薄膜状木質バイオマス燃料の燃焼プロセスと燃焼界面のモデリング(PDF

研究成果報告書
薄膜状木質バイオマス燃料の燃焼プロセスと燃焼界面
研究題目
のモデリング
所属
大島商船高等専門学校
氏名
川
代表研究者
原
秀
夫
㊞
1. 研究の目的・背景
石油価格の高騰、地球環境問題、特に二酸化炭素による温暖化が一段と顕在化されている
今日、化石燃料に変わる再生可能なエネルギ−源として、バイオマス燃料が注目されている。
一般的にバイオマス燃料等を含む固体燃料の燃焼は、液体燃料の燃焼と共に不均一性が強く、
さらに燃料と酸化剤とで初期の物理的状態が異なるため、固層と気相との界面で生ずる蒸発、
熱分解、表面化学反応といった不均一過程が全燃焼過程のうちで重要な役割を果たしている。
従来から、固体燃料の燃焼特性の評価には、固体燃料の熱分解プロセスを明らかにするため、
昇温速度と重量を計測する熱重量分析や、燃焼現象をマクロで捉える充填層内における燃焼
観察が行われている。しかし、これらの分析では、燃料の一部分しか捉えることができない
ため、特に燃料の不均一性が強い場合の燃焼では、燃焼効率の低下といった弊害が生じてく
る。このような背景から、材料の不均一性が燃焼形態に与える影響を捉えるため、新たな実
験装置の開発が必要である。我々はこれまで固体燃料として、均一性である紙を用いて自然
対流の影響を考慮に入れた環境下での紙の二次元的な燃焼形態について検討を行っており、
酸素量および燃料である紙が燃焼する空間容積の変化によって、燃焼界面が様々なパタ−ン
を形成することを特定した。
本研究では、燃料の不均一性が燃焼形態に与える影響について検討するため、木質バイオ
マス燃料を対象に、さらに自然対流を抑制した環境下で酸化剤と燃料が反応する燃焼界面近
傍の燃焼プロセスを明らかにするため、薄膜状の木質系固体燃料を用いて、紙の燃焼実験と
同様に、酸素ガス流速、空間容積の変化さらには、実験装置の傾斜角度を変化させ自然対流
を付加した場合の燃焼界面挙動を熱・物質輸送の観点から実験を行い、解析する。また、得
られた知見を基にして、燃焼界面近傍の熱輸送と物質拡散による反応拡散モデルによる数値
解析を行う。
本研究内容は、固体物質である多孔質内を酸化剤を含むガスが材料中の反応性成分と反
応していく濾過燃焼と同様であり、火炎が発生しないスモ−ルダリングや地下火災などで見
られる自然現象としてばかでなく、石炭のガス化、材料の高温燃焼合成、炭化した触媒の再
生、オイルの抽出、廃棄物の焼却などといった実際的な多くのプロセスで生じるものであり、
それらに対して有益な知見を与えるものであると考える。
2.研究成果及び考察(申請時の計画に対する達成度合を織込む)
燃料の不均一性に着目し,酸素ガスの流入方向に対して燃料である薄板の木目が平行になる場合
と垂直になる場合について検討を行った.図 1 は各々の場合における燃焼界面の時間変化を示す.
なお,この時の酸素ガス流速 Vo2 は 2.69cm/s である.図 1(a)は酸素ガスの流入方向と薄板の
木目の方向が同じである場合の結果を示す.燃料の中央付近で着火した後,幅方向に燃焼している
領域が広がり,その後酸素ガスの流入方向に対抗するように,燃焼界面が指のような形(フィンガ
リング現象)になり,時間と共に枝分かれを生じながら酸素ガスの流れ方向の上流部に向かって発
達している.このフィンガリング現象は,前述の紙の燃焼実験でも観察されているが,枝分かれの
数については,燃料として薄板を用いた場合は紙に比べて減少している.さらに薄板の場合,燃焼
界面の凸部には多くの場合輝炎が存在している.
