06 人口学会・東日本部会 06higashihaifu 12.3.17 No.1 札幌市の少子化:その特徴と要因 原 俊彦(札幌市立大学) 従来の少子化研究は、全国レベルか首都圏などを中心としたものが多く、それ以外の特 定地域を対象に、少子化の要因とメカニズム、社会・経済的影響、政策的対応とその効果 な ど を 総 合 的 に 分 析 す る 研 究 は あ ま り 行 わ れ て 来 な か っ た 。と り わ け 、 「なぜ緑豊かで広大 な北海道、あるいは、その中心都市である札幌市が、近年は東京、京都などに次いで全国 で も 1、2 位 を 争 う 低 出 生 力 地 域 と な っ て し ま っ て い る の か 」に つ い て は 、従 来 か ら 不 明 な 点が多く、沖縄県の高い出生力と並び、研究者の間でも長年、疑問とされてきた。本報告 で は 、筆 者 が 2003 年 -2005 年 に か け 行 っ た 研 究(「 北 海 道 に お け る 少 子 化 −地 域 出 生 力 低 下 の シ ス テ ム・ダ イ ナ ミ ッ ク モ デ ル の 構 築 」文 部 科 学 省 科 学 研 究 費 補 助 金 -基 盤 研 究 (C)(2) 課 題 番 号 15530335)を も と に 、札 幌 市 の 少 子 化 の 特 徴 と 、そ の 社 会 経 済 的 要 因 、政 策 的 介 入の可能性について考察する。 1.人 口 学 的 特 徴 1974 年 以 降 の 合 計 特 殊 出 生 率 の 動 き は 、 全 国 ・ 北 海 道 ・ 東 京 都 ・ 札 幌 市 が 、 ほ ぼ 並 行 し た形で低下しており、基本的な少子化傾向は共通している。しかし全国を1とした場合の 格 差 ( 地 域 の 値 ÷全 国 値 ) は 、 北 海 道 全 体 が 概 ね 0.9 の 水 準 で 推 移 し て い る の に 対 し 、 札 幌 市 は 2000 年 時 点 で 0.78 と 東 京 都 の 水 準 0.76 に 接 近 し つ つ あ り 、全 国 と の 格 差 は 年 々 拡 大している。 合計特殊出生率の要因分解を行ってみると、北海道全体の場合、全国との格差はもっぱ ら有配偶出生率の低さ(夫婦の出生行動)によるものと解釈されるが、札幌市の場合は他 の大都市と同様に低い有配偶率(独身者の結婚行動)の影響も大きく、両者がほぼ均等に 作用している点で特異である。さらに年齢別出生率の格差をみると、札幌市と道内他地域 で 共 通 し て 目 立 つ の は 30 歳 -34 歳 の 低 出 生 力 で あ り 、こ の 傾 向 は 、年 齢 別 有 配 偶 出 生 率 で も同じであり、とりわけ札幌市の場合、他の大都市地域とは異なり、晩婚・晩産化による キャッチアップ(先送りした結婚や出生を高年齢で実現する動き)が働かないという特徴 が見られる。 2.社 会 経 済 要 因 2000 年 の 都 道 府 県 別 デ - タ を 用 い て 、 年 齢 別 女 子 未 婚 初 婚 率 ( 未 婚 者 の 初 婚 傾 向 ) と 年齢別女子有配偶出生率(既婚者の出生傾向)を従属変数に、各々に影響すると思われる 社 会 経 済 要 因 ( 過 去 の 20 余 の 先 行 研 究 か ら 抽 出 し た 36 の 変 数 ) を 独 立 変 数 と し て 重 回 帰 分析を行なった。この結果、北海道や札幌市の低出生力の主要な社会・経済要因として、 学 歴・産 業 就 業 構 造 の 特 異 性 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。そ こ で 、 さらに札幌市を対象に、各年齢階層に共通して影響が大きかった男子の最終学歴(高卒以 下)割合と、同じく男子の第二次産業就業者割合の二つの要因のみを用いて、時系列回帰 06 人口学会・東日本部会 06higashihaifu 12.3.17 No.2 分 析 と コ ン ピ ュ ー タ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 結 果 、 1965 年 か ら 2000 年 ま で の 札 幌 市 の合計特殊出生率の動きはこの二つの要因だけで十分に説明できることが明らかとなった。 