社会保険料の 削減対策 - 税理士法人 森田会計事務所

第 72 号
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の
削減対策
1 健康保険料・厚生年金保険料の削減策
2 労働者災害補償保険料の削減策
3 雇用保険料削減策とその他の削減ケース
4 法人設立による社会保険料削減対策
森田務公認会計士事務所
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
健康保険料・厚生年金保険料の削減策
厳しい状況が続く日本経済ですが、企業は少しでも売上を出すために日々努力を続けて
います。その中でも重要となるのが「いかに経営コストを削減するか」ということです。
税金については、税務対策を考え実行している企業も多いのですが、社会保険関係に対
しては何の対策もしていない企業がほとんどです。社会保険料といっても、実態は税金と
ほとんど変わりがありません。
税金と福利厚生費を実際にどの程度支払っているかを算出し、必要経費を少しでも削減
し、無駄な経費を省き、税金対策そして社会保険料対策をすることこそがリストラ(リス
トラクチャリング(Restructuring):企業が事業を再構築すること)の第一歩であると同
時に、健全な企業経営を目指すことが可能になります。
社会保険料の削減について、法律に適合させた上で少しでも有利になるような対策をご
紹介しています。社会保険料対策を中心に述べているため、税法や他の法律にも留意して
実行する必要があります。
社会保険料を安く抑えることは、会社にとって非常にメリットがあるばかりでなく、従
業員にとっても個人負担分が少なくなり、手取り給与が増えることになります。
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企業経営情報レポート
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
1│従業員にかかる保険料の削減策
(1)入社日は月初、退職日は月末の前日にする
健康保険・厚生年金保険の適用事業所に入社して被保険者になると、そこから保険料徴
収が始まります。徴収が終了するのは「被保険者資格を喪失した日の属している月の前月
まで」と規定されています。この場合、被保険者資格を喪失した日は、退職日及び死亡日
の「翌日」となります。
■例1
平成 22 年 3 月 26 日入社
⇒
平成 22 年 6 月 30 日退社(Aさん)
3月
4月
5月
6月
健康保険・厚生年金
徴収
徴収
徴収
徴収
保険料徴収月数
あり
あり
あり
あり
徴収月数
在籍期間
4 ヶ月
約 3 ヶ月
■例2
平成 22 年 4 月 1 日入社
⇒
平成 22 年 6 月 29 日退社(Aさん)
3月
4月
5月
6月
健康保険・厚生年金
徴収
徴収
徴収
徴収
保険料徴収月数
なし
あり
あり
なし
徴収月数
在籍期間
2 ヶ月
約 3 ヶ月
■結果
Aさんの標準報酬月額を 20 万円とすると(40 歳未満)
会社負担分(月)=健康保険(9,240 円)+厚生年金保険(16,058 円)
=計 25,298 円
2 ヶ月分とすると 50,596
円の削減
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
つまり会社として採用する場合には、月初に入社してもらい、退職するならば月末の前
日が有利であるということになります。上記は1名換算ですが、新入社員が多数の場合は
かなりの節約となります。
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企業経営情報レポート
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社会保険料の削減対策
(2)被保険者に該当しない人を活用する
健康保険及び厚生年金保険の適用事業所に勤務している人でも、一定の条件に該当すれ
ば、健康保険及び厚生年金保険の被保険者の適用から外れることになるため、保険料が発
生しないことになっています。
健康保険及び厚生年金保険の被保険者の適用条件について以下にあげています。
■被保険者の適用条件について
被保険者適用除外
A日々雇い入れられる人
B2 ヶ月以内の期間を定めて使用される
人
C季節的業務(4 ヶ月以内)に使用され
る人
D臨時的事業の事業所(6 ヶ月以内)に
使用される人
E労働時間が正社員の 4 分の 3 未満の人
被保険者に該当する場合
⇔
⇔
⇔
⇔
⇔
日々雇い入れられる人が、引き続き 1 ヶ
月を以上使用されることになったとき
2 ヶ月以内の期間を超えて引き続き使用
されることになったとき
継続して 4 ヶ月を超えて使用される見込
の人は当初から加入する
継続して 6 ヶ月を超えて使用される見込
の人は当初から加入する
常時雇用関係があり、労働時間が正社員
の 4 分の 3 以上の人は加入する
●Aの場合
日々雇い入れられる人で1ヶ月間を超えない人は、健康保険及び厚生年金保険の被保険
者にはなりません。ただし、1ヶ月を超えて引き続き使用される時は、その時点から被保
険者になります。
つまり、30 日未満で雇い入れることを前提とした方がよいということになります。なお、
1ヶ月間の中には事業所の公休日も含みます。
●Bの場合
所定の期間を超えて引き続き使用された時は、その時点から被保険者になります。
例として、40 日間の所定日数を決めて雇用し、雇用期間満了の 40 日目がきても、翌日
以後も引き続き 40 日間の所定期間を決めて雇用したとします。その場合は継続して雇用し
たということになり、41 日目から被保険者になります。
このため、雇用期間が満了したあと期間をあけて再度2ヶ月以内の期間を定めて雇用す
れば、被保険者にはならないということになります。
3
企業経営情報レポート
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社会保険料の削減対策
●Cの場合
