妊婦健康診査におけるHTLV-1抗体検査に 関わる調査と今後の対応 日本産婦人科医会 寺尾俊彦 妊婦健診の公費負担の拡充について 内容 ○ 妊婦の健康管理の充実と経済的負担の軽減を図るため、必要な回数(14回程度)の妊婦健診を受けられるよう、 公費負担を拡充。 ○ 平成20年度第二次補正予算(790億円)において、地方財政措置されていなかった残りの9回分について、平成 22年度までの間、国庫補助(1/2)と地方財政措置(1/2)により支援。 ○ 都道府県は、平成20年度中に妊婦健康診査支援基金を造成済み。 <拡充前> <拡充後> 9回 9回 個人負担又は 市町村の任意助成 5回 市町村 国庫補助 国 1/2 市町村 1/2 790億円 790億円 5回 市町村 地方財政措置 妊婦健診の標準的な検査項目 「妊婦健康診査の実施について」 (平成21年2月27日、雇児母発第0227001号、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知) ①血液検査 ・妊娠初期に1回、血液型(ABO血液型・Rh血液型、不規則抗体)、血算、血糖、B型肝炎抗原、C型肝炎抗体、 HIV抗体、梅毒血清反応、風疹ウイルス抗体の検査を実施。 ・妊娠24週から35週までの間に1回、血算、血糖の検査を実施。 ・妊娠36週以降に1回、血算の検査を実施。 ②子宮頸がん検診(細胞診) 妊娠初期に1回実施。妊娠初期に1回実施。 ③超音波検査 妊娠23週までの間に2回、妊娠24週から35週までの間に1回、妊娠23週までの間に2回、妊 娠24週から35週までの間に1回、36週以降に1回実施。 ④B群溶血性レンサ球菌(GBS) 妊娠24週から35週までの間に1回実施。 ○ 妊婦健康診査臨時特例交付金の補助単価(妊婦1人当たり) 「平成20年度妊婦健康診査臨時特例交付金の運営について」(平成21年2月26日雇児発0226003号) 妊婦健康診査の円滑な実施のために必要な事業に要する経費(妊婦1人当たり) 補助単価:63,790円以内 補助率 :国1/2、市町村1/2 日本産婦人科医会母子保健部 平成22年2月全国調査 4 平成21年度母子保健部 妊婦健診における先天感染関連検査調査 全国の妊婦健診施行施設に調査票を送付 – 対象 2,797施設 – 回答 2,074施設 – 回答率 74.2% 質問内容 1. 以下の感染症の検査を施行しているか? 風疹・麻疹・水痘・流行性耳下腺炎 2. 3. サイトメガロウイルス・HIV・HTLV-1 B型肝炎・C型肝炎・トキソプラズマ 予防接種可能な感染症における予防接種指導状況 予防接種のタイミング 5 結果: 検査実施率 実施施設数 未実施施設数 計 検査実施施設率% 風疹* 2003 51 2054 97.52 B型肝炎* 2048 10 2058 99.51 C型肝炎* 2043 12 2055 99.42 HIV* 2040 12 2052 99.42 HTLV-1** 1834 189 2023 90.66 トキソプラズマ 1075 865 1940 55.41 サイトメガロウイルス 123 1666 1789 6.88 麻疹 110 1696 1806 6.09 水痘 71 1731 1802 3.94 流行性耳下腺炎 37 1755 1792 2.06 *自治体において公費負担の対象となる検査 **一部の自治体で公費負担の対象となる検査 6 公的補助がない検査項目は施行率が低い。 HTLV−1抗体検査の施行率は、肝炎ウイル ス検査率に比べて低い。 →母子感染予防の観点から懸念される。 しかし、公的補助がなくても90%の施行率 から産婦人科医会会員の疾病に対する 理解度は高いと考えられる。 