英国における監視カメラ・顔認識技術と 法規制動向 2015年7月23日 国際社会経済研究所 小泉 雄介 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 1 欧州調査概要(2015年6月後半実施) • 調査目的 – 英国、フランスにおける監視カメラおよび顔認識技術に対する法規制と運用 実態の調査 • 訪問先機関 国名 英国 訪問先機関 概要 ICO(Information Commissioner’s Office:情報 コミッショナーオフィス) 英国のデータ保護監督機関 監視カメラコミッショナー(Surveillance Camera Commissioner:SCC) 内務省傘下の、監視カメラに関する監督 機関 ロンドン地下鉄(London Underground) 地下鉄駅構内や地上に監視カメラを多 数設置。コントロールセンターで統合管 理 ADS Group 英国のセキュリティ産業の業界団体 Big Brother Watch 消費者権利団体 Philip Ross Solicitors 弁護士事務所 在英日本国大使館 フランス CNIL(Commission nationale de l'informatique et des libertés) フランスのデータ保護監督機関 (メールでの質問票送付のみ) EFUS(European Forum for Urban Security) EU諸国の250都市で構成されるNGO JETROパリ事務所 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 2 英国: 監視カメラの設置状況 ロンドン地下鉄構内の カメラ ヒースロー空港のカメラ ロンドン地下鉄構内のヘルプ ポイント(近くにカメラがある): エマージェンシーボタンを押す と、1秒当たり1フレームだった 録画が1秒30フレームになり、 録音も行われる。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 3 英国: 監視カメラの設置状況 ロンドン地下鉄構内 の掲示板 ユーストン駅構内の 掲示板 美術館内の掲示板 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 公道の掲示板 4 英国: 監視カメラ設置状況と経緯 • 監視カメラ設置数 – 英国全体で400~600万台(2014年末の推計値) • • • • • • ロンドン全体:60万台(2010年) イングランドおよびウェールズで公的機関が運用するカメラ:10万台 ロンドン警視庁がアクセスできるカメラ:6万台(2010年) 全国の自治体:3万台 ロンドンの道路上(交通監視用):5000台 ・ ヒースロー空港:3000台 ロンドン地下鉄駅構内:1万5300台 ・ ロンドン地下鉄車内:1万2000台 – 英国の都市で1日にカメラで撮影される平均回数:300回 • 経緯 – 1961年 ロンドン交通公社が初の監視カメラを地下鉄Holborn駅に設置 – 1970~80年代: 店舗や車道、地下鉄等での限定的利用 – 1990~2000年代: 公共空間(公道や学校等)での利用拡大 • サッチャー首相(~90年)、メージャー首相(1990年~97年)の保守党政権下で監視カメラの積極的推進策が開始。1997年 ~2010年のブレア政権・ブラウン政権(労働党)下でも継続された(首都大 星周一郎先生の論文より)。 – 1993年 ジェイムス・バルジャー事件(少年二人組による幼児殺害事件) • CCTVが犯人特定に或る程度寄与。この事件を契機に、政府はCCTVの設置をさらに推進。 – 1998年 犯罪・秩序違反法制定。「CCTVイニシアティブ」で内務省は自治体に補助金を拠出 – 2005年 ロンドン市営地下鉄・市営バス同時爆破テロ →実行犯の特定にカメラ映像が寄与 – 2012年 自由保護法制定。監視カメラシステムを規制 • • 2010年の総選挙後に成立したキャメロン保守自民連立政権は政策綱領において、従来の治安対策を見直し、市民的自由を回復するた めの法案を提出、またCCTVについての規制を強化することを政権公約として掲げた(首都大 星周一郎先生の論文より)。 背景として、(商業施設など私的空間はよいとして)公道などの公共空間においてカメラを設置し、犯罪とは関係ない一般市民を常時撮影して いることについて、Big Brother Watch、Liberty、Privacy International等の市民団体から強い反対キャンペーンがあったことが挙げられる。