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税理士業務に関する損害賠償責任 (税理士の専門家責任)とその対応

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税理士業務に関する損害賠償責任
(税理士の専門家責任)とその対応
〔増補改訂版〕
日本税理士会連合会
業
務
対
策
部
はしがき
近時、税理士に対する損害賠償請求事件が税理士業界における最大の関心事
の一つとなっております。税理士職業賠償責任保険の適用件数や訴訟提起事案
は年々増加しており、また、1件当たりの賠償金額も高額となる傾向にありま
す。
特に平成7年4月28日、京都地裁において善管注意義務懈怠を認め、税理
士に損害賠償金の支払いを命じた厳しい判決が出されて以来、税理士の専門家
責任への関心は一段と高まっており、同時にこれを機に税理士の業務における
注意義務の程度等のあり方が問われようとしております。
日税連としては、各税理士会とともにこれらの動向に対する業界全体の対応
策を講ずる必要があると認識し、そのためにいくつかの施策を実施してきまし
た。例えば、税理士の資質の維持と向上を図るため損害賠償をテーマとする全
国統一研修会を各税理士会と協力して実施し、また、現実に損害賠償事件が発
生した、あるいは今後予想される税理士の個別相談に応ずるための日税連損害
賠償相談室を設置しました。
他方、日税連では、税理士の業務水準の向上を図るため必要な研究を進める
とともに、各税理士が専門家としての注意義務を果たし、それぞれ自分の事務
所に適応した業務マニュアル等を作成する場合に役立つモデルや留意事項を示
すことが最も重要と考え、平成8年に本書を刊行し、平成14年に改訂しまし
た。このたび、改訂版刊行以後の重要な判決を加え、その後の社会情勢の変化
に応じ、一部内容の書換えを行いました。
本書では、現在までの訴訟事案や税理士職業賠償責任保険の概要、あるいは
契約書のモデルなど可能な限り事例等も多く掲載しています。本書を税理士の
業務水準の向上と税理士制度の社会的地位の向上、延いては納税者の方々に満
足の戴ける業務を提供できるよう、その一助となれば幸いです。
最後に、本書の増補改訂に当たられた神津業務対策部長をはじめ委員の方々
に、厚く感謝の意を表する次第です。
平成18年9月
日本税理士会連合会
会長 森
金 次 郎
刊行にあたって
税理士法第1条は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場におい
て、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定さ
れた納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定しています。
ところで、近年、市民の権利意識の向上や、PL法制定による製造者責任の明確化により、
税理士、医師、弁護士、建築士などの専門家責任に対する市民の目が厳しくなってきており
ます。特に、平成7年にはこの税理士の専門家責任を巡って3つの判決が出され、税理士業
界に大きな衝撃を与えました。これは契約書の締結や業務の範囲に関する取り決めあるいは
報酬についての事前の話し合いなどをおろそかにしてきたことに起因するものと言えます。
しかし、税理士もこのような社会の変化に対応しなければなりません。また、税理士会にあ
っては、賠償事件の発生に伴い、会員への注意喚起やその実務的対応に関する方策を講じる
必要性が高まってきている現状にあります。
本書は、平成8年に税の専門家である税理士がどのように注意義務等の問題をクリアしつ
つ納税者の信頼に応えていくべきかという観点からとりまとめられ、平成14年に改訂した
ものを、その後の重要判決等を踏まえ内容の充実を図りました。
本書が会員各位の必携の書となり、納税者との信頼関係の構築に寄与することとなれば幸
いです。
平成18年9月
日本税理士会連合会
業務対策部長 神 津 信 一
税理士の専門家責任に関する主要判決一覧
判決年月日
仙台地裁 昭和61年9月11日判決
1 控訴審仙台高裁 昭和63年2月26日判決
認容金額(法定金利等省略)
当初税理士勝訴
10,000,000円
2 岐阜大垣支部 昭和61年11月28日判決
税理士勝訴
3 横浜地裁 平成元年8月7日判決
税理士勝訴
4 東京地裁 平成2年8月31日判決
税理士勝訴
5 東京地裁 平成4年7月31日判決
山形地裁酒田支部 平成5年9月14日判決
6 上告審最高裁 平成7年6月23日第二小法廷判決
1,684,000円
税理士勝訴
棄却
棄却
7 神戸地裁 平成5年11月24日判決
27,130,452円
控訴審仙台高裁秋田支部 平成7年1月30日判決
8 東京地裁 平成5年12月15日判決
大阪地裁 平成6年4月19日判決
9 控訴審大阪高裁平成11年5月27日判決
横浜地裁 平成6年7月15日判決
10 控訴審東京高裁 平成7年6月19日判決
大阪地裁 平成7年1月24日判決
11 控訴審大阪高裁 平成8年3月15日判決
京都地裁 平成7年4月28日判決
12 控訴審大阪高裁 平成8年11月29日判決
東京地裁 平成7年11月27日判決
13 (その後、平成10年11月30日和解結了)
14 東京地裁 平成8年2月23日判決
東京地裁 平成8年3月26日判決
30,893,580円
税理士勝訴
当初税理士勝訴
8,346,870円
当初税理士勝訴
8,258,900円
2,552,149円
970,145円
280,862,056円
75,025,830円
但し税理士は、勝訴
税理士の職責
請求金額
高度注意義務
20,000,000円
掲載誌
TAI
NSコードZ999−0045
判例時報 1269号86頁、TAI
NSコードZ999−0002
高度注意義務
14,485,655円
判例時報 1243号112頁、TAI
NSコードZ999−0001
指導・助言等義務
12,561,100円
判例時報 1334号214頁、TAI
NSコードZ999−0003
28,623,200円
判例タイムズ 751号148頁、TAI
NSコードZ999−0004
指導・助言等義務
指導・助言等義務 予備的請求 3,384,000円
指導・助言等義務
6,096,685円
解散整理に貸倒損失と譲渡益と相殺して
措置法第66条の13の適用を誤った
高度注意義務
有価証券売却損を違算したため事業資産の
買換えについて圧縮記帳しなかった
高度注意義務
ゴルフ会員権の取引業者が顧問税理士の
名義を借りて銀行から融資をを受けた
高度注意義務
相続税の修正申告を単に税額計算のみならず
納税方法の選択等の説明義務を怠る
指導・助言等義務
相続税申告の市街化区域内を市街化調整区
域内にあるとして過少申告をした
高度注意義務
買換え特例の適用の譲渡資産について、過年
度の申告書類等の閲覧と教示が争われた
忠実義務
相続税の申告に物納申請を行わず、延納申請
をし、かつ、土地の評価の過誤をした
税理士逆転勝訴
16 東京地裁 平成8年12月4日判決
大阪地裁 平成9年5月20日判決
17 控訴審大阪高裁 平成10年3月13日判決
18 東京地裁 平成9年9月2日判決
忠実義務
27,466,752円
判例時報 1509号114頁、TAI
NSコードZ999−0006
100,000,000円
3,437,050円
判例時報 1511号89頁、TAI
NSコードZ999−0007
(データ 無し)
金融・商事判例 1085号25頁、TAI
NSコードZ999-0038
(データ 無し)
判例時報 1540号48頁、TAI
NSコードZ999−0009
(データ 無し)
判例時報 1579号92頁、TAI
NSコードZ999−0011
税理士界 1094号、TAI
NSコードZ999−0008
税理士界 1109号、TAI
NSコードZ999−0012
424,930,920円
判例時報 1575号71頁、TAI
NSコードZ999−0010
150,061,842円
判例タイムズ 922号246頁、TAI
NSコードZ999−0013
10,313,952円
20,445,200円
9,108,900円
19
15
16
変額保険の勧誘における説明義務違反として、保険
会社とその社員及び税理士とその所員が訴えられた
指導・助言等義務
主位的請求 97,371,613円 判例時報 1576号61頁、TAI
NSコードZ999−0014
NSコードZ999−0039
指導・助言等義務 予備的請求 97,371,613円 判例タイムズ1049号265頁、TAI
税理士勝訴
3,371,100円
3,294,600円
消費税の届出書の提出説明義務
納税者の依頼により、誤った貸倒損失や有価
証券評価損の計上をした
指導・助言等義務
5,586,727円
指導・助言等義務
38,679,300円
TAI
NSコードZ999−0021
判例時報 1633号113頁、TAI
NSコードZ999−0015
判例時報 1654号54頁、TAI
NSコードZ999−00018
税理士勝訴
指導・助言等義務
居住用不動産について一括ですべきものを
誤って、2年度に渡る譲渡申告をした
高度注意義務
顧問税理士の有限会社の取締役としての任務懈怠
高度注意義務
相続税の土地の評価が過少であったため、税
理士に善管注意義務違反の責任が問われた
指導・助言等義務
19,146,181円
判例タイムズ 986号245頁、TAI
NSコードZ999−0022
20 名古屋高裁金沢支部平成9年11月12日判決 税理士勝訴
千葉地裁 平成9年12月24日判決
3,580,920円
21 控訴審東京高裁 平成10年11月9日判決
(請求棄却)
18
判例時報 1463号88頁、TAI
NSコードZ999−0005
TAI
NSコードZ999−0027
TAI
NSコードZ999−0028
TAI
NSコードZ999−0029
ついて説明義務違反等が争われた
30,160,000円
本書掲載頁
9
主位的請求 23,083,500円
9,547,218円(税理士分) 相続税対策としての変額保険契約の税理士に
15 控訴審東京高裁 平成12年9月11日判決
19 東京地裁 平成9年10月24日判決
内 容
税理士が作成した虚偽の申告書を信頼し、
担保提供した者が損害を被った
税理士の懈怠により法人税申告期日までに
申告書を提出しなかった
農地に係る相続税納税猶予の要件について
の説明義務違反が争われた
事業資産の買換え特例の適用を受けるため
の助言指導を税理士が怠る
居住用と事業用の土地家屋の買換え特例の
適用を税理士が誤った
事業用資産の買換えの特例について、
適切な指導がなされなかったたとして争われた
簡易課税選択届出書の提出と税理士の債務不履行
30,160,000円
判例タイムズ 984号198頁、TAI
NSコードZ999−0020
35,147,600円
TAI
NSコードZ999−0061
判例タイムズ 980号195頁、TAI
NSコードZ999−0019
判例タイムズ 1034号166頁、TAI
NSコードZ999−0037
6,478,000円
20
判決年月日
22 東京地裁 平成10年4月30日判決
東京地裁 平成10年5月13日判決
23 (その後、和解結了)
24 東京地裁 平成10年5月15日判決
25 東京地裁 平成10年9月18日判決
東京地裁 平成10年11月26日判決
26 控訴審東京高裁平成11年12月22日判決
27 東京地裁 平成10年11月26日判決
28 神戸地裁 平成10年12月9日判決
東京地裁 平成11年3月30日判決
29 控訴審東京高裁 平成13年10月15日判決
東京地裁 平成11年10月26日判決
30 控訴審東京高裁 平成13年7月11日判決
31 東京地裁平成12年6月23日
32 東京地裁平成12年6月30日
認容金額
内 容
税理士の職責
請求金額
掲載誌
農地の納税猶予につき、特定転用承認申請を
税理士敗訴
失念し、税理士賠償責任保険の請求した事例
高度注意義務
18,649,900円
TAI
NSコードZ999−0017
212,472,680円
税理士等が斡旋した不動産に重大な瑕疵が
主位的請求212,472,680円
存在していた税理士等の告知義務違反
指導・助言等義務 予備的請求51,414,949円 判例時報 1666号85頁、TAI
NSコードZ999−0016
703,146,221円
主位的請求766,486,517円
但し、税理士勝訴
変額保険と善管注意義務
善管注意義務
予備的請求744,668,885円 判例時報 1651号97頁、TAI
NSコードZ999−0023
所得税申告の借入金の預金通帳の提出を受
12,150,000円
けていて相続税申告から借入金を脱漏した
高度注意義務
36,271,700円
判例タイムズ1002号202頁、TAI
NSコードZ999−0025
原審は税理士敗訴 消費税の課税事業者選択届提出失念
判例時報 1711号156頁、TAI
NSコードZ999−0032
税理士勝訴4,052,025円 における税倍保険の免責適用の有無
高度注意義務
4,352,025円
判例時報 1711号153頁、TAI
NSコードZ999−0033
一部認容
株券引渡等請求事件 節税に係る
説明義務違反(柏税務署内 相続税節税対策)
指導・助言等義務
110,637,211円
判例タイムズ 1067号244頁、TAI
NSコードZ999−0047
80,000,000円
相続税の申告手続きを受任した税理士の未分
税理士勝訴
割申告に債務不履行はないこと
指導・助言等義務
27,657,544円
判例時報 1685号77頁、TAI
NSコードZ999−0030
131,442,404円
相続税対策として変額保険のリスク説明義務
判例時報 1700号50頁、TAI
NSコードZ999−0024
税理士逆転勝訴
が争われた (説明をテープに録音)
指導・助言等義務
665,853,837円
(データ 無し)
当初税理士勝訴
相続について小規模宅地等の評価の特例の
TAI
NSコードZ999−0026
54,974,500円
選択を税理士が間違えた
高度注意義務
202,479,300円
TAI
NSコードZ999−0046
東京地方税理士会の会員、 株式譲渡に関する
39,462,278円
助言義務と受取配当金益金不算入のミス
指導・助言等義務
40,718,790円
TAI
NSコードZ999−0067
同族会社への譲渡は
2,356,850円
居住用財産の特別控除不可
指導・助言等義務
4,579,050円
TAI
NSコードZ999−0066
33 富山地裁 平成12年8月9日判決
税理士勝訴
顧問先従業員の不正を発見する義務
指導・助言等義務
67,137,689円
TAI
NSコードZ999−0042
34 東京地裁平成13年6月29日判決
税理士勝訴
消費税課税事業者選択届出書
指導・助言等義務
7,544,839円
TAI
NSコードZ999−0065
35 東京地裁平成13年8月30日判決
東京地裁平成13年10月30日判決
36 その後控訴棄却
税理士勝訴
顧問税理士の紹介による債務保証
指導・助言等義務
誤った相続税の申告と時間的制約
税理士勝訴
(借地の問題 相続人間での争い)
高度注意義務
一部認容
消費税簡易課税制度選択
3,258,216円
についての注意義務違反
高度注意義務
相続税等の委任事務処理の債務不履行
弁護士(税理士)勝訴 被告弁護士(相続人間で調停)
高度注意義務
相続税の債務過大計上
税理士勝訴
原告弁護士
高度注意義務
一部認容
生産緑地納税猶予の特例適用誤り
10,863,5001円
(延滞税分986万円と税理士報酬の内100万円)
高度注意義務
一部認容10,294,336円 ワラント債売却損について嘆願書を提出すべき義務
控訴棄却・確定
高度注意義務
私道の評価誤り
税理士勝訴
事務処理ミス
忠実義務
106,018,217円
TAI
NSコードZ999−0057
37 東京地裁平成13年10月30日判決
38 東京地裁平成14年1月28日判決
39 東京地裁平成14年2月12日判決
40 京都地裁平成14年2月21日判決
前橋地裁平成14年6月12日判決
41 控訴審東京高裁平成15年2月27日判決
42 神戸地裁平成14年6月18日判決
6,218,604円
5,278,500円
102,951,150円
本書掲載頁
21
21
22
10
23
23
判例タイムス 1101号192頁、TAI
NSコードZ999−0055
TAI
NSコードZ999−0059
判例タイムス 1107号233頁、TAI
NSコードZ999−0063
11,832,050円
TAI
NSコードZ999−0076
11
13,200,700円
11
32,200,447円
TAI
NSコードZ999−0050
TAI
NSコードZ999−0056
TAI
NSコードZ999−0068
332,053円
TAI
NSコードZ999−0052
判決年月日
大阪地裁平成14年7月26日判決
43 大阪高裁平成15年6月6日判決
平成15年10月24日上告不受理決定
認容金額
191,062,400円
244,062,400円
内 容
収用等の圧縮記帳における買換取得期間の説明
義務、民事訴訟法248条における損失額の認定
税理士の職責
406,963,437円
掲載誌
TAI
NSコードZ999−0053
TAI
NSコードZ999−0072
忠実義務
2,422,400円
TAI
NSコードZ999−0054
忠実義務
1,516,000円
TAI
NSコードZ999−0070
高度注意義務
23,813,700円
善管注意義務
25,805,594円
TAI
NSコードZ999−0062
TAI
NSコードZ999−0086
TAI
NSコードZ999−0087
高度注意義務
