信用力が高いはず) (例)LIBOR(London Interbank Offered Rate) 30 4-2.貸出金利及び社債金利のαの決まり方 ○クレジット/デフォルトリスク相当 ⇒クレジット/デフォルト・プレミアム ・格付けが高いほど小さい/低い ・但し、同じ格付けでも、業種によって格差が大きい 一般的に利益変動の少ない業種(鉄道・流通・食品等)のプレミアムは タイトで、メーカー等の輸出銘柄(電気・自動車)は利益水準対比ワイド。 ○流動性リスク相当 ⇒流動性プレミアム ・よく見かける=発行量が多い銘柄の方が、流動性が高い=“売りたいときに売 れる”ので小さい ・但し、市場に溢れるくらいの量では、市場が“壊れる”こともある ★実務的には両リスクとも固定的ではなく、そのときの 環境次第で激変するもの、かつ分離は困難 31 4-3.保険及びCDSのプレミアム(α)の決まり方 【(損害)保険】 ○保険の対象(例:建物、自動車)が壊れる“確率” 【確率を決める要因】 過去の実績、将来の推定 【CDS】 ○参照企業が潰れる(デフォルト)する“確率” + 流動性リスク + 社債金利や融資金利との比較感 32 4-4.国債・LIBOR・融資・社債・CDS【イメージ】 【国 債】 【LIBOR/SWAP】 【融資/社債】 企業の 信用・流動 性リスク 銀行の 信用・流動 性リスク 銀行の 信用・流動 性リスク 国債 国債 国債 金利 金利 金利 33 【CDS】 CDS プレミアム 裁定 4-5.“理論的に導出”されるCDSプレミアム ○理論プレミアム(プレミアムレート) 将来に受払するキャッシュフローの現在価値が等しくなるプレミアム (金利スワップのプライシングと同じ方針) 例)プロテクション売りサイド デフォルト時の支払 (1-R)N: (1-回収率)×想定元本 プレミアムの受取 現在価値 現在価値 cN: プレミアム×想定元本 時間 時間 支払CF 受取CF 受取CFの現在価値と支払CFの現在価値が等しくなるプレミアムcを求める 34 4-5.“理論的に導出”されるCDSプレミアム ○問題点 デフォルトがいつ発生するかわからない →将来のキャッシュフローが確定しない 例)プロテクション売りサイド デフォルト時の支払 プレミアムの受取 そもそも発生する? 発生するならいつ? ? 現在価値 現在価値 デフォルトまで受取る →いつまで受取る? ? 時間 時間 支払CF 受取CF ではどうするか? 35 4-5.“理論的に導出”されるCDSプレミアム ○解決法 キャッシュフローの発生確率を用い期待値として算出 1)受取CFの現在価値 プレミアムの受取CFはデフォルトするまで続く CFの発生確率: 企業の生存確率 =1-P(t) (P(t):時刻tでデフォルトしている確率) CFの現在価値 = ∑ cNDi (1 − Pi ) i = cN ∫ D(t )[1 − P (t )]dt (c: プレミアム、N: 想定元本、D: ディスカウントファクター) 36 4-5.“理論的に導出”されるCDSプレミアム 2)支払CFの現在価値 デフォルト時の支払CFはいつ発生するか不明 →毎日CFが発生する可能性があるとして期待値計算 CFの発生確率: デフォルトが発生する確率 =dP(t)/dt (dP(t)/dt:時刻tでデフォルトする確率) CFの現在価値 = ∑ (1 − R )NDi ∆Pi (一日毎満期まで和を取る) i dP(t ) = (1 − R )N ∫ D(t ) dt dt (R: 参照債務の回収率、N: 想定元本、D: ディスカウントファクター) 最後に受取CFの現在価値=支払CFの現在価値としてプレミアムcを導出 (演習問題参照) 37 4-6.裁定は機能しているのか 【5年物の比較】 (出典:Reuters、JSDA、Markit 2014年4月16日現在) 格付 社名 大成建設 日本製紙 住友化学 新日鐵住金 神戸製鋼所 三菱重工業 東芝 NEC ソニー 日産 トヨタ 三菱商事 三井不動産 日本郵船 東京電力 R&I A AAA+ A+ AAAA+ AA+ AAA+ ABBB- JCR A+ A A+ AAA AA- A A+ AAA+ A シンジケート 社債スプレッド ローン (Tibor+) (JGB+) 84.0bp 20.80bp 22.5bp 26.67bp 24.0bp 29.48bp 20.8bp 20.48bp 