ウォン・円・人民元為替レートと北東アジア通貨協力

ウォン・円・人民元為替レートと北東アジア通貨協力 *
仁川大学経済学部
梁峻豪
I. はじめに
地域統合のプロセスは、当該地域の為替体制のあり方と深い関係を有している。という
のは、地域統合の目標の一つは共通通貨圏を形成することにあるからである。現段階の東
アジアにおいては、地域内の各国における経済発展の水準が大きく異なり、各国が採用す
る為替制度の間にも大きな差異が存在する。けれども、これは東アジアにおいてより安定
的な為替体制を構築する必要性を否定するものではない。国際貿易の増加率は GDP の増加
率より高いことは現代の国際経済の主要な特徴の一つであるが(WTO,2002)、この傾向は
東アジアにおいてより明確に見られる。さらに近年、東アジアの域内貿易や FDI が増加し、
東アジア各国の相互依存関係が深化しつつある。これらの事実は、この地域における、持
続可能な為替体制の構築は急務になったことを意味する。本論文では、東アジアにおける
経済統合の可能性を視野に入れながら、輸出主導型成長と為替体制との関係について考察
する。
本論文の構成は次の通りである。第 II 節では、カルドアの成長理論にもとづいて、成長
様式の転換について議論する。そしてカルドア型輸出主導型成長モデルを、国際的文脈に
おいて為替制度と賃金制度とに結びつけるという、モデルの拡張の方向を示す。第 III 節で
は、まず、輸出財部門と国内財部門の労働生産性上昇率を計測し、その不均等性を明らか
にする。そして不均等生産性上昇のもとでの国際貿易に関するヒックス、パシネッティ、
バラッサ・サミュエルソンの議論に基づいて、為替制度と賃金制度の違いがもたらす 3 つ
成長パターンを提示する。第 IV 節では、日本、韓国、中国における輸出主導型成長の歴史
的教訓をふまえて、不均等生産性上昇が存在する東アジアにとって望ましい為替体制の諸
必要条件を明らかにする。結論では、東アジアにおける望ましい為替体制として、「共同的
に管理された」フロート制を提言する。
II.カルドア型輸出主導型成長モデルの再検討:成長様式の転換と為替体制
カルドアは早くから、経済成長率の国別差異のうち、かなりの部分は輸出部門のパフォ
ーマンスに起因すると指摘した(Kaldor,1966, 1970)。この認識に基づいて、カルドアは輸
*本稿の内容の一部は,Main
Tendencies of the Contemporary Capitalism and Policy Agenda
に関する国際会議(2004 年 7 月 29-30 日,於:慶北大学、韓国)で発表された。その際,Ick-Jin
Seo, Roland Borrelly の各氏から有益なコメントをいただいた。記して感謝したい。
1
出部門の発展を完全雇用や持続的経済成長を実現する主要な手段として位置づけた 1 。
カルドアの経済成長理論の核心にあるのは,生産性上昇と需要成長との間で作用する累
積的因果連関という考え方である(Kaldor, 1971)。消費主導型成長では,この累積的因果連
関のメカニズムはかなり明確である。労働生産性上昇の成果が,賃金所得の上昇として分
配されることにより,消費需要の成長が可能になる。また,消費需要の上昇は,産出量の
上昇を導き,それは learning by doing などによる動学的収穫逓増作用を通じて,労働生産
性の上昇をもたらす。また、輸出主導型成長では、輸出財にかたよった労働生産性上昇,
政府による裁量的な為替レートコントロール,賃金上昇の抑制という3つの要因のうち,
いくつかの要因によって,当該国の通貨が過小評価される状態が生じる。通貨が過小評価
されると,当該国の輸出財の国際価格が低下する。その結果,他国の国民がこの輸出財を
購入する場合に限られるが,他国の国民の購買力が高められる。すなわち,当該国で生じ
た労働生産性上昇の成果の一部は,国境を越えて漏出し,他国の国民にも分配される。こ
のような生産性上昇の成果のグローバルな分配が,労働生産性上昇を輸出需要成長に結び
つける。
カルドアの議論のもうひとつの核心は‘成長様式の転換(Boyer, 1992)’を通じて、完全
雇用をともなう持続的済成長の実現可能性を指摘する点にある。ここでいう成長様式の転
換とは、内需主導型成長から輸出主導型成長への転換だけではなく、輸出主導型成長から
内需主導型成長への転換をも含んでいる。本稿では、このような双方向の成長様式の転換
を視野に入れて、以下に述べるようなカルドアの分析枠組みの限界を乗り越え、その拡張
を試みる。
一般に、カルドアの輸出主導型成長モデルに対する批判は以下の2点に集中する。第1
は、このモデルでは輸出構造の高度化問題は十分に考慮されていない点である
(Pugno,1996)。第2は、労働力供給の制約という問題を重視していない点である
(Balassa,1963)。この2つの問題点に関して、本稿では次のようにして、解決を試みる。
第1の問題点については、第3節で簡単に説明するように、産業連関表をもとに、垂直的
統合という方法により解決できる。すなわち、各品目 1 単位の生産に直接的間接的に必要
な労働量を算出したうえで、輸出品目構成にもとづいて加重平均を行うという手続きによ
って、国民経済の輸出に関わる活動全体の労働生産性を測ることができる。このような方
法によって、輸出品目の高度化という構造変化を数量化できる(宇仁, 1995)。第2の問題
は、雇用と賃金の決定に関わる諸制度と関わっており、雇用や賃金決定をめぐる制度の分
析をカルドア型輸出主導型成長モデルに取り入れることで解決できる。
さらに、これらの問題点とは別に、為替レートに関するカルドアの議論はきわめて一国
主義的であるという第 3 の問題点もある。たとえば、彼は為替レートを介して国内価格が
1Beckerman(1962)は国際競争力や輸出方程式などを定式化することにより、カルドアの発
想をモデル化した。カルドアの輸出主導型成長モデルは Kaldor-Beckerman 輸出主導型成
長モデルと呼ばれることもある。
2
国際価格に転化するという事実に注目し、為替レートの減価を通じた国際競争力の強化を
推奨する。ここで、カルドアは主に一国経済の視点から輸出主導型成長を論じている。そ
の結果、為替レート水準の操作や、為替体制の変更は往々にして国内的あるいは国際的な
利害の対立を引き起こす点が軽視されている。たとえば為替レート切り下げによって当該
国の輸出は増えるとしても、輸入価格上昇による実質賃金低下が起きる可能性がある。ま
た貿易相手国においては、貿易赤字の累積、産業空洞化や失業増大が起きる可能性がある。
このような利害対立を緩和し、経済統合を促進するためには、国内的、国際的なコーディ
ネーションを可能にする諸制度が必要である。本稿では、利害対立の基本的要因として、
輸出部門の発展に伴って生じる生産性上昇の成果の国際的、国内的分配の変化に着目する
(Pasinetti, 1993, Chap.9, 宇仁, 1995)。このような成果の分配の変化には、為替制度だけ
ではなく賃金制度も関係している。したがって、輸出主導型成長を、国際的文脈において、
為替制度と賃金制度とに結びつけて検討しなければならない。
その際、留意しなければならないことは、資本主義の多様性と諸制度の補完性である。
国際資本移動の増大と新興工業国の金融危機の多発を背景に、1990 年代には、中間的為替
体制消滅論(hypothesis of the vanishing intermediate regime: Eichengreen, 1994,1998)
が流行していたが、今日では、最適な制度はひとつやふたつではないという認識は多くの
