途上国における女性たちの健康問題

途上国における女性たちの健康問題
2008年7月5日(土)
女性たちの医療格差~世界では、日本では~
国連人口基金東京事務所長 池上清子
内容
1.
2.
3.
4.
5.
国連人口基金とは
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
ミレニアム開発目標
女性の健康問題
高齢化社会とジェンダー
About UNFPA
1. 国連人口基金とは
国連人口基金とは
 英語名:UNFPA
(United Nations Population Fund)
 1969年に設立、世界約150ヵ国で活動
 「開発支援活動」と「人道支援」との両立
 人口と開発のバランスを取る
 各国政府、NGOや民間研究機関などの市民社会、
民間企業との連携
 国際人口開発会議(ICPD)行動計画(1994)に基づ
く
国連人口基金の活動領域
3つの重点活動領域:
① リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
② 人口と開発
③ ジェンダー平等
人口問題の2つの視点
(1)マクロ vs ミクロ
 マクロの視点
人口の増加・減少といった数の問題、計画や政策のためのマ
クロ経済変数ととらえる認識
 ミクロの視点
人権を基本概念とする個人レベルでの「ウェル・ビーイング」、
人々の生活の向上といった質の問題を考えるアプローチ
 衣食住が満たされているか、基礎的な教育を受けることが
できるか、健康に生涯を暮らせるか、「自分らしく」生きるこ
とができるか、またそのような選択肢をもっているか等
(2)人口急増 vs 人口急減
 人口置換え水準と人口転換
 人口爆発と少子化
マクロの視点
世界人口の
世界人口の推移
推移(推計値)
出典: 国連人口基金東京事務所ウェブサイト
ミクロの視点
希望する
希望する
子ども数の平均
子ども数の平均
ガーナ
(2003)
ガーナ
(2003)
都市部
都市部 3.9
農村部
4.9
3.9
4.9
農村部
フィリピン
都市部
フィリピン (2003)
(2003)
農村部
日本
日本
3.2
2.8
3.2
2.48
2.48(2005)
(2005)
出典:
合計特殊出生率
合計特殊出生率
(TFR:1人の女性が生涯に産む子ど
もの平均数)
3.1
5.6
3.1
5.6
3.5
3.0
4.3
1.26
1.34
(2007)
(2005)
日本) 社会保障・人口問題研究所『第13回出生動向基本調査』、2006
厚生労働省『平成19年人口動態統計月報年計(概数) 』、2007
ガーナ・フィリピン) UNICEF statistics, Demographic & Health Survey、 2003
Reproductive Health/Rights
2. リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
リプロダクティブ・ヘルスとは??
リプロダクティブ・ヘルスとは
女性の健康
母子保健
安全な妊娠・出産
つまり、一人ひとりのお母さんの健康を守る
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
(性と生殖に関する健康/権利)の定義
リプロダクティブ・ヘルス
リプロダクティブ・
ヘルス/
/ライツ
ライツの概念
の概念
 「生命の再生産過程」=次世代をつくることに関わる保健ニ-ズを
総合的に把握する枠組みで、1994年の国際人口開発会議で公式に
定義され、国際社会で認知された
「リプロダクティブ・ヘルス」とは
「リプロダクティブ・ヘルス」とは??
 生殖の仕組み、機能、過程のすべての側面において、単に疾病・障
害がないというだけでなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な
状態にあること(ICPD行動計画7.2)
「リプロダクティブ・ライツ」とは
「リプロダクティブ・ライツ」とは??
 すべてのカップルと個人が、自分たちの子どもの数、出産間隔、お
よび出産する時期を責任をもって自由に決定でき、そのための情報
と手段を得ることができるという基本的権利 (ICPD行動計画7.3)
リプロダクティブ・ヘルスの課題
 子どもの生存
 母子保健
 思春期保健
 家族計画
 人工妊娠中絶
 不妊への取り組み
 HIV/エイズを含む性感
染症(STI)
 更年期障害
 その他(FGM/FGC等の
harmful practiceの防止
を含む)
リプロダクティブヘルスの課題はミレニアム開発目標
に取り入れられている。
⇒ミレニアム開発目標とは
ミレニアム開発目標とは?