4,193,735円
高度注意義務
4,228,100円
高度注意義務
7,123,300円
高度注意義務
請求金額
本書掲載頁
12
原審一部認容1,816,800円
44 広島高裁平成14年9月25日判決
棄却
45 千葉地裁松戸支部平成14年11月1日判決
(
流山市の住民で鹿児島にも土地あり、鹿児島の税理士)
税理士勝訴
一部認容 過失相殺9割 2,381,370円
顧問税理士の履行補助者の重加算税説明不足
一部認容 60,000円
棄却・
確定
市街地の宅地の相続税申告における評価ミス
46 前橋地裁平成14年12月6日判決
さいたま地裁平成15年1月16日判決 47 控訴審 東京高裁平成15年12月25日判決
専従者給与の変更届出等事務処理ミス
相続税評価の誤り
48 東京地裁平成15年5月21日判決
税理士勝訴
消費税の課税事業者選択届出書
原審 東京地裁平成11年9月13日判決
原判決破棄 税理士勝訴税理士賠償保険(課税事業者選択届出)
49 控訴審 東京高裁平成12年7月19日判決
最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決
宇都宮地裁足利支部平成15年7月23日判決
税理士勝訴
50 控訴審東京高裁平成15年11月19日判決
控訴棄却
消費税法の事業区分
相続税の配偶者の税額軽減、
51 東京地裁平成15年9月8日判決
税理士勝訴
小規模宅地等の説明義務
指導・助言等義務
22,721,180円
高度注意義務
税理士は納税者に和解金
判例タイムズ 1156号162頁、TAI
NSコードZ999−0069
金融・商事判例 1097号13頁、TAI
NSコードZ999−0035
金融・商事判例 1097号 9頁、TAI
NSコードZ999−0036
判例時報 1838号145頁、TAI
NSコードZ999−0074
TAI
NSコードZ999−0077
TAI
NSコードZ999−0078
金融・商事判例 1182号41頁、判例タイムズ 1147号223頁
TAI
NSコードZ999−0083
13
13
東京地裁平成11年3月30日判決 平成9年(ワ)11,736号
52
東京高裁平成12年3月28日判決 平成11年(ネ)2413号
最高裁平成15年9月9日第3小法廷判決 12年(受)877号
53 名古屋高裁平成15年9月17日判決
那覇地裁平成16年6月22日判決
54 福岡高裁那覇支部平成17年3月15日判決
最高裁平成18年5月29日第二小法廷判決
神戸地裁平成16年6月22日判決
55 大阪地裁平成17年1月20日判決
56 東京地裁平成16年12月14日判決
税理士賠償保険
原判決破棄 税理士勝訴(課税事業者選択届出書の提出を怠る)
控訴棄却
所得税の決算書類作成を受任した税理士の
税理士の相続人勝訴 債務不履行責任を否定
一部認容 67,078,850円 原告の医師に対して杜撰な経理処理と
原判決取消、税理士勝訴源泉税の着服(預り金250万円)
棄却 相続税の申告の際に相続税の納税猶予に
棄却 嘆願書の提出により減額更正
された場合の賠償責任
14
17
善管注意義務
(原審 データ 無し)
必要な書類の添付を失念し、損害を与えたことによる
99,898,932円税理士勝訴 保険会社に対する保険請求が認容
税理士勝訴
善管注意義務
40,000,000円を支払った TAI
NSコードZ999−0075
(原審 データ 無し)
17,406,300円
TAI
NSコードZ999−0084
138,657,700円
TAI
NSコードZ999−0085
善管注意義務
高度注意義務
108,343,100円
82,532,800円
判例時報 1905号139頁、TAI
NSコードZ999−0091
TAI
NSコードZ999−0088
監査役でもある公認会計士の顧問先経理担当
57 福岡高裁平成17年4月12日判決
東京高裁平成17年3月31日判決
58 (注)税理士の関与はなかったといわれているが
少しでも税理士が関与していたなら責任は重い
59 東京地裁平成17年6月24日判決
(平成17年10月1日結了)
60 大阪地裁平成17年9月16日判決
の横領行為の発見ができなかったことによる注意義務
棄却 勝訴
善管注意義務
措置法69の4の税制改正により相続税対策の効果が
918,492,848円
銀行及びその所員等が なくなったことの説明義務違反。
指導・助言等義務
訴えられた(過失相殺3割) 父親は相続対策の話を録音していた。
弁護士である税理士が和解による
棄却 税理士勝訴
土地譲渡の税負担が多額となったとして争われた 善管注意義務
棄却 無申告加算税分 関西電力事件(会社の事務員が消費税申告書を
1,238,925,000円
延長提出と誤解)(注)税理士は関与していない
善管注意義務
64,021,943円
24
1,183,330,267円
金融・商事判例 1216号6頁、TAI
NSコードZ999−2033
7,000,000円
判例タイムズ 1194号167頁、TAI
NSコードZ999−0094 1,238,925,000円
原告の司法書士が相続人を間違えたことによる損失の
61 名古屋地裁平成17年12月21日判決
6,676,450円
の1/2を税理士の責任として保険会社に支払いを下した。
高度注意義務
10,143,466円
<出典> 「税理士損害賠償請求訴訟判例紹介」全国婦人税理士職責特別委員会(平成8年8月) タックスコム「税理士に対する民事裁判」(平成13年5月)
最新租税判決紹介 税理士に対する専門家責任としての訴訟事件問題(税経)について加筆 平成18年6月8日現在
TAI
NSコードZ999−0093
TAI
NSコードZ888−1025
「税理士新聞」第1153号 3頁(平成18年3月5日)
TAI
NSコードZ999−2046
18
目
次
頁
第1章 税理士の専門家責任 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.職業倫理(規定)における専門家責任 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
3.専門家としての責務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
4.債務不履行責任と不法行為責任 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
5.善管注意義務とその範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
6.過失相殺 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
7.税理士法人・補助税理士と損害賠償責任 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
8.複数の税理士と専門家責任−複数関与、複数受任・共同受任、復代理 ・・・・・・・・・ 7
第2章 損害賠償事件判決にみる税理士の注意義務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.税理士損害賠償事件の判例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一、高度注意義務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二、忠実義務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三、指導・助言・説明・情報提供義務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
9
9
9
15
18
第3章 税理士業務の実務上の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
2.契約書の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
3.業務契約書の参考例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(1)業務契約書/記帳代行を含む例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
(2)譲渡所得の申告に関する契約例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
(3)相続税の契約例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
(4)個別契約の例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
(5)相続税の申告に際して確認書を取る例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
(6)消費税の申告に際して承諾書を取る例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
4.業務水準の確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
(1)業務水準確保の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
(2)書式・資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
(3)税理士事務所の管理等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
イ.日常業務で実践すべきこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
ロ.クレームへの対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
ハ.従業員の管理・監督 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
第4章 税理士職業賠償責任保険 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
2.成立までの経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.保険の対象となる損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.保険の対象にならないもの ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6.税理士法人の加入 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参考書式
【資料
【資料
【資料
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
44
44
45
45
46
47
53
62
第1章 税理士の専門家責任
1.はじめに
(税理士の使命)
第1条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税
制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税
義務の適正な実現を図ることを使命とする。
税理士法第1条(税理士の使命)は、租税法律主義の主旨に基づいて、納税者の適正な納
税義務の実現のため、税法上の行為を援助するとともに、納税者の正当な権益を擁護するも
のである。そのため税理士は、専門知識を有していなければ納税者の委嘱にこたえることは
できない。納税者の信頼にこたえるためには、課税要件、事実の認定や租税法規の解釈など
について専門的知識と能力が必要とされるのである。
税理士は、税務の専門家として納税者の信頼にこたえるとともに、専門家責任を求められ
ていることに留意しなければならない。
2.職業倫理(規定)における専門家責任
税理士は、職業専門家としての責任を遂行する際には細心の注意を払いつつ、判断を行使
しなければならず、そのために常に業務水準の維持・向上を図り、社会的使命に基づき、職
業専門家としての責任を遂行することが要求される。
税理士の公共的使命を果たすためには、プロフェッショナリズムによって、自己の業務範
囲において、高品質の業務を提供するため、絶えず努力することが要求される。
高度の注意力と技術的水準を保持し、倫理基準を遵守しつつ、専門的能力と業務の品質向
上のため、常に努力、研鑚し、職業専門家としての責任を遂行しなければならない。また、
使用人に対する責任も求められている。
従来、専門家責任が法的に問われるのは、医療過誤や弁護過誤のように医師や弁護士など
であって、税理士の法的責任が追及される例は少ないといわれてきた。
税務の分野においては、税法や取引の複雑化によって、税理士を取り巻く環境も大きく変
貌してきている。しかも、平成13年の税理士法改正並びに平成18年5月1日施行の会社
法により会計参与が新たな業務として加わったことから、税理士業務の多様化と税務・会計
の専門家としての地位の向上が図られ、その業務分野は、今後ますます質・量ともに広がる
ことが予測される。このように税理士は、その社会的役割を高め、ビジネスチャンスを増加
させる一方で、その反面、私たちを取り巻くリスクも増大してきている。
実際、昭和26年の税理士法施行以来、昭和61年9月の仙台地裁の高度注意義務違反判
決までは、税理士による債務不履行等の損害賠償請求事件の判決例はほとんど見られない。
しかし、税理士に対する損害賠償請求に係る訴訟は平成元年頃から次第に増加しはじめ、損
害賠償を命ずる判決が下されてきている。特に、平成7年4月の京都地裁において善管注意
義務懈怠を認め、損害賠償を命じた判決が下されて以来、税理士の専門家責任への関心は一
段と高まっており、これを機に税理士の業務における注意義務の程度等のあり方が問われて
1
きている。その判決は、税理士にとっては極めて厳しいものでもあり、従来の税理士業務の
あり方に強い衝撃を与えた。
また、税理士の債務不履行に伴う損害賠償に係る税理士職業賠償責任保険の事故例も、毎
年500∼600件台を推移している。さらにこの他、自己負担で損害賠償金を支払っている事故
例も数多くあるものと推測される。
こうした背景には、国際化が進むなかで市民の権利意識の高まり、複雑化した社会の中で
専門家の社会的責務への期待があろう。また、依頼者である市民の権利及び利益を擁護する
消費者保護の観点に立った裁判所の姿勢があり、専門家としての業務のあり方が厳しく問い
かけられているといえよう。したがって、こうした傾向は今後ますます進むものと思われる。
このように、税理士が専門家責任を問われる訴訟社会では、業務に当たって、専門家とし
て適正な注意を払うことはもちろん、日頃から税務の専門家として知識、経験、能力を高め、
社会的付託にこたえ、適正な業務が遂行できるように自己研鑚に努めることは当然であるが、
また同時に、税理士も法的な専門家責任を意識しておくべきであろう。
そこで日本税理士会連合会としても平成8年に、多発する損害賠償請求事件に対し、実務
対応のガイドラインを発行後、平成14年に税理士法改正等を踏まえ改訂したところである
が、今回、最近増加しつつある税理士の専門家責任に係る裁判例を加え増補改訂するもので
ある。
3.専門家としての責務
税理士は、納税者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図る税務の専門家である。
専門家とは、特定の分野で高度な知識と能力を有し、その領域の業務等を行うものである。
現代社会は複雑多岐に亘っており、誰もが自己に関わることをすべて自分で行うことが不可
能になってきている。したがって今日、社会が専門家に寄せる期待と信頼は極めて高いもの
がある。税理士業務の分野においても、依頼者の期待と信頼は益々高まってきていることは
言うまでもない。
税理士の業務責任をめぐる最近の判決を見ると、税理士の果たすべき職務上の義務に関す
る程度は、通常、税理士なら誰もが当然業務として行うことをしていれば注意義務違反に問
われないという「慣行論」から、税理士が努力しさえすれば遂行できるという一定の水準ま
で注意して業務を行う必要があるとする「水準論」へ移行したと思われる高度な注意義務を
要求するものがある。また、依頼者にとって最良の選択をすべきという「誠実・忠実義務」
や、委任を受けた税理士から見ればサービスと思われること(例えば、相続税の申告書作成
の依頼のみを受けた場合の延納等)が、
「説明・助言の義務」があるとするなど、より重い
責任が求められるようになってきている。
この期待と信頼にこたえるために税理士は、日頃から研鑚に努め資質の向上を図り、専門
家としての自信と誇りを持って、有する知識や能力を十分に発揮して職務を遂行すべきであ
る。しかし、専門家といえども全能ではなく、業務に従事する者は多かれ少なかれ責任を追
及されるような事態も起こりうると考えるべきである。
税理士は、納税者の信頼を得て、委任の本旨に従って的確・適正な業務を遂行し、責任を
追及されるような事態を避けるように心がけることは当然であるが、損害賠償問題はその対
応如何によって結果が左右され、円満に解決したり、訴訟として争われることにもなる。税
理士業務は、依頼者との信頼関係により成り立っているものであるから、常日頃から強い人
2
間関係を築いておくことも重要である。
4.債務不履行責任と不法行為責任
税理士は、高度な知識、経験、能力を有する税務の専門家であり、また、業務に際しては
