中学生における他者への愛着とレジリエンスについての臨床心理学的研究

中学生における
中学生における他者
における他者への
他者への愛着
への愛着と
愛着とレジリエンスについての
レジリエンスについての臨床心理学的研究
についての臨床心理学的研究
中 村 直 美
問題と
問題と目的
ジリエンスに影響するプロセスを設定し,その
青年期,特に中学生の時期は,家族から自立
妥当性を検討した.
して自分の居場所を見出そうとする不安定な
時期であり,心理・社会的発達における著しい
方 法
変化に伴い,回避・解決が困難な問題が生じや
すい時期とされている.
調査対象者は,A・B 県内の公立中学校4校
の1・3年生 798 名であり,調査は 7 月中旬に
近年,ストレスフルな状況でも精神的健康を
から下旬に実施された.質問紙の内容はフェイ
維持する,あるいは回復へと導く心理的特性と
スシートで,性別,学年について尋ねた後,以
してレジリエンス(resilience)という概念が日
下の合計 59 項目について回答を求めた.
本でも注目されはじめている.石毛・無藤(2005)
①
は,中学生における精神的健康とレジリエンス
との間には関連性があること,また男女差があ
項目
②
ることを見出している.では,どのような要因
によって中学生のレジリエンスは,高まるので
あろうか.
Bowlby(1973
家族への愛着尺度(五十嵐・荻原,2004)19
親友への愛着尺度(五十嵐・荻原,2004 を
参考に作成)19 項目
③
中学生用レジリエンス尺度(石毛・無藤,
2005)21 項目
黒田他訳
1977)の愛着理論
によると,愛着システムが個人にとってストレ
スや脅威を感じるような状況において顕著に
結 果
1.各尺度の
各尺度の検討
活性化され,青年期以降も持続して危機的状況
主因子法・プロマックス回転を用いた分析の
下において増大すると述べられており,親への
結果,家族への愛着尺度及び親友への愛着尺度
愛着がレジリエンスと関連があることが推測
からは,それぞれ「安心・信頼」
「不信・拒否」
される.また Bowlby(1973 黒田他訳
1977)
「分離への不安」の3因子が抽出された.また
は,親子関係で形成された内的ワーキングモデ
中学生用レジリエンス尺度からは「熟慮性」
「関
ルは,友人や恋人など親子関係以外の人との経
係志向性」
「実行性」
「楽観性」の4因子が抽出
験を通じて修正されると述べており,家庭外に
された.
おける最も重要な他者,すなわち親友への愛着
の影響についても検討する必要がある.
以上を踏まえて本研究では,中学生における
2.家族への
家族への愛着型及
への愛着型及び
愛着型及び親友への
親友への愛着型
への愛着型と
愛着型とレジ
リエンスとの
リエンスとの関連
との関連
ストレスに対する精神的健康の指標の一つと
まず,家族への愛着型と親友への愛着及びレ
してレジリエンスを取り上げる.そして,家族
ジリエンスとの関連について検討した.家族へ
への愛着及び親友への愛着が,レジリエンスに
の愛着尺度得点をもとに愛着型を設定し,男女
及ぼす影響について検討することを目的とし
別,学年別,愛着型を要因とする3要因分散分
た.具体的には,家族への愛着が直接的にレジ
析を行った.
リエンスへ,または親友への愛着を媒介してレ
その結果,家族への愛着型が「分離への不安
型」「不信・拒否型」であると,親友にも同じ
いを検討するため,学年別の共分散構造分析に
傾向の愛着型になりうることが示唆された.ま
よるパス解析(多母集団の同時分析)を行った.
た,家族への愛着型は「熟慮性」
「関係志向性」,
その結果,その結果,1年生と3年生を比較した
「実行性」と関連していることが示唆された.
場合,レジリエンスへの影響過程には差がないこ
次に,親友への愛着型とレジリエンスとの関
とが示唆された.
連について検討した.親友への愛着尺度得点を
もとに愛着型を設定し,男女別,学年別,愛着
考 察
型を要因とする3要因分散分析を行った.その
1. 愛着の
愛着のレジリエンスへの
レジリエンスへの影響過程
への影響過程
結果,親友への愛着型は「関係志向性」「実行
本研究の結果から,中学生では家族への愛着
性」「楽観性」と関連していることが示唆され
と親友への愛着がレジリエンスに影響を及ぼ
た.
すことが明らかになった.すなわち,中学生で
は発達的に家族への愛着とともに、親友への愛
3.家族への
家族への愛着
への愛着,
愛着,親友への
親友への愛着
への愛着が
愛着がレジリエン
スに及ぼす影響
ぼす影響過程
影響過程
着もレジリエンスに影響を及ぼすようになり,
その基礎過程には安定した親もしくは家族へ
まず,家族への愛着,親友への愛着がレジリ
の愛着の内的ワーキングモデルから安定した
エンスに及ぼす影響過程について検討するた
自己及び親友との内的ワーキングモデルへの
め,中学生全体で共分散構造分析によるパス解
発達的移行が考えられる.
析を行った.
