「お助け」ワンダーランドジャパンベストレスキューシステムは 究極の‘名古屋グルメ型’企業!だった Team Monkey Gold (プロジェクト実習10班) 野口、早川、蓮沼、久恒、日高 1. はじめに ほとんど全ての商品はプロダクト・ライフサイクルを持ち、市場への導入期から成長期を 経て、成熟期に十分に市場に浸透した後、衰退期となり、商品としての寿命を終える。 一方、商品の供給者と需要者(顧客)は異なる価値観を持った主体であり、商品のやり 取りに際して、両者はあるインターフェイスを介してつながり、価値の交換を可能にする。 このインターフェイスあるいはつながり方を変えることで、商品の寿命を変え、一旦成熟 期や衰退期に入って停滞する消費量を再び増加させることができる。 このインターフェイスあるいはつながり方は多様で、消費シーン、商品のラベル、異な るタイミング、サービスの付加など様々なものがある。それは、供給者が需要者に供給す るのは商品の物理的特性よりも意味合いであるからであり、どのような意味合いを供給す るかで、同じ物理的特性の商品であっても商品としての価値が変わるのである。 この班の分析対象であるジャパンベストレスキュー(以下、JBR)は、バイクライダー に緊急時の修理サービスを提供するビジネスとして創業された。しかし、顧客を単にバイ クライダーとしてではなく、生活者として捉えることによって、様々なサービス供給の可 能性を見出した。さらに、それに応じて多種多様なメーカーをネットワークすることによ り、ビジネスを拡大することが可能となった。すなわち、JBR は消費者とのつながり方を、 単にバイクライダーとしての側面だけでなく、生活者として多様なニーズの側面を持つも のとして捉えることによって、多様な意味合いのサービスを供給することに成功した。こ れはまさに究極のマッチングビジネスであるが、単に多様なものをマッチングするという だけはなく、異なるものをマッチングすることで、思いもよらない新たなサービス価値を 創出している。 ところで、当社は代表取締役社長である榊原氏が名古屋市内において創業した企業であ る。本稿においてはその点にヒントを得て、同社をいくつかの名古屋独特の食文化になぞ らえて分析する手法を試みている。しかし、これは、あくまでも、できるだけ直感的な視 点で当社の特徴を説明することを意図したものであり、ここで、名古屋のビジネス風土の 他地域のそれに関する優位性を議論しようとするものではない。 本研究では、インターネットおよび雑誌等に掲載された当社の情報をもとに、創業者で あり、現在の代表取締役社長でもある榊原氏にインタビューを行った。それらを通して、 当社の顧客インターフェイスの変化とそれに伴うビジネスシステムの変化とを追った。こ -1- れによって、究極の名古屋グルメとのアナロジーを通して、当社のビジネスシステムのユ ニークさと将来の展開可能性を提起した。 2. お助けビジネスの概況 まず当社のレスキュービジネスが属する業界と同業他社の状況を整理しよう。JBR の業 態は、法律上は「特定商取引法」の対象となる訪問販売であり、商品または役務の提供者 が消費者のもとに訪問し、それらを販売・提供し、対価を得るものである。ここで、単な る商品の販売と区別するために、点検商法や訪問リフォームを含めた訪問修理と呼ぶこと にする。このようなサービスを提供するビジネスは最近急速に増えている。しかし、その 一方でトラブルも多数発生している。国民生活センター(同 HP)によると、訪問修理への 苦情数は最も多 いとされている。 つまり、社会的ニ ーズは大きいが、 水周りのことならなんでもご相談ください 「便利屋さん」のFCチェーン クラシアン ベンリーコーポレーション 設立 1991年 設立 資本金 300百万円 資本金 43百万円 主な営業品目 水道衛星工事 主な営業品目 ハウスクリーニング トラブルも多い 業界であり、サー 1990年 給排水設備工事 エアコンクリーニング 水周りの緊急メンテナンス 洗濯槽クリーニング 住宅リフォーム全般 水周りメンテナンス ビス提供者と需 ベンリーコーポレーションの売上高の推移 クラシアンの売上高の推移 要者との間の信 頼が重要なポイ ントになる。 12000 7 50 10000 6 00 8000 4 50 6000 3 00 次に、同業他社 4000 1 50 2000 の状況をみてみ 0 0 2002 2003 2004 よう。