細心の注意を払って業務を行うべきであるが、時に必要な注意を怠り誤った処理がなされる
こともあろう。
このような場合には、法律上、民事責任が生じる。民事上の責任には、契約に関わる債務
不履行責任(民法415)と不法行為責任(民法709)があるが、税理士の業務は、書面による
契約がとり交わされていなくとも通常、依頼者との間に委任又は請負契約に類似した契約に
基づいて行われている。したがって、その本旨に従った履行がなされなければ債務不履行責
任が生じる。多くの場合、同時に不法行為責任も生じる。この二つの損害賠償請求権は競合
するとするのが通説であるが、請求する者にとっては、法的根拠を債務不履行として請求す
れば税理士が挙証責任を負うことから、不法行為として責任を追及することは少ないであろ
う。
税理士の行為によって、金融機関など契約関係にない第三者に損害を与えた場合には、不
法行為責任のみが問題となる。
債務不履行による損害賠償責任と不法行為による損害賠償責任は、次のとおりである。
項
目
債務不履行
不法行為
(民法415)
(民法709)
契約の有無
契約あり
契約の有無に関係なし
(契約責任)
(不法行為責任)
挙証責任
税理士
依頼者・第三者
請求権の消
10年
知った時から3年
滅時効
行為の時から20年
(いずれか早い方)
発生要件
税理士の善管注意義務違反による
税理士側の故意・過失による
依頼者の損害発生
依頼者の損害発生
(1)債務不履行による損害賠償請求(民法415)
債務不履行とは、債務者(税理士)が、その債務の本旨(受任した業務の内容)に従って
履行しないことである。この場合に、債務不履行が債務者(税理士)の責任となる事由に基
づいたものであるときには損害賠償請求権が発生することとなる。
債務不履行には、履行遅滞、履行不能及び不完全履行の3つの態様がある。
イ 履行遅滞
(履行遅滞の要件)
① 履行期に履行することが可能なのに契約上の履行期を徒過したこと。
② 債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと。
③ 履行しないことが違法であること(同時履行の抗弁権、留置権など遅滞を正当化す
る事由がないこと)
。
(履行遅滞の効果)
① 債権者に損害賠償請求権が発生する。
3
② 契約解除権が生じる(民法541)
。
ロ 履行不能
(履行不能の要件)
① 履行が不能となったこと。
② 債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと。
③ 履行不能が違法であること。
(履行不能の効果)
① 債権者に損害賠償請求権が発生する。
② 契約解除権が生じる(民法543)
。
ハ 不完全履行
(不完全履行の要件)
① 不完全な履行であること。
② 債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと。
③ 不完全な履行が違法であること。
(不完全履行の効果)
① 債権者に損害賠償請求権が発生する。
② 契約解除権が生じる(民法543)。
債務不履行の要件である「債務者の責に帰すべき事由」とは、故意又は過失及び信義則上
これと同視されるような事由と解されている。したがって、使用人等履行補助者を使用する
ことが許されていない場合はもとより、業務内容から当然に使用人を用いることが許されて
いる場合でも、その使用人の行為に故意過失があれば、指導・監督に故意過失があるか否か
にかかわらず、使用者である税理士の責に帰すべき事由とされるのが一般であろう。
債務不履行の事実があり、依頼者から税理士が債務不履行責任を問われた場合には、免責
の挙証責任は税理士にあり、
「責めに帰すべき事由」がないことを挙証しない限り、責任を
逃れることはできない。
(2)不法行為による第三者責任
税理士の作成した内容虚偽の財務諸表や確定申告書等を信じて取引をした金融機関等の
第三者に加えた損害について、その税理士は不法行為として賠償責任を負う。
一般的不法行為の成立要件は次のとおりである。
① 加害者に故意又は過失があること。
② 他人の権利侵害(違法性)があること。
③ 加害者に責任能力があること(税理士には無関係であろう)
。
④ 加害者の行為により損害が発生していること。
⑤ 加害者の行為と損害の間には因果関係があること。
また、不法行為には「使用者責任」
(民法715)という類型がある。すなわち、事業のため
に他人を使用する者は、その事業の執行につき第三者に加えた損害について賠償責任を負う
ものとされている。ただし、使用した者の選任及び事業の監督に相当の注意をしたとき又は
相当の注意をしても損害が生じたであろう時は免責される。
5.善管注意義務とその範囲
4
行為者の人格的な責任を問う刑事責任は故意犯が原則であり、過失犯は例外とされている
のに対し、損害を分配する機能を期待されている民事責任では、故意と過失は同列であり、
上記のように過失があればその責任を問うのが原則である。
故意は、してはならないことを敢えてなす禁止規範の違反であるが、過失は、しなくては
ならない注意義務違反である。過失とは、自己の行為により他人の権利・利益の侵害が生じ
ることを認識すべきであるのに、不注意により、それを認識しないで行う心理状態である。
そこで不注意の存否の基準となる注意義務が問題になる。
民事上の注意義務には、一般的な「善良なる管理者の注意義務」
(善管注意義務)と軽減
された「自己のものと同一の注意義務」とがある。
「自己のものと同一の注意義務」は、そ
の行為者の能力を基準とした注意義務(具体的過失)であるが、善管注意義務は、
「善良な
管理者」であれば当然求められ期待されている注意義務(抽象的過失)が基準となる。民事
上の過失責任の原則は、社会で発生した損害を公正に分配する機能を担っているので、行為
者本人の個々の事情を超えた普通人に求められる注意義務、すなわち善管注意義務が原則と
されている。
善管注意義務は、一般的には「その人の職業、経歴、生活状況等に応じて社会通念上要求
される程度の注意をいう」とされ、税理士などの専門家には、その職務の社会的使命などに
鑑み、一般的に求められるものよりも高度な義務が要求される。
この善管注意義務は、税理士業務をめぐる賠償問題の重要なポイントの一つとなっている。
税理士がその業務を遂行するにあたって要求される義務には、①高度注意義務、②忠実義
務、③指導・助言・説明・情報提供義務、④業務補助者(使用人等)に対する指導・監督義
務等があるが、この範囲、内容は更に拡大される傾向にあると考えられる。
(1)高度注意義務
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場で納税者の信頼にこたえ、適
正な納税義務の実現を図ることを使命としている。
このことは、①納税者は、自己の適正な納税義務を果たすため税理士を信頼して業務を依
頼しているのであるから、税理士は、その依頼にこたえ法の許す限りにおいて、納税者の利
益の最大化を考えて業務を遂行しなければならないとともに、②独立した公正な立場におい
て、申告納税制度の理念にそって適正な納税義務の実現を図るという社会的使命を負ってい
る。
そのため、専門家として租税に関する法令に精通している税理士は、その業務に際しては、
一般人に比較してより高度で広範囲の注意義務が求められる。したがって税理士は、専門家
として常に研究研鑽に努め、専門的能力を維持向上させることが必要である。
しかしながら、最近の損害賠償請求事例をみると、消費税の各種届出書の提出失念などの
ような単純なミスをはじめ、認識不足、勘違い等の注意義務違反がかなり見当たる。
これらは、税法及び関連法令に精通していても起こり得る事故であり、事故防止のため、
業務手順のマニュアル化、チェックリストの活用など業務水準の改善・向上と対応策を確立
することも肝要である。
(2)忠実義務
税理士は、前述のとおり納税者の信頼にこたえて、委任の本旨に従って法の許す範囲内で
納税者の利益になるよう業務を遂行しなければならない。
5
そのため、税理士の業務は、依頼者が述べた事実や提示された資料の範囲内で依頼されて
業務を遂行すれば足りるものではなく、税務の専門家として、更に深く事実関係を究明し、
とるべき方法が複数ある場合には、納税者に最も有利な方法を選択することが要求される。
最近の判例で「税理士は、依頼者にとって、できるかぎり節税となりうるような措置を講
ずる義務を負う。
」というまでに至っている。更に有利な方法があるにもかかわらず、比較
上不利な方法を選択した場合には、選択した方法が法律に反するものではなく適法であって
も債務の不完全履行であり、損害賠償を求められる虞がある。
(3)指導・助言・説明・情報提供義務
税理士は、税務の専門家であり、依頼者に比べて知識、経験は豊富であり、能力も優れて
いることは当然である。そのため、納税者は税理士を信頼し自己の適正な納税義務を履行す
るために税理士に依頼するのであるから、税理士は業務遂行に当たっては、依頼者に正確な
租税に関する情報を提供し、十分説明しなければならない。また、納税者が正しい判断がで
きるよう適切な指導・助言を行う必要がある。とり得る方法が複数ある場合に、税理士がこ
れを怠り不適切な選択をした場合には、説明義務違反として責任を追及されることにもなる。
平成7年の東京高裁の判決では、相続税の修正申告手続を依頼された税理士の業務に関し、
「納付についての指導・助言を行うことは、単なるサービスというものではなく、申告に伴
う付随業務であり、この懈怠については債務不履行責任を負う。
」としており、税理士は委
任された業務に付随して納税者がとるべき方法について、必要な指導・助言を行わなければ
ならないとしている。
(4)業務補助者(使用人等)に対する指導・監督義務
使用人等が行う補助業務に対しては、税理士の業務の一環であり、使用人等も高度な注意
義務が要求されることとなる。
したがって、使用人の過失に起因するものであっても、税理士の債務不履行として民事責
任が問われる。また、使用人に対する指導・監督義務違反を問われ行政責任を負うことにも
なる。
6.過失相殺
税理士は高度な注意義務を負っているが、依頼者自らの過失で招いた損害まで税理士に転
嫁されることはない。債務不履行責任について裁判所は、債権者(依頼者)の過失を斟酌し
て賠償額を定めることができるものとされており(民法418)
、不法行為に関しても同趣旨の
規定(民法722②)が置かれている。
依頼者の提供した資料に不備、誤りがあった場合など、損害賠償額の算定において斟酌さ
れることになる。依頼者の過失(注意義務違反)は本人の過失に限らず、その使用人などの
過失も含まれる。依頼者の注意義務の程度も、その者の職業、経歴、社会的地位などから判
断されることになると解される。
7.税理士法人・補助税理士と損害賠償責任
税理士法人であれ補助税理士であれ、業務に関連して専門家責任を問われ、損害賠償責任
が生じる要件(損害賠償責任の成立要件)に関しては、通常の税理士と違いはない。
税理士法人においては、納税者が税理士法人と業務契約を結び、業務は社員税理士ないし
6
補助税理士が当たることになる。したがって、債務不履行に伴う契約上の責任は税理士法人
が負うことになる。税理士法人は、契約を履行するに当たって、社員税理士ないし補助税理
士が業務を行うことになるが、業務を行う社員税理士ないし補助税理士の故意過失(善管注
意義務違反)は、法人の債務不履行責任の成立要件とされる。
税理士法人が責任を負うことは当然であるが、税理士法は、税理士法人の外部関係につい
て会社法上の持分会社の規定を準用しており、これによると法人がその債務を完済できない
ときには社員が連帯して責任を負うものとされている(税理士法48条の21①で準用する会社
法580①)
。
社員税理士は、税理士法人が有する抗弁(注意義務違反はないとか、損害と因果関係がな
い等)を主張することができるが、社員税理士が負う責任は、税理士法人について生じた損
害賠償債務に関するものであり、債務を離れた責任のみを負うのである。つまり、他人であ
る税理士法人に発生した債務に関し、その責任のみを負うということになる。したがって、
その社員税理士個人として過失はなく、その者は債務不履行をしていない場合であっても責
任を負うことになる。
社員税理士の一部が、その責任を果たし損害賠償をすれば当然、法人に関しても他の社員
税理士との関係でも損害賠償債務は消滅する。
損害賠償事故の後に新たに社員として加わった者は、自己が加入する前の損害賠償であっ
ても責任を負う(税理士法48の21①で準用する会社法605)
。
税理士法人の社員であった時の損害賠償であれば、その後、退社しても原則として2年間
は責任を負わなければならない(税理士法48の21①で準用する会社法612)
。
業務上、納税者・依頼人に損害を与えた社員税理士、補助税理士は納税者と契約関係にな
いので、契約上の責任である債務不履行責任を追及されることはない。しかし、故意過失に
より他人の権利を侵害し損害を生じさせたという不法行為責任は免れない。したがって、自
己の故意過失により損害を生じさせた社員税理士は、社員として税理士法人の二次的責任を
負うとともに個人として不法行為責任を負うことになる。
個人税理士が履行補助者として補助税理士を使用する場合も、税理士法人と履行にあた
った税理士の関係と同じように考えられる。つまり、業務の委託を受けた税理士は、契約
上の債務不履行責任を負うが、補助税理士は補助者として行った税理士業務の範囲内で、
個人として不法行為責任を負うことになる。
8.複数の税理士と専門家責任 ― 複数関与、複数受任・共同受任、復代理
(1)複数関与
相続税の申告は、通常、相続人全員が揃って一人の税理士に委嘱することが多く、申告も
複数の相続人が同一の申告書で申告すること(相続税法27⑤)が通例であるが、相続自体に
紛争がある場合など、一の相続に関しても複数の相続人(相続税納税義務者)が個別に税理
士を依嘱する場合がある。
本来、相続税の申告義務、納税義務は相続人一人ひとりにあり、申告義務、納税義務は個
別である。したがって、相続人達が各自別個の税理士に委嘱することができることは当然で
ある。相続人それぞれが別個の税理士に業務委託することは、一の納税義務に関し一人の税
理士が受任している形態であり、通常の受任関係と変わるところはない。
相続人ごとに税理士が異なる場合には、個々の申告における相続財産の総額が様々になる
7
ことも考えられ、受任した税理士としては、互いに連絡協議をしたいところであるが、受任
税理士が情報交換することが許されるか否かは、納税者の意向、委嘱契約の主旨によるであ
ろう。
実際問題として、同一の相続に関し複数の相続人から内容の異なる申告が提出されると、
これに関わった税理士の専門家責任が問われることも多くなろう。したがって、業務遂行の
記録を残すなどさらに慎重な業務遂行をするべきであろう。しかし、こうした場合でも、法
的責任は通常の委嘱契約に基づく業務と差違はなく、個々の税理士に対し個々の業務につい
て判断されることになる。
(2)複数受任・共同受任
① 複数受任
以上のような場合と異なり、同一法人の同一事業年度の所得に対する法人税のように一
の納税義務に関し、複数の税理士が受任する場合(複数受任)が考えられる。法人の代表
権を持つ者同士の連絡に齟齬があり、一方で或る税理士を委嘱した後、たまたま別の役員
が他の税理士業務を委嘱した場合や、法人の役員間に深刻な対立がある場合などに起こり
得る。同一の納税義務に関する委嘱である以上、単一の申告が期待されるので、連絡調整
のうえ業務が遂行されることが望ましいが、委嘱の主旨からそれが許されず、また、それ
ぞれの委嘱が解約されず有効であれば、それぞれ業務を遂行することになり、その結果、
申告期限内に複数の納税申告がなされることもあろう。
こうした場合の専門家責任も通常の委嘱契約に基づく業務と差違はなく、個々の税理士
に対し個々の業務について判断されることになる。
また、同一の納税義務に関しても、税務書類作成、申告代理を委嘱する税理士と、税務
調査における立会いを別の税理士に委嘱するように、業務内容を分けて委嘱される場合も
考えられる。こうした場合、責任はその受任の範囲においてそれぞれの税理士に別個に生
じる。
② 共同受任
一の納税義務に関し、複数の税理士が共同で受任する事例もある。チームを組んだ複数
の税理士が協力して業務を遂行する場合や、税理士法人ではないいわゆる共同事務所の複
数の税理士が共同受任する場合など、後述の復代理でなく共同受任とする場合も考えられ
よう。
共同受任した税理士も委嘱関係は個別の契約関係にあり、納税者への責任も個別に存在
する。納税者に対する責任は分割し得るものではなく、受任税理士がそれぞれ全面的に負
うものであって、各人の責任は競合的に存在し、誰であれその責任を果たせばその範囲で
他の税理士の納税者に対する責任も消滅する。
共同受任した税理士間で内部的に責任の配分を決めることは可能である。主たる立場で
業務を行った者が多く負担し、従たる立場で行った者は少なく負担するのが一般的であろ
う。
一方、複数の顧問税理士に包括的な業務の委託をしている法人の場合、それぞれの税理
士は同一の納税義務に関し税務書類作成・申告代理を受任しているので、それぞれ責任が
ある。一の納税義務に関するものであるので連絡調整をすることが契約の本旨に適う。特
に禁じられていない限り協力して業務を遂行すべきことになる。
8
顧問契約を締結している複数の税理士のうち主たる者が独自に税務書類を作成し申告
代理をし、他の税理士は事実上関与していないとしても、事実上関与していない(署名し
ていない、税務代理権限証書を提出していない等)ことをもって納税者に対する責任は逃
れることはできない。顧問契約を締結している以上、申告内容は通常その責任の範囲であ
るし、
「あずかり知らぬ」とすれば、あずからなかったこと自体に契約違反がある。