リプロダクティブ・ライツの指標
 結婚、離婚、財産所有、相
続に関する権利
 女性の結婚に関する合意
 法的結婚年齢
 家族計画実行率
 女性国会議員と女性公務
員の割合
 出産休暇
 労働力に占める女性の割
合
 初等、中等教育の女性の
就学率
 男性に対する女性の識字
率
 乳児死亡率
 訓練を受けた出産介助人
が立ち会った出産率
 妊産婦死亡率(MMR)
 妊娠・出産で死亡する生涯
リスク
 15~19歳の出生率
 合計特殊出生率(TFR)
リプロダクティブ・ライツの指標
- 妊産婦死亡率の地域格差
 妊産婦死亡率
(出生数10万人に対する妊産婦死亡数)
→1,000を超える14の国のうち13カ国はサハラ以南のアフリカ地域
 最高: シエラレオネ(2,100)
 最低: アイルランド(1)
 妊娠・出産で死亡する成人の生涯リスク
(女性が妊娠・出産で死亡する確率)
→アフリカ(26人に1人)、オセアニア(62人に1人)、アジア(120人に1人)、
先進国(7,300人に1人)
 最高: ニジェール(7人に1人)
 最低: アイルランド(48,000人に1人)
出典:WHO, UNICEF, UNFPA, and the World Bank, “Maternal Mortality in 2005”
妊産婦死亡の現状
1分間に1人、
世界のどこかで妊産婦がなくなっている
(536,000人/年)
→その多くは救えるはずの命
妊産婦死亡は避けられる①
3つの遅れ
自宅
輸送
医療機関
妊産婦死亡は避けられる②
MMRを削減するための3項目
家族計画
専門技能者の立会いの下での出産
緊急産科ケア
Millennium Development Goals
3. ミレニアム開発目標
ミレニアム開発目標
Millennium Development Goals (MDGs)
 ミレニアム開発目標(MDGs):
ゴール1:極度の貧困と飢餓の撲滅
ゴール2:普遍的初等教育の達成
ゴール3:ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
ゴール4
ゴール4:乳幼児死亡率の削減
ゴール55:妊産婦の健康の改善
ゴール
ゴール6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
ゴール7:環境の持続可能性の確保
ゴール8:開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
ゴール55の指標について地域格差をみてみましょう
ゴール
MDGs目標5:妊産婦の健康の改善
ターゲット 5A
1990年と比較して妊産婦の死亡率を
2015年までに4分の1に削減させる
指標
 妊産婦死亡率
 医療従事者の立会いによる出産
の割合
MDGs目標5:中間報告①
ターゲット:妊産婦死亡率
出典:MDG Monitor, www.mdgmonitor.org
MDGs目標5:中間報告②
ターゲット:
医療従事者の立ち会いによる出産の割合
出典:MDG Monitor, www.mdgmonitor.org
MDGs目標5:妊産婦の健康の改善
ターゲット 5B
2015年までにリプロダクティブ・ヘルス
への普遍的アクセスを実現する
指標
 避妊実行率
 思春期(15-19歳)における出生数の低下
 産前健診回数の増加(1回・4回)
 家族計画のアンメットニーズ
ターゲット5B・指標5.3
避妊実行率
(%)
90
80
70
60
50
40
30
20
1990
1995
2000
2005
10
0
出典:国連経済社会局人口部
Women’s Health
4. 女性の健康問題
女性に対する暴力
 インドのBride Burning(焼か
れる花嫁)
 若年結婚
 女性性器切除(FGM/FGC)
 フィスチュラ(産科ろう孔)
↓
ジェンダーの不平等と関連
FGM/FGC
(Female Genital Mutilation/Cutting:女性性器切除)
 医学的ではない文化的理由による女性性器の部分
的または全体的な切除、あるいは性器をそのほか
の形で傷つけること
 主に乳児から15歳の少女が対象となるが、成人女
性も対象になることも
 イスラム圏に多く実施されているが、イスラムの教
義の中に記載はなく、土着宗教、キリスト教徒にお
いても実施されている
どこで?
(15-49歳女性)
 アフリカ西部、東部、北東
部を中心に、中東、東南ア
ジアの一部地域で行われ
ている
 女性性器切除経験女性は
1億-1億4,000万人と推定
されている
 アフリカでは毎年300万人
がFGM/FGCのリスクにさ
らされている
(出典: WHO, Factsheet #241, 2008)
出典: UNICEF, Female genital mutilation/cutting : a statistical exploration, 2005
どのように?
