個人の独自性と嗜好性が服装に及ぼす影響

個人の独自性と嗜好性が服装に及ぼす影響
Effects of personal taste and uniqueness on clothing behavior
佐藤
キーワード:
Key words
康弘
被服関心, 嗜好性, 独自性, 非同調,
Clothes interest, taste, unique, anticonformity
問題
1
被服心理学とは何か
被服心理学とは、被服に関する人間行動を社会的脈絡から科学的に研究する学問の事をいう。
少し長くなるが、‘social and psychological study of human behavior related to clothing’
が被服心理学をもっとも正確に表現している。一般的には‘social
psychology
clothing’
といわれている。被服に関する人間行動とは、社会的脈絡とは、また科学的に研究するとは何
をさしているのであろうか。
まず、被服に関する人間行動とは、人が被服を選択ないし購買し(select or buy)
、着用ない
し消費する(wear or consume)ことに含まれるすべての行動をさすものと理解する。このよ
うな行動を被服行動(human behavior related to clothing)と呼ぶ。
被服心理学は被服を選択ないし購買し、着用ないし消費する人間の総合的な行動の科学であ
る。
2 被服行動(文化、集団、)
日常われわれが行う被服の選択や着用行動は、その所属する文化と深い関係を持っている。
まず、さまざまな社会は各社に特有な文化を形成しているが、諸社会を横断的にみた場合、そ
こにはかなり同質的な文化の側面が存在する。これら共通の文化の特性は、‘普段、家庭にい
る時はどのような服装を選択し、着用するか’‘外出するときはどうか’、‘仕事時はどうか’、
‘特別な時間や場所ではどうか’等に対して、われわれに基本的な方向づけを与えている。2
つないしそれ以上の文化が接触すると、いずれか 1 つの文化ないし各文化に、何らかの変化が
生じると考えられる。このような、文化の変容は、文化に所属する人々の被服行動に在来のも
のとは異なった要素をつけ加える、というのも文化の変容は、個人にとって在来とは異なった
新しい文化への適応過程を意味しているからである。
我が日本の企業ではユニホームを制定していることが多い。ユニホームは集団の表象であり、
ユニホームは着用者をその集団の構成員であることを明示している。またある役割に対して与
えられているユニホームは、その役割を演出していることを他者に示すと同時に、着用者自信
に私的なものを抑制し、そのユニホームに付随した役割遂行の優先性を認識させる効力をもっ
ている。例えば、警察官のユニホームは、着用者が警察官であることを一般国民に示している
とともに、着用者自身にも警察官としての義務を遂行させる機能を持っている。ユニホームに
は、そのユニホームによって標準とされている行動があり、ユニホーム着用者がそのユニホー
ムが象徴している行動から背異した行動をとると、他者から容易に見分けられると恐れから、
着用者はユニホームが規定している行動とは違った行動をするのを避けようとすることにな
る。
この現象は、ネガティブな行動への制御という点からユニホームの消極的な機能があるが、
ユニホームにはポジティブな行動へ導く機能もある。ユニホームの着用によって自尊感情の高
揚や威光がもたらされる場合である。ユニホームだけでなく学章や社章を身に付けることによ
っても同様な心理的強化がなされる。
若者の意識では、
「自分の趣味・嗜好や感覚に基づいて被服を選び、着たいように着る。」と
いう発想によって着想されるようになってきたように思う。若者のファッションスタイルの規
制緩和が進んでいることの現れである。星野(1998)によると若者は、「自己編集型ファッシ
ョン」を楽しんでおり、自分が共感、共鳴するものだけを取り込み、そのなかで「自分らしさ」
を主張し、人と違ったファッションを心がけるという点にこだわりを持つとされている。
3 独自性(ユニークさ)
誰でも、
「自分にはこういう特徴がある」
「他の人と比較するとこの点が優れている」などとい
った自分独自の側面についての意識をもっており、そのことで、他者と異なる存在としての自
分を意識したり、自分の有能さを意識したりする。つまり、「自分が他者と異なる独自な存在
である」という意識は、自我同一性や自尊心を形成する上で重要な役割を果たしているわけで
ある。社会心理学の領域で、独自性欲求をはじめてシステマティックに扱った研究は、Snyder
と Fromkin が 1968 年に提唱し始めた「独自性理論」
[Snyder &
Fromkin、1980]である。
