9963 伝熱シンポジュウム 2000(神戸) ガス火炎面に突入する液体燃料噴霧の燃焼機構 Combustion Mechanisms of Liquid Fuel Spray Entering Gaseous Flame Front * 機正 赤松 史光(阪大工) 機学 高田 鎮寛(阪大院) 機准 斎藤 寛泰(阪大院) 機正 香月 正司(阪大工) Fumiteru AKAMATSU, Shigehiro TAKADA, Hiroyasu SAITOH, and Masashi KATSUKI Osaka University, 2-1, Yamada-oka, Suita, Osaka 565-0871, Japan Numerical calculations and experimental observations were conducted on combustion processes of polydisperse spray entering gaseous flame front stabilized in laminar 2D counterflow configuration. The results are compared to each other to ensure validity of the simulation model. The Eulerian/Lagrangian approach was used for the numerical simulations. For the gaseous phase, the governing conservation equations of the flow were solved based on the finite control volume method. Transport properties and thermodynamic data of the gaseous species were obtained by CHEMKIN. For the disperse phase, all the individual droplets were traced without taking the concept of "droplet parcel". The film theory was employed for estimating the droplet evaporation rate and the heat transferred from the gaseous phase to the droplet interior. Key Words: Spray Combustion, Numerical Simulation, Droplet Group Combustion, and Flame Structure 1. はじめに 噴霧火炎中では,液体燃料の微粒化,油滴の気 はじめに 相への分散,蒸発,燃料蒸気の空気との混合,といった多くの 過程が同時に進行しながら燃焼反応が起こっているため,その 火炎構造はきわめて複雑であり,依然不明な点が多く残されて いる. 近年われわれは,従来の時間平均的統計量の測定に代わり, 高時間・高空間分解能かつ高精度な変動量の時系列データの多 チャンネル同時測定により,Chiu らの油滴群燃焼仮説(1)を定量 的に検証することに成功した(2-4).その結果,流れ場中の乱れや 油滴間相互干渉の影響が噴霧火炎の燃焼特性を支配し,噴霧の 不均質性が群としての挙動を作りだすこと,さらにこの群挙動 の時空間的変化が,噴霧の燃焼機構と深く結びついていること が明らかとなった. しかし,実験により噴霧火炎中の全ての物理量を計測するこ とは不可能に近いので,さらなる噴霧燃焼機構の解明を目指す には, 実験的研究と数値解析的研究の密接な連携が必要である. しかしながら,噴霧火炎の微細構造に関して両結果を詳細に比 較して,火炎の非定常挙動を議論した研究は少ない. 本研究では,層流の2次元対向流場に形成されたガス火炎面 に噴霧が突入する際に,油滴群の存在によって生じる物理量の 不均一性に起因する火炎構造の変化,ならびに油滴群の燃焼機 構を明らかにするために,火炎の非定常挙動を数値解析し,対 応する実験結果との比較を試みた.数値解析においては,気相 の状態は非圧縮性ナビエ・ストークス方程式を解くことでオイ ラー的に求め,油滴については従来の油滴パーセル近似を用い ることなく,火炎中の全油滴を個々にラグランジュ追跡して非 定常計算を行った. 2. 計算方法 本研究で対象とした流れ場の模式図を図1に 計算方法 示す.流れ場は平面2次元とし,x-y 座標の原点を上側ポート 出口の中心にとった.x 座標は上側ポートから鉛直下向きにと り,y 座標は x 軸に直交する方向にとる.ポート幅ならびに上 下ポート間隔はともに 20 mm とした.上側ポートからは常温常 圧の空気(300 K, 0.1013 MPa, 酸素質量分率= 0.2375)が,下側ポ ート y≦3 mm の領域からは空気と n-デカン(C10H22)蒸気の予混 合気(当量比 φ g =0.6)が,3 mm<y≦10 mm の領域では空気が, 全て流速 40 cm/s で流入し,対向流場(伸張率 40 1/s)にガス火 炎が形成される.その後ある時刻 t = 0 ms を起点に,上側ポー ト y≦3 mm の領域から一様に,n-デカン噴霧が燃料-空気質量流 ,初期速度 量比 0.014 kgfuel/kgair(供給当量比 φ =0.237 に相当) 40 cm/s(空気と同速)で供給される.