研究者の共通認識になりつつある。国ごとに多様な形態で存在する金融制度や賃金制度な
ど他の諸制度と為替レート制度とが相互に補完しあうことが重要である 2 。その場合、金融
制度や賃金制度などが多様である以上、それらと補完性をもつ為替制度にも多様な形態が
ありうる。
本稿は、以上のようなカルドアの分析枠組みの拡張を通じて、東アジア経済の為替体制
の議論に一石を投じることをめざしている。カルドア型輸出主導型成長モデルは、低成長
を脱するための方策として 1960 年代に考案された。しかし、1970 年代以降、日本、韓国、
中国などにおいて、輸出主導型成長が現実のものとなり、国際的な利害対立も実際に起き
た。次節以降では、上記のような拡張された分析枠組みにもとづいて、日本、韓国、中国
の輸出主導型成長がどのような要因によって支えられたか、また国内的、国際的にどのよ
2
為替制度と金融制度との関係についての研究としては吉富(2003)がある。吉富は為替制
度を通貨危機の防止という視点だけから論じるのではなく、途上国の経済発展への貢献と
いう視点も重視して、国際短資の流入規制や長期債券市場の発展のための必要な制度づく
りの必要性を主張し、途上国の金融市場の発展に適合するような為替制度を選択すべきで
あると主張する。また、ADB 研究所の研究者たちは金融市場を支える制度を基本の制度、
銀行部門を支える制度、資本市場を支える制度にわけて詳細に論じた上で、制度の質を数
量 化 し 金 融 自 由 化 と 制 度 の ギ ャ ッ プ を 明 ら か に し た ( Chang_Lee and Ahn, 2001;
Chang_Lee, 2002)。所得分配や投資の視点から輸出主導型成長や金融自由化を論じる研究
として、寺西(1998)、宇仁(2003)がある。
3
うな利害対立を引き起こしたかを実証的に明らかにする。そのうえで、賃金制度や為替制
度の改革を通じた成長様式の転換の実現可能性について論じる。
III. 不均等生産性上昇と成長体制
1 輸出財、国内財の労働生産性上昇率と賃金率の計測
生産性上昇と需要成長との間で作用する累積的因果連関を重視するカルドアの分析視角
を採用する場合,輸出財、国内財の労働生産性上昇率と賃金率を計測することが必要であ
る 3 。その手続きの詳細については付録に記しているが,要約すると次の通りである。産業
連関表のレオンチェフ逆行列を使って,各商品 1 単位を生産するのに直接的間接的に必要
な労働量,すなわちパシネッティのいう「垂直的統合労働投入係数」を算出する。輸出を
構成する諸商品の構成比で加重して求めたこの労働量の平均値を,「輸出財」の垂直的統合
労働投入係数とする。同様にして,国内で需要される財(以下「国内財」と呼ぶ。本稿で
の「輸出財」
「国内財」は、輸出と国内需要を構成する複数の商品からなる「商品バスケッ
ト」あるいは「合成商品」である。
)の垂直的統合労働投入係数を求める。この値の低下率
を,輸出財,国内財の労働生産性上昇率とする。また、同様に、産業連関表のレオンチェ
フ逆行列を使って,各商品 1 単位を生産するのに直接的間接的に必要な賃金コスト,いわ
ば「垂直的統合単位労働コスト」を算出する。この「垂直的統合単位労働コスト」を上記
の「垂直的統合労働投入係数」で除すことにより、各商品を生産するのに直接的間接的に
必要な労働に関する賃金率がえられる。輸出を構成する諸商品の構成比で加重して求めた
この賃金率の平均値を,輸出財に関する賃金率とする。同様にして,国内財に関する賃金
率を求めることができる。
米国と日本と韓国における輸出財,国内財の労働生産性上昇率と賃金上昇率は図 1~3 の
通りである(数値は付録の付表 1~3 に示す。中国については、1992~97 年の労働生産性
上昇率しか得られていないが、輸出財の労働生産性上昇率は年率で 18.5%であり、国内財
の労働生産性上昇率 8.6%を大きく上回る。またこの時期の中国全体の名目賃金上昇率は
18.8%であり、実質賃金上昇率は 5.0%であった)
。
Balassa-Samuelson 効果の実証研究などにおいても、貿易財と非貿易財の労働生産性上
昇率の計測が必要となる。しかし、多くの既存の研究では、製造業を貿易財部門とみなし、
諸サービス業を非貿易財部門とみなすという極めて安易な区分法が採用されている。例え
ば、Canzoneri et al(1999), Égart(2002), Kovács(2004)、河合・粕谷・平形(2003)など。
3
4
図1 米国の労働生産性上昇率と賃金上昇率
25%
20%
国内財労働生産性上昇率
輸出財労働生産性上昇率
国内財名目賃金上昇率
輸出財名目賃金上昇率
国内財実質賃金上昇率
輸出財実質賃金上昇率
15%
10%
5%
0%
1972- 77
77- 82
82- 87
87- 92
92- 97
- 5%
図2 日本の労働生産性上昇率と賃金上昇率
25%
国内財労働生産性上昇
率
輸出財労働生産性上昇
率
国内財名目賃金上昇率
20%
15%
10%
輸出財名目賃金上昇率
5%
国内財実質賃金上昇率
0%
輸出財実質賃金上昇率
-5%
1965- 70-75 75-80 80-85 85-90 90-95
70
5
952000
図3 韓国の労働生産性上昇率と賃金上昇率
30%
25%
国内財労働生産性上昇率
輸出財労働生産性上昇率
国内財名目賃金上昇率賃金
輸出財名目賃金上昇率
国内財実質賃金上昇率賃金
輸出財実質賃金上昇率
20%
15%
10%
5%
0%
1975-80
80-85
85-90
90-95
95-98
米国と日本については、次の 4 点がいえる。第 1 に、国内財に関する賃金率と輸出財に
関する賃金率とは、ほぼ均等に上昇している。第 2 に、この二つの名目賃金上昇率は、輸
出財労働生産性上昇率を大きく上回る時期もあるし(1970 年代の米国)、ほぼ等しい時期も
あるし、大きく下回る時期もある(1980 年代半ば以降の日本)。このような名目賃金上昇率
と労働生産性上昇率との大小関係が、時代や国によって違うことの背景には、労使の力関
係の変化や賃金制度の変化がある。第 3 に、輸出財の労働生産性上昇率は、国内財のそれ
を大きく上回る時期が多い。第 4 に、国内財の労働生産性上昇率を上回る名目賃金上昇分
は、国内財の物価上昇によって、打ち消されている。その結果、ほとんどの時期において
実質賃金上昇率は、国内財労働生産性上昇率とほぼ等しいか、やや下回っている。
韓国については、次の点が米国や日本と異なる。第 1 に、1990 年代半ば以降は、国内財
と輸出財との間で名目賃金上昇率の格差が生じている。この賃金上昇率の格差は、労働生
産性上昇率の格差をある程度反映している。第 2 に、国内財の物価上昇が実質賃金上昇を
抑制する効果は作用しているが、その強さは時代によって異なる。1980 年代前半において
実質賃金上昇は強く抑制されているが、その他の時期においては、実質賃金上昇は、国内
財の労働生産性上昇率を上回る。これは、韓国においては、1980 年のクーデターや 1987
年の民主化革命、1997 年の経済危機などを契機に、労使の力関係が大きく変動し、それが
マークアップ率や労働分配率を変化させたためである。
3 国に共通していえることは、輸出財に関する労働生産性上昇率と名目賃金上昇率との大
小関係や差の大きさは時期により国によりかなり多様であるということである。以下で述
べる(3)式によれば、この差の大きさが 2 国間で異なる場合、この 2 国間の自然為替レート
が変化する。その場合、自然為替レートの変化に応じた実勢レートの調整を可能にするよ
うな制度的アレンジメントが必要となる。
6
2 不均等生産性上昇をともなう 3 つの成長パターン