小規模な修 20 02 20 03 20 04 単位:百万円 理業者が多い中で、ここに示したクラシアンとベンリーコーポレーションは JBR と同じく 多くの代理店を持つ訪問修理企業で、いずれも創業から約 15 年の歴史を持つ。共通する特 徴は、各社が水周り、クリーニングといったように特定のサービスに特化していることで ある。他のサービスも含まれるものの、それらは付加的なものに過ぎず、専門的なサービ ス供給が行われている。さらに、売上高の伸びが鈍化していることも共通している。この ような状況に中で、JBR の存在は、次に述べるようにユニークなものであるということがで きる。 3. JBRの企業概要 分析の対象とする JBR は、資本金 290 百万円により 1997 年に設立されたベンチャー企業 である。2005 年現在、社員数は 60 名で、全国に約 400 店舗のサービス代理店を有し、さら に約 5000 店舗のサービス特約店とに提携によってサービスを提供している。代理店は、生 -2- 活救急車として顧客を訪問し、各種のトラブルに対処する。また、サービス特約店は生活 救急車では対応できないような専門的な需要に対応する。顧客には会員と非会員がある。 会員は個人会員と法人会員とに別れ、顧客会員数は全国で約 20 万人となっている。また、 非会員の一元客にも対応している。 売上高は、2002 年度ま 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの では緩やかに上昇したが、 企業概要 2002 年度以降、急速に上 昇しており、2004 年度に 設立 資本金 本社所在地 代表者 大株主 は約 27 億円に達してい る。出資者は、創業者の 1997年2月 290百万円 名古屋市 榊原暢宏 榊原暢宏、UFJ銀行、東京三菱銀行、 みずほキャピタル、名古屋鉄道、 朝日火災海上保険、ジャフコ 榊原氏のほか、UFJ 銀行、 東京三菱銀行、みずほキ ャピタルなどであり、 JBR 売上と利益 (百万円) 2005 年 8 月には東証マザ ーズへの株式上場が予定 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2500 2000 売上 されている。 1500 1000 500 JBR は、新たなビジネ 平成17年8月29日 東証マザーズ 上場!! (百万円) 3000 0 00/9 01/9 02/9 スシステムを構築し、急 売上 03/9 利益 04/9 利益 成長している企業として 注目されており、2002 年末には中部ニュービジネス協議会会長賞したほか、日経ベンチャ ーなどの経営関係の雑誌でも度々取り上げられている。 4. JBRのビジネスシステム 現時点における JBR のビジネスシステムを紹介しよう。これは次に述べる JBR の発展 過程を経て形成され、逐次改善されたものである。その発展過程で本論の主題である顧客 インターフェイスのリ・デザインが生じており、それが収益の急増を支えていると考えられ るが、それは次項で分析する。 生活の様々な局面でト 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの ビジネス概要 ラブルを発生させた顧客 は、JBR 本社のコールセ ンターに電話する。この JBR本社 コールセンター SOS電話コール コールセンターへは 365 日 24 時間、全国のどこか らでもつながるようにな 出動依頼 っている。連絡を受けた コールセンターは、通報 「生活救急車」 (加盟店) お助けの ワンダーランド! -3 - 困っている人 (顧客) 出動~問題解決 者の所在地に最も近い代理店に出動依頼を行い、出動した代理店は現場での応急修理を行 うとともに、内容によっては特約店と連携して本格修理を行う。 対応できるサービスは、二 輪ロードサービス事業、自動車ロードサービス事業、カギの サービス事業、水まわりのサービス事業、ガラスの修理サービス事業、クリーニング事業、 電気サービス事業、電気自転車サービス事業、インターネットサービス事業、セキュリテ ィサービス事業等である。代理店で処理できない専門的な技術対応や材料提供は特約店が 対応するが、それぞれの特約店はホンダ、ヤマハ、旭硝子、INAXといった大手メーカーの 特約店でもある。つまり、JBRの代理店は大手メーカーが最終消費者に接するためのイン ターフェイスという役割を有している。 生活救急会員は、入会金 2,100 円と年会費 10,500 円を JBR に支払うとともに、出張修理 時に状況に応じて原材料費と特殊技術料(30 分以上の作業)をその都度支払う。