Tanaka Women`s Clinic Study ̶若年女性のやせと妊娠糖尿病̶

特集 日本人糖尿病の大規模臨床・疫学研究
Tanaka Women’
s Clinic Study
̶若年女性のやせと妊娠糖尿病̶
谷内 洋子 Yoko Yachi(千葉県立保健医療大学健康科学部准教授/
新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学)
田中 康弘 Yasuhiro Tanaka(田中ウィメンズクリニック院長)
曽根 博仁 Hirohito Sone(新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学教授)
key words
妊娠糖尿病/若年女性のやせ/やせ願望/20歳時BMI
性の「やせ」は30歳代にも及び,平成25年国民健康・栄
養調査1)によると,その割合は17.6%に達している。これ
はじめに
に対して,20歳代,30歳代の肥満(BMI>25kg/m2)女性
肥満に起因する健康上の問題が社会問題化している一方
の割合は10.7%,13.3%と同年代の男性(それぞれ21.8%,
で,近年わが国では若年女性のやせ過ぎが深刻さを増して
25.4%)と比較してきわめて低い。さらに,10歳代後半∼
いる。国民健康・栄養調査結果によると,20歳代女性の
30歳代の女性の平均BMIは過去20年で徐々に減少してお
2
「やせ」
[BMI(body mass index)18.5kg/m 未満]の割合は,
1995年以降
割を超えた状態が現在まで続いており,生理
り,その傾向は特に都市部で顕著である2)。
このようにわが国の若年女性の痩身傾向は顕著であるに
的に体重増加が必要な妊婦も含めて若年女性の痩身化が進
も関わらず,自身の体型の自己評価は,20歳代女性の
んでいる。出産可能年齢にある若年女性の平均BMIがこれ
以上,30歳代女性の半数以上が自分自身の体型を「太って
ほど顕著に低下しているのは世界的にも稀で,妊娠・出産
いる」または「少し太っている」と認識している3)。これ
年齢にある日本人若年女性の栄養不良傾向が懸念されてい
らのことから,若年女性では実際の体格(実測BMI)と自
る。
身の体型認識との間にずれが生じており,実際には肥満し
これらの背景を元に本稿では,妊娠前の体重歴と妊娠糖
ていなくても自身の体型を太っていると誤認し,やせ願望
尿 病(gestational diabetes mellitus:GDM) 発 症 と の 関
を抱く者が多いと考えられる。実際に,日本人若年女性は
連について,日本人健常妊婦を対象に前向きに検討したわ
他の民族に比べBMIが低く痩身化が進んでいる状況にあっ
れわれの研究結果を紹介する。
ても,自身の体型に対する不満が高い傾向にあり,米国人
割
と比較すると,日本人女性のほうがより細い体型を好み4),
Ⅰ.現代日本における若年女性(産む世代)の
やせとやせ願望 日本人女性のやせ願望はアジア人のなかでも比較的強い傾
向にあることが知られている5)6)。
若年女性のやせ過ぎは,骨密度の低下,死亡率の上昇
中高齢者や男性における肥満が増加している一方,20歳
など女性本人の一生の健康への影響7)-9)に加え,やせてい
代女性の「やせ」(BMI<18.5kg/m2)の割合は,1995年以
る状態で妊娠した場合,低出生体重児(low birth weight
降
infants:LBWI)出産リスクの上昇および次世代の健康へ
752
割以上を占める状態が続いている。さらに近年では女
Diabetes Frontier Vol.26 No.6 2015-12
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