この理論では、Fromm[1941、1955]、Horney[1937]、Maslow[1962]などの知見に
基づき、
「人間は誰でも他人とは異なるアイデンティティ(separateidentity)を持ちたいとい
う基本的欲求を備えている」ということが前提にされており、人間は何らかの属性で独自
(unique)な存在でありたいと願っていると仮定されている[Snyder &
Fromkin,
1980]。このような欲求を Fromkin と Snyder は、独自性欲求(need for uniqueness)と呼
んだのである。
持ち物は、Snyder と Fromkin[1980]の最初の独自性理論から、性格、能力、態度、などと
並んで、独自性関連属性のひとつとして扱われてきた。また、彼らも指摘しているが、購買促
進のためのコマーシャル広告のなかに、人の「ユニークでありたい」という願望に訴えようと
するものが一定比率で見られることも、周知のことと考えられる。持ち物が自己概念関連属性
であり、自己概念の形成に用いられる属性であることの条件を満たすことは明らかであろうと
考えられる。
4 嗜好性価値観
豊かな消費生活が実現した今日の日本において、人々は商品・サービスの購買行動の中にさ
まざまな価値観を反映させているが特に、好景気に支えられた 80 年代の価値観とバブルが崩
壊した 90 年代以降の価値観とでは大きな相違があると言われている。
80 年代以降の社会風俗・流行現象をふり返ってみると、テニス、ジョギング、スキー、ゴ
ルフ、ジャズダンスからエアロビクスへと続くスポーツ健康ブームの隆盛。ボディコンにハイ
レグカット等女性ファッションの過激化の一方で、各種男性ファッション雑誌の登場。高級ブ
ランド品への人気の加熱とアイスクリームショップ等への行列。フローリングのマンションに
朝シャンなどシンプルと清潔さをテーマにしたライフスタイル・・・。
現象的には日本人の多くがレジャー・交際・文化・教養など消費行動のさまざまな面で積極的
になり、ある意味で享楽的な性格を強めたように見える。90 年代に入るといわゆる「バブル
崩壊」が生じ、景気は一気に悪化した。このあおりを受け、人々の消費意識や行動はこれまで
とは逆に堅実化に向かいだしたと言われる。そういった個々の消費行動や一部の層の動きでな
く、人々の全体的な動きを読むことを前提に、人々の個々の意識や行動に影響を与えていると
思われる基本的な消費価値観のレベルに焦点をあててみる。
5 目的
人間の身体各部を覆い包むものから、かぶりもの・履物・ヘアスタイル・かつら・ヒゲ・化粧・
アクセサリー・刺繍にいたるまで、身体の外見を変えるために用いるすべてのものを、広い意
味において被服と呼ぶ。被服関心は、「被服についての態度や信念、知識や被服に払われる注
意、自分自身また他者の被服に関心や好奇心をいう。被服に関する個々人の行動、被服に関し
て費やさんとする時間、エネルギー、金銭の量、各種の着飾り方をためしてみる被服を使用す
る度合い、流行や新しい被服事象についての意識により示される。」
(Gurel&Gurel,1979,神山訳,1983a)と定義される。そこで私は、独自性や生活の嗜好性
が服装に影響をもたらしているのではないかと考え、この関係について検討する。
6 仮説
① 独自性の高い人は非同調的な服装をするであろう。
② 享楽志向型の人は被服に興味を持っているだろう。
方法
調査協力者
関西の大学に通う大学生 200 名
手続き
10 月の中旬から 11 月の下旬にかけて調査の概要や協力の依頼を口頭で述べた後に質問紙を
配り記入を開始してもらった。200 枚回収したところ記入漏れや無回答ページがあるものを除
き 189 名(男性 87 名、女性 102 名)を有効回答とし分析の対象とした。
質問の構成
被服関心度質問 48 項目、ユニークさ尺度 16 項目、TBS 総合嗜好調査 19 項目、最後に年齢や性
別などのフェース項目をたずねる構成とした。
結果
1 被服関心度質問項目の因子分析結果
因子数は 5 と決定した。この因子数を 5 とし、単純構造をもとめてプロマックス回転で因子分
析を行った。その結果から、因子付加量の小さかった16 項目を削除した。さらに単純構造を
求めて、32 項目でさらに因子分析を行った結果、単純構造の 5 因子構造となった。第1因子
を「自己追求」因子と命名し、第2因子を「同調性」因子とし、第 3 因子を「理論付け」因子、
第4因子を「対人概観」因子、第 5 因子を「感触」因子と命名した。
2 ユニークさ尺度因子分析
因子数は 3 と決定した。この因子数を 3 とし、単純構造をもとめてプロマックス回転で因子分
析を行った。その結果から、因子付加量の小さかった 2 項目を削除した。さらに単純構造を求
めて、14 項目でさらに因子分析を行った結果、単純構造の 3 因子構造となった。第1因子を