非会員の 場合は、これに作業料、出張経費が加わる。バイクロード会員は、入会金 1,000 円、年会 費 3,650 円(盗難補償制度を付けると入会金 2,000 円、年会費 10,500 円)である。 生活救急車としてサービスを提供する代理店は、加盟時の研修料 30 万円を本部に支払う だけで、加盟料や補償金はない。コールセンターの要請で出動するが、会員に対しては基 本的に無料で、非会員からは技術料、出張経費をとる。特約店はサービス対応時の原材料 費と特殊技術料を得る。JBR の利益の源泉は、会員の入会金と年会費、技術料(20%)、お よび代理店の研修料である。一方、代理店は出張修理時の技術料(80%)を利益の源泉と する。 5. JBR誕生の経緯 創業者の榊原氏は、大学卒業後、パルコ系列の(株)アクロスに入社し、マーケティン グおよび販売業務に携わった後に退職し、1994 年、バイクロードサービスを個人で創業し た。学生時代から起業したい、という気持ちを抱いており、バイクのガス欠で立ち往生し ていた青年を助けた際に 相手から言われた「あり がとう」の感謝の重みに 感動すると同時に、これ 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 沿革その1-誕生まで ¾ 学生時代 がビジネスに結びつくと ・ガス欠を起こした少年のバイクを自分の車で引っ張って ガソリ ンスタンドへ(神様のように感謝される) 考えたものである。設立 オートバイのロードサービスはないことに気付く 後の3年間は、1人でバ イクの販売店がやりたが らない仕事(重い車両の 運搬、型の古いバイクの 修理など)を請け負った。 ¾ 会社員時代 ・通勤費を浮かせるためスクーターで通勤 (よくガス欠を起こす) ・会社勤めの傍ら保険の代理店、広告会社、カラオケボック ス店長などさまざまなバイトを経験 ・5年間で2,000万円貯める これによってバイク販売 「入社後間もなくの宴会で5年で辞めるといってしまったんです。」 -4- 店やメーカーの信頼を獲得していった。 当時、自動車のロードサービスは既に存在したが、バイク向けのサービスはまだなかっ たために、バイク専用のサービスを事業化することを決意したが、やがてそれは顧客との つながりの中で変化していく。 6.JBRの多角化 JBR の設立当時、外部環境としては規制の緩和により日本自動車連盟(JAF)の高速道路 ロードサービス事業独占が崩れて95社が自動車ロードサービスに新規参入していた。そ んな中、榊原氏は JAF が手掛けていない二輪のロードサービスに特化したビジネスモデル をもってビジネスを開始し た。積極的に全国展開を推 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 沿革その2-誕生~多角化 し進めた結果、サービスを 軽トラック1台でバイクレスキューを開始。 販売店ネットワークへの信用を根気強く勝ち取る 提供できる地域はほぼ全国 をカバーしたが、売上自体 は全国で一定のシェアを獲 更なる成長の必要性 得して頭打ちとなった。ま バイクレスキューの顧客がカギも 失くしていたことからカギサービス開始。 た、冬の北海道や東北では バイクに乗る人は少なく、 カギ交換の顧客が空き巣に入られてい たことからガラス交換サービスを開始。 季節や地域によってサービ スに対するニーズが大きく 変動するなど売上が安定せ 「お客様の願いを全て叶えていたら、すごく広がっちゃいました」 ず、バイクだけではなく他 に安定した利益を得るために他のサービスが必要という状況となっていった。 ある日、オートバイの鍵をなくして困っている顧客が家の鍵もなくしてしまい困ってい るという相談を受けた榊原氏は少し目線を変えて、「鍵のトラブル解消」という視点で見れ ば、オートバイだけでなく自宅や自動車など、関連するところにビジネスチャンスがある ことに気付き、サービスメニューを追加することにした。 このことから榊原氏は顧客の視点で顧客のニーズを汲み取りサービスを付加することで 新たなビジネスチャンスと繋げられることを発見し、鍵交換顧客のニーズから、空き巣に 入られた顧客の硝子交換ニーズに、しかも、できるだけ早い対応へと、顧客の視点で必要 なサービスを充実させていった。 7. JBRビジネスシステムの成長 「バイクのロードサービス」というサービスのコンセプトを「お困り解消のサービス」と して関連するお困りサービスにメニューを拡大し、顧客が合わせてもつ多様なニーズに対 応することで、より大きなビジネスチャンスを取り込むことができるようになった。