継続して4ヶ月を超えて使用されるべき場合は、遡って当初から被保険者となりますが、
業務の都合上によりたまたま4ヶ月を超えても被保険者にはなりません。
●Dの場合
Cの場合と同じ考え方です。
●Eの場合
1日及び1週間の所定労働時間が、一般社員の4分の3未満の場合は被保険者に該当し
ません。また、1ヶ月の勤務日数が、その事業所で同じような業務をしている社員の所定
労働日数を確認して、4分の3未満での勤務ならば被保険者にはなりません。
近い将来「4分の3」が「2分の1」となる可能性があります。
(3)常勤の役員を非常勤にする
常勤役員を非常勤に変更することによって、社会保険料の削減が図れます。
夫が社長・妻が取締役というケースを例題としてみましょう(介護保険料は算入してい
ません)。
夫:代表取締役
報酬月額→100 万円
妻:取締役
報酬月額→50 万円のケース
夫
妻
標準報酬月額(健康保険)
98 万 標準報酬月額(健康保険)
50 万
標準報酬月額(厚生年金)
62 万 標準報酬月額(厚生年金)
50 万
毎月の健康保険料
46,158 円 毎月の健康保険料
23,550 円
毎月の厚生年金保険料
49,780 円 毎月の厚生年金保険料
40,145 円
95,938 円
63,695 円
合
計
合
夫と妻の保険料合計:159,633 円
計
年間保険料:1,915,596 円
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
■対策
妻を常勤の取締役から非常勤の取締役に変更し、年間総所得を配偶者控除の限度額であ
る 103 万円以下に納めます。(本ケースでは 8 万 5,000 円にします)
そして、妻の報酬月額であった 50 万円から 8 万 5,000 円を引いた 41 万 5,000 円を夫の
報酬月額に上乗せし、妻を夫の扶養にいれます。夫の保険料は上限の 121 万円となります
が、妻は被保険者でなくなったため、保険料は 0 円となります。
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夫
妻
社会保険料の削減対策
健康保険料
59,991 円
保険料計:
109,771 円
厚生年金保険料
49,780 円
年間保険料:
健康保険料
0円
現状との差額(月額):
厚生年金保険料
0円
現状との差額(年間): 598,344 円
1,317,252 円
49,862 円
保険料は月間で 49,862 円、年間で 598,344 円の削減となります。
妻の健康保険は、夫の被扶養者として被保険者のときと同様のサービスが受けられます。
また、保険料納付義務はなくても国民年金の第3号被保険者に該当し、扶養に入っている
期間が将来の老齢基礎年金の計算に含まれます。
妻の標準報酬が年間合計で 103 万を超えた場合は配偶者控除額 38 万円が受けられなくな
り、130 万円を超えた場合は扶養に入れなくなるため、103 万円以下に抑えることができれ
ば一番有利になります。
(4)短時間雇用者を活用する
健康保険及び厚生年金保険の適用事業所に勤務する労働者は、本人の意思とは関係なく、
健康保険及び厚生年金保険の被保険者となり、保険料が徴収されます。
ただし、被保険者の適用除外に該当する人を多く使用することによって、それだけ保険
料の削減につながります。
■適用除外要件
労働時間等が一般の正社員の労働時間の 4 分の 3 未満の短時間労働者
(1 日 6 時間未満 もしくは 月 15 日未満)
例えば、40 歳未満の人を標準報酬月額 15 万円(賞与なし)で 10 人雇用したとします。
勤務形態は1日8時間で月 20 日とすると、厚生年金被保険者に該当するため、以下の保険
料が発生します。
■保険料
標準報酬月額 15 万円の場合
健康保険料→7,065 円
厚生年金保険→12,044 円
●被保険者 10 名
健康保険料=7,065 円×10 名=70,650 円(月額)
厚生年金保険=12,044 円×10=120,440 円(月額)
合計:191,090 円
年間保険料計:2,293,080 円
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
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企業経営情報レポート
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
この 10 名の勤務時間を短くして、1日6時間未満もしくは月 15 日未満にすると前述の
保険料の削減になります。
(5)高年齢者を活用する
平成 18 年4月に「高年齢者雇用安定法」が改正され、60 歳以降も労働者を雇用すべき
義務が企業に課せられました。
ひとくちに 60 歳代といっても人によってはまだまだ活力もありますし、子どもが成人し
ていて家族を養う必要が少ないため、給与を低く抑えることができます。また、長年培っ
た能力があるため費用をかけて育てる必要もありません。
さらに 70 歳以上の人を雇用した場合には、健康保険の被保険者には該当しますが、厚生
年金の被保険者にはならないため、社会保険料は半額程度となります。
50 歳代の求人
60 歳代の求人
正社員
嘱託
ある
ほぼない
月給
45 万円
15 万円
賞与
70 万円(年 1 回)
なし
806,647 円
242,808 円
雇用状況
家族にかかる費用
会社負担の年間保険料
60 代以降の嘱託を雇用すると年間で 563,839 円の節税
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
2│賞与・給与に関する削減策
(1)賞与を廃止する
平成 15 年4月から賞与に対しても保険料が徴収されるようになりました。これより社会
保険料負担が増加しています。
■具体例
50 歳の会社員Aさん
⇒
月給 68 万円・賞与 180 万円(年 2 回に分ける)
標準報酬月額:健康保険→68 万円
厚生年金保険→62 万円(上限)
【毎月】健康(介護)保険料:37,128 円
