女性の内職となる手仕事を

さざほざ事業部(有限会社 コンテナおおあみ)
仕掛け人 足立 千佳子(あだち・ちかこ)氏
有限会社 コンテナおおあみ 千葉 美紀(ちば・みき)氏
「編んだもんだら」南方仮設住宅チーム
代表 大森 美保子(おおもり・みほこ)氏
佐々木 範子氏(ささき・のりこ)氏 山内 英子氏(やまうち・ひでこ)氏
アクリル100%毛糸を手編みでつくるエコたわし「編んだもんだら」。
この素敵な名前の商品は、被災した女性たちの手仕事から生まれ
ている。宮城県登米市の仕事場で「編んだもんだら」をつくっている
南三陸町の女性たちの話を聞くと、海辺の暮らしの豊かさ、そして
エコたわし「編んだもんだら」を手にする女性たち(左から大森美保子さん、足立千佳子さん、
千葉美紀さん、佐々木範子さん、山内英子さん)
古くから伝わる生活の知恵の素晴らしさに圧倒された。
女性の内職となる手仕事を
駐車場の一角に据えられたコンテナハウスでは、女性たちの賑やかな声が響いていた。
「ほっぺたを先に付けて。口のラインから下がらないようにして欲しいんです」
「そうなの?」
「うん。で、この目は残して根元をツクツクツクとやっていくの」
「あ、こうね?」
「そうそう!」
「できた。わぁ、このタコかわいい!」
ここは登米市で避難生活を送る宮城県南三陸町の女性5名が「編んだもんだら」をつくる仕事場
登米市で避難生活を送る南三陸町の女性5名がアクリル100%
の毛糸で編んだエコたわし「編んだもんだら」をつくる仕事場
だ。「編んだもんだら」とはアクリル100%の毛糸で編んだエコたわしのこと。洗剤を使わなくても汚
れが落ちるので、食器洗い、洗面台・浴室の掃除など毎日の暮らしで役に立つ。なにより可愛らし
いと評判で、購入するリピーターも多い。
タコ(マダコ)のつくり方を指導しているのは足立千佳子さんだ。足立さんは2012年6月、「有限会社コンテナおおあみ」(以下、コンテナおおあみ)の
中に「さざほざ事業部」を立ち上げた。手仕事の「編んだもんだら」に加え、宮城県内および登米市の食材を用いるコミュニティカフェ「うれしや」を仙台で
運営。また、被災地からの情報を「うれしや」と「コンテナおおあみ」から発信し、「手仕事」「食」「情報発信」の3本柱で女性による復興プロジェクト「さざ
ほざ」を進めている。さざほざとは「和気あいあいと」「気負わずに」という意味がある。
今日の編み手は南方(みなみかた)仮設住宅に住む大森美保子さん、佐々木範子さん、山内英子さんの3名。仕事場は登米市南方のほか、南三陸
町の志津川中瀬町と歌津寄木、気仙沼市大島にあり、合わせて県内4カ所、約30名が「編んだもんだら」を製作している。
「編んだもんだら」は足立さんが立ち上げた事業だ。以前、このレポートでも紹介した「バラのエコたわしづくり」※1をきっかけに、今日まで続いてい
る。
はじまりは、登米市に避難していた人たちが南三陸町に戻る際、ある区長さんから「女性の内職となる手仕事をつくってくれないか」と頼まれたこと。
震災以降、女性支援の必要性を痛感していた足立さんは、暮らしの再建につながるツールとして「編み物はどうだろう?」と考えた。しかし自分は編み
物をやったことがない。そこで登米市内の手芸店に毎週通って編み方を教わった。そして、2011年9月 南三陸町志津川の仮設住宅の集会所で「タコの
エコたわしづくり」の教室を開催した。仮設住宅の女性たちの反応が良く、また県内の復興イベントでの販路があったことから 他の仮設住宅でも「エコた
わしづくり」教室を開催した。
そこに参加した1人が、「編んだもんだら」南方チームの代表を務めている大森さんだ。「とても楽しかったんですよ」と笑う大森さんは編み物の経験こ
そないものの、漁業で生計を立てていたので手仕事は得意。「編み図を見れば編めます」というほどの腕前となり、今では南方仮設住宅で手芸クラブの
代表も務めている。
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はじまりは南三陸自慢の「マダコ」
「編んだもんだら」は、ウニ、ホヤ、メカブ、ホタテ、マダコなど11種類あり、まもなく12種類目の新作がお披露
目となる。立ち上げ当初にどんなエコたわしがいいのか、女性たちに意見を聞いたところ、海に関するいろんな
話を聞かせてくれた。「どの浜でもタコ、特にマダコは自慢の種のようでした」と足立さん。魚介類や藻類など海
の産物を取り上げることに決めた。
南三陸町の志津川で生まれ育った佐々木さんは「マダコはミズダコと比べて身が締まっていて味がいいの
です」と言う。志津川でタコといえばマダコを指すそうだ。以前はタコ漁の解禁日に学校が休みになるので家族
全員で船を出してタコを釣りに行った。「寒さをしのぐため炭火を積んでね。朝ごはんも船上で食べました」と
佐々木さんは懐かしそうに話す。「マダコは10カ所ほど針を付けた竹にエサのサンマをくっつけて投げ込む『イ