その -5- 過程を整理すると、バイク→バイクの鍵→家の鍵→ガラス修理→家庭のセキュリティ→家 庭の水周り補修、というようにサービスが連鎖的に拡大し、バイクに関することから家庭 の安全に関すること全般がサービスの対象となっている。 このシステムの拡大は、基本的に 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 沿革その3-更なる成長 はバイク修理サービスで蓄積したネ バイクのロードサービス ットワークを基本としている。つま り、JBR、顧客、代理店、大手メーカ ーの四つをつなぎ、顧客のニーズに 広範な地域で 24 時間対応するシステ オートバイの鍵と一緒に自宅のカギや車の鍵をなく す 自宅のカギの交換サービ 車のカギの交換サービス ス ムを戦略資産として、これにバイク 生活上のトラブル ピッキング被害、犯罪予 防 以外のサービス提供を加えていった 水まわり・クリー ニングサービスな ど ものである。 そこには、生活全般への連鎖的な ガラスの補修・セキュ リティシステムなど 四輪車の ロードサービ ス 「110番と119番以外の全てのお助けを目指します」 サービス拡大を可能にした顧客イン ターフェイスの変化と、このようなサービスの多角化を可能にしたビジネスシステムの特 異性(競争優位)という二つの要因が関わっていると思われる。以下にそれらについて述 べよう。 8. 急速な多角化と成長の秘密 新規の企業が急速に売上を伸ばしていった背景には、顧客の視点によるサービスメニュ ーの拡充があるが、それを支えたもう一つの重要な戦略があった。それは、徹底したアラ イアンス戦略である。お困りサービスメニューの拡充によって顧客基盤を得た JBR 社は、 サービス提供にあたって、 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 急速な多角化と成長の秘密 ガラスには旭硝子、水周 りには INAX、セキュリテ ィには SECOM とアライア ガラスのサービス 水周りサービス セキュリティのサービス 提供サービスの提携 ンスを組み、提供できる サービスをさらに拡大す ると共に、大手企業と提 生活救急車 徹底した提携戦略によ る提供サービス拡大! 携している会社として信 頼度を増し、さらに顧客 拡大に繋がったと推察で きる。また、アライアン ス戦略はサービス提供の 暮らしのトラブル解決サービス 2輪ロードサービス 販売チャネルの提携 大手企業との提携 による信頼度獲得! 生活者(顧客) みならず、販売について も積極的に行い、JR、ローソン、YAMAHA などと提携することにより、顧客との接点を増加 -6- させることでビジネスチャンスをさらに拡大させることに成功したと言える。JBR のアライ アンス戦略の勝因は、顧客のニーズに応え、かつ、お互いに Win Win の関係をサービス提 供の取引先とも販売の得意先とも結ぶことができた点にあると言えるであろう。 9. JBRと名古屋グルメとの共通点(その1) ここで JBR の成長戦略を名古屋の代表的な食文化になぞらえて考察してみたい。 その第一弾は「手羽先」である。「手羽先」とは鶏の羽の先の部分で、肉は少なく脂肪分 が多いのが特徴である。しかし元々手羽先は骨の部分が多く、食用として用いられてこな かった。そこに目をつけたのが名古屋人である。この「手羽先」をから揚げにし、独自の 味付けを行って、今や世界中の人々に知れ渡る名物に変えてしまった。ちなみにロックバ ンドである元ディープパープルのボーカリスト、ジョー・リン・ターナの大好物はこの手 羽先である。彼曰く 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 「いいか、世界で一 「手羽先」ぶり 番うまいもの、それ はこの手羽先だ!他 の食べ物と比べては いけない。もう違う 星の食べ物だと思っ 手羽先-(名古屋グルメファイル・その1) 「手羽先」は鶏肉のうちでは元来食用には用いなかった部位。 これに独自のアイデアで甘辛の味付けをして、 いまや、名古屋人にとって なくてはならないビールの友にしてしまったのが 名古屋人の知恵です。 てくれ!」と断言し ている。このように、 一見すると無駄に思 JR六甲道駅にある「生活QQボックス」は 駅に遊休スペースをもっていたJR西日本に JBRが提案して生まれた新業態です。 遊休地と一緒に余剰人員の活用まで実現して JR西日本は万々歳。 