Ⅲ 養 殖 業 - 鹿児島県 水産技術開発センター

Ⅲ
1
養
殖
業
海面養殖
海
藻
類
1)
あまのり養殖
本県での始まりは1891(明24)年に出水市沿岸の試験記録が最も古く, 戦前までは出水市と鹿児
島湾奥部で行われてきた。戦後県下に養殖が普及し, 1960年代には32漁協管内に及んだ。その後過
剰生産時代となり, ひとえぐさ養殖への転換等により1987(昭62) 年以降は出水漁場だけとなった。
(1)
生態特性
①
養殖品種
ナラワスサビノリ系統を主力に, 一部でアサクサノリ(野口ダネ)を養殖。
ナラワスサビノリ
千葉県奈良輪漁場で選抜育成され,高生産性品種として普及したが,継代養
殖により原種が多少変異したものと考えられ,一般に「ナラワ系」と称して利用している。
アサクサノリ
元来出水漁場の地ダネであったが,人工採苗の普及によって外来種が導入された
ため,天然種苗として混生する懸念が生じた。そこで鹿児島県水試が野口漁場で採取したアサクサ
ノリから果胞子を分離培養してフリー糸状体を育成したものである。出水市漁協では有志に配付し,
養殖生産したものを「出水あさくさのり」銘柄で出荷し,好評をえている。
②
生活環
上記2品種を含めたアマノリ類の一般的生活環は,概略以下のとおり。
・肉眼的な葉状体期と微視的な糸状体期の異型世代交代をおこなう。
・葉状体は10月頃発生し,冬季に葉長20cm以上に生育。幼葉期には葉先に単胞子を形成し,二次
芽増殖をする(無性生殖)。1月以降,葉体に造果器と造精器が形成され,受精して果胞子を放出
する(有性生殖)。果胞子は発芽して石灰質の貝殻などに穿入成長し,糸状体に生育して貝殻中で
夏を過ごす。9月頃糸状体は殼胞子嚢枝を形成し,短日条件下で成熟して貝殻開孔部から殼胞子を
放出し,減数分裂を経て幼芽となり,葉状体へと成長する。
(2)
現
状
表1
年
経営 柵
数 網
あまのり養殖生産量の推移
数 生産量(共販量)(千枚) 共販金額
平均単価
柵当たり生産性
体数
秋芽網 冷凍網 合
計
生産量 (枚) 金 額 (円)
(千円)
平9
42
5,300 10,500
2,309 11,473 13,782 165,495.0
12.01
2,601
31,225
10
40
5,410 12,100
3,528 11,456 14,984 150,768.0
10.06
2,770
27,868
11
37
5,080 10,160
2,831 12,111 14,942 151,623.3
10.15
2,941
29,847
(鹿児島県水試統計)
(3)
養殖技術
出水市漁協で実施されている方法について述べる。
①
地割り作業
8〜9月,漁場を区画整理し,抽選で組合員へ割り当てる。
②
杭建て作業
9月後半,養殖杭を打ち込み,養殖網の張り込み準備をする。
③
人工採苗
ア
時
期
満潮時の表層水温が23℃以下になったころが適期(出水漁場は10月中旬頃)。
イ
種
苗
品種はナラワスサビノリと「出水あさくさのり(野口ダネ)」である。これらは県
外の業者に糸状体を委託培養して,採苗直前に購入する。
ウ
採苗法
養殖網は20〜25枚重ねとし,網の下に糸状体かき殻1〜2枚を入れたビニール製の
袋(落下傘)を50cm間隔に取り付ける(落下傘式野外人工採苗法)。
エ
採苗水位
養殖網の張り込み水位は−30〜−45cm(水俣港の平均潮位0を基準)。
オ
芽付き検査
採苗開始後3日頃から網糸を採取検査し,のり芽が顕微鏡の100倍1視野に平
均1〜2個体(網糸1cmに約30個体) を確認したら,糸状体を除去する。
カ
④
展開作業
採苗を確認したら,養殖網は5枚重ねに移植展開する。
冷凍網の入庫
採苗約1か月後,のり葉体が1〜3cmになったら, 秋芽養殖網を残して冷凍
入庫する。11月上旬頃, 日程を決めて一斉に実施する。
⑤
秋芽網の養殖生産
1枚張りの浮動養成で,のり葉体が15cmに達したら収穫する。良質海苔
は若いうちの摘採が肝心。2〜3回の摘採で終了。日程を決めて秋芽網を一斉撤去する。
⑥
冷凍網出庫と養殖生産
⑦
養殖終了
(4)
日程を決めて一斉に出庫し二期作目の養殖を開始する。
日程を決めて漁場の養殖資材を一斉に撤去する。
収穫・加工
乾のりは嗜好食品の最たるもので,製品の色・艶・味・香り・食感・風味等品質に対して厳しい
評価がある。従って,摘採から製品までの工程が鮮度を保って,短時間で処理することが望ましい。
①
加工工程
摘採→洗浄→細断→調合→抄製→脱水→乾燥→剥離→選別→結束→成形。
各工程ごとに機械化され,特に抄製から剥離までの4工程は「全自動式乾のり製造装置」がある。
(5)
①
市
況
出荷方法
乾のりは 100枚を1束として帯封(生産者名記入)で結束し,36束をポリ袋で包
みダンボール箱に納める。
②
検査格付け
③
入
(6)
①
県漁連が実施し,等級別に箱詰めする。
札: 鳥栖市にある九州のり流通センターヘ,等級別見本箱を送り入札されている。
今後の課題
銘柄品種の統一
個性を持った良質品種を量産するには,漁協全体での統一生産体制が望ま
れる。例えば秋芽網は「出水あさくさ」,冷凍網は「ナラワ系」による組み合わせの検討。
②
協業化対策
老齢化や生産機器類の更新に躊躇して廃業せざるを得ないケースもあり,この
解決策は協業化以外にない。先進生産組合のノウハウを研究して,協業組織の育成を講ずる。
③
組織の充実
漁協にのり養殖運営委員会があるが,採苗,冷凍網入出庫等の指示のみならず
今後は更に水質・プランクトン・病害など迅速に対応すべき人材委員の育成が必要である。
④
2)
鴨の食害対策
鶴の飛来地の禁猟のため,効率的な食害防除法の開発が望まれる。
わかめ養殖
養殖技術の発祥は1937 (昭12) 年関東庁水試 (旧満州) での研究であるが, 本格的な普及は1955
(昭30) 年頃から宮城・岩手県で始まった。本県への技術導入は1961 (昭36) 年, 鹿児島県水試が東
町葛輪地先において葛輪水産研究会の協力のもとに実施したのが始まりで,以後急速に普及し1967
(昭42) 年には試験養殖も含め34漁協管内で養殖され, 生産量も 294㌧に達した。その後, 生産過剰
による淘汰で,1999 (平11) 年には5漁協管内で54㌧の生産にとどまっている。
(1)
①
生態特性
分
布
従来,本種の日本の南限は本県の山川町とされてきた。特に長島・阿久根沿岸は天
然わかめの産地として採藻漁業が盛んであった。また,串木野市羽島,市来町戸崎でも利用されて
いた。各地で養殖が普及してから,以前生育をみなかった沿岸に伝播発生がみられ,鹿島漁港,笠
沙,枕崎の堤防,鹿児島湾内の岩礁,佐多町大泊漁港,志布志沿岸などに見られるようになった。
②
品
種
東町葛輪地先産のワカメは2mに達し,茎が長く葉の切れ込みが深くて,胞子葉が
葉状部と離れている形態を示す(北方型)。一方,外海産のワカメは葉の切れ込みが浅く,ほとん
ど茎がなくて胞子葉が葉状部に接近している(南方型)。
③
生活環
肉眼的な葉状体期と微視的な配偶体世代の異型世代交代をおこなう(図1)。
・3〜5月,ワカメ葉状部が枯れる前,胞子葉(通称めかぶ)が成熟し,減数分裂を経て雄と雌
の遊走子(洋梨型,8×5 μm) を海中へ放出する。遊走子は十数分遊泳後,基質に着生して発生を
始める。発芽体は匍匐糸状の十数細胞の雄または雌の配偶体に生長し,夏を過ごす。
・10月以降,水温23℃以下になると雌・雄配偶体は成熟し,それぞれ生卵器と造精器を形成する。
生卵器から出た卵(径約0.01mm) は球形で
雌性配偶体の先端にとどまり,性フェロモ
ンを放出して精子を誘引する。造精器から
放出された精子(洋梨型,5×2μm)は卵
表面にタンポポの毛のように群がって,そ
のうちの1精子が受精する。受精卵は細胞
壁を形成し,やがて細胞分裂して発芽する。
発芽体は雌性配偶体上にとどまり,仮根を
発達させて冬から春へと胞子体として大き
く生長する。
(2)
現
表2
状
図1
ワカメの生活環 (秋山和夫
図2
ワカメの栽培工程図 (新村
1992)
わかめ養殖生産量の推移
年
経営
体数
生産量
(㌧)
生産額
(万円)
主産地
平9
34
42
1,000
阿久根
10
36
41
1,100
出
11
33
54
1,135
加治木
水
(農林統計)
(3)
養殖技術
養殖は種苗培養と養殖の2工程に分けら
れる。前者は陸上施設で種糸を育成し,後
者はその種糸を漁場へ展開して養成し収穫
する。種糸を自家培養せず他所から購入し
て,養成する場合もある。
①
ア
種苗培養
培養施設
100~ 2,000ç 水槽(ポ
リ製またはFRP製)を設置できる家屋。
家屋は夏期の
高温を避けるため,できれ
巖・原図)
ば北向きで,かつ通風・遮光の調節可能で,海水の取水が便利な施設。
イ
人工採苗
培養基質
ビニロン系単繊維の径2mmの糸(例:クレモナ1号 36本) のケバ焼きしたものが一
般に使われている。糸は塩ビパイプ製の培養枠に約1mm間隔に巻き付け,1枠が 100m単位とする。
母
藻
成育旺盛な母藻から成熟した胞子葉を採取。現場海水で汚れや付着珪藻類を洗い落とす。
種糸 100m当たり胞子葉1~2個が必要。1晩陰干しする。
採
苗
翌朝,容器に胞子葉を入れ,濾過海水をひたひたまでいれる。直射光を避けた明るいと
ころが,遊走子の放出を促進する。浸漬後10~30分で遊走子放出量を調べ,海水1滴をスライドグ
ラスに落とし, 顕微鏡 100倍1視野に数個確認したら,胞子葉を除去し,胞子液を細目の網で濾す。
100ç 水槽に種糸培養枠を縦に詰めて並べ,胞子液+濾過海水をひたひたまで注いでから,1~2
時間静置して採苗する。
タンク培養
採苗した種糸枠は別の培養タンクへ移し,10cm間隔に吊り下げて培養を開始する。
培養照度は,初期2~3週間は配偶体の生長を図る期間で約3kluxを保ち, その後高温期は暗光下
(500 lux 以下) で珪藻類などの発生を抑制する。9月以降,水温下降期に配偶体の成熟促進として
再び明るくし,換水とか栄養添加して培養する。水温22℃以下になると種糸上に発芽体(胞子体)
が形成されるまで培養を続ける。
②
養
ア
殖
仮沖出し
漁場水温が20℃になったら,種糸枠のまま沖の筏に垂下し,胞子体が1~2mm
の肉眼視されるまで15~20日間養成する。その間,付着珪藻類に覆われるので,数日置きに種糸枠
を水面で叩くようにして付着珪藻類の洗い落としを繰り返す。 (11月)
イ
種糸巻付け
ウ
養成管理
養殖縄(径10~20mm) に種糸を10~15cm間隔に巻き付ける。(12月)
当初(12~1月)は幼芽の生長促進のため照度の大きい浅い水深で養成し,2月