厚生年金保険料:49,780 円
【賞与】健康(介護)保険料:98,280 円
厚生年金保険料:144,522 円
年間社会保険料総額:1,285,698 円
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
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社会保険料の削減対策
Aさんの賞与を 12 分割して月の給与に上乗せした場合
賞与(180 万円)×1/12=15 万円
健康保険:45,318 円/月
毎月の給与に上乗せすると 83 万円となる。
厚生年金保険:49,780 円/月
年間総保険料:1,141,176 円
年間 144,522 円の削減
なお、標準報酬月額が上がったことにより、健康保険から支給される傷病手当金や出産
手当金などの額も上がることになるため、削減もできると同時に被保険者にとっても有利
になります。
(2)賞与の一部を退職金へ回す
賞与をそのまま賞与として支給すると、それが標準賞与額として年金事務所への届出の
義務が生じます。そこで、これを退職金の掛け金に上乗せする方法をとることもできます。
退職金は社会保険の適用外です。
つまり、賞与を現時点で支給するのではなく、将来に支払うという考え方です。
退職金は勤続期間に比例してその金額も高くなります。多くの事業主は、その多額の退
職金をつくるために中小企業退職金共済制度(中退共)
・特定退職金共済制度(特退共)に
加入しています。
中退共とは、中小企業のために事業主が拠出した掛け金と国の助成金による共済制度と
して、一流企業並の退職金制度が確立できるようにしたものです。
特退共とは、税法上の優遇措置が講ぜられた、商工会議所が行う退職金共済制度です。
これらの退職金の掛け金を賞与の一部から取り外し、さらに上乗せします。
■具体例
某企業のB課長
夏季賞与 100 万円、冬期賞与 150 万円を受けている場合
賞与総額:年間 250 万円
社会保険料総額:674,450 円(折半額:337,225 円)
中退共・特退共の掛け金を月額 26,000 円ずつ振り替えると、
年間の掛け金は 62 万 4,000 円
↓
実際に支給される賞与額=(2,500,000−624,000)×0.26978(社会保険料の総かけ率)
=506,107 円(折半額:253,054 円)
年間総額:168,343 円(折半額:84,171 円)の削減
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
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企業経営情報レポート
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社会保険料の削減対策
(3)保険料の算定に含まれないものを活用する
労働の対償として支給されるものは、名称のいかんを問わず「報酬」として保険料の算
定に入ってしまうため、「労働の対償」とならないものを活用する方法があります。
例えば、営業社員に対して出張に必要な費用を「出張手当」とし、仕事上の交際費を「営
業手当」として給与に含めて支給すると報酬として保険料算定に含まれます。
したがって、支給体系を次のように変更しましょう。
■対策
●出張手当
⇒
出張旅費(実費弁償とする)
●営業手当
⇒
仕事上の交際費(実費弁償とする)
●婚姻手当
⇒
恩恵的な慶弔見舞金として支給する
なお、通貨以外の現物でも報酬となるので注意してください。
■例
自社製品、食費・食券(労働の対象として支給を受けるものに限る)。
(4)休職期間を適正に定める
長期欠勤者であっても、事業主と雇用関係があり従業員としてその条件が合えば、健康
保険及び厚生年金保険の被保険者になり保険料を納付することが必要となります。
一般的には、公傷以外の疾病に関しては就業規則などで休職期間を決めますが、もしそ
のような取り決めがないとその分費用もかかり、長期になれば更に費用がかさむことにな
ります。
私的な事由による疾病で会社を休んだ場合には、給与の代わりに健康保険制度から傷病
手当金が支給されるため、これを利用することも一つの対策です。
傷病手当金は、労務不能1日について標準報酬日額の3分の2が支給されます。そして、
報酬を受け取る事が可能なときは支給されませんが、報酬が少ない時は差額が支給されま
す。
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社会保険料の削減対策
■例
月給 20 万のサラリーマンCさんが私的疾病で1年間休業した場合(介護未加入)
●休職期間の取り決めがない場合
社会保険料総額:305,736 円
会社がCさん分を立て替えたとすると 611,472 円
●休職期間の取り決めがある場合
就業規則で休職期間を6ヶ月とする
→
それを超えると復職か退職
(退職になることが多い)
退職した場合社会保険料総額は6ヶ月分のみとなる。
本人負担分:152,868 円
会社負担となったとしても 305,736 円で済む。
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
この点から、就業規則には休職期間を明記することをお勧めします。明記しないといつ
までも休みが続き、保険料だけがかかっていくことになります。
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社会保険料の削減対策
労働者災害補償保険料の削減策
1│事業種類の見直し
(1)メリット制を活用する
労働者災害補償保険料率は、事業の種類ごと、そしてその災害率に応じて決められてい
ます。ただし、同じ事業でもその設備や作業環境、災害防止への努力などによって災害の
発生率に差が生じます。
メリット制とは、労働災害を防止する為に努力した事業主への特典として、労災の保険
料率を下げて保険料を安くしようとするものです。
納付された保険料額等と支給した保険給付等の額の比率に応じて継続事業(一括有期事
