1 国際行政論第8回(2012)

国際行政論第8回(2012)
第8章
8-1
国際行政における財政と人事
国際組織の財政
性格(「多くの重要な人々がこれだけ少ない額のために執拗に議論することはない」
8-1-1 国際財政の概念-3 つのレベル
(1)各国間財政
(2)国際的活動に対する財政(援助)
(3)国際組織の財政
8-1-2 国際組織の通常予算
通常予算-目的を限定せず構成国が義務的に支払う分担金によって構成
(1)分担金算定方法
加盟国間平等-アセアン
等級を設定し構成国は自らが選択した等級に従って分担金を支払う cf. ITU、UPU
諸要素を考慮して分担比率を決定する(assessed contribution)
国連
IMO(船舶保有量比率を算入)
IEA(エネルギー消費量比率-一定時点で固定の問題)
先進国の抵抗-ACABQ、ジュネーブグループ
(2)固有財源制度
8-1-3 通常予算外資金
予算外資金-目的を限定して各国あるいはNGOから拠出を受けるもの
(1)類型
国連におけるPKO活動等に関する特別会計-PKO特別分担率に従って経費が分担
UNDP、国連人口基金(UNFPA)
、UNICEF等の特定の組織に対して自発的拠出
金を提供するもの(コアファンド)-毎年一回誓約会議で毎年の拠出金額が決定
目的及び受け入れ国の限定された特定のプロジェクトに対して信託基金を設立し自発的拠
出金を提供する場合-マルチバイ活動-このなかにも諸類型
(2)予算外資金の利点と問題点
信託基金拡大の理由
先進諸国の通常予算拡大への抵抗
行政上の利点:利用可能な資金が拡大、緊急事態等に迅速な対応が可能(逆にいえば予
測可能性が低い)、資金提供国は自らの目的のために国際組織の資源を利用できる
(4)予算外資金の分化の具体的態様
ILO:UNDP資金(現在はほとんどなし)
、通常予算、マルチバイ
UNICEF:G(general )cf. 「カード作戦」、S(supplementary)-国際制約あり
UNHCR:GP(General Programmes)、SP(Special Programme)(2000 年から変更)
PKO:個別活動毎に基本的には6カ月毎のマンデートで特別会計設立
特別比率での割り当て(自発ではない)
初期の軍事監視団は通常予算から、キプロスの場合関係者の自発的拠出も
(5)予算外資金の推移
推移
国連:財政危機・行政改革時の 1986-87 年に急増
WHO:従来通常以下が 13.8 億ドル(2002-3)に拡大 cf.通常予算 8.4 億ドル(2 年)
UNHCR:1991 年にSPがGPを越え、比率が2:1に、その後改善
1
UNICEF:1999 年以降S(補充的資金)が過半
人権 0.07(全 0.31)億ドル(1992-3)、0.63(全 1.05)億ドル(2002-3)増加分予算外
対応:ボルカー・オガタ報告-基本的には維持
cf. 行政経費部分は割当拠出、複数年交渉プレッジ、統合平和維持予算?
民間からの資金調達
UNICEF:3.8(全 11.4)億ドル(2000 年歳入)WHO:予算外資金の 4 割、全体
の 2.5 割(2000-2001 年)
ITU:歳入の約 12%民間セクターメンバーから
8-2
国際組織財政の運用-国連の場合
(1)予算の枠組み
プログラム予算
部、セクション、プログラム、サブプログラム
2007 年:33 プログラム:局レベル、サブプログラム:部レベル
組織
事務局:行政管理局プログラム計画予算財政室
cf. その長が財務官
外部機関:行財政諮問委員会(ACABQ)、総会第5委員会 cf.コンセンサス方式
cf. 連盟では総会と理事会で予算を巡る権限争い、国連では予算権限は総会に
cf. PKOの場合、設置承認機関(安保理)と予算承認機関(総会)のズレの問題
(2)予算策定過程
中期計画:6 年→4 年(1998 年以降)
立法マンデートをプログラム、サブプログラムに翻訳したもの
1974 年以来2年を1予算年度とする方式
非予算年度:事務総長予算提案概要(Budget Outline:優先領域、セクター別額)提出
予算年度:内部:事務局内予算部局が中心となり査定;外部:ACABQ、第5委員会
通常予算外資金の場合
国連の場合
ACABQ、第5委員会は体系的には関与しない
各専門機関等のマルチバイの組織対応
内部組織:専門の財源調達組織-UNICEF、UNHCR:ドナー別に組織化
:事業部局が直接資金調達-ILO、WHO
外部機関:簡略化-例:UNHCRではSPの場合執行委員会は関与しない
(3)運用上の問題:裁量を確保するための過大見積もり(国際連盟、PKO)
(4)調達行政
1976 年機関間調達責任者ワーキンググループ
公平性、透明性とともに履行能力の確保重要
他方、癒着も防ぐ必要
8-3 国際組織の人事
8-3-1 国際人事行政の概念-3つのレベル
(1)各国間人事行政:各国の人事行政の調整、交流、援助