以降は養成水深を次第に下げていく。
エ
③
収
穫
生長にはムラがあるので,生長の早いものから間引き採取していく。
加工・出荷
生産初期には生わかめとして出荷する方法と,盛期に乾燥わかめにして出荷する(出水地区)。
大部分は塩蔵加工=熱水処理(ボイル)→冷水処理→脱水→塩蔵→脱水→冷蔵によって長期保存で
きるため,流通が安定した。
④
市
況
出水農林水産事務所調べ(平成12年)
生わかめ:40~45円/kg
(4)
乾燥わかめ:1,000円/500g
塩蔵わかめ:約 150円/kg
今後の課題
①
養殖技術
種苗培養において優良種苗の確保・保存と種苗生産の不作対策にはフリー配偶体
培養技術の普及が望まれる。
②
藻場造成への応用
本種は大型の藻場構成種で,ウニ,アワビ等の磯根資源の増殖ばかりで
なく海域の環境浄化機能も大きいことから,沿岸資源の保護増殖のため,ホンダワラ類のガラモ場
造成と併行して,漁協単位でワカメ場造成への応用が望まれる。
3)
おきなわもずく養殖
養殖技術の発祥は1970(昭45)年以降,鹿児島水試と同大島分場による養殖学的研究により開発
された。
(1)
①
生態特性
分
布
本種は奄美大島を北
限に,沖縄県西表島を南限とする南
西諸島に分布し,本県では
笠利湾,
焼内湾,大島海峡の湾口域と与論島
の礁湖に多くみられる。生育地は外
洋水の疎通のよい内湾や礁湖の静穏
な浅海で,低潮線下0~5mによく
繁茂する。
②
生活環
肉眼的な紐状体期(
胞子体世代)と微視的な配偶体世代
の異型世代交代をする(図3)。
ア
配偶体世代
3~6月頃十
分に生長した胞子体に単子嚢が形成
され,これから放出された遊走子が
発生して盤状型の雌・雄の配偶体と
なる。培養30日後には1層細胞から
なる径1mm内外の盤状体となり, そ
の表面に直立した配偶子複子嚢を形
成して, 配偶子を放出する。雌・雄
図3
オキナワモズクの生活環 (新村
巖
1977)
配偶子は接合して胞子体へ発生する。接合せずに単為発生して再び配偶体へ生育するものもあり,
このサブサイクルを繰り返す。
イ
胞子体世代
接合子は配偶子と同様に盤状型の発生。培養30日後,径約1mmの盤状体上に直
立同化糸を密生,同化糸は伸長分化して偽柔組織の髄層を形成し,体長5mmの直立幼体となる。約
3か月で体長30cm前後に成長する。この世代では,老幼にかかわらず無性生殖器官として同化糸先
端部に中性複子嚢を形成し,中性遊走子を放出する。中性遊走子は盤状型の発生経過をたどり,胞
子体へと成長する。このように本種は高温環境下でも中性遊走子による小型胞子体のサブサイクル
を繰り返し,周年生育することが特徴である。
(2)
現
状
1973(昭46) 年以降,奄美水産改良普及所の指導や奄美群島水産業振興事業による養殖適地調査
等で,生産量が当初は 310㌧(昭56年) まで伸びたが,後発の沖縄県が広大な適地漁場を利用し1
万㌧台の主産地へと発展したため市場価格の低迷をきたし,本県では次第に減産傾向を示し一時は
30㌧(平5年)となった。その後,技術の定着等で生産量は漸増しつつある。県水産振興課調べに
よると,1999(平11) 年は5経営体,生産量83㌧,生産額 2,830万円である。
(3)
養殖技術
養殖は種苗培養→養殖網への人工採苗→育苗→養成→収穫の工程に分けられる(図4)。
①
ア
種苗培養
野外培養とタンク培養の2方式がある。
野外培養
奄美本島の漁場では周年にわたり中性遊走子で増殖し,夏季に2cm以下の天然藻
体が生育することから,夏季後半に種板=ポリ・フイルム(約15×40cm) 数十枚を30cm間隔に5mm
ロープに挟み込んで種場の海底(低潮線下2~3m)に敷設する。10~11月にポリ・フイルムに着
生した天然幼体(2~3cm) 及び盤状体を母藻として人工採苗に利用する。
イ
タンク培養
与論島では礁湖内漁場のためか,沖縄県と同様に野外培養での種苗育成が成功
しないため,陸上タンクによる培養が行われている。5月に養殖藻体から塩ビ板(10×20cm) へ中
性遊走子を採苗し,越夏培養した盤状体を秋の人工採苗に利用する。母藻量=5g/1 ç 。
②
ア
人工採苗
タンク採苗と野外ずぼ式採苗の2方式がある。
タンク採苗
1kç容水槽で養殖網20枚が採苗できる。 種板は網1枚当たり2枚。通気は水
面が盛り上がるほどに強くする。毎日,網の反転。着生胞子の確認は,あらかじめ浸しておいたポ
リフィルム小片を顕微鏡で確認。採苗期間は1~2週間。網糸1cm当たり 500個以上が望ましい。
イ
野外ずぼ式採苗
資材(2×20m規格)=ずぼ枠,種苗固定網,ずぼ袋の3点セット。
1回で養殖網50枚に
採苗。ずぼ枠(塩ビ
パイプ製筏)に網50
枚を重ね, 種板を種
苗固定網に配置して
これら全部をずぼ袋
(ポリエチレン製,円
筒袋)ですっぽり包
み込み,中の空気を
追い出す。ここまで
の作業は浅場で行い,
終了後水深4~5m
の漁場に沖出しアン
カー留めして水面に
浮かす。採苗期間は
1~2週間。着生胞
図4
オキナワモズクの栽培工程図 (新村
巖 1992)
子の確認はタンク採苗と同様。着生が薄いと10日毎に換水する。
③
育
苗
もずく養殖の成否は育苗技術に左右される。採苗後30~45日間に体長1~3cmに育
てること。適地は潮通しのよい,低潮線下 0.5~1m,死サンゴ礫~大砂の底質。網は5枚重ねで
潮流に沿って底張り展開。網の4隅を砂袋で固定して接地し,網の下5~6箇所に「沈み伸子棒」
を取り付ける。期間中は浮泥に巻かれぬようポンプ洗浄が肝要。
④
養
ア
成
育苗した網は1枚ずつ漁場に張り込む(本張りと言う)。次の3方式がある。
底張り式
水深1~2mの平坦漁場に,網10枚を海底に20×20mの側ロープを固定し,網を
並列に展開結着する。網には2m間隔に浮伸子棒を取り付け,底質との摩擦を避ける。潜水作業が
主体となる。
イ
浮き筏式
深い漁場が活用できる。ロープ式浮き筏(網10枚分:30×20mの側張り)に浮き
玉を付け,四隅をアンカーロープで固定する。側張り全体の水深を浮き玉の吊り綱と砂袋で加減で
き,季節による養殖網の水深を調整する。網は伸子棒で加減する。船上での作業が利点。
ウ
杭建て式
沖縄方式。 遠浅の砂浜漁場で鉄筋杭を2~3mおきに,高さ30~50cm打ち込み,
ロープを併用して網を展開する。潜水作業が主体となる。
⑤
収穫・加工
本張り後約50日(採苗後80~90日) で藻体が30cmに生長した頃収穫する。
芽付きの濃い網では2~3回摘採できる。網1枚当たりの生産性は30~140kg,平均60kg位である。
省力化が進み摘採機(回転剪断式と吸引式,本県では前者が多い)が普及した。摘採後は洗浄→雑
藻除去→脱水→塩蔵(25%)の工程を経て1~5kçタンクに貯蔵される。品質保持が重要で,これ
らの工程は機械化されているが,雑藻除去だけが人手に頼る隘路となっている。
⑥
流
通
流通形態は18kg詰め容器の塩もずくである。一部地元消費で鮮度のよい無塩物もあ
るが僅かである。1980(昭55) 年,販路に行き詰まり,県漁連を中心に共販制度を実施したが,沖
縄県の生産増によって価格の下落と市場の混乱が続いている。しかし,奄美産は品質管理が徹底し
て商社の評判もよく,現在は生産者個々の取引を行っている。
(4)
①
今後の課題
生産の安定化
作柄は育苗期間中の海況変動に左右されるので,不作対策として採苗時期を
ずらした種苗網の育成確保が望まれる。
4)
ひとえぐさ養殖
本種は沿岸岩礁に自生し,古くから採取し食用としてきた。本県での養殖は1910(明43) 年,西
国分村(現隼人町)であまのり養殖の
副産物としての記録がある。本格的な
養殖は1960(昭35) 年東町で試験養殖
したのが始まりである。
(1)
生態特性
①
養殖品種
東町と喜入町ではヒ
ロハノヒトエグサが主養殖品種として
確認されている。南西諸島や外海地帯
ではヒトエグサと推察されるが精査さ
れていない。
②
生活環
肉眼的な葉状体期(配
偶体世代)と微視的な球状体期(胞子
体世代)の異型世代交代をおこなう。
(ヒロハノヒトエグサ:図5)
・春から初夏にかけて成熟葉体(雌雄
異株)の縁辺の配偶子嚢から放出され
図5
ヒロハノヒトエグサの生活環 (喜田和四郎
1992)
た雌,雄の配偶子は接合し,海底の基質に着生して接合子となる。夏の休眠後,径60um前後の遊走
子嚢に成長する。
・初秋に遊走子嚢は成熟し遊走子を放出。遊走子は基質に付着後,発芽して葉状体に生長する。
・一方,雌,雄配偶子体は接合しないものもあり,付着して単為発生し,成熟して遊走子嚢から
遊走胞子を放出し,葉状体へと発生するサブサイクルがある。
(2)
現
状
表3
地
区
別
北
ひとえぐさ養殖生産状況
薩
経営体
西
157
薩
7
南
薩
鹿児島湾
大
隅
熊
毛
奄美大島
合
計
−
50
−
−
5
219
−
17,680
592,975
−
13,050
380,751
生産量
生kg
533,120
1,370
−
40,805
−
生産額
千円
333,425
863
−
33,413
−
(県水産振興課:平成11年1‑12月)
(3)
養殖技術
本県の養殖は大部分が天然採苗に依存し,人工採苗は技術的難点があり,喜入町の一部の網で実
施されている。本種は生育する環境や時期および生育水位などの生態的特性が養殖アマノリとよく
似ているので,その養殖方法もアマノリの場合とほとんど同様に行われている。
①
天然採苗
9月中旬頃。水温25℃前後。上げ潮の主流が渦流を形成する内湾が種場として適
地。採苗網は10〜20枚重ねで大潮時期に設置する。遊走子の付着層は漁場の平均水面下30cm前後で,
大潮昼間4〜 4.5時間干出線(平均水面は潮汐表の近くの基準港から求める)。
採苗期間は1潮(15日間) 。
②
人工採苗
培養工程を概略列記すると次のとおり。詳細は後記の文献を参照されたい。
ア
接合子付け
4〜5月。成熟母藻の確保→配偶子の放出→接合子の採苗。
イ
接合子培養
5〜9月。種板(接合子を採苗した板) →水槽培養→夏期の管理→遊走子嚢の形成。
ウ
遊走子付け
9月。遊走子嚢の成熟促進→遊走子の放出→ドブ漬採苗→沖出し展開。
③
育
苗
網は5枚重ねで展開。採苗水位保持。葉長1cm位までポンプで浮泥洗浄。
④
養
成
網は単張り浮動養殖。養殖水位は1日平均2〜4時間干出線。網の密植を避け,潮
がわりを良くしないと「ドタ腐れ病」が発生しやすい。
⑤
収
穫
あまのり養殖と同様,摘採から製品までの工程が鮮度を保って,短時間で処理する。
のり摘採機→淡水洗浄→脱水→生のり出荷,または乾製品出荷の2通りがある。
(4)
①
加工・流通
出荷形態