噴霧の粒度分布には,本 数値解析に対応する実験(5)において PDA 計測によって得られた 粒度分布(図2)を用いた. 考慮した化学種は O2, N2, CO2, H2O, C10H22(気相と液相)の5 種であり,気相化学種の物性値と輸送係数は CHEMKIN(6,7)によ り求めた.液相 n-デカンの物性値は文献(8)から得た.考慮した 支配方程式は,質量保存式,運動量保存式,エネルギ保存式, 化学種保存式であり,生成項に油滴との干渉項を考慮した.数 値計算手法は Patankar(9)の有限体積法に基づいており,圧力場の 解法には SIMPLE アルゴリズムを用いた. 噴霧モデルに関しては,気相の解析の際に用いられる計算格 子点を囲むコントロールボリュームにおいて,油滴と気相間で の熱,物質および運動量の交換を考慮する Crowe らの PSI-Cell モデル(10)に基づいている.蒸発モデルにはフィルム理論(8)を用 い,1/3 ルール(11)を採用した.また,燃焼反応モデルには n-デ カンの1段総括反応(12)を用いた.数値計算手法の詳細は文献 (13)に詳述しているので参照されたい. 計算は中心面に関して対称を仮定して,縦横 20 mm×10 mm の領域を 157×77 の等間隔格子(コントロールボリュームの実 寸法 130 µm×130 µm)に分割し,タイムステップを 0.1 ms と して行った. 3. 結果および考察 図 3 に噴霧噴射開始からの経過時間 t = 5 ms の計算結果((a)∼(c)) , およびそれに対応する火炎写真(5)((d)) を示す.図中(a), (b), (c)にはそれぞれ,気相温度 T,燃焼反応率 Rfu,当量比φがグレイスケールで示されている.また,図中(a) には灰色矢印で示された気相の速度ベクトル V,(b)には油滴の 位置と粒径 D の情報が重ねて表示されている.また,(d)の火炎 写真中には,レーザシート光により油滴(レーザシートの強度 の関係で大粒径油滴のみ)の流跡が可視化されている. 下側ポートより供給される予混合気によって形成される厚み の薄いガス火炎面(燃焼反応率が大きな領域)が,x = 13.5 mm あたりに存在している.この時刻(t = 5 ms)では,ガス火炎に は供給された噴霧の影響は見られない.火炎位置に関し,火炎 写真との対応も非常によく,本計算コードを用いた層流ガス火 炎の計算結果の妥当性を確認できる. 図 4 に t = 25 ms における結果を示す.ガス火炎面の上方の高 温領域において,単滴もしくは油滴群の燃焼が起こっており, 火炎写真ではその領域で輝炎が観察される.しかしながら,こ の時期には蒸発量が少ないために,発生した燃料蒸気は即座に 反応し, 高温領域においても当量比の増加はあまり見られない. また,未燃噴霧流側に厚みの非常に薄く,弱い連続した反応領 域が見られ,火炎写真ではその領域に青炎が観察される.当量 比の分布を示す図(c)では,表示スケールの関係で明確ではない が,この領域での当量比は 0.1 程度であり,火炎からの伝熱に より油滴の蒸発が進行し発生した燃料蒸気と空気が混合し,予 混合的に燃焼していると考えられる. 図 5 に t = 50 ms における結果を示す.高温領域中に極めて当 量比の高い部分が存在し,その領域で共通の群火炎を有する油 滴群が形成されており,火炎写真では非常に明るい輝炎が観察 される.また,輝炎からの伝熱により噴霧の予蒸発量が増加し, 油滴群の燃焼領域上方の青炎領域が拡大している. 参考文献 (1) Chiu, H. H., et al., 19th Symp. (Int.) on Combust., 参考文献 (1982), 971, The Combust. Inst. (2)赤松ら, 機論, 60-557B (1994), 3172. (3)中部ら, 機論, 61-581B (1995), 317. (4)赤松ら, 機論, 62596B (1996), 1622. (5)高田ら, 機講論(関西支部第 75 期定時総会 講演会), (2000), 掲載予定. (6) Kee, R. J., et al., SANDIA Report, SAND87-8215B (1987). (7) Kee, R. J., et al., SANDIA Report, SAND86-8246 (1986). (8) Abramzon, B. and Sirignano, W. A., ASME-JSME Thermal Eng. Joint Conf. (1987), Vol. 1, 11. (9)水谷・ 香月共訳(Patankar, S. V. 原著) ,コンピュータによる熱移動と 流れの数値解析, 森北出版 (1985). (10) Crowe, C. T., et al., Trans. ASME, J. of Fluids Eng., 99 (1977), 325. (11) Hubbard, G. L., et al., Int. J. of Mass Transfer, 8 (1975), 1003. (12) Westbrook, C. K. and Dryer, F. L., Prog. Ener. Combust. Sci., 10 (1984), 1. (13)赤松ら, 第 8回微粒化シンポジウム講演論文集 (1999), 197.
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