普通なら見逃すものも無駄を嫌って活かしきる 「名古屋グルメ」の極意が生きています。 えるものに独自の工 夫を加えて、なくて はならないものに変 えてしまう。これこ そが名古屋人の知恵である。 一方 JBR はというと、JR 六甲駅にあった遊休スペースに目を付け、JR に提案して、くら しサポートセンター「生活 QQBOX」へと生まれ変わらせた。「生活 QQBOX」とは顧客の様々 な生活に関するトラブルの相談を、駅で早朝から深夜まで(電話では 24 時間 365 日)対応 してくれるサービスである。買い物帰りや、会社帰りのちょっとした時間に立ち寄ること で、生活トラブルが解決してしまう、大変心強いサービスである。サービス内容は JBR が 提供しているサービス内容と同一であり、幅広い生活トラブルの解決が可能である。普通 なら見逃してしまう遊休スペースを、無駄を嫌って生かしてしまおうと知恵を絞り、なく てはならないものに変えてしまう、ここにも「名古屋グルメ」の真髄が見て取れる。 ちなみに「手羽先」にはゼラチンが多く含まれていて、コラーゲンがたっぷりである。 手羽先を食べると肌がすべすべになり、美しさを保つことができるなど、食べてみたらい いこと尽くめ。「生活 QQBOX」も使ってみたら、いろいろなトラブルに対応してくれて、み -7- んな大助かり。この辺も名古屋グルメ「手羽先」と共通するところである。 10.JBRの成長による新市場の創造 JBR はもともと二輪のロードトラブル解決から始まった会社である。これが家のカギのト ラブル解決やガラスのトラブル解決を行うようになり、「クラシアン」のような住まいのト ラブル解決業界へと参入、徐々に顧客をライダーから生活者へと変えていった。さらにそ こで顧客の声を吸い上げる ことにより、パソコンのトラ 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 成長による新市場の創造 ブル解決や車のトラブル解 決などを始め、「ベンリー」 二輪ロードトラブル解決業界 暮らしのトラブル解決業界 に代表される暮らしのトラ ブル解決業界へと進出し、生 活者に対するトータルなサ ポート業務に業務内容を展 ベンリー ・家のカギのトラブル解決 ・ガラスのトラブル解決 住まいのトラブル解決業界 ・会員制の導入 ・PCのトラブル解決 ・クルマのトラブル解決 クラシアン 開していっている。昨今は、 こうした顧客に対して会員 暮らしの安心提供業界 制を導入することによって、 トラブルを抱えて困ってい る顧客だけでなく、今後トラ ブルを抱えて困るであろう顧客に対しても、新たに暮らしの安心を提供する、そのような 業界を自ら構築し、企業の成長をはかっている。 11.JBRと名古屋グルメとの共通点(その2) 名古屋の食文化第二弾は「櫃まぶし」である。 「櫃まぶし」は、蒲焼にしたウナギの身を細かく刻んで御飯に混ぜたもので、小ぶりなお 櫃(ひつ)に入れて供されるため、こう呼ばれる。ひつまぶしの楽しみ方は、以下の手順 による「1 回で 3 度おいしい」食べ方にある。 1. 1 人前は小さな「お櫃」に茶碗 3 杯分入ってくる。ご飯の上に刻んだ鰻が載ったま ま出されるのでこれを用意されている杓子でかき混ぜる 2. 最初はこれをそのまま茶碗に一杯取り、そのまま(うな丼として)食べる 3. 次はおかわりの様に 2 杯目を取り、葱・山葵等の薬味を載せ、味の変化を楽しみな がら食べる 4. 3 杯目は 2 杯目の様にしたものに、お茶(煎茶)もしくはだし汁をかけ、さっぱりと お茶漬けのように食べる -8- 一方 JBR である。 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 「櫃まぶし」ぶり おなじ「カギ」とい うモノ一つとっても、 櫃まぶし-(名古屋グルメファイル・その2) バイクのカギもあれ 「櫃まぶし」とは 櫃に入れたご飯の上にうなぎの蒲焼を敷き詰めた料理。 名古屋の人はこれを3つの違った方法で味わいます。 まずは、そのままストレート(うな丼)で、 次に、薬味(ねぎ、わさび)を添えて、 そして、最後はだし汁をかけてお茶漬け風に。 ば、車のカギもある、 はたまた家のカギだ ってある。ただバイ クのカギを修理する だけでは飽き足らず、 鍵といえば バイクの鍵もあれば クルマの鍵もあれば 家の鍵もあります。 ならば3つともしっかり味わってしまおうというのが 名古屋グルメの極意です。 バイクのロードサービスだけでは満足せずに 様々な鍵を飯の種にしてしまったJBRの成長戦略は 実は「櫃まぶし」の知恵に支えられていた!? その技術を使って車 や家にも展開してい く。