4 高齢者の排尿障害の分類とケア 介護の知識 50 高齢者の排尿障害の分類とケア 介護の知識 高齢者の排泄に関する課題に対しては、要因を特定し、要因に対応 した適切な援助をすることが大切です。 今回は、排尿障害(1)の中の尿失禁の分類とケアについて紹介し ます。 (1)排尿障害 ) ) )何らかの原因で排尿 の困難を認めるもの Ⅰ.尿失禁の分類 (頻尿やおしっこが出 づらい、残尿感、排尿開 A) 機能性尿失禁 始困難、尿失禁等) 【原因】 膀胱や尿道などの異常ではなく、認知症や大脳の機能障害や運 動機能の障害などによって、 「場所がわからない」 「トイレまで行 くことができない」など、トイレ動作に支障があるために間にあ わず、結果失禁をしてしまいます。 ケアのポイント 本人の認知状況やトイレ動作を確認し、困難な部分に対しての フォローができるケアを考えます。 《ポイント 1》 1 ○ トイレサインを探ること 《ポイント 2》 ○ ポイント 1 に対して仮説を立て排泄ケアを行います (実践例) 1. ウロウロと何かを探している様子があったり、他の部屋に入 って行こうとしている。落ち着きがない。 ・ これらの動作をトイレの場所を探している「トイレサイン」と 仮説を立て、トイレの位置が分かるように扉に目印を付けた り、トイレと少し大きめの字で記します ・ また、上記のような行動があったときにトイレ誘導をします 2. 椅子から立ち上がろうとしたり、車椅子のブレーキを外そう としている。 (何かをしたいという行動) ・ 椅子の高さを調整し立ち上がりやすいよう工夫をします ・ 手すりの位置を立ち上がりやすいように工夫します ・ 上記のような行動があったときにトイレ誘導を行います 全国高齢者ケア研究会 4 高齢者の排尿障害の分類とケア B) 切迫性尿失禁 【原因】 膀胱の許容量の減少、膀胱の不随意収縮(2)などの蓄尿機能 (2)膀胱の不随意収縮 の障害により我慢できず失禁することをいいます。他にも前立腺 )))膀胱が勝手に収縮す 肥大による過活動膀胱も原因となっていることがあります。 るもので、膀胱の過活動 ケアのポイント 《ポイント 1》 ○ 排尿間隔を少しずつ延ばす練習(膀胱訓練)ができる方かの という。原因は神経因性 膀胱、加齢、尿路感染な どがある 見極めを行います 《ポイント 2》 ○ なるべくスムーズにトイレで排泄ができる環境の工夫 実践例 1. 理解力がある方の場合 ・ 我慢をしていただき、少しずつ排尿間隔を延ばす練習(膀胱 訓練)を行います。最初は、尿意を感じてから 15 分くらい 我慢をしていただき、トイレに行ってもらいます。一カ月く らいをかけて少しずつのばしていきます。 2. 理解が難しい方の場合 ・ 趣味活動や興味のあることを行っていただき、トイレへの注 意をそらします(いつも頻繁にトイレへ行く方が、行事など 2 で 1 時間たってもトイレに行かれないことはありません か?) 3. 理解はできても排尿ができる状態までにもれてしまわれる方 の場合 ・ ベッドからトイレ、フロアからトイレの動線を短くします ・ ・ (3)尿路感染 総合記録シートから失禁されてしまった時間を把握し、トイ ) ) )尿路に細菌、ウイル レ誘導の時間を決め、尿漏れが起こる前に排尿できるようケ ス、真菌などが感染する アします ことによって起こる感 高齢者は、何枚も服を重ねて着てしまうことがあります。脱 染症 ぎ着をしやすい服装の工夫や室温調整をしてトイレ動作がス ムーズにできるよう工夫します (4)前立腺肥大症の図 C) 溢流性尿失禁 【原因】 膀胱から排出する機能が正常に働かず、膀胱から尿がオーバー フローする状態をいいます。寝たきりの方は、臥床位での排尿に なるため、尿をしっかりと出し切ることができなくなってきま す。放置すると尿路感染(3) 、腎機能障害などにつながります。 (図版引用元:ほんだクリニック) 男性であれば、前立腺肥大(4)が進行すると、残尿量が多くな (http://www.ooizumihonda.com/ り、場合によっては尿路閉塞になる方もいます。 