生のり出荷は生のり葉体をポリ小袋に詰めて出す方法と,球状に丸めて(おにぎ
り型=100g) 冷凍(−20℃) してそのまま販売する方法がある。この冷凍生のり法は長期保存に耐
え,すぐれものである。乾製品はバラ干しと板干しがあり,バラ干しはばらばらの乾燥小片を袋詰
めとし,板干しは浅い箱型枠に生のりを敷きつめて乾燥100gの板状製品にして出荷する。いずれも
従来の天日乾燥から機械乾燥になり,品質向上が図られた。
②
流
通
漁協により異なり,東町の共販出荷以外は個人販売が多い。
東町漁協の1999(平11)平均生産量は乾燥 8.5kg/柵。価格:3,400円/kg(乾製品)。
(5)
①
今後の課題
漁場行使の検討
一般に密植傾向である。密植は病害発生や生産性の低下を来す。沖合での
浮流し養殖技術の開発。天然採苗の漁場によるムラづきは,種場の渦流域の選定が肝要。
②
人工採苗技術の普及
環境変動による天然採苗の不調に備えて,人工採苗技術の確立と普及
に取り組むべきである。研究グループの育成が望ましい。
③
消費拡大
佃煮原料が大半を占め限界がある。青のり汁の利用は本県と沖縄県だけで,他県
へも食堂・料亭を通じて宣伝し,さらに家庭消費へと拡大を図る。
5)
藻場造成
藻場とは,浅海底に生育する大型海藻の群落帯をいい,有用魚介類の生産に大きく機能している。
しかし第二次大戦後,内湾域の多くの藻場は干拓や埋立,富栄養化や水質汚染などによって次々と
姿を消した。また外海域では磯焼け現象によって消失が加わった。
近年,沿岸漁業振興の政策課題として,藻場造成が沿岸資源の保護・増殖を図る上で重要課題と
なっている。
(1)
①
ア
生態特性
藻場の種類
アマモ場
大別して次の3種類に分けられる。
海草(海産顕花植物=花が咲く)の単子葉植物・アマモ科に属する水草で,静穏
な内湾域の水深5m以浅の砂地の海底に群生している。本県には3種類が分布している。
アマモ
体長30cm以上。阿久根市脇本, 鹿児島湾奥部に規模の大きい分布あり。
コアマモ
体長20cm以下。小規模分布が多い。特に長島諸島,笠沙町片浦,志布志町夏井,奄美
大島笠利湾・大島海峡にみられる。
リュウキュウスガモ
イ
ケルプ場
体長30cm内外。亜熱帯性。与論島大金久海岸に濃生域がある。
褐藻類コンブ目に属するうち,海中林を形成する種類。コンブ類,アラメ・カジ
メ・クロメ・アントクメ,ワカメ等の群落。本県には次の2種が分布する。
ワカメ
養殖による伝播発生で,小規模群落が各地にみられる。従来から天然わかめの産地とし
て長島諸島,阿久根市沿岸に大規模なワカメ場がある(わかめ養殖の項参照)。
アントクメ
体長 0.5~1m。方言は北薩地区で「かじめ」,志布志で「ことっ」,西之表で
「こうとく」という。北薩では広い群
落があるが,その他は稀少的分布で
ある。
ウ
ガラモ場
褐藻類ホンダワ
ラ類の群落をいう。本県産のホンダ
ワラ科は44種が報告されているが,
普通にみられるのはヤツマタモク,
マメタワラである。内湾域にはアカ
モク,外海域のうち県本土側でヒジ
キ,ノコギリモク,ヨレモク,エン
ドウモク,ウミトラノオ,離島地区
ではイソモク,フタエモク,ラッパ
モクのほか,南方系の数種が藻場を
形成する。
②
生活環
ガラモ場のマメタワ
ラについて説明する(図6)。
藻体は核相が複相の茎部越年性の
配偶体で,春に1~2mに成長する。
雌雄異株で,5月頃成熟すると枝先
に雌または雄の生殖器床ができる。
放出された卵(長径0.2mm)は生殖器
床の表面に付着したまま受精する。
受精卵が発生した幼胚は仮根を形成
して,数日後生殖器床を離れ海底へ
沈着する。母藻は初夏に茎と盤状の
付着器を残して流失し,秋になって
図6
マメタワラの生活環 (寺脇利信
1993)
茎に再び新芽を出して成長する。寿命は数年間といわれている。発芽体は初期葉→羽状分裂葉を経
て主枝を形成し,秋から翌春へ急速に伸長する。このようにホンダワラ類は陸上被子植物と同様に単
相の世代が存在しない。
③
造成技術
ア
アマモ場造成
ア)
造成適地環境
水温=8月平均水温が28℃以下。塩分=20‰以上。水深=最大低潮線〜−
3m。砂の動き=発芽期の砂面の日変動幅は2〜3cm以下。底質=砂泥質(粒径0.25〜0.50mmが多
い砂質は不可)。その他=底びき網漁業がない。海藻類などの漂流物が少ない。
イ)
造成法
項目を列挙する。(海藻資源養殖学,230 〜243 頁参照)
(ア) 草体移植 直接植付け法,地下茎に小石を結び付けて投入法,細かい網に草体を挿入して
移殖法,トロ箱にアマモ繁茂地の泥を入れアマモを活着させたものの移植法。
(イ) 人工種苗 種子を現場海底に直接散布法,種子を隙間の多いマット状基質に埋め込み現場
海底に設置する間接散布法,陸上水槽の育苗器で幼体を育ててから現場へ移植する方法。
イ
ケルプ場造成・ガラモ場造成
手法に共通点が多いので,以下まとめて記述する。
ア)
造成適地の選定
両藻場とも水深は異なるが礫〜岩礁に生育しているため,従来は藻場の
少ないか,磯焼けした岩礁地帯で造成を
実施してきた。しかし,岩礁地帯には藻
表4
軟体動物
食性の先住動物(うに類,あわび類,巻
主な藻食性水産動物
ヒザラガイ類
腹
足
類
貝類,アメフラシ類)がいて,幼芽期か
ら食害するため殆ど成功しなかった。
そこで食害動物の極めて少ない場所と
アワビ類,ニシキウズ類
サザエ類,アメフラシ類
棘皮動物
ウ
脊椎動物
魚
ニ
類
類
ギンポ類,スズメダイ類
して,天然岩礁から最低 100m離れた砂
ブダイ類,ニザダイ類
泥域を利用することが望ましい。
メジナ類,カワハギ類,
イ)
造成水深 本県の藻場調査によ
アイゴ類,ハゼ類,フグ
ると以下のとおり。数字は繁茂帯(出現
類,チョウチョウウオ類
範囲)。
ワカメ場
1〜3m(0〜12m)
マメタワラ場
アントクメ場
1〜3m(0〜11m)
ノコギリモク場
2〜3m(2〜10m)
ヤツマタモク場
5〜12m(2〜17m)
1〜3m(0〜4m)
フタエモク,コブクロモク場( 2〜5m)
ウ)
砂層厚さ 50cm以下で,その下は岩盤が望ましい。
エ)
投入基質 天然岩石( 150kg以上),コンクリート・ブロック,蛇籠礁など。波浪,漂砂,
洗掘による移動や埋没を避けるため,砂層厚さより20〜30cmの高さが必要。基質表面は凹凸があっ
たほうがよく,ブロックの稜角部,特に角度45°以上で藻体の固着力, 生残率に効果あり。
オ)
造成面積 明確な基準はないが,各地の例からha単位(100m ×100m) が望ましい。投入基
質を密に配置するより,一定の間隔を空けたほうが建設費ばかりか,藻場の効用面積の増大となる。
カ)
造成法
(ア) 母藻投入
成熟藻体を重石に結着して5m間隔に投入する。時期は以下のとおり。
・ワカメ場 3〜5月。胞子葉(めかぶ)数個を網袋に重石とともに入れる方法。または,
養殖ワカメを養殖ロープごと海底に敷設し,胞子葉からの遊走子(種子)の撒布を期待する法。
・アントクメ場
7月。葉の表面に黒褐色の斑紋(子嚢斑という)を確認して,網袋で投入。
・マメタワラ・ヤツマタモク場
・ノコギリモク場
5〜6月。
8〜9月。
雌の生殖器床を確認した母藻を刈り取って,数本を一束として重石に結着して投入。
(イ)
人工種苗移植
対象種の種苗をロープ,網に採苗し,陸上水槽で育苗後,現場海域に展
開する方法。海藻養殖の手法に準じた工程をたどり,培養施設,労力等がかかる。その点,母藻投
入法が省力的かつ広い面積に応用できる。
④
今後の課題
ア
藻場維持対策
食害動物の摂餌圧を上回る十分な量の母藻・種苗の移植。幼芽期の減耗を抑
えるため,大型種苗の移植。定期的な種苗の補給で群落の密度を保つ。
イ
食害動物対策
人為的な駆除。餌料用海藻(ワカメ等)を併行して造成し,藻場対象種を間
接的に保護する。食害魚類には造成地を網で仕切る。網籠で基質を保護する等が試みられた。
ウ
藻場造成管理
砂泥域で的確に場所と時期を選んで,安定した基盤を設置できれば,人為的
管理なし(メンテナンスフリー)に藻場造成に成功した実証例があるが,藻場の維持管理は未解決
な課題も多く,今後の研究に期待したい。
6)
その他海藻の増殖
本県で生産される主なその他海藻は,ひじき,ふのり類(マフノリ,フクロフノリ),てんぐさ
類(マクサ,オニクサ,ヒラクサ,オバクサ),きりんさい類(トゲキリンサイ,アマクサキリン
サイ),とさかのり,おごのり類(オゴノリ,ユミガタオゴノリ)等で地元消費のほか共販出荷し
ている。これらの増殖はその生態に合わせて実施すべきで,時期は対象種の成熟期におこなう。
(1)
生態特性
本県産有用藻類の生育・成熟時期については表6を参照。
(2)
現
状
農林統計の魚種別漁獲量には,わかめ類,てんぐさ類,ふのり,その他の海藻類だ
けなので,本県産主要種のひじき,とさかのり等の生産実態を調べた(表5)。
表5
その他海藻類の生産状況
項
目
ひ
生産漁協数
じ
き
〔1996(平8)35漁協報告,県水産OB会調査〕
てんぐさ類
とさかのり
ふのり類
あまくさきりんさい
10
8
13
4
2
kg
45,179
11,145
272,113
2,175
350
千円
17,213
8,275
196,465
2,399
594
平均単価 円
381
745
722
1,102
1,697
単価範囲 円
100‑672
637‑824
562‑870
772‑1365
1680‑1700
生産量
*
生産額
*生産量のうち,とさかのり,あまくさきりんさいは塩蔵,その他は素干し乾燥重量。
(3)
①
ア
増殖技術
消極的増殖
乱獲防止
禁漁期(成熟期),禁漁区(種場),漁具,漁法の制限(素潜り法,酸素ボンベ
本数),採取方法(藻体の根部,座を残す)
②
ア
積極的増殖
着生面の造成
磯掃除
潮間帯では対象種の着生面の雑藻,動物類(フジツボ,カキ)の駆除(岩面掻破機法・
苛性カリ5%液撒布法)。コンクリート面造成法。
投
イ
石
漸深帯では山石(100kg 以上) の投入(藻場造成の項参照)。
母藻移植
波浪の砕ける潮間帯では,母藻を金網ザルに入れ,生育帯下限の岩場にザルを伏
せてセメント固定する方法(ひじき,ふのり類)。漸深帯では網袋に重石を入れて投入する。母藻
の成熟時期に実施して,その後の胞子の放出・着生を期待する。
ウ
種まき法
成熟母藻から放出させた胞子液を,岩礁に直接ジョロ蒔きする方法と,胞子液に
基質(石,コンクリート・ブロック等)を10分程度浸してから投入する。本県での成功例は甑島に
おける1952(昭27) 年のふのり増殖指導で,岩肌が見えないほど生育した(鹿児島県水産技術のあ
ゆみ,p.425)。一般的には成功例は少ない。