納税者からの損害賠償について、主たる税理士は注意義務を果たしていたとして責任は
ない事案であっても、その申告を「あずかり知らぬ」こと自体契約違反である以上、全面
的責任を別個に問われることも充分に考えられる。損害賠償請求する納税者としては、実
際上税務書類を作成し申告した税理士に過失があったと立証するより、名目だけで契約上
の義務を果たしていない税理士の責任を問う方が簡単である。
責任配分に関して、税理士間の内部的合意がない場合、その責任分担は均等と推定され
る。つまり、主たる税理士に注意義務違反がある場合でも並んで契約している税理士にも
当然に均等の責任が求められる。主たる税理士に注意義務違反がなく責任を問えない場合
には、名目的であって事実上業務に関わっていない税理士に全面的な責任が及ぶことにな
る。
(3)復代理
復代理とは、代理人が自己の名においてさらに代理人を選任することをいい、復代理人は、
代理人の代理人ではなく、本人を直接に代理することになる(民法107②)
。復代理人は、本
人に対して代理人と同一の権利義務を負う。つまり、第一次的代理人に選任された復代理人
であっても、その責任は直接の代理人と変わるところはない。
委任を受けた税理士のように契約に基づく任意代理人は、信頼関係を基礎としているので、
特に復代理人を選任する権限(
「復任権」
)が与えられたときにのみ、復代理人を選任するこ
とができる(民法104)
。復代理人を選任する権限があり、選任した場合にはその選任と監督
について本人に対し責任を負うものとされ、復代理人の個々の行為に責任を負うものではな
い(民法105)
。
第2章
損害賠償事件判決にみる税理士の注意義務
1.はじめに
近年、専門家の業務展開をめぐっての損害賠償請求事件は増加の一途をたどり、特に税理
士の業務遂行に係る事件はマスコミ等に取り上げられるなど、社会的にも注目されている。
税理士に対する損害賠償請求事件の多くは、税理士の善管注意義務違反に基づく債務不履
行を問うものであり、さらに、納税申告書は金融機関等で融資の判断材料にされることから、
粉飾などがある場合には、第三者に対する責任も生じている。
本章では、公表された裁判例から、事件の概要と税理士の債務不履行及び不法行為並びに
裁判所の判断について善管注意義務とされる種類ごとに分類して紹介し、問題を取り上げる
こととする。
2.税理士損害賠償事件の判例
9
一、高度注意義務
(高度注意義務)
1.仙台地裁 昭和 61 年 9 月 11 日判決
( 棄却 仙台地裁昭和 58 年(ワ)第 161 号 TAINS コード Z999-0045)
控訴審 仙台高裁 昭和 63 年 2 月 26 日判決
(一部認容:賠償額 10,000,000 円、仙台高裁昭和 61 年(ネ)411 号)
判例時報 1269 号 86 頁、TAINS コード Z999-0002
税理士Yが作成した虚偽の法人税確定申告書を信頼して保証、担保提供した者が損害を被
ったとして税理士の第三者責任を追及し、損害賠償請求が認められた事例
《事実の概要》
税理士Yは、甲会社の代表者(以下「甲」という。
)より依頼され、税務署に対しては真
実に即した赤字の申告書を提出した。しかし、銀行に対しては黒字の虚偽の確定申告書二期
分を作成し、また、毎月甲会社の試算表(作為の疑いあり)を作成していた。
原告Xは、甲会社から融資、銀行借入の保証、担保提供を頼まれ、上記虚偽の確定申告書
及び試算表の提示を受けた。Xはこれを信じて甲会社のために保証と担保提供をし、甲会社
は多額の融資の融通を受けたが真実は赤字のため間もなく倒産した。
Xは、税理士Yの作成した虚偽の書類を信じたため支払った、不法行為に基づく4,25
2万円のうち2,000万円及び遅延損害金の損害賠償を税理士Yに求めた。
《判決の要旨》
税理士Yは、甲がY作成の虚偽申告書等を利用して融資先を欺いて金融を得ることを知り
ながら、すなわち甲に対して融資をする者が損害を受けるかもしれないことを予見しながら
甲会社の実情を粉飾した書類を作成したものである。
以上により税理士Yは、その作成した書類の記載を信用して融資をし、損害を受けた者に
対してその損害を賠償する義務がある。
原告Xは融資を始めた頃から甲会社の取締役であり、帳簿等を調査すれば虚偽書類である
ことを知り得たのにこれをしなかったので過失がある。これにより賠償額は1,000万円
が相当である。
(注)税理士に対して、賠償命令が下された最初の事例である。
(高度注意義務)
2.東京地裁 平成 11 年 10 月 26 日判決
(棄却、税理士勝訴、東京地裁平成 8 年(ワ)23902 号)TAINS コード Z999-0026
控訴審 東京高裁 平成 13 年 7 月 11 日判決
(主位的請求棄却、予備的請求等一部認容:賠償額 54,974,500 円、東京高裁平成 11 年
(ネ)5850 号、上告後和解結了)TAINS コード Z999-0046
相続税の申告における小規模宅地等の評価の特例を巡り、原審は税理士が勝訴した。しか
し、控訴審では、税理士に一部注意義務違反を認めた事例
《事実の概要》
この事件は、平成 3 年 1 月 17 日の相続について税理士(昭和 59 年ごろから関係の法人2
社の税務顧問)が小規模宅地等の評価の特例の選択を間違えたとして2億円余とそれに係る
10
遅延損害金の支払いを当該税理士に求めた。
本件は、相続税の小規模宅地等の評価の特例適用にあたって、
「5棟10室」の形式基準
をとるか、実質基準をとるかが争われた。
《控訴審判決の要旨》
原審では、相続税の小規模宅地等の評価の特例適用にあたって、
「5棟10室」の形式基
準をとるか、実質基準をとるかが争われたが、形式基準を採用した税理士に責任はないとし
た。また、控訴審でも原審を支持した。
しかし、控訴において追加された予備的請求では、小規模宅地等の評価の特例適用にあた
って不動産貸付けとは異なる同族会社の貸しスタジオについて、事業用宅地等に該当するこ
との判断の誤り、または選択肢の説明をしなかったことについて受任者としての注意義務違
反があることを免れないとした。
(高度注意義務)
3.東京地裁 平成 14 年 2 月 12 日判決
(棄却、東京高裁平成 12 年(ワ)15961 号) TAINS コ−ド Z999-0076
税理士に善管注意義務違反があり、相続税の修正申告に伴い発生した加算税や延滞税を支
払うよう求めた損害賠償請求が棄却された事例
《事実の概要》
原告である弁護士Xは相続人甲から、被相続人丁の遺産分割協議書の作成について委任を
受け、さらに相続税の申告業務を受任した。
原告Xは遺産分割協議書を作成後、法定申告期限の10日前頃までに、関係書類を準備し、
被告税理士Yに相続税の申告業務を依頼した。
被告Yは申告期限の4日前に相続税の申告書を完成させ、原告Xを通じて、相続人らの押
印を得て、翌日に申告書を税務署長へ提出した。
その後税務調査により、債務控除すべき金額に将来の未払利息も含まれていたことが発覚
し、修正申告を行うこととなり、原告Xは相続人らから加算税や延滞税の支払いについて責
任を追及され、1,200万円を支払うこととなった。
原告Xは、被告Yに対して、被告の善管注意義務違反が原因である旨主張し、損害賠償請
求訴訟を提起した。
《判決の要旨》
被告Yが申告書の作成を頼まれ資料の送付を受けた頃は、既に相続税の申告期限が間近に
迫っており、申告期限を経過すると減税の特例が受けられないばかりでなく、無申告加算税
等が賦課される可能性もあり、申告書の作成にそれなりの時間を要することが避けられなか
ったことが容易に窺えるのであって、被告Yが土地の評価について正確な調査をしなかった
ことは、誠にやむを得ない事由があったものというべきであり、概ね高めの評価額で申告し
た被告Yの措置については、申告期限を遵守することを優先し後日還付が受けられるもので
あることから、相続税の申告業務の受任者として善管注意義務に欠けるところはない。債務
控除の対象となるべき金額については、原告X自身が未払利息を含んだ債務金額であると認
識していたことは明らかであり、弁護士である原告Xの作成した遺産分割協議書等に従って
申告書を作成した被告Yが、善管注意義務違反を問われることはない。
11
(高度注意義務)
4.前橋地裁 平成 14 年 6 月 12 日判決
(一部認容:賠償額 10,294,336 円 前橋地裁平成 10 年(ワ)第 483 号)
TAINS コ−ドZ999-0056
控訴審 東京高裁 平成 15 年 2 月 27 日判決
(棄却・確定 東京高裁平成 14 年(ネ)第 3787 号) TAINS コ−ド Z999-0068
過年度に生じた有価証券(ワラント債)売却損を当該事業年度の損金に算入する申告をし
た税理士に債務不履行の責任があるとした事例
《事実の概要》
原告X会社(被控訴人)の平成7年度分法人税の確定申告に当たり、平成2年度に発生し
たワラント債の売却損を有価証券売却損として特別損失に計上したが、M税務署長から更正
処分を受け過少申告加算税等の損害が発生した。
ワラント債の売却損につき平成2年度の損金に計上すべきであり、減額更正を請求しうる
旨の説明・助言・指導をせずX会社にその機会を失わせたため、還付金相当額の損害が発生
したとして損害賠償を請求された事案である
《判決の要旨》
平成2年に発生した有価証券の売却損を平成7年度の時点で判明した場合には、その譲渡
に係る契約をした日の属する事業年度(平成2年度)に売却損を損金に計上すべきであり、当
該事業年度の損金として算入されないと更正決定された。
この場合、仮装経理に基づく過大申告について修正の経理をしたうえで、その金額を特別
損失(前期損益)に計上し、更に法人税申告書別表四で加算した確定申告書を提出し、税務
署長宛に減額更正(職権更正)を求める嘆願書を提出することになる。
(納税者は過大申告
をした場合には法定期限から1年間は更正の請求をすることができるが、これを経過しても
法定期限から5年間が経過していない場合は、税務署長は減額の更正をすることができるた
めである。
)
平成8年5月頃以降、X会社の役員間で役員の更迭をめぐる交渉が続き、平成7年度の確
定申告の準備が例年と比して遅れており、平成8年6月の申告当時Yは、時間的余裕のない
状態での処理を強いられていたことに加えて、X会社の経理担当者の交替によって例年どお
りの決算書作成に係る協力を得がたい状況にあったと言うことができ、その責任の一部がX
会社の側にもあると認めるのが相当である。
Xの本訴請求は、過少申告加算税等のうち本件ワラント債売却損に対応する部分269万
円余及び平成2年分の還付金相当額1,456万円の合計額1,725万円であり、本件の
債務不履行により生じた損害額のうち、その4割を減ずることが相当であるとした。
5年前に生じたワラント債売却損の処理につき存在を知ったのは、法定申告期限の直前で
ある平成8年6月15日頃であったものであるが、証券会社に対する照会結果等ほぼ確実な
裏付けがあることに加え、税務署の担当官が「期限内であれば必ず返した」旨を明言してい
た。証言内容を考慮すれば、税理士Y(控訴人)がX会社の経理担当者に減額更正の請求の
必要性を説明して、早急に資料を整理した上で、平成7年度申告の際に所要の手続を採って
いれば前記の金額が還付されたであろう蓋然性を肯定することができるから、更正の請求の
12
期限が徒過しているとはいえ、税務署長に対して嘆願書を提出して減額更正を求めなかった
ことによる注意義務違反が問われた事件である。
(高度注意義務)
5.大阪地裁 平成 14 年 7 月 26 日判決
(一部認容:賠償額 191,062,400 円、大阪地裁平成 12 年(ワ)13647 号)
TAINS コード Z999-0053
控訴審 大阪高裁 平成 15 年 6 月 6 日判決
(原判決変更、一部認容:賠償額 244,062,400 円、大阪高裁平成 14 年(ネ)2565 号)
TAINS コード Z999-0072 平成 15 年 10 月 24 日上告不受理決定
収用等の圧縮記帳における買換取得期間について、税理士の説明義務違反があったとして
圧縮記帳の適用を受けられなかったことによる損害賠償請求が認められた事例
《事実の概要》
原告は、所有していた土地建物が収用された際に税務申告を委託していた税理士が、圧縮
記帳が認められる買換取得期間についての説明を正確にしなかったため、適用が認められる
期間内に代替資産を取得する機会を失った。そのことにより、圧縮記帳が認められず更正処
分等を受けるなどの損害を被ったとして、不法行為及び債務不履行に基づき損害賠償を求め
た。
《判決の要旨》
税理士は、原告会社との間で顧問契約を締結し決算書類の作成及び税務申告を行ってきた
のであるから、原告に対し債務不履行責任を負い、代替資産の取得期間についても誤った説
明をしたと推認するのが相当であって、説明義務に違反して原告に損害を与えた以上不法行
為責任を負うというべきである。
(高度注意義務)
6.前橋地裁 平成 14 年 12 月 6 日判決
(一部認容:賠償額 2,381,370 円、前橋地裁平成 12 年(ワ)557 号)
TAINS コード Z999-0062
税理士が補助者を業務に従事させた場合の善管注意義務違反を問われ賠償を認められた
事例
《事実の概要》
税理士は、納税者A及びBから所得税の確定申告書の作成を依頼され、事務所の職員Cを
履行補助者として業務にあたらせた。
A及びBは資料を一切示さず、過年分の申告書の写しを元に申告するよう依頼、Cは依頼
どおりに申告すれば隠ぺい、仮装の疑いが生じること、結果として過少申告になった場合に
は重加算税等の賦課決定を受けることなどの説明をせず、民法第644条の善管注意義務違
反に問われた事件である。
《判決の要旨》
Cは、依頼者の言うとおりに申告すれば不正に課税を免れようとしている可能性があるこ
とを容易に認識することができたはずであり、将来重加算税や延滞税などを課せられること
13
を説明していれば、本件のような不適法な申告を行うことはなかったと認められる。このこ
とは、税理士の専門家責任(税理士法 1、41 の 3)及び善管注意義務に違反しており債務不
履行が認められる。
原告の責任は、もとより重大であるから過失相殺9割として1割の賠償が命ぜられた。
(高度注意義務)
7.東京地裁 平成 11 年 9 月 13 日判決
(棄却、東京地裁平成 10 年(ワ)29305 号、金融・商事判例 1097 号 13 頁) TAINS コード
Z999-0035
控訴審 東京高裁 平成12年7月19日判決 (棄却、東京高裁平成 11 年(ネ)6061
号、金融・商事判例 1097 号9頁) TAINS コード Z999-0036
上告審 最高裁 平成 15 年 7 月 18 日第二小法廷判決(原判決破棄差戻:賠償額
4,228,100 円、最高裁平成 12 年(受)1394 号)
判例時報 1838 号 145 頁、TAINS コード Z999-0074
既に消費税の簡易課税方式の適用を受けている納税者の申告を、簡易課税制度選択不適用
届出書の提出をしないで一般課税方式で申告をしたために発生した増加税分について、税理
士職業賠償責任保険の免責条項の適用がないとした事例
≪事実の概要≫
税理士(原告X)は、A社から委任を受けて、以前より簡易課税制度を選択して消費税の
申告をしていたところ、簡易課税制度選択不適用届出書を提出することなく、一般課税方式
によって算出された消費税額の方が簡易課税制度によって算出された税額よりも少なかっ
たため、一般課税方式で算出された消費税の申告をした。この申告を受けて税務署長はA社
に対して、申告された消費税額を簡易課税制度を適用して算出された消費税が正しいとして
増額の更正をした。A社は、更正により増額された消費税相当額の損害を被ったとして、X
に対して損害賠償請求をした。
そこでXは、税理士職業賠償責任保険の保険会社(被告Y)に対して、申告額と更正額と
の差額に相当する保険金の支払を求めて提訴した。
≪原審、控訴審判決の要旨≫
簡易課税制度の適用を受けているA社は、一般課税方式による申告をするためには、事業
年度開始の前日迄に不適用届出書を提出する必要があったところ、それをしなかったため、
もはや一般課税方式による申告を選択する余地はなく、簡易課税方式によるべきことが確定
していたのであるから、この事件の免責条項2にいう「本来納付すべき税額」は簡易課税方
式によって納付すべき税額として算出された税額とするとした。
また、過少申告が発覚し、本来納付すべき税額と過少申告に基づき納付した税額との差額
を税理士が賠償し、その賠償金額を税賠保険でもって損害のてん補を受けることができると
すると、過少申告が発覚した場合でも、それが発覚しない場合と同様の経済的な利益を受け
ることとなり、過少申告の違法な行為を助長させる虞があることから、税賠保険での損害の
てん補はできないとした。
≪最高裁判決の要旨≫
税理士が賠償すべき損害が不適用届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過
14
誤により生じたものであるときには、依頼者に有利な一般課税方式が適用されないことによ
り、形式的にみて過少申告であったとしても免責条項の適用はないと解した。また、このよ
うに解しても、不正な過少申告にかかわった税理士が申告した税額と本来納付すべき税額と
の差額を依頼者に賠償し、その賠償に係る損害を税理士職業賠償責任保険によりてん補され
ることによって生じ得る納税申告に係る不正の助長を防止しようとする免責条項の趣旨及
び目的に反するものではないとし、原判決を破棄し原審に差し戻した。
(高度注意義務)
8.最高裁 平成 15 年 9 月 9 日判決
(上告棄却、最高裁平成 12 年(受)877 号) TAINS コード Z999-0075
税理士と保険会社が税理士職業賠償責任保険約款の特約条項の適用をめぐり保険契約に
