2015 年 10 月 29 日 ロイヤリング講義 講師:弁護士 大川治先生 議事録作成者:門田頌弘 刑事弁護の実際 Ⅰ.はじめに 本日のロイヤリングは刑事弁護の実際というタイトルで、お話ししたいと思います。弁 護士が刑事弁 護士をするときにはどういうことをするのか、ということがメインなのです が、刑事・司法・裁判を取り巻く環境も変わりつつありますので、そのあたりをまずプロ ローグとしてご紹介したいと思います。 私は大川治と申しまして、大阪北浜の共同事務所 で働いております。平成 8 年に弁護士登録をしておりますから、今年で 20 年目になりま す。今日は刑事弁護の話をしに来たのですが、普段は企業法務ですとか、ビジネスの話を 中心にやっております。ただ、元々弁護士になろうと志したきっかけの 1 つが刑事弁護を やりたい、というものでもありましたので、弁護士になって最初の 5,6 年、相当数やりま したし、2 件無罪判決を得たこともあります。起訴されたもので有罪になる率は、争いのな い事案も含めると 99.9%ぐらいと言われております。これはかなりざっくりとした計算で、 争いのある事案に絞れば無罪率がもう少し上がると言われていますが、いずれにせよ捕ま ったら有罪になるのがほとんど、というのが我が国の現状です。私の場合 20 年で 2 件は 無罪判決を取れたので、まぁ良かったのかなという感じがします。 1.刑事司法における衝撃! ~今、私たちはどこにいるのか~ (1)検察官による証拠改ざんの衝撃! 平成に入ってから犯罪をめぐる環境や、刑事弁護をめぐる環境というものは大分変ってき ています。 ここ数年、刑事司法、つまり犯罪者を処罰するための手続の分野においていく つか衝撃的なことがありました。1 つめが検察官による証拠改ざんです。検察官というの は警察がこの人を処罰したいということを言ってきたときにそれが処罰するべき人が否か ということを判断して起訴する、という役割を担っています。ですから、例えば警察が集 めた証拠が適正かどうかとか、この事案で起訴してよいものかどうかとかを考える、公益 の代表者ということになっています。ところが、この検察官が証拠を改ざんするという事 件が起きました。厚生労働省に村木さんというキャリアウーマンがいらっしゃいまして、 女性初の事務次官になるだろうと言われていた人なのですが、この村木さんが、簡単に言 うと嘘の公文書を作ったという罪で逮捕されて起訴されました。この事件は、 検察側から 言えば国家公務員を逮捕できるということは事案としては非常に大きなもの、大きな手柄 になるものですから、大阪地方検察庁の中でも特別捜査部(特捜部)が直接捜査(特捜部捜 査)をしました。 ところが、検察庁、それも特捜部が起訴した事案で有罪にできなかったら 1 恥になるわけですね。警察 組織が捜査をして集めた証拠で警察官が吟味をして起訴したが 無罪になる、これは警察の捜査に問題があったかもしれないからまだいいとして、特別捜 査部が自ら捜査して無罪になるという犯罪は彼らにとっては汚点になりかねません。 この事件では一審では無罪判決が出まして、大阪地検は普通は控訴するところを、控訴 を断念すると いう異例な経過をたどったわけですけれども、何故こうなったのかというと、 捜査の過程で証拠を改ざんをしていたということが発覚したためです。検察官が村木さん を有罪にする重要な証拠というのがフロッピディスクに入っていたデータなのですが、こ のデータの日付を変更するという改ざんを行った。検察官が、自ら捜査した事案において 証拠、しかも刑事訴訟の基本となる物的証拠を改ざんするなどというのでは、もはや一体 何を信じてよいのか、ということになりますね。ということで、この事件は非常に衝撃的 なものでした。この主任検察官は前田さんという方で、もう服役を終えていらっしゃいま すが、私と同期、研修所 48 期の方です。しかもその上司 2 人もこれを隠蔽したという疑 いで逮捕・起訴される という、異例中の異例の展開をたどったわけです。 供述調書の作文が行われているということは昔から言われていました。供述調書は、例 えば自分が捕まったり事情聴取を受けたりした時に警察が供述を聞き取って調書という形 式で作成し、証拠として提出するものです。ということで警察の方が言っていることを誤 解して調書を作ることや意図的にニュアンスを変えるということが起こり得ます。こうい うことはあるだろうと前々から思っていたのですが、 物的証拠の改ざんなどというものは、 まさか本当にはやらないだろうと思いがありました。物証という客観証拠は、ある程度信 憑性があるとして弁護側も信用しております。ですから、現実に証拠改ざんがなされる、 ということが白日の下にさらされたことが、非常に衝撃的なことでした。 同じ修習所に入 って法の計らいのもとで正義を追求するという価値観、立場の違いはあれど、せめてやが てはいけないことは共有していると思っていた検察官が、こういうことをやってしまった、 ということ自体も衝撃的なのですが、驚きとともに「やっぱりそうだったのか」という印 象を私は抱きまして、このことも衝撃的なことでした。こんなことは二度と起きてほしく ないと思っております。 (2)足利事件の衝撃! 犯罪をやっていない無実の人が自白をする、有罪になって服役をする、ということが現 に起きたということが、最近明らかになりました。今話題になっている東住吉の事件も再 審がされることになりましたけれども、最高裁までいって有罪となると再審の扉をたたく しかありません。 この再審で無罪になったという非常に有名な事件が足利事件です。1990 年に栃木県足利 市のパチンコ店から女児が行方不明になり、翌日、渡良瀬川の河川敷で亡くなっているの が見つかった。この女児の服に男性の精液が付着していたとされ、それについて 1 年 3 ヶ 月後に DNA 型鑑定がされました。この時期も非常に遅いのですが、当時の DNA 型鑑定 は今と比べればかなり杜撰なものでして、1 ヶ所だけの DNA 型を見て、一致するかどうか 2 を判別していました。 その後、DNA 型が一致するということで、捜査線上に上がった菅 家利和さんが自白をしてしまいます。 実際に体験をしていないことを詳細に語るのは難し いと思いますが、この足利事件においてはそこそこ詳細な自白が残されています。それを 大きな証拠として、かつ DNA 型も一致していますから、一審・二 審は有罪、最高裁も上 告を棄却するということで、この人は服役をしました。ただ、最高裁係属中に弁護側から、 この DNA 鑑定は間違っている、一致していない、という主張がなされました。最高裁は この 主張を顧みることなく、寧ろこの DNA 型鑑定という手法には証拠価値がある、とい うことを宣言しまして、それが所謂判例にもなるという皮肉な結果にもなっています。弁 護団は不屈の闘志で、やはり何か おかしいと考えて、再審請求をしました。そして東京高 裁でもう一度 DNA 型の再検査をしてみると、今度は不一致になりました。つまり検察側 の鑑定人と弁護側の鑑定人それぞれで鑑定して、鑑定結果が異なるものだった、という経 緯になっています。こういうわけで、再審開始決定がなされ、再審無罪が確定する以前の 段階でこの人は早々と釈放され、その後無罪が確定しました。これも前代未聞の事件でし た。再審で無罪になったという事件は過去にもあるのですけれども、このケースでは無罪 が確定する前に釈放されています。これは裁判官が、このまま勾留することが正義に反 3 する、と判断したのでしょうね。これ自体も前代未聞の事件なのですが、この事件の注目 すべき点は、 無実の人が自白をするということが現実に起こる、ということがはっきりし たということです。江戸時 代までは拷問をして自白を取るという手法を取っていましたが、 これではやっていないことでも自白してしまうことが起こり得ますから、現在の日本の捜 査では拷問はない、任意で取調べをしている、ということになっています。ところが、こ の例のように無実だということがはっきりした人ですら自白をするということが明らかに なった訳です。現在の DNA 型の検査は正確で、ほぼ間違いなくその人の DNA 型かそう でないかを判別することが出来ますので、無実だとはっきり分るわけです。それははっき りしているのに、はっきりした自白もあるのです。ですから、人はやってもいないことを 自白できるのです。 恐ろしいのは、同時期の飯塚事件では、同じく DNA 型鑑定で有罪に なった方がいらっしゃいました。 この事件の被告人の方は一貫して無罪を主張しておりま したが、最高裁で敗れて死刑判決が確定し、その 2 年後に死刑が執行されてしまっていま す。今も遺族の方が再審請求をしておりますけれども、ひょっとすると DNA 型鑑定が一 致したというのが間違いで、本当は無実なのに死刑が執行されているのかもしれない。死 刑を廃止すべきか、という件に関しては国民的な意見が固まっていませんけれども、死刑 廃止論者が元々言っていることに、無罪の人が死刑になってしまったら取返しがつかない、 そういうことが現に起きているのではないか、ということですね。そういう背筋が寒くな るようなことが明らかに なった、ということが刑事司法における 2 つめの衝撃です。 (3)東電 OL 殺人事件の衝撃 同じく DNA 型鑑定の事件で、これも大きく報道されました有名な事案です。ゴビンダ・ プラサドさん というネパール人の方が東電の OL を殺害したという事件ですが、これも証 3 拠が隠されていまして、隠された証拠が出てきて再審が開始されたという事案です。 この事件は最初から無罪を争っておられて、一審の東京地裁は無罪判決を出しました。 なかなか説得力のある無罪判決だったのですけれども、そうするとこの時点でこの人は無 罪釈放され、またビザが期限切れになっていましたからすぐ強制送還されるところでした。 すぐ強制送還されていればこの事件はそこで終ったところでした。ところが無罪に不服な 検察庁が この無罪判決は間違っているから釈放するな、と言って、東京高裁もその検察庁 の言い分を受け入れ、最高裁もそれを是認しました。二審は逆転有罪になり最高裁も上告 棄却しましたから、こちらも無期懲役で犯人という判決が確定してしまいました。これも 再審請求をし続けました。