カジノを含む統合型観光リゾート(IR) による経済・社会影響調査

カジノを含
カジノを含む統合型観光リゾート
統合型観光リゾート(IR)
リゾート(IR)
による経済
による経済・
経済・社会影響調査
― 調査報告書 ―
【概要版】
平成 24 年 11 月
北
海
道
目
次
第1章
世界のIRに関する分析・調査研究
第2章
経済効果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
第3章
社会コスト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第4章
国民評価分析
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
第5章
制度比較
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
第6章
実地調査
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
第7章
総
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
括
・・・・・・・ 2
~道内各地域における検討に当たっての留意事項~
1
カジノを含む統合型観光
カジノを含む統合型観光リゾート(IR)による経済・社会
観光リゾート(IR)による経済・社会影響
リゾート(IR)による経済・社会影響調査
影響調査
~調査報告書~
調査報告書~
【概要版】
概要版】
H24.11
○調査の目的
本調査は、我が国におけるカジノの合法化に関する動向等を踏まえ、カジノを含む統合型観光リゾー
ト(IR)について検討している道内各地域の参考とするため、IR による経済・社会への影響等について、
シンガポール及び韓国の現地調査を含め、世界各地の IR 事例を調査研究するものである。
○調査の概要
調査手法:
1. 文献調査、2. アンケート調査、3. 実地調査
調査対象:
1. 文献調査~世界の IR を開発する主要な国と地域
2. アンケート調査~米国ネバダ州、マカオ、シンガポール、韓国の各カジノ合法地域における専門家
3. 実地調査~シンガポール、韓国
調査期間:
2012 年 7 月~11 月
○本件調査における統合型観光
○本件調査における統合型観光リゾート
IR)の定義
観光リゾート(
リゾート(IR)
カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光振興に寄与す
ると認められる施設が一体となっている複合観光施設の総称。IR は、Integrated Resort の略。
なお、IR については、各国の専門家においても定義が一定ではなく、また我が国においても現時点で
確定した定義が存在せず、今後の法制化議論の中で、定まってくるものと考えられるため、本調査にお
いては、カジノ施設と何らかの観光施設が統合されているという形態について IR として捉えるとともに、
単一施設だけではなく、周辺観光施設等と協調的かつ統合的に開発されることにより複合観光施設とな
っている形態についても IR として、広く調査の対象とした。
12
第1章
世界の IR に関する分析・調査研究
第1節 世界の IR
1.IR
1.IR とは
IR(統合型観光リゾート)とは、カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿
泊施設その他の観光振興に寄与すると認められる施設が一体となっている複合観光施設の総称である。
IR という用語そのものは、
2004 年前後から検討されたシンガポールのカジノ開発論議の中で使用され
るようになり、それが世界的に普及したものである。しかし、その概念自体は 1980 年代に米国ネバダ州
ラスベガスに登場した大型カジノの複合施設開発に端を発する。ラスベガスに象徴される大型カジノ複
合施設は、伝統的には「ラスベガス型カジノ」と呼ばれていたが、それがアメリカ国内に広がりを見せ
た 1990 年代あたりから
「アメリカ型カジノ」
、
そしてそれが世界的に普及し始めている現在において
「IR」
と呼称されるようになった。
2.IR
2.IR の世界的普及
米国で生まれた IR 施設開発の波がアジアに最初に飛び火してきたのが、2001 年の中華人民共和国マ
カオ特別行政区(以下、マカオ)における IR 施設開発であった。それまで中小規模で機能的にも複合化
しているとも言えないカジノ施設を持つのみであったこの地域は、1999 年のポルトガルから中国への返
還を機に IR を中心とした観光立国政策に舵を切り、6 件のカジノライセンスを発行した。その後、アジ
ア圏での IR 施設開発は 2010 年のシンガポールへと続き、
現在ではフィリピンにおいて 2013 年開業に向
けた複数の統合型観光リゾートの準備が進められている。
3.なぜ IR か
IR が観光産業の中で注目を浴びる理由は、これが「公的財源を必要としない観光振興策」の一手段と
なっているからである。公的財源を必要とせず、制度的改正のみで民間による投資を誘引し、その先の
観光振興につなげることのできる数少ない政策的選択肢となっている。
また、近年 IR が世界的に広がったもうひとつの理由は、ラスベガスを擁する米国ネバダ州など先行し
てカジノの合法化を行ってきた地域において、カジノの統制ノウハウが積み重ねられてきた点にある。
ネバダ州など米国の先進地域においては、カジノ産業から想定される依存症や犯罪の増加など様々な社
会コストを抑制しながら、同時にその経済的効果を最大限に引き出すことに成功しているという評価を
受けている。そして、これら先行する地域が世界に冠たる観光都市に成長するにつれて、カジノの持つ
潜在的可能性が世界的に評価されるようになったのである。
4.開発規模と IR
1980 年代のラスベガスから、世界最新の IR であるシンガポールの施設まで、世界的な注目を集めて
いる IR が比較的大規模な開発であることが多いこともあり、
「IR は巨大な施設でなければならない」と
いう誤解がなされがちである。しかし、IR が持つ本来の意味に基づけば、中小規模の開発であってもそ
れが単純な賭博施設ではなく、多様な観光施設機能が統合化されていると十分に言える施設であれば、
それを IR と呼んでも構わないであろう。
本調査においては、IR という用語に規模の概念は持ち込まず、カジノ施設と何らかの観光施設機能が
統合されているという形態に着目して、世界に存在する中小規模の開発もその調査及び論議の対象とし
て扱っている。
第2節 立地条件による分類
1.施設開発と立地
IR に限らず、多くの商業施設開発にとって最も重要となる開発要件は、その施設の立地条件にある。
立地条件は、人口集中圏からの到達距離(もしくは到達時間)を決定し、商業施設の開発規模やその様
3
2
式、顧客構成などを自ずと決定する。また、逆に開発地域を選択する側の立場の視点では、どのような
開発を行いたいのか、どのような顧客を集めたいのかなどの複合的考察の上で、必要な立地条件を探っ
ていくこととなる。
(1)都市機能
IR 施設の開発地域の分析においてひとつの指標となるのが都市機能の充実度である。都市機能とは、
道路・街路、鉄道、河川、上下水道、エネルギー供給施設、通信施設などの生活・産業基盤や学校、病
院、公園などの公共施設といった都市基盤と、それらを基礎として地域に存在する産業の規模や人口の
規模などを評価した総合的な指標である。これら都市機能が充実していればいるほど、開発にとっては
有利な立地となり、より一層の民間投資誘因につながる。
(2)観光資源
IR 施設の開発地域の分析においてもうひとつの指標となるのが周辺観光資源の充実度である。
IR 施設
はそれ自体が強力な集客力を持つ観光資源であるものの、その魅力度をさらに押し上げるためには周辺
地域におけるその他の観光資源との連携が重要となる。
2.