業を含みます)の場合には保険料率、有期事業の場合は、確定保険料の額を上げ下げしま
す。
ただし、このメリット制は全ての事業に該当するものではありません。継続事業のメリ
ット制を例にその条件をみましょう。
●要件その1
連続する3保険年度中の各保険年度において以下のうちいずれかに該当するもの
①100 人以上の労働者を使用する事業
②20 人以上 100 人未満の労働者を使用する事業であって、災害度係数が 0.4 以上であ
るもの
③一括有期事業については、各保険年度の確定保険料が 100 万円以上
●要件その2
上記①∼③のどれかにあてはまり、かつ連続する3保険年度中の最後の保険年度に属す
る3月 31 日において、保険関係成立後3年以上経過していること
■例
コンクリート製造業で労働者を 100 人使用した場合において、100 人の賃金が5億円
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社会保険料の削減対策
とすると保険料が 1000 分の 14 で、保険料総額は 700 万円になります。
災害防止などでメリット制を使うことができ、保険料率が 1000 分の 13 になったとす
ると、同じ賃金でも保険料は 650 万円となり、50 万円の削減になります。
(2)危険度の少ない業種をメインとする
労災の保険料は、年間の賃金に労災保険料率を乗じて算定されます。この保険料率は、
事業の種類を林業、鉱業、建設事業、製造業、運輸業、電気、ガス、水道又は熱供給の事
業とその他の事業に大きく区分し、さらにその中で事業の種類ごとに細分していきます。
そして、事業の種類で保険事故が発生しやすい事業の方が保険料は高く、保険事故が発
生しづらいものの方が保険料は安くなっています。
すなわち、現業種から保険事故の発生する可能性の低い事業に転換することで、保険料
が削減できるケースがあります。
■例
A社(製造業)年間の従業員の賃金総額:1 億 2,000 万円
事業の種類:金属製品製造業または金属加工業→保険料率:1,000 分の 11
労災保険料:120,000,000 円×11/1000=1,320,000 円
節税法1)事業割合の比率を逆転させる
仮に、このA社ではめっき業も行っていたとします。ただし、その事業割合が、金属
製品製造業または金属加工業が 60%で、めっき業が 40%である場合、保険料は 1,000
分の 11 で変わりありません。
この場合、事業割合の比率を逆転させることを検討します。つまり、金属製品製造業
または金属加工業の事業を全体の 40%にし、めっき業を 60%にします。
これが労働基準局により認められた場合、保険料率は 1,000 分の 6 となり、保険料は
72 万円まで削減でき、60 万円の削減ができます。
節税法2)業態を似たほかの業種に変更する
例えば「金属材料品製造業」などに変更すると、保険料は 1,000 分の 7.5 になります。
保険料は 90 万円となり、年間で 42 万円の削減ができます。
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社会保険料の削減対策
(3)保険関係を分割する
労災では、継続事業の一括申請によって、その保険料並びに納付等を全て本社と同じに
なるように適用している会社は少なくありません。
しかし、一つの会社にも色々な部署があります。具体的に製造業で言うと、商品を作り
出すための工場作業員、その商品を売るための営業部門、契約がまとまった販売先に届け
るための運送部門、売上を計算する経理部門などです。
例えば、ある会社の事業の分類が製造業で、事業の種類が船舶製造または修理業とする
と、継続事業の一括申請を行っている場合の保険料率は 1,000 分の 23 になります。
つまり、この船舶製造又は修理業の会社の事業主と雇用関係のある労働者はすべて 1,000
分の 23 の高い保険料率が適用されてしまいます。継続事業の一括取消を行い、部門を分け
て別々に保険加入することで、削減効果を計ることができます。
■例
船舶製造または修理業のある会社(保険料率:1,000 分の 23)
修理工場の作業員 50 名(月給 40 万円
賞与年間 80 万円)年間総額:2 億 8,000 万円
営業部門
10 名(月給 30 万円
賞与年間 60 万円)年間総額:4,200 万円
本部部門
25 名(月給 25 万円
賞与年間 50 万円)年間総額:8,750 万円
全社の年間賃金総額:4 億 950 万円×保険料率:1,000 分の 23=9,418,500 円
■対策
まず継続事業の一括取消を行い、修理工場を分離して新規で加入します。
修理部門と本部部門とで保険関係を大きく2つに分け、本部部門の保険料率を抑えます。
修理部門
船舶製造又は修理業:1,000 分の 23
(工場)
給与と賞与の年間総額(2 億 8,000 万円)×23/1,000=6,440,000 円
本部部門
その他の事業:1,000 分の 3
(営業部門含む) 給与と賞与の年間総額(1 億 2,950 万円)×3/1000=.388,500 円
節税前の保険料との差額:9,418,500 円−6,828,500 円=2,590,000 円
このように、年間保険料が 259 万円削減できたことになります。2箇所以上の事業所が
ある場合は、職種を分割して保険加入することで節約ができます。
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企業経営情報レポート
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
2│従業員の雇用状況や給与の見直し
(1)役員を活用する
労災の適用労働者は、以下の通りです。
正社員・アルバイト・パートタイマー・派遣労働者・船員保
適用労働者となる人
険の疾病任意継続被保険者・地方公務員のうち現業部門の非
常勤職員など
自営業者(特別加入制度がある)・同居の親族・法人の代表
適用労働者となれない人
者及び役員・日本企業の海外支店に現地で派遣された日本人
