博 士 ( 水 産 学 ) 山下 成治 学 位論 文 題 名 円 形 選 別口 に よ る ホタ テ ガ イの 形状 選別に関 する基礎的研究 学 位 論文 内 容 の 要旨 ホタテガイ(Patinopectenァesso ensi sJ AY)養殖業で頻繁に行わ れる選別作業には,ふるい面に円形選別口を持っトロンメルやシフ タが多用されている。しかし,選別機の仕様などは生産者の経験に よって定められており,選別精度は逐一網上・網下産物の形状組成を 計 測し なけ れぱ知 るこ とができない状態にあった。 本研究は,円形選別口を持った選別機の選別機構をホタテガイの 幾何学形状から考究し,部分分離効率を新たな形状尺度から構成す る方法とその妥当性について考察を行ったものである。研究は,以 下に述べる4つの過程を経て行った。 1.ホタテガイの通過確率 円形選別口をホタテガイが通過する確率と通過の要因を,実物の ホタテガイの貝殻によって作製した供試貝による静的通過実験から 柬めた。 実験から得られた通過確率(42∼46%)は生産現場で実測した通過 確率(3 8%∼41%)に近い値を示し,単一のホタテガイと選別口の出合 い関係が,多数のホタテガイと選別口の出合から得られた選別結果 に支配的に作用していること,および各軸径を用いて計算した粒子 通過確率はホタテガイの選別には当てはまらないことが推測できた。 また,貝の耳状部が選別ロの縁に近い出合関係にある場合に高い 通過頻度が観測されたことから,運動状態に関わらず,円形選別口を ホ タ テ ガ イ が 通 過 する た めの 要 因に は ホタ テガ イ の辺 縁 部形 状 が強 く関与しているものと考えられた。 2 -ホタテガイの巨視的形状特性 ホ タ テ ガ イ の 形 状 が 選別 に 関与 す ると 推 論で きた の で, 産 生時 期 と場 所の 異 なる 806枚の ホ タテ ガイ の 形状 測 定を 行 い,巨 視的形状特 性で ある 長 短度 , 偏平度, 方形係数,形 状指数等を求め て統計的な検 討を加えた。 この結果,ホタテガイの長短度と偏平度は約1 . 01 と約0.25 であり, ホ タ テ ガ イ は 殻 高 を直 径 とす る 外接 円 に内 包さ れ る偏 楕 円体 で ある こと や, 各 特性 値 は一定の 母集団に属し ており,これら の値は殻高に よって一意に推定できることが明かとなった。 3 -ホタテガイの辺縁部形状と最大差渡し長 選 別 に 関 与 す る と 考 えら れ る辺 縁 部形 状 から 得ら れ る形 状 特性 値 と ホ タ テ ガ イ の 近 似形 状 を72枚の 供 試貝 の 画像 処理 の 結果 か ら推 定 した。 は じ め に , 画 像 解 析 によ っ て得 ら れる ホ タテ ガイ の 形状 を 定義 す る 座 標 系 は , 蝶 番 点 と 図 心 を 結 ぶ 軸 に よ っ て 構 成 す る 2次元 直 交系 上 で 記 述 す る こ と が最 良 であ る こと を 示し ,円 形 選別 口 とホ タ テガ イ と の 出 合 関 係 を 考慮 し て, 辺 縁部 形 状は この 座 標系 に 対応 す る極 座標系と周長をパラメ―タとする曲線座標系で記述した。 次 に, ホ タテ ガイ の形状を少 数のパラメー タで記述する ため,画像 処 理 し た 辺 縁 部 形 状を 投 影円 相 当径 と 耳状 部の 殻 高お よ び殻 長 方向 の形状特性値 によって真円部 ,楕円部,矩 形部の3つの形.状領域で近 似 し た 。 そ の 後 , ホタ テ ガイ や 選別 口 の大 きさ に よら ず 同一 の 尺度 で比 較で き るよ う に,全て の形状値を投 影円相当径で無 次元化した。 更 に , 辺 縁 部 の 任 意 の 2点 間 距 離 で 「 差 渡 し 長 」 と その 中 で最 大 距 離 を と る 「 最 大 差渡 し 長」 を 定義 し ,画 像処 理 を施 し た辺 縁 部形 状と近似形状からその分布を求めた。 こ の結果,蝶番 点をO゜とする 極座標系におい て,最大差渡し長が, O∼ 120 ゜および240 ∼36 0°の領域では180 ゜対向する2点によって 構 成され,120 - 240°の領 域では耳状部の 凸部の1点を選 択的に選ぶ 点 に よ って 構成 さ れて お り, 近 似形 状を 定 めた 形 状方 程 式か ら 計算 し た 最 大差 渡し 長 と実 測 した 辺 縁部 形状 か ら得 た 最大 差 渡し 長 は良 い一致を示すことが明かとなった。 