「都市機能」と「観光資源」による分類
前述した「都市機能」と「観光資源」を軸として IR 開発地域の特性を4つのセグメントに分類し、そ
れぞれに当てはまるであろう世界を代表するカジノ保有都市をプロットすると以下のようなものになる。
【都市機能と観光資源を軸としたカジノ保有都市の分類】
都市機能の
都市機能の充実度
機能の充実度
インチョン
シンガポール
ソウル
セグメント 1:
都市機能に恵まれている
が、観光資源にそれほど
恵まれていない都市に新
たな IR 開発を行う
シドニー
セグメント 2 :
都市機能、既存観光資源と
もに恵まれた地域に付加
的に IR 開発を行う
観光資源の
観光資源の充実度
ラスベガス
バーデンバーデン
マカオ
カンウォン
セグメント 4:
セグメント 3:
都市機能にも観光資源にも
あまり恵まれていない都市
に IR を中心とした開発を行
う
都市機能にはそれほど恵まれ
ていないが、既存観光資源に
比較的恵まれた地域に付加的
に IR 開発を行う
3
4
第3節 顧客による分類
IR を訪れる顧客は、大きく 1) VIP 顧客、2) 一般顧客、に分類するのが一般的である。
VIP 顧客は、多くの場合カジノを主たる目的として施設を訪問することが多く、より有利なゲームの
ルールやプロモーションを求めて複数のカジノ施設を横断的に訪れる特性を持つ。またカジノに対する
消費動機が非常に高く、一般的な「観光」という意味での消費行動を起こさない傾向が高い。逆に言う
と、観光地として比較優位性を持たない地域であっても、ゲームのルールやプロモーション手法、ある
いは仲介業者との良好な関係の維持などによって一定の集客が期待できる顧客層でもある。また、カジ
ノ消費が中心であり、同時にその顧客としてのボリューム(人数)が小さいため、たとえ個々の使用金
額が高くとも経済波及効果という意味では後述する一般顧客には大きく劣る。一方で、一人当たりのカ
ジノ消費額が非常に大きいため、事業者にとっての収益性が非常に高いのと同時に、行政にとっての税
収源としては非常に重要な顧客層でもある。
一般顧客は、VIP 顧客以外のその他大勢の顧客である。VIP 顧客と比べると比較的カジノに偏った消費
動機は持っておらず、一般的な観光客としてカジノと組み合わせて地域全体の観光資源を楽しむことが
多い。VIP 顧客と比べると一人当たりの消費額は小さいものの、そのボリュームが大きいため、宿泊、
料飲、お土産、その他に対して波及的な消費を生み出す顧客層であり、地域への経済貢献度は非常に高
い顧客層であると言える。また、カジノという明確な消費の目的を持つ VIP 顧客と比べると、その他の
観光地と「観光地としての魅力度」をもって直接競争を行う必要が出てくる顧客層でもあり、その成功
のためには複合観光施設たる IR としての魅力はもちろんのこと、周辺観光資源や都市基盤など、様々な
要素への配慮がより必要となる。
【VIP顧客と一般顧客のイメージ】
主たる目的
一人当たりカジノ消費額
ボリューム(人数)
地域経済への波及
VIP顧客
カジノ
大きい
小さい
小さい
一般顧客
観光+カジノ
小さい
大きい
大きい
第4節 複合形態・周辺施設との連携
世界に存在する IR は、温泉・SPA リゾート、マリンリゾート、ゴルフリゾート、ウィンターリゾート、
高原避暑リゾートなどとの複合形態が見られる。リゾートに共通する一般的な特徴として、1) 観光名所
を行脚するような通過型の観光ではなく相対的に一地点に比較的長く滞在する滞在型観光を前提とした
開発が多いこと、2) 天候や季節の変化に対して弱く需要の変動が激しいこと、3) 日中の観光には比較
的強いが日没後の観光資源が乏しくなる傾向があること、などが挙げられる。
このようなリゾートの特性に対し、
「365 日 24 時間型の施設」であるカジノの複合開発は非常に相性
が良いと考えられる。IR の存在により、天候や季節の変化による需要変動を平準化し、また地域に不足
しがちな日没以降の観光資源を補完することが可能となる。
また、近年急速に世界で注目が集まりつつあるのが、大都市圏における IR 施設開発である。大都市圏
における IR の開発は、主に 1) 都市観光の機能強化、2) MICE 観光の振興、の 2 つの観点で行われる。
IR は、MICE に必要な大型展示場や会議場はもとより、宿泊施設、料飲施設、そしてアフターMICE のた
めの様々な交遊施設を統合した形で開発されることの多い施設である。現在、世界の MICE 誘致競争にお
いて地域における IR の有無は大きな影響を及ぼし始めている。
一方、空港・港湾など公共交通の要衝に隣接する形で開発される IR は、世界的にも例は多くないが、
IR の開発地が良好な交通アクセスを伴っていることが民間投資要因における最も大きな判断要素とな
っていることは、実地調査やヒアリング調査等においても明らかである。
45
第2章
経済効果
第1節 開業前の経済効果
IR 開発には様々な経済効果が想定されるが、
その経済効果は大きく 1) IR 開業前に期待されるものと、
2) IR 開業後に期待されるもの、の 2 種に大別される。現在、世界の潮流となっている IR は比較的規模
が大きく、その開発もカジノのみならず、客室、料飲、MICE、その他各種娯楽施設など多岐にわたる。
また、この IR の開発に伴って、地域に労働者、観光客などが流入してくることが予見されることによ
り、周辺地域に様々な商業、住居開発が行われる。新たな小売店の開発、住居の開発、ホテルの開発、
公共交通網の開発整備など、関連する様々な分野に対して投資が行われることとなる。
これら投資から最初に生み出される経済効果が、各種土木建築に関連する需要の創出である。2005 年
に IR の開発を決定し、2010 年にその営業を開始したシンガポールでは、2010 年の開業数年前から外国
資本による建設投資の増加が始まっており、開業の 3 年ほど前から建設投資が飛躍的に増加し、その額
は開業の直前となる 2009 年にピークに達している。また、雇用では、建設業関係を中心に 2007 年ごろ
から増加が始まり、カジノ合法化を決定した 2005 年と 2010 年の総雇用者数データを比較すると、約 6
年間で地域雇用が 34%も増加している。
第2節 開業後の経済効果
1.シンガポールにおける経済効果
(1)観光収入・消費額
シンガポールの国際観光客数は IR 開業前の 2009 年の約 970 万人から、2010 年には約 1,160 万人へ、
2011 年には約 1,320 万人へと順調に増加している。また、国際観光客の一日一人当たりの消費金額も増
加しており、特に観光及び娯楽にかける消費金額が増加している。
(2)MICE開催数
(2)MICE開催数
シンガポールの国際会議開催件数も国際団体連合のランキングによると 2009 年の 689 件から、2011
年には 919 件と、米国を抜いて、世界最高の国際会議開催国となった。
(3)雇用効果
2 つの IR のうち、リゾートワールド・セントーサが 13,000 人、マリーナベイサンズが 9,000 人、合
計 22,000 人の直接雇用を生み出し、間接雇用も含めると約 60,000 人の雇用創出効果があったと言われ
ている。国内経済に占める金融業の比率の高いシンガポールでは、2008 年に発生したリーマンショック
によって失業率が急増し、2008 年の 2.23%から 2009 年には一気に 3.03%にまで跳ね上がった。しかし、
その失業率は IR が開業した 2010 年には、リーマンショック以前の水準に瞬く間に回復し、2010 年は
2.18%、2011 年は 2.03%と、ここ 20 年のうちで最も低い水準にまで改善されている状態である。
(4)税収効果
シンガポールでは、カジノ売上に賦課されるカジノ税の税収が 2011 年で 718 億円であり、これとは別
にシンガポール人入場客に賦課される入場税が 2011 年で約 130 億円と言われている。2010 年以降、好
景気が続くシンガポールでは国家財政の良好な状態が続いており、2009 年にリーマンショックでマイナ
スに転じたプライマリーバランスも 2010 年には大幅黒字に転じ、2011 年にはその黒字幅がさらに拡大
した。
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【シンガポールの IR 開業前後の各種指標の変化】
開業前(2009 年)
国際観光客数
970 万人
国際観光収入
128 億シンガポールドル
国際観光客による
1,322 シンガポールドル
滞在当たり消費金額