遺体から採取された精液という最重要の証拠が DNA 型鑑定を経 ていなかった、ということを主張し、この証拠について再審請求審で鑑定を行ったら、こ のゴビンダさんの DNA 型と一致しない、そして他の第三者が残した体毛の DNA と一致 した。普通に考えてその人が犯人です。ということは、検察が、現場で採取した証拠があ るにも かかわらずそれを隠していた訳ですね。最初の段階で DNA 型鑑定をしていたらゴ ビンダさんの無罪はもっと早く確定していたわけです。ということでこのような証拠が出 てきましたので、東京高裁は再審開始決定をするとともに、直ちに服役中だったゴビンダ さんの刑の執行停止をし、釈放され、ゴビンダさんはネパールに強制送還されました。 今 はネパールで幸せに暮らしています。これも前代未聞の事件であります。この事案は、被 害者の遺体の体内から発見された精液という最重要証拠の DNA 型鑑定をせず、そのう え そういう証拠があることを隠していた、ということですね。採取した証拠があるのではな いか、ということを弁護側が検察側に主張していたのですけれども、出してこなかった。 これが公表されていたら第三者の犯行であるということが否定できなかったと思いますの で、ゴビンダさんが無実の罪で有罪になって異国の地で服役するなどといった馬鹿げたこ とは起きなかったはずなのです。このような事件が起きています。他にも、無実の罪で服 役している人がいるのではないか。これが日本の刑事司法の闇なのではないか、と思いま す。 他にもこのような事件はあるのではないかと思います。現在報道されている東住吉事件 であります。これの再審が開始されております。この事件は発生当初から冤罪では、と大 阪弁護士会で言われておりまして、弁護団が支援していた事案であります。それと、元プ ロボクサーの袴田さんの事件も再審が開始されましたが、まだまだこういうことがあるか もしれません。 2.刑事司法は変わりつつある (1)裁判員裁判の衝撃! こういうことが起きたこともあって、刑事司法について、今のままでは良くないとして 様々な工夫が 凝らされるようになりました。皆さんも報道等でご覧になっているところだ と思いますが、裁判員裁判 です。その前までは、弁護士、検察官、裁判官といった法律の 専門家だけで裁判をして有罪か無罪かといったことを決めていたのですけれども、この制 4 度では法律の素人が事実認定や量刑に参加できるようになりました。この制度は 2009 年 のスタート以来、全国の裁判所で殺人事件等の審理が行われています。 裁判官は 3 人い て、6 人の市民が裁判員として加わります。その中で裁判員の意見が斟酌されるわけです ね。無罪もちらほら出ています。裁判員裁判は憲法に違反していないという最高裁判例も 出たりして、すっかり定着しているところです。これからもどんどん定着していくと思い ますね。 裁判員になる人は、選挙人名簿から選ばれます。大体一生に 1 回ぐらいだろう と言われていて、私のような弁護士は裁判員に選ばれることはないのですけれども、皆さ んも法曹にならなければひょっとすると裁判員として審理に加わるということがあるかも しれません。対象事件は今のところ、① 死刑又は 無期の懲役・禁錮に当たる罪(殺人、 強盗致死傷など)、② ①を除き、法定合議事件であって、故意の犯罪行為により被害者を 死亡させた罪に係るもの、という重大事件に限定されています。また裁判員裁判は、連日 開廷です。裁判員裁判以外の裁判については、1 月に 1,2 回ぐらい法廷を開いて審理する、 という方式が通常ですが、裁判員裁判では市民の方が参加しますので月に何回も法定を開 くことは不可能です。普通は例えば 1 週間だったら 1 週間、朝から晩までやります。そ のように連日で裁判を進められるように、公判前整理手続が行われてじっくり準備が行わ れ、裁判は一気に終らせる、このような手続です。この中で裁判員の方から質問が入った りもしますので、かなりエキサイティングな裁判となっています。 (2)被疑者国選弁護人→平成 18 年 10 月から開始 国選弁護人とは、貧困等により私選の弁護人を雇うことが出来ない人々のために、国が 国の負担で弁護人をつける、という制度です。国選弁護人制度というのは、起訴されて裁 判になってからのものです。本当は刑事弁護というのは、捜査段階、捕まってこれから起 訴される段階でどういう弁護活動ができるかというのが非常に大きいです。ここでの弁護 活動によってもしかすると不起訴で終ってしまうかもしれませんので、そういう場面でこ そ、本当は弁護人をつけなければならないのです。でも、これまでは その段階で知り合い の弁護士がいなければ、弁護人なしで強大な力を持った捜査機関と接していかなければな らなかったわけです。この被疑者国選という制度が出来まして、一定の対象事件に限定は されているものの、かなり広いケースで、捜査段階から国選弁護人をつけることが出来る ということになっています。救済をあまねくしていこう、こういうことですね。捜査段階 で弁護人がついていれば長々とした裁判にならずに済んだ場合もやはりありますので、こ れも大きなインパクトがあると思います。