Multislice CT時代における データ解析とデータ管理

技術
Multislice CT 時代における
データ解析とデータ管理
株式会社 AZE 開発部
阪本 剛
Phoenixとは
日常読影のシチュエーションを考えるとストレス
を生じさせやすい部分である。Phoenix のスマー
数年前に始まったプロジェクトは大容量のデー
トタグ機能ではあらかじめ CT 撮影におけるあら
タ 時 代 に 対 応 す る と い う 目 的 が 掲 げ ら れ た。
ゆる状況に対して「タグ付け」を行うことが可能
Single CT 時代の画像がもつワークフローは直列
である。たとえば「造影データ」や「スライス厚
であり「データに対して解析を行う」という姿勢
2 mm 以上」
「ローカライザ」などである。タグ付け
が前提であった。そこから 10 年程度の時間を経
されたデータはシリーズリストからタグをクリッ
て現在の Multislice CT が活躍する時代では、患
クするだけで呼び出すことができる。このためサ
者は他にもさまざまな検査を受け、または経時的
ムネイルの見た目だけでは判断しにくいデータを
にフォローアップするような CT 検査も行われて
素早く探し出し、比較データとして用いることが
きた。現在サーバにある患者データは先程述べた
できる。また設定したスマートタグに対してさま
「直列的」と比較して「分散的」であり、1 患者に
ざまな「ふるまい」を与えることができる。たとえ
対してさまざまな情報がサーバに保存されている。
ば、シンスライスデータを優先して読影に用いな
したがって現在の画像解析は「統合的に患者を解
い場合は「スライス厚 2 mm 以下」のタグの優先度
析する」という姿勢が必要である。このような現
を下げることができる。そうすると設定されたタ
状を顧みてわれわれは「Patient Centric(患者中
グの条件に沿うデータは、シリーズリストで上下
心)」のアイデアから現在の Multislice CT 時代を
に並ぶサムネイルリストの下のほうへ表示するこ
前提とした画像読影システムPhoenixを開発した。
とができる。また「ローカライザを読影に用いない」
本ソフトウエアは大容量かつ複雑なデータを効率
と判断すればローカライザはシリーズリスト上で
的かつ効果的に管理し読影するためのさまざまな
サムネイルを非表示にできる(タグをクリックす
アイデアが搭載されている。
ればローカライザを呼び出すことはできる)。し
たがって、スマートタグはビューア上の読影環境
スマートタグ
に効率性をもたらすことが可能である(図 1)
。
また Phoenix では検査やモダリティごとに最適
MRIは画像のコントラストが明らかに違う画像
なレイアウト表示をプリセットする「ハンギング
が多いが、CT はサムネイル表示にしたときに直
プロトコル」を設定することができるが、スマー
感的に「どれがどのデータか」を認識することは
トタグはレイアウト設計時にも有効である。たと
難しい。これは「比較データを用意する」という
えば、術前術後の比較をビューアの左右に配置し
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映像情報メディカル 増刊号
図 1 スマートタグ
あらゆる状況をタグ付けして効果的にデータを呼び出す基礎を作る。
図 2 ハンギングプロトコルとスマートタグ スマートタグはビューア設計の自由度を高めることが可能。
たい場合はビューアに現在や前回などの時間設定
グプロトコルによる比較データの呼び出しミスを
をしておき、配置する画像をタグから選ぶ。スマ
削減することが可能である(図 2)。
ートタグは簡単に複数もの条件付けを行うことが
その他にもさまざまな場面でスマートタグが活
できるため、比較に必要なデータをより正確に指
用されており Phoenix 内での的確で高速なデータ
定することが可能である。したがって、ハンギン
呼び出しを実現している。したがって、スマート
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図 3 RFA 術前術後の焼灼域と腫瘍の位置関係の 3 次元的評価
レジストレーションが脈管に沿って肝臓の位置を補正し、SlidingMPR がさまざまな断面から
の評価を可能にする。
タグは大容量のデータ時代における複雑なデータ
報を同期させた状態で評価を行うことが可能にな
群を的確に整理して読影に臨むことを可能にして
ってきた。われわれはこのような技術を「レジス
いる。
トレーション」と呼んでおり、レジストレーショ
ンの可能性は大容量のデータを読影するメリット
Sliding MPRとレジストレーション
の 1 つとして考えている。
この 2 つの技術を組み合わせることで解剖学的
大量かつ高密度なデータが数分で生み出される
な位置関係を同期したままリアルタイムに断面の
現在において、MPR は読影を効率的かつ効果的
角度を切り替えることが可能になった。たとえば
に実施するための中心的な技術といえる。しかし
RFA の術前術後の評価において、焼 域と腫瘍
生み出される MPR のほとんどは CT 撮影時、ま
部の判定は近隣の脈管構造を同期させることであ
たはワークステーションでの解析時に作成され、