エ
施
撒布法
肥
ふのり場の春の成長期に硫安 0.4%海水溶液を毎日干潮時に1㎡当たり1 •施肥したと
ころ,30〜90%の増産となった。
定置法
まくり場で夏の成長期に硫安を素焼きの土管に入れて密封し沈下したら,1.8 倍の収穫
があった。静岡県のてんぐさ場で夏に藻体が黄化現象(栄養失調)するので化学肥料をポリ袋に詰
め,千枚通しで5か所穴をあけて重石とともに沈下し,13日後対照区の5〜7倍の増加と色調の回
復がみられた。
(4)
今後の課題
①
効果の確認
5) 藻場造成, 6)その他海藻増殖の両項目とも,実施記録と効果確認をするこ
とが技術の進歩につながる。造成計画設計→適地の選定→対象種の成熟期確認→造成基質の設置→
経過の把握(定期的調査;1か月後,3月,6月,1年,2年・・)→対照区との比較が重要。
表6.鹿児島県産有用藻類の生育・成熟時期
種
類
試料産地
体長cm
緑藻類
ヒ ト エ グ サ
アオノリ類 Enteromorpha
ア ナ ア オ サ
褐藻類
フ ト モ ズ ク
オキナワモズク
〃
モ
ズ
ク
〃
ア ン ト ク メ
ワカメ・茎長ーdistance
〃 :茎短・typica
ヒ
ジ
キ
マ メ タ ワ ラ
ヤツマタモク
ヨ レ モ ク
ノコギリモク
ア カ モ ク
紅藻類
アサクサノリ
マルバアマノリ
イチマツノリ
マルバアサクサノリ
オニアマノリ
タネガシマアマノリ
マ
ク
サ
オ ニ ク サ
ヒ ラ ク サ
キョウノヒモ
ハ ナ フ ノ リ
フクロフノリ
マ フ ノ リ
アマクサキリンサイ
ト サ カ ノ リ
オ ゴ ノ リ
マ
ク
リ
〃
胞 子
生育期(月)
体 世 代 (2n)
成熟期(月)
生殖細胞
生殖器
体長cm
配 偶
生育期(月)
体 世 代 (n)
成熟期(月)
生殖細胞
備
喜入町
鹿児島湾
鹿児島湾
0.1 以下 5〜9
9上〜10上
10以上 冬〜初夏(周年 ) 12〜6(周年)
10以上 春〜初秋(周年) 5〜9 (周年)
遊赱子
遊赱子
遊赱子
遊赱子嚢
遊赱子嚢
遊赱子嚢
10
10以上
10以上
12〜 5
3上〜5下
冬〜初夏(周年 ) 12〜6 (周年 )
春〜初秋(周年) 5〜9 (周年)
雌・雄 配偶子
雌・雄 配偶子
雌・雄 配偶子
異 株 異型世代交代
異 株 同型世代交代
異 株 同型世代交代
阿久根市
古仁屋
〃
東町 市来崎
〃
東町田尻
東町葛輪
阿久根市・山川
鹿児島湾
〃 瀬々串
〃 平川
阿久根市牛ノ浜
〃
東町薄井
10以上
1〜30
〃
20〜30
〃
30以上
200
100
50以上
100以上
〃
〃
〃
200以上
2〜5
周 年
〃
3〜6
〃
3〜8
2〜6
1〜5
2〜6
1〜6
〃
〃
3〜9
1〜5
4〜5
周 年
3〜5
5〜6
3〜4
7上〜8上
4〜6
2〜5
5〜6
〃
5中〜6下
4中
9
4下
遊赱子
単子嚢
0.1 以下
4〜翌年2
1〜3
雌・雄 配偶子
異 株
中性遊赱子
中性複子嚢
遊赱子
遊赱子
単子嚢
単子嚢
0.1 以下
0.1 以下
6〜翌年2
6〜翌年2
12〜3 (周年)
1〜3
雌・雄 配偶子
雌・雄 配偶子
異 株
〃
雌・雄 配偶子
雌・雄 配偶子
雌・雄 配偶子
卵・精子
〃
〃
〃
〃
〃
異 株
〃
〃
異 株
異 株
異 株
異 株
異 株
異 株
出水市 福の江
〃
〃
喜入町
坊津町
西之表市 伊関
甑島
内之浦町
種子島
根占町
奄美大島
甑島
甑島
長島町指江
枕崎市
出水市 福の江
奄美大島
甑島・種子島
1以下
〃
〃
〃
〃
〃
10以上
5〜10
20以上
20以上
1〜3
5〜10
〃
10
20以上
30以上
5〜15
〃
春〜秋(糸状体)
〃
〃
〃
〃
〃
春〜初秋
〃
春〜秋
春〜夏
2〜6
春〜初夏
春〜夏
4〜8
3〜8
1〜6
周 年
〃
9下〜10中
10〜11
〃
〃
〃
9〜?
5下〜7中
7〜8
7下〜9下
5〜6
3上〜5下
5中〜6上
5下〜6下
6上〜8上
5下〜8下
4〜6
6中〜9中
8上〜9上
果胞子・精子
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
同
中性遊赱子
中性複子嚢
遊赱子
遊赱子
遊赱子
単子嚢
単子嚢
単子嚢
生殖器床
〃
〃
〃
〃
〃
殼胞子
〃
〃
〃
〃
〃
四分胞子
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
殼胞子嚢
〃
〃
〃
〃
〃
四分胞子托
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
0.1 以下
8〜翌年2
2〜4
0.1 以下
6〜翌年2
1〜3
0.1 以下
5〜翌年2
1〜3
ホンダワラ類の肉眼視される藻体は,核
相が複相(2n)の配偶体で,成熟期に形
成される生殖器床内で,卵または精子が
減数分裂により単相(n)になり,受精後
に複相(2n)の発芽体となって藻体へと
成長する。したがって,核相が単相 (n)
の世代は存在しない。
10以上
10〜3
1〜3
3〜5
〃
〃
3〜10
〃
〃
5〜10
〃
〃
5〜15
〃
〃
10〜15
9〜4(周年) 9〜4
10以上
春〜初秋
5下〜7中
5〜10
〃
7〜8
20以上
春〜秋
7下〜9下
20以上
春〜夏
5〜6
1〜3
2〜6
3上〜5下
5〜10
春〜初夏
6上〜6中
〃
春〜夏
6中〜7中
10
4〜8
6上〜8上
20以上
3〜8
5下〜8下
30以上
1〜6
4〜6
5〜15
周 年
7上〜9中
〃
〃
8上〜9上
考
雌雄株
異型交(胞子体発生初期に中性遊赱子で増殖)
中性遊赱子によるサブサイクルで周年生育する
異型交(配偶子は単為発生もする)
異型交(配偶子は単為発生もする)
胞子体発生初期に中性遊赱子で増殖
異型世代交代
異型世代交代
異型世代交代
世代交代は行われない
世代交代は行われない
世代交代は行われない
世代交代は行われない
世代交代は行われない
世代交代は行われない
株 異型世代交代・幼葉期に単胞子で増殖
〃
異型世代交代・幼葉期に単胞子で増殖
〃
異型世代交代・単胞子で増殖は不明
〃
異型世代交代・幼葉期に単胞子で増殖
異 株 異型世代交代
同 株 異型世代交代・幼葉期に単胞子で増殖
異 株 同型世代交代
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
(鹿児島水試資料)
魚
類
1)
ぶり養殖
(1)
生態特性
①
分
布
北海道から広く南日本〜台湾に至るまで分布,黒潮及びその分派流域。
②
回
遊
春から盛夏の候にかけて北上し,秋から冬に南下する。
③
産
卵
本州中部以南の海域で,特に南西諸島周辺海域が中心。産卵期は薩南海域で3〜4
成
長
魚食性で成長が極めて早い。成熟は3年魚以上。代表的な出世魚で,同じ大きさで
月。
④
も産地によって呼称が異なる。土佐湾の例をあげる。
モジャコ尾叉長3〜15㎝ → ワカナ15〜20㎝ → ツバス30㎝前後(体重 300〜400g) → ヤズ(ハ
マチ) 30〜40㎝( 400g〜1㎏) → メジロ60〜70㎝(3〜6㎏) → 小ブリ70㎝前後(5〜6㎏) →
大ブリ70㎝以上(7㎏以上)。
養殖の場合,その海域の水温によって成長に遅速がある。本県では,八代海より鹿児島湾の方が
成長が速い。
(2)
養殖の現状
1958(昭33)年に鹿児島湾奥で試験的に始められたブリ養殖は,熊毛・奄美海区を除く本県全海
区で養殖されている。県水産振興課の調べによると,1998(平10)年度は,経営体数 296,生産量
24,818㌧,生産額20,778百万円, 単価 1,124円/㎏で全国第1位となっているが,2000(平12)年
12月の単価は 1,000円内外となり,さらに2001(平13)年4月には720〜750円/㎏と下落している。
単一漁協で日本一のブリ生産を揚げている東町では,安全な魚作りに地域全体で取り組んでおり,
『持続的養殖生産確保法』の適用も受けている。
(3)
①
養殖技術
種
苗
4〜5月頃,流れ藻の下についているモジャコを小型のまき網でとる。人工種苗の
生産も試験的に行われているが, 量産に至っていない。
②
施
設
築堤式,仕切り網式,小割式といろいろあるが,本県では小割生簀8m角,深さ8
mで2,000尾が主体を占めている。
③
飼育密度
稚魚時代は3〜5㎏/ â であるが,水域環境が最も悪化する夏期の場合,小割生
簀1㎥当たり7㎏程度が標準的な目安とされている。最終的には小割生簀8m角,深さ8mで2,000
尾を養殖している。漁場ごとの放養量は,1978(昭53)年に制定された「鹿児島県魚類養殖指導指
針」に基づき,過密養殖にならないようにする。過密養殖を行うと,自家汚染が促進されるばかり
でなく魚の成長が悪くなり,さらに病気に罹りやすくなる。生簀内の飼育海水の溶存酸素量5 ò を
維持することが肝要。
④
飼餌料
イワシ, アジ, サバ, イカナゴ等の生鮮・冷凍ものがよく使用されるが, 最近では
これらに配合飼料の粉末を添加して造粒したモイストペレットが普及している。また,一部の地域
では固形の配合飼料を使用している所も増えつつある。
⑤
成
長
⑥
飼料効率
養殖ブリの成長曲線は次図のとおり。
生餌料12.5 % 前後, モイストペレット20〜25%,固形の配合飼料50〜67%とな
っており,養殖管理技術で左右される。
⑦
歩留り率
当年物70〜80%,2〜3年物以上90〜98%。歩留り率をあげるには,魚病・赤潮
・台風等の対策を充分に行うことが肝要である。
(4)
市
況
生鮮物の出荷が殆ど市場価格は720〜750円/㎏内外(2001(平13)年4月)。米国への輸出もある。
(5)
①
養殖環境条件
水
温
18〜28℃が最適。28℃を越すと摂餌やや低下。32℃以上では致死することもある。
14℃では,摂餌するが成長停止。魚体重によっても好適水温は変わる。魚体重 400グラムで27〜28
℃,800グラムで26〜27℃,1,500グラムで25〜26℃,4,000グラムで21〜22℃である。
②
塩
③
溶存酸素
④
COD
⑤
アンモニア態窒素
⑥
濁
り
透明度2m以下になると摂餌不良。また懸濁物10ò で魚の酸素消費速度が早くなる。
⑦
水
深
敷設生簀の深さの少なくとも2倍以上が望ましい。
⑧
底
質
COD15㎎/Dg,硫化物0.5㎎/Dgになると,底生生物は急減する。
(6)
分
30〜36‰が最適。27‰で摂餌低下,19〜20‰が続くと摂餌しなくなり,斃死も起る。
5 ò 以上で正常。4 ò で摂餌低下。3 ò で呼吸困難。1.5ò で窒息死。