スタッフ
この「適用労働者となれない人」の中の役員に注目します。
通常、
「役員」は労災保険の適用労働者ではありません。しかし、役員の中には指揮命令
を受けて労働に従事し、その労働の対償として賃金を得ている人は労災適用になります。
具体的には「取締役」「営業本部長」などの人が該当します。
通常、保険料の対象とならない役員とは、「専務」「常務」「副社長」「社長」などの業務
執行権を有している取締役に限られます。
一つの例として、ある工場において工場長を始めとする5人の取締役がいたとします。
業務執行権を有していないとするとこの5人の取締役は、労災の適用労働者になります。
この5人の取締役の月給が 50 万円で、工場の事業の種類が木材木製品製造業とすると、
保険料率は 1,000 分の 15 です。この5人の取締役の年間保険料を算出してみます。
500,000 円×5人×12 ヶ月=30,000,000 円
30,000,000 円×1,000 分の 15=450,000 円
年間 45 万円の労災保険料がかかる。
これら5人の取締役に業務執行権を与え、労災の適用労働者から外すと、その分の保険
料が削減できます。なお、業務執行権の付与は、取締役会の決定によって行うことができ
ます。
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人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
(2)雇用関係にない労働者を活用する
①下請を活用する
労災保険法は、雇用関係にある全ての労働者を対象としています。つまり、労働者を採
用するとその雇い入れた人々全てが労災の適用労働者となり、それだけ納める保険料が増
えます。
企業内でどうしても行わなければならない作業以外は、雇用関係にない人つまり下請を
活用することで労災保険料の削減をはかることができます。
②委託契約や人材派遣を活用する
雇用関係にない人を活用するという点において、委託契約として第三者を契約の当事者
とすることも一つの手法です。
委託契約とは、会社や個人事業主が仕事として請け負うものなので、委託した側が支払
う費用は賃金ではなく事業所得として受領することになります。
もう一つは派遣労働者を使う方法です。依頼する側は、派遣業者に必要な人材の派遣を
頼み、派遣業者は依頼された人材を派遣します。この派遣労働者の社会保険などの関係は
派遣業者との間に発生するため、依頼した会社と派遣業者との間には、社会保険や雇用関
係は発生しません。
(3)保険料に算定されていないものを活用する
労災保険の保険料の対象となるものは「賃金」です。賃金の総支給額に労災保険料率を
かけて、保険料を算出します。
この「賃金」に含まれないものは、退職金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、出
張旅費、事業主が全額を負担する生命保険の掛け金などですが、ここでは退職金や年功慰
労金に着目します。
社会保険の章でも述べていますが、現在支給されている賞与の一部または全部を退職金
として支払うことにより、労災保険も削減することができます。
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企業経営情報レポート
人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
雇用保険料削減策とその他の削減ケース
1│雇用保険料の削減対策
(1)役員を活用する
労働保険の対象となるのは、原則として一般従業員であり、会社役員は除かれることに
なっています。ただし、ひとくちに役員といっても「取締役営業部長」
「取締役工場長」
「代
表取締役」「専務」「常務」など様々な役職があります。
「取締役営業部長」や「取締役工場長」などの呼称をもつ人でも、労働者側の要素が強い
場合は、その扱いは労働者となるため、雇用保険の被保険者となります。
つまり、執行権を持っている役員のみが雇用保険の被保険者にならないのです。したが
って、この人々を大いに活用してみてはいかがでしょうか。
(2)被保険者になれない人を活用する
雇用保険は、被保険者になれない人を雇い入れることで、その保険料を削減することが
できます。
■雇用保険の被保険者になれない人の条件
①65 歳に達した日以後に雇用される人
②週労働時間が 30 時間未満の短時間労働者であって、季節的に雇用される人。又は短
期の雇用(同一事業主に1年未満の雇用)に就くことを常態とする人
③4ヶ月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される人
■例
製造業(工場勤務)で働く従業員が 50 人いたとします。この 50 人の給与は月給のみ
で1人あたり 20 万円とすると、年間の給与は 50 人分で1億 2,000 万円になります。
年間雇用保険料=120,000,000×9/1000(事業主負担分)=1,080,000 円
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社会保険料の削減対策
■対策
この工場の従業員の半分(25 人)を 65 歳以上の高齢者又は1年未満の短時間労働者
にします。給与は、月給のみにつき 10 万円とします。これにより次のようになります。
正規の従業員 25 人×20 万円×12 ヶ月=60,000,000 円
高齢者・短時間労働者 25 人×10 万円×12 ヶ月=30,000,000 円
年間雇用保険料=60,000,000×9/1000=540,000 円
雇用保険料は正規従業員 25 人のみが対象となるため、保険料は年間で 54 万円の削減
となります。
(3)委託契約や人材派遣業者、出向者を活用する
雇用保険の被保険者になるには、事業主と労働者との間に雇用関係が存在することが前
提となります。ここでいう雇用関係とは、労働者が事業主の支配を受けて、その指揮のも
とに労働を提供し、その対償として賃金その他これに準ずるものの支払いを受けている関
係をいいます。
