皮膚がん治療の現況 神戸市立医療センター中央市民病院 皮膚科・長野 徹 がん診療オープンカンファレンス 14/6/12 皮膚疾患の特性 ①目に見える。 ②皮膚科医の存在する前から多くの病名がある。 ③皮疹の正確な把握が実は一番難しい。 ④知らない所見は見えない。 ⑤経過は患者自身が一番よく知っている。問診 の重要性・信頼性は特に高い。 ⑥治療の成否は一目瞭然。 皮膚がんの特性 ①目に見える。治療がうまくいかないと醜形が残り、 末期はmiserableとなる。 ②知らない所見は見えない。 ③経過は患者自身が一番よく知っている。問診の重 要性・信頼性は特に高い。 ④アクセスが簡単。容易に生検、手術しうる。 ⑤現在でもやはり手術が第一選択であることが多い。 ⑥化学療法が有効な疾患は多くない。 ⑦治療の成否は一目瞭然。 皮膚がん • • • • • • • 基底細胞癌(BCC) 有棘細胞癌(SCC) 悪性黒色腫(MM) 乳房外パジェット病(EMP) 血管肉腫(AS) 皮膚リンパ腫 転移性皮膚がん 基底細胞癌(Basal Cell Carcinoma) • 1837年アイルランドの眼科医Arthur Jacobに より初めて記載。 • ヒトで最も頻度の高い悪性腫瘍。 • 米国では年間90万人の患者が診断を受け ている。 • 高齢者に好発する腫瘍だが若年発症者を見 た場合XP,NBCCSなどgeneticな backgroundがある場合も多い。 病型 • 結節潰瘍型 BCCの基本型。日本人症例で は当初黒子様黒紫色丘疹。更に拡大すると 中央部は陥凹し周囲を隆起した黒色結節が 堤防状に取り囲む像を呈する。 • 斑状強皮症型 • 表在型 • 発生部位 表在型以外のBCCはその85% が顔面に発生。紫外線の関与が推察される が? • 表在型は他のタイプと異なり体幹に好発。扁 平で境界明瞭、ほとんど腫瘍に見えずボーエ ン病に似る。 治療 • • • • • 治療は手術が第一選択。 原則的に腫瘍辺縁から5mmはなして切除。 斑状強皮症型などは1cmのsafety marginが必要。 その後局所皮弁、遊離植皮で再建。 放射線療法、IFN局注などが手術困難例などに用 いられることも。 • エトレチナートの内服、5FU軟膏、イミキモド外用が 多発例に。 • 炭酸ガスレーザー、凍結治療では腫瘍を取り残す 可能性大。 有棘細胞癌(SCC) • BCCとともにNMSCと総称される。 • 欧米白人ではNMSCはあらゆる悪性腫瘍の 中でもっとも高頻度に見られる。 • 発がん因子として日光紫外線、放射線、HPV, 発がん化学物質、瘢痕など慢性炎症、温熱 刺激などが挙げられる。 SCCの前癌状態、早期病変 • ①SCC発生の局所的準備状態 →熱傷瘢痕、慢性放射線皮膚炎 • ②SCC in situ あるいはその早期病変 →ボーエン病ないし日光角化腫、汗孔角化腫 • ③全身的にSCCなど皮膚悪性腫瘍を発生し やすい状態 →XP,疣贅状表皮発育異常症、慢性砒素中 毒、臓器移植後 SCCの病理組織学的所見 • 少なくとも一部で表皮と連続性。 • 病変の主体は真皮内へ不規則に侵入腫瘍細 胞の充実性胞巣。 • 高分化型では角質嚢腫様構造、角質真珠 (cancer pearl)。 • 有棘細胞の分化度によって分類することも。 (Broders 分類) SCCの治療 • In situ病変なら5mm、深部組織浸潤があれ ば2cmのsafety margin は必要。 • 放射線療法も有効。手術と併用することも。 • 遠隔転移を生じたときはPEP, CA(Cisplatin +Adriamycin)など。 • 塩酸イリノテカンも有効。 乳房外パジェット病 (Extra-mammary Paget’s disease) • 乳房および乳房以外の皮膚(外陰、腋窩、肛 囲)において組織学的にPaget細胞と呼ばれ る胞体の明るい大型の異型細胞が主に表皮 内で増殖することを特徴とする悪性腫瘍。 • 全皮膚癌の10%。 • 病因:アポクリン汗器官由来と考えれていた が確定していない。 • 自覚症状のない軽微な脱色素斑として生じやがて 境界不鮮明な紅斑形成し、びらん湿潤を伴ってくる。 特に辺縁の脱色素斑は乳房外パジェット病に特徴 的でボーエン病や慢性湿疹との鑑別に役立つ。 • 多くの場合おむつ皮膚炎、カンジダ性間擦疹とされ て放置されている。 • 進行すると紅斑性局面の一部が隆起し硬い浸潤、 結節を生ずる。 • 腋窩・外陰部に同時多発することも。 • 組織学的にはPaget細胞と呼ばれる胞体の 明るい大型の細胞が散在性ないし胞巣を形 成しつつ粘膜上皮、表皮内に増殖する。 • 進行すると真皮、脈管浸潤をきたし浸潤癌と なる。高頻度にリンパ管浸潤をきたし腫瘍塞 栓、癌性リンパ管炎を起こす。 • 切除範囲の決定のためにmapping biopsyが 術前に必要。 • 所属リンパ節転移についてはsentinel LN biopsy を行う。 • 原則として皮膚側3cm、粘膜側1cmの safety marginが必要。 • 再建は一般には分層植皮、有茎皮弁。 • 化学療法は効果低い。最近low-dose FP, docetaxelなどが試されている。 乳房外パジェット病の化学療法 • • • • 1)MMC+5FU(Balducci,1988) 2)low dose FP(5FU, CDDP)(徳田、1997) 3)DTX monthly 4)FECOM(5FU,Epirubicin,carboplatin, vincristine, MMC) • 現在のところ進行例の遠隔転移巣に対して確実 な効果が期待できる化学療法のレジメンは存在 しない。 悪性黒色腫(malignant melanoma) • メラノサイト系細胞の癌化によって生ずる悪 性腫瘍。 • きわめて転移が生じやすい。 • 発生頻度は白人で人口10万対15、日本人で は10万対2。 • 高齢者に限らず30代から生ずることもある。 MMのClark分類 • • • • 表在拡大型(superficial spreading melanoma) 結節型(nodular melanoma) 悪性黒子型(lentigo maligna melanoma) 末端黒子型(acral lentiginous melanoma) MMの臨床診断に役立つABCDE診 断基準(American Cancer Society) • • • • • Asymmetry Border irregularity Color variegation Diameter(> 6mm) Elevation MMを疑ったときは・・・ • 原則として生検は禁忌?熟練した視診に頼る べき。 • どうしても判別できないときは小型の病変で あれば辺縁から2mm離して全摘出。 • 全摘出できなければ生検もやむをえないが 速やかに組織標本を作製し診断の確定。そ の結果がMMならば病期を評価し対応した治 療を1ヶ月以内に。 鑑別診断 • ①脂漏性角化症(黒褐色結節、境界明瞭表 面は多少とも角化性、顆粒状) • ②基底細胞癌(表面平滑、角化目立たない、 潰瘍化、周囲に色素斑を伴わない。) • ③色素細胞母斑 • ④老人性色素斑 MMの病期別治療原則 病期 原発巣の切除範囲 リンパ節郭清 化学療法 TIS 5mm (ー) (-) 病期1 1-2cm (ー) (-) 病期2 2-3cm (ー)or(+) (+) 病期3 3cm (+) (+) 病期4 (+) Sentinel lymphnode biopsy • MMではMortonらにより初めて施行。 • SNとは腫瘍細胞が原発巣からリンパ行性に 流れて初めて出会う所属リンパ節(通常1-2 個)のこと。転移が陰性であれば中枢側のリ ンパ節に転移は皆無に近く、予防的郭清は 不要。 • 術前RI法にて位置を同定した後、術中色素 法にて確認する。 • 乳房外パジェット病でも同様の検索を行う。 