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 5 英国: 関連法令・ガイドライン • 1998年データ保護法 – 公的分野及び民間分野における個人データ取扱全般を規制する一般法 – 第4条及び別表1でデータ保護8原則を規定 • 1998年犯罪・秩序違反法 – 同法に基づく犯罪抑止プログラム「CCTVイニシアティブ」において、内務省は 1998年以降5年間で自治体に総額1億7000ポンドをCCTVシステム設置に伴う補 助金として拠出 • 2000年 ICO(情報コミッショナー・オフィス)がCCTV行動規範を策定 • 2008年 ICOがCCTV行動規範を改版 • 2012年自由保護法 – 第二部で監視カメラシステム(CCTV、自動ナンバー読取装置(ANPR)等)を規制 • 国務大臣による監視カメラ行動規範の策定義務を規定 • 監視カメラコミッショナー(Surveillance Camera Commissioner:SCC)の設置を規定。 内務大臣が任命する。 • 2013年 監視カメラ行動規範の策定 – 地方自治体や警察設置のカメラのみが対象であり、民間は対象ではない。 • 民間設置カメラも含めた全般的な規制は、ICOのCCTV行動規範で行っている。 • 2014年/15年 ICOがCCTV行動規範を改版 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 6 英国: 監視カメラ行動規範 • Surveillance Camera Code of Practice(2013年6月) – 監視カメラは適切に使用されれば、犯罪予防・犯罪捜査・起訴において、パブリックセーフ ティやセキュリティに貢献し、人と財産の両方を保護する有益なツールである(1.3、2.1)。 – 公共空間における監視の濫用や誤用に対する懸念に対処するために策定された(1.8)。 – イングランド及びウェールズの地方自治体や警察のみが対象であり、それ以外の民間企 業等は対象ではない(1.2)。しかし、継続的なレビューによって、他の公共機関や民間企 業も対象に追加する可能性はある(1.8)。 – これらの機関が行動規範を遵守しなかった場合、それ自体では刑事・民事手続き上の責 任は生じない。ただし、行動規範は刑事・民事手続きにおける証拠として認められ、裁判 所は行動規範の非遵守を考慮できる(1.16、自由保護法第33条)。 – 一般に監視カメラ技術の発展は個人のプライバシーを侵害する可能性を増大する。1998 年人権法は、欧州人権条約で規定された人権を英国に適用するものである。これらの人 権の或るものは絶対的な権利であり、他のものはqualified rights(個人の権利とコミュニ ティのニーズや国益との間のバランスが必要な権利:プライバシーの権利や表現の自由 はこれに当たる)である。qualified rightsに対しては国家が干渉することが、その干渉が 正当な目的の追求においてなされるものであり、かつ釣り合った(proportionate)ものであ る場合には、許容される。qualified rightsには私的生活や家庭生活を尊重する個人の権 利(プライバシーの権利)が含まれる(2.2)。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 7 英国: 監視カメラ行動規範 • Surveillance Camera Code of Practice(2013年6月)(続き) – プライバシーの権利への潜在的な干渉を考慮するに当たっては、プライバシーへの期 待が時と場合によって異なるものであり、また主観的なものであるという事実を認識する ことが重要である。公共空間は他人と関わり合うゾーンであるが、私的生活の範囲に入 ることもある。個人が、公共空間における監視は適切な安全管理措置と共に必要かつ 釣り合ったものであるべきと期待することは間違っていない(2.3)。 – 従って、監視カメラ技術の使用を決定するに当たっては、正当な目的と差し迫った必要 性とを満たしていなければならない。そのような正当な目的や差し迫った必要性は、明 確化され、特定された目的として文書化されなければならない。システムの設計は、特 定された目的と釣り合ったものであるべきであり、予算消化や新技術導入を優先させる べきではない(2.4)。 – システムオペレーター(監視カメラ設置者)が守るべき12原則を規定(3節、4節)。 – 監視カメラコミッショナー(Surveillance Camera Commissioner:SCC)の役割(5.1) • 本行動規範の遵守を促進する • 本行動規範の運用をレビューする • 本行動規範に対する助言を行う © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 8 英国: 監視カメラ行動規範における12原則 種別 原則 内容 監視カメラ 原則1 監視カメラシステムの使用は常に、正当な目的の追求において、か システムの つ特定された差し迫った必要性に不可欠なものとして、特定の目的 の下でなされなければならない。 開発や使用 • 正当な目的や差し迫った必要性には、国家安全保障、パブリックセーフティ、経済福 に関する原 祉、秩序違反予防・犯罪予防、保健・道徳保護、人権や自由の保護が含まれる 則 (3.1.1)。 原則2 監視カメラシステムの使用は、個人とそのプライバシーに与える影響 を考慮に入れなければならず、その使用が正当なものであることを 保証するために定期的なレビューを行わなければならない。 • 顔認識その他の生体認識システムの利用は、特定された目的に合致する範囲内で、 明確に正当化され釣り合ったものであり、適切に評価されたものである必要がある (そのようなシステムの評価についてはSCCが助言を提供する)。顔認識等を用いて 個人にデメリットとなる決定が行われる場合には、必ずヒューマンチェックを行うべき である(3.2.3)。 原則3 監視カメラシステムの使用には、情報へのアクセスや苦情申立ての ためのコンタクトポイントの公表を含め、可能な限りの透明性がなけ ればならない。 原則4 全ての監視カメラシステムの活動には、取得・保持・利用される映像 と情報を含め、明確な責任とアカウンタビリティがなければならない。 • 1つの監視カメラシステムが、犯罪予防・捜査と交通管理など、複数の目的で使用さ れてもよい(3.4.3)。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 9 英国: 監視カメラ行動規範における12原則 種別 原則 内容 当該システ 原則5 監視カメラシステムの使用に先立って、明確なルール、ポリシー、手 ムで取得さ 続きが用意されなければならない。そして、これらを遵守する必要が ある関係者すべてに伝達されなければならない。 れた画像や • 監視カメラシステムが公共空間をカバーする場合は、システムオペレーターは法的 情報の利用 要件として、SIA(警備業監督委員会:Security Industry Authority)が発行する や処理に関 CCTVライセンスを持った職員に実施させなければならない(4.5.6)。 する原則 原則6 監視カメラシステムの特定された目的に厳密に必要となる以上の映 像や情報は保存されるべきではない。それらの映像や情報は当該 目的が果たされた時点で削除するべきである。 原則7 保持された映像や情報へのアクセスは制限されるべきであり、誰が どのような目的でアクセスできるかについて明確に規定されたルー ルがなければならない。映像や情報の提供(disclosure)は、当該シ ステムの設置目的や法執行目的に必要な場合に限られるべきであ る。 • 本人によるアクセス請求(subject access request)に関してはICOのCCTV行動規 範を参照(4.7.5)。 原則8 監視カメラシステムのオペレーターは、当該システムとその目的に関 連性のある、認定された運用基準・技術標準・資格能力基準を考慮 に入れるべきであり、当該基準に適合するようにするべきである。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 10 英国: 監視カメラ行動規範における12原則 種別 原則 内容 当該システ 原則9 監視カメラシステムの映像や情報に対しては、不正アクセスや不正 利用から保護するための適切な安全管理措置を講じるべきである。 ムで取得さ れた画像や 原則10 法的要件、ポリシー、基準が実際に遵守されていることを保証するた 情報の利用 めの有効なレビュー・監査メカニズムを設けるべきであり、定期的な や処理に関 レポートが公表されるべきである。 する原則 原則11 監視カメラシステムの使用が正当な目的の追求においてなされ、か (続き) つその使用に差し迫った必要性がある場合、当該システムは、証拠 としての価値がある映像や情報を処理する目的で、パブリックセーフ ティや法執行に最も効果的に役立つ方法で使用されるべきである。 