社会福祉法人恩賜財団母子愛育会 日本子ども家庭総合研究所 (Japan Child and Family Research Institute:JCFRI) 報道各位 平成 26 年 8 月 29 日 日本子ども家庭総合研究所 所長 衞藤 隆 「わが国の子ども虐待の社会的コスト 1.6 兆円」 ・子どもの貧困・ 子どもの貧困・子ども虐待を包括したわが国初めての国際論文 ・平成 26 年 9 月 14 日(日)「子ども虐待防止世界会議 名古屋 2014」 2014」(ISPCAN (ISPCAN)で ISPCAN)で 発表 Article title: The social costs of child abuse in Japan Journal title: Children and Youth Services Review Volume46 46, (Volume 46 , November 2014, Pages72 Pages72– 72–77) 77) Corresponding author: Dr. Ichiro Wada 日本子ども家庭総合研究所の和田一郎主任研究員と東京大学大学院薬学系研 究科の五十嵐中博士の研究である、子ども虐待の社会的コストの研究が、昨日 (平成 26 年 8 月 28 日(木))国際誌 Children and Youth Services Review(5-Year Impact Factor: 1.383)に、原著論文”The ”The social costs of child abuse in Japan” として掲載されました。本雑誌の紙での発行は本年 12 月ですが、オンラインジ ャーナルとして公開されました。) http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S019074091400276X ●要旨● 本研究は、わが国はじめての子ども虐待の社会的コストを、2012 年度のデータ を用いて推定したものです。そのコストは年額 1.6 兆円、これは 2011 年の東日 本大震災の福島県の被害額(1.9 兆円)にほぼ近い金額であり、それが毎年、社会 的コストとして社会に影響を与えている結果が推測されました。 ●本研究のポイント● 1.わが国はじめての子ども虐待の社会的コストの推定である。 他国では、コスト推計は数多く行われており、アメリカでは、年額 10 兆円の 虐待による社会的コストは、2 型糖尿病と同程度のコストであり、社会にその防 止と予防・ケアを推進するための根拠資料となっております。 わが国は先進国で子ども虐待の長期的データをモニタリングするシステムが ないため、これまでその被害額が計測されていませんでした。今回、既存デー タを用いて、医療経済の手法を用いてはじめて算出しました。その結果、社会 的養護や児童相談所をはじめとする行政コストなどの「直接コスト」が 1,000 億円、自殺、自傷、精神疾患、生産性損失、離婚、犯罪、生活保護などの「間 接コスト」が 1.5 兆円となりました。 2.他国との比較 (1)直接コストの少なさ 児童相談所などの子どもを守るシステム、社会的養護などのケアをするシス テムの予算である直接コストが、他国の数十分の 1 であることが判明し、これ まで言われていた虐待に関わる人数や予算の極小さが改めて浮き彫りになりま した。 (2)子どもの貧困対策との関連 本研究では、子どものころの虐待体験が教育における経済的損失として毎年 1,403 億円の負担を発生させていることが判明しました。わが国でも社会的養護 について中学卒業後家庭復帰した場合と措置を続けた場合の比較で、措置を続 けた場合の高校卒業率が大幅に高いという研究結果があるなど、学歴との比較 研究がおこなわれつつあります。今年度施行された「子どもの貧困対策法」で は、子どもの学習機会の重要性が述べられていますが、それらを包括したわが 国初めての査読付き国際誌の掲載です。 3.虐待の影響は長期的に社会に影響を与える。 (1)医療コスト 5,799 億円、(2)離婚のコスト 3,770 億円、(3)生活保護 3,120 億円など、子どものころの虐待の体験は、将来に長期的に影響を与えます。医 療としては、虐待経験による精神疾患の医療費増加額、虐待経験による離婚増 加(離婚は、世帯の所得を大幅に減少させ、また虐待が発生しやすい環境とな ります。)による生産性損失があげられます。また、生活保護では、子どものこ ろ虐待を経験した者は生活保護になりやすく、また自分の子どもに対する虐待 歴のある生活保護受給者は、虐待歴のない受給者に比べて、子どもから提供さ れる扶養額が有意に少ないなど、虐待は生活保護に大きな影響を与えています。 ●まとめ 本研究は、保守的な算出であり、また測定されていない項目については、計 上しておりません。今後はわが国でも長期的・継続的に子どもの成長を把握す るシステムを導入することにより、正確な社会への影響が予測できる可能性が あります。現状では、福島の震災被災額とほぼ同額のコストが、毎年新たに発 生していることは、わが国に長期的に影響を与える可能性があり、今後この分 野に資源を導入する必要を示唆した研究です。 ●今後の発表について 本研究は、昨年 12 月の日本子ども虐待防止学会第 19 回学術集会信州大会 (JaSPCAN)にて発表したものを精査・改良し、査読付き国際誌の原著論文にな るまで質を高めました。なおこの研究は、今年 9 月 14 日(日)から開始される 2014」 (ISPCAN ISPCAN) 「子ども虐待防止世界会議 名古屋 2014 」 ( ISPCAN )にて、発表されます。 ●本プレスリリースに関するお問い合わせ 日本子ども家庭総合研究所 和田、中嶋 TEL:03-3473-8341・FAX:03-3473-8408 ●お問い合わせにつきましては、今年度中(平成 27 年 3 月末まで)に お願い申し上げます。 ●日本子ども家庭総合研究所について 昭和 13 年(1938 年)より、母子保健に関する科学的研究を行うために設立され、 現在は子供と家庭の保健・福祉に関する総合的研究を行う調査研究機関。平成 25 年度に内閣の行政改革推進本部による行政事業レビューにより、一つの機 関が子どもや家庭のデータを長期的に計測するよりも、公募という競争原理を 取り入れた実施主体の選定による方法をとることとされたため、本研究所は平 成 26 年度末を持っていったん廃止となり、新たに医療・保健分野を中心とし た研究所に衣更えする案を検討中です。 (http://www.aiiku.or.jp/aiiku/news/201407_1.htm)
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