このことから、逆に事業主と労働者との間に雇用関係がなければその労働者は雇用保険
の適用を受けないことになります。
委託契約による労働者は、契約により特定の仕事を外部の労働者に任せることを意味す
るため、委託した側から支払われるお金は労働の提供に対する賃金ではありません。その
ため、そこに保険料は発生しません。
人材派遣業者に依頼して、依頼元の事業主に派遣されてくる労働者も、派遣元にて雇用
保険に加入するため、依頼元の事業主側では雇用保険に加入する必要はありません。
同時に2つ以上の雇用関係をもつ被保険者については、その者が生計を維持するのに必
要な主たる賃金を受けるどちらか一つの雇用関係についてのみ、被保険者資格が認められ
ます。原則的には、出向元で被保険者となり、出向先では被保険者とはなりません。
(4)保険料に算定されていないものを活用する
労災保険の章でも同じような説明をいたしましたが、雇用保険の保険料の対象となるも
のは「賃金」です。賃金の総支給額に労災保険料率をかけて、保険料を算出します。
この「賃金」に含まれないものは、退職金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、出
張旅費、事業主が全額を負担する生命保険の掛け金などですが、ここでは退職金や年功慰
労金に着目します。現在支給されている賞与の一部または全部を退職金として支払うこと
により、雇用保険も削減することができます。
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社会保険料の削減対策
2│その他の節約ケース
(1)就業規則を活用する
常時 10 人以上の労働者を雇用する事業主は、就業規則(賃金規定、退職金規定、旅費規
程等を含む)を作成し、労働基準監督署に提出する義務があります。いったん提出した就
業規則を変更するには、手続き等でかなりの労力が必要となります。
就業規則は、事業所における労働者の労働条件や服務規律などを含めた規則ですから、
細心の注意をもって作成する必要があります。
一例を挙げると「昇給は年1回、賞与は年2回」とほとんどの会社の就業規則に記載さ
れていますが、
「昇給は年1回、賞与は年2回とするが、業績悪化の場合は昇給を控え、ま
た、賞与を支給しない事がある」としたらどうでしょうか。
前者の場合、業績が悪化しても必ず昇給を行わなければならず、賞与も必ず2回支給し
なければなりませんが、後者の場合であれば、業績に応じて幅を持たせることが可能とな
ります。
就業規則に関する特殊な例を次に挙げてみます。
■例
「結婚休暇は5日」と就業規則に記載してある会社の例で、A氏(夫)とB子さん(妻)
は同じ会社に勤務、A氏の日給は 10,000 円、B子さんの日給は 7,000 円とします。
就業規則に結婚休暇は5日間と明記されていると、この夫婦がいったん離婚し、再び
同じ相手と再婚した場合は2倍の労務費が生じます。
(10,000 円×5 日)+(7,000 円×5 日)=85,000 円
×2 回
=170,000 円
就業規則に記載してある以上は、どうすることもできません。
■対策
就業規則の項目「結婚休暇」の記載中に「同相手との再婚を除く」と明記すると、上記
のように同じ相手と再婚した場合、2度目は本人の有給休暇を使うことになり、労務費を
半分削減できます。
このように、就業規則を定める上では、全ての面での配慮が必要となります。間違って
も、市販されている穴埋めだけの就業規則や生命保険会社の企業年金加入のための出来合
いの就業規則などで間に合わせたもので届出をしないようにしましょう。
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社会保険料の削減対策
信頼のおける社会保険労務士に相談・委託して作成し、届出をすることが望ましいです。
(2)2社に属する人を適正に扱う
出向をはじめ、1人の人間が複数の関連会社に所属しているケースがあります。そのよ
うな場合はどうなるか見ていきましょう。
■例
Aさん(35 歳)は社会保険の適用事業所B社とC社の2つに勤務しています。B社
からのお給料は 70 万円、C社から 30 万円が支払われているとします。これにより保険
料は次のようになります。
B社:標準報酬月額 71 万円
厚生年金:49,780 円
健康保険:33,441 円
C社:標準報酬月額 30 万円
厚生年金:24,087 円
健康保険:14,130 円
保険料総額(月):121,438 円
これがもし一つの会社から 100 万円のお給料が出ているとすれば、報酬月額は 98 万
となり、月の保険料総額は以下になるため、現状では 25,500 円高く払っていることに
なります。
標準報酬:98 万
厚生年金:49,780 円
健康保険
46,158 円
計:95,938 円
■対策
B社の標準報酬月額を 98 万円にするため、C社の標準報酬月額 30 万円から 27 万円をB
社から報酬として上乗せします。これにより、C社の報酬月額は3万円となります。
3万円では厚生年金被保険者になっている価値がないため、被保険者をやめることがで
きます。
このように複数の関連会社に属している人は、保険料を考えて有利になるよう社会保険
を一社に統一することを検討すべきです。
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人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
(3)採用の際は試用期間を定め、書面を交わす
新入社員を雇用するに当たって労働契約を結ぶ場合、必ずその社員に対し、賃金に関す
る事項は書面によって提示し、その他の労働条件は口頭又は書面によって知らせなければ
なりません。
面接においてすべてを口頭で行っているケースがあるようですが、これは注意すべきで
す。労働条件の全てを記載した書面を2部作成し、うち1部をその労働者に渡し、受領書
をもらっておくとなお良いでしょう。
そして、その労働契約書中に必ず試用期間を1ヶ月∼3ヶ月設定し、記載しておくこと