輸出財と国内財の労働生産性上昇が不均等な場合、賃金制度と為替制度の形態に応じて 3
つの異なる成長体制があらわれる。それらは、ヒックス、パシネッティ、バラッサ・サミ
ュエルソンの議論と関係している。
ヒックスは 1950 年代における英米間の貿易支出不均衡問題に触れながら,固定為替レー
トのもとで生産性の不均等な変化が、生産性の上昇する A 国と生産性の上昇しない B 国に
及ぼす影響を理論的に論じている(Hicks[1953], pp.117-35)。A 国の生産性上昇が輸出財
部門に限定され(export-biased),両国の賃金率や利潤率が不変である場合,A 国の輸出財
の価格は大きく低下し,A 国製品を購入する B 国国民が利益を得る。つまり、A 国におけ
る生産性上昇の成果が B 国へ漏出する。このケースでは、A 国の均等賃金率には、輸出財
部門の労働生産性上昇はまったく反映されない点に留意すべきである。つまり国内財の労
働生産性上昇に応じて賃金を上昇させるという賃金制度が仮定されている。
さらに、パシネッティは為替レート調整を組み込んで生産性上昇と国際貿易を論じた
(Pasinetti[1993], pp.148-76)。パシネッティは貿易財に限定した購買力平価の成立、すな
わち貿易財の一物一価の成立をもたらすような為替レート調整を考察した。上記のヒック
スのケースでは,A 国の輸出財の価格は A 国通貨ベースでは低下するが,この価格低下を
完全に相殺するように為替レートは変化する。その結果,B 国通貨ベースでは A 国輸出財
の価格は不変であり,A 国で生じた生産性上昇の成果は漏出しない。このような「生産性上
昇の成果の国内完全閉鎖」を実現する為替レートをパシネッティは「自然為替レート」と
呼ぶ。しかし,
「生産性上昇の成果の国内完全閉鎖」は「原理,あるいは一般法則」であり,
実際の為替レートは短期的には自然為替レートから乖離するとパシネッティは述べている。
このようなヒックスとパシネッティの考察の含意は、Baumol[1967]の不均等成長論を 2
国モデルに拡張することによって、さらに明確になる。
A 国の国内財の労働生産性を  A 、その上昇率を  A で表す。また輸出財の労働生産性を
 A 、その上昇率を  A 、賃金率を  A 、その上昇率を  A とする。輸出財部門と国内財部門
の賃金率は均等であると仮定する。B 国については、これらの変数を順に、
 B ,  B ,  B ,  B ,  B ,  B で表す。
A 国の国内財の労働生産性  A は、その初期値を  A 、時間を t で表すならば、
 A   A e t である。また A 国の賃金率は、その初期値を  A とするならば、 A   A e
である。したがって A 国の国内財の単位労働コスト C AN は、次のようになる。
A
C AN 
 A  A (

e
A A
A  A ) t
(1)
7
At
また、A 国の輸出財の単位労働コスト C AT は、次のようになる。
C AT 
 A  A (

e
A A
A  A )t
(2)
上記のヒックスのケースでは、  A だけが正の値であり、  A と  A はゼロである。さらに、
マークアップ率等は不変であり各財の価格は単位労働コストに比例すると仮定すると、A 国
の国内財の価格は時間を通じて不変であり、輸出財の価格は低下することになる。A 国の輸
出財価格の変化率は 
A
  A    A である。また、  B ,  B ,  B はゼロと仮定されているの
で、B 国の国内財と輸出財の価格は時間を通じて不変である。
A 国と B 国の輸出財は国際市場で競合関係にあると仮定する。また B 国通貨が国際通貨
であり、B 国通貨建ての A 国通貨レートを E で表し、その変化率を  で表すと、A 国輸出
財の国際価格は、A 国通貨建て価格× E であるから、国際価格の変化率は 
A
  A   とな
る。上記のヒックスのケースでは固定為替レートが仮定されているので、  はゼロであり、
A 国輸出財の国際価格は低下していく。B 国輸出財の国際価格は不変であるので、国際市場
での A 国のシェアは増加し、B 国のシェアは低下していくだろう。その結果、A 国におい
ては、雇用の増加という利益がもたらされるかもしれない。
他方、上記のパシネッティのケースでは、自然為替レートが実現するので、A 国通貨は B
国通貨に対して増価していく。自然為替レートの変化率  n は、 
A
  A  n   B   B を
満たす値となる。すなわち、
 n  ( A   A )  ( B   B )
(3)
である。上記のケースでは  n   A となり、A 国の輸出財の労働生産性上昇率と同じ率で、
A 国通貨の自然為替レートは増価していく。現実の為替レートが自然為替レートにしたがっ
て変化する場合においては、A 国輸出財の国際価格は不変である。この場合、国際市場での
A 国のシェアは増加しないだろう。
(3)式は、輸出財部門の労働生産性上昇という主として技術的な要因に加えて、為替制度
と賃金制度という二つの制度的要因の連関を表現している。現実の為替レートが自然為替
レートにしたがって変化するかどうかは為替制度に依存する。たとえば、固定為替レート
制や通貨統合の下では、自然為替レートの変化に応じた頻繁な為替レート調整は困難ある
いは不可能である。また自然為替レートの変化率の大きさは、賃金制度にも依存している。
たとえば、上記のヒックスのケースでは、賃金上昇率を国内財労働生産性上昇率にインデ
クッスする制度が仮定されているので、A 国の輸出財部門の労働生産性上昇率は正の値であ
るのに賃金上昇率はゼロである。(3)式によると、輸出財部門の労働生産性上昇率と賃金上
昇率との間の差は、自然為替レートを増加させる圧力として作用する。このような場合に、
8
現実の為替レートを自然為替レートに対応させるには、頻繁な為替レート調整を可能にす
る為替制度が必要となる。上記のパシネッティのケースは、このような柔軟な為替制度を
前提とする。
他方、両国において、名目賃金上昇率が輸出財労働生産性上昇率にインデックスされる
という賃金制度が存在するケースも考察に値する。Balassa-Samuelsonモデル(Balassa,
1964, Samuelson, 1964)の通常の解釈においては、貿易財に関する一物一価の成立、つまり
現実の為替レートと自然為替レートとの一致という第一の仮定に加えて、賃金上昇率が輸
出財部門労働生産性上昇率に等しいという第二の仮定が採用されることが多い 4 。このよう
なケースを、以下では「バラッサ・サミュエルソンのケース」と呼ぶ。このケースでは(3)
式によれば、自然為替レートは不変となる。したがって、為替レート調整なしで、つまり
固定為替レート制の下でも自然為替レートが実現する。ただし、この場合、(1)式を見れば
わかるように、国内財の価格は、名目賃金上昇率と同率で上昇していく。したがって生産
性上昇率の低い財の価格上昇というボーモル効果によって、名目賃金上昇は打ち消され、
実質賃金は不変になる。
ヒックスのケース、パシネッティのケース、バラッサ・サミュエルソンのケースの諸結
果をまとめると、表 1 のようになる。ヒックスのケースが輸出主導型成長の典型である。
パシネッティのケースとバラッサ・サミュエルソンのケースは、ともに内需主導型成長で
あるが、後者はインフレをともなっている。ヒックスのケースとパシネッティのケースと
の違いは、実勢レートの変化率にある。すなわち為替制度の違いが関係している。ヒック
スのケースとバラッサ・サミュエルソンのケースとの違いは名目賃金上昇率にある。すな
わち賃金制度の違いに起因している。このことは、輸出主導型成長から内需主導型成長へ