より損害賠償額がてん補されるか否かが争われた事例
《事実の概要》
消費税の課税事業者選択届出書の提出を怠ったため仕入税額控除を受けられないことと
なったが、税理士はこの届出書の提出を怠っているにもかかわらず、仕入れに係る消費税の
控除不足額を5,600万円と算定し還付を受けるための申告書を提出したが認められなか
った。納税者は、これにより損害を被ったとして税理士に損害賠償請求訴訟を提起、その後
両者は和解し、税理士は和解金4,000万円を支払い、税理士職業賠償責任保険のてん補
請求を行った。これを受け保険会社は、この保険の特約条項によりてん補しない旨を主張し
たため訴訟となった事件である。
《判決の要旨》
特約条項の趣旨、目的は不正な過少申告にかかわった税理士が申告に係る税額と本来納付
すべき税額との差額を依頼者に賠償し、その賠償に係る損害を税理士職業賠償責任保険によ
りてん補されることによって生じ得る納税申告に係る不正の助長を防止しようとするとこ
ろにあるとみるべきである。この特約条項の趣旨、目的に照らすと税理士の賠償すべき損害
が、本件のように、課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤
により生じたものであるときには、課税事業者選択届出書の提出を前提とする依頼者に有利
な課税事業者としての申告ができないことにより、形式的にみて過少申告があったとしても、
特約条項の適用はないと解するのが相当であり、原判決に所論の違法はない。よって、保険
会社の上告が棄却された。
(参考)
税理士職業賠償責任保険約款2.税理士特約条項の5条2項
「当会社は納税申告書を法定申告期限までに提出せず、または納付すべき税額を期限内に納
付せず、もしくはその額が過少であった場合において、修正申告、更正または決定により納
付すべきこととなる本税等の本来納付すべき税額の全部もしくは一部に相当する金額につ
き、被保険者が被害者に対して行う支払いについてはこれをてん補しません。
」
二、忠実義務
(忠実義務)
9.京都地裁 平成 7 年 4 月 28 日判決
15
(一部認容:賠償額 2,552,149 円、京都地裁平成 3 年(ワ)2369 号、平成 4 年(ワ)1723
号、平成 4 年(ワ)2895 号)TAINS コードZ999-0008
控訴審 大阪高裁 平成 8 年 11 月 29 日判決(一部棄却:賠償額 970,145 円、大阪
高裁平成7年(ネ)1535 号、平成 7 年(ネ)2176 号)
TAINS コードZ999-0012
既に買換え特例の適用を受けている譲渡資産について、過年度の申告書類等の閲覧の調査
を怠り買換え特例の適用が可能との教示を行い、委任者がこれにより資産を譲渡し、これに
よる譲渡資産の取得費違算に起因する損害賠償が認められた。しかし、高裁では、過年度の
申告書類等の閲覧・調査までは必要ないとの逆転の判決を出した事例
《事実の概要》
昭和59年分以降の所得税確定申告事務等を行った税理士がその中で、昭和59年におい
て既に居住用の買換え特例の適用を受けた自宅土地建物を平成元年に売却したところ、平成
元年分の譲渡所得金額の計算上控除される金額に実際の取得価額を用いるという誤りをし
た。また、昭和62年分の譲渡物件の中に、既に昭和56年分譲渡所得申告において買換え
の特例が適用され取得価額が圧縮された建物が含まれていて、当事者間で十分な情報のやり
とりが不足し、譲渡所得金額の計算上控除される金額に実際の取得価額を用いるという誤り
をした(これらの年分の譲渡所得申告は、税務署の指摘により修正申告した。
)
。
適切な教示がなかったことにより過大な納税義務が生じたとして、指導、助言義務違反等
の債務不履行による損害賠償を求める訴訟を提起した。
《原審判決の要旨》
税理士は、依頼者からの事情聴取で生じた疑問点については、課税庁に出向いて過年度の
申告書類の閲覧を求めるか、少なくとも疑問点を特定して質問し回答を求めなければならな
いとして、税理士の善管注意義務違反が認められるとした。
《控訴審判決の要旨》
京都地裁判決での判決を覆し、
「税理士の注意義務について過年度の申告書閲覧義務はな
い」という正反対の判決を出した。
なお、もう1つの買換え特例の付け替え計算を失念し申告したことによる修正申告に係る
過少申告加算税及び延滞税のみが相当因果関係にある損害(97万円余)とした(昭和59
年において既に居住用の買換え特例の適用を受けた申告は、昭和59年分以降の所得税確定
申告事務等を行った当該税理士事務所が担当していた。
)
。
(注)この裁判を機に過去の申告書の閲覧を認めることとなった。
(忠実義務)
10.東京地裁 平成 7 年 11 月 27 日判決
(一部認容:賠償額 280,862,056 円、東京地裁平成 5 年(ワ)2494 号、東京高裁平成 10 年
11 月 30 日に和解結了)判例時報 1575 号 71 頁、判例タイムズ 925 号 214 頁、TAINS コ
ードZ999-0010
相続税の申告に関して顧問税理士は、納税者から依頼があった物納申請を行わず、延納申
請をし、かつ、土地の評価の過誤を犯したことで附帯税を含め2億8,000万円余の損害
賠償を命じられた事例
16
《事実の概要》
この事件では、亡甲の相続人であるX1(甲の妻)
、X2(甲の子)及びX3(同)
(以上
原告)は、税理士Y(被告)に相続税の申告手続を依頼した際、物納の申請をも依頼したが、
Yは委任の本旨に反し杜撰な申告をし、延納申請を行ったため、X1らが余分に土地を売却
せざるを得なくなったと主張して、現金納付分を除き、その差額と過少申告加算税等の合計
4億2,493万円余とそれに係る遅延損害金の支払いをYに対し求めた。
なお、土地等の評価等について、土地33筆中14筆の路線価等の読み違い等による過誤
が判明し、修正申告書を提出した。
《判決の要旨》
X1らが相続した財産の大部分は不動産であり、物納に充てることが可能な財産を有して
いたにもかかわらず、Yが延納手続をしたことは、委任の本旨に従わず忠実義務違反にあた
る。
Yは税務の専門家として、租税に関する法令、通達等に従い、適切に相続税の申告手続を
すべき義務を負うことはもちろん、できる限り節税となり得る措置を講ずるべき義務を負う
ものであるとして賠償命令が下された。
(注)平成 7 年において、税理士に対し2億8,000万円余の賠償命令が下ったことは、
税理士会全体を震撼させた事例でもある。
(忠実義務)
11.那覇地裁 平成 16 年 6 月 22 日判決
(一部認容:賠償額 67,078,850 円、那覇地裁平成 14 年(ワ)985 号)
TAINS コ−ド Z999-0085
控訴審 福岡高裁那覇支部平成17年3月15日(原判決取消、福岡高裁平成 17 年(ネ)
8 号、6 号) (上告中、最高裁平成 17 年(オ)923 号第二小法廷)
杜撰な経理処理と着服による青色申告承認取消しがあったことにより損失を被ったとし
て、税理士の損害賠償を認めた事例。ただし、高裁においては、税理士の責任は無いとして
原判決が取り消された。
《事実の概要》
原告(医師)が被告(税理士)に対し、原告が税務署から平成13年12月11日に平成8年
分以降の青色申告の承認を取り消され、又は、税務申告が過少申告であるとして更正決定等
を受けた。これは、被告の過誤によるものであり、あるいは被告が原告の金員を着服したな
どと主張して損害賠償等を求めたものである。
平成8年分から平成12年分において、現金の出納等に関する事項を記載した帳簿の記載
及び備付けがないこと及び平成8年分ないし平成12年分において、総勘定元帳に関して、
給与賃金等の必要経費の記載が日々行われておらず、12月31日に一括計上されているこ
とは、所得税法に規定する財務省令の定めるところに従っていないことになり、青色申告承
認取消しの理由になるとされた。
しかし、高裁において、過去(平成5年から平成7年)における調査においても同様の帳簿
作成における忠告を受けている。
《判決の要旨》
17
「総勘定元帳に関して、給与賃金等の必要経費の記載が日々行われておらず、12月31
日に一括計上されている」と認定し、これが本件青色申告の承認取消処分の理由の一つとな
ったものであるから、被告は原告に対し、税務書類の作成及び税務代理の委任契約上の債務
不履行責任を免れないというべきであるとした。
また、被告事務所に現金書留で送金した金員のうち、少なくとも250万円の現金がF(税
理士事務所職員)の手元に残り、Fは、それを被告事務所のキャビネットの中に入れて保管
していたのであって、被告は、故意又は重大な過失によって、少なくとも250万円の金員
を原告に返還することなく不当に利得していたと評価することができるとし、過失相殺割合
としては50%をもって相当と認める判断が下された。
しかし、原告の妻Cが税理士事務所職員F等に現金書留で送金していた。F等は、原告の
源泉所得税や固定資産税の納付、原告の妻Cの妹のサラ金の借金を支払う手伝いをさせられ
ており、42,000円の報酬を事務所に入金した後の残金は、自分への謝礼と考えていた。
被告税理士と原告の妻Cは、小学校からの知り合いであるにもかかわらず、税理士は、月
額42,000円の報酬のみの支払いしか知らされていない。
(忠実義務)
12.大阪地裁 平成 17 年 9 月 16 日判決
(棄却、大阪地裁平成 16 年(行ウ)107 号)TAINS コ−ド Z999-0085
消費税等につき期限内に納付はしたが、申告書の提出を失念していた場合、5%の無申告
加算税の賦課決定処分が適法とされた事例
《事実の概要》
原告Ⅹ会社の消費税等の申告について、Ⅹ会社がその法定申告期限までに消費税等の納付
はしたものの、その申告書の提出を失念したため、被告Y税務署長が消費税等の税額に5%
の割合を乗じて計算した12億3,892万5,000円の無申告加算税の賦課決定処分を
したのに対し、Ⅹ会社が本件処分の取消しを求めた事案である。
《判決の要旨》
(1) Ⅹ会社は、消費税等につき期限内に納付はしたが申告書の提出を失念していた場合、
納付書をもって「瑕疵ある申告書」とみなして、納税申告書の提出によりその瑕疵が治癒
したものと解すべき旨主張する。しかし、納税申告書と納付書とは、その機能及び法的効
果が全く異なるものであるから、本件納付書をもって本件課税期間に係る消費税等の納税
申告書とみることは到底できない。
(2)Ⅹ会社は、期限内に納付した消費税相当額につき予納と取り扱われたことによって、無
申告加算税を課すべき追加納税額がなかったことになる旨主張する。しかし、本件納付は
予納として適法な納付とされたものの、本件納付だけで直ちに本件課税期間に係る消費税
等の租税債務が消滅するということはないのであるから、その時点で、無申告加算税を課
すべき根拠が失われたということはできない。
(3)国税通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由」とは期限内申告書の提出をし
なかったことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく、制裁として加算税を課すこと
が不当と評価されるような場合をいうものと解するのが相当である。本件において、Xが
本件課税期間に係る消費税等についてその法定申告期限内に納税申告書を提出しなかっ
18
たのは、Xが同申告書の提出を失念していたということに尽きるのであって、これはXの
責めに帰すべき事由に基づくものにほかならず、このように失念して期限内に納税申告書
を提出しなかったXに対し行政制裁として無申告加算税を課すことは、法の趣旨に照らし
て何ら不当と評価されるものではない。
(注)本来の税理士の賠償責任問題ではないが、このケースは、税理士事務所が関与してい
ないだけで申告書の提出事務は9割が税理士事務所の仕事であり、税理士が関与してい
たなら全額責任を負うことになるであろう。
三、指導・助言・説明・情報提供義務
(指導・助言等義務)
13.東京地裁 平成 2 年 8 月 31 日判決
(棄却、東京地裁平成元年(ワ)10896 号)
判例タイムズ 751 号 148 頁、TAINS コードZ999-0004
税理士が顧客に対して事業資産の買換え特例の適用を受けるための助言指導を怠り、修正
申告と追加納税を余儀なくされたという顧客の損害と、税理士の業務履行との間に因果関係
がないとされた事例
《事実の概要》
住居及び駐車場用の土地建物の買換えに当り、取得資産である駐車場については従前と同
じく砂利敷きとして事業に供したところ、課税庁から舗装設備がないのは事業用資産と認め
られないとして、修正申告の勧めがあった。
税理士Yは、更正決定を受けて争うことを勧めたが、原告Xはこれに応じて修正申告し、
追加の税負担を行った。XはYの助言が不適切であり債務不履行であるとして損害賠償を求
めた。
《判決の要旨》
1 事業に供した買換資産に該当するかどうかは、当該資産の形態等を総合して客観的に判
断されるべきであり、駐車場について、舗装及び車止めの施設の有無がその要件でないこ
とはいうまでもない。本件通達は税務行政上の解釈指針を示したものにすぎない。
2 税務署がする修正申告の勧めは、納税者の自発的な申告を促すもので何ら強制力を持つ
ものではない。納税者がこの勧めに応じて修正申告するか否かは納税者が自らの責任にお
いて判断決定すべきことである。
3 原告Xが税理士Yの意向に反して修正申告したことに鑑みると、本件納付金はXが自ら
の責任においてした修正申告の結果であり、Yの申告指導が修正申告の直接的契機をなす
などの特別な事情がないので、損害との間に相当因果関係を欠くものというべきである。
(指導・助言等義務)
14.横浜地裁 平成6年7月15日判決
(棄却、横浜地裁平成5年(ワ)1622号)
控訴審 東京高裁 平成7年6月19日判決
(一部認容:賠償額8,346,870円、東京高裁平成6年(ネ)3109号)
判例時報1540号48頁、TAINSコードZ999-0009
19
相続税の修正申告の委任を受けた場合は、単に税額計算のみならず納税方法の選択及び納
税手続の説明と意向確認をすべき義務があるとした事例
《事実の概要》
既に共同相続人の一人が遺言により単独相続をしたとして、他の税理士により相続税申告
を済ませて延納申請を得ていた。その後に、6人の共同相続人により共同して相続する分割
協議が成立した。税理士Yは、これに伴う相続税の修正申告の依頼を受けて申告を行ったが、
延納申請について相談がないのでその申請はしなかった。X(原告、控訴人)らは、その後
に相続財産である土地を売却して相続税を納付したが、延納申請した場合の利子税と延滞税
との差額を損害としてYに賠償請求訴訟を提起した。原審では、相続税納付の助言指導は税
理士の法的義務とまでいえないとして請求を棄却したので控訴に及んだ。
《判決の要旨》
1 税理士がその業務に関する委任状を徴求したことは、それに記載された委任事項につい
ての業務を受任したものというべきであり、本件の場合は、延納許可申請することの記載
がないため、延納許可申請をすることが委任の内容になっていたとは認められない。
2 税理士は税務の専門家であるから、相続税の修正申告手続を受任した場合には、善良な
管理者として依頼者の利益に配慮する義務があることはもちろんであり、法令に適合した
適切な申告をすべきことは当然であるが、法令の許容範囲内で依頼者の利益を図る義務が
ある。そして、租税の申告に伴い納付が必要となり、依頼者に納付時期及び方法について
周知する必要がある。
3 したがって、相続税納付について原告Xの意思を確認する義務があるというべきである。
この納付についての指導助言を行うことは、相続税の確定申告に伴う付随業務であり、債
務不履行責任を負うものと解するのが相当である。
(注)税理士賠償事件のリーディング・ケースに挙げられる。税理士Yは、報酬を取ってい
ないにもかかわらず専門家責任が追求された。
(指導・助言等義務)
15.大阪地裁 平成9年5月20日判決
(一部認容:賠償額3,371,100円、大阪地裁平成6年(ワ)7017号)判例時報1633号113頁、
TAINSコードZ999-0015
控訴審 大阪高裁 平成10年3月13日判決
(一部変更:賠償額3,294,600円、大阪高裁平成9年(ネ)1564号・1626号)判例時報1654
号54頁、TAINSコードZ999-0018
税理士が基本通達に反する処理をして申告した場合、納税者にその危険性を十分に説明し
理解させる義務を認め損害賠償責任を認めた事例
《事実の概要》
原告X会社(1626号控訴人)が税理士Y(1564号の控訴人)の指導の下に法人税の確定申
告をしたところ、下記の損金処理に問題があるとして更正処分を受け過少申告加算税と延滞
税が賦課された。X会社はYにその相当額の損害賠償を請求した。
(一)貸倒損失の処理の誤り
被告は担保物のある貸付金について、基本通達を無視して損金処理を行った。
(二)有価証券の処理の誤り
20
有価証券の評価損について、評価方法の届出がないのに低価法で申告した。
《原審判決の要旨》
基本通達は、一般的に合理性を有するものである。基本通達を無視して貸金の損金経理を
指導したり、有価証券の評価方法の届出書の提出の有無を確認しないまま、低価法による評
価損の計上を指導したことは指導助言義務に反し、税理士Yは、これによって被った損害を
賠償する義務がある。
《控訴審判決の要旨》
基本通達は法令ではないので、これに反する税務処理をすることが許されないものではな
いが、更正処分や加算税等の賦課決定を招くことの危険性を十分に依頼者に理解させる義務
がある。
また、税務当局に是認されるかどうかは、依頼者にとって重要なことであるので、その見
通しを立てるためには、事前に税務当局の意向を打診することが必要であった。
(指導・助言等義務)
16.東京地裁 平成10年5月13日判決