シヤリ』という仕掛けで釣るのだ」と大森さんが教えてくれた。
意外なことに、マダコは干物がおいしい。タコの干物とは馴染みがないが、竹串に張って乾燥させてから火
さざほざ事業部の仕掛け人、足立千佳子さん。
「編んだもんだら」に加え、コミュニティカフェ「う
れしや」の運営や被災地からの情報発信などで
女性のための復興プロジェクトを進めている
であぶって食べると絶品だそうだ。「イカなんか足もとにも及ばないよ!」と佐々木さんは笑う。
こうした浜の女性ならでは話をたくさん聞いて、足立さんは「海の話や生活の知恵も伝えられるものにしたいな」と考えた。
一度聞いたら忘れない「編んだもんだら」というユニークな名称も、女性たちの話から着想したもの。当初は特産品がモチーフだったので「ご当地エコ
タワシ」と呼んでいたが、南三陸町では昔はワラで編んだ縄を丸めて、竈(かまど)で焚いたススだらけの釜の底などを洗っていた。それを「もんだら」と
呼んでいたそうだ。今はワラじゃなくて、毛糸で編んだ「もんだら」。だから「編んだもんだら」と名付けた。
昔ながらの生活の知恵を伝えたい
大森さんたちが仕事場に集まるのは週に一度。それ以外の日は自宅作業だ。「1日に10個くらいつくりあげ
る」と大森さんは言う。また、新作が出たときは、誰かの家に集まって復習を欠かさない。県内4カ所すべての
拠点でこうした活動が続いていて、「コンテナおおあみ」の社員である岡崎文恵さんと千葉美紀さんが「水揚
げ」と呼ばれる納品や編み糸の補充、困りごとの相談などを担当。編み手の女性たちが気持ちよく編むことが
できるよう、物心両面で支えている。
登米市と仙台市を往復しながら全体の運営や支援・販売先の開拓などで駆け回る足立さんは、各拠点で作
業する編み手のお給料がだいたい同じくらいになるように気を配る。「お一人に1カ月15,000円から25,000円は
差し上げたいです」と足立さん。つくり上げた分は全量買い上げるので、生産計画と販売のバランスをとるのは
たいへんだ。
足立さんとともに「編んだもんだら」をサポートする千葉美紀さんも「お客さまの層を広げるために、いろんな
「編んだもんだら」南方仮設住宅チームの代表
を務める大森美保子さん。「足立さんや千葉さん
ががんばってくれるから、私たちもがんばれる
のです」と語る
ものをつくるようにしています」と語る。新作を出すのはリピーターの購入意欲を高めるためでもある。
「編んだもんだら」を継続していくために、なによりも大切なのは編み手の女性たちのモチベーションを保つこと。仮に「編んだもんだら」が売れなくなっ
たとしよう。収入が減ることだけが問題ではない。ただでさえ震災の風化が危ぶまれている今、意欲を持って手仕事をしている女性たちが「見捨てられ
た」と感じてしまうかもしれない。だから販売先の開拓に余念がない。
幸いなことに「編んだもんだら」は今も順調に売れている。日本かっさ協会※2のオリジナルキャラクターづくりなど、新しい支援先も見つかっている。
東北の暮らしの知恵が込められた手仕事「編んだもんだら」などを通じて、「昔ながらの知恵や生きていくための工夫を次の世代に引き継ぎたい」と
足立さんは語る。
「編んだもんだら」の代金のうち40%が編み手の女性たちの手に渡る。商品のタグには編んだ人の名前を記しているので、メッセージを送ることも可
能だ。実際に登米市まで編み手の女性たちに会いに来る人もいる。
被災地を支援するために、まずは1つ買い求めてはどうだろうか。思いが込められた「編んだもんだら」を手にすると、あまりの可愛さにシリーズで揃
えたくなるはずだ。
※1 「バラのエコたわし」づくり(みやぎ・やまがた女性交流機構)紹介記事
http://www.tohoku-epco.co.jp/fukyu/report/contents/f01_miyagi_yamagata/index.html
※2 「かっさ」とは、古来から中国で行われてきた民間療法のこと。皮膚などを刺激することで、毛細血管に圧を加えて経絡の流れを良くすると
いうもの。協会は、「かっさ」を通じて、広く東洋医学を普及することを目的に2008年3月に設立された。
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1つひとつ丁寧に心をこめて編む「編んだもんだら」のマダ
コ。たわしとして使うのがもったいないほどの可愛さだ
編み手の佐々木範子さん(左)、山内英子さん(中)と談笑
する有限会社コンテナおおあみの千葉美紀さん(右)。千葉
さんは4つの拠点を回って、女性たちが気持ちよく編むこと
ができるよう心を配る
さざほざ事業部が仙台市で手がけるコミュニティカフェ「うれ
しや」のランチメニュー。食材は宮城県内および登米市のも
のを用いる
2014年7月取材
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