これこそうなぎ というありふれた食 材を使って、新しい 食を提案していく、名古屋グルメの真髄と共通する価値観である。 12.顧客インターフェイスのリ・デザイン JBR はバイクのロードサービスが起点である。この時にはバイクの故障に対する対応やカ ギの修理といった、単一シーンに対する対応が顧客との接点であった。ところが次第に、 ガラスの補修や水まわりの修理、パソコンのトラブル解決や防犯システムの開発などを手 がけ提供サービスが拡充していった。これにより顧客に対するサービス提供シーンが増え、 顧客との接点もリ・デザ 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの インされていった。ここ 顧客インターフェイス・リデザイン までが JBR のインターフ ェイス変容の第一段階で ある。 1st Step こうして営業基盤が強 単一シーン対応 提供サービスの充実 化されていった JBR は次 営業機会の 増加 に、現在困っている人だ けでなく、将来困る可能 完全わがまま対応 営業基盤の 強化 会員制の導入 性があるが、困りたくな い人に対して何かサービ 2nd Step 困りたくない人対応 困っている人対応 スを提供できないだろう かと考える。ここで考えられたのが会員制の導入である。これは、これまでのトラブルに 対する対応だけでなく、会員制を導入することで、困る前の生活者に安心を与えることは できないかというものであった。実際には入学、入社、入居といった物事の節目で、安心 -9- を提供するのである。これにより JBR も営業機会が増加し、トラブル予備軍に対するサー ビスの提供が可能になっていくのである。このようにこれまで困っている人に対応してい たものが、業務を展開していくに連れ、困りたくない人にも対応していった点が JBR のイ ンターフェイス変容の第二段階となる。 13. 提携による多角化のシナジー効果 JBR が構築したビジネスモデルの特徴は、まず第一には、様々な暮らしのトラブルの「問 題解決市場」において、信頼できて、かつ、ワンストップ化されたサービスを提供できる ようになっていることである。これは、技術と実績の裏づけはあるが、細かな販売サービ ス能力を欠くメーカーが、顧客への細かな対応をケイパビリティとする JBR と提携するこ とで、確実な商品を細かな対応で消費 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの 者に供給することで可能になっている 提携による多角化のシナジー効果 ことである。例えば、ガラス素材のト ップメーカーである旭硝子(株)は最 終顧客向けサービスを不得手としてい 問題解決市場 たが、JBR との連携でそれが可能にな 安心提供市場 り、当社のサービス向上として PR して 様々なサービス いる(2002.10.17 ニュースリリース) 。 JBR にとっても、旭硝子との提携はそ の確実な商品提供と顧客の信頼とを手 中にできるものであり、双利的な提携である。このようにして、当社はラインアップの数 の大きさが生み出すシナジー効果であるワンストップ化によって「問題解決市場」におい て競争優位を得ている。 JBR が構築したビジネスモデルの特徴の第二点は、上記のごとく、「お助け=問題解決市 場」でのラインアップの充実を実現したことによって、「暮らしの安心提供市場」という市 場を創出したことである。つまり、従来「お助け」市場は、起こった「問題」を「解決」 するものであった。これに対して、 「暮らしの安心提供市場」とは万が一トラブルが起こっ た場合に、よりスピーディーに解決してもらえるよう会員となる人を募集するというもの である。単品あるいはごく限られたサービス内容しかラインアップしていなければ、万一 に備えて会員となる顧客を集めるという会員制は実現しない。唯一の例は、複数回のトラ ブル発生が珍しくない自動車のロードサービスであろう。当社はその他の頻度の少ないト ラブルの束を形成することによって、あらゆるトラブルの備える「暮らしの安心提供市場」 を創出したのである。現在、当社が先行者利益を享受しこの分野で成長を続けていること は、本稿の冒頭で紹介したとおりである。 14.他社に真似できない強み - 10 - VRIOフレームワークにしたがって、JBR の強みと弱みを分析しよう。 