ま た, 辺 縁部 形状 を 記述 す る各 特 性値 も 巨視 的な 形 状代 表 値と 同 様 ,殻高によ って推定する ことができ,産 生時期や場所 の違いによら ず , ホ タテ ガイ に 共通 し た辺 縁 部形 状と 最 大差 渡 し長 を 示す こ とが 認められた。 4.最大差渡し長と部分分離効率 最 大差 渡 し長 は, 「 ある 口 径の 円 形選 別 口に ホタ テ ガイ が 出合 う 場 合 , この 口径 よ りも 小 さな 最 大差 渡し 長 で会 合 すれ ぱ ホタ テ ガイ は 選 別 口を 通過 し ,大 き けれ ぱ 通過 しな い 」と い う幾 何 学的 条 件の 下 に 定 義 し た 本 質 的 に 離 散 的 な 値 域 を 持 つ 1価 関 数 で あ る 。 よ っ て ,最大差渡 し長の分布か ら通過確率を求 めるためには ,最大差渡し 長 を定義する 基準座標系に 対し,測度論的 解釈を与える 必要がある。 本 論で は最大差渡 し長から部分分離効 率を求める方法を 測度論に 基 づ い てル ベー グ 式積 分 で示 し ,画 像処 理 を施 し た供 試 貝の 辺 縁部 形 状 か ら計 算し た 部分 分 離効 率 と通 過実 験 から 得 られ た 通過 確 率の 比較を行った。 この結果,通過実験に用いた供試貝(投影円相当径;10 4.4 mm ,殻高; 105 . Omm)が95. Ommの選別 口に出合った 場合の部分分 離効率から計算 した通 過確率と実験による通過確率は共に0. 0 %を示し,1 05.Ommの選 別口に 関しては計算値が42 . 3% ,実験値が4 2. 2 a}6と46.0%を示した。 更に,115 .O mmの選別口に関しては計算値が1 0 0.0% ,実験値が99 -2? 6 と 99.6%と なったことから ,辺縁部形状 から誘導でき る部分分離効 率か ら 計 算 した 通過 確 率は 実 際の 通 過確 率を 十 分に 記 述し 得 るパ ラ メー タ で あ り, 本論 で 示し た 「最 大 差渡 し長 」 はホ タ テガ イ の選 別 に関 し て 粒 子通 過確 率 に代 わ り得 る 形状 尺度 と なる こ とが 確 認で き た。 また,座標系のとり方の違いによる部分分離効率に大きな差が認 められなかったことから,円形選別口によるホタテガイの選別に関 しては,貝の運動は支配的要因ではなく,選別精度は専らホタテガイ が選別口の縁を通過するか,しないかの幾何的な条件によって定め ら、れることも明らかにすることができた。 部分分離効率は最大差渡し長を決定している辺縁部形状に影響を 受けるが,本研究で示した画像処理による方法は,欠刻貝や変形貝が 多く含まれる場合の部分分離効率を求める際にも有効であると考え る。 本論で定めた最大差渡し長などの形‘状特性値は全て「殻高」によっ て推定することができるた、め,生産現場でホタテガイの殻高分布だ けを測定す れぱ,直ちに部分分離効率を推定することができると考 えられるが,この点については今後,実際の選別機の設計パラメータ を変化させ て得られる部分分離効率と最大差渡し長から求めた部分 分離効率(通過確率)に基づくシミュレーションとの比較を行ってか ら検討する必要がある。 学位論文審査の要旨 主 査 教 授 五 十 嵐 脩 蔵 副 . 教 授 梨 本 勝 昭 副 査 講 師 見 上 隆 克 査 学位論文題名 円形選別口によるホタテガイの 形 状選別に関する基礎的研究 現 在の ホタ テガ イ養 殖業は ,生 産量 ,生産金額共に安 定 し た , わ が 国 の 重 要 漁 業 種 類の ー っ で あ る 。 垂 下 式 施 設 に よ る ホ タ テ ガ イ 養 殖 は ,生 産 対 象 で あ る ホ タ テ ガ イ を 通 年 的 に 管 理 す る 必 要 があ り , 成 長 サ イ ク ル に 合わ せて 大量 のホ タテ ガイ を短 期間 に処 理するために, 種 々 の 管 理 作 業 を 機 械 化 せ ざ るを 得 な い 。 通 年 管 理 工 程 の う ち 選 別 工 程 は , 採 苗 か ら 出 荷 ま で の 1養 殖 サ イ クル(20カ月から30カ月に゛至る)中に,3回ないし5回行わ れ て い る 。 分 散 時 の 選 別 は , ホタ テ ガ イ の 成 長 が 阻 害 さ れ な い よ う に 間 引 き ( 成 長 不良 貝 や 欠 刻 貝 を 取 り 除 くこ と) する 為に 行わ れる 。出 荷時 の選 別は,生産物の 等級 を定 める 為に 行わ れる 。こ れら の選 別工程に.は, 単 位 時 間 当 た り の 処 理 能 カ の 高い 円 形 選 別 口 を 選 別 ス ク リ ー ン に 持 っ た ト ロ ン メ ル やシ フ タ が 使 用 さ れ て い る が , 選 別 機 構 や 選 別 精 度 に 対す る 知 見 は 無 い に 等 し い。 