(2)国際組織の人事行政-委員会、混成部隊
(3)国際組織の人事行政-事務局
8-3-2 国際組織の人事行政-事務局の運用制度的諸問題
(1)独立性と派遣職員
国連憲章第 100 条 1 項、2 項
2
派遣職員の忠誠問題
行政裁判所における派遣職員の任期延長可否を巡る問題
(2)職員のカテゴリー-国連の場合
職員規程、職員規則(100 シリーズ、200 シリーズ、300 シリーズ)
正規職員、プロジェクト職員、臨時職員
(3)国際的性格と採用
能力原則と地理的配分の原則 cf. 両者の関係
上級職(D2-D1、P5-P1)と一般職
さらに上級職の上に事務総長、事務次長、事務次長補といった職員
そのうち一部が地理的配分の原則に従う
地理的配分:各国に対する配分枠(望ましい職員数)を算出する数式-メンバーシップ要
素、人口要素、拠出 金要素が考慮される
地理的配分枠と能力原則の両立:地理的配分の枠内で採用試験
P1、P2ポストに関して採用試験(1990 年時点で 120/300)cf.現在P3も試験
外部採用のための採用試験は各国の採用枠を設定し各国に採用ミッションを送って実施
(4)給与
ノーブルメール原則
問題:比較の対象と上乗せのレベル
物価較差・為替変動への対処
(5)共通システム cf. IMF・世銀の制度的分化、運用も含めれば元々共通性不存在?
8-3-3
国際組織の委員会・混成部隊における人事行政
(1)性格
人的資源の希少な国連においては各国、各組織から人材を調達して組み合わせて利用
性格-広い世界から人材の確保 or コミュニケーション不足・原則の対立-運用上の課題
(2)具体的方式
1)会議・委員会
相互討議
分業:ICAO、ITU、IMOといった実務的機関における特に下位レベルの小委員会
や作業部会においては各国が議長を分担し、各々運営に責任を持つ。しかし、この分業
が適切に行われるという保証はない-例えば能力のない国がある部会の議長職を務め続
けるという問題(ISO)
2)PKO(構成部隊による直接的オペレーション)
PKOの人材は各国から有償で派遣される(なかなか支払のない場合は多いが)
各国とスタンドバイ協定が結ばれている場合も多いが実際にはルワンダ等の事例が示すよ
うに協定があっても各国が理由をつけて断ればおしまい
最近:NATO等地域組織と分業
民間機関の利用(PPP) cf. ICP、UNHCRの支出-NGO:3/12 億ドル
(3)小括:この部分の量的重要性
8-4 国際組織の人事行政の運用-国連の場合
(1)人事行政の枠組み
総会、第 5 委員会-人事行政に詳しいわけではない、ICSC
財源による差異
分担金による場合のポスト設置-総会
予算外資金-事務総長
3
内部:管理局人的資源管理室
(2)個別的人事行政の意思決定過程プロセス
人的資源管理室の役割小さい
個別人事については上司+採用昇任委員会(職員組合の力強いところも)の判断
2000 年「人事管理改革に関する事務総長報告」-2001 年総会決議 55/258
2002 年新たな職員選考制度-中央審査委員会設置
P1-3:国連職員採用競争試験-合格者には早急なポスト提示が求められる
(3)アウトソーシング
UNHCR-NGO等と実施協定を締結し業務パートナーに cf. 最近依存度低下傾向
8-5 国際行政における予算額と職員数の動向 cf. Appendix
8-6 国連システムにおける最近のNPM的改革
1997 年 7 月:アナン事務総長報告書『国連の刷新』
United Nations, Renewing the United Nations: A Programme for Reform: Report of the
Secretary-General, (A/51/950) 1997-結果志向型予算
1999 年「結果志向型予算」(A/54/456)漸進的アプローチ
2001 年 1 月国連総会決議(55/231):成果に影響を及ぼす外部要因を同定しておくこと、
インプットデータについても従前の詳細度を維持すること、人件費とそれ以外の費目間
流用は総会の同意を条件とすること、柔軟性を行使するに際しては総会の規範・決定を
厳格に尊重することを条件に、結果志向予算の導入を決定した-NPM 的マネジメント改
革の重要な要素は、結果の評価に関するコントロールを厳格にする代わりに、財務等に
関して柔軟性を付与するというものであったが、事務局の裁量増大を恐れた総会は、裁
量拡大には制限を付したうえで結果志向予算の導入を認めた
2006 年 3 月アナン事務総長報告書『国連への投資』United Nations, Investing in the United
Nations: for a Stronger Organization Worldwide, (A/60/692) 2006-国連のオペレーションの増
加(⇔会議、会合、例:PKO8 万人 50 億ドル)を背景に、事務局の根本的なオーバーホ
ールの必要を主張