42.5bp 50.88bp 17.9bp 13.81bp 52.3bp 27.76bp 53.2bp 29.69bp 46.8bp 55.76 16.7bp 15.79 7.7bp 9.82bp 16.6bp 13.50bp 27.2bp 13.00bp 36.8 27.74bp 252.5bp 239.15bp 38 CDS 65.66bp 146.66bp 64.05bp 66.34bp 160.80bp 39.47bp 80.09bp 83.60bp 159.79bp 47.55bp 32.03bp 35.65bp 44.54bp 78.09bp 231.99bp 4-6.裁定は機能しているのか ○日本市場で融資⇔社債⇔CDSの裁定が働きにくい理由 ★各市場が分断されている ・融資:大半が銀行と企業の「相対取引」 -シンジケートローンの発達で「市場取引」も徐々に拡大 ・社債とCDS:「市場取引」 但し、両者の市場参加者が異なる 社債:発行残高の90%は日本の居住者が保有 かつ、CDS取引に消極的な社債投資家もまだ多い CDS:取引参加者の大多数は非居住者(外資系) 39 4-7.CDS、社債スプレッド推移 住友化学 神戸製鋼所 350 300 700 社債 600 CDS CDS 250 500 200 400 150 300 100 200 50 100 0 2010/04/26 社債 0 2010/11/12 2011/05/31 2011/12/17 2012/07/04 2013/01/20 2013/08/08 2014/02/24 -50 2010/04/26 2010/11/12 2011/05/31 2012/07/04 2013/01/20 2013/08/08 2014/02/24 2013/01/20 2013/08/08 2014/02/24 トヨタ パナソニック 140 600 500 2011/12/17 -100 120 社債 CDS 100 社債 CDS 400 80 300 60 200 40 20 100 0 2010/04/26 0 2010/04/26 -100 2010/11/12 2011/05/31 2011/12/17 2012/07/04 2013/01/20 2013/08/08 2014/02/24 -20 -40 40 2010/11/12 2011/05/31 2011/12/17 2012/07/04 5.CDSトレーディングの実際 41 5-1.トレーディング手法 ○基本的には他の金融商品と同じ ①Direction:相場の方向で勝負 ⇒所謂 “上下の動き”を取る ②Arbitrage:裁定取引 ⇒所謂 “歪み”を取る (例)・割高割安取引:業績比割高な銘柄売り、割安な銘柄買い ・クレジットカーブ取引:同一銘柄の5年を売り、3年を買う 42 5-2.Direction(例:ニュース) ①ニュース/事実 ・日本銀行の異次元緩和発動(4月3日) ・東京オリンピック開催決定(9月7日) ・中国における景気減速懸念 ②ニュースを聞いて考えたこと ・異次元緩和によるリスクアセット購入拡大により投資家リスク意欲は改善 ・東京オリンピック開催に向けて、日本経済(内需)が活性化 ・中国の景気減速により、日本の輸出機会が減る ③相場感 ・異次元緩和がもたらすリスク意欲の改善で値動きの激しい銘柄に注文が殺到 ⇒ハイベータネームのプロテクション売り ・オリンピック開催を迎えるため、インフラ設備を整える ⇒建設、不動産関連銘柄のプロテクション売り ・中国景気減速の影響に不安が残る ⇒鉄鋼、海運、化学等の中国経済との関係が深い銘柄のプロテクション買い 43 5-2.Direction(例:ニュース) ①ニュース/事実 ・寒波の影響による米国経済減速、中国における景気減速懸念(1~3月頃) ↓ ・消費増税 -国内景気冷え込みの懸念(4月~) ②ニュースを聞いて考えたこと ・消費増税前に駆け込み需要で売上高の向上 ・消費増税後は売上が低下する懸念 ・米国の寒波の影響、中国の景気減速により、日本の輸出機会が減る ③相場感 ・消費増税前の駆け込み需要が、内需産業の業績を一時的に押し上げ ⇒建設、不動産、小売業のプロテクション売り ・米国消費の冷え込みによる外需低下が、本邦輸出企業の業績低迷の要因に ⇒自動車等輸出企業のプロテクション買い 44 5-3.Arbitrage(例:Skew/Basis取引) ①事実 ・iTraxx JapanのプレミアムとiTraxx Japanを構成する50銘柄個々のプレミアムを合成して 算出したプレミアム(=理論値)を比較してみた ・過去半年間、iTraxx Japan-理論値(=スキュー又はベーシス)が+10bpを超えたことは少ない ⇒理論的にはスキューは±0近辺に収斂するはず ・今日は+11bpだ。 ②相場感 ・今後2~3週間は大きな相場変動要因はなさそうだ。 ・したがって+10bpを越えるような相場のエネルギーはないだろう。 ⇒iTraxx Japanのプロテクション売り 100億円 構成銘柄のプロテクションを各2億円、計100億円買い(注) (目標)現状:+11bp ⇒ 利食い:+3bp (注)実際には50銘柄全てを買うと取引コストがかかりすぎるため、構成銘柄のうち代表的な数銘柄のみを 買う場合が多い 45 46 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 11/01 (bp) 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 12/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 250 240 230 220 210 200 190 180 170 160 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 20 05/01 5-3. Arbitrage(例:Skew/Basis取引) 【出典:みずほコーポレート銀行、Markit社 2014年4月16日現在】 iTraxx Japan 5年 実際レートと理論値レート 実際レート(A) 理論値(B) (bp) Skew((A)-(B)) 10 0 ▲ 10 ▲ 20 ▲ 30 ▲ 40 6.最近の相場動向 47 48 2014/04/01 2014/02/01 2013/12/01 2013/10/01 2013/08/01 2013/06/01 2013/04/01 2013/02/01 2012/12/01 2012/10/01 2012/08/01 2012/06/01 2012/04/01 2012/02/01 2011/12/01 2011/10/01 2011/08/01 2011/06/01 2011/04/01 2011/02/01 2010/12/01 200 2010/10/01 220 2010/08/01 2010/06/01 240 2010/04/01 6-1.インデックス 【出典:Markit社 2014年4月16日現在】 インデックス5年のプレミアム(日本、米国、欧州、アジア、豪州) (bp) 240 欧州 米国 アジア 220 豪州 日本 200 180 180 160 160 140 140 120 アジア 120 100 豪州 100 80 日本 80 欧州 60 米国 60 2011/11/01 49 2014/04/01 2014/02/01 2014/03/01 2014/01/01 2013/12/01 2013/11/01 2013/10/01 2013/09/01 2013/08/01 2013/07/01 2013/06/01 2013/05/01 2013/04/01 2013/02/01 2013/03/01 2013/01/01 2012/12/01 2012/11/01 2012/10/01 2012/09/01 2012/08/01 300 150 100 50 0 富士通 NEC パナソニック 日立 リコー 三菱電機 2014/05/01 ソニー 2012/07/01 シャープ 2012/06/01 2012/05/01 (bp) 2012/04/01 2012/02/01 2012/03/01 2012/01/01 500 2011/12/01 550 2011/10/01 600 2011/09/01 650 2011/08/01 700 2011/07/01 750 2011/06/01 2011/05/01 2011/04/01 2011/03/01 6-2.