水産環境水基準では2 ò が限界。
0.3ò で摂餌不良, 成長不良等が見られる。
ブリの栄養特性
蛋白質,脂質,ミネラル,ビタミンなどを多く含んだ栄養的に優れた食品。また,ブリに豊富に
含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)には,血液をサラサラ
にする働きと,血液を固まりにくくする作用があり,動脈硬化や心筋梗塞などの予防にも効果があ
る。
図1
(7)
養殖ブリの成長
資料; 垂水市漁協 川元浩美 ・ 東町漁協 石田幸生
今後の課題
養殖漁場の環境保全を図りつつ, 安全性の高い魚を作ることが課題である。さらに銘柄品として
の確立は勿論, 健康食品としての需要拡大の努力も必要である。
2)
かんぱち養殖
(1)
生態特性
体型は著しく側扁し, ブリ・ヒラマサよりも体高は高い。背面は淡桃色ないし青紫色で,腹面は
淡灰色である。前額部には正面からみて八の字形の暗色斑がある(間八の由来)。体側中央には淡
黄色の1縦走帯がある。
稚魚はブリの稚魚とよく似ており, 全身黄褐色で金属光沢を有し, 体側にはやや幅の広い赤褐色
の横帯が数条ないし10数条あるが, ブリよりも体高が高いことによって容易に識別される。
近縁種として ヒレナガカンパチ があり,カンパチに酷似するが,第2背びれと尻びれの前部軟条
が伸びて鎌状を呈することによってカンパチと識別される。
魚市場ではカンパチに混じって取引されているが, 値段はカンパチに比べ若干劣る。
(2)
養殖の現状
ハマチ・ブリよりも値がよいので養殖が行われているが, 多量の種苗を確保できないことに隘路
がある。そのため, カンパチの養殖は,本県初め南日本のごく一部の地方に限られている。
県水産振興課調べによると, 1998(平10)年度における本県かんぱち養殖は,経営体数224,生産
量18,479㌧,生産額18,399百万円,販売単価 1,923円/㎏。但し2000(平12)年12月では 1,000〜
1,300円/㎏である。
本県では鹿屋が最も多く,次いで瀬戸内,根占,垂水,東・西桜島と続いている。
(3)
①
養殖技術
種
苗
流れ藻に付いている稚魚か,シイラ漬けに付いている稚魚を用いる。発生時期はモ
ジャコよりやや遅れて,薩南海域や九州西海域でも5月下旬〜7月である。しかし,その数はモジ
ャコよりもはるかに少ない。流れ藻を離れたものが7月ごろシイラ漬けに付いているので,これを
小型のまき網で捕っている。また, 沿岸の磯建て網にも体長20〜30㎝のものがかかる。南日本に多
い。定置網に入った小型の幼魚も種苗としているが,なかなか大量には集りにくい。2001(平13)
年,県栽培漁業センターでは,養殖可能な稚魚1万尾の飼育に初めて成功した。稚魚の安定供給に
向けた第一歩と言えよう。
②
施設・飼育密度・飼餌料等
③
飼育水温
ブリに準ずる。
ブリよりやや高目がよい。最適水温は,当年もので26〜31℃,2年もの以上で20
〜31℃,生存下限9℃,生存上限33℃といわれる。
④
(4)
成
長
ブリに比べてやや劣る。次図のとおり。
今後の課題
①
種苗の安定供給
②
適水温漁場の確保
③
低水温・赤潮に敏感
④
完全配合飼料 による養殖技術の確立 。
⑤
疾病対策
水温12℃以下は好ましくない。
漁場の選定が重要。
寄生虫に弱い, 特に血管内吸虫には注意すべきである。
図2
3)
人工種苗生産技術の確立,外国産種苗は新しい疾病の伝播等に問題がある。
養殖カンパチの成長
資料;垂水市漁協 川元浩美
ひらまさ養殖
(1)
生態特性
本県では,ヒラスと呼んでいる。ブリに最も近く外見的に酷似している。ブリとの見分け方は,
第1背びれ棘がブリでは5本(ただし, 幼魚では6本のことがある)であるが, 本種では6本であ
ること, また, 主上顎骨の後隅角部がブリでは割合い方形であるが,本種では円みを帯びているこ
となどで識別される。背面は暗青色,腹面は銀白色で,体側中央部には濃黄色の1縦走帯がある。
この黄帯の濃淡ではブリとヒラマサの識別はほとんどつかない。
体長3〜6㎝の稚魚期には体側に6〜10数条の横帯が現れることはモジャコと同様であるが,背
面は青く,腹面は白い。したがって,稚魚期にもモジャコとは異なって流れ藻には殆ど付かないよ
うである。
①
産
卵
ブリよりもやや遅れて5〜6月に行われる。
日本の魚市場に春から夏にかけて体長50〜60㎝のものが大量に揚がることがあるが, これがどこ
で産卵され,孵化したものか,殆ど判っていない。ブリよりも数はやはり少ない。
大きくなると体長2m前後に達するが, 体幅がブリより狭いので, 見掛けほどの重さはない。
②
分
布
ブリよりも暖海を好むので, 北部日本では殆ど見られない。本州中部以南,黄海・
東支那海・沖縄・台湾・ハワイ諸島から西部太平洋に分布する。
夏にも美味で, 刺身の良い材料である。また, すし種・塩焼きにもする。
③
養殖の現状
県水産振興課調べによると, 1998(平10)年度における本県のひらまさ養殖は,
経営体数6,生産量30㌧,生産額36百万円となっている。
④
4)
養殖技術
ブリに準ずる。
まだい養殖
(1)
生態特性
①
分
布
日本の各地・中国・朝鮮からアジアにかけて分布する。
②
回
遊
産卵に伴う深浅移動,季節に伴う深浅移動,海域に於ける湾内外の交流等。
③
産
卵
一般に2〜6月であるが, 漁場によって時期・期間にずれと長短がある。本県では
2〜5月,海水温15〜24℃,盛期の水温18〜20℃である。
④
成
長
天然マダイの成長は生息水域によって異なる。魚の体長は,天草沿岸の例では1歳
魚12〜23㎝,2歳魚22〜33㎝,3歳魚24〜39㎝,4歳魚30〜49㎝,5歳30〜55㎝,6歳魚40〜57㎝,
7歳魚44〜63㎝と推定されている。
養殖マダイの成長と水温の関係は図3のとおり 。天然マダイより成長は速い。
(2)
養殖の現状
養殖の歴史は比較的新しく, 1965(昭40)年頃から始まり, 1970(昭45)年になって西日本各地
で盛んに養殖が行われるようになった。本県では水産試験場により,1962(昭37)年に「タイ稚魚
種苗化予備試験」, 1963(昭38)年に「海産魚蓄養適種試験」をしたのが最初である。県水産振興
課調べによると,1998(平10)年度におけるまだい養殖は,経営体数72,生産量で全国7位の3,672
㌧,生産額2,142百万円,単価 867円となっているが,2000(平12)年12月の単価は1,100円/㎏内
外となっている。
県内を海区別にみると, 大島海区が約93%と断然多く, そのうち宇検58%,瀬戸内35%を占めて
いる。次いで北薩(東町)4.5%,鹿児島海区1.9%の順。
(3)
養殖技術
①
養殖施設
②
養殖場としての好適条件
・適正な水深
築堤仕切,支柱仕切,網仕切り等と小割生簀方式に大別
小割生簀の深さの2倍以上の水深のところ。
・海水の流動・潮替わりが良いところ。
・海水温が年間にわたって12℃〜28℃( 理想的には冬季13〜14℃以上)のところ 。
・河川水の流入による比重低下や農薬・都市産業排水による環境悪化の恐れがないこと。
・風波・潮流に対して安全性が保てること。
・餌料の供給・養成魚の出荷など輸送に便利であること。
・盗難・船舶事故の心配がないこと。
・赤潮が発生しないこと。
③
餌料と成長
マダイの商品サイズは 150g以上で, 一般に市場で取引されるのは500〜600g
から1㎏以上のもので,養成には2年以上を要する。近年,成長の良い親魚を選抜育成して1年で
1㎏ぐらいになる種苗が生産されるようになっている。
餌には, 生餌や配合飼料が使われている。近年では, 従来の配合飼料に加えて,鮮魚・配合飼料
の特徴を活かしたMP(モイストペレット)やEP(固形飼料)が開発され,広く使用されている。
④
体色調整
養殖の場合,天然魚のような美しい赤色が出ずにやや黒く,肉にも黒筋が入る等
の欠点があり,商品価値が低くなりがちであることから,体色調整の必要がある。
⑤
種
苗
良し悪しが製品・成長に大きく影響する。
⑥
魚
病
発生も多いので , 予防対策が必要。
⑦
活魚輸送
⑧
養殖経営形態
の育成
(4)
活き物としての出荷が不可欠である。
a.種苗生産
b.中間育成(1年魚の育成)
c.1年魚から商品サイズまで
d.種苗から商品サイズまでの育成(2年以上)と分かれている。
今後の課題
本県の主産地である奄美大島での課題をみると,次のとおりである。
①
変形魚
②
漁場行使計画
③
飼料代
支出経費の50〜55%, 経営的に検討すべき問題。
④
製
製品の仕上げが難しい。他の海区へ移して肉締めと色上げをすることが必要である。
⑤
流通経費
⑥
遊漁者対策
品
種苗に問題がある。早い段階での選別が必要,種苗の安定確保。
漁場の適正利用,漁場の環境保全,赤土流失対策も必要。
輸送問題。販売体制の確立。
図3
5)
養殖マダイの成長
資料;福所邦彦
浅海養殖:マダイ
とらふぐ養殖
(1)
①
生態特性
分布・回遊
室蘭以南の太平洋・日本海・朝鮮半島西海岸・黄海・東海に分布する。以西漁
場における夏季の分布は韓国西海岸から中国海州湾沖合に見られるが,秋季には黄海中央へ移り,
冬季には済州島近海まで南下し,一部は対馬周辺まで分布する。春季になると五島・天草周辺・島
原・関門海峡・瀬戸内海・若狭湾等へ回遊し産卵する。
②
食
性
未成魚はカタクシイワシ等を主餌し,成魚はエビ類,魚類,カニ類の順に摂餌する
が,水温15℃以下で摂餌が低下し,10℃以下で砂泥中に潜る。
③
成
長
天然魚は満1年で24〜25㎝,2年で23〜35㎝,3年で41〜43㎝,5年で51〜52㎝,
7年で59〜61㎝に達するとみられている。
(2)
現
状
本県では1965(昭40)年,長島町漁協が地元で漁獲される産卵回遊群のトラフグを
釣獲し,これを種苗として蓄養事業を行ったのが始まりである。1980(昭55)年から県栽培漁業セ
ンター等で大量の種苗生産が可能となったことから,奄美大島,鹿児島湾奥,東町,甑島でも養殖
が盛んとなり1992(平4)年に993㌧を生産して全国第一位の生産県となった。その後,全国的な生
産過剰によって魚価の低迷をまねき,また,魚病の多発で養殖尾数は減少傾向を示し1998 (平10)
年養殖経営体数16(4),生産量184.8(52)㌧,生産額は約4.9億円(1.3億円)となり,全国順位
で第五位となっている (カッコ内の数字は,うち陸上施設分を示す) 。
(3)
養殖技術
①
養殖施設
網仕切り式・築堤式・網囲い式・小割式生簀・陸上池等あるが,養殖の管理が容
易な小割式生簀が最も普及している。