これも今後、司法を変えていくのかなと思いま す。 (3)取調べの可視化、司法取引? 現在進行形の刑事司法の変化では、司法取引というものが導入されようとしています。 これは報道されているので知っている方もおられるかと思いますが、これは刑事免責と引 き換えに起訴するのをやめておく、などのまさに取引であります。これは、アメリカやイ ギリスには昔からあり、日本にはありませんでした。これを導入しようとなりまして、こ 5 の国会で審議中の段階です。これが、通過すると確実に刑事弁護は変わります。要するに 軽い罪は認めて、重い罪を…、ということができたり、あるいは捜査に協力したら…とい ったことができるようになります。 3.刑事弁護はなぜ必要か? では刑事弁護はなぜ必要なのかという話をしていきます。よく一般の方と話をすると、 「なぜ、悪い人の弁護をするんですか?」「被害者や遺族が気の毒だと思わないんですか? 良心が痛まないんですか?」 「どうして、そんな荒唐無稽な主張をして世間をバカにするん ですか?」といった質問を受けます。実際、そうだと思っている人も、多くいらっしゃる のではないかと思い ます。一方で、先ほどから説明してきたように、無罪事案というもの は続出しています。ここ 10 年でも大き な事件で無罪が言い渡される事件が増えてきてい ます。無罪になったというのは、裁判官や検察官が偉かったからではなく、弁護人が頑張 ったからですね。弁護人が無罪ということを信じて弁護活動を必死にしたからこそのもの だと思います。弁護人があきらめていては無罪にはなり得ません。そう思うと、根本的な ところですが、刑事弁護の役割とは何なのか、というところを、簡単に見ておきたいと思 いま す。 (1)弁護士が取り扱う業務分野 冒頭で説明しましたように、私は普段は民事、商事、企業法務を中心にやっております。 弁護士の業 務というものは、刑事だけではなくて、非常に幅広いです。裁判官は裁判をす る人、検察官は犯罪を起訴して裁判を起こす人ですけれども、弁護士は民事、家事、商事、 倒産、知的財産権等、色々なことを扱います。民事事件では「代理人」と呼ばれ、刑事事 件でのみ「弁護人」と呼ばれます。 「弁護」士というと弁護業務を専門にやっているように 思われがちですけど、必ずしもそうではなくて、刑事弁護を全くやらない弁護士の先生も いらっしゃいます。 (2)テレビドラマなどで見かける弁護士像と現実のギャップ、ドラマ等で見る弁護士 とはかなりのギャップがありまして、ドラマでは自分の取り扱った事件について独自にど んどん調査していくような弁護士がいたりしますけれども、現実にはこんな弁護士は、ほ ぼいません。弁護士に与えられた権限などというものは全く乏しいものですし、弁護士が 刑事事件に充てられる時間も限られています。そんなことをしていたら食べていけなく なってしまいますから、あれはあくまでドラマの世界。アメリカのドラマでは、まさにド ラマチックな法廷劇が繰り広げられて面白いのですが、日本の法廷ではそんなことは起こ りません。そのような意味で刑事弁護というのは非常に地味な仕事ではありますね。 (3)重大事件と弁護士 批判される弁護活動 一方で地味な仕事なのにもかかわらず、ここ 20 年近くの内に起きた事件の中で、弁護 士のした弁護活動が批判される事例というものは沢山ありました。オウム真理教事件、神 戸連続殺傷事件、和歌山毒カレー事件、池田小事件、光市母子殺害事件、等です。弁護を するのがなかなか難しい事件もありますし、 光市母子殺害事件では、今の橋本市長がタレ 6 ントだった時代に、今の弁護団は許せない、懲戒請求をしてください、ということをテレ ビで呼びかけて、実際に懲戒請求の嵐が起こりました。この時に剃刀の入った封筒が届け られるようなこともあったりして、弁護士が仕事でやっている弁護活動が一般人の攻撃に 曝される、ということが現実に起きています。地味で、取り扱った事件の 99.9%以上は有 罪になるという世界で、しかも「なぜ、あんな悪い奴の弁護をするのですか」という問い もありますし、しかも黒を白と言いくるめる「悪しき隣人」等という批判もあるわけです ね。何となく、落ち込んでしまいますね。 (4)無罪率の異常な低さ 検察官は、必ずこれは有罪になると思った事件しか起訴しませんので、弁護士になって も冤罪・無罪 に出会ったことがないという弁護士の先生や、一生のうちで 1 回も無罪を 勝ち取れないという弁護士の先生も、たくさんおられると思います。その中で、どうやっ て情熱を持ち続けるか、という話ですね。 (5)誰でも、刑事事件の被疑者になる可能性はある こういった、弁護士の活動を批判する人たちの考え方にあるのは、自分が犯罪者になる ことはない、というよく分らない確信ではないかと思います。交通事故の事案でも、運転 技術が未熟だったために人をはねてしまった、運悪く相手が亡くなってしまった、こんな ことでも犯罪になります。交通事故で逮捕されるなどということはないなどと思っておら れるかも知らないですけれども、ひき逃げすれば絶対に逮捕されますし、ひき逃げでなく ても、たとえ過失でも逮捕されることはあります。ですので、誰でも犯罪者にはなりうる というわけです。 