国際観光客による
333 シンガポールドル
1 日一人当たり消費金額
国際会議開催数(UIA 調べ)
689 件
失業率
3.03%
基礎的財政支出
-61.3 億シンガポールドル
(プライマリーバランス)
開業後(2010 年)
1,160 万人
188 億シンガポールドル
1,621 シンガポールドル
418 シンガポールドル
725 件
2.18%
185 億シンガポールドル
2.米国における IR 開発による経済波及分析
シンガポールにおいては、未だ 2010 年に誕生したカジノ産業の連関分析はなされておらず、その経済
波及の範囲は未だ不明である。よって、米国ゲーミング協会が 2010 年に実施し、白書として発表した「カ
ジノフロアの先に:商業カジノによる経済効果」
(原題:Beyond the Casino Floor: Economic Impacts of
the Commercial Casino Industry)に基づく、米国カジノ産業の経済波及分析を考察すると、2010 年に
米国カジノ産業が生み出した直接効果である 497 億米ドル(3 兆 9,705 億円)から、310 億米ドル(2 兆
4,765 億円)の一次波及効果、450 億米ドル(3 兆 5,950 億円)の二次波及効果が生まれ、総計で直接効
果の約 2.5 倍の 1,257 億米ドル(10 兆 421 億円)の経済効果が生まれていることが報告されている。
第3章
社会コスト
第1節 カジノ合法化もしくは IR の地域への設置による社会コスト
IR の導入は、経済効果など地域にとって様々なプラスの効果が期待される一方、マイナスの効果も懸
念される。想定される懸念事項は、大きく 1) 犯罪や治安に関するもの、2)青少年教育に関するもの、
3) 依存症に関するもの、の 3 つに大別される。
第2節 犯罪や治安に関するもの
1.組織犯罪とカジノ
世界のカジノ産業は長い年月をかけて反社会的勢力との関係を解消し、それを排除する手法を講じて
きた。現在、カジノを合法とする世界の先進的な国や地域で採用されている反社会的組織の排除のため
の最大の対策が「厳格なライセンス制度の採用」である。
カジノを合法とする多くの国や地域では、カジノを運営する法人はもとより、その主要な株主、従業
員に至るまでライセンスや許認可の対象とするのが一般的である。そして、それらのライセンスや許認
可を取得するためには、それぞれの過去の経歴に関して調査が行われ、過去及び現在において反社会的
組織や不正に関わった事実が無いことが求められる。
2.IR
2.IR 設置と周辺治安
IR 周辺の治安については、米国連邦議会内に設置された賭博影響調査研究委員会の最終報告書におい
てもカジノの存在と周辺地域の犯罪発生を結びつける十分なデータは存在せず、これを立証するには継
続的な研究が必要であると結論付けている。一方で特に大きな観光集客力を持つ IR の設置は、理論的に
は流入人口の増加により地域の犯罪発生率を引き上げる可能性を有しており、それを前提として地域の
6
7
治安維持のために必要な施策を適切に講ずることが必要となる。
3.その他のカジノ関連犯罪
上記のほか、カジノ合法化及び IR の地域への設置において起こりうる犯罪として挙げられるのが、1)
イカサマ行為等のゲーミング犯罪、2)従業員等による横領、3)マネーロンダリング、4) 許認可等に係
る汚職や贈収賄事件である。
第3節 青少年教育に対するリスクとその対策
青少年教育に対するリスクは、主に 1) 青少年の賭博行為に関するリスク、2)青少年の教育過程にお
ける勤労意欲減退に関するリスク、の 2 つが考えられる。
青少年の賭博行為に関するリスクを防止するために、先行する国と地域では、カジノへの入場の年齢
制限と入場客に対しての ID チェックが行われる。また、カジノフロアとそれ以外の施設を構造的に分離
することにより、青少年の賭博防止の強度が強くなる。
【カジノ施設への入場に係る年齢制限】
米国ネバダ州
シンガポール
入場制限年齢
21 歳未満
21 歳未満
マカオ
18 歳→21 歳未満
(2012 年改定)
【カジノ施設の構造及びIDチェックと青少年の賭博防止の強度】
防止強度
施策
弱
施設的な構造要件はなく、フロア内での疑わしき人物
に対する逐次 ID チェック。
中
入場時の ID チェックは義務付けられていないが、
カジ
ノ施設とそれ以外の構造を完全に分離する義務。
強
入場時における全入場客に対する ID チェック。
カジノ
施設は完全にその他施設と分離。
韓国
19 歳未満
実施地域
米国ネバダ州
マカオ
米国ニュージャージ州
シンガポール
韓国
我が国で賭博行為を禁じている刑法 185 条の保護法益は
「賭博は、
国民に怠情浪費の弊風を生じさせ、
勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行その他の副次的犯罪を誘発し又国民経済の機能に重
大な障害を与える恐れすらあることが、それを処罰する理由」と説明されており、我が国においては、
賭博は国民の勤労意欲を減退させるものと位置付けられている。もちろん青少年期においてはその存在
によって悪しき影響を受ける可能性が高いものと考えられている。一方、諸外国において賭博はどちら
かと言えば、個人の選択と自己責任の下で行われる交遊行為としての位置付けが強く、勤労意欲を減退
させるとの懸念は、あまり強調されていない。
第4節 依存症に対するリスクとその対策
医学上、ギャンブル依存症は「病的賭博」と呼称され、この定義が当てはまる層は、賭博が合法とさ
れている国や地域毎に異なる。
病的賭博の社会コストを測ること、またこの対処は難しいが、近年実効力のある施策として、多くの
国や地域で導入が進んでいるのが、エクスクルージョン・プログラム(排除プログラム)である。この
プログラムを導入した最新の国であるシンガポールでは、3つの排除方式を定めている。
78
【シンガポールのエクスクルージョン・プログラム】
1.セルフエクスクルージョン・プログラム
セルフエクスクルージョン・プログラム(自己排除プログラム)とは、病的賭博に悩む、もしく
はそのリスクを負いたくない市民が排除リストに登録し、カジノへの自らの入場を禁ずることがで
きるプログラムである。このプログラムは、シンガポール在住の外国人に対しても提供されている。
2.ファミリーエクスクルージョン・プログラム
ファミリーエクスクルージョン・プログラム(家族排除プログラム)とは、病的依存に悩む家族、
もしくはそのリスクを負わせたくない家族が、自らの配偶者、子供、親、兄弟などを排除者リスト
に登録し、カジノへの入場を禁ずることが出来るプログラムである。
3.サードパーティエクスクルージョン・プログラム
サードパーティエクスクルージョン・プログラム(第三者排除プログラム)とは、自己破産者、
行政からの生活補助受給者、貧困者向け家賃補助物件において 6 ヶ月以上の家賃滞納を行っている
者などに対し、行政がカジノ入場を禁ずるプログラムである。このプログラムには対象者は自動的
に登録されるため、手続きをする必要はない。
さらに最近になって病的賭博の対策手法として採用が始まってきたのが、カジノ施設に対する入場料
制度である。この制度を採用している韓国もシンガポールも、基本的に外国人に対しては入場料を賦課
しておらず無料での入場を許しているが、自国民のカジノ入場に対しては、韓国が入場当たり 5,000 ウ
ォン(350 円)
、シンガポールが 1 日当たり 100 シンガポールドル(6,530 円)の入場料を求めている。
またシンガポールでは年間パスも存在しており年間 2,000 シンガポールドル(130,600 円)で回数制限
なくカジノへ入場できる。
この制度については、ここ数年のうちに始まったものであり、その効果に関しては検証がなされてお
らず、また事業者からは投資意欲が減退するという意見がある。またプレイヤーがその「元」をとるた
めに自らの使用可能予算を省みずカジノ施設内に長く留まる、もしくはシンガポールで採用されている
年間パスの場合は必要以上に足繁くカジノに通うような逆効果が起こる、などという意見も存在する。
【リスクと対策】
項目
リスクの種類
犯罪や治安
組織犯罪の関与
周辺治安の悪化
青少年教育
青少年賭博
勤労意欲の減退
依存症
第4章
対策
厳格なライセンス制度の採用
地域警察の十分な防犯対策
厳格な入退場管理の採用
海外ではあまり報告されていない
日本独自の教育による対策が必要
エクスクルージョン・プログラムの採用
国民評価分析
第1節 カジノ合法化の経緯
米国ネバダ州では、1929 年、ニューヨーク株式市場の大暴落(ブラックサースデイ(暗黒の木曜日)