です。法的試用期間は 14 日であり、その試用期間が満了となった時点で、本採用とするか、
再び試用期間とするか、あるいは退職かを決定する上で重要な記載項目といえるものです。
もしこの試用期間がない場合は、入社日から何の判定もなく、本採用となってしまいます。
■例
4月1日、5人を採用し入社させました。全員月額 20 万円とします。節税対策をし
ていない事業所の場合の労務費は次のようになります。
●ケース①
口頭ですべての労働条件を申し伝えた後、4月5日に2人を退職させた場合、試用期
間を伝えないで退職させられた2人が労働基準監督署に行って、解雇のため解雇予告手
当請求の訴えをしました。この場合は以下の金額の支払いを命ぜられます。
200,000 円×2人=400,000 円
●ケース②
労働条件の伝達をすべて文書で行い、受領書も得たが、4月1日に入社し、うち3人
が 10 日程度出社した後無断欠勤となってしまいました。会社はそのまま1週間放置し
ました。その後3人は出社しましたが、再び1週間無断欠勤したため、会社は代わりに
他の社員を雇用し、無断欠勤の3人を解雇しました。ところがこの3人分の解雇予告手
当を支払う羽目になってしまいました。
200,000 円×3 人=600,000 円
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社会保険料の削減対策
■節約対策
●ケース①
労働契約を結ぶ際、文書で賃金等の内容を詳細に記載したものをその社員本人に与え、
受領書を得ておきます。試用期間を法定の 14 日以上と規定し、明記しておけば入社日より
14 日以内に即時解雇したとしても、解雇予告手当の支払い義務は生じません。
また、その受領書があれば、当該労働者が労働契約書を受け取っていなかったというト
ラブルも生じないので万全です。
●ケース②
労働条件の伝達は全て文書で行い、受領書も得ているので、法廷の 14 日以内の試用期間
中に解雇通知を行い、退職扱いにすれば解雇予告手当の支払い義務は生じません。よって、
4月1日入社で、4月 12 日まで出社(実働日数 10 日)し、その後無断欠勤となった場合
は、暦日で 14 日以内ですから、4月1日∼4月 14 日までに解雇の意思表示を行えばよい
のです。この場合では4月 13 日は欠勤しているので、一応電話連絡により出社通告を行い、
翌日4月 14 日に出社してこない場合は、4月 14 日付で解雇通知(内容証明書)を送付す
れば足ります。
なお、解雇予告手当適用除外申請は、横領等について明白な証拠等が整っている場合を
除き、労働基準監督署ではほとんど認可されないので注意してください。
(4)解雇するときは解雇予告通知を行う
就業規則には、すべての就業に関する事項が記載されており、必ず退職に関する規定を
明記しなければならないことになっています。従業員に退職してもらう場合には、退職に
関する規定に基づいて処理することになります。
入社から法定の試用期間を過ぎると、退職させる場合には解雇予告手当を支払う必要が
あります。ただし、解雇日の 30 日以前に解雇通知を発行すれば、解雇予告手当の支払い義
務はありません。
解雇通知書を受けた社員は、よほどのことがない限り、翌日から出社しなくなるのが普
通でしょうから、この場合は欠勤扱いで処理すればよいでしょう。
また、即日解雇で解雇通知書を渡し、解雇予告手当を支払う際、労働者が解雇通知書を
受け取らない場合もあります。そのときは、内容証明書で解雇通知書を送り、解雇予告手
当を供託すれば万全です。
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人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
法人設立による社会保険料削減対策
1│法人の健康保険料・厚生年金保険料
(1)法人設立によって報酬等を分割する
一般的に個人事業の会社の社会保険制度は、国民健康保険と国民年金に加入している例
が多いでしょう。
この条件で人材を募集しても、あまり魅力があるとは言えません。この点から個人会社
が法人会社に変更することが考えられます。ただし、収入により保険料を個人および事業
主で負担しなければなりません。そこで、今の個人会社を存続しつつ保険料を節約する方
法を考えてみます。
■例(全員 40 歳以上)
人員
代表者
Aさん
Bさん
Cさん
Dさん
報酬
80 万円
50 万円
40 万円
30 万円
20 万円
■現状のまま法人化した場合
標準報酬月額
健康保険(介護保険含む)
労使負担額
合計負担額
厚生年金保険
労使負担額
合計負担額
代表者
790 千円
43,134
86,268
49,780
99,560
Aさん
500 千円
27,300
54,600
40,145
80,290
Bさん
410 千円
22,386
44,772
32,919
65,838
Cさん
300 千円
16,380
32,760
24,087
48,174
Dさん
200 千円
10,920
21,840
16,058
32,116
合計
2200 千円
120,120
240,240
162,989
325,978
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
このままでは毎月合計で 283,109 円の支出が発生します。
節約を第一に考え、個人会社はそのままに別途法人会社を設立し、そちらで社会保険の
適用を受けて、最低水準で加入します。
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人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
■別途適用事業所を設立し、給与を分散する
人員
代表者
Aさん
Bさん
Cさん
Dさん
個人会社の報酬
65 万円
40 万円
30 万円
20 万円
10 万円
適用事業所での報酬
15 万円
10 万円
10 万円
10 万円
10 万円
■最低水準の報酬で法人会社設立
