1000円の楽しみ 木村 哲也 皆さんは1000円あったら、どうやって楽しみますか?映画?ゲーム?パチン コ? 1000円の楽しみの1つに、読書を加えてみてはどうでしょうか。文庫本な ら1000円以下の本がたくさんあります。図書館で借りれば無料です。 皆さんはどんな本を読みますか?私はハード SF が好きです。私の持つ理系の 知識がハード SF の内容と合致すると、本の中の情景が頭に浮んできます。これは、 文系人間にはできない理系の特権だ、と思います。また最近は、マネージャー的 仕事も増えてきて、経営に関わる本も、実体験的に読め、読書の楽しみが増えて きました。プロジェクトの成否に関わるような大きな決断をどうやってするのか、 プロジェクトを円滑に進めるために、誰にどのようにアプローチすればよいのか、 本の中の仮想体験は、自分を鍛える事につながっている気がします。学生時代、 貧乏で飯もろくに食べられないときは、ハードボイルド小説を読んで「耐える男 は美しい」と勝手に納得していました。読書は、色々な楽しみ方があると思いま す。 私のこれまで読んだ本の中で、お勧めをいくつか挙げておきます。1000円分の 面白さは、保証します。読んだ感想も教えてください。 ・『戦闘妖精・雪風(改) 』 (神林長平著、早川書房) 戦闘機の緻密な離陸手順、大気圏内での超戦闘機同士のバトル、その見事な 描写は理系魂をくすぐります。クールな主人公のパイロットと人情家の上官 の交流も話に厚みを加えます。正体を見せない異星人「ジャム」は、いった い何者なのだ!最後のオチにも注目です。関連本出版やビデオ化されるぐら いの、注目作品です。メカ好きなら一度は読んどけ! ・『創世記機械』 (ジェイムズ P. ホーガン著、山高昭訳、東京創元社) すっごい発明をした天才科学者。彼の研究を軍事利用しようとする国家権力、 研究は芸術と同じ創作活動なのに、頭脳労働と考えで管理しようとする官僚 主義。現在、私はレスキューロボットの研究に取り組んでいるが、実用化が 見えてきたレスキューロボットの現在の研究状況とつい重ねてしまう。学生 時代に読んだが、研究者として働いている今の方が、作者の力量を深く感じ る。そして、やられた!、と思う最後のオチ。ハード SF ファン必読です。 ・『仮装巡洋艦バシリスク』 (谷甲州著、早川書房) 第2次大戦での海軍の様子を参考に、リアルな宇宙戦を見事に描き出してい 1 る。戦闘機械の動作の描写は見事。読むと同時に脳内にそのシーンが鮮明に 現れる。技術系の読者なら、鮮明さはさらに上がるだろう。谷氏の航空宇宙 軍史シリーズはどの作品も面白い。他のシリーズも是非どうぞ。 ・『宇宙の戦士』 (ロバート A. ハインライン著、矢野徹訳、早川書房) ガンダムの小説版のような小説。モビルスーツ(?)に乗って宇宙船から星 に降下し、巨大昆虫と戦うという荒唐無稽な話を、リアルに描く。技術系の 人間が読むと、楽しさ倍増。1人称で書かれた文体も、リアルさ UP 。読後 感もすっきりです。映画版はモビルスーツが出ないので、いまいちでした。 ・『ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え!』 (リチャード・プレスト ン著、高見浩訳、小学館) 致死率90%のウィルスがアメリカで蔓延!?この本の内容がノンフィクション であったと知ったとき、一見平和な日常生活は、実は破滅と紙一重なのかも しれないと恐怖を感じました。体内器官からも出血し、最後はウィルスを撒 き散らしながら出血して「爆発」して死亡するエボラ出血熱、この恐怖のウ ィルスに立ち向かう関係者のプロフェッショナルな姿を、本書は見事に描い ています。鳥インフルエンザ、バイオテロ。いつ、我々の生活は、その一線 を越えてもおかしくないのかもしれません。 ・『地上げ屋―突破者それから』 (宮崎学著、幻冬舎) アウトロー作家「宮崎学」氏の実体験がリアルに、クールに書かれる。 「地上 げ」というと、強面が乗り込んできてというイメージがあるが、大きな地上 げは、それだけでは無理なようだ。相手の心情を読み、弱みを探り、法律の 表裏で、あの手この手で地上げを進める手段は、推理小説にも似た知的ゲー ムのようだ。 ・『救助犬トミー出動す』 (大山直高著、東京新聞出版局) 阪神淡路大震災を契機に、救助犬を育てようと、素人が活動を開始し、数年 のうちに実際に災害現場で救助活動を行うようになった。現在は海外にも救 助犬を派遣している。どこからその情熱が沸いてくるのか、どのようにした ら、全くゼロの状態から海外派遣まで行えるようになるのか。同じく阪神淡 路大震災を契機に開始された、私が現在取り組んでいるレスキューロボット 開発は、現場利用までにはまだまだ遠い。著者自身の経験に基づく実話から 学ぶことは多い。 ・『長いお別れ』 (レイモンド・チャンドラー著、清水俊二訳、早川書房) ハードボイルドの金字塔。私は博士課程の学生時代を東京で過ごしました。 2 物価高の東京で、6畳一間風呂トイレ台所共同、奨学金+バイトでカツカツ の生活。学食の定食(300円)を食べる金がなくてオリジナル納豆定食(ライ ス+納豆+味噌汁で170円)を食す。肉といったら牛丼屋の2次元の姿しか見 たことない。晩飯はゆで卵1個(ハードボイルド)+ゆでジャガイモ2個。 夢はフルーツを食べること。そんな時に「男はタフでなければ…」という本 書の耐える男の美学は、実生活で耐えている自分の支えになりました。英語 の原書も買って、英文と日本文を比較しながら、より深く男の美学を学ぼう としました。そんなことをさせたくなる本です。で、私は今もバーで最後に 飲むカクテルは、ギムレット、です。ハードボイルドでなく、ミーハーかな。 執筆者紹介 木村 哲也 本学准教授。専門領域は、制御工学、レスキュー工学。東京工業大学、神戸大学、大 阪府立大学教員を経て本学へ。レスキューロボットの開発に取り組んでいる。NHK 高 専ロボコンの審判員、解説者として、ブラウン管にも登場。同研究室では、学生達が 地域の子供達にロボットの楽しさを伝える活動もしている。 『書名』 著者名(翻訳者名) 出版社または文庫・シリーズ名 出版年 税込み価格 『戦闘妖精・雪風(改) 』 神林長平著 ハヤカワ文庫 2002年 735円 『創世記機械』 ジェイムズ P. ホーガン著(山高昭訳) 創元推理文庫 1981年 735円 『仮装巡洋艦バシリスク』 谷甲州著 ハヤカワ文庫 1985年 品切 『宇宙の戦士』 ロバ−トA. ハインライン著(矢野徹訳) ハヤカワ文庫 1977年 882円 『ホット・ゾーン』 リチャード・プレストン著 (高見浩訳) 小学館文庫 1999年 690円 『地上げ屋:突破者それから』 宮崎学著 幻冬舎アウトロー文庫 2000年 680円 『救助犬トミー出動す』 大山直高著 東京新聞出版局 2001年 1,575円 『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー著(清水俊二訳) ハヤカワ・ミステリ文庫 1976年 882円 ブックガイド目次へ ブックガイド目次へ 3
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