の成長体制の転換は、為替制度や賃金制度の変化と関わっていることを示す。
Balassa-Samuelson モデルにおいて、上記の二つの仮定を採用する場合、貿易財部門の
労働生産性上昇率が非貿易財部門のそれを上回るとき、貿易財の価格は不変であり、非貿
易財の価格は上昇する。その結果、この二つの加重平均である一般物価の上昇は、自国通
貨の実質為替レートの上昇につながる。こうして主として技術的要因に基づく産業間の生
産性上昇率格差によって実質為替レートの変化がもたらされるという Balassa-Samuelson
効果が導かれる。しかし、このような Balassa-Samuelson モデルの通常の解釈においては
制度的要因が無視されている。上述のように、第一の仮定の成立は為替制度に依存してい
るために、必ずしも自明ではない。また、第二の仮定の成立も賃金制度に依存しているた
めに、必ずしも自明ではない。現に、Balassa-Samuelson 効果に関するいくつかの実証研
究は、第一の仮定の不成立、つまり貿易財に関する一物一価の不成立を証明している。し
たがって、実質為替レートの変化は産業間の生産性上昇率格差だけでは説明できないこと
になる(Canzoneri et al(1999), Égart(2002), Kovács(2004)、河合・粕谷・平形(2003)など)。
また、図 1~3 をみると、Balassa-Samuelson モデルの解釈における第二の仮定は成立して
いない時期が多い。
4
9
表1
3 つのケースの諸結果
ヒックス
パシネッティ
バラッサ・サミュエルソン
名目賃金上昇率
0*
0*
+
自然為替レート変化率
+*
+*
0
実勢レート変化率
0
+*
0
国内財価格上昇率
0
0
+*
輸出財価格上昇率
-*
-*
0
輸出財国際価格上昇率
-*
0
0
実質賃金上昇率
0*
0*
0*
輸入財購買力上昇率
0*
+
+
輸出主導型成長
内需主導型成長
インフレをともなう
成長体制
内需主導型成長
注: 3 つのケースに共通する前提は、A 国と B 国の国内財労働生産性上昇率、輸出財労働生産性上昇率のう
ち、A 国の輸出財労働生産性上昇率  A だけが正の値であり、残りはゼロであるという点である。表中の+
記号は、正の値である  A に等しい値となることを示す。表中の-記号は、負の値である   A に等しい値
となることを示す。A 国の国内財労働生産性上昇率  A が輸出財労働生産性上昇率  A よりも小さい正の値
となるより一般的なケースを考えると、アスタリスクを付したゼロは  A に変わり、アスタリスクを付し
た+記号は  A
  A に変わり、アスタリスクを付した-記号は  (  A   A ) に変わる。
以下の節では、貿易財に関する一物一価の不成立、つまり自然為替レートと実勢レート
との乖離を、賃金制度と為替制度という二つの制度的要因を重視して説明する。具体的に
は、このような制度的要因にもとづく為替レートの過小評価が、日本、韓国、中国の輸出
主導型成長を支えたことを明らかにする。さらに賃金制度と為替制度の改革を通じて輸出
主導型成長を内需主導型成長に転換する可能性について論じる。
IV 為替体制の選択とその安定性
1 日本、韓国、中国の輸出主導型成長の歴史的教訓
われわれの研究 5 によると、3国とも、輸出主導型成長の時期には、為替レートは過小に
評価されていた。為替レートの過小評価というのは、自然為替レートと比べて、実勢レー
トが安すぎることをいう。(3)式と3つの国の過去の経験を参照すると、通貨の過小評価は、
主に次の 3 つの要因で発生することがわかる。第 1 は、輸出財部門における顕著な労働生
産性上昇(  A の増加)、第2は、賃金の抑制(  A の低下)であり、第3は、実勢為替レー
5宇仁・宋・梁(2003)
10
トの裁量的コントロールである。
この3つの国の輸出主導型成長を比較すると、次のことがいえる。第1の要因である輸
出財にかたよった労働生産性上昇は,中国と日本においては存在したが,1980 年代の韓国
では存在しなかった。1980 年代の輸出主導型成長期において,ウォンの自然為替レートは
ゆるやかにウォン安方向に動いているのに対し,輸出主導型成長期の人民元と円の自然為
替レートはドルに対して元高,円高方向に動いている。この違いの主な理由は,輸出財の
労働生産性上昇率が韓国では約 6%と,それほど高くなかったためである。
第2の要因である賃金抑制の成功については,3国は共通している。図 2 と図 3 に示す
ように、日本の 1975~85 年、韓国の 1980 年代において、実質賃金上昇率は国内財労働生
産性上昇率を下回った。
また中国においても 1992~97 年の実質賃金上昇率は 5.0%であり、
国内財労働生産性上昇率の 8.6%を下回っている。しかし韓国では 1980 年代の賃金抑制が、
全斗煥政権による労働法改悪や労働運動の弾圧など強権的な措置によって行われた点は,
協調的な労働組合と経営者との合意を通じて賃金抑制が行われた日本と異なる。また,中
国において賃金抑制を可能にした主な要因は,独立した労働組合の不在や政府の所得分配
政策の転換である。1990 年代半ばまでは、国有企業や集団所有制企業における雇用保障が
労働者の所得を支えていたが、90 年代半ば以降、この雇用保障政策は放棄され、大規模な
リストラが始まった。
第3の要因である為替レートの裁量的コントロールは,韓国と中国に共通して存在した。
中国政府による厳格な為替レート管理が存在する点において,中国政府による裁量の程度
は韓国のそれより大きい。日本の輸出主導型成長に関しては,日本ではなく米国レーガン
政権の「強いドル」政策の影響が大きい。
この 3 国の輸出主導型成長の特徴をまとめると、表 2 のようになる。
表2
3 国の輸出主導型成長の比較
日本(1975-85)
韓国(1980-87)
中国(1990- )
輸出財>国内財
輸出財=国内財
輸出財>国内財
名目賃金上昇率
+
+
+
自然為替レート変化率
+
0
+
実勢レート変化率
0
-
-
国内財価格上昇率
+
+
+
輸出財価格上昇率
-
+
0
輸出財国際価格上昇率
-
-
-
国内財労働生産性上
国内財労働生産性
国内財労働生産性上
昇率より小
上昇率より小
昇率より小
+
0
0
労働生産性上昇率
実質賃金上昇率
輸入財購買力上昇率
11
表 1 に示すヒックスのケースを参照すると、日本の輸出主導型成長はヒックスのケース
に最も近い。日本の名目賃金上昇率が輸出財労働生産性上昇率とほぼ等しい点は、ヒック
スのケースと異なるが、相手国米国の名目賃金上昇率が輸出財労働生産性上昇率を大幅に
上回っていたために、自然為替レートは円高方向に動いた。中国の輸出主導型成長は、日
本のケースに、実勢レートの裁量的切り下げが加わったケースである。1980 年代の韓国に
おいては輸出にかたよった労働生産性上昇はなく、自然為替レートの増価もなかったが、
通貨の裁量的切り下げによって、自然為替レートと実勢レートとの乖離が生じた。
要因の違いはあるにせよ、このような通貨の過小評価状態は、貿易相手国における貿易
赤字の累積や産業空洞化や失業問題の一因とみなされ、国際的非難をあびることにもつな
がる。この意味で、通貨の過小評価にもとづく輸出主導型成長は、長期的にみれば持続不
可能である。また、以下に述べる理由により、国内の所得分配の観点からみても、望まし
くない。ヒックスのケースでは、A 国の労働者の努力によって実現した労働生産性上昇の成
果の一部分は、B 国で A 国製品を購入する人々が、A 国製品の価格低下というかたちで、
受け取ることになる。パシネッティのケースやバラッサ・サミュエルソンのケースのよう