刑事弁護活動を批判的に議論することは自由ですし、それはそうあるべ きだと思っています。表現の自由が保障されない社会というのは、逆の意味で困ったこと になっていきます。ただ、多くの場合、自分が被疑者・被告人になったらどうだろうか、 という視点が欠けているのではないかと思います。攻撃する側にのみ立脚して刑事裁判制 度を構築しようとすると、それは困ったことになります。昔の裁判は、1 つには権力者側 の弾圧の手段として用いられていました。権力者側が政敵を捕まえて処罰するようなこと は、新興国でしばしば起きていますが、日本でも起こり得ることです。 (6)小規模な事件から大事件まで ですから、刑事事件というのは、無実の事件のみが保護されるべきというわけではなく、 圧倒的に有罪の事件の方が多いわけですから、そういった日常的な事件を積み重ねていっ て、信頼される刑事裁判 というものが実現できると思います。地味な事件ばかりやってい て、場合によっては批判もされる、そこでへこたれていては誰も刑事弁護をやらなくなっ てしまう。そんな世界が本当に良いものか、ということなのですね。 裁判員裁判は華々し い裁判ですけれども、寧ろ、そのような裁判員裁判にならないような小さな事件 を積み重 ねることによって、刑事司法に対する信頼というものが醸成されるのではないかな、と思 うと ころです。 (7)刑事弁護人はなんのために必要なのか 7 憲法で、有罪という判決が確定するまでは無罪推定が働くとか、刑事弁護人がつけられ るということが書いてあるから、憲法の要請である、と考えることが出来ます。それは正 しいことではありますが、 やはり、歴史的にこの刑事訴訟が弾圧・強制の道具として用い られてきたということを忘れてはならないのだと思います。特に、社会が閉塞し、多様な 価値観を認めにくい時代において、注意が必要です。直近には同時多発テロの事例。それ まではアメリカは自由の国と思われていましたが、それ以来アメリカでは髭が生えていて 浅黒い人は白い目で見られるようになり、入国審査はかなり厳しくなったと聞きます。そ れぐらい、何かが起これば社会の状況はすぐに変ります。今は政敵を弾圧するために刑事 訴訟 を使うなどということはない、と思われるかもしれませんけれども、そうはいっても 100 年ぐらい前には特高警察というものがありまして、蟹工船の作者小林多喜二を拷問で 殺害するなどということが起きています。たった 100 年間でもこのようなことが起こり得 るので、やはり、刑事訴訟において刑事弁護人は必要であろう、と思います。 「世界中の 人間を敵に回しても、誰か 1 人は見方がいなければならない」それが刑事弁護人の仕事で す。依頼者の利益を最大限保護する。「なぜ、あんなに悪い人の弁護をするんですか?」悪 い人だからです。良い人だったら弁護する必要などない。悪い人だからこそ、弁護をする。 無実の人を無実にするのは当たり前のことです。そうではなくて、有罪の人の弁護をする のが刑事弁護の真髄なのですね。それが求められています。有罪の人に国費を出してまで 国選弁護人をつける、有罪の人でも弁護しなければならないからこそのことです。 私の経 験上、弁護の余地が存在しない被疑者・被告人は一人もいません。どんな凶悪な犯罪者で あっても、何かがあります。その何かのために刑事弁護人は奔走します。日本は軍隊があ りませんが、逮捕・勾留といった手段で、政府は身体の自由を完全に奪うことが出来る。 人の家に入っていって捜索押収・ガサ入れをすることもできる。政府・警察のやっている ことは、実力行使そのものですね。弁護人は、それに対して、 「六法」と「弁論」と「ペン」 、 極めて非力なものでありながら、しかしこれで 実力行使に戦いを挑むことが出来るわけで す。そういう力が刑事弁護人には与えられているのです。時には政府を打ち負かし、無罪 にすることもできます。ということで、「平和的に、しかし、決して屈しな い」という精 神のもと、刑事弁護をします。世の中は色々と変わってきておりますけれども、今後も刑 事弁護の必要性には変わりはないでしょう。というよりも、変ってはいけない、と思い、 日々刑事弁護 を行っております。 Ⅱ.普通の刑事事件のありよう 1.捜査段階と弁護士の役割 ここからは話を変えて、刑事弁護の実際について話していきます。 (1)刑事事件のスタート「逮捕」 事務所に依頼者から一本の電話。 「友達が居酒屋で喧嘩して、警察に連れて行かれたまま 帰ってこない」 弁護士と依頼者の接点はこのようなところから始まります。このような場 8 合、弁護士は逮捕された可能性がある、と答えます。 皆さんのお手元に、刑事手続の流れを示した図を示しています。捜査段階はまず逮捕か ら始まります。そこから 48 時間、警察にいまして、その間に検察庁というところに送ら れ、検察官がこれは勾留しなければいけないと判断したら、今度は裁判官に連れて行かれ て、裁判官から質問を受け、その後警察に連れて行かれて拘留されます。その間毎日、質 問を受けたり、手錠をかけた状態で現場まで連れて行かれて事情聴取をされたりします。 10 日間、勾留の延長をされる場合もあります。