電機セクター 【出典:Markit社 2014年4月16日現在】 日本銘柄CDS(5年) 電機 ↑ Sharp Max: 5,068bp(2012/9/11) NEC 東芝 パナソニック 富士通 リコー 日立 三菱電機 450 400 350 シャープ 250 200 ソニー 東芝 50 2014/04/01 2014/02/01 2013/12/01 2013/10/01 2013/08/01 2013/06/01 2013/04/01 2013/02/01 2012/12/01 2012/10/01 2012/08/01 2012/06/01 2012/04/01 2012/02/01 2011/12/01 (bp) 2011/10/01 2011/08/01 2011/06/01 2011/04/01 2011/02/01 2010/12/01 200 2010/10/01 2010/08/01 2010/06/01 2010/04/01 6-3.ソブリン(主要国) 【出典:Markit社 2014年4月16日現在】 250 ソブリン(主要国)のCDSプレミアム(5年) FRANCE JAPAN AUSTRIA NETHERLANDS UK GERMANY US 150 100 50 France Japan Austria Netherlands UK Germany US 0 51 2014/04/01 2014/02/01 2013/12/01 2013/10/01 2013/08/01 2013/06/01 2013/04/01 2013/02/01 2012/12/01 2012/10/01 2012/08/01 2012/06/01 2012/04/01 2012/02/01 2011/12/01 (bp) 2011/10/01 2011/08/01 2011/06/01 260 2011/04/01 280 2011/02/01 300 2010/12/01 2010/10/01 2010/08/01 2010/06/01 2010/04/01 6-3.ソブリン(アジア) 【出典:Markit社 2014年4月16日現在】 ソブリン(Asia)のCDSプレミアム(5年) 320 INDONESIA PHILLIPPINES THAILAND CHINA KOREA 240 JAPAN 220 200 180 160 Indonesia 140 120 Thailand 100 80 Phillippines China 60 Korea 40 (Japan) 20 (参考)相場格言・推薦図書 52 (参考)相場格言① ○押し目待ちに押し目なし -どうせならより安く買いたいと思うのが人間心理というもの。しかし、実際は 皆買いたいと思うときは待っていても買えず、逆に安く買えたと思ったら更に 大きく売られたといったことも多々あります。 ○相場は相場に聞け -全知全能の人はいません。自分の相場観と逆にマーケットが動いている時には 謙虚に受け止め、再度分析してみるのも手。テクニカル分析が重宝がられている のも同様の理由と思います。 53 (参考)相場格言② ○下手な難平(なんぴん)怪我のもと -押し目の話と似ていますが、心情的に買い下がり(売り上がり)をやりたくなる ものですが、勝率は思ったほど高くありません。 ○安値おぼえ、高値おぼえ -相場は常に大きく動いている訳ではなく、一定のレンジの中でうごくことが多い ものです。ですがそういう相場では大して利益はあがりません。大相場を取ろう と思ったら、それまでの高値(安値)に囚われずにポジションを作る勇気が 必要です。 54 (参考)相場格言③ ○建玉(ポジション)に惚れるな -ポジションを作ったからにはかなり自信があるはず。でもそれに溺れてしまっては 売買のタイミングを逸します。 ○利食い千人力 -上記にもある通り、利食いはかくも難しい。しかし損切はもっと難しい。 ○見切り千両、損切万両 -相場の上手な人はほとんど例外なく損切の決断が早い。これが出来るように なる為にはかなりの経験が必要でしょう。 55 (参考)相場格言④ ○休むも相場 -何もアイデアが浮かばない時は一旦ポジションをきれいにして、一から分析を やり直すのも手。その代わり勝負どころと思ったら躊躇せずにポジションをとる こと。 ○たい焼きの頭と尻尾は相場にくれてやれ -どんな名人でも一番底値では買えないし、天井では売れない。でもついつい 一番いいところでトレードしようとして結局利食いのタイミングを逸してしまう 人間心理を良く表した格言。 