経済的価値(Value)については、JBR が提供する生活に関わる総合的なお助けサービス は、統合的なサービス提供機能(ワンストップ・ショップ)によって顧客価値を高めること から、JBR の経営資源・ケイパビリティには経済的価値があるとみなしてよい。また提携企 業や JBR 自身に対しても、相互的な補完関係によってその提携関係は価値のあるものとな っている。 次に希少性(Rarity)について、同業他社は、JAF、クラシアン、ベンリーコーポレーシ ョンのように特定の機能に関するサービスであり、JBR のような総合的なサービス提供は他 に例がない。 さらに、希少性と模倣困難性(Inimitability)は、JBR と著名な大手メーカーとの連携 によって獲得される、供給するサービスに対する顧客の信頼(安心)によって支えられて いる。JBR のビジネスは、安全の提供をサービスの根底に置くものであり、顧客がサービス に対して抱く安心は重要な意味を持つ。そもそも、先の述べたように JBR が属する業態は 「特定商取引法」の対象となる訪問販売(役務の提供も含む)にあたり、国民生活センタ ーによると近年最も苦情の多い点検商法や訪問リフォームの類である。つまり、需要は多 いが、トラブルも多い業態であり、ここで競争優位を獲得するには、サービスの内容はと もかくとして、その信頼性が大きな課題となる。JBR のサービスは社会的信頼を有する大手 メーカーとの連携によって顧客に安心を与えるという点で、他の訪問販売業が有しない希 少な経営資産を手に入れており、それをつくり出しているシステムは模倣困難であるとみ なすことができる。メーカーと顧客をマッチングするシステムというだけなら他の企業に も模倣可能であるが、信頼性、総合性という二点において希少であり、模倣困難である。 代理店が提携を裏切ったとしても、この競争優位は真似できないものである。このため、 代理店は JBR 傘下であり続けることのインセンティブを持つことになる。 このように、ビジネスシステムとしては希少で模倣困難であるが、それを有効にする組 織体制(Organization)が必要である。JBR のシステムは、メーカーと代理店および顧客を つなぐインターフェイスを JBR が用意し、それを管理する、というものである。それゆえ、 これらのネットワークを管理する組織体制が信頼性、総合性という競争優位を支えている とみることができる。問題は JBR と顧客との接点であろう。直接的には代理店が顧客に接 し、JBR はテレフォンセンターでこれを補完している。つまり、JBR が構築したシステムの 最先端に代理店があり、これが顧客との接点となっており、システムの最終的な成果は、 代理店がいかに JBR のケイパビリティと競争優位を理解し、顧客との接点としていかにう まく機能するか、にかかっているといってよい。 インタビューによれば、現在は代理店に人選を慎重に行っており、またサービス人材セ ンターも設置し、人材育成に努めている。しかし、規模の拡大と良質な代理店の確保がど の程度まで両立するのか。範囲・規模の経済性を獲得するには代理店数を増大させる必要 があるが、サービスの質を落とさずにそれを行わなければならない、という課題がある。 - 11 - 15.JBRと名古屋グルメとの共通点(その3) 以上のような JBR の競争優位の形成は、名古屋グルメである「味噌カツ」へのアナロジ ーで考えることができる。 味噌カツは、洋風料理のト 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの ンカツに和風の味噌ソース 「味噌カツ」ぶり をかけたものであり、思いも 寄らない素材の組み合わせ 味噌カツ-(名古屋グルメファイル・その3) によって新たな料理を創出 洋風料理のトンカツに 日本古来の調味料である味噌で作ったソースをかけて いただくのがご存知「味噌カツ」。 それまで誰も思いつかなかったマッチングの妙が生み出した 一品です。 しているものである。つまり、 既に存在している著名なも のを新たに組み合わせるこ とによって、新たな価値を生 様々な企業のリソースのマッチングで 新たな価値を生み出しているJBRは まさに、ビジネスシーンで、第2、第3の「味噌カツ」を 生み出し続けています! み出している。旭硝子、ホン ダ、ヤマハ、セコム、INAX などによるサービスを一元化したサービスなど、通常なら思いもよらないであろう。それ を JBR は現出している。これはまさに名古屋グルメの真髄である。 16.JBRの今後の方向性と課題 JBR のビジネスシステムの競争優位は、多種多様な著名メーカーと顧客とをつなぐ、信頼 性と総合性をもった模倣困難なシステムにある。