既存の因子「他者の存在を気にする」因子、第 2 因子を既存の因子「自己を積極的に表出」因
子、第 3 因子を「他者自己を共に意識する」因子と命名した。
3 仮説 1 の検証
仮説の検証を行うため、独自性(ユニークさ)を独立変数とし、被服関心尺度の因子分析の結
果から構成した「同調性因子」を従属変数として分散分析を行った。その結果から他者の存在
を気にする程度によって同調性に有意な差が見られた(F(1,156)=5.455,P<.05:高群=20.323,
低群:M=18.873)。つまり、他者の存在を気にする人の方が被服に対する同調性が高く、他者の
存在を気にしない人の方が、非同調的ということが示された。独自性の「他者の存在を気にす
るかしないかという側面において同調性に有意差」
4仮説 2 の検証
被服関心度因子を従属変数とし、享楽嗜好、堅実嗜好を独立変数とする重回帰分析を行った。
その結果、事故追求因子の決定係数R2は.141 となり、また、標準偏回帰係数は、享楽嗜好はβ
=.366,P<.01 となり、堅実嗜好はβ=.041,n.s.となった。同調性因子の結果は決定係数R2
は.004 となり、また、標準偏回帰係数は、享楽嗜好はβ=.056n.s.となり、堅実嗜好はβ=
-.046,n.s.となった。理論付けの結果は、決定係数R2は.058 となり、また、標準偏回帰係数は、
享楽嗜好はβ=.121,n.s.となり、堅実嗜好はβ=.185,P<.01 となった。対人概観因子の結果
は、決定係数R2は.053 となり、また、標準偏回帰係数は、享楽嗜好はβ=-.014,n.sとなり、堅
実嗜好はβ=.233,P<.01 となった。感触因子の結果は、決定係数R2は.008 となった。また、
標準偏回帰係数は、享楽嗜好はβ=.057n.sとなり、堅実嗜好はβ=-.061,n.s.となった。この
ことにより、享楽嗜好型は自己追及を求める。 堅実嗜好型は理論付けや対人概観を求め、嗜
好性と同調性、感触には関連はないという結果になった。
考察
仮説についての考察
独自性の他者の存在を気にする程度によって同調性に有意な差が見られた。他者の存在を気に
する人の方服装に対する同調性が高く他者の存在を気にしない人の方が、非同調的ということ
が示された。独自性の他者の存在を気にする程度によって同調性に有意な差が見られた。この
ことから「独自性が高い人は非同調的な服装をするであろう」の仮説は検証された。享楽嗜好
型の得点が高い人は、自己追及因子の得点が高くなるという結果を得られ、堅実嗜好型の得点
が高い人は、理論付け因子得点、対人概観因子得点が高くなるという結果になった。このこと
から、享楽嗜好型の人は堅実に考えるより、個性を高めたり、似合いのよさを求めるとされ服
装に興味を持つとおもわれる。よって仮説 2 も検証された。
要約
本研究は個人の好みと意識はユニークさや生活の嗜好性が服装に影響をもたらしているの
ではないかと考え、この関係について検討する。調査は関西の大学に通う学生 200 名に調査を
行い、189 名(男性 87 名、女性 102 名)を有効回答とし分析の対象とした。調査の結果、個人
の意識や好みは独自性の他者の存在を気にする程度によって同調性に有意な差が見られた。つ
まり、他者の存在を気にする人の方が服装に対する同調性は高く、他者の存在を気にしない人
の方が、非同調的ということが示された。独自性の「他者の存在を気にするかしないかという
側面において同調性に有意差」という結果となった。生活の嗜好性については、まず、享楽嗜
好型の得点が高い人は、服装に対する自己追及因子の得点が高くなるという結果になった。同
調性と嗜好性には関連なく、堅実嗜好型の得点が高い人は、理論付け因子得点、対人概観因子
得点が高くなるという結果になった。感触と嗜好性には関連ないという結果となった。これに
より、享楽嗜好型の人は堅実に考えるより個性を高め、似合いのよさを求めるとされ、個人の
好みと意識はユニークさや生活の嗜好性が服装に影響をもたらしていることがいえた。しかし
服装にはそれだけではない他の要因が多くあると思われる。今後、それらについてもっと考え
る必要がある。項目の多さ、内容の難しさは本研究における考え直さなければいけないもので
あった。
引用・参考文献
飽戸弘
1994 消費者行動の社会心理学
神山進
1985 被服心理学 光生館
福村出版
岡本浩一 1991 ユニークさの社会心理学
川島書店
高木修(監修) 神山進(編) 1991 被服行動の社会心理学 北大路書房
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著作責任者: 土田昭司[関西大学]
連絡先: [email protected]
最終更新日: 2007 年 8 月 17 日