に、通貨の過小評価がない状態では、A 国の労働生産性上昇の成果は、輸入財に関する購買
力の上昇というかたちで A 国国内の人々に分配され、海外には漏出しない。
80 年代の日本や韓国においても、現在の中国においても、輸出企業の経営者などは、通
貨の切り上げに対して強力な抵抗を示す。通貨の切り上げは、輸出品の国際競争力の低下
につながり、輸出品の生産量の減少は景気の悪化や雇用の減少につながるというのが、通
貨切り上げ反対論者の主張である。しかし、1980 年代に大幅な円高、ウォン高を経験した
日本と韓国の事例は、このような反対論は杞憂にすぎないことを示している。1985 年の円
高方向への調整の後、短期間の景気後退は起きたが、日本の景気はすぐ回復した。逆に「円
高不況」に過剰反応した日本銀行が、低金利政策をあまりに長期間続けたために、過剰融
資・投資が起こり、バブル景気に突入する結果となった。
韓国ではウォン高方向への調整が進むのとほぼ同じ頃、1987 年に民主化革命が起きた。
その結果、労働組合の交渉力が強まり、ほぼ労働生産性上昇率に等しい大幅賃上げが実現
された。そして輸出に代わって国内の投資や消費が経済成長を主導する時代が始まった。
注目すべきことは、1980 年代には低迷していた労働生産性上昇率が、1990 年代には高まっ
たことである。80 年代における労働生産性の低迷の一因は、賃金抑制などにより労働意欲
が減退していた点にある。民主化による労使関係の転換や大幅賃上げによって、労働者の
労働意欲が高まったことが、90 年代以降の労働生産性上昇の一因である。通貨の切り上げ
は輸出品の国際競争力を低下させるが、この労働生産性上昇は国際競争力を高める効果を
もつ。ウォンの切り上げの後、韓国では米国向け輸出の伸び率は低下したが、それに代わ
って、日本向けやアジア諸国向け輸出の伸び率は増加した。
現在の中国でも、国際競争力の低下を恐れる経営者を中心に、人民元レートの切り上げ
に反対する主張が根強い。しかし、上記の日本や韓国の経験をみれば、人民元レートの切
12
り上げを実施しても、それほど大きな経済的打撃を受けないシナリオも十分ありうる。そ
のためには国際労働基準の導入、労働者の権利の法的保障、労働生産性上昇に応じた賃金
上昇など、内需主導型成長の前提となる諸制度の整備が必要である。
2 東アジアにとって望ましい為替体制の諸条件
このような内需主導型成長への転換も視野に入れて、東アジアにおいてどのような為替
体制が望ましいのかを考えてみよう。まず、東アジア諸国においては、輸出財の労働生産
性上昇率が国内財のそれを大きく上回ることを確認しておこう。(1)(2)式を使うと、輸出財
と国内財との単位労働コスト比は次のようになる。
C AT  A ( A   A ) t

e
C AN  A
輸出財と国内財との価格比が単位労働コスト比に比例すると仮定すれば、この価格比の
変化率は、  A   B である。すなわち、輸出財の労働生産性上昇率が国内財のそれを上回
る場合、国内財に対する輸出財の相対価格は低下していく。
図4 東アジア諸国における輸出価格/卸売価格比
1995年=1 (中国の1980-90年については 1985年=1)
1.6
1.4
日本
韓国
中国
シンガポール
タイ
米国
1.2
1.0
0.8
0.6
1980
85
90
95
2000
出所: IMF International Financial Statistics. 中国の卸売価格指数については『中国統計年鑑』、1980 年代の輸出価
格指数については『中国貿易年鑑 1991/92』、90 年代の輸出価格指数については中国税関による推計にもと
づく。
図 4 は、東アジア諸国における輸出財の相対価格の推移を示している。タイを除く諸国
で、輸出財の相対価格は低下傾向を示している。このことは、輸出財の労働生産性上昇率
13
が国内財のそれを上回ることを示唆している。東アジア諸国でみられるこの不均等生産性
上昇は、ヒックス、パシネッティ、バラッサ・サミュエルソンの諸ケースに共通する前提
条件をなすものにほかならない。つまり東アジア諸国においては、為替制度と賃金制度の
形態の如何によって、ヒックスのケースのような輸出主導型成長、パシネッティのケース
のような内需主導型成長、バラッサ・サミュエルソンのケースのようなインフレをともな
う内需主導型成長が出現する可能性がある。
図5 EU諸国における輸出価格/卸売価格比
1995年=1
1.6
1.4
ドイツ
フランス
イタリア
ベルギー
スウェーデン
スペイン
1.2
1.0
0.8
0.6
1980
85
90
95
2000
出所: IMF International Financial Statistics
図 5 は、EU 諸国における輸出財の相対価格を示しているが、すべての国において低下傾
向はみられない。このことは EU 諸国においては、不均等生産性上昇の問題は存在しない
ことを示唆している。(1)(2)式によれば、名目賃金上昇率が部門間で均等である場合、この
均等賃金上昇率を均等労働生産性上昇率と一致させれば、国内財と輸出財の単位労働コス
トはともに安定化する。価格が単位労働コストに比例すると仮定すると、単位労働コスト
が安定化すると国内財価格も輸出財価格も同時に安定化する。いいかえれば、各国の国内
インフレ率をゼロにすれば、自動的に輸出財価格も不変となるので、為替レート調整の必
要性がなくなる。したがって EU における通貨統合のプロセスにおける主要課題のひとつ
は、各国の国内インフレ率をゼロに均等化させるということであった。
図 6 と図 7 は東アジア諸国と EU 諸国におけるインフレ率の推移を示している。図 7 に
示すように、EU 諸国では、インフレ率のゼロへの収斂が数 10 年かけて徐々に達成された。
多くの東アジア諸国において、97 年のアジア通貨危機以前は、インフレ率はかなり高かっ
たが、それ以降鎮静化している。最近の中国では物価下落の傾向すらみられる。インフレ
率のゼロへの収斂が達成されたとしても、不均等生産性上昇が存在する東アジア諸国では、
輸出財価格は不変にはならない。したがって東アジアにおいては、不均等生産性上昇が存
14
在するかぎり、為替レート調整の問題は制度的課題として残り続ける。
図6 東アジア諸国におけるインフレ率
30%
25%
日本
韓国
中国
シンガポール
タイ
米国
20%
15%
10%
5%
0%
1980
-5%
85
90
95
2000
出所: IMF International Financial Statistics
図7 EU諸国におけるインフレ率
30%
25%
ドイツ
フランス
イタリア
ベルギー
スウェーデン
スペイン
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
1980
85
90
95
2000
出所: IMF International Financial Statistics
多くの東アジア諸国において、輸出財の労働生産性上昇率が国内財の労働生産性上昇率
を大きく上回る原因は次の点にある。NIES における輸出志向工業化の成功以来、多くの東
アジア諸国は、先進国資本と先進国技術を積極的に導入して、輸出財の生産を促進する戦
略を採用している。その結果、最新技術を装備して大規模生産を行う輸出向け製品生産工
15
場では、高い労働生産性上昇率が実現するのである。この輸出財にかたよった生産性上昇
という傾向は、先進国へのキャッチアップが完了するまで続くと考えられる。さらに近年、
インフレ抑制策の一環として名目賃金上昇率が抑制される傾向にある。したがって(3)式の
