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シドニー・モノレールの廃止とライトレールの拡張計画

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海外トピックス
シドニー・モノレールの廃止とライトレールの拡張計画
かた
だ
きょう へい
片 田 恭 平 情報センター研究員
コストの安さではライトレールの方が優位であっ
たにもかかわらず,そのような観点からモノレー
ルが選択されたのであった。その理由を建設当時
2012年3月23日,オーストラリア最大の都市シ
の内閣は,地上空間の占有を最小限にとどめる細
ドニーを抱えるニュー・サウスウェールズ(NSW)
身の高架構造が「未来性」を象徴しているから,
州の政府は,メトロ・トランスポート・シドニー
(MTS)を1 , 980万豪ドル(約16億2 , 000万円,1豪ド
と説明している。ルートは,延長3 . 6 km の環状線
ル≒82円,2012年9月現在)で買収したと発表した。 であり,シドニー中心街の一角にすぎないダーリ
ング・ハーバー地区以外を通る部分はわずかで,
MTS は民間企業であり,シドニーを走るモノレー
建国200年記念の再開発によって整備された博物
ルとライトレールの両方を運営していたが,この
館や水族館などの,観光スポットを結ぶ路線とな
プレスリリースでは併せてモノレールの廃止が宣
っている。このように,シドニー・モノレールは,
言され,同時にライトレールの今後の拡張につい
中心街の一部で完結する交通機関であり,記念事
て言及された。その後,2012年6月22日のプレス
業の一環として建設された交通機関であった。
リリースでは,シドニー・モノレールの2013年6
運賃は一乗車につき5豪ドル(約410円)であり,
月30日の廃止決定が伝えられるに至った。
本稿では,シドニー・モノレールの概要と建設
隣駅との駅間が150 m ほどの区間もあることやラ
の経緯について,シドニーのライトレールの概況
イトレールの初乗り運賃が3 . 5豪ドルであることを
と比較しながら紹介していくことにしたい。
見るに,割高感は否めない。また,ルートも環状
線ではあるが,単線かつ左回りのみの一方通行で
あり,進行方向と反対に行くには隣の駅であって
1.シドニー・モノレール
も大回りを強いられることとなる。開業前に年間
1 , 200万人と見積もられた利用客数は,実際に開業
シドニー・モノレールは,1988年に,当時の
してみると,カジノの建設が計画通りに進まなか
NSW 州の労働党内閣がオーストラリア建国200年
ったこともあって,年間400万人にとどまった。さ
記念事業の一環として開業させた。モノレールの
らに,2008年の世界金融危機以降は,経済の低迷
高架橋が歴史的建造物の眼前を横切るため,景観
により観光客の数が減少したことから,利用客数
に悪影響を与えると懸念する人々は建設反対運動
を起こしたが,それを押し切っての開業であった。 は年間270万人と落ち込んだ。シドニー・モーニン
グ・ヘラルドやジ・オーストラリアンなどといっ
建国200年記念事業の中核は,建国時には入植
た地元メディアは,観光客には利用されるが地元
の拠点であり貿易港として栄えたが,その後退廃
したダーリング・ハーバー地区を,国立海洋博物館, 住民には疎まれた乗り物であるとモノレールを評
している。
水族館,商業施設,カジノなどを集結させた一大
今回,モノレールを廃止するに至った理由を,
エンターテインメント拠点にするという再開発事
州政府はシドニーの世界的都市としての地位向上
業であった。モノレールは再開発地区内の旅客輸
を目的とした,ダーリング・ハーバー地区の新た
送装置として位置付けられており,建設にあたっ
なる再開発事業の一環である新しいコンベンショ
ては再開発のコンセプトである「エンターテイン
ンセンターの建設において,モノレールの構造物
メント性」と21世紀に向けた「未来性」が意識さ
が物理的に障壁となるからと説明している。また,
れた。当初,再開発地区内の輸送機関の選択肢と
車両更新費用などを含めた今後の維持管理費用の
してはライトレールも検討されており,実際建設
はじめに
96 運輸と経済 第 72 巻 第 10 号 ’
12 . 10
運輸調査局
増大も,州政府が廃止と
いう判断に踏み切った要
因とされている。
2.拡張を続ける
ライトレール
シドニーのライトレー
ダルウィッチヒル方面
に向けて建設中
ルは,1997年にシドニー
(2014 年開業予定)
ダーリング・
中央駅~ウェントウォー
ウェントウォース・パーク
ハーバー地区
ス・パーク間が初めて開
リリーフィールド
業し,その後2000年に郊
モノレール
外方面に向けて延伸され,
ライトレール
ライトレール
(建設中)
総延長は7 . 2 km となった。
ライトレール:バランガルー線
(計画)
シドニー中央駅
現在,さらに郊外部にあ
ライトレール:ジョージ・ストリート線
(計画)
City Rail
(普通鉄道)
るダルウィッチヒルまでの
5 . 6 km の区間の建設が,
2014年初頭の開業を目指
おわりに
して進められている。
前掲の2012年3月23日のプレスリリースでは,
2011年9月に提示された「ライトレール戦略プラ
NSW 州政府が MTS を買収したのは,州政府が
ン」では,中心街を南北に貫くジョージ・ストリー
今後ライトレールをはじめとする公共交通整備を
ト線やバランガルー線の建設が計画されており,前
より強力に推進していくため,と説明されている。
掲した2012年3月23日の州政府のプレスリリースで
かつてのモノレールの建設も政治による決定に基
は,ライトレールの拡張に言及する中で,こうした
づくものであったが,モノレールの場合,そもそ
建設計画をより具体化していく作業が進行中であ
もの建設意図において,中心街の一部分を対象と
ることを伝えている。これら中心街の路線の建設
した記念事業であることを前提に,
「エンターテイ
が実現した場合,現在のシドニー・モノレールで
ンメント性」や「未来性」ばかりが重視され,郊
の駅勢圏は,ほとんどそのままライトレールでカバ
外部も含めた全体としての都市づくりという観点
ーされることとなる。
や,乗客の利便性を省みていなかったことが大き
現在,ライトレールの利用者数は年間370万人
な問題点であった。また,シドニー・モノレール
程度であり,これは2000年頃からほとんど変わっ
の建設経緯は,中長期的な人口動向や地理的経済
ていない。しかし,シドニー都市圏では,1970年
的状況に対する分析と,これに基づく交通戦略,
代後半以来一貫して,旅客移動における自家用車
といった観点からも遊離してしまっているという
のシェアが8割近くに及んだままとなっており,
難点を抱えていた。
一方では現在も郊外部を中心に人口の増加が年2
シドニー・モノレールの廃止は,
「エンターテイ
~3パーセントほどのペースで続いている。人口
ンメント性」だけでは公共交通システムとして期
の増加傾向は今後20年ほど継続すると予測されて
待される役割が果たせないことを象徴的に示して
いることから,オーストラリアの都市で最も道路
いるといえる。この出来事からは,都市の公共交
渋滞が激しいシドニーにおいて,渋滞激化を抑え
通機関の整備においては,中長期の時間軸や都市
るにはライトレールのように中心街と郊外を結ぶ
全体を射程に据えた上で,どのような都市をつく
公共交通機関の拡張がこれからも欠かせないと判
っていくのかについてのビジョンが必要になる,
断されたのである。
ということを再確認できるといえよう。
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