56 (参考)相場格言⑤ ○若い相場は目をつぶって買え -新しい材料が出てトレンドもまだ出始めている相場は多少追いかけてでも 参加すべし。そうすれば下記のようなことが良く起こります。 ○材料は後からついてくる -結局相場とは個々の話で動くのではなく本来動くべき方向が決まっていて 後から見ると相場がそれを予見していたように見えるということでしょうか。 これもテクニカル分析の有効性を物語るものといえるかもしれません。 57 (参考)推薦図書:まずは基礎体力造りから ○入門マクロ経済学 (中谷厳著 日本評論者) -バブル全盛期に学生だった当時は「流動性の罠」は架空のものと思って いました。それとクラウディングアウトがこんなに頻繁に起こることも。 ○証券投資論(日本経済新聞社) -証券アナリスト試験推奨図書。体系的にまとまっています ○統計学入門(東京大学教養学部統計学教室編 東京大学出版会) -社会に出てこれほどt検定やR²を使うとは思いませんでした 58 (参考)推薦図書:財務分析・コーポレートファイナンス ○新版ファイナンシャル・マネジメント(ロバート・C・ビギンズ ダイヤモンド 社) -スタンダードな財務分析・コーポレートファイナンスの基本書 ○コーポレートファイナンス上下(リチャード・ブリーリー/スチュワート・マイ ヤーズ) 日経BP社) -コーポレートファイナンス、債券、株式の日米証券アナリスト試験重要範囲の大 半をカバーする基本書 ○企業価値評価(VALUATION)上下(マッキンゼーアンドカンパニー ダイ ヤモンド社) -ビジネススクールのコーポレートファイナンスの教科書として指定されるバイブル 59 (参考)推薦図書:マーケット入門編といえば ○東京マネーマーケット(加藤出編 有斐閣) -東京金融市場に関するバイブル ○金融マーケット予測ハンドブック(住友信託銀行・マーケット資金 事業部門著 NHK出版) -マーケット部門に来る新人には必ず最初に買いに行かせます ○スワップ取引のすべて(杉本浩一・福島良治・若林公子著 きんざ い) -旧長銀の人たちによる定番本。私も新人の頃読みました 60 (参考)推薦図書:クレジット関連ではこの辺り ○ビッグバン後のクレジットデリバティブ(木野勇人・糸田真吾著 財経詳報社) -元外資系投資銀行、日銀マンによるクレデリの教科書。困った時に紐解きます ○カウンターパーティーリスクマネジメント(富安弘毅著 きんざい) -著者は米系外資の現役トレーダー。既に欧米では一般的な最新のCVA (Credit Valuation Adjustments)技術が学べる ○金融リスクの計量化<下>クレジット・リスク(木島正明著 きんざい) -クレジットを金融工学的観点からをしっかり学びたい人向け ○クレジットリスクマネジメント(ジョン・B.カウエット/エドエワード・I.アルトマ ン/ポール・ナラヤナン シグマベイスキャピタル) -さらにクレジットを広く深く学びたい人向け 61 (参考)推薦図書:テクニカル分析は大切です ○はじめてのテクニカル分析(林康史著 日本経済新聞社) -「はじめての」と謳っていますが結構高度な話も書かれています ○先物市場のテクニカル分析 (ジョンJマーフィー著 きんざい) -20年前の本ですがそれだけテクニカル分析は普遍的ともいえます ○坂田五法は風林火山(日本証券新聞社編 日本証券新聞社) -日本は世界に先駆けて江戸時代に先物市場を創設した国です ○相場の心理学(ラース・トゥヴェーデ著 ダイヤモンド社) -愚者は体験に学び、賢者は歴史(チャート)に学ぶ 62 7.演習問題 63 7.演習問題① 【問題】 ○一般に、企業が増資を行った場合と買収(借入金の増加を伴う)を行った場合について、株 とCDS市場の反応について理由とともに述べよ(CDSはプロテクションの買いか売り)。 【1】株式市場の反応 増資 : 買いor売り 買収 : 買いor売り 【2】CDS市場の反応 増資 : 買いor売り 買収 : 買いor売り 64 7.演習問題①(解答欄) 【1】株式市場 増資:買い 売り 買収:買い 売り (どちらかに○) 買収:買い 売り (どちらかに○) (理由) 【2】CDS市場 増配:買い 売り (理由) 65 7.演習問題①(解答例) 【1】株式市場 増資:買い 売り 買収:買い 売り (どちらかに○) (理由) 増資は、希薄化(=1株当たりの価値減少)を伴うため売り材料。但し、増資後の業績拡大が見込める場合 は、株価が上昇するケースもある。 