そのうえで、検察官の判 断で、起訴に持 ち込まれます。起訴されたらその後もずっと拘留されて、裁判所に行って執行猶予が付 か ない限りは、ずっと捕まったままになります。 刑事事件のスタートは、先ほど申しましたように、逮捕からスタートします。日常的に 出会う犯罪類型というと、大阪ですと覚せい剤がとても多いです。覚せい剤は大阪でも容 易に手に入りますのでそこ に非常に問題があるのですが、つい、とか、軽い気持ちで、と かいってやったのが大きなことになるのが覚せい剤ですね。交通事故や暴行・傷害、万引 き、痴漢等も非常に多いです。ある意味、よくある事件だが地味なケースです。こういう 事件に皆さん方が巻き込まれたらどうするかということですけれども、今はまだ被疑者国 選が全ての犯罪類型には展開されていませんので、私選弁護士を紹介してもらうとか、一 部の対象事件では被疑者国選で弁護士を呼んでもらうということになります。弁護士とし ては、捜査段階のうち、逮捕されると勾留決定までの警察に留め置かれる 48 時間(ヨン パチ)で何が出来るか、ということが非常に大きいですね。ここで弁護人が上手く活動し て被害者と示談が成立したりすると、その後起訴されないどころか、勾留されずに 48 時間 以内に釈放されて終る、ということも度々あります。だから、出来るだけ早く弁護人にア クセスできる、というのが良いですね。 (2)勾留 最大 20 日間の身体拘束 それが出来なかった場合、勾留されてしまうことがあります。勾留というのは、逮捕に 引き続いて、逃亡の可能性があるような場合に、刑事施設にとどめ置くことが出来るとい う制度です。これは裁判官の事前審査を経て、裁判官が勾留状を出すような仕組みになっ ています。勾留状を受けると、10 日間勾留されます。10 日間捕まったままというのは、想 像を絶するほどの苦痛があります。自由に社会生活を送ることが全くできません。社会と の隔絶、面会の制限、ということがあります。勾留されてしまうとこのようなつらいこと が沢山待ち受けていますので、弁護人としては勾留をさせないこと、これが捜査 段階での 最大のヤマ場になります。ですので、勾留決定が出される前に検察官と交渉したり、ある いは 裁判官と面談して勾留しないようにお願いしたりします。これが功を奏したら釈放さ れて終るのですが、なかなか難しいです。逮捕されている案件で勾留まで行かないケース の方が恐らく少ないですね。勾留されると、ほとんどの場合 10 日間、警察の留置所に留 め置かれます。留置所は劣悪な環境で、鉄格子のある檻の中に入れられます。この拘留期 間中には、取調べというものが行われます。取調室に連れて行かれて、検察官と書記官が、 9 心理学的に研究された方法で、何とか自白を取ろうと画策します。この拘留期間中に、捜 査機関側にとって有利になる証拠がとられないようにする必要があり、そこが弁護人の仕 事の一つになります。しかし、密室で毎日取調べを受けているため、弁護人よりも寧ろ刑 事と親しくなってしまっているケースがあります。親しくなると、その人のためにいいよ うにしたいという心理状態が働いてしまいますので、警察側に有利な供述・自白をしてし まうという可能性もあります。 これをどうリカバ―するか、というのが、勾留段階での弁 護士の腕の見せ所となってくると思います。 裁判員裁判でしたら調書をそのまま読み上げ るというのはなかなかできないのですが、それ以外の裁判では調書がそのまま証拠として 使われます。これを調書主義といいますが、被疑者の自白調書というものが捜査段階で作 られてしまいますと、これは非常に重要な証拠となります。刑事訴訟法においても、それ が任意に作られた自白調書であれば、裁判になった後も有罪の証拠として取り扱うことが 出来ますので、こういう供述調書・自白調書が作られてしまうと、もう取り返しがつかな い場合が多いです。ですから、こういう調書が作られないようにする必要があって、かつ 不当な誘導が行われていないか、ということを確かめるため、取り調べの可視化が必要と 言われています。ただ現行制度下でこれを言っても仕方ありませんので、弁護人はなんと か被疑者とコンタクトを取って、手続を有利に進めていこうとします。被疑者との接見が 非常に重要ですが、物理的に制約があります。弁護人がいつでも好きな時に行って好きな 時に面会をするということが出来るかというと、必ずしもそうではありません。このよう な物理的制約のもと、この捕まっている人と接見して、その短い接見時間の中で、その人 が今どんな取調べを受けているか、どういうことを答えているのか、それを踏まえてこの 人を弁護していくためにはどういうアドバイスが必要なのか、ということを弁護人は的確 に考えなければなりません。頭も神経も使いますので、この捜査段階の弁護士業務という のは非常に疲れます。捜査機関は一体どういう証拠を握っていて、どういうことを考えて こういう質問をしてきているのだろうか、といったことを推測するのですね。それを被疑 者に説明して、不利すぎる、不当な供述を取られないように防御します。 テレビドラマで したら、被疑者が捕まっている間に弁護人が一生懸命インタビューに行ったり、証拠 をと ってみたりするシーンがありますけれども、そんなものは全然違います。