*妊娠さんの臨床検査について** 主な感染症 より安全な出産のために、妊娠中の定期健診で、臨床検査が行われます が、その検査の目的と、その結果からどのようなリスクが考えられるかなどを まとめてみました。 また、検査データーは妊娠の周期により値が変化しますので注意が必要です。 *母子感染予防の検査* 目 的 妊娠中に感染していても無症候であることが多いため、感染したまま出産し母子感染を起こすことが あります。感染症のスクリーニング検査は、感染の有無を見つけ、適切な治療を施し、母子感染を防 ぐことができる有用な検査です。 ● 表1 母子感染をきたすおもな病原体と児の疾患 ● Medical Technology2007Vol.35NO.10妊娠・分娩と臨床検査 7.母子感染に関する臨床検査 表2より参照引用しました 感染経路 ウ イ ル ス 胎 内 産道 B型肝炎ウイルス ○ ○ C型肝炎ウイルス ○ ○? HIV ○ ○ HTLV-1 ○ 風疹ウイルス 母 乳 児の病理病態 HBVキャリア、慢性肝炎、 肝硬変、肝細胞癌 HBVキャリア、慢性肝炎、 肝硬変、肝細胞癌 検査時期 スクリーニング 検査項目 初期 HBs抗原 初期 HCV抗体 ○ HIVキャリア、HIV感染関連 症候群、AIDS 初期 HIV抗体 ○ HTLV-1キャリア、HTLV関連 脊髄症、ATL 中期 HTLV-1抗体 ○ 先天性風疹症候群 初期 風疹ウイルス抗体 サイトメガロウイルス (CMV) ○ 先天性サイトメガロウイルス 感染症 初期 CMVIgG・IgM抗体 単純ヘルペスウイルス ○ エンテロウイルス 先天性ヘルペス、 新生児ヘルペス 疑わしい時 単純ヘルペスIgG・IgM抗体、 塗抹標本の抗原検査 ○ 先天性エンテロウイルス 感染症 疑わしい時 髄液のウイルス培養 水痘・帯状疱疹ウイルス ○ 先天性水痘症候群 疑わしい時 水痘・帯状疱疹ウイルスIgM 抗体、塗抹標本の抗原検査 ヒトパルボウイルスB19 ○ 胎児水腫 疑わしい時 ヒトパルボウイルスB19IgG・ IgM抗体 ○ ○ 新生児結膜炎、肺炎 後期 クラミジア抗原(PCR法、 IDEIA法など) ○ 先天梅毒 初期 STS法、TPHA法 リン菌 ○ 新生児膿漏眼 B群溶連菌 ○ 新生児GBS感染症 後期 細菌培養 真 菌 カンジダ・アルビカンス ○ 全身カンジダ症 後期 細菌培養 原 虫 トキソプラズマ 先天性トキソプラズマ症 初期 トキソプラズマIgG・IgM抗体 CT クラミジア・トラコマチス 梅毒 細 菌 ○ ○ 疑わしい時 細菌培養、リン菌抗原(PCR 法など) ● 母子感染をきたす主な病原体とスクリーニング検査陽性の意義 ● 病原体名 スクリーニング検査の意義について(検査が必要な理由) B型 肝炎ウイルス キャリアを発見することは、肝炎発症の予防、母子感染の予防、院内感染の予防が可能となります。 母がキャリアの場合、母子感染(主に分娩時に感染、5%は胎内感染)が原因で、児にB型肝炎ウイ ルスが感染します。母がB型肝炎ウイルスに感染している場合、出生児にワクチンを「B型肝炎感染 防止策」に従い、投与することで、児のキャリア化阻止率は、95%程度まで上昇します。 C型 肝炎ウイルス HCV抗体が陽性でも、HCV-RNA(ウイルスの有無を確認する検査)が「陰性」の場合は、母子感染 は起こしません。(C型肝炎ウイルスがいないということ)B型肝炎ウイルスと違い、C型肝炎ウイル スには「ワクチン」などの予防法はありませんが、C型肝炎の母子感染率は低く、もし児に感染したと してもほとんどの子供は、3歳までには自然治癒します。母が陽性の場合の児には生後3∼4ヶ月に HCV-RNAを検査などを行い、経過観察する必要があります。 ヒト免疫不全 ウイルス (HIV) ヒトT細胞 白血球 ウイルス-1 (HTLV-1) 妊娠中にHIV感染が確認されれば、抗HIV薬の投与、抗HIV剤を点滴しながらの帝王切開による 分娩、母乳の禁止などで、母子感染率は、1%以下まで減少します。無治療では、30∼40%母子感 染をおこし、感染した児の15%が1年以内にAIDSを発症・死亡してしまうため、スクリーニング検査 が有用なウイルスです。