図 1(b)は,酸素ガスの流入方向に対して垂直
な方向に木目を向けた場合の結果を示す.着火後,
燃料の幅方向に燃焼領域が拡大しているが,その
燃焼界面が進行する速度は図 1(a)に比べて約
1/2 である.燃焼界面には図 1(a)と同様,フィ
ンガリング現象が発生しているが,その指の数は
(a) Parallel
減少し,反対に指の太さが大きくなっているのが
(b) Verticality
Fig.1 Counter flow combustion for biomaterial
わかる.さらに,燃焼が進行する毎に,燃焼界面
は木目に衝突し,その直後の燃焼界面は,木目に沿った方向に発生している.しかし,この木目の
方向に向かった燃焼界面は途中で停止するが,酸素ガスの流れに対抗している燃焼界面は維持され
発達している.また,この時の燃焼界面の凸部には輝炎は観察されていない.以上のことから,燃料
である薄板の木目の方向が変化することによって,燃焼界面に大きな違いが現れることが明らかになった
次に,燃焼界面近傍における熱輸送について
検討した.図 2(a)は酸素ガスの流れ方向
と薄板の木目の位置が平行である場合を示し
ており,二次元の温度場は図 1(a)に示す
燃焼界面の形状と対応している.これは図 2
(b)の酸素ガスの流れ方向と薄板の木目の
位置が垂直である場合についても同様である.
一方内部の温度分布については,図 2(a)
の場合,図 2(b)に比べて温度のピ−ク値
(a) Parallel
(b) Verticality
Fig.2 Temperature images taken by the infrared camera
が比較的低く保たれているのがわかる.さらに燃焼界面が進行するにしたがい,その周囲で
は温度が僅かながら高くなり,予熱帯が存在していることがわかった.
最後に、燃焼界面に出現するフィンガリングモデルについて熱・物質移動を考慮に入れた
燃焼モデルの考察を行った.
3.経費の使用状況(申請時の計画に対する実績を記述)
○設備備品費
(申請時の計画)
(実績)
マスフロ−コントロ−ラ・KOFLOC,MODEL3660
マスフロ−コントロ−ラ
リ−ドアウトユニット・KOFLOC,MODEL CR-300
レコ−ダ
レコ−ダ・KEYENCE,NR-600(1×@40)
ディジタル一眼レフカメラ
ディジタルビデオカメラ・SONY,HDR-FX1(1×@40)
ハードディスク
モニタ−・SONY,PVM-14M4J(1×@20)
溶接機
PC
画像処理ソフト(COMSOL)
○消耗品費
タングステン線(5m/巻,4×@2)
タングステン線(5m/巻,4×@2)
電子部品
ガス
SUS 材料
CD-RW
耐熱ガラス
耐熱ガラス
ディジタルビデオテ−プ(10 巻×@0.1)
MO ディスク(10 個×@0.2)
4.将来展望(今後の発展性、実用化の見込み等について記述)
今後の展開として,以下に示す燃焼工学の理論をベースに燃焼モデルを構築する.
ある燃料 F が酸素 O と化学反応して熱を発生すると次の発熱反応が生じる.
F + ν・O → P(熱分解ガス)
ここで,νは化学量論係数である.
熱,物質移動との間の保存式は次のようになる.
・ 酸素の輸送方程式
Co 2
t
Vo 2
Co 2
x
D
2
Co 2
k (T ) C F Co 2
・ 燃料の消費速度
CF
t
k (T ) C F Co 2
・ 熱の輸送方程式
cp
T
t
Vo 2
T
x
H k (T ) C F Co 2
2
T
ここで,tは時間,ρは密度,cP は定圧比熱である.これらの偏微分方程式を適切な境界条件
と組み合わせて計算することによって,フィンガリングの特性を評価できるものと思われる.この
数値予測が可能になれば、固体物質である多孔質内を酸化剤を含むガスが材料中の反応性成分と反
応していく濾過燃焼等の複雑な燃焼現象の解明につながる.
5.成果の発表(学会での発表、学術誌への投稿等を記載。予定を含む)
(国際会議)発表済み
H. Kawahara and T. Nishimura “The Effect of an Inclination Angle on Smoldering of
Thin Solid Fuels”, P15, 6th Asia-Pacific Conference on Combustion (ASPACC07)
(学術誌)投稿予定
日本機械学会論文集