)
を契機とした世界大恐慌がカジノ合法化に踏み切る大きな契機であった。州の半分を砂漠に覆われ、域
内には鉱業程度しか経済基盤となりうる産業がなかったネバダ州は、元来、米国内でも経済的に最も不
利な地域のひとつとして数えられてきた。世界大恐慌の到来とともにどん底にまで落ちることとなった
地域経済の底割れを防ぐために行われたのが、 連邦政府による大型公共投資フーバーダムの建設と、州
が中心となって進めた米国初となるカジノ合法化であった。
89
マカオは、同時期に中国への返還がなされた香港が金融及び中間貿易という経済の軸を持っていたの
に対し、返還後によって立つ経済基盤が非常に弱く、手工業など非常に限られた産業しか地域に存在し
なかった。そこで、1999 年の返還後の雇用と地域経済を支える主要産業として利用されたのが、伝統的
に特殊な形で存在してきたカジノであった。マカオ政庁はカジノを観光資源とした観光産業全体の振興
を目的に、市場の自由化を推し進め、外国資本の導入による観光開発と地域への雇用の創出を目標とし
た。
シンガポールは、カジノ合法化の検討が始まった 2000 年代前半は必ずしも国の経済が好調ではなく、
特に問題となっていたのが建国以来国を支えてきた観光産業の低迷であった。1980 年代にはアジアの観
光目的地として一世を風靡したシンガポールも、その後のアジア諸国の観光産業の台頭により相対的な
域内競争力で水を開けられる状況にあった。また、特に同じアジアの「都市観光」の目的地としてシン
ガポールが常にベンチマークとしてきた香港が、1998 年の中国返還ショックから立ち直り、2005 年には
ディズニーランド香港が開業されるなど、目覚しい観光産業の回復を見せていた。そのような状況の中
で、シンガポールで検討が始まったのが観光産業の切り札としての IR の開発構想であった。
韓国には 3 つのカジノ関連法が存在しており、それぞれ制定された当時の時代背景が異なる。1986 年
に制定された「観光振興法」によるカジノ開発は、未だ産業競争力が弱く外貨獲得に必要な輸出産業が
育っていない時代において、
主に韓国駐在の米軍から直接的に外貨を獲得する手段となっていた。
一方、
1995 年の「廃坑地域開発支援に関する特別法」による自国民も顧客に含めるカジノの設置は、経済的劣
後地域に対する経済振興と新産業創出を目的としたものである。そして 2002 年の「経済自由区域の指定
及び運営に関する特別法」によって認められるようになったカジノ開発策は、経済自由区域に対する外
国資本の誘引手段としてのカジノの機能を期待するものであった。
【各国の合法化の契機と目的】
国・地域
合法年
米国
1931 年
ネバダ州
マカオ
シンガポール
2001 年
2005 年
韓国
1986 年
1995 年
2002 年
カジノ合法化の契機と目的
世界大恐慌に直面した州経済の活性化のため、1931 年に合法化。
それまで主要産業であった鉱業が衰退期を迎え、新たな産業創出を
目指した。
中国返還後の経済的支柱となる産業創出と雇用の確保。
東南アジア諸国と比べ相対的に競争力の低下していた国内観光産
業の復権。
1986 年の観光振興法によるカジノ開発は外貨の獲得が主目的。
1995 年の廃坑地域開発支援に関する特別法による自国民の入場
も認めるカジノの設置は経済的劣後地域の振興が主目的。
2002 年の経済自由区域の指定及び運営に関する特別法は外国資
本の導入が主目的。
第2節 カジノ開発に関する期待
カジノ開発に関する期待
各国、各地域においてカジノ合法化に至った背景は微妙に異なるものの、そこから期待されるプラス
の影響に関しては、どの地域においても大きな変わりは無く、全てが経済的な効果を期待するものであ
る。事実、我々が行った米国ネバダ州、マカオ、シンガポール、韓国におけるカジノ専門家に対するア
ンケート調査においても、地域でカジノの開発がなされた時に期待されたものを問う設問に対しては、
各地域の専門家からはそれほど変わりのない回答がなされている。
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【カジノ開発に対する期待~専門家アンケート調査】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
韓国
・直接、間接を含めた雇用の創出、税収、観光、新たな補完的なビジネス。
・外国の資本注入と雇用創出。カジノ開発前に公の論議は無かった。
・2 軒の IR の開業に伴い、毎年恒例の F1 グランプリなど他のイベントが発展する
ことにより、近年シンガポールの注目度は顕著に向上している。シンガポールに
対する過去のイメージは「清潔で安全、しかし退屈」というものであった。今日、
シンガポールは依然として清潔で安全だが、決して退屈と言われることはない。
シンガポールは流行に敏感で人気の高い観光地という評価を受けている。シンガ
ポール政府の IR 開発による基本目標は、観光地としてのイメージを向上させ、税
収を増加させることであったが、この2つの目標は達成されている。
・2005 年の発表時は、国民の 44%がカジノに反対だった。一方で現在は、カジ
ノ産業による観光振興、GDP 増、税収増など絶大な影響がシンガポール国民に享
受されている。この影響は景気停滞期にある現状において、国に対し非常に強固
な基盤を与えている。
・1998 年当時、カンウォンランドによるプラスの効果として期待されたのは、雇
用創出、消費の拡大と地域振興であった。地元民は、訪問客の増加や観光により
景気が回復することを期待していた。
第3節 カジノ開発に関する不安
カジノ開発に関する不安
カジノ開発に関する「不安」においてもどの国と地域もほぼ同じである。第 3 章に示した各種社会コ
ストは、どの国や地域においても同様に起こる可能性があり、大きくは犯罪、依存症、青少年教育への
影響の 3 つが常に懸念事項として挙げられる。
【カジノ開発に関する不安~専門家アンケート調査】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
韓国
・カジノは長期間にわたり合法であったため、この問題については対処されなかっ
た。新たなカジノが新しい居住地に開業する際、大きな懸念となるのは、渋滞や
住宅の価値などの問題である。
・ラスベガスは 1 世紀の大半の間、カジノを合法化していることを考えれば、事前
事後の評価を行うためには年月を相当遡る必要がある。
・市場に新たなカジノが開発された後、より高いスキルを持った外国人労働者に仕
事を奪われてしまうこと。
・シンガポールでは、議会でカジノ合法化を承認させるために約 10 年の時間を費
やしており、当初、法案は否決されている。しかし、適切な調査や雇用、地域に
おける優位性などカジノ開業の恩恵についての教育情報を提供することを通じ、
最終的に合法化が受け入れられた。加えて、政治家との対話集会や公開討論会が
多く開かれ、国民の全ての不安が対処された結果、国民はカジノの悪影響から彼
らを守る手法にも賛成することができた。
・カンウォンランドについての懸念の大部分は、ギャンブル依存症やギャンブル関
連の犯罪による社会コストの上昇であった。1998 年、韓国政府は廃坑地であっ
たチョンソンの経済復興を目的にカンウォンランドの建設を認めた。韓国は
1990 年半ばのアジア経済危機の真っ只中にあったため、国民のカンウォンラン
ドカジノに対する懸念は長く続かず、速やかな承認と建設を認めることとなった。
11
10
第4節 青少年教育への影響
先行してカジノを合法とした国や地域の専門家に対して行ったアンケート調査において、シンガポー
ルや韓国など入り口で全入場客に ID チェックを求める制度を採用している国や地域では、
青少年教育に
対するカジノのリスクはほとんど語られていない。それに対して、マカオや米国ネバダ州など、全入場
客の ID 管理を義務付けていない国や地域においては、
青少年の中に一定のギャンブル依存者が存在する
ことが指摘されており、この点は制度上の違いが明確に社会コストの発生にリンクしていることがうか
がえる。また、マカオや米国ネバダ州の一部の専門家から指摘された青少年教育への影響としては、カ
ジノ産業が高等教育を必要としない高賃金な職を提供することによる進学率の低下がある。
カジノには、
ディーラを始めとして比較的高い給与も稼げる技術職が存在するため、これらの地域の青少年が高等教
育への進学よりもカジノ産業への就職を選択するという現象を意味している。
第5節 カジノ開発の結果とその国民(市民)評価
1.