産婦人科診療ガイドライン産科編 (日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会) 妊婦健診時検査項目 クラミジア 梅毒 B型肝炎 C型肝炎 HIV HTLV-1 トキソプラズマ 風疹 現行検査(ガイドライン推奨) C → B (23年4月変更予定) A A A B C → A (23年4月変更予定) C A A:実施すること等が強く勧められる B:実施すること等が勧められる C:実施すること等が考慮される 厚生労働大臣 長 妻 昭 殿 学特別研究事業)「HTLV-1の母子感染予防に関す る研究」報告書において、「HTLV-1キャリアが全 国に拡散しているという研究報告があるので、妊 社団法人日本産婦人科医会 婦に対するHTLV-1抗体スクリーニングを全国で行 会長 寺尾 俊彦 い、母子感染を予防することを検討する時期に来 ている。」と提言されています。これらの提言を 妊婦健診でのHTLV-1抗体検査に対する 含む報告は平成22年6月8日に厚生労働省雇用均 公的補助の要望書 等・児童家庭局母子保健課長通知の一部として、 ヒト白血病ウイルス-1型(HTLV-1)は成人T細胞 全国の地方自治体にも提供されています。日本産 白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因 科婦人科学会/日本産婦人科医会では、来年4月に ウイルスであり、主に母乳を介して母親から子ど 改訂される産婦人科診療ガイドライン産科編にお もへ感染します。現在これらの疾患に効果的な予 いて、妊娠時に行う血液検査項目の中でHTLV-1抗 防薬や治療薬がありません。妊婦健診の現場で母 体検査を従来の推奨レベルC(実施することが考慮 親の感染状況を把握し、保健指導により母乳を一 される)からB(実施することが勧められる)に変 定期間制限することが母児感染のリスクを大幅に 更することが、改訂案を作成するコンセンサス 低減させる唯一の方法です。しかしながら、妊婦 ミーティングで既に承認されています。 健診でのHTLV-1抗体検査に対する公的補助がなく、 ATLやHAMの撲滅のためにHTLV-1母子感染の防止の 医師の自主的な説明と同意のもとに希望者に抗体 意義は極めて甚大であり、全妊婦がHTLV-1抗体検 検査が自費で行われているのが現状です。平成22 査を受けられるよう、妊婦健診でのHTLV-1抗体検 年度日本産婦人科医会の内部調査では、90.7%の施 査につき公費補助をいただけますよう格別なご配 設で検査が施行されていますが、これは、公的補 慮をお願い申し上げます。 助が有る梅毒、B型肝炎、HIV検査がほぼ100%であ ることに比べ明らかに低くなっています。日本に は約108万人のHTLV-1キャリアがいると推定されて おり、母子感染予防は国民の健康を守るためにも 2010年9月 極めて重要です。全国の全ての妊婦がHTLV-1抗体 日本産婦人科医会 検査を受けられるよう、妊婦健診でのHTLV-1抗体 日本産科婦人科学会 検査につき公費補助をいただきますようお願い申 日本周産期・新生児医学会から し上げます。 平成21年度厚生労働科学研究補助金(厚生労働科 それぞれ要望書が提出された 9 HTLV-1特命チーム(菅内閣総理大臣 ) ○ 成人T細胞白血病(ATL) は年間1000人に1人の 割合で発症。重篤な経過を辿り、治療が困難。 ○ 歩行障害や排尿障害などを引き起こす関連脊髄 症(HAM)は、年間3万人に1人の割合で発症 ○ ATL発病の可能性があるHTLV-1ウイルスの感染 者は、全国で約108万人と推計される。 ○ 九州・沖縄地方に多く分布していたが、人口流動 に伴ってキャリアの分布が拡散している。 ○ 母乳を介した母子感染は、効果的な予防対策が 確立して いる。 ○ 妊婦を対象とした全国一律の抗体検査やカウン セリングの必要性。 22年度中から公費負担決定(従来の妊婦健康診査支援基金から充当)
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