名目賃金上昇率と輸出財労働生産性上昇率との差は、当分の間、かなり大きいまま推移す
ると考えられる。その結果、そのような国の通貨の自然為替レートは持続的に切り上がっ
ていくことになる。先に述べたような、通貨の過小評価状態を引き起こさないためには、
実勢レート水準を、自然為替レートの変化に応じて、調整するしくみが必要である。その
ような条件を満たす為替体制として、どのようなものが考えられるだろうか。
為替体制には様々なものがある。一方の極には、単一通貨を用いる通貨同盟という完全
な固定相場制がある。他方の極には外国為替市場で為替レートを決定する純粋な変動相場
制がある。この両極の中間には、日本のように政府が為替市場に頻繁に大規模に介入する
「ダーティな」変動相場制や、為替市場での為替レートの目安や変動幅などを政府が規制
する管理フロート制などがある。
1980 年代頃から国際資本移動が量的に増大している。経済発展にとって外国資本とくに
長期的な直接投資は必要な場合もあり、メリットもあるが、同時にデメリットもある。投
機的動機による外資の急激な流入と流出は、バブルの発生と崩壊という混乱をもたらすか
らである。大部分の国では外資のもたらすメリットの方を重視して、資本移動を自由化し
た。資本移動を自由化すると、純粋な変動相場制と通貨同盟しか存続できない、つまり中
間的な為替体制は消滅するという仮説をアイケングリーンは唱えた(Eichengreen, 1994)。
中間的な為替体制は、投機的なアタックに対抗できず、敗北するというのがその理由であ
る。また、中間的為替体制消滅論者はペック制のもとで企業と銀行は為替レート調整の可
能性を無視し、持っている外貨債務をヘッジしないだろうと指摘する。また、彼らは政府
がペック制の問題点を発見しても政治的影響に配慮するので、為替制度が変更されるまで
多くの時間が費やされることが多く、中間的為替体制のコストが高いと強調する
(Zettelmeyer,2001; Goldstein,1999)。先に述べたように不均等生産性上昇が存在する東
アジア諸国においては為替レート水準の長期的な調整が必要であるので、固定相場制は採
用できない。中間的為替体制消滅論に従えば、結局、純粋な変動相場制を採用するしかな
いということになる。
しかし、この中間的為替体制消滅論は次の3つの理由により真実ではない。第1に、共
同フロート(collective float)とよばれた欧州通貨制度(EMS)は、1992~93 年の投機的アタッ
クに対して、変動幅拡大で対抗し、生き残った。第2に、1997 年の東アジアの通貨危機を
経て、タイや韓国などは、ドルペッグ制や管理フロート制を捨てて、変動相場制に移行し
たが、変動相場制下の日々の為替レートの運動をみると、ドルペッグ制の時代とそれほど
変わらない(McKinnon, 2001)。つまり形式的には変動相場制であるが、事実上、固定相場
制に等しい 6 。第3に、ブレトンウッズ体制崩壊後、変動相場制の下にある円-ドルレート、
6
このようなドルペッグ制では、ドルに対する円安が進行すると、ドルにペッグする通貨は
16
あるいはマルク-ドルレートの動きをみればわかるように、オーバーシューティングが頻
繁に生じている。したがって変動相場制では、自然為替レートにそった実勢レートの長期
的な調整は現実的には不可能である。
V 結論
以上述べた考察をふまえると、東アジアにおいては、為替レート水準の長期的な調整が
可能で、投機的なアタックにも対抗可能な為替体制を構築しなければならない。しかもそ
れを、変動相場制でもなく、単一通貨同盟でもない形態で、構築しなければならない。そ
れは可能だろうか。
われわれの提言は次の通りである。
東アジアにおいて、為替体制に関連して2つの制度改革が必要である。第1は、労働者
の権利保障などを通じて、国内財の労働生産性上昇に応じた実質賃金上昇を支える制度的
しくみを整備することである。これにより、日本、韓国、中国の輸出主導型成長期にみら
れたような実質賃金上昇率が国内財労働生産性上昇率を下回る事態は回避できる。そして
このような賃金制度は、所得分配のパターンを変え、輸出主導型成長からインフレなき内
需主導型成長への転換を支える役割を果たす。しかし、国内財労働生産性上昇に応じた賃
金上昇が実現したとしても、不均等生産性上昇がある場合、自然為替レートは時間を通じ
て変化する。したがって、次に述べる為替制度改革が必要である。
東アジアに必要な第2の制度改革は、為替体制そのものの改革である。自然為替レート
に沿った実勢レートの柔軟な調整を可能とする為替体制を選択することが必要である。現
在の中国が採用しているような事実上の固定相場制は、通貨の過小評価を引き起こすがゆ
えに、不適当である。さらに、事実上の固定相場制を維持するには、資本移動を規制しな
ければならないが、資本移動の規制は困難である。また、現在の韓国などが採用している
純粋な変動相場制も、事実上、ドルペッグ制あるいはドルと円とで構成されるバスケット
ペッグ制にすぎないがゆえに、長期的調整には不適当である。
結局、EMS のような「共同的に管理された」フロート制の採用が望ましいと考えられる。
この場合の「共同的な管理」とは、自然為替レートの変化に沿った実勢レートの調整の必
要性と責任を共有する各国政府の制度化された協力にもとづく管理を意味する。
この「共同的に管理された」フロート制は、次の4点に関して東アジア諸国間で締結さ
れた協定によって支えられるだろう 7 。
(1) 自然為替レートを算出するためのなんらかの算定式を定める。
円に対して増価し、日本との国際競争が不利になる。1997 年の東アジア通貨危機の一因は
当時の東アジア通貨のドルペッグ制の下で円安が進行したことにあるといわれる(Bayoumi
et al, 2000, Kawai, 2002)。実際、2000 年 12 月からドルに対する円安が進んだので、韓国
ウォンなどは、ドルとの連動性をやや弱め、円との連動性をやや強めた(Kawai, 2002)。
7 田中(1996)と Aglietta et al( 1995)を参照した。
17
(2) 物価上昇率格差、労働生産性上昇率格差や賃金上昇率格差などによって、自然為替レー
トと実勢レートの乖離が生じたときに、為替レート変更を行うルールを定める。
(3) 乖離をきっかけに、投機的なアタックが発生したときに、各国が協調して為替市場に介
入するルールを定める。
(4) 自然為替レートからの実勢レートの乖離をある限度内にくい止めるための、政策協調の
必要性について合意する。
これと同様のしくみによって、EU 諸国は、域内の為替レートの安定化を果たした。EMS
が存在した 1979~99 年の間、マルク-ドルレートは極めて大きく変動し、不安定であった
が、域内諸通貨間のレートは、共同的な為替レート調整と共同的な為替市場介入によって
比較的安定的に維持された。また、ヨーロッパ諸通貨のドルからの自立を可能にした。そ
のことによって基軸通貨国としての責任を放棄した米国を実践的に批判した。資本移動を
自由化した 1990 年代には EMU は投機的なアタックにもさらされたが、為替レート調整ル
ールを変更することによってそれに打ち勝って、1999 年の通貨統合まで、EMS は存続し
た。
東アジア諸国においても、上記のような協定を採用することにより、円-ドルレートの
不安定性が東アジア域内に及ぼす悪影響を緩和できる。共同的な為替レート調整と共同的
な為替市場介入によって、他の東アジア諸国通貨の円に対するレートのオーバーシューテ
ィングがかなり回避できるからである。すなわち 1997 年に生じたような、ドルに対する円
安の進行→ドルにペッグする諸通貨の円に対する増価→日本との国際競争において他の東