小割式生簀の場合,トラフグの噛合い防止の為にも養殖生簀の大きさは一辺が7m以上であるこ
とが望ましい。また,生簀網の目合いは種苗入手時の5〜6月(体重1g)はもじ網90径を用い,
7月(40g)に化繊網15節から10節へ,9月(200g)化繊網10節,11月(400g)から金網生簀(亜
鉛引き鉄線38㎜目)に移して出荷まで飼育をする。
②
種
苗
天然種苗は定置網や一本釣
り等で入手出来るが年により漁獲変動が大
きく不安定である。一方,人工種苗は1980
(昭55)年か度ら大量生産の技術が確立した
ので,多くの養殖場では良質で確実に入手
表 1
年
時期別適正放養密度
令
時
0才魚
できる人工種苗が用いられている。
③
放養密度
5〜6月1gの種苗を放
養する場合0.02㎏/ â で開始し,7月に0.4
㎏/ â の密度になるよう収容する。以下,
1才魚
表1のとおり8月0.9㎏/ â ,9月に1.2㎏
/ â を収容すると,その後は成長とともに
期
(㎏/ â )*
体重(g)
適正放養密度
7 月
40
0.4
8 月
100
0.9
9 月
200
1.2
10〜12月
200〜
450
1.3 〜1.5
1〜10月
450〜
700
1.6 〜2.0
11〜12月
700〜1,200
2.0 〜3.0
*
外薗他(1992)トラフグの養殖マニュアル
密度は徐々に高くなるが,翌年の11〜12月出荷前で2.0〜3.0㎏/ â 程度とする。
④
飼餌料
トラフグの養殖には,イカナゴ,アジ,サバ等の生餌のほか,イサザアミと配合飼
料を混合したモイストペレットあるいはドライペレット等が用いられている。特に生餌の場合,単
一餌の連続投与は餌料性疾病の原因になるので定期的に魚種を替える方が良い。
⑤
投餌回数
トラフグは無胃魚なので不断給餌が好ましく,また噛み合いを防止するためにも
投餌回数を多くして空腹状態にならないようにする。すなわち,稚魚期は1日5回以上その後は摂
餌状況に応じて回数を減らし,水温19℃以下となる12月頃から1日1回の投餌回数にする。
⑥
歯の切除
トラフグは高密度飼育や給餌量が不足すると噛み合いによる減耗が生じたり,化
繊網の生簀では残餌が網地に絡まると,網を噛み切るため養殖魚の逃逸の原因になる。また,尾鰭
の欠損は魚価に影響を与えるので,7月魚体重40〜50gに成長した時点でニッパーを用いて上下の
歯の切除を行う。
⑦
成
長
トラフグの成長は養殖方法や環境によって著しく差を生じるが,人工種苗で養殖し
た場合6月に1gから開始すると,8月末で100g,11月前半で300g,12月で 450g前後に成長す
る。1月から3月までの低水温時は成長が止まり,5・6月でも 550g前後と低調である。さらに
7月から9月までの高水温時も成長は鈍く,9月末でやっと 700g前後となるが,10月以降に 800
〜900g,12月に1,000〜1,100g(体長30〜31㎝)になる。
⑧
餌料効率
成長の旺盛な時期は,当才魚・1才魚も17〜28%,成長の停滞期は10%以下で1
年半の養殖期間を通算すると14〜20%の範囲である。
⑨
歩留り
トラフグ養殖の最大の課題は歩留りを高くすることであり,これは常に魚の遊泳状
況や摂餌状況を観察しながら飼育管理を行う。
減耗の大きな要因は稚魚期のスレによる斃死と共喰い,低水温期のヘテロボツリウム症と高水温
期に発生するウイルス性疾病の口白症等である。油断すると歩留り20〜30%以下になることも少く
ない。トラフグは他の魚種に比べ比較的魚価が良いので,50〜60%以上の歩留りであれば,収益を
上げることができる。
(4)
出荷と市況
トラフグは特殊な魚種のため下関への出荷が多く,活魚輸送が大半を占める。
10㌧車の場合,1.0〜1.3㌧(1,500〜2,000尾)が積み込まれるが,輸送時の噛み合いを防止するた
め,カゴ網に10尾程度に分けて輸送する場合もある。
市況は天然魚の漁獲状況次第で著しい変動が見られるが,養殖魚の場合,0歳魚の500〜600gで
あれば1,500〜2,500円/㎏,1歳魚の魚体重1㎏級であれば3,500〜4,000円/㎏の値で取引される。
(5)
今後の課題
・選抜育種等による優良種苗(ハイブリッドふぐ・0歳魚で1㎏)の生産技術開発。
・外部寄生虫によるヘテロポツリュム症及びウイルス疾病の口白症等の病虫害防徐対策の確立。
・中国産養殖トラフグの輸入増加に伴う対応策。
6)
ひらめ養殖
(1)
①
生態特性
分布・産卵・変態
本種は本邦各地に分布するほか,韓国や樺太等の沿岸にも棲息する。産
卵期は南部海域で1〜3月,中北部で4〜6月頃,水深20〜40mの浅海域で産卵する。孵化後全長
14〜15㎜までは浮遊生活をするが,仔魚期後半には右眼が移動し,全長16㎜前後になると変態は完
了して底生生活を始める。
②
成長・食性
自然界では1年で全長16〜31㎝,2年で26〜45㎝,4年で45〜67㎝,6年で58
〜80㎝に成長するが,雌の方が速い。食性は稚魚期はアミ類や端脚を捕食して成長するが,成魚に
なるとカタクチイワシ等の魚類を主食とする他,大型の甲殻類も捕食する。
(2)
現
状
1965(昭40)年,近畿大学水産研究所でヒラメの種苗生産に成功して以来,大量に安定して種苗
が入手可能となったことから,和歌山県,三重県等で水槽によるヒラメの陸上養殖が始まった。本
県では,1978(昭53)年に東町で養殖が始まり,その翌年には垂水地先でも養殖が開始された。生
産量は1985(昭60)年から1988(昭63)年は340〜510㌧,1990(平2)年から1994(平6)年は900
〜1,041㌧が生産され全国第二位となった。 しかし,その後は魚価低迷で養殖漁家も減少し,平成
1年現在,31(4)経営体で625(25)㌧,生産額は10.9(0.4)億円で推移している(カッコ内の
数字は,うち海面養殖分を示す) 。
(3)
養殖技術
①
養殖施設
ヒラメ養殖は陸上養殖が圧倒的に多く,水槽はコンクリート,FRP,コンパネ
シート等の材質が用いられ,水槽の形は円形,八角形,正方形等様々である。水槽一面の表面積は
30〜100㎡,水槽の深さは60〜120㎝であるが,水深は30〜80㎝と浅くして海水の交換率を高めると
同時にジャンプによる飛び出し防止壁となっている。
海面養殖の場合,北薩地区では7×7×4m(化繊網)の小割養殖が,南薩地区では5×5×1.4
m(ネトロン亀甲網)生簀の着底式養殖が行なわれている。
②
種
苗
ヒラメの種苗は1980(昭55)年代前半までは天然親魚を用いて採卵・受精が行われ
ていたが,年内出荷(500g以上) が出来るようにするためには早期種苗(11〜2月) の生産が必要
であった。1983 (昭58) 年,大分栽培漁業センターの電照処理による技術開発によって早期採卵が
可能となり,その後,「水温」と「照明」を人工コントロールすることによって年間を通して種苗
生産が出来るようになり,現在は8〜11月に産卵させ11月〜2月に50㎜サイズの種苗を生産業者か
ら入手している。
①
放養密度
陸上水槽の海水交換率が10〜12回前後の場合,
稚魚期(1尾10g)では2㎏/㎡,
100g級で4〜5㎏/㎡,400g級で7〜8㎏/㎡,800〜
1,000g級で10〜12㎏/㎡前後である。
④
餌料と日間給餌率
稚魚期はオキアミ,イカナゴ等
のミックスを与え,200g以上になるとイカナゴ,カタクチ
イワシ等の魚類主体の餌となる。投餌回数は稚魚期は1日
3〜4回,成長にともなって1〜2回とする。日間給餌率
は稚魚期で20%,100g級で10%, 300〜400g級で2〜3
%である。
近年は配合飼料の普及により,稚魚期から出荷までEP
飼料で飼育する所もあれば,稚魚期はSEP(軟質),300
g級までモイストペレット,以降は生餌を給餌する場合も
ある。餌料効率(生餌換算) は通算して20〜40%の範囲に
ある。
⑤
成長と歩留り
ヒラメの成長は飼育方法や性別の違
いによって著しく個体差が生じてくるが,本県の標準的な
成長は右図のとおり,11月にはコマーシャルサイズの 500
gに成長し満1年で700〜800g(特大は1kg前後)となる。
歩留りは,魚病による減耗状況によって左右されるが,
少ななくとも65%以上でなければ,収益をあげることは困
難のようである。
(4)
出荷と市況
図
ヒラメの成長
養殖ヒラメはトラックによる活魚輸送が大半を占め,福岡,関西,大阪,東京方面へ出荷されて
いる。活魚水槽の海水は13〜15℃前後に調整し,ヒラメは出荷用のポリ籠(70×50×15㎝:ヒラメ
約14㎏)に収容して輸送される。 5㌧積みの活魚車の場合,水槽2個に750㎏を収容して輸送して
いる。
市況は,平成13年1〜2月現在,500〜600g級で1,500〜1,600円/㎏,1㎏級で2,000円/㎏前後
で推移し,約10年前と比較して半値に近い単価になっている。
(5)
今後の課題
・年内Kg級の出荷可能なハイブリッドひらめの種苗生産技術の開発。
・エドワジエラ症等の細菌性疾病や外部寄生虫のネオヘテロポツリウム等の病害防徐対策の確立。
・韓国産養殖ヒラメの輸入増加に伴う対応策。
7)
しまあじ養殖
(1)
生態特性
シマアジは暖海性で主に黒潮流域の本州中部以南に広く分布する。産卵は12〜1月頃と推定され
ている。大分,高知県沖合ではモジャコ採捕時に10〜30gの稚魚が混獲されるほか,各県沿岸では,
春から夏にかけて200〜400gの越年魚が定置網で漁獲され, 養殖種苗として用いられているが, 数
量的には極めて少ない。
なお, シマアジは低水温に弱く, 12℃以下が長期間続くとへい死するといわれている。
(2)
経
緯
シマアジの養殖は,1955 (昭30) 年代から大学の研究所や水産試験場で試験養殖が行われていた。
1965 (昭40) 年代になると大分県や宮崎県の漁業者によって養殖が始まったものの,天然種苗のた
め1経営体あたり養殖尾数は2,000〜5,000尾と小規模養殖であった。
1977(昭52) 年, 大分県の水族館でシマアジの人工採卵に成功して以来, 人工種苗の大量生産が
可能となり,以降各地で養殖が行われるようになった。
本県では1979(昭54) 年, 大隅地域で定置網に入網した種苗を用いて養殖が始まり, 人工種苗の
入手が可能となった1980年代後半になると奄美大島や甑島へも普及し,1996〜1997(平5〜6)年約
160万尾が養殖され全国第二位の生産県となったが,その後減少傾向を示し1999(平11) 年現在経営
体数20, 生産量約83.3㌧, 生産額は約1億3千7百万円となっている。
(3)
養殖技術
①
養殖施設
ハマチ,マダイと同様に,一辺が8〜10mの小割生簀が用いられるが, 稚魚期か