弁護活動のドラ マとの違いは、圧倒的に情報がない、ということです。何故かというと、窓口が被疑者本 人しかいないからです。 接見に行ってその本人がこういうことを言われています、とか、 こういうことを聞かれました、とかということから推測するしかありません。警察が集め ている証拠は当然ながら見せてくれません。こういうことで、情報がない中で神経戦をし て、検察・警察と拘留期間中に示談交渉をして、告訴・告発を取り下げてもらう、という ことになります。勾留に対抗するための法的手続としては、準抗告、勾留理由開示公判、 勾留取消、といった武器が与えられており、弁護人はこれらをうまく活用するということ になります。先ほど申しました被疑者国選制度というものが導入されて、近い将来に勾留 所に拘留されている被疑者は全て被疑者国選制度を利用できることになるでしょうから、 10 そうなるとより充実した弁護が出来るようになるだろう、と思っているところです。 (3)捜索・押収手続き いわゆる「ガサ入れ」という手続です。これは警察の強力な捜査能力の一つであります。 「ガサ入れ」は突然来ますし、被疑者が任意同行されていますので、その場に弁護人が立 ち会ってコントロールするというのは、事実上不可能です。たまたま近くに 弁護人がいて コントロールするというのも不可能ではないのでしょうが、私自身、過去 20 年間、捜索・ 押収に立ち会ったことはありません。ですので、これは仕方ない。取られたものが本当に 適正採集された証拠なのかということを後から争うことになります。 (4)起訴と刑事弁護 ‐ 起訴と不起訴では雲泥の差 このように捜査が進んで行ったあとは、検察官が起訴するかしないかということを決め ます。起訴されてしまうと、正式な裁判、公判になってしまいますので、起訴されないた めの弁護活動というものを展開します。被害者がいるような場合には、お金を払って示談 交渉をして示談証書を作り、検察官のところに持って行って起訴猶予を申出たりします。 これも功を奏さず結局起訴されてしまえば、公判ということで、起訴されたとき用の弁護 活動もあります。一刻も早く外に出してあげたいという制度で、保釈という制度がありま す。これは簡単に言うと 保釈保証金というお金を積んで、保釈してもらうという制度です。 これは起訴されてからの制度で、その日のうちに保釈請求できるのが一番望ましくて、難 しくても数日以内にできる、これが捜査段階から 弁護人がついているという意義だと思い ます。 うまく不起訴になったら、名誉挽回が必要になります。というのも、その人が捕ま ったときにはマスコミがこぞって報道しますが、不起訴になったときにはほとんど報道が なされないためですね。弁護士が勤め先に説明して回ったりすることもあります。 2.公判段階と弁護士(刑事裁判手続の主な流れ図参照) 【否認事件】18 歳の女性が自宅寝室で何者かによって殺害される。親戚の男性が犯人と して逮捕。 「身に覚えがない!」 【自白事件】路上を歩いているときに職務質問を受け、覚せい剤所持が判明。尿検査で 使用も!いずれも事実間違いない。でも反省してます。 (1)起訴後、弁護士が入手できる資料は?(起訴状資料参照) 残りの時間で公判段階の弁護士の仕事をお話しします。公判段階というのは、これは正 式に起訴された場合ですが、公判段階の事件の類型としては、大きく 2 つに分かれます。 否認事件と、自白事件です。 否認事件の場合は、検察官はこの人が犯人であるということ を主張立証してきますので、それに対する防御活動をしていくというのが弁護士の仕事に なりますし、自白事件の場合は事実に争いはありませんので、それでは本人が反省してい ると言っている、その反省の程度を如何に裁判所に理解してもらうか、ということが弁護 士の仕事になってきます。 公判の流れとしては、まず起訴されたら第 1 回の公判期日が決 められて、その日に法廷で裁判が開かれて色々な手続きが行われる、というのが大雑把な 11 流れです。まず起訴された段階ですが、起訴された 段階ではほとんど弁護人には情報がな い、ということをご紹介しましたが、起訴後はどうか。起訴後も、最初手に入る情報は、 起訴状だけです。その後検察官が実際に立証に使うための証拠を開示してくれます。それ を閲覧請求したり、コピーを取りに行きます。膨大な数であることもありますので、大変 な作業です。一方で、こういった検察官が自ら開示してくる証拠というのは、それがあれ ば被告人を有罪に できると検察官が考えた証拠だけになります。先ほどの東電 OL 事件の ように、重要な証拠が隠されているということが往々にしてあります。それを探し出すと いうのも弁護人の仕事で、証拠開示命令申立をしたり、公判前整理手続に付してもらって 証拠開示をする、といったことをします。 (2)公判期日と弁護活動 起訴状が手に入り、請求証拠が開示されましたら、公判期日を決めます。弁護人のとこ ろに裁判所書 記官から電話がかかってきて、公判期日を決めることになりますが、日程が 空いている日をうまく調整して決めます。これが普通の決め方なのですが、例外もありま す。