アジア諸国が不利→他の東アジア諸国の貿易赤字や不況、という連鎖はかなり弱まる。
実際、変動相場制下の東アジア諸国は、このような連鎖を回避するために、円安が進行
した 2000 年末以降、事実上のドルペッグ制から、ドルと円両方へのペッグ制に移行してい
る。われわれの提案は、このように各国が個々別々に追求している域内通貨間の安定的な
関係を、制度化された多国間協調によって実現しようとするものである 8 。
付録
輸出財の労働生産性上昇率と賃金率の計測
EMU が数 10 年におよぶ試行錯誤のプロセスをへて整備されたように、このような東ア
ジア諸国間の協調体制を制度化するためには、かなりの時間を要するだろう。そこで当面
の措置として、ドルや円だけではなく、密接な貿易・投資関係にある複数の主要国の通貨
バスケットを目安としながら、各国の競争力の変動を反映する管理フロート制を導入すべ
きだとの提案がある(French and Japanese Staff, 2001, Asian Policy Forum, 2000, Kawai,
2002)。しかし、東アジアのように不均等生産性上昇が顕著な地域においては、このような
措置だけでは不十分であり、為替レートの調整メカニズムを多国レベルで制度化すること
が、EU 諸国以上に必要である。
8
18
輸出財と国内財の労働生産性上昇率および賃金率は,産業連関表などから次のように算
出される(詳しくは宇仁[1995]参照 )。
記号は次の通りである。
列ベクトル X:国内生産総額
列ベクトル Y:最終需要(国内最終需要 D と輸出 F の和)
行列 A:国産品の投入係数行列
行ベクトル a:諸商品1単位の生産に直接的に必要な労働量(就業者数)
スカラ―L:総労働量
数量方程式は次の2式で示される。
(I-A)X=Y
aX=L
以上の2式から
a(I-A)-1Y=L
(1)
a(I-A)-1 は、商品財1単位を生産するために直接的・間接的に必要な労働量、すなわち
「垂直的統合労働係数」である。それを v(行ベクトル)と表すと,次の(2)式が得られる。
vY=v(D+F)=L
(2)
d と f をそれぞれ国内最終需要と輸出の商品別構成比とすると,次の(3)(4)式が得られる。
D=d∑D
F=f∑F
(3)
(4)
(3)(4)式を(2)式に代入すると
v(d∑D+f∑F)=vd∑D+vf∑F=L
vd と vf はスカラ―となり,それぞれ国内最終需要財と輸出財1単位を生産するために直
接的・間接的に必要な労働量,すなわち垂直的統合労働係数である。垂直的統合労働係数
の低下率は労働生産性上昇率にほかならない。
就業者は、雇用者と自営業者等の合計である。このうち自営業者等に関しては賃金所得
と利潤所得が未分化である。産業連関表の雇用者報酬には、自営業者等の賃金所得部分は
含まれていない。賃金コストの計測においては、自営業者等の賃金所得部分を何らかの方
19
法で推計する必要がある。本稿では、次のように、雇用者の賃金率をそのまま自営業者等
にも適用して、各産業の賃金コストを推計した。
第 i 産業の賃金コスト = (第 i 産業の雇用者報酬÷第 i 産業の雇用者数)×第 i 産業の就業
者数
このようにして求めた各産業の賃金コストを各産業の生産額で除すことにより、各産業
の単位労働コストが求まる。この単位労働コストからなる行ベクトルを W で表す。
w=W(I-A)-1 は商品1単位を生産するために直接的・間接的に必要な賃金コストを要素と
する行ベクトルである。w は、いわば「垂直的統合単位労働コスト」である。各商品を生
産するのに直接的間接的に必要な労働に関する賃金率は、w の各要素を v の各要素で除す
ることによって得られる。このようにして求めた各商品の賃金率からなる行ベクトルをω
で表す。国内最終需要と輸出の商品別構成比 d と f をつかって加重平均した値であるωd と
ωf がそれぞれ国内最終需要財と輸出財に関する賃金率である。
計測に用いた原データは,韓国については,韓国銀行『産業連関表 1970~1995』と韓国
銀行『産業連関表 1998』である。このうち,1975,80,85,90,95,98 の非競争輸入型
逆行列係数表と,部門別就業者数のデータを使用した。それぞれ約 70 部門の表を用いた。
これらはいずれも当年価格表示の名目表であるが,「垂直的統合労働投入係数」の実質値を
求めるためのデフレータとしては,国民経済計算のデフレータ(1995 年基準)を使用した。
中国については,国家統計局『1992 年度中国投入産出表』(114 部門)と『1997 年度中国投
入産出表』(120 部門),そして,部門別就業者数に関する国家統計局の推計を使用した。ま
た,「垂直的統合労働投入係数」の実質値を求めるためのデフレータとしては,国民経済計
算のデフレータと輸出価格に関する中国税関の推計(1990 年基準)を使用した。米国の産業
連関表については,宇仁[1995]に記載している方法で,新たに 1992 年表と 1997 年表の加
工処理を行った。同様に,日本の産業連関表については,新たに 1985-90-95 年接続産業連
関表と 2000 年表の加工処理を行った。
付表1
米国の労働生産性上昇率と賃金率(年率、単位:%)
労働生産性上昇率
名目賃金上昇率
実質賃金上昇率
国内財
輸出財
国内財
輸出財
国内財
輸出財
1972-77
0.8
-1.3
7.7
8.1
0.3
0.6
77-82
-0.3
-0.2
8.3
8.6
-1.0
-0.7
82-87
1.0
4.8
4.4
4.4
1.1
1.1
87-92
1.8
4.9
4.5
4.8
0.3
0.6
92-97
1.3
3.8
2.6
2.6
-0.1
-0.1
20
付表2
日本の労働生産性上昇率と賃金率(年率、単位:%)
労働生産性上昇率
名目賃金上昇率
実質賃金上昇率
国内財
輸出財
国内財
輸出財
国内財
輸出財
1965-70
9.3
14.0
13.3
13.6
8.3
8.6
70-75
4.0
5.5
16.7
16.9
5.9
6.2
75-80
2.8
6.9
7.8
8.1
1.4
1.7
80-85
2.3
4.4
4.0
3.9
1.3
1.2
85-90
2.7
6.5
4.1
3.3
2.8
1.9
90-95
1.1
4.1
1.7
1.8
0.4
0.5
95-2000
1.0
1.9
-1.2
-0.2
-1.5
-0.5
付表3
韓国の労働生産性上昇率と賃金率(年率、単位:%)
労働生産性上昇率
名目賃金上昇率
実質賃金上昇率
国内財
輸出財
国内財
輸出財
国内財
輸出財
1975-80
5.0
10.5
27.8
27.0
11.9
11.1
80-85
6.5
6.2
12.4
10.7
5.6
3.9
85-90
6.1
6.8
13.6
13.0
8.4
7.7
90-95
4.7
13.8
14.0
15.9
8.0
9.9
95-98
2.9
8.1
6.5
12.3
1.0
6.8
参考文献
Aglietta,M. et P.Deusy-Fournier [1995], “Internationalisation des monnaies et organisation du système monétaire,” in M.Aglietta
(ed.), Cinquante ans après Bretton Woods, Economica
Asian Policy Forum [2000] Policy recommendations for preventing another capital account crisis, Asian Development Bank
Institute.