ら幼魚期は化繊の無結節網(13〜8節) に放養し,300gサイズから出荷時まで(1㎏以上) は5節
程度の化繊網で養殖する場合と, 魚体重400〜500gになってから45㎜目合の金網生簀に放養して養
殖する場合もある。
②
種
苗
大隅地域の一部を除き殆ど人工種苗が用いられて
いる。種苗価格は, 当初 1,000円/尾程度で販売されていたが,
近年,養殖尾数が減少してから 250円/尾前後と安価になって
っている。
③
放養密度・成長・歩留り
魚体重3g前後の種苗入手時は
0.1〜0.2kg/ â と放養密度を低く抑え,魚体 200〜 300gおよび
500〜600gに成長した時点で2回ほど分養し,最大密度を7〜8
kg/ â 程度とし,過密にならないように管理することが大事であ
る。なお,シマアジの平均的な成長は右図に示すとおり満1年で
400g,2年で1.3㎏に成長する。
歩留り率は赤潮の発生やイリドウィルスに感染しなければ,
80〜90%の高い歩留りが期待できる。
④
餌飼料並びに飼料効率
当初, シマアジの餌もブリ養殖と
同様に冷凍マイワシやサバを給餌していたが,1985(昭60)年頃
からモイストペレットに替わり,1990(平2)年代半ばからハマチ
・マダイ用のEP飼料が用いられ, 近年, シマアジ専用のEP飼
料が市販されるようになって餌付けから出荷時まで一貫してこの
図
シマアジの成長
固形配合飼料で養殖されるようになった。
給餌回数と給餌率 (乾物換算)は, 右表
表
給餌回数と給餌率
に示すとおりである。
飼料転換効率 (乾物換算) は,2.0〜6.0
魚体重(g
給餌回数
給餌率(乾物換算%)
2 〜
20
3
5.5〜8.5
シマアジ養殖全盛時代の1996(平5)年
20 〜 300
2
3.5〜5.0
頃は, 東京・大阪市場へ活魚船で大量出荷
300 〜 500
1
2.5〜3.0
されたこともあったが, 近年は活魚トラッ
クによる陸上輸送が主体になっている。
500 〜1000
1
1.0〜1.2
の範囲にあって, 夏季に高く冬季は低い。
(4)
出荷と市況
高水温時は海水を3〜5℃低下させて輸送するが,通常,活魚は80〜100㎏/㌧を収容して輸送する。
市況は, ヒラメと同様10年ほど前までは3,000円/㎏前後で推移していたが, 最近では1,500円〜
1,700円/㎏となって魚価低迷が続いている。
(5)
今後の課題
・アジ類の中でもっとも美味で高級魚と言われながら, ブリ・カンパチのように一般家庭に馴染
みが無く, 需要が少ないので魚食普及等のPRを図る必要がある。
・シマアジは赤潮に最も敏感な魚種であり,鹿児島湾奥部のように例年赤潮発生が懸念されるよ
うな海域での養殖は危険を伴う。
8)
くろまぐろ養殖
(1)
①
生態特性
分布・回遊
クロマグロは「ホンマグロ」とも呼ばれ,マグロ類(7種類)中, 最も大型魚
で,通常は体長2.5m,体重300㎏程度(9〜10歳魚) に成長するが,最大体長4m, 体重500kg前後
に達するものもいる。クロマグロは太平洋および大西洋の北半球に分布し, 最も低水温域まで分布
する。
主産卵場は台湾東方から沖縄近海であるが, 九州・四国の太平洋側及び日本海の山陰・北陸沿岸
の海域でも産卵している。わが国の南方海域で5,6月に生まれた稚魚は,7〜9月頃にはヨコワ
と呼ばれる体重100〜700gの幼魚となって四国南岸, 紀州半島の黒潮水域や九州西岸, 対馬周辺の
対馬暖流域に出現する。夏から秋にかけてさらに成長しながら日本列島の両側を北海道周辺まで北
上する。海水温が低下する10,11月頃には反転して南下回遊に移り暖海域で越冬する。翌年以降も
初夏から晩秋にかけ, 日本列島の両側を南北に回遊しながら成長するが,2〜4歳魚の一部は黒潮
に乗って北米カリフォルニア沿岸まで回遊する群れもいる。6〜8歳魚は親魚となって産卵を行う。
②
食
性
クロマグロはイワシ類, トビウオ, アジ類, サバ類等を捕食するが, 胃内容物調査
の結果イカ類とカツオ類が最も多い。
(2)
現
状
本県におけるクロマグロの養殖は, 水産試験場が県単事業として1974(昭49)年から3年間, 坊
津町泊地先で実施したのが始まりである。その後, 本県は1992(平4)年から, マリノフォーラム
21(以下MF21)の委託事業「マグロ類養殖システムの開発」(95年度まで),「クロマグロ養
殖技術高度システムの開発」(99年度まで)に参画し, 水産試験場は笠沙町片浦地先で8年間にわ
たり養殖技術指導とデータ収集に携わってきた。
2001(平13)年現在, 県内のクロマグロ養殖状況について概要を述べると次の通りである。
まず,南薩地域では,2000(平12)年3月上記,MF21事業の終了に伴い, 施設と供試験魚が
笠沙町に譲渡され,野間池漁協により委託試験が行われいるが, 年末には3歳魚の一部が出荷され,
現在, 残り4歳魚と3歳魚の約50尾が養殖されている。
一方, 奄美地域では宇検村で2経営体が1歳魚から3歳魚,約15,000尾が養殖されており, 瀬戸
内町ではクロマグロの種苗生産や種苗放流等の技術開発を目的とした, (社)日本栽培漁業協会奄美
事業場及び近畿大学水産研究所奄美実験場で1歳魚が約1,900 尾,2歳魚約3500尾,3〜4歳魚約
170尾,7歳〜12歳魚約100尾が養殖され,さらに4業者によって1歳魚が約4,900尾,2歳魚約3,600
尾が養殖されている。
(3)
養殖技術
①
養殖施設
餌付生簀は10×10×8m程度の小型の小割生簀が便利である。生簀網の目合は魚
体の大きさにもよるが, 魚体重300〜500gであれば8〜10節の無結節の化繊網が適している。また,
魚体重10㎏前後まではジャンプして外へ飛び出すこともあるので, その防止に幕網を張っておくこ
とも必要である。
本格的な養殖生簀は, 大型回遊魚という特殊性から, より容積の大きい大型生簀が望ましいが,
台風や季節風による施設の安全性, 養殖管理上の利便性,
さらに経済性等を考慮して設置する必要がある。現在,本
県で使用されている生簀の型式をあげると次の通りである
なお,生簀の深さは8〜10m,生簀網の目合は5節前後
が多い。
表
クロマグロの餌料効率
魚体重(㎏)
餌料効率(%)
0.5〜2.0
2.0〜20
・鋼管フロート生簀
円型
10.0
8.3
直径 15〜30m
20〜40
7.1
40〜50
5.6
・浮子式生簀
正方形
一辺 20〜50m
・浮子式生簀
正八角形
一辺 10〜20m
・浮子式生簀
長方形
30〜40×50〜60m
マグロ類養殖マニュアル
MF21(1996)
②
種
苗
クロマグロの養殖種苗は, 人工種苗が未だ開発途上の段階にあるために天然種苗に
依存している現状である。本県の場合,8月頃になると1尾 300〜 800gの小型ヨコワが薩南海域
に来遊するので曳縄で採捕し,種苗受け入れ時は釣針による損傷の無いものを選別して1尾 3,500
円で購入している。奄美地域では高知県等の種苗(1尾200g前後を無選別で1,000円)が用いられ
ている。
③
放養密度
種苗の餌付時は小型の小割生簀(10×10
×8m前後) が管理が容易であり,1尾 500gサイズであ
れば0.3〜0.41㎏/m 3 (500〜600尾)が適量と思われる。
翌春になると3〜4㎏に成長しているので, 大型生簀へ収
容する必要がある。なお,10㎏以上の放養密度は3㎏/m 3
を目安とする。
②
給餌量と餌料効率
クロマグロの餌はアジ, サバ,
イワシやイカ等の冷凍魚を解凍して給餌するが, 餌付時を
除き1回の給餌毎に飽食させるようにし, 次回は前回の摂
餌状況から判断して餌の量を調整する。給餌回数は魚体重
20㎏前後までは1日2回,20㎏以上では1日1回とする。
なお, 魚体重別餌料効率は右表のとおりである。
③
成
長
養殖クロマグロの成長は図に示すとおり
400gの小型ヨコワから養殖すると,満1歳で6㎏,2歳
で22㎏,3歳で50㎏,4歳で70㎏前後となって,他の魚種
に見られない速い成長であるが,奄美地域では冬季の水温
図
クロマグロの成長
が最低で19℃と温暖なため,鹿児島本土より2〜3割ほど成長が速い。
⑥
歩留り
種苗の選別が不十分な場合, 釣り針による損傷で斃死魚が続出し数日間に半減する
ことがある。その後, 本格的な養殖が開始されても, パンチングによる斃死や網替え作業後,突然
斃死するなど, 他の魚種に見られない減耗があるため, 常時,魚にストレスを与えないように細心
の注意を払って管理することと,定期的な潜水観察も不可欠と言える。
クロマグロは漁獲量が少なく,かつ高級魚であるため魚価は周年を通して高値で安定しているた
め,魚体重40〜50㎏(3歳魚) で50〜60%以上の歩留りであれば,かなりの収益をあげることがで
きる。
(4)
出荷と市況
市場では, クロマグロの「身質」は厳格なチェックを受け, 鮮度や「トロ」の状態, 「身割れ」
や「身焼け」の有無が魚価に大きく影響する。そのため, 生簀からマグロを取り揚げる際は, 苦悶
させないよう瞬時に木槌で頭部を叩き,仮死状態にして迅速に尾部を切断し, 両胸鰭からの血抜き
のあと, ステンレスパイプを用いて中枢神経の機能抑止作業をおこなう。その次に内蔵と鰓を除去
し水氷の中で3〜4時間ほど冷却した後, 特製の木箱に収めて腹腔に氷を詰め, さらにパーチで覆
ってから市場へと出荷を行う。養殖マグロの場合, 魚体重30〜50㎏では単価3,500〜4,500円が相場
のようである。
(5)
今後の課題
・天然種苗 (ヨコワ) は漁獲の年変動が大きいので, 養殖漁家にとっては種苗確保が不安定であ
る人工種苗生産の技術開発が急務である。
・生簀の網替作業後やパンチングによる異常斃死が多く歩留り低下の一因となっている。原因究
明と斃死防止の技術確立が必要である。
貝類,その他の水産動物
1)
あこやがい真珠養殖
(1)
①
生態特性
分
布
太平洋沿岸では千葉県房州以南,日本海沿岸では能登七尾湾以南に分布し,主に英
虞湾,的矢湾,五ケ所湾,田辺湾,白浜,宿毛,平城,大村湾などが主な産地である。
②
生
息
水深5〜10mの浅海に生息し,成長に応じて深いところに移動する。冬季の最低水
温が8℃を保ち,淡水の流入の少ない外洋水の疎通のよい,比重が24〜25のところ。
③
食
性
積極的な選択作用はなんら認められない。海水中に浮遊している小さな植物性プラ
ンクトン,浮泥などを摂取する。
④
貝
殻
真珠養殖では介体の栄養代謝だけでなく石灰代謝に依存する。貝殻は90%の炭酸カ
ルシウムを主体とした無機成分と,5%程度のコンキオリンを主体とした有機成分で構成されてい