「開発前の期待」に対する実態と事後評価
米国ネバダ州やマカオ、シンガポールなどでは、雇用の創出やカジノを通じた税収の確保など経済面
でのその効果に対して非常に大きな事後評価がなされている。また、ネバダ州などではカジノによる寄
付行為や従業員によるボランティア活動など、社会貢献面での評価も指摘されている。
韓国ではカジノ開発による経済効果そのものに対しての疑問が付されている。韓国のカジノ専門家に
よれば、
その要因は韓国カジノの開発方式がラスベガスやシンガポールなどに見られる IR モデルでは無
かったことに起因するのではないかとの分析がなされている。結果、韓国のカジノ産業に対する事後評
価はそこからの税収面のみに市民評価が限定されているとしている。
【カジノ開発前の期待に対する事後評価~専門家アンケート調査】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
韓国
・2007 年、カジノは K-12 教育プログラム基金の 35%に貢献している。2010
年、カジノホテルは 1,000 万米ドル(7 億 9,800 万円)以上を慈善活動に寄付
している。2010 年、カジノとその従業員はネバダ州を本拠とするチャリティー
活動に 3 万時間以上をボランティア活動として充てている。これは、雇用や税金
以外の追加的な貢献である。
・大部分の期待は経済成長であり、事実期待を大きく上回る結果となった。現在、
市民はハイペースな労働環境や地域社会や経営における海外からの影響に対応し
ようと努めている。ジニ指数の悪化と、乏しい富の配分が市民の不満の原因にな
っている。政府は、金銭的援助や地元の労働者を守るため不明瞭な定員制度によ
る外国人の雇用規制を通じ、その不満の緩和に努めている。
・シンガポールでは、2 軒の IR は全ての分野において期待を上回っていると思われ
る。税収、雇用、ブランディングや新たなビジネスチャンスなど、社会から歓迎
されている。急速な観光客の増加やギャンブル依存症に関する問題は依然として
存在している一方、地域社会は、シンガポールにとってカジノはこれまでにない
新しい「経済活動」として許容している。
・2005 年の発表時は、国民の 44%がカジノに反対だった。観光、GDP、税収な
ど絶大な影響がシンガポール国民に享受されている。この影響は現在の景気停滞
期に、国に対し非常に強固な基盤を与えている。
・一般的な国民感情は、カンウォンランドは IR リゾート地としての期待に沿うこと
ができなかったというものである。概して、カンウォンランドは、ラスベガスや
シンガポールなどに見られる IR リゾートモデルでは無かったので、好ましい効果
は当初の期待には大きく届かなかった。その結果、税収の増加がカンウォンラン
ドカジノの最も顕著な効果となっている。
12
11
2.
「開発前
「開発前の不安」に対する実態と事後評価
不安」に対する実態と事後評価
韓国においては厳しい分析がなされており、韓国のカジノ専門家は、本調査で行ったアンケート調査
に対して「カンウォンランドカジノについては、国民による否定的な見解が肯定的な意見を少なくとも
2 対 1 で上回っている」と答えている。特に韓国では汚職事件や、国内で賭博全般に対する否定的な報
道及び大きな国民的不信感が渦巻いており、
このことがその後の韓国国内における IR 開発やカジノ拡大
の大きな障壁となっていると分析している。
一方、比較的長い歴史を持ち、地域の基盤産業としてカジノ産業がすでに根付いている米国ネバダ州
やマカオでは、カジノ開発に対する不安に関しては、それほど大きな関心が払われていないことが指摘
されている。
シンガポールでは、2010 年に IR の開発を果たしたばかりの同国では未だその開発に対する評価が明
確に定まっていない。シンガポールのカジノ専門家は、その開発に対する事後評価に関して、
「カジノの
存在は今のところ裁判所の取扱い案件数に著しい影響は与えていない」とするシンガポール裁判所のコ
メントを紹介している。一方、シンガポールの別のカジノ専門家は「カジノはシンガポールにとって新
たな産業であり、規制制度が成熟するまでに数年の時間を要することが予想される」とコメントする一
方、
「カジノについての否定的な話や未成年者の犯罪は存在しているが、他のカジノを抱える地域で見ら
れる問題に比べると、それほど悲観的ではない」と、その社会的悪影響に対する市民の事後評価を分析
している。
【カジノ開発前の不安に対する事後評価~専門家アンケート調査】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
韓国
・カジノは長期間にわたり合法であったため、この問題については対処されなかっ
た。新たなカジノが新しい居住地に開業する際、大きな懸念となるのは、渋滞や
住宅の価値などの問題である。
・マカオでは長い歴史の中でカジノが許容された文化のため、カジノ自由化前にお
ける社会での論議はほとんど無かった。
・シンガポール政府は毎年、カジノ産業に関する政策と規則の調整と評価を行って
いる。カジノはシンガポールにとって新たな産業であり、規制制度が成熟するま
でに数年の時間を要することが予想される。カジノについての否定的な話や未成
年者の犯罪は存在しているが、他のカジノを抱える地域で見られる問題に比べる
と、それほど悲観的ではない。
・シンガポール裁判所は、
「カジノの存在は今のところ裁判所の取扱い案件数に著し
い影響は与えていない」と主張している。
・現在、カンウォンランドについては否定的な見解が肯定的な意見を少なくとも 2
対 1 で上回っている。カンウォンランドは、ミスマネージメント、透明性の欠如、
犯罪、腐敗などにより、IR のイメージ作りに失敗している。カンウォンランドに
よる自殺の増加や家庭崩壊についてのマスコミ報道は、国民の中にカンウォンラ
ンドに対する非常に強い否定的な感情を育ててしまった。ギャンブルの社会的コ
ストは、国民にとって大きな懸念であり、韓国ではそれは同時に IR 開発やカジノ
拡大の大きな障壁となっている。
第6節 その他、各国や地域の専門家による IR 開発の影響分析
上記のほか、米国ネバダ州のカジノ専門家によると、ネバダ州のカジノ税収は、州の一般財源のおよ
そ 46%を占め、カジノ及びホテル産業は州内で最も多額の税金を納める産業となっている。また、この
カジノ税収の多大なる恩恵もあってネバダ州には州税としての法人税及び個人所得税が存在せず、これ
らの税制優遇により様々な企業がネバダに本社移転をしてくる一助となっているとの見方を示している。
13
12
マカオでは、依存症などを理由として高等教育から脱落する若者の増加が報告されており、青少年賭
博への対策強化として今年からカジノへの入場制限年齢を 18 歳から 21 歳に引き上げる規則が実施され
た。また、軽窃盗、高利貸し業、売春などがカジノ開発に伴って発生しており、生活圏への影響を抑え
るために政府は住宅街近辺でのスロットパーラーの開業を禁止している。マカオのカジノ専門家は、マ
カオの反社会的組織が、高利貸し、マネーロンダリング、売春斡旋、ナイトクラブ営業、VIP 顧客支援、
カジノでのイカサマ行為や殺人行為など、様々な違法行為を行っていると指摘している。
シンガポールは、今回専門家アンケート等の調査対象とした 4 つのカジノを合法とする国と地域の中
で、
最も社会コストに関するコントロールが的確に行われている国であると言える。
シンガポールでは、
IR の開発に伴ってギャンブル依存の問題が増加することを当初より予見しており、この問題に関する徹
底した研究を先行させた。同国では、2010 年のカジノの開業前から国家ギャンブル依存症対策会議を設
立し、事前調査と起こりうる依存症の発生に備えた。2012 年 7 月 6 日にシンガポール政府から発表され
たカジノ管理法の厳格化改正に伴う政府発表では、シンガポール国民におけるギャンブル依存症の割合
は 1%から 2%の間と推計され、IR の設置前から安定した比率を保っているとした。
韓国は国内に 16 軒存在する外国人専用カジノと、
国内に 1 軒のみ存在する自国民が入場可能なカジノ
であるカンウォンランドの、2 種のカジノ群が存在する。カンウォンランドの規模はその他の外国人専
用カジノの規模を圧倒的に上回っており、
1 軒で16 軒の外国人専用カジノとほぼ同等の売上があるほか、
入場客数に至ってはその他16軒を約100万人上回る実績を出している。