標準報酬月額
健康保険(介護保険含む)
労使負担額
合計負担額
厚生年金保険
労使負担額
合計負担額
代表者
150 千円
8,190
16,380
12,044
24,088
Aさん
98 千円
5,351
10,702
7,868
15,736
Bさん
98 千円
5,351
10,702
7,868
15,736
Cさん
98 千円
5,351
10,702
7,868
15,736
Dさん
98 千円
5,351
10,702
7,868
15,736
合計
542 千円
29,594
59,588
43,516
87,032
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
毎月の合計負担額は 73,110 円に削減されます。
(2)厚生年金の受給権が発生したら非常勤役員になる
厚生年金における老齢年金の受給権が発生したら、非常勤役員になることで節約を図る
ことを考えます。それは厚生年金の被保険者資格を有している人に、老齢厚生年金の受給
権が発生したとしても、総報酬月額相当額により老齢厚生年金が減額される可能性がある
からです。さらに厚生年金保険料が徴収されるため、二重で損をしているような感じにな
ります。
■例
Aさんは小企業の役員をしています。
60 歳時の特別支給の老齢厚生年金 120 万円(月額 10 万円)
役員報酬月額 50 万円(標準報酬月額 50 万円・賞与なし)
このまま役員を続けると、在職老齢年金に該当して年金の支給は全額停止となりま
す。しかし、保険料は徴収され続けます。
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人件費の削減・節約につながる
社会保険料の削減対策
■対策
もし、夫が代表取締役をしていたら、この女性をまず「非常勤の取締役」にします。そ
して、報酬は月額8万円とします。
これによる効果は、非常勤役員になることにより特別支給の老齢厚生年金の全額支給停
止がなくなり、年金が全額支給されます。
さらに、健康保険料と厚生年金保険料の支払いがなくなります。年収が 100 万円を切る
ようになれば、夫の扶養に入ることができます。さらに、地方税もかからず夫の税金の申
告時に配偶者控除を受けることができます。
2│法人の労災・雇用保険料
(1)個人会社の従業員を法人の取締役にする
法人会社設立に伴い、それまでの個人会社の従業員を法人会社設立時に取締役とするこ
とで雇用保険や労災保険の労働保険料を削減することができます。
事業主や取締役は、雇用保険に加入することはできません。また、労災保険においても
代表権や業務執行権を有する役員は適用対象外となります。
ただし、5人未満の個人会社では、別法人会社を設立し賃金按分しても出費増となりま
す。個人会社のときは、従業員5人未満は社会保険の適用外ですが、法人会社にすること
により、社会保険の強制適用となり負担が増えます。そのため、この方法については従業
員5人以上の場合に実行すべきです。
■対策前
A個人会社:取締役 1 名、従業員 6 名の場合(全員 40 歳未満、年俸制)
雇用保険事業主負担:9/1,000
人員
取締役
年間報酬
労災:6.5/1,000
年間社会保険料
健康保険
年間労働保険料
厚生年金保険
労災保険
雇用保険
1200 万円
なし
なし
なし
なし
従業員A
800 万円
384,336
597,360
52,000
72,000
従業員B
600 万円
282,600
481,740
39,000
54,000
従業員C
500 万円
231,732
395,028
32,500
45,000
従業員D
400 万円
192,168
327,588
26,000
36,000
従業員E
400 万円
192,168
327,588
26,000
36,000
従業員F
350 万円
169,560
289,044
22,750
31,500
年間保険料総額:4,343,662 円
※健康保険料は北海道の料率を使用しています。
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社会保険料の削減対策
■対策後
法人会社Bと法人会社Cを設立し、従業員Aと従業員Bをそれぞれ役員にする。
●個人会社A
人員
年間報酬
取締役
年間社会保険料
健康保険
年間労働保険料
厚生年金保険
労災保険
雇用保険
1200 万円
なし
なし
なし
なし
従業員C
500 万円
なし
なし
32,500
45,000
従業員D
400 万円
なし
なし
26,000
36,000
従業員E
400 万円
なし
なし
26,000
36,000
従業員F
350 万円
なし
なし
22,750
31,500
年間保険料総額:255,750 円
●法人会社B
人員
従業員A
年間報酬
年間社会保険料
健康保険
800 万円
厚生年金保険
384,336
597,360
年間労働保険料
労災保険
雇用保険
なし
なし
年間保険料総額:981,696 円
●法人会社C
人員
従業員B
年間報酬
年間社会保険料
健康保険
600 万円
厚生年金保険
282,600
481,740
年間労働保険料
労災保険
なし
雇用保険
なし
年間保険料総額:764,340 円
個人会社A、法人会社B、法人会社Cの年間保険料総額は 2,001,786 円となり、2,341,876
円の削減となります。
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【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
〒630-8247
奈良市油阪町456番地
TEL 0742-22-3578
第二森田ビル 4F
FAX 0742-27-1681
本書に掲載されている内容の一部あるいは全部を無断で複写することは、法律で認められた場合を除き、著
者および発行者の権利の侵害となります。
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