①人への投資
課題として、キャリア・昇進の展望の欠如、過度の官僚制によるフラストレーション、
採用手続きの遅れ(PKOの 3 分の 1 のポストが空白)、流動性の低さ、職業グループ
("silos”)の固定化等が指摘され、迅速なリクルート、流動性強化(SG が必要なときに異
動できるように、ポストの半分をローテーションに)、キャリアモデル導入・強制的研修、
permanent contract→open ended “continuing” appointments が提案された
②リーダーシップへの投資
SG の課題として、unmanageable span of control: 25 departments and offices、報告
を上げる 10 の funds and programs、USG の役割非明示が示され、DSG の役割再定義、
レポートラインに 25 から 8 への削減が提案された
③ICT への投資
ICT 戦略については、戦略の欠如、投資不足・行政経費の 7%の投資(通常 12-17%)
が指摘され、追加的投資、リーダーシップの担い手としての CITO(Chief Information
Technology Officer):ASG レベル設置の提案がなされた
④サービス提供方法への投資
サービス提供方法の課題として、移転、民間委託(contract out)、アウトソーシング、
テレコミュートが指摘され、また、大部分の行政支援サービスがインハウスである、GA
はアウトソーシングに様々な制約を課す(2000 年 12 月決議 55/232)という問題が指摘さ
れた。国連においては調達規模の飛躍的拡大(4 億ドル 1997 年から 16 億ドル 2005 年)
4
の中で、サービス提供方法が重要な課題であることが示された
⑤予算財務への投資
これまでの改革でパフォーマンス指標に焦点が置かれるようになったが、加盟国の SG
提案評価には大きな変化なし-line items detail を議論している、SG が緊急ニーズに資源
をシフトする権限は限定されているという問題が指摘され、ルールの根本的再検討必要が
示された。そして、予算サイクルは 1 年に縮減、予算は 35 区分から 13 区分へ、職員4カ
テゴリー:SG は各カテゴリーで 10%以内の人事異動可能に、PKO 会計の一元化といった
提案がされた
⑥ガバナンスへの投資
事務局、総会委員会関係機能不全-委員会数多すぎる、第5委員会は詳細に過度に注目
しているといった問題が指摘され、
単一の包括的年次報告、
委員会はコア予算問題に集中、
ACABQの技術的能力の確保といった提案がされた。
<対応>
マンデートの再検討(アウトカムドキュメントでは、GAその他で採択後 5 年以上たった
マンデートのレビューが求められ、マンデートレビュー促進のための分析と勧告:
A/60/773:2006 年 3 月が出された)-問題意識:マンデートの実効性・優先順位の達
成への貢献度の分析が必要、過剰報告(2005 年度で 1200 報告、その他数百のブリーフ
ィング)によるレポートの質下落、代表部(特に小国)の負担、加盟国に全体像を見え
ない、不十分な調整、マンデートとリソースのギャップ
<関連対応:スキャンダルの発生を受けての不正防止策導入>
アナン事務総長時代の後期になり、イラクでの石油・食糧交換計画での事務局側責任者の
不正や、アナン事務総長やその息子の不正疑惑のスキャンダルが発生
倫理オフィスの設置-石油と食糧交換計画における不祥事などを受けて、2005 年の世界サ
ミット成果報告に、職員の倫理行動・資産情報開示・不正行為の通報者の保護・倫理規
範等について担当する倫理オフィス(Ethics Office)の設置が盛り込まれ、2006 年に倫理オ
フィスが設置された-業務は、財務開示プログラム、不正行為の通報者に対する制裁保
護、ヘルプラインの運営を含めた倫理問題への職員支援、全ての職員への毎年の倫理ト
レーニングを含めた倫理問題の基準・トレーニング・教育、事務総長が適当と考えるそ
の他の事項
8-7 国際組織の財政・人事の課題-相補性の管理
8-7-1 国際組織の財政の課題
(1)運用上の諸問題-「相補性」の管理
通常予算外資金:各ドナーの関心の相補性によりより広い対象をカバーできる、緊急性・
変動性のある資金需要に対応できるというメリットと、場合によっては優先順位設定を
歪め、配分の偏向をもたらすというデメリットとのバランス
会計間貸付という操作-短期的対策
(2)制度設計
予算外資金の利点-会計責任の確保(目的通りの使用の確保)
EC/EUとの比較:量、オウン・ソースの確保
8-7-2
国際組織の人事の課題
(1)相補性の管理
(2)EC/EUとの比較
規模
セクター間人事
非公式的地理的配分 cf. 拡大のインパクト
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