しかし、
カンウォンランドでは、
地域における自殺数の増加、犯罪率の増加などがマスコミによって大きく報じられており、韓国の専門
家はこれらの報道によって「国民の中にカンウォンランドに対する非常に強い否定的な感情を育ててし
まった」と分析している。
【先行する国や地域における国民の事後評価】
評価高
シンガポール
米国
ネバダ州
他に目ぼしい産業がなく、地域
経済の基盤として成長。
マカオ
大きな経済効果あり。ただし、
貧富の差の拡大に対する不満あ
り。
税収効果以外、十分な効果が得
られていない。
韓国
評価低
経済効果に対する事後評価
各種指標で十分な効果。
社会コストに対する事後評価
評価は高いが、低所得者層の依
存症が増加傾向。
青少年賭博や依存症防止策の不
足。交通渋滞、住宅価格への影
響。
反社会的組織対策の不備。周辺
治安の悪化、依存症対策の不足。
外国人労働者の流入。
依存症、治安、政治汚職など、
様々な問題が発生。
第5章 制度比較
第1節 各国制度概要
1.米国ネバダ州
1.米国ネバダ州
連邦国家であるアメリカでは、各州に跨る原住民居住区におけるカジノの実施を合法とした「インデ
ィアンゲーミング規制法(Indian Gaming Regulatory Act)
」を除き、各州におけるカジノ統制行為は、
各州の定める州法にその権能を預けている。各州は、独自のポリシーに基づいて州内におけるカジノの
可否を決定した上で法の整備を行っており、現在、米国内でカジノを合法としている州は、全 50 州のう
ち 15 州である。
ネバダ州は、カジノの存在する 15 州のうち最も早く合法化を行った州であり、その合法化は 1931 年
14
13
「包括的ギャンブリング法(Wide-open Gambling Act)
」の成立によって達成された。その後、ネバダ州
では何度かカジノ法の改正が行われたが、現在、カジノ業界を統制しているのは 1955 年に州議会で可決
された「ゲーミング管理法(Gaming Control Act)
」と呼ばれる法律である。
ネバダ州のカジノ統制の特徴は、カジノ事業者、カジノ施設数ともに制限を設けず、一定の基準を満
たす事業者及び施設に対して、比較的自由な開発を行わせている点にある。ネバダ州は歴史的にカジノ
産業の健全性を維持するために必要となる遵守すべき最低限の規制を与えながらも、一方で市場経済の
中での健全なる企業間競争を重視する政策を取ってきた。この風土が、世界で最も成熟したカジノ産業
を生んだひとつの要因であると言える。現在、域内のカジノ数は 256 施設と単一行政区の中に存在する
カジノ数としては世界最大である。
2.マカオ
マカオのカジノ産業は、2001 年制定のカジノギャンブル運営法によって統制が行われている。マカオ
のカジノの歴史は古く、1900 年代初頭からカジノ施設は存在してきたものの、長らく単一企業のみがカ
ジノ経営権を独占するという特殊な利権産業として存在してきた。
その独占体制を崩したのが 2001 年の
「カジノギャンブル運営法」であり、カジノ開発権の数を 3 つに増加させ、公開入札の下でその取得者
を決定する方式を取った。また、マカオ政庁はこの 3 つのカジノ経営権を手にした事業者に、それぞれ
ひとつずつのサブライセンスと呼ばれる二次的開発権の発行を認めている。各企業がそれぞれのサブラ
イセンスを他企業に販売及び譲渡を行った結果、現在ではマカオでカジノの開発権を保有する企業が 6
社にまで増加している。
マカオのカジノ統制の特徴は、カジノ経営権を持つ企業の数をサブライセンス企業まで含めて 6 つに
限ってはいるものの、各企業が開発を行う施設数に制限を設けていない点である。もちろん、カジノ経
営権を持っていれば自由にカジノ開発ができるわけではなく、個別の開発にあたっては改めてマカオ政
庁から開発許可の取得が必要となるものの、各事業者に対して開発施設数制限がないため、現在 6 つの
事業者の下で 35 のカジノが運営されている。
3.シンガポール
シンガポールのカジノ統制は、2006 年に施行された「カジノ管理法(Casino Control Act)」に基づい
て行われている。カジノ管理法は、内務省傘下にカジノ統制局、地方自治開発省傘下に国家ギャンブル
依存症対策会議を設置し、カジノ統制局は主にカジノの不正監視、一方の国家ギャンブル依存症対策会
議は主に依存症を中心とする社会コストの低減を目的として、それぞれ役割を分けながら業界統制を行
っている。
シンガポールのカジノ統制の特徴は、施設の数を制度上で制限し、それぞれの開発・運営を担当する
事業者を入札によって選定している点である。事業者間による市場競争を通じた市場システムの中で業
界全体の適正化を図るのではなく、政府が強い行政権限を発揮しながら、その開発・運営をコントロー
ルしていくという、国家資本主義的な発想の下での産業統制手法を採用している。この国家資本主義的
な統制システムは、シンガポールの産業全体に貫かれている基本コンセプトでもあり、非常にシンガポ
ールらしいカジノ産業統制のあり方と言って良い。
4.韓国
韓国にはカジノを扱う法律が 3 つ存在する。ひとつ目が、韓国の観光振興政策を定めた「観光振興法」
(1986 年)である。観光振興法の定めるカジノは、全て自国民の入場を禁じた外国人専用カジノであり、
現在、同法に基づく認可で国内 16 軒のカジノの営業が行われている。
韓国のカジノを扱う法律の 2 つ目が、
「経済自由区域の指定及び運営に関する特別法」
(2002 年)であ
る。この法律は、知事もしくは特別市長及び広域市長が策定した開発計画に基づき、知識経済部長官が
指定した「経済自由区域」に対して外資企業に対する特別措置を与える法律である。その特別措置の多
くは課税免除や減税であるが、
同法は第 23 条に当該地域に投資を行う外資企業に対してカジノの運営許
15
14
可を付与する条項を持っている。カジノ運営許可を申請する企業は、経済自由区域内に 5 億米ドル(399
億円)以上を投資する企業に限られており、文化体育観光部長官に申請することによって許可を取得で
きることになっている。同法に基づいて認められるカジノも外国人専用となるが、現時点で韓国国内に
はこの法の下で開発が行われたカジノは存在せず、現在、その参入ハードルをより引き下げようとする
検討が行われている。
韓国のカジノを扱う最後の法律が、
「廃鉱地域開発支援に関する特別法」である。同法は、石炭産業の
斜陽化によって立ち遅れた廃鉱地域の経済を活性化させ、地域間のバランスの取れた発展と住民の生活
向上を図ることを目的とする法律である。同法に基づいて営業の行われるカジノは、観光振興法第 28
条第 1 項第 4 号の定める「内国人を入場させる行為の禁止」を適用しないものとされており、外国人の
みならず自国民のカジノの入場も認める営業が可能となる。現在同法の規定に基づき、国内 1 軒のカジ
ノが運営されている。
第2節 法制度比較
1.ライセンス制度比較
米国ネバダ州は、調査対象地域の中で最も市場経済を重視するライセンス制度となっており、ライセ
ンス数、開発数ともに制限がなく、一定の要件を満たす事業者及び開発計画に対してはすべからくライ
センスの発行及び開発許可を出す。この種の市場統制のあり方は、非常に高度な産業コントロールが必
要となるものの、一方で消費者の市場選択の中から優良な事業者の取捨選択が行われ、産業の活性化及
び市場規模の最大化を図ることができる。
一方、それと好対照となるのが韓国における自国民入場を許す国内唯一のカジノ、カンウォンランド
である。これは韓国政府が、自国民のカジノ利用を国内の単独施設に限定することで、公的な統制力を
最大化しながら産業コントロールを行おうとするものである。また、韓国の場合はその運営会社を半官
半民の企業とすることによって、株主としても事業者に公的統制力を行使できる体制を維持している。
上記 2 つのライセンス制度のあり方のちょうど中間で、公的統制力を高めながらも、一方で事業者間
の競争環境を市場に持ち込んだのがマカオ、シンガポールの両統制方式である。マカオではライセンス
数、すなわち市場内でカジノ運営を行うことのできる事業者の数を正規・サブライセンス合わせて 6 つ
に制限しながらも、それぞれの事業者が開発する施設数には制限を設けていない。
一方、シンガポールは、マカオよりも公的統制力を強化したライセンス制度を採用している。シンガ