多様な提携企業と JBR との間で構築され たネットワーク、さら 究極の’名古屋グルメ型企業‘ジャパンベストレスキューシステムの に JBR と顧客接点であ 今後 る代理店とのネットワ 「暮らしの安心提供業界」の先行者優位 ークは、JBR にとって戦 株式公開による信用度アップ 略資産プラットホーム ・提携先ネットワーク であるとみなしてよい ・加盟店オペレーションノウハウ であろう。この戦略プ ラットホームは、この 更なる提携の強化 先新たなサービスを取 り込み、さらに拡大し ・自社ブランドの プレゼンス ていくことが可能であ り、総合的な安心提供 課題 ・拡大する加盟店の オペレーション 110番と119番以外の全てのお助けを目指す ビジネスに発展する可 能性が高い。さらに、予定されている株式上場によって JBR の存在が公開されると、社会 的信用度を増すことができる。 - 12 - 第一の課題は、先述したように、システムの最先端に位置し、顧客との最終接点となる 代理店のオペレーションである。これらがいかに質が高く信頼性の高いサービスを提供で きるのかである。現在、加盟店(代理店)約 400 拠点、特約店約 5000 店があり、これらの オペレーションを JBR 本社が管理しなければならないが、その点のシステムがまだできて いない。コンビニエンスストアのように、地域ブロック単位でのスーパーバイザーの存在 が必要であろう。 第二は、著名メーカーとの提携によって、サービスの著名度と信頼性は得られるものの、 JBR 自身のブランド被認識度が低いということである。JBR のシステムはコンピュータのオ ペレーション・システム(OS)と同義であり、現在はその上で有名なソフトが走っているた め、それらが目立ち、基本となる OS が陰になっているということである。株式公開になる と、それは企業価値を高めるために大きな障害となる可能性がある。これに対処するには、 著名な OS であるウィンドウズがバージョンアップを繰り返し、機能を向上させ、ソフトの 機能も高めているように、絶えず機能向上を図り、連携企業の機能を発揮し、提供するサ ービスを向上させることが最も有効な方法と思われる。また連携企業では提供できないサ ービスを JBR がどれだけ提供できるかも重要であろう。 17.まとめ 以上のように、JBR の提供するお助けシステムは、著名メーカーと代理店および顧客とを JBR のシステムによって結び付け、暮らし全般に関わる安全・安心を提供するものである。 その極意は、JBR の発祥の地である名古屋の「名古屋グルメ」と相通じるものがある。既存 のものの組み合わせによって思いもよらぬものに生まれ変わらせ、しかも何度も味わうこ とができる。それは、JBR が顧客をバイクライダーから生活者と捉え直すことによって可能 になった。つまり、顧客を一つの側面だけで捉えるのではなく、いろいろなニーズを潜在 的に持った生活者として多面的に捉えることによって、多様なサービスの組み合わせによ る新たな価値の創出が可能になったのである。JBR はそのような顧客認識を変えるに伴って、 実際の接点も変えてきた。そして多数の代理店をネットワークし、多様な大手メーカーと 提携することによって可能になった。後者は、JBR の戦略資産プラットホームであり、今後 さらなるサービスの多様化に対応可能であり、あらに新たなビジネスを生み出す可能性も 有している。問題は、サービスが多様になるにつれ、また著名な大手メーカーと提携する ほど、JBR 自身のブランドが埋もれてしまうことである。しかし、これは JBR 自身が創出す る付加価値が高くなれば解決されるであろう。また、顧客との直接の接点となる代理店に よるサービスをいかに維持し、高めるかが問題となる。そのためには、地域ごとに細かく 経営指導を行うスーパーバイザーが必要であり、現在以上に JBR の規模を拡大するために はマネジメント機構の変更が必要であろう。 混沌とした成長市場であるお助けビジネス市場において、戦略資産プラットホームを持 ち、信頼性のあるサービスを提供できる JBR のビジネスシステムは大きな競争優位を持っ - 13 - ている。しかし、それは今の状況に安住して得られるものではなく、名古屋グルメのよう に新たな組合せによって新しい価値を生み出すことによって達成される。今後のビジネス システムの成長に期待したい。 以上 - 14 -
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