urology/04.html) 全国高齢者ケア研究会 4 高齢者の排尿障害の分類とケア ケアのポイント 《ポイント 1》 ○ 医療機関との連携(泌尿器科)→放置すると尿路感染や尿路 結石、腎機能障害などにつながるための予防 《ポイント 2》 ○ 座位姿勢の維持ができるかを見極めます 実践例 1. 原則として泌尿器科を受診します ・ 排泄ケアの中で看護職員と連携をし、速やかな受診が大切で す (状態によっては導尿が必要となる) 2. 座位姿勢の維持ができる場合は、可能な限り座位で排尿して いただきます ・ トイレに定期的に座ってもらうことで尿の排出が改善される ことがあります D) 腹圧性尿失禁 【原因】 膀胱内にある程度尿が貯留した状態の時に、咳やくしゃみなど で腹圧がかかり失禁してしまう状況です。尿道括約筋の働きが弱 3 くなることにより漏れてしまいます。 ケアのポイント 《ポイント 1》 ○ 利用者の生活の中で腹圧がかかる場面の想定 《ポイント 2》 ○ 尿道括約筋を鍛えるリハビリをメニューに追加します 実践例 1. 腹圧がかかるような活動の前には排尿していただき、膀胱を 空にしておきます ・ 外出や行事、リハビリ実施前にトイレに行っていただきます 2. (5)骨盤底筋 骨盤底筋体操をすることで、尿道括約筋を強くし尿漏れを予 防します ・ 普段の生活の中やリハビリ時間等に肛門を締めたり緩めたり を繰り返す運動を実施(骨盤底筋(5)を鍛える体操) E)その他の失禁 ① 一過性の要因による尿失禁 せん妄状態、精神的要因、睡眠剤などの薬物使用、尿路感染症、 多尿、運動制限、便秘など (図版引用元:ハルンケア) (http://harncare.jp/training/ index.html) 全国高齢者ケア研究会 4 高齢者の排尿障害の分類とケア 【原因】 体調不良、脱水、低栄養、臨時薬の使用、泌尿器系の病気、安 静指示などにより、尿失禁をする状況 ケアのポイント ○ 原因となる病気や症状・状態がはっきりしていれば、そのこ とに対しての治療やケアを行い、状況の改善を図る ② オムツ性尿失禁 【原因】 濡れているオムツが常に当たっていることで、尿意が薄れてし まう状態。 ケアのポイント ○ 総合記録シートで排尿間隔をつかみ、最も尿量が多い時間帯 にトイレに座り、しっかりと出してもらうようにする ③ 尿排出障害 【原因】 前立腺肥大などで尿道が狭くなることにより、「尿が出るまで に時間がかかる」 「尿の勢いがない」 「頻尿」などの症状がみられ るようになります。 4 ケアのポイント ○ (C)溢流性尿失禁と同様 Ⅱ.注意点 A)高齢者に多い尿失禁 【機能性尿失禁+切迫性尿失禁】 認知症や脳梗塞の後遺症などによる障害でトイレ動作が困難 となり、加えて加齢に伴う膀胱許容量の収縮があるため、失禁に つながっていきます。 B)健常者と高齢者の違い (6)尿流率 健常者 高齢者 1200~ 1100~ 勢いのある尿が出るか 1500 ㏄/日 1200 ㏄/日 どうかの数値。尿量にも 1回の尿量 200~300 ㏄ 100~150 ㏄ が 30 秒程度であれば 排尿頻度 5~6 回/日 日中 6~8 回/日 健康な状態といえる。1 夜間 2~3 回/日 分以上かかるようなら、 尿流率の低下 尿の排出障害の可能性 尿の生成 よるが、1回の排尿時間 尿流率(6) 20~30 ㏄/秒 (排尿時間:15~30 秒) がある。 全国高齢者ケア研究会 4 高齢者の排尿障害の分類とケア ≪ 実 践 方 法 ≫ 失禁がある方のアセスメントとアプローチの手順を紹介します。 ① 尿失禁の状況を確認 ② 失禁の分類の仮説を立てる ③ 総合記録シート(7)で、排泄間隔と排泄量、水分摂取、活動な どの関連を確認・把握 (7)総合記録シート テキスト3を参照 ④ 既往歴や服用している薬剤の確認 ⑤ 座位を基本とし、排泄の間隔に合わせてトイレ誘導する ⑥ 必要があれば、専門医を受診する 排泄ケアの失敗は、生活への自信を奪い、自らの存在価値さえ否定 してしまうほど精神的ダメージが大きい方もみえます。 排泄ケアは生活すべてに影響を与えてしまう可能性があります。排 泄を、正しい知識と技術でサポートし、高齢者の尊厳を守るケアを心 がけましょう。 5 全国高齢者ケア研究会
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