(一部認容、反訴棄却:賠償額212,472,680円、東京地裁平成4年(ワ)8812号、平成6年(ワ)
25417号、平成8年(ワ)3006号反訴、その後和解結了)
判例時報1666号85頁、TAINSコードZ999-0016
税理士等が斡旋した不動産に重大な瑕疵が存在していたが、そのことを知っていた税理士
等が買主にそのことを知らせず取引させたことは、告知義務違反にあたるとされた事例
《事実の概要》
売主Aと買主X(原告)は、ともに税理士Yの顧客であり、Xは日頃から相続税対策の相
談にものってもらっていた。Yは、相続税対策として、地震で雨漏りが発生したが現在は修
理済みである本件不動産を購入してはどうかと提案した。XはYの提案を受け入れ、Aから
本件土地建物と幹線道路側に位置する前面土地を購入した。Yは、XがAから購入した前面
土地の転売を受けるという関係にもあった。Yは、以前自宅及び事務所が手狭になっていた
ので、Aにこの前面土地の購入をAに対し申し入れたが断られていた経緯があった。Xは、
同時に購入した建物について、購入後、雨漏りは修理不能であることを知り、これらの事実
を知りながら告知しなかったとしてY、銀行及び不動産仲介業者に対し損害賠償を求めた。
《判決の要旨》
税理士Yは、この売買契約を成立させ、前面土地をその後原告Xより購入するという動機
をもった立場にあったと理解でき、実際にその後Xより前面土地を購入している。Yは、建
物の雨漏りは修理不能であることを知っており、このことはXに対し売買契約の際、告知す
べき重要な事項であるが、かえって現在は修理済みであり雨漏りの心配はないという、事実
と異なる印象を与えた。この情報をXに伝えていればXは売買契約を締結しなかったといえ
るから、Yは不法行為によってXが被った損害を賠償する責任を負う。よってY、銀行及び
不動産仲介業者に対し損害を賠償することを命ずる。
(指導・助言等義務)
17.神戸地裁 平成 10 年 12 月 9 日判決
(棄却、
神戸地裁平成 8 年
(ワ)
2019 号) 判例時報 1685 号 77 頁、
TAINS コードZ999-0030
21
相続税の申告手続を受任した税理士の税務署に対する申告に債務不履行はないとして税
理士の損害賠償責任が否認された事例
《事実の概要》
原告Xら4名は、相続税の申告を税理士Yに依頼した。Xらは、その後Yに対して、①法
定申告期限までに遺産分割が成立しなくても配偶者には暫定納付義務がないのに納付させ
たこと、②延納手続をとらなかったこと、③仮に生前贈与をしていたならば相続税額よりも
有利であったこと、④配偶者の税額軽減の枠を使い切るよう適切な指導をしなかったとして、
その損害賠償を請求した。
《判決の要旨》
1 申告期限までに遺産分割されていない財産については配偶者にも納付義務がある。
2 税理士事務所からの原告Xらへのファックス通信の記録、担保提供の困難性からみて、
延納手続をとらなかったことは債務不履行とはならない。
3 税理士Yは、相続人全員の利益を図らなければならない。相続人の一人に対して生前贈
与を行い、その者の相続税額が減少したとしても、相続人全体の税負担を考慮すればかえ
って不利となる。
4 相続人間で争われている遺産分割協議は、相続税額の負担のみを考慮して決定されるわ
けではなく、諸々の要素が考慮されて成立するものである。本件は、遺産分割調停で各々
弁護士を選任しており、Yはその調停に全く関与していないこと、また、口を出す状況に
なかったこと、Xらから特に意見を求められることもなかったことから債務不履行になる
とはいえない。
5 よって、原告らの請求はいずれも棄却する。
(指導・助言等義務)
18.東京地裁 平成11年3月30日判決
(一部認容:賠償額 131,442,404円、東京地裁平成6年(ワ)19267号)
判例時報1700号50頁、TAINSコードZ999-0024
控訴審 東京高裁 平成13年10月15日判決(税理士に対する請求棄却)
相続税対策として変額保険に加入した時に、変額保険は解約返戻金が元利金を下回るリス
クを負う保険であることの十分な説明がなかったとして、税理士に損害賠償責任が認められ
た。しかし高裁では、株価下落の新聞記事を用いてリスクの存在を示唆していたとして、税
理士に説明義務違反はなかったとの逆転判決を出した事例
《事実の概要》原告Xらは税理士Yの指導のもと、相続税対策として変額保険(基本保険金
52億円、一時払保険料合計1,787,418,000円)が有効であるとのことで、平
成元年に銀行から保険料相当額の融資を受け、そして合計6社の生命保険会社の変額保険に
加入した。
その後Xらは、平成3年に至り保険契約を解除したが、変額保険は解約返戻金が融資を受
けた元利金を下回るリスクを負う保険であることなど十分な説明がなく、多大な損害を被っ
たとしてY及び銀行・生命保険各社に損害賠償を求めた。
《原審判決の要旨》
税理士Yは、変額保険の仕組みや危険性(リスク)に関する記載のない私製の説明書を用い
22
て説明を行い、その説明は相続税対策の有効性を強調し、解約返戻金の額は常に借入金額を
上回り危険なものではないとの趣旨を強調する内容から、原告Xに誤った判断をもたらした
として、Yに対し顧客に負っている変額保険のもつ危険性についての説明義務に違反する。
また、生命保険会社にも説明を尽くしたとは言えない点に責任があるとして連帯責任を負わ
せた。一方、銀行は主導的積極的に勧誘したものではないことから責任を否定した。
《控訴審判決の要旨》
原告Xは、金投資や転換社債などで投資経験を積んでおり、また、マネー誌を購読してい
たことなどから、
「原告Xは投資に関する知識が通常よりも優れていた」と認定。一方、税
理士Yが変額保険を活用した場合の節税効果などを試算し説明するとともに、アメリカの株
式暴落のあったブラックマンデーに関する新聞記事を拡大コピーし、試算資料に付けてXに
資料提供したことを重視し、
「税理士のリスク説明は十分だった」と認定し、税理士の説明
義務違反による不法行為はなかったとして、東京地裁の判決を覆した。
(指導・助言等義務)
19.東京地裁 平成 12 年 6 月 30 日判決
(一部認容:賠償額 2,356,850 円、
東京地裁平成 10 年
(ワ)
6676 号)
TAINS コードZ999-0066
居住用不動産の売却に当たり、同族会社に対する売却について居住用資産の譲渡所得の特
別控除の適用がないにもかかわらず、誤った教示をしたことにつき注意義務違反があるとし
た事例
(事実の概要)
原告Xの主宰する同族会社Aと税理士Yは、税務申告等の顧問契約を結び、これに付随し
てXは、個人の確定申告書の作成等をYに依頼していた。Xは、居住用不動産を処分するこ
ととなり、同族会社Aに売却した場合「居住用財産の譲渡所得の特別控除」の適用があるか
どうかYに確認したところ適用がある旨の回答を得たため、同物件をAに売却したが、適用
が受けられなかったことから、その譲渡所得税及び地方税について損害賠償を求めた。
(判決の要旨)
個人との間に顧問契約書がないとしても、個人の相談等に応じている以上顧問契約の存在
を裏付けるものであり、税務相談を受けた場合には、租税に関する法令に規定された納税義
務の適正な内容を教示すべき契約上の注意義務を負う。本件相談内容は、租税特別措置法第
35条第1項本文に規定されている基本的事項であり、税理士として初歩的知識というべき
もので、その教示を誤ったという行為は、たとえ無償の顧問契約であったとしても、契約上
の義務に反する重大な過失である。
(指導・助言等義務)
20.富山地裁 平成 12 年 8 月 9 日判決
(棄却、富山地裁平成 8 年(ワ)251 号)TAINS コードZ999-0042
経理担当職員の不正を把握できるはずの税理士が、報告する義務を怠ったことで職員の横
領により損害を被ったとして損害賠償を求めた訴訟で請求が棄却された事例
《事実の概要》
原告X(医師)は、90年11月の病院開設と同時に被告Y(税理士)と病院の税・財務
23
書類の作成・会計帳簿の記帳・経営指導などの準委任契約を結んだ。ところが、平成5年3
月に原告Xの取引銀行から同人名義の預金より現金が引き出されているとの指摘を受けた
が、身に覚えがないため調べたところ経理担当職員が横領していることがわかった。
原告Xは、訴状の中で病院の経営上重大な問題が発生した場合には、病院の経営を把握し
ている被告Yが、横領の事実を調査・観察のうえ、原告Xに直ちに報告する義務があると主
張した。被告Yは、経理担当職員が口座や印鑑を所持していることを知っており、放置すれ
ば横領額が増えるのも十分予測でき、直ちに報告してさえいれば、損害は十分に避けられた
として損害賠償を求めた。
《判決の要旨》
原被告間の契約は、正確な財務諸表の作成によって、原告Xの財政状態や経営成績を金融
機関等の利害関係者に示すことができるようにすること、正確な税務書類の作成によって適
正な納税ができることを目的とするもので、自己の財産に関する注意・危険は本来原告Xが
負担すべきものであり、受任者に善管注意義務があることを考慮しても、受任者である被告
に積極的に不正を発見すべき義務があるということはできない。
(指導・助言等義務)
21.東京高裁 平成 17 年 3 月 31 日判決
(原判決一部変更:賠償額 918,492,848 円、東京高裁平成 16 年(ネ)105 号)
金融・商事判例 1216 号 6 頁、TAINS コードZ999-2033
税制改正により相続税対策としての効果がなくなったことの説明義務違反があるとされ
た事例
《事実の概要》
昭和63年の税制改正により、相続開始前3年以内に取得した土地建物の相続税の課税価
格については、その取得価額により評価するものとされた。
被控訴銀行Yの行員Zは、この改正内容を知っていたが、控訴人Xにもその父親に対して
もその説明をせず、借入金により本件不動産を購入し、賃料収入を融資利息及び元金の返済
に充てるという相続税対策の説明をしたにとどまった。
平成2年3月30日、父親は、Yと本件各消費貸借契約を締結して10億円の融資を受け
た。平成3年8月14日、父親が死亡し相続が開始された際、Xは税制改正がなされていた
ことを知り、本件相続税対策が無意味であることを知った。
平成14年7月12日、Xらは本件不動産を1億7,000万円で、同月18日自宅不動
産を1億3,800万円で売却し、債務の一部弁済に充てた。
控訴人Xは、被控訴銀行Yの行員Zが、融資を行う際(平成 2 年 3 月)、Xがこの改正内容
を知らないことを認識しながらそのことを告げずに、相続税対策としての融資を受ける意思
決定をさせたことが詐欺に当たるとして損害賠償を求めた。
また、不動産取得後3年経過後でなければ相続税対策が有効にならないことを知らされて
いれば、このような意思決定をしなかったところから、本件各消費貸借契約は錯誤に基づく
ものであり、無効であると主張した。
《控訴審判決の要旨》
裁判所は、被控訴銀行Yの行員Zが、Xらがこの改正内容を知らないことを認識しながら
24
そのことをXらに告げずに、相続税対策としての融資を受ける意思決定をさせようとしたと
認めるに足りる証拠はないとした。
また、錯誤の主張についても、3年の期間中に被控訴銀行Yの行員Zに対して相続税対策
が有効であるとの控訴人の認識が表示されたと認めるに足りる証拠がないとした。
詐欺及び錯誤について、取り消し得べき行為について、取消権者が追認したときは、初め
から有効とされるところ、控訴人Xらは追認したと認められるとした。
しかしながら、行員Zらは、本件各消費貸借契約締結までの間に、税制改正により父親が
不動産取得後3年以内に死亡した場合には、相続税対策としての効果がないことを説明すべ
き信義則上の義務があったというべきであり、被控訴銀行Yはその事業の執行につき、行員
らが第三者に加えた損害につき、使用者として不法行為による損害賠償責任があるとした。
第3章 税理士業務の実務上の対応
1.はじめに
税理士に対する損害賠償請求訴訟は、依然として多くの件数が発生している。税理士自身
の単純な業務ミスを原因とするものから、申告期限が間近に迫った申告業務におけるトラブ
ル、嘆願書を提出しなかったことに対する債務不履行についての争い、そして税理士職業賠
償責任保険の免責条項適用に関する争いなど、その質・量ともに広がりをみせている。
税理士のミスによる訴訟は、同族会社への居住用財産の譲渡について特別控除を適用した
事案に対する東京地裁平成12年6月30日判決(税理士に235万円余の支払いを命じ
た)、実地調査不足による消費税簡易課税事業の判定の誤りに対する東京地裁平成13年1
0月30日判決(税理士に325万円余の支払いを命じた)などが挙げられる。
期限が間近に迫った相続税申告に関し、税理士が配偶者の税額軽減等の特例適用及び無申
告加算税の賦課回避を優先し、土地を概ね高めに評価し、債務の過大計上をした点が争われ
た東京地裁平成14年2月12日判決では、税理士が勝訴している。
また、税理士がワラント債売却損について嘆願書を提出すべき義務の存否が争われた控訴
審東京高裁平成15年2月27日判決は、被告税理士の控訴を棄却し、1,029万円余の
支払いを命じた。
さらに、注目を集めたのは、税理士職業賠償責任保険の免責条項について争われた事案で
あった。税理士が簡易課税選択届出書を既に提出済であることを失念し、原則課税方式で申
告し、更正処分を受けた損害を保険会社に請求して支払いを拒否された事例(最高裁平成1
5年7月18日判決)及び税理士が課税事業者選択届出書の提出を失念し、消費税の還付を
受けられなかったため、その損害を保険会社に請求して支払いを拒否された事例(最高裁平
成15年9月9日判決)は共に、税理士職業賠償責任保険の免責条項2の適用はないとの判
断を下し、保険会社にその支払いを命じた。
また、税理士損害賠償事件とは異なるが、関西電力が消費税申告につき、法人税の申告期
限を延長していることから消費税についても申告期限が延長されていると誤解して期限後
申告し、無申告加算税12億3,800万円余を課された事案では、大阪地裁平成17年9
月16日判決において原告が敗訴している。
社会が複雑化し、高学歴社会に裏打ちされた市民の権利意識の高揚による専門家責任の追
25
及が普遍化し、依頼者の権利及び利益を擁護する消費者保護の観点に立つ裁判所の姿勢が鮮
明となってきた今、税理士は専門家としてその業務のあり方について厳しく問いかけられて
いる。
これらの問題の根源は税理士制度及び税理士法にあり、歴史的な税理士制度の流れ、納税
者と国の関係、租税の確定と税理士の職務及び税理士の責任について検討をしなければなら
ない。税理士の使命(Compliance)及び税理士の責任について整理し、本来あるべき税理士
業務及び税理士制度について言及しなければならない。
そして、税理士の専門家責任として第一義的には、民法第644条の受任者の注意義務が
問題とされる(善管注意義務)
。さらに最近は、米国における忠実義務(中立義務)の問題
(fiduciary duty)が、我が国において学説理論として議論に挙がっている。
また、説明義務(自己決定 informed consent)違反の問題もある。例えば、医療過誤事
件などの問題では、医師に対し、自分の能力の及ばないことをしてはならないとある。患者
に事前に治療法の内容を提示して、それらの長所・短所を理解させ、本人の納得を得たうえ
で治療することが強調されている。これは、税理士に対する法的責任においても同様である。
また、税理士の特質としては、税理士の利害関係人は納税者であり、国家であることが挙
げられる。
本章は、単なる文章上の業務の遂行記録、あるいは書面上にて既に免責であるとの抗弁の
方法など、リスク負担軽減効果及び賠償責任逃れの効果を狙ったものではない。十分な注意
をもって業務を実施し、善管注意義務を全うした記録作成を通じて、不当な損害賠償請求を
未然に防御するためのものである。また、万全のものではないが有効となるものである。
本章を参考とされ、会員独自の書式を考案して活用されたい。
2.契約書の必要性
税理士業務は税理士法により定められ、付随業務である記帳代行、財務書類作成などを除
き独占業務とされている。しかし、その業務の受任方法については口頭によるものと契約書
を取り交わしている場合が相半ばすると思われる。顧問契約は継続的かつ包括的であり、ま
た、譲渡所得あるいは相続税申告などは金額も多額に上るにもかかわらず安易な形で受任さ
れ仕事が行われてきたといえよう。
そこでは「なにを」
・
「いつまでに」
・
「だれの責任で」
・
「いくらで」という当たり前のこと
が全く決められず不明であった。
しかし、専門家に対する訴訟が著しく増加している時代にあっては、もはやこのような形
態は通用するとは思えない。
税理士の仕事は法律に基づくものであり、その解釈如何によっては納税すべき金額が変動
し、依頼者にとって思わぬ税負担が生じることも多い。納税者の立場からは「すべて税理士
に任せたのになぜ追加納付がでるのか」とクレームが付くのである。
専門的な知識は我々にあり、納税者には情報が少ないのであって、税理士業界の常識は世
間で必ずしも通らないであろう。損害賠償請求訴訟の例では税理士に専門家責任を強く要求
し、税務サービスの消費者である納税者を救済する傾向にある。
問題が発生すれば、トラブルの解決に向けて「契約書」は重要なポイントになるので、契
約書は必ず作成すること。為すべき仕事の範囲、報酬、他の専門家に対する別途料金、責任
26
の所在などを明確にして契約を取り交わす、極めて当然のことが大切でありその実行が要請
される。
3.業務契約書の参考例
〈ポイント〉
1 口頭契約を避け、契約書を取り交わすこと。
2 契約書はひな型による画一的契約は避け、関与先ごとの個別契約書を作成する。
3 業務の範囲を明確にし、暖昧な表現は避ける。
4 報酬については業務ごとに明確に表示し、改定時期についても合意を得る。