FGM/FGCの4つのタイプ
 タイプ1:陰核切除(Clitoridectomy)
 クリトリスの一部または全部を切除
 タイプ2:切除(Excision)
 クリトリスの切除と小陰唇の一部または全部
の切除
 地域によっては「出産を楽にするため」と膣を
さらに切除
→かえって出産を困難に
 タイプ3:陰門封鎖(Infibulation)
 外性器(クリトリス、小陰唇、大陰唇)の一部
または全部の切除、および膣の入り口の縫
合による膣口の狭小化または封鎖
 タイプ4:その他の施術
(タイプ1~3に属さないもの)
Stephen Gilbert, ©RAINBO
FGM/FGCの制度・対応
 ブルキナファソでは女性性器の切除者に対して厳
罰だけでなく、通報制度を制定
 途上国では、エジプトなどでは、健康の課題として
医療化により解決を図る
 先進国
 スウェーデン:アフリカ系住民によるFGM/FGCの実施を
条例で禁止、国外でのFGM/FGCを行った者への訴訟も
可能
 フランス:国内でのFGM/FGCを子供への暴力とみなし刑
罰
FGM/FGCと法・教育
 法律・司法の役割が重要
 女性に対する識字教育と人権教育の必要性
 FGM経験者の著書
 キャディ著 『切除されて』
 ディリー著 『砂漠の女ディリー』
人道支援とリプロダクティブ・ヘルス
 人道問題とは、自然災害や戦乱を含め、理由を問わず大規
模かつ直接的に生命・身体に危害が及ぶこと
 正当かつ普遍的な原則に基づく介入
 人道支援は国境を越えた問題
 女性、特に夫のいない女性や若い女性は被害にあいやすく、
リプロダクティブ・ヘルス・サービスを利用しにくい
<例>
 ダルフール紛争
 アフガン難民
 地震・津波(参考:パキスタン、インドネシア等における国連人口基
金の活動)
 ボスニア・ヘルツェゴビナ
自然災害時の緊急人道支援
-インド洋沖地震被災地向け衛生キット
 キットの中身
石鹸
歯ブラシ
生理用ナプキン
シャンプー
バスタオル
くし
サンダル
お祈り用マット
男性用腰巻又は女性用下
着
長袖シャツ・頭巾
 インドネシアでは約320,000キット
が配布された
 女性用70% 男性用30%
Aging Society and Gender
5. 高齢化社会とジェンダー
タイとフィリピンの高齢人口の推移
タイの人口ピラミッド
2000年
フィリピンの人口ピラミッド 2000年
2050年
2050年
日本の人口ピラミッド:
形の変化に注目
1950
2000
2050
少子高齢化によって起こる問題の例
(人口オーナス)

人口減少
 国内市場の縮小
 納税者の減少

労働人口の減少
 国全体での経済活動の縮小

社会保障負担の増加
 年金制度
 老人介護医療制度
日本には馴染み深い問題だが、現在の途上国も将来同じ問題
を抱えると考えられる
日本の高齢化と女性
2005年人口総数
1億2,600万人
2050年人口総数(推計)
8,800万人
65歳以上(女性)
11.6% (1,460万人)
65歳以上(男性)
8.5% (1,070万人)
65歳以上(女性)
22.4% (1,980万人)
その他 79.9%
100人(百万)
0 - 64歳
79.9% (1億100万人)
0 - 64歳
61.1%(5,400万人)
65歳以上(男性)
16.5% (1,460万人)
出典:エイジング
出典
:エイジング総合研究
総合研究センター(
センター(2006
2006年)
年)
日本の高齢化の地域差
県別の高齢化推移をみてみましょう
 日本の高齢化(老年人口割合の推移)
 平均寿命(男女別)
 女性の高齢化が顕著で、都市部より農村部
のほうが老年人口割合が多いことに注目
老年人口割合
1925年
老年人口割合
1960年
老年人口割合
1980年
老年人口割合
1985年
老年人口割合
1995年
老年人口割合
2005年
都道府県別平均
寿命の推移
1965年
男性
全国平均
67.74歳
都道府県別平均
寿命の推移
1965年
女性
全国平均
72.92歳
都道府県別平均
寿命の推移
1975年
男性
全国平均
71.89歳
都道府県別平均
寿命の推移
1975年
女性
全国平均
77.01歳
都道府県別平均
寿命の推移
1985年
男性
全国平均
74.95歳
都道府県別平均
寿命の推移
1985年
女性
全国平均
80.75歳
都道府県別平均
寿命の推移
1995年
男性
全国平均
76.70歳
都道府県別平均
寿命の推移
1995年
女性
全国平均
83.22歳
都道府県別平均
寿命の推移
2005年
男性
全国平均
78.79歳
都道府県別平均
寿命の推移
2005年
女性
全国平均
85.75歳
少子化・高齢化に向けてできること
 国際連携:日本社会の経験(急激な高齢化とその
対応、政策的な試行錯誤、社会での議論)はこれ
から高齢化する社会にも役に立つ
 国連の「マドリッド行動計画」 (2002年)
1. 高齢者の社会参加と自立を促進する
2. 高齢者の健康と生活の質を向上させる
3. 高齢者が自己実現できる環境を整える
 少子化・高齢化の両方の対策において
ジェンダー配慮を
21世紀に生き、
地球の未来を担う皆さんへ
 多様性
 女性(少数派)
 人権
©UNFPAコロンビア事務所
Thank you very much!
国連人口基金 東京事務所
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