しかし、このスクリーニング検査は、疑陽性(陽性ではないが、試薬などと 何らかの反応をおこし「陽性反応」をおこしてしまう)が多いという問題があるため、スクリーニングが 陽性の場合には、必ず別方法(ウエスタンブロット法やRT-PCR法)による再検査が必要となります。 成人T細胞白血病(adultT-cell leukemiaHTLV-1)の原因となるウイルス。母乳によって感染するた め妊娠中に検査することで、キャリアを発見し、感染を防ぐために人口栄養哺育や凍結母乳、加熱 母乳、短期母乳(3ヶ月以内の母乳で感染率が3∼5%程度に減少)といった予防対策をとるこがで きます。しかし、わずかながら、子宮内感染もあるため、感染を完全に防止できるわけではありませ ん。スクリーニング検査はPA法やEIA法で行なわれますが、HIVと同様に疑陽性があるため、スク リーニングで陽性の場合、別方法(ウエスタンブロット法やIF法)での確認が必要です。 風疹ウイルス 妊娠初期にウイルスに感染すると、児に白内障や緑内障、先天性心疾患、難聴(先天性風疹症候 群)を引き起こすため、妊娠初期に風疹抗体価を測定し、(−)や低力価(HI法16倍以下)の場合は、 感染しないように努め、抗力価(HI法256倍以上)の場合は、風疹ウイルスIgM、IgGを測定し、感染 の時期を推測する方法があります。妊娠3ヶ月までに感染した場合、児への感染率が高いのです が、6ヶ月過ぎて感染しても児への感染率は0%に下がるため感染時期の推定が大切になります。 クラミジア・ トラコマチス 性感染症の病原体で、母が感染していると、産道感染により児に感染し、新生児の結膜炎や肺炎 を起こす可能性があります。妊娠30週くらいまでにはスクリーニング検査を行い、感染が確認され れば、母の治療と同時にパートナーの検査も行い、妊娠中の再感染を防止することも大切です。 梅毒 梅毒はTreponema pallidumという細菌による全身感染症です。梅毒に感染した母から胎盤を介し て感染した児は早期先天性梅毒や後期先天性梅毒(実質性角膜炎、内耳性難聴、歯の発育異常 で知られるHutchinsonの特徴)をきたします。母に感染が確認されても、適切な治療を施すことで、 母体に副作用をおこすことなく98.2%の児の先天性梅毒を予防することができます。 B群溶連菌 B群溶連菌(GBS)は、膣や直腸の常在菌のため、母から検出されても問題ないのですが、陽性の 母から児が生まれるときに産道感染を起こすことがあります。GBSに感染した児で、生後7日未満 での発病した児の死亡率は、4%をにも上るそうです。妊娠後期に検査を行いGBS陽性の場合は、 分娩時に抗生物質など投与するなどで児への感染を予防することができます。 トキソプラズマ トキソプラズマは、猫を最終宿主とする原虫です。人畜共通の感染症で、妊娠中に初期感染すると 胎内感染し、先天性トキソプラズマ症児が生まれることがあります。妊娠中にトキソプラズマ抗体を 測定し感染の有無や感染時期を推定します。初期感染が疑われる場合は、抗生物質(アセチルス ピラマイシン)による治療で、胎児の重症度を軽減できます。 カンジダ・ アルビカンス カンジダ属は膣内にも常在する真菌です。妊娠中は膣内の環境の変化によりカンジダが増殖しや すく妊婦のカンジダ保有率高くなってます。分娩時に感染していると産道感染を起こし、児の先天性 カンジダ症や鵞口瘡(口内炎)などの表在性カンジダを起こします。スクリーニングで陽性を認めた 場合、出産までに治療しておく必要があります。 母子感染を起こす病原体は、細菌、真菌、ウイルス、原虫と多岐にわたります。すべての感染症を予防することは、 できませんが、母子感染をおこしやすい病原体のスクリーニング検査を実施することで、「陽性」の場合の感染予防や 感染対策を行なうことができます。より安全な出産のためにスクリーニング検査は大事な検査なのです。 参照文献:MEDICALTECHNOLOGY2007Vol.35No.10「周産期医療と輸血検査」7.母子感染に関する臨床検査、臨床検査2009Vol53No.4「妊婦と臨床検査」妊婦の感染症スク リーニング
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