その結果,1)「家族への安心・信頼」及び
また.レジリエンスの4因子構造のうち,特
徴的な結果として,「関係志向性」に対しては
「親友への安心・信頼」が高いほど,「関係志
「家族への安心・信頼」からの直接パスも「親
向性」が高まることが示された.また,「家族
友への安心・信頼」を経由した間接パスも有意
への安心・信頼」から,
「親友への安心・信頼」
であったが,「実行性」や「熟慮性」に対して
への有意なパスが示された.2)「家族への安
は「家族への安心・信頼」からの直接パスのみ
心・信頼」が高いほど,「熟慮性」が高まる.
が有意であった.このことは,「関係志向性」
3)
「家族への安心・信頼」が高いほど,
「親友
が発達的に親もしくは家族への安定した愛着
への不信・拒否」が低いほど,「実行性」が高
から安定した自己及び親友との内的ワーキン
まる.4)
「親友への不信・拒否」が低いほど,
グモデルへの移行によって影響を受けるのに
「楽観性」が高まることが示された.
対して,困難に対して音を上げず自ら取り組も
次に,性別による家族への愛着及び親友への
うとする態度である「実行性」,あるいは困っ
愛着が,レジリエンスに及ぼす影響過程の違い
たときには原因や解決策についてじっくり考
を検討するため,男女別の共分散構造分析によ
えようとする態度である「熟慮性」の基礎過程
るパス解析(多母集団の同時分析)を行った.
は,親もしくは家族への安定した愛着の内的ワ
その結果,次のことが示唆された.1)女子に
ーキングモデルによって形成される形質であ
おいては男子に比べて,
「家族への安心・信頼」
ることを示唆していると考えられる.
及び「親友への安心・信頼」が高いほど,「関
思春期は,児童期に受け入れてきた親の価値
係志向性」が高まる.2)男子においては女子
観や行動様式に矛盾や不合理を感じ,権威を否
に比べて,
「家族への安心・信頼」が高いほど,
定したり批判的になったりして,親に対する強
「熟慮性」が高まる.
い独立欲求が生まれる時期であり,必然的に家
さらに,学年による家族への愛着及び親友へ
の愛着が,レジリエンスに及ぼす影響過程の違
庭内に緊張関係を招来する時期でもある.また,
過去に不幸な愛着体験をしていても,新たに重
要な情緒的関係性を体験することを通して,内
たと考えられる.
的ワーキングモデルが修正・再編されると考え
られていることから(久保, 2003),家族への不
安定な愛着が社会的不適応の原因と考えられ
今後の
今後の課題
家族への愛着から親友への愛着の発達的移
る場合にあっても,家族間の応答的な関係体験
行が,レジリエンスにどのように影響を及ぼす
を積み重ねることによって内的ワーキングモ
のか,年齢差が大きくなるように対象学年を設
デルの修正・再編を促し,それを介して困難に
定したり,親友との関係期間の長さを考慮した
対して音を上げず自ら取り組もうとする態度
りして検討することが今後の課題である.
である「実行性」や,困ったときには原因や解
決策についてじっくり考えようとする態度で
ある「熟慮性」をしっかり育んでいくような対
応が必要不可欠になると考えられる.
引用文献
Bowlby , J . (1973) . Attachment and loss : vol.2.
Separation:
Anxiety
and
anger.
London:The
Hogarth Press.
2.レジリエンスへの
レジリエンスへの影響過程
への影響過程における
影響過程における性差
における性差
男女別の共分散構造分析によるパス解析の
結果から,愛着のレジリエンスに及ぼす影響過
(黒田実郎・大羽蓁・岡田洋子訳
の理論Ⅱ
分離不安
五十嵐哲也・荻原久子
(1977).母子関係
岩崎学術出版.)
(2004).中学生の不登校傾向と幼
程には性差が認められた.特徴的な性差は,女
少期の父親および母親への愛着との関連
子では「家族への安心・信頼」が高いほど「関
学研究,52
52,264-276.
52
係志向性」が高まるのに対して,男子では「家
石毛みどり・無藤隆
教育心理
(2005).中学生における精神的健康
族への安心・信頼」が高いほど「熟慮性」が高
とレジリエンスおよびソーシャル・サポートとの関連
まることにあった.女子では家族への安定した
教育心理学研究,53
53,356-367.
53
愛着を有するものほど,困ったときには親友だ
けではなく家族成員に対しても自分の気持ち
を話したり,意見を聞いたりして問題解決を図
ろうとするのに対して,男子では,家族への安
定した愛着を有するものほど原因や対処方法
を考えて問題解決を図ろうとすると考えられ
る.この背景には性役割やジェンダー・スキー
マの影響が考えられる。したがって,臨床的に
はこの性差による相違を考慮した対応が必要
不可欠になると考えられる.
3.レジリエンスへ
レジリエンスへの影響過程における
影響過程における学年差
における学年差
学年別の共分散構造分析によるパス解析の
結果から,愛着のレジリエンスに及ぼす影響過
程には特徴ある学年差は認められなかった.こ
のことは,1 年生と 3 年生では年齢差が小さい
ため,家族への愛着から親友への愛着の発達的
移行に差がないことが影響し,レジリエンスの
影響過程にはっきりとした差が示されなかっ