ポールはライセンス数及び開発数を 2 つに限定し、最低限の事業者間の市場競争環境を整備しながら、
一方で公的コントロールを最大化する施策をとっている。
【各国、各地域のライセンス数と施設開発数比較】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
ライセンス数
制限なし
正規ライセンス:3 ライセンス:2
サブライセンス:3
開発数
制限なし
制限なし
2地域
韓国
外国人専用:制限なし
韓国人入場可:1
外国人専用:制限なし
韓国人入場可:1地域
2.税制等比較
米国ネバダ州のライセンス料は、設置ゲーム台数に応じた定額制であり、カジノの開発規模によって
ライセンス料が増減する仕様となっている。一方で、カジノ税に関しては、カジノ売上が一定額以上に
なった部分の超過金額に対して階段状に異なる税率が採用されるという超過累進税率方式が採用されて
いる。この方式では、小さな事業者は比較的優遇された実効税率を享受できることが可能となり、大き
な事業者は小さな事業者と比べて不利な実効税率が課されることとなる。
マカオにおけるライセンス料は、ライセンス毎の定額制及び設置ゲーム台数に応じた定額制の両方を
採用したものとなっている。これは、ライセンス数を 6 つに制限しながら、一方で開発数を制限しない
16
15
というマカオのライセンス制度に合わせて設計されている制度であり、各事業者は「マカオで事業を行
うための権利金」としてのライセンス料を企業単位で支払いながら、域内でのカジノ開発数(開発規模)
を増やす毎にライセンス料が上積みされていくこととなる。一方、カジノ税に関しては、カジノ売上に
対して 35%のカジノ税が課されるほか、目的税として 1.6%がマカオ内の様々な事業・文化活動の支援を
行うマカオ基金に、2.4%が観光振興や社会的セーフガードなどの目的に使途を定めた特別会計予算に繰
り入れられることとなっている。
シンガポールは、権利毎の定額のライセンス料を毎年賦課する非常にシンプルなライセンス制度を採
用している。一方、カジノ税に関しては、その顧客種によって税率を変えるという税制を採用しており、
VIP 顧客を対象とするゲームからの売上には 5%の課税が、一般顧客を対象とするゲームからの売上に対
しては 15%の課税が行われる。これは、特に海外からの富裕層の誘致に力を入れる同国の観光政策方針
を反映したものであり、一方で主に一般顧客となる自国民に対する事業者の営業行為を抑制しようとす
るものである。
韓国は、
事業者に対するライセンス料としての賦課は存在せず、
カジノ税のみを徴収する方式である。
韓国には複数の異なるカジノの関連法が存在するが、どの法に基づくカジノの運営においても、税率は
「10%の範囲で一定比率に該当する金額」とされている。一方、韓国はカジノ税を特定政策財源にのみ
充当する目的税としており、外国人専用カジノの根拠法である観光振興法では、それを「観光振興開発
基金法」に伴う観光振興開発基金に納めることになっている。また、自国民の入場を認めた廃鉱地域開
発支援に関する特別法の下で営業を行う自国民の入場を認めるカジノにおいては、総売上の 10%を 「廃
坑地域開発基金」に納付することとなっている。
【各国、各地域のカジノ税等比較】
米国ネバダ州
マカオ
シンガポール
ライセンス料
設置ゲーム台数に ライセンス毎の定 ライセンス毎の定
額制
応じた定額制
額制
上記に加えて設置
ゲーム台数に応じ
た定額制
カジノ税
月次カジノ売上の カジノ売上のうち カジノ売上のうち
・35%がカジノ税 ・VIP顧客売上に
うち
・最初の5万米ドル ・1.6%がマカオ基
5%
に 3.5%
・一般顧客売上に
金
・次の 8.4 万米ド ・2.4%が観光振興
15%
ルに 4.5%
等への特別会計 (ただし、ともに消
・それ以上の売上に
費税 7%が上乗せ)
6.75%
12%
17%
法人税等
州法人税:0%
連邦法人税:
12~39%
入場料(税)
1 日当たり
100S ドル
もしくは、
年間 2,000S ドル
韓国
なし
全てのカジノ売上に
10%
法人税:10~22%
地方所得税:
1~2.2%
入場当たり
5,000 ウォン
3.行政組織構造比較
本調査で調査対象とした 4 つの国や地域においては、2 つの異なる行政組織のあり方が観測された。
ひとつが、産業統制に係るすべての機能を単一の行政組織に集約させる一極集中方式であり、もうひと
17
16
つがその機能を複数の行政組織に分割して担当させる分権方式である。一極集中方式を採用している国
や地域としてはマカオ、シンガポールが挙げられ、一方で分権方式を採用している国や地域として米国
ネバダ州、韓国が挙げられる。
【各国のカジノ統制方式】
長 所
短 所
具体例
一極集中方式
・強力な産業コントロール
・政策方針とその執行の一致
・権限のチェックが効かない
・密室による分かりにくい行政執行
が行われる危惧
マカオ
シンガポール
分権方式
・チェック&バランス
・分かりやすく透明性のある行政執行
・産業統制力が弱い
・政策方針とその執行の不一致
米国ネバダ州
韓国
第3節 想定される日本の制度
未だカジノが法制化されていない我が国であるが、民主党は、超党派の国会議員による国際観光産業振
興議員連盟(以下、IR 議連)が作成したカジノを核とした「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する
法律案」
(以下、IR 推進法案)に関して政策調査会の法務及び国土交通部門会議では慎重姿勢を示してい
るものの、同内閣部門会議では承認している。また同法案は、自由民主党政務調査会の内閣国交合同部門
会議においても了承されており、同法案に基づく方式が現段階では我が国で最も採用される可能性の高い
将来の統制方式を示しているものと考えられる。ただし、繰り返しになるが同法案は未だ民主党の一部の
部門会議、自由民主党の部門会議で了承を得た段階であり、確定されたものではない。
【IR 推進法案の主なポイント】
ポイント(該当ヶ所)
目的について
(第 1 条)
法案中の表記(抜粋)とその分析等
①観光及び地域経済の振興に寄与
*IRが観光と地域経済の振興に寄与するとの認識を提示
②財政の改善に資する
*IR推進が国・地方を通じた収入増につながるとの認識を提示
特定複合観光施設
とは
(第 2 条第 1 項)
①カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その
他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設
*カジノを含む統合型リゾート施設(IR)が想定されており、単純賭博施設は想定していない
②民間事業者が設置及び運営をするもの
*民設民営を予定
カジノ施設とは
(第 2 条第 1 項)
○カジノ管理委員会の認可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域に
おいて設置及び運営されるもの
*民設民営を予定
*カジノ施設はカジノ管理委員会が認可を予定
→認可等については別法で定める
特定複合観光施設区域 ○特定複合観光施設を設置できる区域として地方公共団体の申請に基づき主務
大臣の認定を受けた区域
とは
*区域は地方公共団体が申請し国が認可を予定
(第 2 条第 2 項)
→申請者が都道府県か基礎自治体か一部事務組合かなど地方公共団体の詳細な指定は示されて
いない
18
17
基本理念について
(第3条)
①国際競争力のある滞在型観光を実現
*海外観光客誘致・集客、滞在型観光が主たるねらい
→海外の先行するIR等に対して競争力あるIRが必要
②地域経済の振興に寄与
*地域における経済の活性化及び就業機会の増大がねらい
③カジノ施設の収益が社会に還元される
*国・自治体がカジノの設置及び運営をする者から納付金を徴収
*国・自治体がカジノ施設入場者から入場料を徴収
→民間事業者側で精緻な収益分析が可能となる要素の提示が必要
<例 示>
・IR開発のコンセプト
・ライセンス形態(年限・発行数等)
・対象顧客(国民も対象となるか等)
・投資に係る税制などの優遇等
・国・自治体への納付金、入場料
等
法制上の措置について ○必要となる法制上の措置については、この法律の施行後 2 年以内を目途として
(第5条、第15条)
講じなければならない
○特定複合観光施設区域整備推進本部は、必要な法律・政令の立案に関すること
をつかさどる