方法1 • 術前に99Tc標識human serum albumin を原発巣周囲に皮内注し数 分後よりシンチカメラにより経時的に 撮像しRIの集積を検索する。 • リンパ節への集積が確認されたらプ ローブを圧抵し体表における部位を 同定しマーキングを行う。 方法2 • 術中の色素法は2%パテントブルー(院 内製剤)を原発巣周囲にもしくは腫瘍に 皮内注ないし局注し10から15分後に術 前のリンフォシンチグラフィーにて予め マーキングした部位に皮切をいれ青染し たリンパ節を摘出する。青染したリンパ節 を見つけられなくてもシンチグラフィーの 部位に一致したリンパ節を採取できたら、 それをセンチネルリンパ節とした。 方法3 • 術中迅速病理標本はその正診率が低い ため原則として行わない。 • 永久標本を作成した後HEおよび HMB45, MART1、S100などの免疫染 色での検討を連続切片で行い、免疫染 色陽性細胞が胞巣を形成しておりHEで 見直したとき異型細胞が確認できる場合 のみ陽性とするのが最も妥当かも。 MMの治療 • 病期IIIまでであれば原則として手術的治療が 原則。病期Iで5生率98%、病期IIIで65%。 • 化学療法はDAV療法、DACTAM療法などが あるが、効果はあくまで限定的。IFNβの併用 が効果的。 • 放射線療法は原則として奏功しない。ただし 大量少数回照射が著明に効くことも。 MMの化学療法①-1 • DAV-FERON療法 DAV療法そのものは1977年から開始され進 行期MMに対しては奏効率20%。1988年か らフェロンの併用が行われ病期III症例に対し 予後を改善することが示唆された。ただし術 後のMDS(骨髄異形成症候群)の発生の報 告が相次ぎ施行される回数は徐々に少なく なっている(アルキル化剤(DTIC, ACNU)に よる)。 MMの化学療法② • DACTAM療法 DACTAM療法は1984年からDartmouth Regimenとして発表された。発表当初奏効率 55%、CR20%として大いに期待されたが、 厚生省研究班の追試では奏効率は25%前 後であった。ただしわが国の現時点での進行 期MM化学療法としては本法が推奨されてい る。 MMの化学療法③ • D-FERON療法 MDSなどの副作用、低い奏効率からDAV療 法でなく欧米で行われているダカルバジン単 剤投与250mg/㎡ d.i.v Day 1-5にフェロ ンを併用する試みも行われつつある。 MMの化学療法のレジメン④ • 免疫療法薬 ipilimumab(抗CTLA4抗体) • 分子標的薬 vemurafenib(Zelboraf、 PLX4032) 転移性皮膚腫瘍 • 肺がん、腎がんが多い。 • 乳がんの場合は直接浸潤。 • 単発であれば切除の対象となるが多発性の ことが多い。 • 通常治療の対象にはならないが、出血、自潰 して滲出液が多い場合治療の対象となる。 モーズペースト • その主成分である塩化亜鉛の働きにより腫 瘍組織を固定し皮膚の腫瘍からの出血、浸 出液の増加を抑える。 • 腫瘍の表面、もしくはガーゼにつけて数時間 もしくは1日後洗い流し、固定された組織は削 りとる。 • 副作用として腫瘍が固定される際の痛み、正 常皮膚についた場合皮膚障害が起こる。 終末期に • 終末期に転移性皮膚腫瘍による出血、多量 の浸出液、悪臭、疼痛は著しく患者QOLをさ げます。 • モーズ療法は外用時の疼痛、正常皮膚障害 を除くと副作用のほとんどない優れた療法で あり、今後は緩和ケアのスタンダードになって いくと思います。 最後に • 皮膚がんは初期診断、加療を誤らなければ かなりの確率で根治が期待できます。 • 怪しいかどうかは“疑う”ことから始まります。 皮疹は見えているわけですがセルフジャッジ を避け遠慮なくご相談ください。
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