申請者は,北海道噴,火湾森地区の出荷時のトロンメ ル によ る選別 作業 で得 られ た網 下産 物貝 を各 選別 ステー ジ 毎 に そ れ ぞ れ 50個 無 作 為 抽 出 し , 選 別 精 度 の 分 析 を 試み ,部分 分離 効率 (形 状特 性値 をい くっ かの 階級に 分 け, 各階級 の回 収率 の分 布を 与え る確 率) を求 めた。 こ れより 生産 者が ,経験 的に 選別を行おうとするホタ テ ガ イ の 殻 長 値 よ り 5∼ 15% 小 さ い 口 径 の 選 別 口 を 持 っトロ ンメ ルを 使用し てい ることの意味を明らかに し た。つ いで モデ ル貝を 用い ,その位置や姿勢を種々 変 え て , 円 形 選 別 ロ に 対 す る 静 的 通 過 実 験 を 10万 回 を 越える 回数 行い ,その 通過 確率を求めた。この通過 確 率は, 生産 現場 で実測 した 通過確率に近い値を示す こ とか ら,一 般的 なふ るい 分け の研 究に 用い ゛ら れてい る 各軸径 を用 いて 計算し た粒 子通過確率はホタテガイ の 選別に は適 用で きない こと ,さらに円形選別口をホ タ テガイ が通 過す る要因 には ,ホタテガイの辺縁部形 状が 強く関与 してい ることを 明らかにした。 この結果より,申請者は,まず産生地’,産生時期の異 な る 806枚 の 供 試 貝 の 巨 視 的 形 状 特 性 で あ る 長 短 度 , 偏 平度 ,方形 係数 ,形 状指 数な どを 求め て統 計的 な検討 を 行い ,各特 性値 は一 定の 母集 団に 属し てお り, 殻高に よって一意に推定できることを確.カゝめた。この巨視的 形 状特 性に基 づき ,通 過確 率を 求め る上 で重 要な ,円形 選 別口 と の 出 合関 係に関 わる ホタ テガ イの貝 殻辺 縁部 の 2次 元形 状 の 特 性 を 求 め る た め に, 巨 視 的 形 状 測 定 に 用 い た 供試 貝の うち ,貝 殻辺縁 部に 欠刻 の無い 72 枚を抽出し,これらの画像解析を行った。この結果,辺 縁部形状を記述する座標系は,図心を原点とし,辺縁部 上での位置,が判読しやすい蝶番点を基準にして直交座 標を定め,場合によっては,極座標系や曲線座標系ヘ変 換 して 用 い る のが 良いこ とを 明ら かに した。 これ らの こと より, 貝殻 辺縁 部の2次元形状は,その投影面積と 等価な面積を持っ円の半径と直径(等価円半径と直径) によって定まる真円部,楕円部および矩形部の,単純な 幾 何 的 3形 状 領 域 で 近 似 で き る こ とを 明 ら か に し , さ らに辺縁部の任意の,2点間距離で「差渡し長」および, そ の中 で 最 大 距離 をとる 「最 大差 渡し 長」を 定義 して そ の分 布 を 求 め, 実測値 と計 算近 似値 がよく 一致 する ことを確かめた。 申請者は,この最大差.渡し長がホタテガイの円形選 別 口の 通 過 に 関わ る形状 パラ メー タで あるこ とを 明ら かにし,最大差渡し長の分布から貝の通過確率を求め, こ れを 部 分 分 離効 率とし て記 述す る方 法を示 した 。す な わち , ホ タ テガ イが最 終的 に選 別口 を通過 する 為に は ,選 別 口 の 縁に 接触し た貝 の最 大差 渡し長 が選 別口 径 より 小 さ ぃ 出合 関係に ある こと が必 要であ り, 最大 差 渡 し 長 は本 質 的 に 離 散 的 な 値 域 を もつ 1価 関 数 で あ ることから,測度論的解析に基づき,最大差渡し長の値 域を細分して可測空間を構成し,これに対応する任意 の正規化基準座標上に生成される確率測度をルベーグ 式積分によって求めることがで・きることを示した。こ れにより,適当に区分した最大差渡し長よりも小さい 値域の集合に対応する確率密度を加算することによっ て,その最大差渡し長以下に属する集合の出現確率を 求め,実験から求めた通過確率と比較した結果,両者に 良い一致が見られるこ.とを明らかにした。そして選別 対象のホタテガイの殻高分布を知れば直ちに部分分離 効率(通過確率)が得られ,他の測定値を用いる必要が ないと結論づけている。 これら一連の結果は,円形選別口によるホタテガイ の選別機構や選別精度に関して重要な知見を゛得たもの であり,高く評価することができる。よって審査員一 同は,申請者が博士(水産学)の学位を受ける資格ある ものと判断した。
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