基本的には手続きは出来るだけ早く進む方が、被告人の釈放される可能性も考えると 良いのですが、中には被告人が前科持ちで執行猶予期間中であるという場合もあります。 例えば懲役 1 年 6 ヶ月、執行猶予 3 年という判決を貰った人はすぐ釈放されるのですが、 その 3 年の執行猶予期間中にもう一度犯罪をすると、今度はその犯罪で有罪になるととも に、前の執行猶予が取り消されますので、ダブルで服役しなければならなくなります。時 間の流れで行くと図のようになりまして、前の執行猶予期間の満了日が到達する前に新し い事件で実刑懲役 1 年が言い渡されてしまいますと、この人は新しい懲役 1 年と、前の 1 年 6 ヶ月を合わせて 2 年 6 ヶ月服役しなければならなくなってしまいます。これは本人にとっ ては非常に不利益なので、こういうときに弁護人は実刑の言い渡しが、執行猶予期間が満 了した後に来るように努力します。つまり手続をゆっくり進めるということです。そうい うこちらの思惑は、裁判官は起訴状一本主義なのであまり把握していないのですが、裁判 所書記官の方は大体把握していて、ゆっくりめに、期日を決めてくれるということもあり ます。これは地道な弁護活動の作用です。 公判期日が決まると被告人のところに面会に行 って打合せをしたりします。拘置所での接見というのは色々な制限がありますので、そう いう制約を乗り越えながら打ち合わせをします。記録の検討もするのですけれども、大き な殺人事件でしたら、資料がキャビネット一杯になるほど多いときもあります。その膨大 な証拠を見るということになって、非常に大変な仕事です。この資料を見ると、事実は小 説より奇なりと言わんばかりに、被告人が自分は無実だと言ってずっと頑張っている、と 言っていたのに、本人の調書を見ると完全に自白しているようなことがあり、内容に愕然 とすることもあります。 法廷でどんなことを話すのか、ということを相談したり、認めて いる事件であれば示談交渉をしてみたり、否認事件であればそれなりに事前準備をしたり します。 (3)公判期日の手続き 12 このような手続を経て、開廷となります。皆さんも是非法廷の傍聴に行っていただけれ ばと思います。 運よく裁判員裁判にあたれば、弁護人が活発に議論しているのを見ること が出来ます。一番前には裁判官や書記官がいて、原告が裁判官から向って右に、弁護人は その反対側に座るというのがルールとなっています。真ん中には証人が来て、被告人は弁 護人の前や横に座ります。このような感じで法廷を開いてどんどん手続きを進めていくの ですけれども、裁判員裁判になってからは調書主義ではなく、法廷弁論技術 Trial Advocacy が重視されるようになりました。これまでの弁護人は、用意してきたメモや書面を読み上 げるという弁護活動をしていました。これからは、相手の顔を見て、アイコンタクトを取 り、相手を説得しなければなりません。そうすると聞いている方も皆顔を上げるようにな ります。これは裁判員裁判制度が変えていくことだと思います。 冒頭には、①人定質問、 ②起訴状の朗読、③権利告知(黙秘権) 、④被告人の意見陳述、⑤弁護人の意見陳述、とい った手続きが粛々と行われます。この後に証拠調手続が行われ、①検察官の冒頭陳述、② 検 察官の証拠請求(書証が大半) 、③弁護人の冒頭陳述、④弁護人の証拠請求に対する意見(書 証の同意・ 不同意 伝聞法則)(物証・証人についての意見)、⑤証人尋問、という流れで 手続きが行われます。やはり面白いのは証人尋問ですね。昔の証人尋問は尋問事項書を用 意してきてただ読み上げるだけというものだったのですが、これからは変わっていきます。 弁護人の方も尋問事項を記録しておいて、その記録に基づいて尋問や反対尋問をする。不 当な誘導尋問や重複尋問といった違法な尋問があったりすると 「異議あり!」と立ち上が って言うようなものに、裁判員裁判の導入により変っていくと思います。昔の法廷では異 議を言ったことのない弁護士もいましたし、ドラマのような華麗な尋問テクニックを見せ るような弁護士もいませんでしたが、今は尋問の技術というものもトレーニングできるよ うになってきていますので、どんどん向上しているところです。情状を立証するときは、 如何に裁判官に分ってもらうか、ということを重視します。裁判官の心証を 掴んで弁護士 は努力をします。 Ⅲ.おわりに 刑事弁護にやりがいがあるか、ということを質問されることが多くあります。私の答え は、「ある!」ということです。ですので、もし皆さんが法曹の資格を目指すのであれば、 弁護士になられる方は、是非刑事弁護を、一度やっていただければ、と思います。必ずや りがいが見つかると思います。それ以外の職業の人たちも、法学部のロイヤリングでこん な話を聞いた、ということを心にとどめながら、重大犯罪を弁護する弁護人を自分で見て、 冷たい視線を飛ばすだけではなく、大変なのかもしれない、という温かい目で見る、とい う視点も必要ではないかと思います。こんな視点に繋がれば幸いです。 以上で講義を終わ ります。ご清聴ありがとうございました。 以 上 13
© Copyright 2026 Paperzz