原則12 監視カメラシステムと連携して、照合目的で参照データベースにおい て使用される情報は、正確で最新のものであるべきである。 • 自動ナンバープレート認識(ANPR)や顔認識のような技術の使用は、他機関が提供 するデータベース等の情報の正確性に依存しうるため、それらの基盤となる情報が 目的に適合していることを保証するために定期的なアセスメントなくしては導入すべ きでない(4.12.1)。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 11 英国: ICOのCCTV行動規範 • 2000年 CCTV行動規範の策定 • 2008年 CCTV行動規範の改版 • 2014年/15年 CCTV行動規範の再改版 ‟In the picture: A data protection code of practice for surveillance cameras and personal information” ( 2015年5月Ver1.1) – 自動ナンバープレート認識(ANPR)、顔認識、BWV(身体装着ビデオ)、ドローン等 の「監視」技術の発展に対応。従来の監視カメラに加え、これらの監視システムも 対象。 – SCCの監視カメラ行動規範と異なり、英国内の全ての公共機関・民間企業が対象 となる。 – 「行動規範には法的拘束力はなく、あくまでGood Practiceである。ただ、行動規範 を守らないと、データ保護法違反になる場合がある。」(ICO) – 監視カメラ(CCTV)以外の監視技術への対応 • 自動ナンバープレート認識(ANPR:Automatic Number Plate Recognition) • BWV(身体装着ビデオ:Body Worn Video) • ドローン • 顔認識等の自動認識技術 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 12 英国: ICOのCCTV行動規範 • BWV(身体装着ビデオ)に関する規定(7.2) – BWVは、その可搬性のため、通常の監視カメラよりもプライバシー侵害的である。BWVの導 入前に、データ管理者はその使用を正当化することが重要である。映像の録画のみならず音 声の録音を行う場合にも、正当化が必要である。このような正当化のために、プライバシー影 響評価(PIA)を行うことを強く推奨する。 – BWV端末はオンオフのスイッチを持つが、撮影時には外から分かるようにすることが重要で ある。また、連続的な撮影に当たっては厳格な正当化が必要でなる。それは、連続的な撮影 は過剰であり、撮影者が興味を持った人物を追跡する恐れがあるからである。住宅や学校、 介護施設等のエリアにおける撮影を考えている場合、さらなる正当化が必要である。 – BWVを使用する場合、データ主体に対して、十分にprivacy noticeを提供するべきである。 BWVカメラは非常に小さかったり、目立たないものでありうるため、また運転中や混雑した状 態で使用されうるため、個人は撮影されていることに気が付かない恐れがある。それゆえ、撮 影が行われていることを示すために、BWVを使用する係員の服などに明確な掲示(signage )が表示されることが重要である。 • 顔認識等の自動認識技術に関する規定(7.4) – オペレーターが顔認識等の自動認識システムの使用を考えているならば、データ主体に対し てprivacy noticeを提供しなければならない。 – オペレーターが人々の顔を識別するためにカメラを使用するのであれば、目的に照らして十 分に正確に個人を撮影するために、高品質のカメラを使用しなければならない。この自動照 合の結果は、誤照合がないことを保証するために、訓練された人間によってモニターされるべ きである。これらの自動技術の使用は、ある程度のヒューマン・インタラクションを伴うべきで あり、完全な自動処理のみで行われるべきではない。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 13 英国: ICOのCCTV行動規範 • ドローンに関する規定(7.3) – 家庭用目的でドローンを使用する個人(ホビイスト)と、専門的または商業的目的でドローンを 使用する個人や組織とは線引きがなされるべきである。ドローンが非-家庭用目的で使用され る場合には、オペレーターはデータ保護の義務を遵守する必要がある。