Balassa,B. [1963] “Some observations on th Beckerman’s ‘export-propelled’ growth model”, Economic Journal 73, pp.763-784.
Balassa, B. [1964] “The Purchasing Power Parity doctrine: a reappraisal”, Journal of Political Economy, 72, pp.584-96.
Baumol, W.J. [1967] “Macroeconomics of Unbalanced Growth: The Anatomy of Urban Crisis”, The American Economic Review, 57,
pp.415-426.
Bayoumi, T., B. Eichengreen and P. Mauro [2000] “On Regional Monetary Arrangements for ASEAN, Journal of the Japanese and
International Economics, 14, pp.121-148.
Beckerman,W. [1962] “Projecting Europe’s growth”, Economic Journal 73, pp.912-925.
Boyer, R. [1992] Regulation Theory: A Critical Assessment, Columbia University Press.
Canzoneri, M.B., R.E. Cumby and B. Diva [1999] “Relative labor productivity and the real exchange rate in the long run: evidence
for a panel of OECD countries”, Journal of International Economics, 47, pp.245-266.
Chang, L. J. and S. Ahn [2001] “Information Quality of Financial Systems and Economic Development: An Indicators Approach for
East Asia”, ADBI Institute Working Paper, No. 20, Tokyo.
Chang, L. J. [2002] “Beyond Sequencing: What does A Risk Based Analysis of Core Institutions, Domestic Financial and Capital
Account Liberalization Reveal about Systemic Risk in Asian Emerging Market Economies?”, ADBI Institute
Working Paper, No. 46.
Égart, B. [2002] “Estimating the impact of the Balassa-Samuelson effect on inflation and the real exchange rate during the
21
transition”, Economic Systems, 26, pp.1-16.
Eichengreen, B. [1994] International Monetary Arrangements for the 21th Century, Brookings Institute. 藤井良広訳『21 世紀の
国際通貨制度』岩波書店、1997 年.
Eichengreen, B. [1998] The Only Game in Town, The World Today, December.
Eichengreen, B. [2002] "What to Do with the Chiang Mai Initiative," presented at the Asian Economic
Panel Meeting in Tokyo, May 21-22.
French and Japanese Staff [2001] “Exchange rate regimes for emerging market economies”, Discussion paper jointly prepared by
French and Japanese staff for the Third Asia-Europe Finance Ministers Meeting.
Goldstein, M. [1999] “Safeguarding prosperity in a global financial system: The future international financial architecture”, Institute
for International Economics.
Hicks, J. [1953] “An Inaugural Lecture”, Oxford Economic Papers, Vol. 5, No. 2, (Republished in Hicks, J., Classics and Moderns,
Basil Blackwell, 1983)
Kawai, M. [2002] “ Exchange Rate Arrangements in East Asia: Lessons from the 1997-98 Currency Crisis”, Monetary and
Economic Studies (Special Edition), December, pp.167-204
Kaldor, N. [1966] Causes of the slow growth in the United Kingdom, Cambridge University Press.
Kaldor, N. [1970] “The case for regional policies”, Scottish Journal of Political Economy, 17, pp.337-348.
Kaldor, N., [1971] “Conflicts in national economic objectives”, Economic Journal, Vol.81, March. (Republished in Kaldor, N.,
Further Essays on Economic Theory, Duckworth, 1978. 笹原昭五ほか訳『経済成長と分配理論』日本経済評
論社,1989 年,第 6 章)
河合正弘・粕谷宗久・平形尚久(2003) 「G7 諸国における非貿易財相対価格の分析」
『日本銀行ワーキング
ペーパーシリーズ』No.03-J-8, 2003 年 10 月.
Kovács, M.A. [2004] “Disentangling the Balassa-Samuelson effect in CEC5 countries in the prospect of EMU enlargement”, in
Szapáry, G. and von Hagen, J. (ed.), Monetary Strategies for Joining the Euro, Edward Elgar.
McKinnon, R. I. (2001) “After the Crisis, the East Asian Dollar Standard Resurrected: an Interpretation of High-Frequency
Exchange Rate Pegging”, in Stiglitz, J. E. and S. Yusuf (ed.), Rethinking the East Asian Miracle, Oxford
University Press.
Pasinetti, L. L.[1993], Structural economic dynamics, Cambridge University Press. (佐々木隆生ほか訳『構造変化の経済動
学』日本経済評論社,1998 年)
Pugno,M. [1996] A Kaldorian model of economic growth with labour shortage and major technical changes, Structural Change and
Economic Dynamics 7, pp.429-449.
Samuelson, P.A. [1964] “Theoretical Notes on Trade Problems”, The Review of Economics and Statistics, 46, pp.145-54.
田中素香[1996]『EMS: 欧州通貨制度』有斐閣
寺西重郎[1998]「アジア通貨危機と所得分配」『日本経済新聞』2 月 16.17 日
宇仁宏幸[1995] 「日本の輸出主導型成長」『経済理論学会年報』第 32 号
宇仁宏幸[2003] 「バブル崩壊後の日本、スウェーデン、ノルウェーの比較」『経済理論学会年報』第 40
号
宇仁宏幸・宋磊・梁峻豪[2003] 「韓国と中国の輸出主導型成長――カルドアの視点から、(1)、(2)」、『経
済論叢』、(1)第 172 巻第 1 号、pp.1-20、(2)第 172 巻第 2 号、pp.77-94.
Uni,H. Song, L. and Yang J-H. [2003] On Export-led Growth in Korea and China, Journal of Regional Studies (Korean Association
of Regional Studies) Vol.11(1).
WTO [2002] Annual Report 2002. Geneva.
吉冨勝[2003]『アジア経済の真実』東洋経済新報社
Zettelmeyer, J. [2001] “Exchange Rate Regimes for Emerging markets: Reviving the Intermediate Option”, IMF Research Bulletin,
Vol.2(1).
22