5 業務内容に専門外の要素がある場合は、弁護士、不動産鑑定士等他の専門家
と連携する旨を表示し、かつ、その費用の負担者を明示する。
27
(1)業務契約書/記帳代行を含む例
業 務 契 約 書
委任者株式会社
(以下「甲」という)と受任者税理士(又は税理士法人)
下「乙」という)は、税理士の業務に関して下記の通り契約を締結する。
(以
第1条 委任業務の範囲
税務に関する委任の範囲は、次の項目とする。
1 甲の法人税、事業税、住民税及び消費税の税務書類の作成並びに税務代理業務
(注 1)
2 甲の税務調査の立会い
3 甲の税務相談
会計に関する委任の範囲は、次の項目とする。
4 甲の総勘定元帳及び試算表の作成並びに決算
5 甲の会計処理に関する指導及び相談
前記に掲げる項目以外の業務については、別途協議する。(注 2)
第2条 契約期間
平成
年
月
日から平成
年
月
日までの 年間とする。
ただし、双方より意思表示のない限り、自動継続することを妨げない。
第3条 報酬の額
報酬は、乙が定める報酬規定に基づく別紙計算明細書による。
1 顧問報酬として月額
円。
2 税務書類及び決算書類作成の報酬として
円。
3 税務調査立会い報酬として1日当たり
円。
上記各報酬額には別途消費税が付加される。
4 報酬の額は、第2条に係わらず改定することができる。
第4条 支払時期及び支払方法
1 顧問報酬の支払時期は、毎月 日締の同月 日までに乙の指定口座に振り込むもの
とする。
2 税務書類作成及び決算に係る報酬等は、乙の業務終了後 月以内に乙の指定口座に振
り込むものとする。
振込口座
口座名義
銀行
支店
第5条 資料等の提供及び責任(注 3)
28
預金
口座番号
1 甲は、委任業務の遂行に必要な説明、書類、記録その他の資料(以下「資料等」という)
をその責任と費用負担において乙に提供しなければならない。
2 資料等は、乙の請求があった場合には、甲は速やかに提出しなければならない。資料
の提出が乙の正確な業務遂行に要する期間を経過した後であるときは、それに基づく不
利益は甲において負担する。
3 甲の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は、甲において負担する。
4 乙は、業務上知り得た甲の秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は盗用してはならな
い。
第6条 情報の開示と説明及び免責(注 4)
1 乙は、甲の委任事務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの
方法を選択する必要があるとき、並びに相対的な判断を行う必要があるときは、甲に説
明し、承諾を得なければならない。
2 甲が前項の乙の説明を受け承諾をしたときは、当該項目につき後に生じる不利益につ
いて乙はその責任を負わない。
第7条 設備投資などの通知
消費税の納付及び還付を受けるについては、課税方法の選択により不利益を受けることが
あるので、甲は建物新築、設備の購入など多額の設備投資を行うときは、事前に乙に通知す
る。甲が通知をしないことによる不利益について乙はその責任を負わない。
第8条 その他
本契約に定めのない事項並びに本契約の内容につき変更が生じることとなった場合は、甲
乙協議のうえ、誠意をもってこれを解決するものとする。
第9条 特記事項
本契約を証するため、本書2通を作成し、甲乙各々記名押印のうえ、各自1通を保有する。
年
月
日
委任者 (甲) 住
氏
所
名
印
受任者 (乙) 事務所所在地(又は税理士法人所在地)
税理士氏名(又は税理士法人名)
印
契約にあたっての留意事項
(注1) 本項は税務代理に該当し、納税義務確定及び履行に関する手続を一貫して行うこと
29
となる。
(注2) 「その他、上記に付随する一切の業務」
会社定款の目的では、最後に上記のような表現がされる。しかし、業務を受諾する
側で、このような表現をすると、すべて付随する業務は税理士の仕事となって、責任
の範囲は広がり、また付随業務のすべての報酬も第3条の金額に含まれることになる
のでこのような表現はしないこと。
(注3) 税理士業務には申告書、各種申請書などの提出期限があり、いわば「納期」が存在
する。期限間際では通常に要求される高度注意義務の履行は不可能であり、この資料
持参遅延による不利益については、その原因となった依頼者に責任負担のあることを
求めた。
(注4) 税理士には説明・報告・忠実義務を明確にして高度注意義務を発揮すべき義務を課
し、依頼者にはこの報告と自らの判断についての結果責任の負担を求めた条項である。
税理士には業務を行う上での責任を、また、これを受けた委任者には判断し承諾を
した事項についての自己責任を明確にし、よりよい納税義務の実現に向けて両者の責
任のバランスを図ったものである。
(注5) 印紙税法別表第1 第2号文書(請負に関する契約書)
<基本通達>
(税理士委嘱契約書)
17 税理士委嘱契約書は、委任に関する契約書に該当するから課税文書に当たらな
いのであるが、税務書類等の作成を目的とし、これに対して一定の金額を支払う
ことを約した契約書は、第2号文書(請負に関する契約書)に該当するのである
から留意する。
上記注記2∼5は、以下の契約書などのすべてに共通する重要なポイントである。
30
(2)譲渡所得の申告に関する契約例
委 任 契 約 書
委任者(甲)は、受任者(乙)に対し下記事項(2、3、4)を確認・承認し、次の事項(1)を委任す
る。
1 委任の範囲
平成
年分所得税(譲渡所得)の申告に関する税務代理、税務相談、税務書類の作成
2 資料の提示
① 甲は、委任業務の遂行に必要な説明、書類、記録その他の資料(以下「資料等」と
いう)をその責任と費用負担において乙に提供しなければならない。
② 資料等は、乙の請求があった場合には、甲は速やかに提出しなければならない。資
料の提出が乙の正確な業務遂行に要する期間を経過した後であるときは、それに基づ
く不利益は甲において負担する。
③ 甲の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は、甲において負担する。
④ 乙は、業務上知り得た甲の秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は盗用してはなら
ない。
3 情報の開示と説明及び免責
① 乙は、甲の委任事務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれ
かの方法を選択する必要があるとき、並びに相対的な判断を行う必要があるときは、
甲に説明し、承諾を得なければならない。
② 甲が前項の乙の説明を受け承諾をしたときは、当該項目につき後に生じる不利益
について乙はその責任を負わない。
4 業務の報酬
本件に係る報酬は、乙の報酬規定に基づく。
以上の委任契約を明らかにするため本契約書を作成する。
年
月
日
委任者(甲)住
氏
所
名
印
受任者(乙)事務所所在地(又は税理士法人所在地)
税理士氏名(又は税理士法人名)
31
印
(3)相続税の契約例
委 任 契 約 書
委任者の代表(以下「甲」という)は、被相続人故
氏にかかる相続に関し、
受任者税理士(又は税理士法人)
(以下「乙」という)に対し下記事項(2、3、
4)を確認・承認の上、次の事項(1)を委任し、乙はこれを承諾した。
1 委任の範囲
本件相続に関する税務代理、税務相談、税務書類の作成(相続税申告書、延納申請書、
物納申請書)
2 資料の提示
① 甲は、委任業務の遂行に必要な説明、書類、記録その他の資料(以下「資料等」と
いう)をその責任と費用負担において乙に提供しなければならない。
② 資料等は、乙の請求があった場合には、甲は速やかに提出しなければならない。資
料の提出が乙の正確な業務遂行に要する期間を経過した後であるときは、それに基づ
く不利益は甲において負担する。
③ 甲の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は、甲において負担する。
④ 乙は、業務上知り得た甲の秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は盗用してはなら
ない。
3 情報の開示と説明及び免責
① 乙は、甲の委任事務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれか
の方法を選択する必要があるとき、並びに相対的な判断を行う必要があるときは、甲
に説明し、承諾を得なければならない。
② 甲が前項の乙の説明を受け承諾をしたときは、当該項目につき後に生じる不利益に
ついて乙はその責任を負わない。
4 説明事項の確認
甲は、乙より各事項の説明を受け、必要な事項について承諾し確認した。
5 報酬
本件相続の税務代理、税務書類の作成に係る報酬は、乙の報酬規定による(ただし、
弁護士、司法書士、不動産鑑定士等の費用は含まない)
。
以上の委任契約を明らかにするため本契約書を作成する。
平成
年
月
日
住所
32
委任者の代表(甲)相続人
印
住所
委任者
相続人
印
住所
委任者
相続人
印
住所
委任者
相続人
印
事務所所在地(又は税理士法人所在地)
受任者(乙)税理士(又は税理士法人)
33
印
(4)個別契約の例
委 任 契 約 書
委任者
(以下「甲」という)と受任者税理士(又は税理士法人)
(以下
「乙」という)は、甲の所有する不動産(以下「本物件」という)に関し、下記の通り委任契
約を締結する。
第1条 契約の目的
甲は乙に対し次の業務を委任し、乙はこれを受任した。
第2条 業務の内容
委任業務の内容は、次のとおりとする。
1 本物件の売却・交換(以下「譲渡」という)に関する調査及び助言。
本条項は現在の法令に基づくものであり、後に法律の改正が行われた場合を含まない。
必要のある時は別途の協議による。
2 本物件の譲渡計画に関する書類の作成。
3 本物件の譲渡代金を含む財務計画の企画及び助言。
4 本物件の譲渡に係る税務相談及び税務書類の作成。
5 前号の税務書類に係る税務調査の立会い。
第3条 契約期間
本契約の契約期間は、本契約締結日より平成
年
月末日までとする。
ただし、前条第5号については、この限りではない。
第4条 委任報酬
1 第2条の税務相談、税務書類の作成、税務調査立会い業務に係る報酬は、乙の報酬
規定により、その他の業務報酬は別途定める。報酬は、下記銀行口座に送金して支払
うものとする。
2 前項の委任報酬について、甲は乙に、
円を支払う。
(1) 本契約時に着手金として、
円を支払う。
(2) 本件物件の交換・売却登記終了後速やかに、残金を支払うものとする。乙が既に
受領済の金員について乙が本契約の履行に着手した後は、原則として甲に返還しな
い。
振込口座
口座名義
銀行
支店
預金
口座番号
第5条 資料の提示
① 甲は、委任業務遂行に必要な説明、書類、記録その他の資料(以下「資料等」という)
をその責任と費用負担において乙に提供しなければならない。
② 資料等は、乙の請求があった場合には、甲は速やかに提出しなければならない。資料
34
の提出が乙の正確な業務遂行に要する期間を経過した後であるときは、それに基づく
不利益は甲において負担する。
③ 甲の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は、甲において負担する。
④ 乙は、業務上知り得た甲の秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は盗用してはならな
い。
第6条 情報の開示と説明及び免責
① 乙は、甲の委任事務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの
方法を選択する必要があるとき、並びに相対的な判断を行う必要があるときは、甲に
説明し、承諾を得なければならない。
② 甲が前項の乙の説明を受け承諾をしたときは、当該項目につき後に生じる不利益につ
いて乙はその責任を負わない。
第7条 費用の範囲
甲及び乙は、第4条に規定する委任手数料に次の費用は含まれないことを確認する。弁護
士費用、不動産仲介手数料、不動産鑑定料、実測費用、登記費用、不動産取得税、その他こ
れらに準ずる費用。
第8条 その他
本契約に定めのない事項については、甲乙協議のうえ、誠意を持ってこれを解決するもの
とする。
本契約を証するため、本書2通を作成し、甲乙各々記名押印のうえ、甲及び乙が1通ずつ
保有する。
平成
年
月
日
委任者(甲)住 所
氏 名
印
受任者(乙)事務所所在地(又は税理士法人所在地)
税理士氏名(又は税理士法人名)
印
35
(5)相続税の申告に際して確認書を取る例
確 認 書
平成
東京都○○区○○△-△-△
年
月
日
○○○税理士事務所(又は税理士法人) 殿
被相続人
の平成
年度の相続税申告書の作成及び申告、調査の立会いに
ついて、下記のとおり確認いたします。
記
l.上記相続税の申告等の業務上知り得たことは、他に一切口外はしないと貴税理士事務所
(又は貴税理士法人)の関係者は確約して下さい。
2.相続税の申告後において、貴税理士事務所(又は貴税理士法人)及び私ども相続人等の
双方の合意なしに財産及び債務の変更はしません。
3.相続税法に従って評価及び申告処理を行い、申告書の提出及び納付の責任は、相続人に
あることを承知しております。
4.相続人は、貴税理士事務所(又は貴税理士法人)から要請のあった財産及び債務それら
に関連する資料をすべて貴税理士事務所(又は貴税理士法人)に提出いたしました。
5.重要な偶発事象及び後発事象はありません。
6.申告及び納付に重要な影響を及ぼすおそれのある計画又は意思決定はありません。
7.貴税理士事務所(又は貴税理士法人)の相続税申告一覧表の確認はしました。
住 所
相続人
印
住 所
相続人
印
住 所
相続人
印
36
(6)消費税の申告に際して承諾書を取る例
消費税課税方式の選択の承諾書
平成
年
月
日
東京都○○区○○△-△-△
○○○税理士事務所(又は税理士法人) 殿
(事業者名) 株式会社 日 税 商 事
代表取締役 日 税 太 郎 印
翌期(自 平成
年
月
日 至 平成
年
月
日)の消費税確定申告につ
き、平成
年
月
日別紙面談記録簿及び予測に基づき、貴事務所と検討した結果、
下記の課税方式を選択することを承諾いたしました。
なお、選択した課税方式は、次年度の予測に基づくものであり、結果として不利となる可
能性があることを了承いたします。
記
選択した課税方式
簡易課税
37
4.業務水準の確保
(1)業務水準確保の必要性
最近は税理士に対し、多くの分野からその業務水準全般を高めることが要求されてい
る。
既に見てきたように、多発する損害賠償請求事件に対処するために最も有効な方法は、
税理士自身が日々の業務水準を訴訟回避のために必要とされるレベルに維持し、極力、
不注意によるミス等を防止することである。
また、税理士法第33条の2(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)と法第
35条に規定する書面添付制度(及び意見聴取制度)は、書面作成のもととなる「書面添
付用・申告内容チェックリスト」において、その業務水準確保の状況確認が求められて
いる。
さらに、中小企業の計算書類については、
「中小企業の会計に関する指針」の適用状
況を確認するための書類として、
「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェッ
クリスト」が日税連において作成され、各金融機関においてもこのチェックリストが中
小企業に対する融資の条件として使われようとしている。
このようななか、税理士業務全般に関してその業務水準を確保するための基準(指針)
の策定が望まれるところであるが、膨大な作業となることも予測され実現に至っていな
い。
しかし、個々の税目及び業務においては、実務的レベルにおいて様々な業務管理、確
認の方法が工夫されている。ここでは日税連が平成17年3月に作成した「消費税申告
等管理マニュアル」から「消費税届出関係管理台帳」及び「消費税申告事務処理フロー
チャート」を、また、近畿税理士会が平成18年3月に作成した「書面添付制度実務マ
ニュアル」から「業務チェックリスト〔消費税用〕
」を例として掲載する。個々の税理
士事務所において、このような業務管理手法が工夫されることを望むものである。
さらに、税理士事務所において日常業務において実践すべきことがら、特に顧客から
のクレームへの対応方法及び従業員の管理・監督につき記載した。
日々の業務を改善することなしに、業務水準の向上はあり得ないことを自戒すべきで
ある。
(2)書式・資料
①消費税届出関係管理台帳【資料1参照】
手順1
(ァ) 関与先ごとに「消費税届出関係管理台帳」
(シート1)を作成して、消費税各種
届出等を提出の都度記入し、関与先の消費税届出履歴状況を的確に把握しておくよ
うに心掛ける。
(ィ) 新規の関与先の場合には、過去の消費税届出履歴を関与先に確認する。なお、過
去の消費税届出履歴について確証を得られないときには、関与先を経由して必ず税
務署に届出状況を確認する。
(
「申告書等閲覧申請」の手続を利用する。
)
(ゥ) この場合、
現況本則課税であっても過去に簡易課税選択届出書が提出されたまま
になっているケース等があるので十分に確認することが重要である。
38
手順2
(ァ) 消費税の各種届出書の提出期限は大半のものが事業年度開始前となっているの
で、事業年度最終月(決算月)には次年度の検討を行う必要がある。
(ィ) そこで関与先の決算月の前月末までに「月別消費税検討一覧表」
(シート2)に
該当する関与先を記入し、検討漏れのないようにする。
(ゥ) 検討を行う必要のある関与先については、