また、家庭用目的で 使用するユーザも、ドローンの使用が及ぼしうる潜在的プライバシー侵害を自覚し、責任ある 仕方でのドローンの使用を心がけることがグッドプラクティスである。 – ドローンの使用は、不必要に個人の画像を記録するという副次的な侵害をもたらす可能性が 非常に高い。なぜならドローンは高く見晴らしの利く位置から撮影ができるからである。ドロー ンで撮影される画像から必ずしも直接的に個人が識別できないかもしれないが、撮影された コンテキストや、特定人物にズームする機能の使用によって識別されることもありうる。その ため、ドローンの使用には強力な正当化を与えることが非常に重要である。堅固なプライバ シー影響評価(PIA)を行うことを推奨する。 – ドローンでの撮影はオンオフの切り替えができることが重要である。また、厳格な正当化がな い限り、撮影は連続的なものであるべきではない。これはPIAの一部として吟味すべきことで ある。 – ドローンの使用に関する1つの大きなイシューは、多くの場合において、人々は自分たちが撮 影されていることに気付かない、もしくはドローンにカメラが付いていることを知らない恐れが あることである。オペレーターは、privacy noticeを提供する革新的な方法を見出す必要があ る。例えば、ドローンを操作していることが分かるようにオペレーターが非常に視認性のなる 服装を身に付ける、ドローンを飛ばすエリア内にドローンの使用とprivacy noticeを掲載した WebサイトのURLを説明した掲示板を設置する等である。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 14 【再掲】英国: 行動規範上の顔認識技術に関する規定 • ICOの行動規範: 顔認識等の自動認識技術に関する規定(7.4) – オペレーターが顔認識等の自動認識システムの使用を考えているならば、データ 主体に対してprivacy noticeを提供しなければならない。 – オペレーターが人々の顔を識別するためにカメラを使用するのであれば、目的に 照らして十分に正確に個人を撮影するために、高品質のカメラを使用しなければな らない。この自動照合の結果は、誤照合がないことを保証するために、訓練された 人間によってモニターされるべきである。これらの自動技術の使用は、ある程度の ヒューマン・インタラクションを伴うべきであり、完全な自動処理のみで行われるべ きではない。 • SCCの行動規範 – 顔認識その他の生体認識システムの利用は、特定された目的に合致する範囲内 で、明確に正当化され釣り合ったものであり、適切に評価されたものである必要が ある(そのようなシステムの評価についてはSCCが助言を提供する)。顔認識等を 用いて個人にデメリットとなる決定が行われる場合には、必ずヒューマンチェックを 行うべきである(3.2.3)。 – 自動ナンバープレート認識(ANPR)や顔認識のような技術の使用は、他機関が提 供するデータベース等の情報の正確性に依存しうるため、それらの基盤となる情 報が目的に適合していることを保証するために定期的なアセスメントなくしては導 入すべきでない(4.12.1)。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 15 英国: 法解釈上の論点 ① 顔画像(facial image)の扱い → 「生存している個人を識別できるならば、データ保護法上の個人データ である。」(ICO) ② 顔特徴データ(facial biometric template)の扱い → 「生体情報(biometric information)は一般的に個人データである。生体 特徴データ(biometric template)は本来的に特定個人に結び付いているの で、生体特徴データは特定個人を識別する。生体特徴データが氏名と関連 付けて記録されているか否かは、この場合関係ない。生体特徴データが当 該個人にユニークなものであり、当該個人を識別するならば、それは個人デ ータである。」(ICO) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 16 英国: 法解釈上の論点 ③ 属性推定時の一時的な顔画像データ取得の扱い – 顔認識技術を入れているシステムで、カメラで利用者の顔を撮影し、性別・年代などの利用 者属性を自動推定(categorisation)した後、すぐに元の画像自体は削除する。