らゆる角度から判定することが可能である(図 3)。
読影用端末へ転送される。そうして生み出された
MPR に対して「別の角度が見たい」と考えても、
再度 CT やワークステーションで再構成する必要
があった。これに対し Phoenix では取り扱うデー
RECIST
腫瘍などの病変が存在した場合は、治療効果判
タをリアルタイムで MPR の表示角度を切り替え
定のために継時的に CT 撮影を実施することが多
られる「Sliding MPR 機能」を搭載している。こ
い。Phoenix は長期間のデータ保存を見込んでお
の機能を利用することで脈管の狭窄や腫瘍との関
り、継時的な画像評価を可能にするツールが搭載
係の詳細観察をその場で行うことが可能であり、
されている。近年は腫瘍の治療効果判定のために
診断精度の向上が期待できる。
RECIST を用いて評価されることが多く(表 1)、
また近年の大容量データはメモリ上で 3 次元化
することで、3 次元的な解剖を認識することが可
計測のための機能を追加した(図 4)。
Phoenix に搭載されている RECIST 評価機能は
能である。この認識技術を利用して、たとえば術
Step by step で行われるため、取り扱いも容易で
前術後のデータ比較を行う際に解剖学的な位置情
ある。さらに腫瘍の治療効果判定評価を自動的に
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図 4 RECIST 評価用計測
表 1 RECIST 評価基準
CR(完全奏功)
すべての標的病変の焼失。標的病変として選択したすべてのリンパ
節病変は、短径で 10mm 未満に縮小しなければならない
PR(部分奏功)
ベースラインの径和に比して標的病変の径和が 30% 以上減少
PD(進行)
経過中の最小径和(ベースライン径和が経過中の最小値である場合は、
これを最小の径和とする)に比して標的病変の径和が 20%以上増加。
かつ、径和が絶対でも 5mm 以上増加
SD(安定)
経過中の最小の径和に比して、PR に相当する縮小がなく PD に相当
する増大がない
実施し、クリップボードを介してレポートに張り
画像は 1 画像につき 512 KB の容量をもつことか
付けることも可能である。本機能は RECIST1 .0、
ら、たとえば大腸 CT や下肢 CTA のような 2,000
1 .1、mRECIST に対応した計測と評価が可能で
枚の画像であれば約 1 GB のデータが生まれるこ
ある。
とになる。この場合 10TB のハードディスクをも
つサーバであれば 1 万件の検査で容量が満たされ
圧縮データ保存
莫大なデータが生み出される現在において、そ
ることになる。1 日平均 10 件の 3 D-CT 検査が行
われると仮定すれば 3 年未満で容量が満たされる
ことになる。これはそれほど楽観視できる状況で
のデータをどのように取り扱うかにおいてさまざ
はなく、このままではいくらハードディスクの容
まな議論がなされている。現状の DICOM の CT
量が増しても対応が追い付かないことが予想され
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ている。それに対して現在はさまざまな圧縮技術
検出器列数が変遷しており、Single CT 時代と比
の開発により可逆圧縮、非可逆圧縮が可能にし、
較すると単位時間あたり最大 1 , 000 倍近くのデー
Phoenix に実装している。非可逆圧縮では容量を
タ量が生まれていると推定することができる。さ
10 分の 1 にまで削減することができるため、研究
らに蓄積されるデータ量は Single CT 時代から現
用データやボリュームレンダリング用のデータの
在に至るまでの積分値である。現在、国内すべて
ような長期にデータを保存する際は有効な手段と
の病院サーバに保存されるデータの総量は天文学
なる。また可逆圧縮も 3 分の 1 まで圧縮できるた
的数値に上ると推測できる。しかし、現在の画像
め、先ほどのシチュエーションでは10TB で 6 年
管理・配信・読影システムは旧来のワークフロー
程度保存可能である。
の拡張であり、現状に十分に対応しきれていると
はいえない。われわれはそのようなデータフロー
おわりに
がSingle CT時代のフローであり、Multislice CT
時代に適していないのではないかと考えるに至っ
本稿執筆する現在、あらゆる病院で CT が撮影
た。そこで画像解析装置が経験するワークフロー
され患者の人体がデジタルデータに変換されてい
の観点から大容量のデータを適切に扱える仕組み
る。そこで稼働する 9 割以上の CT はマルチスラ
を研究開発している。
イスで撮影が可能であろう。さらにはそのような
本稿では、大量のデータから必要な情報を効率
CT を複数台所有する施設も多く、また CT の画
的に収集する画像解析装置としての取り組みを紹
像再構成に必要な時間は従来の約 10∼100 倍で高
介した。今後とも読影環境の最適化を目指して開
速化されている。現在は 1 ch ∼64 ch ∼320 ch と
発を進める次第である。
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