買収によるシナジー効果で企業価値向上が見込めれば買い材料。但し、借入れ金額が膨大な場合や 買収額が買収先の企業価値と見合っていないと判断する場合などは売りとなる。 【2】CDS市場 増資:買い 売り 買収:買い 売り (どちらかに○) (理由) 増資で得た資金を借入金返済に充当するのであれば、A社の財務体質は向上するため、プロテクションは 売り(=クレジット・ロング。社債の場合は「買い」)。 買収資金を借入金で新規に調達する場合、財務体質は悪化するため、プロテクションは買い(=クレジッ ト・ショート。社債の場合は「売り」)。但し、借入れが少額で、長期的にシナジー効果も見込める場合には、 財務体質悪化は限定的と判断し、業績拡大を見込んだ売り(=クレジット・ロング)となる。 66 7.演習問題② 【問題】 2年後に倒産している確率(=累積デフォルト率)が15%の企業について、 期間2年・想定元本10億円・回収率35%のCDS理論プレミアムレート(360日年率換算)を求めよ。 なお、計算に用いるディスカウントファクターDi, 時刻tまでの累積デフォルト確率P(t) および 時刻tにデフォルトする確率dP(t)/dtは以下の表の値を用いよ。 t(日数) 180 360 540 720 Di 0.9989 0.9975 0.9963 0.9945 P(t) 0.0403 0.0792 0.1153 0.1500 dP(t)/dt 0.0403 0.0389 0.0361 0.0347 また、計算を簡略化するため以下の条件を仮定する。 条件1: プレミアムの支払/受取日は180日毎に到来し、1年は360日とする 条件2: 初回プレミアム支払/受取日は現在から180日後 条件3: プレミアムの支払/受取日は計4回(含満期日) 条件4: 参照企業のデフォルトはプレミアムの支払/受取日のみで発生する (プレミアムの支払/受取日以外ではデフォルトしない) (注: エクセル等の表計算ソフトを用いない場合、有効数字4桁で計算し有効数字3桁で回答せよ) 67 7.演習問題② 【方針】 手順1: 資料P36の和公式を用いプレミアムCFの現在価値を求める ヒント) 生存率=(1-Pi) (Pi: 累積デフォルト率=デフォルトしている確率) 和を計算するのは4回分 手順2: 資料P37の和公式を用いデフォルト時支払CFの現在価値を求める 手順3: 手順2および手順3から求めたCFの現在価値が等しいとして理論プレミアムレートcを計算 ヒント) 360日年率換算であることに注意 → 和公式の c = c’/2として c’ を求める (単位 bp or %) 68 7.演習問題②(解答欄) 69 7.演習問題②(解答例) 【解答例】 t(日数) Di P(t) dP(t)/dt Di x (1-P(t)) Di x dP(t)/dt 180 0.9989 0.0403 0.0403 0.9586 0.0403 360 0.9975 0.0792 0.0389 0.9185 0.0388 540 0.9963 0.1153 0.0361 0.8814 0.0360 プレミアムCFのPV = (c’N/2)×① デフォルト時支払CFのPV = (1-R)N×② → c’= 2(1-R)②/① R = 0.35 より c’ = 539bp (= 5.39%) 70 720 0.9945 0.1500 0.0347 0.8453 0.0345 合計 3.6039 →① 0.1495 →② © 2014 株式会社みずほ銀行 本資料は東京大学経済学部での講義を目的として作成されたものであり、特定の取引の勧誘・取次ぎ等を強制す るものではありません。また、本資料はみずほフィナンシャルグループ各社との取引を前提とするものではありませ ん。 本資料は、当社が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、ご利用に際しては、 ご自身の判断にてなされますようお願い申し上げます。 本資料の著作権は当社に属し、本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他の如何な る手段において複製すること、②当社の書面による許可なくして再配布することを禁じます。 71
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