このような一 時的な画像の取得も、法律的には「個人データの取得(obtaining of personal data)」とみな されるのか? • → 「一時的な画像の取得であっても個人データの処理に当たる。例えば、録画して いなくてもライブカメラで写すことは個人データの処理になるので。10秒程度で元画像 を削除するならよいが、一時的な保存の期間が一日とか長い場合は、保存期間を定 めるべきであり、必要な期間を超えて保存してはいけない。単なる年代データであっ ても、利用方法によってはセンシティブになりうる。例えば、65歳以上は入場させない といった処理がなされる場合、差別になるので、不当である。」(ICO) • → 「この場合、一時的な画像の取得は「個人データの取得」ではない。画像データを 保存して、チェックして、照合するといった何らの処理も発生しないからである。この例 はあくまで属性推定(categorisation)であって、個人の顔画像の処理ではない。全体 が属性推定のプロセスであり、一部のみを切り出して「個人データの取得」とみなすべ きではない。(ICOと見解が異なることについては)規制機関が2つあるとこのような問 題が起こる。」(SCC) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 17 英国: 法解釈上の論点 ④ 顔画像データの第三者提供 – データ管理者がカメラ画像を法執行機関に提供(disclose)する際の要件は何か。令状などは 必要か? • →「英国のデータ保護法には幾つかの適用除外分野があり、犯罪予防・捜査や起訴の 目的であれば、本人同意等がなくても、警察や法執行機関に個人データを提供してよい (第29条)。この場合、以下の2つの方法がある。 (1)ショッピングセンターなどで防犯目的で監視カメラを設置している場合。既に告知の 掲示板があり、「法執行機関に提供されることがあります」と書いてある。この場合は、 データ管理者は(店舗内で犯罪があった場合など)法執行機関に自発的に提供するこ とができる。多くのデータ管理者は防犯目的でカメラを設置しているため、沢山のデータ が警察等に提供されている。 (2)警察が或る容疑者を捜査しており、データ管理者に当該人物のデータを提供しろと 言う場合には裁判所の令状(warrant)が必要である。この場合、本人にその旨を告知 すると捜査の妨げになるため、告知は必要ない。」(ICO) • →「例外的に、自分の財産が損害を受けた人に顔画像を提供する場合もある。例えば、駐車場で 当て逃げされた人が、相手に損害賠償を求めるために、駐車場管理者に事故時の映像の提供を 請求するような場合である。この場合、他人の車の画像を提供することになるが、個人のプライバ シー権と当て逃げされた人の権利との比較考量が必要である)。関係のない人の顔やナンバープ レートはマスキングして提供する等の措置が必要である。」(ICO) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 18 英国: 法解釈上の論点 ④’ 顔画像データの第三者提供(警察との定常的データ共有) • →「警察とのカメラ映像共有に当たり、ロンドン警視庁、交通警察、エセックス警察、ロ ンドンシティ警察とはデータ共有の合意書(Agreement)を締結している。他の機関から データ共有の依頼が来た場合には、その都度Agreementを結ぶ。」(ロンドン地下鉄) ④’’ 顔画像データの第三者提供(オリンピック等の大規模イベント時の特別対応) • • • →「国家安全保障上の問題がある場合は、データ保護法の適用除外となるが、データ 管理者はこれを証明しないといけない(第28条)。すなわち、データ管理者は国務大臣 から第28条証明書を貰わないといけない。データ主体がICOに苦情を申し立てた場合 は、ICOはデータ管理者にこの証明書を取るようにアドバイスする。個人は第28条証明 書が不当であると裁判所に訴えることもできる。」(ICO) →「オリンピックのような国家安全保障に関わるイベントの場合、プライバシーに対する 特別措置を取ることは仕方ないが、オリンピック終了後もそれが継続することは良くな い。例えば、オリンピックパークに入るのに写真付き身分証明書が必要だったり、大人 数の警官が警備したり、パークの周辺に大量のCCTVがあってコントロールルームで 常時誰かがモニターしているといった措置が取られた。」(ICO) →「オリンピックの際は警察のコントロールルームで統合運用を行った。自治体の許可 をもらい、警察が画像のレビューを行った。