*特定複合観光施設区域整備推進本部が立法をはじめとする整備の推進の中心的な役割を果たす
地方公共団体の構想の ○政府は、特定複合観光施設区域の整備の推進に当たっては、地方公共団体によ
る特定複合観光施設区域の整備(特定複合観光施設区域の設置及び運営をする
尊重について
事業者の選定を含む。
)に係る構想のうち優れたものを、その整備の推進に反
(第8条)
映するため必要な措置を講ずる
*自治体が民間事業者も選定する。国がその中から優れた構想を選択する予定
カジノ施設関係者の規 ○カジノ施設関係者は、別法によりカジノ管理委員会の行う許可、認可、免許そ
の他の処分を受け、その規制に従わなければならない
制やカジノ施設の設置
及び運営の規制につい ○政府は、必要な措置を講じる
*ゲームの公正性確保に必要な基準制定
て
*チップ、金銭の代替物の適正利用
(第9条、第10条、
*暴力団等の排除に必要な規制
第11条)
*犯罪発生の予防、防犯設備等の体制整備
*風俗環境保持等に必要な規制
*広告、宣伝の規制
*青少年対策
*カジノ入場者のカジノ利用による悪影響防止
→日本国民のカジノ利用を認めるか否かは読み取れない
→国民利用を認めるか否かは構想の検討や民間事業者の収益分析の重大な前提要素
○カジノ管理委員会は別法により内閣府の外局に設置
*カジノ管理委員会は、
カジノ施設における秩序の維持及び安全の確保に係るものの円滑な実施を
確保することを任務とする
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第6章 実地調査
第1節 シンガポール
「リゾートワールドセントーサ」及び「マリーナベイサンズ」について、
「立地」
、
「施設複合」
、
「周辺観
光施設との複合」
、
「顧客層」などを実地調査するとともに、事業者ヒアリングを実施。
第2節 韓国
「ゴールデンゲートカジノ」及び「セブンラック・カンナム」
、
「ウォーカーヒル」
、
「カンウォンランド」
について、
「立地」
、
「施設複合」
、
「周辺観光施設との複合」
、
「顧客層」などを実地調査するとともに、事業
者ヒアリングを実施。
第3節 デスクリサーチ
デスクリサーチとして、米国ネバダ州及びマカオの IR 施設について、
「立地分析」
、
「顧客分析」
、
「施設
構成分析」を実施。
第7章 総括
○道内各地域における検討に当たっての留意事項
前述の調査結果を踏まえて、道内において各地域の方々が IR について検討を行う際の留意点を改めて
整理する。
なお、この留意点の整理に当たっては、次の3点を前提としている。
① 「我が国において、カジノが合法化され、カジノを含む統合型観光リゾート(IR)の設置が認められ
る場合」という仮定の下に、IR についての検討を行うことが前提であること。
本調査は、地域における議論の参考となるように、世界各地の IR 事例について、できる限り客観的
で幅広い情報の提供に努めてきたところであるが、我が国において、どういう形態の IR が認められる
のか、様々なリスクに対してどういう対策を講じるのかなどの具体的な制度設計は、今後の国の法制
化に向けた議論によることとなっていることに留意する必要がある。
② IR の導入は、経済効果などのプラスの効果とともに、様々なマイナスの効果をも内包する施策であ
り、その両者を勘案しながら、地域において IR 導入についての合意形成を図って行かなければならな
いことが前提であること。
③ 第5章のとおり、現在、我が国において検討されている制度では、IR の設置及び運営は民間事業者
とされており、民間事業者が様々な要因を分析した上で、事業として収益を挙げられるかどうかとい
った投資判断が行われることが前提であること。
<立地について>
立地分析においては、まず、世界の IR を保有する都市を都市機能の充実度と観光資源の充実度を軸とし
た 4 つのセグメントにプロットし、開発の特徴などを明らかにしてきた。
また、世界の IR は、温泉、各種リゾート、MICE 施設など施設外部に存在する様々な観光資源との複合
化の中で成立していることも明らかにしてきた。
そして、地域外からの誘客のためには、公共交通機能などの交通アクセスが重要であることも改めて明
らかにしてきた。
すなわち、1) 開発地の立地上の優位性の評価、2) IR としての複合観光施設の魅力や、周辺観光資源と
の連携など観光地としての魅力等の評価、
3) 交通アクセスに関する評価の 3 点が重要なポイントであるこ
とを示してきた。
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こうした立地分析を参考にして、各地域の有する都市機能や観光資源、交通アクセスの利便性などを精
査し、どのような IR のあり方が当該地域に適しているのかを検討するとともに、実際に IR 設置が可能と
なった場合には、設置者となる民間事業者に対して、どれだけ地域の持つ比較優位性をアピールしていく
ことができるかも検討する必要がある。
<経済効果について>
米国ネバダ州、マカオ、シンガポール、韓国のいずれにおいても、IR 開発により、相当の経済効果が
見込まれることが明らかとなった。一例では、シンガポールでは間接雇用も含めて約 6 万人の雇用があ
るとされ、国際観光客数や国際会議開催件数も順調に増加しており、経済的に成功したと考えられてい
る。
しかし、こうした経済活性化の効果や地域への税財源の配分は、我が国における制度設計により大き
く変わるものである。このため、今後の国の制度設計の動向等に注視しつつ、地域における経済効果を
どのように見込み、また地域全体の活性化にどう結び付けていくのか等を検討する必要がある。
<社会コストについて>
社会コストについては、1) 犯罪や治安に関するリスク、2)青少年教育に対するリスク、3) 依存症に対
するリスクの 3 つに社会コストを分類し、そのリスクの種類ごとに先行している国や地域で採用されてい
る対策手法などを調査し、我が国の制度設計において、それぞれ対策を講じる必要があることを明らかに
した。
他方で、各国の専門家からは、こうした対策を講じても治安の悪化や青少年教育への影響などが起こっ
ている例も指摘された。特に地域の治安の保持や青少年教育対策などは、国の機関というよりはむしろ各
地域の施策によるところが大きく、この点に関しては各地域内でより真摯な論議と準備が必要となる。
このほか、IR の開発により、駐車場不足、交通渋滞、周辺地域の公共交通の混雑の発生、周辺エリアの
不動産価格の上昇による地元企業の転居の配慮など、居住環境の変化についての指摘もなされており、こ
うした社会コストも含めてよく検討する必要がある。
○おわりに
カジノ合法化と IR の導入は、地域振興、観光振興、雇用創出、新たな税財源獲得など様々な経済効果が
期待される一方で、犯罪や治安に関するリスク、青少年教育に対するリスク、依存症に対するリスクなど、
様々な社会コストが確実に存在する。
その導入はプラスの効用とマイナスの効用の両者を勘案しながら総合判断されるべきものであり、
「白か
黒か」もしくは「善か悪か」のような二元論的な論法は相応しくない施策であるとも言える。
今回の調査ではそのような基本的な理念に則り、IR の開発によって地域が大きな効用を得た事例から、
期待される経済効果を十分に引き出せなかった事例までを幅広く紹介した。
世界では、約 130 カ国がすでに何らかの形でカジノを合法化している。我が国はカジノ合法化及び IR 導入
の検討に当たって、世界の数多くの先進事例を生かすことができる。そして、その中にはその成功によっ
て大きな飛躍を果たした事例から、大きな社会問題を巻き起こした事例までたくさんの事例が存在する。
我々には、そうした事例を参考に、また教訓としながら、最良の制度と産業のあり方を選択していくこと
が求められる。
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本書は、北海道が実施した「カジノを含む統合型観光リゾート(IR)による経済・社会影響調
査」の調査報告書の概要版として作成したものである。
【調査報告書】
タイトル
カジノを含む統合型観光リゾート(IR)による
経済・社会影響調査 ― 調査報告書 ―
発 行 者
北海道総合政策部政策局
発行年月
平成24年11月
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