3.そ の 他 の 要 因 (1)高い離別率 北海道は沖縄と並び離婚率が高いことで知られており、このため人口に占める離別者の 割合も高く、これが出生力に与える影響が懸念される。そこで、この効果を見るために、 仮に離別人口の減少分が、そのまま有配偶人口に置き換わるとして、その場合の合計特殊 出 生 率 を 計 算 し た 。そ の 結 果 、仮 に 札 幌 市 の 年 齢 別 女 子 離 別 割 合 が 全 国 平 均 並 み と し て も 、 2000 年 の TFR( 1.07) は 108 に し か な ら ず 、 こ の 影 響 は 限 定 さ れ た も の で あ る こ と が わ か った。 (2)高い人工妊娠中絶率 北海道・札幌市の人工妊娠中絶率は、全国平均や東京都の値に比べ極めて高いことが知 られており、低出生力状態にあるという事は、当然、この高い人工妊娠中絶率が出生抑制 手段として働いていると考えられる。そこで、この効果を見るために、人工妊娠中絶率が 全 国 平 均 と 同 レ ベ ル ま で 下 が り 、下 が っ た 分( 全 国 平 均 と の 差 )だ け 出 生 数 が 増 加 す る( 事 前に適切な避妊が行われることにより妊娠出生が回避される可能性は考慮していない点に 注意!)として、その場合の合計特殊出生率を計算した。この結果、人工妊娠中絶率が全 国 平 均 並 み と 仮 定 す る と 、札 幌 市 の 2000 年 の TFR は 1.43 と な り 、全 国 値 の 1.35 よ り 0.08 高 く な る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 こ れ を 年 齢 別 に み る と 、 25-29 歳 、 30-34 歳 に 関 し て は 、 中絶率が全国平均並みと仮定しても、年齢別出生率は全国値より低いままであり、これに 対し、低年齢と高年齢では人工妊娠中絶率の影響が大きいことがわかった。 (3)人口移動率 札幌市のような大都市地域では市内外との人口移動が年齢構造に影響し、これが間接的 に 地 域 の 出 生 数 や 少 子 高 齢 化 に 作 用 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。そ こ で 1995 年 -2000 年 の コ ーホート変化率を計算し全国と札幌市で比較した。日本の場合、海外との人の出入りは無 視できるくらい少ないため全国のコーホート変化率は年齢別の死亡率を反映していると考 え て 良 く 、ま た 札 幌 市 と 全 国 で 年 齢 別 死 亡 率 に 大 き な 相 違 が な い と す る と 、両 者 の 相 違 は 、 札幌市の人口の純移動率を大きさを反映していると解釈できる。計算結果をみると、札幌 市は男女とも進学年齢で転入超過となり、この若年人口の流入が年齢構造を若返らせる効 果を持つが、その後は、男子の就業移動や女子の出産・子育て期の移動で、この超過分が 流出してしまい、市内に定着していないことがわかる。これに対し、高年齢では男女とも 流入超過であり市内に戻って来る傾向が強く、この動きが高齢化にプラスに作用している といえる。 ちなみに地域の出生数への影響について試算してみたが、コーホート変化率が全国と同 じ と 仮 定( 純 移 動 率 = 0)、そ の 分 、出 生 年 齢 の 女 子 人 口 が 増 え た と す る と 、2000 年 の 出 生 数 は 15347 人 か ら 98 人 ( 0.63% ) 増 加 す る こ と が わ か っ た 。 図 表 に つ い て は 、 原 俊 彦 ( 2005)「 札 幌 市 の 少 子 化 : そ の 特 徴 と 要 因 」( パ ワ ー ポ イ ン ト ) http://www.scu.ac.jp/faculty/hara/std/st1.html よりダウンロードして下さい。
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