コントロールルームに自治体からの画像が リアルタイムで流れた。ただ、(データ管理者は自治体なので)本人からの開示請求は 自治体が受け付けた。」(SCC) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 19 英国: 法解釈上の論点 ⑤ 利用目的等の公表/通知方法(Web公表のみの可否) – Webサイトだけにprivacy noticeを載せることは許されるか? • →「Webサイトにprivacy notice(告知文)を載せるだけでは許されない。現場 に掲示板(Sign)を出さないといけない。さらに詳細な告知をWebに載せるこ とは、ベストプラクティスとして推奨している。」(ICO) • →「Privacy noticeについてはICOの行動規範で規定されている(9.1)。掲示 板(Sign)を出して、データ管理者の名称、監視カメラの利用目的、データ開 示請求等のための連絡先を掲載する。Webサイトへの掲載だけでは駄目で ある。」(SCC) • →「Privacy noticeについては、最低限、掲示板(Sign)が必要である。問題 は、民間企業がそれをどこまで守っているか、監視カメラが登録制でないた めに把握できていないことだ。これを把握するためにも、監視カメラは登録制 にして、政府でリストで管理すべきである。」(Big Brother Watch) – 「登録制は過剰規制だから現政権は望まないだろう。」(SCC) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 20 英国: 法解釈上の論点 ⑤’ 利用目的等の公表/通知方法(監視カメラ隠匿の可否) – 防犯の必要上、監視カメラの存在を隠さないといけない場合はどうしたらよいか? • →「監視カメラを隠して使う場合はRIPA(2000年捜査権限規制法)という別の 法律がある。この場合、警察は事前に裁判所の令状を取ることが必要である。 RIPAの下でのカメラはその都度の犯罪捜査のためのものであり、常設のもの ではない。捜査目的ではなく、テロ対策など国家安全保障上の理由の場合は、 国務大臣が証明書を出す。」(SCC) • →「単なるセキュリティ目的でカメラを設置する場合に存在を隠すことは許され ないが、よほど正当な理由がある場合は別である。例えば、テロ対策など国家 安全保障上の理由がある場合は別である。」(ICO) • →「ただし、2つの例外がある。1つは、家庭内に監視カメラを設置する場合は データ保護法の適用除外である。玄関を写す場合等である。隣家や公道を写 す場合は除外されない。もう1つは、老人介護施設に、家族が監視カメラを入れ たいといった場合。ICOはカンファタブルではないが認めている。ICOからガイ ダンスも出している。この場合、家族は当該介護施設に監視カメラの設置を届 け出ないといけない。」(ICO) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 21 英国: 法解釈上の論点 ⑥ 本人による開示・消去請求への対応方法 – 本人からの開示請求に当たって、本人の画像を特定するために、顔写真の提出は必要となる か?また、本人が自分の画像の削除(erasure)を請求することはできるのか? • • • →「本人による開示請求(Subject access request)に当たっては、個人識別情報(最近 の写真、服装の情報など)の提出が必要である。手数料は最大10ポンド。データ管理者 は、個人識別に必要な全ての情報がない限り、開示請求に応じる義務はない。本人が 画像の削除を請求することもできるが、ICOはデータ管理者に削除を強制することはで きない。」(ICO) →「ICOの行動規範ではデータ管理者は個人データの保持期間を定め、それを過ぎた データは削除せよということとなっている。」(SCC) →「本人から開示請求が来ると、申請書用紙を送り、返送してもらう。申請書には、その 時刻に何を着ていたか、どんなビデオのコマがほしいかを記入し、写真(同じ服装だと望 ましい)や身分証(パスポート、免許証等)の写し、住所確認書類(電気、水道料金の請 求書等)を添付する。最大で10ポンド請求できる。1か月の請求件数は平均8件であり、 請求目的は保険請求や、ロンドン地下鉄に乗ったことの記念(エスカレーターの手摺を 滑って降りた画像、ある女性が色々な駅で植木鉢を持って移動した写真をアート作品に する等)、子供の親権の争い等。