遅くとも当該関与先の事業年度末の1
週間前までに検討結果を明らかにする。
手順3
(ァ) 検討に当たっては、まず検討対象年度の基準期間の課税売上高等を確認し、
「消
費税届出関係管理台帳」
(シート1)により現在の届出状況等を考慮のうえ検討の
有無を判断する。
(ィ) 検討の必要がある場合には、
「関与先別消費税検討資料」
(シート3)を使用して
基準期間だけでなく、その前後の年度分も確認することにより選択の確度を高める
ことができる。
(ゥ) 過年度の消費税課税内容確認を遡って行う作業は、実務的には煩雑となるので、
毎期決算処理作業と併せて行っておくと効率的である。
手順4
過去の損害賠償事例にもあるように、関与先との意志疎通の欠如による事業計画・
経営内容の誤認により損害賠償請求を受けるケースが増えている。
(ァ) 実績に基づく過年度の判定及び最終進行年度の判定(見込)を踏まえて、関与先
と面談のうえ判定年度以降の事業計画等を「面談記録簿及び予測」
(シート4)に
記入し、消費税の見込み計算を行う。
(ィ) 面談内容の確認のため面談者より署名等を受けるように心掛ける。
手順5
(ァ) 面談に基づく予測を「関与先別消費税検討資料」
(シート3)に記入し、4期分
を比較検討のうえ最終判定を決算日の1週間前までに行う。
(ィ) 判定結果を関与先に報告し、
「消費税課税方式の選択の承諾書」
(第3章3(6)参
照)を受領することが必要であろう。
手順6
(ァ) 最終判定に基づき、必要な届出書の提出を行う。
(ィ) 消費税の各種届出は発送日ではなく到着日基準だが、
郵便又は信書便により提出
された届出書については、通信日付印により表示された日に提出があったものとし
て取り扱われている。しかしながら、十分余裕をもって提出することに留意する。
手順7
(ァ) 提出した各種届出書等の収受印を確認後、管理番号を付すなどして「消費税届出
管理台帳」
(シート1)に必要事項を記入のうえ、各種届出書等は別途綴り管理す
る。
手順8
(ァ) 消費税申告書控を関与先に返還する際、関与先の「消費税届出関係管理台帳」
(シ
ート1)の写しを消費税申告書と併せて関与先に渡すことも必要であろう。
39
手順9
(ァ) 消費税納付書の手渡し等を円滑に行うため、納付月の前月末までに「消費税納付
書等管理台帳」
(シート5)を作成する。
(ィ) 必ず、税務署から送付の申告書及び納付書を確認し、管理台帳に記入する。
(ゥ) なお、確定申告時に中間納付予定額等を事前に記入しておくことを心掛ける。
②消費税諸判定フローチャート【資料2参照】
③業務チェックリスト〔消費税用〕
【資料3参照】
(3)税理士事務所の管理等
イ.日常業務で実践すべきこと
賠償事例のほとんどは単純なミスに起因している。このことは逆に言えば、日頃の業
務を確実に遂行していれば防げる事案が多いことを示している。業務多忙、暗黙の了解、
全面受任の慣習を継続することは危険である。賠償請求から自らを守るためには、今一
度、次のような日常業務のチェックが求められる。
① 顧客との信頼関係を高めるように努力する。
クレームの大半が、税理士事務所に対する不満の表れの場合が多い。
② メモをとる。
相手の質問、それに対するこちらの回答及びその結果、決定したことをメモし整理
して保存する。特に訴訟事件においては、立証することが可能かどうかで勝敗を左右
される。事実関係のメモの有無が決め手となる場合が多い。
③ 職員及び職員の執務のチェックをする。
使用者責任の点から常に職員の顧客への訪問、電話等の内容について報告を受け、
的確な指示をしなければならない。
④ 契約関係を明確にする。
顧客との顧問契約だけでなく、世間話のなかに盛られた依頼が契約となりうるので、
その契約範囲を明確にする。
契約の履行に当たっては、幾通りかの方法がある場合にはメリット、デメリットに
ついて相手方によく説明し、採用する方法につきその同意、承諾、責任負担について
確認をとっておくことが大切である。
⑤ チェックリスト、チェックシートの作成活用を図る。
どのように注意をはらってもミスは起こり得る。起きてはいけないことが起きるの
が事故であると認識し、マニュアル化したチェックリスト等の利用によりミス発生の
可能性を少なくするように心掛ける。
⑥ スケジュール管理を徹底する。
関与先ごとの税務スケジュール管理を徹底し、届出・申請等の提出失念を防ぐ。
⑦ 事務所で保存すべき資料は重要である。
事務所で保存すべき資料は、クレーム処理上有用な証拠能力を有するものであり、
税理士の民事責任の時効の点からは、10年間は整理して保存する必要がある。
⑧ シミュレーションによる比較検討を行う。
税法の適用に当たって複数の選択肢がある事例については、シミュレーションを行
40
い、依頼者に説明し、文書にて承諾を得る。
⑨ 税理士職業賠償責任保険に加入する。
税理士職業賠償責任保険は、過大納税等で更正の請求ができなくなった等により、
納税者にその損害を生じせしめた場合等、限定的な制度であるとの認識のためか加入
者が少ないと言われているが、経済的リスクとして最も大きい分野をカバーしている
ことからすれば、全員が加入すべきである。
なお、いわゆる「MAS業務」は、保険の対象外であり担保されないので注意が必
要である。
⑩ 複雑な事案に当たっては、経験豊富な他の税理士の活用を考える。
特に資産税関係で複雑な事案では、パートナーとして経験豊富な他の税理士に参加
してもらう。あるいは、事務処理方法の確認を依頼して、責任の分担を考えるべきで
ある。
したがって報酬は当然に必要で、好意による相談では責任分担はなしえないと心得
るべきである。
⑪ 職務外の仕事はその専門家にまかせる。
資格なしに他の専門家の職域に踏み込むことは避けることはもちろんであるが、案
件の中に含まれるその道の専門家としての意見の確認を行い、一緒に参加してもらう
ことにより、責任の分担を考えるべきである。
⑫ 断る勇気を持つ。
相手が何を期待しているのか、自分はそれに対して何ができるのか、また、自分の
能力では無理ではないのか検討する。申告期限を間近に控えた案件、十分な資料のな
い案件、税理士の判断と異なる要請案件など場合によっては引き受けないという判断
を行うことが大切である。
⑬ 業務品質向上のために税理士法第33条の2の書面添付制度を活用する。
⑭ 税務署の閲覧申請書を活用して手続の不備がないように注意する。
⑮ 近年は経理責任者や担当者による不正を、税理士が発見できなかったなどとして、
付随業務である会計業務(記帳業務)に起因する損害賠償請求事件も多発しているこ
とから、顧客に通常月の帳簿の異常な遅れがあったり、決算に当たって要求した残高
証明書等確認資料の提出が無いなどの事実があったら、必ず経営者に報告をする。
ロ.クレームへの対応
(1)クレームへの基本的対応
① すぐ所長に報告させ、すばやく善後策を検討する(クレームそのものがその後に
大きな汚点を残すケースより、むしろクレームへの対応のまずさが悪影響を与え
る)
。
② 最初に連絡を受けた者の対応によって対処の大半が決まることを認識する。
③ 所長等の責任ある者が、直接出向いてクレームの処理にあたる。
クレーム処理は最も大切な仕事であると認識し、何をおいても最優先に考える。
時間がたてばたつほど、物事を複雑にする虞がある。
④ 原因、状況の如何を問わず、すべて誠意をもって接する。
41
⑤ クレームの状況のほか、相手の要求を十分聞いておく。
⑥ クレームが相手の誤解に基づく場合も、高飛車にでない。
依頼者の理解不足による誤解であっても、高飛車にでるのではなく、十分に説明
し誤解を解く。
⑦ 相手の感情的な言葉に惑わされない。
⑧ 正当性を主張し過ぎない。また、理屈で相手をやりこめない。
⑨ 電話だけで解決しようとしない。
(2)クレームの実務的処理方法
① 相手と面談するときは二人で臨み、一人は交渉過程の記録をつける。
記録は相手方の主張と当方の主張をはっきりさせるとともに、訴訟に移行した場
合の資科や今後のクレーム処理のマニュアル化にも必要である。
② 事実関係が明確になるまでは、相手の要求は簡単に受け入れない。
相手の剣幕に驚いて、すぐ了解してしまうことは、後で決してプラスにならない
ばかりか、ミスを認めたこととされ賠償の対象とされてしまう虞がある。
③ もし当方のミスを認めた場合でも、軽々に謝罪文を書かない。
特にメモや文書を相手に渡すことは、後の訴訟の物証とされ、不利になる虞があ
る。
④ 税理士会のバックアップ体制を利用する。
日税連が設置している「損害賠償相談室」や税理士会設置の「会員法律相談室」
などを効果的に利用する。
⑤ クレームが妥当なもので、その原因が当方にある場合は謝罪し、誠意をもって解
決に努める。
ただし、賠償に及んだ場合には、過失相殺も忘れずに、特に高額の賠償金額は保
険等も含めて、支払能力の範囲内で交渉すべきである。支払い不可能な金額では、
かえって相手に不信感を与える。
⑥ 税埋士職業賠償責任保険を申請する。
賠償の必要が生じた場合、賠償の対象となる損害について税理士職業賠償責任保
険が利用できる場合は、保険交付申請をする。そのための保険制度であり世間体は
気にしない。ただし、保険があるからといって安易に相手の主張をそのまま認めな
い。
⑦ 紛議調停制度の活用
改正税理士法により、新たに紛議調停制度が設けられることとなった。この制度
は税理士と納税者、あるいは税理士相互間における紛争について、申立人から調停
申立があった場合に、税理士会が第一義的な調停に当たることで、紛争の早期解決
を目指すものである(次表「紛議調停手続の流れ」参照)
。
調停の対象は「通常の税理士業務より生じた紛議」とされるが、この調停により
成立した和解は民法上の和解としての効力を有し、当事者間の法律関係は確定する。
42
「紛議調停手続の流れ」
⑧ 相手との交渉がこじれて、訴訟となった場合は税理士業務に詳しい弁護士に依頼
する。この段階では当方の主張をしっかりする必要がある。
裁判官は、納税者の立場に理解を示す傾向が見られるが、税理士の責任は決して
無過失責任ではない。最近の判例は、高度な専門家としての注意義務を要求してい
るが、納税者に十分説明し、納得した上で適切な事務処理を行った旨を記載したメ
モや確認書などを提示し、善管注意義務を履行した事実を立証する必要がある。
法解釈や通達をめぐっての争いについては、税理士としてのプライドをもって主
張するべきであろう。
ハ.従業員の管理・監督
税理士法第41条の2は、使用人等に対する監督義務として以下の規定を定めている。
「税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業
務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなけれ
ばならない。
」
43
税理士事務所によっては多くの従業員を抱え、税理士一人では目の届かない場合があ
る。また、本来税理士が果たすべき従業員に対する管理・監督を懈怠している例も見受
けられる。従業員がまとめた決算書・申告書の内容を十分にチェックせず押印すること
は、税法の適用誤りなど、納税者に不測の損害を与えかねない。また、納税者との折衝
を従業員に任せっきりにしていては、その相談に不適切な回答をしているかもしれない
し、あるいは納税者からの不当な要求を受け入れているかもしれない。さらに、税務調
査において税理士自身が立ち会わないことは、税理士に対する不信感を納税者に与えか
ねない。
いずれにしても税理士は、従業員に任せっきりにしてはならない。使用人が税理士法
に違反する業務を行った場合には、税理士法に規定する使用人等に対する監督義務の規
定により、その処分は直接税理士に及ぶことになるし、また従業員が納税者に与えた損
害は、その雇用主である税理士に直接請求されることになる。
税理士が使用する従業員をしっかり管理・監督することが、税理士業務の質を確保し、
適正な業務遂行を行う上で必要不可欠なことを充分に理解する必要がある。
第4章 税理士職業賠償責任保険
1.はじめに
税理士は、税務に関する専門家として高度注意義務、忠実義務、指導・助言・説明・情報
提供義務等について配慮し業務の展開を行うべきことはいうまでもない。しかし、税理士も
人間であり誤りを犯さないとは決して言い切れるものではない。
誤りを犯し、委任者に損害を与えたときは賠償しなければならない。それは自明の理であ
り、また、その賠償が可能であることが専門家としての要件の一つである。ドイツ税理士法
では、保険に加入しなければ開業することができないものとされているが、任意加入である
わが国の税理士職業賠償責任保険の加入率は約50%である。今後、賠償請求事例の増加が
予想され、責任をもって業務を遂行するためにも、賠償責任保険制度の活用と内容の整備が
必要となる。
以下、わが国の税理士職業賠償責任保険の内容について説明する。
2.成立までの経緯
昭和63年4月1日に損害保険会社7社から発売され、医師、建築士、公認会計士、薬剤
師、獣医師、弁理士、弁護士、技術士に次いで9番目の専門家保険として誕生した。
3.目的
税理士が日本国内で行った税理士業務により、業務を委嘱した顧客等に財産上の損害を与
えた結果、税理士が法律上の損害賠償責任を負うこととなった場合に被る損害を支払うもの
である。すなわち、納税者に為すべきサ−ビスを提供する税理士が民事責任を負担する場合
の救済が目的とされる。保険契約期間中に請求があったことにより保険サ−ビスを受けるこ
とが可能であり、保険開始以前の業務を原因とする例でも適用される。ただし、損害賠償を
請求されることを知ったうえで保険に加入したときは適用されない。
44
4.保険の対象となる損害
国内において、税理士の職業上、相当の注意をしなかったことに基づいて提起された損害
賠償請求について、法律上、賠償責任を負担することによる損害が対象である。これには補
助税理士、使用人による過失も含まれる。
対象となるのは、税理士法に規定する次の業務上の責任に限られ、付随的業務や社会保険
労務士業務及び法令に特段の規定のない経営指導(助成)業務等は、対象外とされている。
① 税務代理(税理士法2条1項1号業務)
② 税務書類の作成(税理士法2条1項2号業務)
③ 税務相談(税理士法2条1項3号業務)
④ 上記の業務に付随して行う財務書類の作成又は会計帳簿の記帳の代行(税理士法2条
2項業務のうち主たるもの)
⑤ 裁判所での補佐人としての陳述(税理士法2条の2に規定する業務)
なお、この保険では、税理士自ら行った業務だけではなく、使用人が税理士の業務の履行
補助者として業務を遂行するうえで過失があったことにより、税理士がその使用者として法
律上の損害賠償責任を追及された場合も支払の対象となる。
「使用人」の範囲は、保険加入
申込日時点における補助税理士、使用人(事務職員、コンピュータ・オペレーター、家族従
業者、税理士事務所のすべての構成員)をいう。
5.保険の対象にならないもの
次に挙げるものは保険の対象にならない。
1 加算税(加算金)
・延滞税(延滞金)
・利子税
2 納税者が本来納めるべき本税
3 重加算税・重加算金を課された事案によるもの
4 税理士の不誠実行為又は税理士法や各種税法上禁止されている行為により発生した
もの
5 他人の財物の滅失・棄損・汚損・紛失もしくは盗難に起因するもの
6 電子的データ・プログラムソフトなどを記録した磁気ディスク、貨幣、紙幣、宝石、
貴金属、美術品、貴重品等(受託物担保特約に加入していれば可)
7 その他約款に定められているもの
6.税理士法人の加入
税理士職業賠償責任保険は、平成14年度の募集から新たに税理士法人事務所も加入で
きることとなった。ただし、個人税理士から税理士法人へ、あるいは税理士法人から個人
税理士へ移行した場合は、それぞれ移行後、前業務について5年間の補償がある。
45
参 考 書 式
【資料 1】 消費税届出関係管理台帳(記入例1∼3)
【資料 2】 消費税諸判定フロ−チャ−ト
F−1 本則・簡易課税の判定フロ−チャ−ト
F−2 簡易課税適用フロ−チャ−ト
F−3 消費税申告等事務処理フロ−チャ−ト(新設法人用)
F−4 消費税申告等事務処理フロ−チャ−ト(既存法人用)
F−5 免税事業者変更時調整フロ−チャ−ト
F−6 課税事業者変更時調整フロ−チャ−ト
F−7 相続時課税事業者判定フロ−チャ−ト
〔出典〕
「消費税申告等管理マニュアル」(平成 17 年 3 月/日本税理士会連合会編集・
発行)
【資料 3】 業務チェックリスト〔消費税用〕
〔出典〕
「書面添付制度実務マニュアル」<改訂版>(平成 18 年 3 月 10 日/近畿税理士
会業務対策部編集、近畿税理士会発行)
業務対策部構成
担当副会長
金
子
秀
夫 (東
京)
担当専務理事
山
崎
由
雄 (千 葉 県)
部
長
神
津
信
一 (東
京)
副
部
長
辻
村
祥
造 (東京地方)
副
部
長
西
村
公
克 (近
畿)
委
員
伊
藤
佳
江 (東
京)
委
員
秋
葉
武 (千 葉 県)
委
員
鈴
木
孝 (関東信越)
委
員
佐
藤
伸
泰 (北 海 道)
委
員
北
山
輝
夫 (東
委
員
野
部
文
之 (名 古 屋)
委
員
齋
藤
幸
雄 (東
海)
委
員
宇野津
友
久 (北
陸)
委
員
石
高
雅
美 (中
国)
委
員
村
田
一 (四
国)
委
員
前
田
俊
雄 (九州北部)
委
員
押
井
啓
一 (南 九 州)
委
員
西
村
眞
一 (沖
北)
縄)
税理士業務に関する損害賠償責任(税理士の専門家責任)とその対応
〔増補改訂版〕
平成 8年12月20日 初版発行
平成14年10月18日 改訂版発行
平成18年 9月 1日 増補改訂版発行
編集・発行
日本税理士会連合会 業務対策部
〒141−0032 東京都品川区大崎1−11−8
日本税理士会館8階
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