Footage(画像)を渡す場合は、他人の画像はピクセレ ート(モザイク加工)して保護している。」(ロンドン地下鉄) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 22 英国: 顔認識技術の利用状況 • レスターシャー州での実証実験(2015年6月) – レスターシャー州の屋外音楽イベント(ロックフェスティバル)で10万人の一般観衆相手に顔 認識技術が使われた。レスターシャー州の警察の独自の取り組みで、EU(ユーロポール)の 拘留者DBを使っている。(SCCより) • ヒースロー空港等 – 電子パスポートゲート:入国時の電子パスポートゲートで、登録者について、パスポート内の 顔写真とゲート通過時の顔画像を自動照合している。ゲートにはパスポートリーダーとカメラ が設置されており、照合が成功すると、ゲートが自動で開く。英国、EU、EEAまたはスイスの チップ付き生体パスポートの保有が必要。ヒースロー空港、ガトウィック空港、マンチェスター 空港等の主要空港で実施。(ICOより) – ビザ写真:外国人が居住国の英国領事館で取得したビザの顔写真と、入国時の顔画像との 自動照合も行っている。(ICOより) – 犯罪者DBとの顔照合:空港での犯罪者DBとの顔照合は警察が実験を行っている段階。英 国では現状、氏名で入国拒否の篩い分けをしている。(ICOより) • 警察のPolice National Database – 警察はPolice National Databaseを持っているが、データベースに取り込む写真が良くない (画質が悪い等)という問題がある。(SCCより) – 警察では拘留者全員の顔写真を保持しているが、無実となった人のデータも保持している。 判例でも、無実の人の顔写真の保持は止めるべきという判決があった。内務省ではこの件 に関し、データの保管期間、どのようなプロトコルで管理すべきか等を検討中。(SCCより) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 23 英国: 顔認識技術の利用状況 • 地下鉄プラットフォームでの行動検知(検討中) – ロンドン地下鉄では地下鉄乗降客の行動検知を内務省、警察、大学研究者、ベンダーと共 に検討中である。駅プラットフォームでの自殺者を未然に防ぐシステムや、エスカレーターの 運行管理、乗降客の人数カウントなどでの応用を検討。 • 小売業での実証実験 – 顔認識技術の商用利用としては、テスコ(スーパーマーケット)が来店客の性別のみを認識 する実証実験を行った。(SCCより) – ある百貨店は店舗入口でVIPの顔認識をして、顧客氏名と結び付けて、パーソナルショッパ ーが接客をしようというサービスを検討している。ただし、英国にはそのような高性能な顔認 識技術がないので、実現に至っていない。カメラが高い位置にあったり、解像度の問題など がある。(SCCより) © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 24 【ご参考】 顔認識(facial recognition)サービスの分類 ①顔検出(Facial Detection): • 映像内の顔の存在を検出し、顔の位置を同定する処理。 ②顔映像からの属性推定(Categorisation): • 顔映像から年代や性別といった属性を推定する処理。 ③顔照合(狭義のFacial Recognition): ※「特徴情報」とは、顔映像から抽出された 個々人にユニークな特徴を示す数値データ。 • 顔映像から抽出した特徴情報(前頁の顔認識データに該当)を用いて、複 数の顔映像が同一人物の顔であることを照合する処理。 – (1) 個人を「特定」しないが、「識別」して追跡する場合 – (2) 個人を「特定」する場合(Facial Identification) ④顔認証(Facial Authentication): ※「特定」「識別」は、パーソナルデータ検討会技術検討WG報告書の用語。 「特定」:ある情報が誰の情報であるかが分かること。 「識別」:ある情報が誰か一人の情報であることが分かること。 • ID/パスワード等に代わる個人認証手段(アクセスコントロール手段)として、 顔映像を照合する処理。 © Institute for International Socio-Economic Studies 2015 25
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