る。真珠の化学組成は,貝殻の真珠層とほとんど差異はない。
⑤
真珠の成因
貝殻内面の真珠層を分泌形成する外套膜の細胞と同じものが,貝の体内に袋を
つくって(真珠嚢という)これが真珠物質を分泌して出来たもので,生産されている養殖真珠の場
合では,核と呼ばれる丸い貝玉と,外套膜の細片(ピース)とを人工的に貝体内に挿入して真珠を
巻かせる。
(2)
養殖の現状
県内における最近5か年の生産現況は右
年
次
1994
1995
1996
1997
1998
の表に示したように,1998(平10)年は,
経営体数
8
8
9
9
9
1978(昭53)年以降で,最低の生産量と
生 産 量
2,337
2,401
1,878
2,093
1,298
なった。1996(平8)年の夏以降全国的に
生 産 額
2,848
2,925
2,243
2,377
発生した,感染症による大量斃死の影響が
[農林水産統計;Kg,百万円]
あると思われる。長島周辺,甑島浦内湾の
稚貝の成長 (三重水試
ほか奄美瀬戸内海峡,焼内湾等に養殖漁場が多い。
(3)
養殖技術
①
稚貝採苗
経過日数
[天然採苗] アコヤガイは満1年で成熟し放卵す
る。水温21℃くらいから始まり盛期は25℃以上である。海中に放出
された卵は,受精後約20時間でD型幼生となって摂餌し始め,付着
生活に入るまでの20〜25日間プランクトン生活を送る。ネット採取
して浮遊中の後期仔貝の増加しつつある時期に採苗器を投入する。
採苗器には杉葉が最も多く使われ,約1m間隔くらいに2〜5個連
結して筏に垂下する。杉葉投入後1か月で5〜6mm,2か月で15〜
20mmに成長するので,この時期に取りはずし,稚貝篭に収容して垂
下養成を始める。
1956)
殻長(㎜)
0
0.35
5
0.5
10
1.0
15
1.6
20
2.5
25
3.9
30
6.0
45
12.0
60
19.0
[人工採苗] 近年,天然採苗の不作による母貝不足と,大
型母貝の需要拡大によって,人工採苗貝の評価が高まり,
陸上タンク内での採苗が多くなった。全国的には20以上の
事業場で,2〜3億個が生産されているが,親貝を加温飼
稚貝(発生の翌年における)の成長度
(太田1956)
月別
殻長(㎜)
殻高(㎜)
殻幅(㎜)
2
23.80
19.96
5.28
育し,充分成熟させてから採卵するなどの産卵誘発技術と,
5
25.83
21.64
7.05
浮遊幼生〜付着仔貝の飼育餌料生物の大量培養技術の進歩
6
29.60
27.75
8.56
がある。
7
36.99
35.66
10.75
8
41.42
42.42
13.16
②
母貝の養成
採苗された稚貝から挿核サイズまでが
母貝養殖である。稚貝の成長度を右表に示した。母貝の取
引上では,発生の翌年のものを2年貝,3年目のものを3
年貝と呼んでいて,成長は年度差・地域差が大きい。
9
47.15
49.07
17.70
10
50.81
54.05
15.77
11
52.14
55.50
18.40
アコヤガイの殻高,殻長の成長
平均
最
大
最
小
平
均
(単位㎝)
優良母貝の基準は,貝殻重量を100
1年間成長力 成長増加率(%)
として軟体部重量が80以上,殻長
殻高
殻長
殻高
殻長
殻高
殻長
殻高
殻長
殻高
殻長
(L),殻高(H),殻幅(B)の関係
満1年 5.45
5.45
3.03
3.03
4.64
4.56
4.64
4.56
100
100
では,H/L の数値が0.900以上,
満2年 6.67
6.67
4.09
3.79
5.82
5.39
1.18
0.83
20
15
B/L×100は39.00 以上である。
満3年 7.58
6.70
6.67
6.06
7.27
6.67
1.45
1.28
20
19
満4年 8.18
8.48
7.42
6.73
7.82
7.27
0.55
0.60
7
8
満5年 9.09
8.18
7.58
6.70
8.06
7.64
0.42
0.57
3
5
母貝育成の要点は,早期における
大型種苗の入手,間引き・選別に
よる不良稚貝の淘汰,成長に伴う
篭網目の調節,季節による垂下水
深の調節,たて篭養殖などとなる。
③
珠貝(挿核貝)の養殖
母貝の養成から真珠の浜
揚げ→販売までの,あこやがい真珠養殖作業体系の基
稚 貝 購 入
稚貝の人工採苗
本的な骨格は右図の通りである。このなかで母貝養成
―[選抜育種]
筏の設置,篭収容,垂下,
母 貝 養 成 ―
と施術貝養成は,一般に海事作業と呼ばれるもので,
貝掃除,篭交換,垂下深
度の調節,漁場の移動,
特殊なカンと経験も要求される分野であり,熟練した
疾病の防除
技能を必要とする挿核施術と,その前作業の母貝の仕
貝 仕 立 て ―[抑制,卵抜き,養生調整
立てと施術後の養生は,養殖成績を左右する重要なも
貝立て,栓差し
のである。挿核施術法には「同時づけ法」と「後づけ
法」の2通りがある。前者はピース挿入の直前か直後
施
術
養
生
に核も挿入して,ピースと核を密着させる方法である。
後者は初め核を挿入して4〜10日間経ってから,核を
筏の設置,篭収容,垂下,
挿入した個所とは別の個所からピースを挿入し核に密
施術貝の養成
貝掃除,篭交換,垂下深
着させる方法で,大珠の施術に適しているという。
度の調節,漁場の移動,
挿核施術の時期は,春季の水温が18℃以上になってか
疾病の防除
浜
ら始まる。この時期には抑制貝がよく使われる。6,
7月は産卵期に当たっているため卵抜き作業に苦労す
販
売
揚
げ
―[刺身,塩磨き,選別
加 工・輸 出
るが,この時期のものが最も良い浜揚げ成績を示す。
高水温時期には中止し10月下旬で終了する。
施術後10〜15日間の養生期間を過ぎた珠貝は,基地筏より本養殖筏に「沖出し」されて珠貝養成
が始まる。平篭,立篭,ポケット式段篭など,一定の容器に貝をいれて養殖する方法と,ナイロン
づけ,縄まき,もっこ式などの開放式養殖法があって,それぞれ一長一短がある。貝の収容密度や
養殖深度,貝掃除,環境変化に対する適切な処置などについては,貝の生理状況,漁場の生産力に
見合った独自の合理的管理作業が要求される。真珠の浜揚げは,色沢,巻きなど品質面で11月から
1月にかけて行なわれる。浜揚げ成績は,施術貝1万個に対しての浜揚げ量でみると,1.2 〜 1.8
貫となる。
(4)
年次
1997
1998
1999
全国真珠養殖漁協連合会による,浜揚げ真珠の共販価格の変動
6mm
2,396
2,698
2,118
(匁当たり平均価格;円)を右の表に示した。珠のサイズによる
7mm
3,738
3,919
3,360
価格差が大きく,最近になって真珠価格は低迷気味であることが
8mm
6,090
4,812
3,819
分かる。
9mm
12,667
7,219
5,844
(5)
市
況
今後の課題
(匁当たり平均価格;円)
真珠業界を取り巻く情勢は近年大きく変わりつつある。特に行政的な施術枠割り当て制度の撤廃,
感染症発生による母貝・珠貝の大量斃死,漁場環境の悪化などがみられることから,母貝調達の考
え方や漁場の適正利用など,真珠養殖業者の自助努力が待たれる。
2)
くろちょうがい真珠養殖
(1)
生態特性
クロチョウガイは,殻長13〜17cmにも達する大型真珠貝で,外面の色彩は暗緑色,青銅色,褐色
等を呈し,殻頂から白色の放射条線の斑紋が射出し,幼貝ほど顕著である。内面は銀白色の真珠光
沢で,紅・緑の虹色の色彩のあるものがあり,腹縁には黄味のある黒い帯がある。地域的な殻形変
化がある。分布は太平洋,印度洋の熱帯水域から台湾,沖縄,奄美大島,鹿児島,高知,和歌山,
小笠原の亜熱帯水域に限られる。鹿児島県内では,例外なく沖合水が直接流入し,水温,塩分変化
の少ない水域,陸地の突出した岬付近の2〜40m位のところに多い。水温8℃以下では生存不可能
であり,18〜19℃において生理活動が低下し,24〜29℃が適温である。雌雄異体であるが稀に雌雄
同体のものがみられ,雄性先熟なことで性転換もあるとされている。産卵期について,オーストラ
リアでは11月と5月の2回,紅海では6月頃とされ,鹿児島県内では,生殖腺の周年変化からして
6月中旬〜9月上旬が盛期で,11月下旬〜1月上旬二次的な産卵が行なわれる。放精放卵後水中で
受精し,20〜23時間後D型に成長して浮遊生活に入り,18〜20日後には他物に付着する着生生活に
入る。食性は,他の真珠貝と変わらない。6月採苗した稚貝は9月中旬には4〜27mm,翌年9月中
旬には40〜90mmに成長する。
(2)
養殖の現状
鹿児島県内では,1949(昭24)年,天然貝を採取して半径真珠の養殖が開始され,1955〜1960年
にかけては13経営体が操業したが,現在では3経営体に減っている。県水産振興課によると奄美大
島では,1999(平11)年には50万個の人工種苗が生産された。半径真珠の生産は熊毛水域が主体で
あるが,熊毛支庁の資料によると下表に示す通りである。最近では,坊の津町秋目地区の業者が休
業中であるが,
種子島に立地し
年
ている業者は,
天然母貝による
次
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
生産量
92,115
82,904
84,508
27,95
55,52
21,00
20,00
6,00
生産額
63,000
57,000
40,000
34,73
42,55
26,12
26,00
30,00
真珠生産だけで
1999
[熊毛支庁資料]単位;個,千円
なく,人工種苗の生産にも着手している。
(3)
養殖技術
養殖用母貝は,鹿児島県内では天然産に依存し,人工
採苗して養成した母貝は殆ど使用されていないが,2社
天然貝 採取
5〜9月
↓
静
養
10〜15日間
が企業的に人工採苗を進めているので,近い将来には人
↓
工採苗貝による養殖が可能となる。天然産母貝による半
貝 仕 立 て
径真珠養殖の作業工程は,右図に示したとおりである。
↓
手
術
5〜9月
↓
真珠養殖に関わる期間は約6か月で高度な技術も要しな
いが,漁場に見合ったカンと経験が養殖成績を左右する
という。下表に示した養殖基準は平均レベルより上位に
ある。
表
半径真珠養殖基準
母貝の大きさ
斃 採取によるもの
平均殻長10.5㎝ 殻高11.2㎝
2〜11%
(4)
今後の課題
種子島のある
漁場で,長期連
養
成
6〜12月
↓
浜 揚 げ
12〜1月
↓
裏張り加工
幼貝の越冬養成
10〜5月
筏の設置,籠収容
貝掃除,籠交換
籠掃除,コールタール染
垂下深度の調節
母貝の選別(幼貝,衰弱貝,病変貝
の除去栓差し,母貝穴あけ)
原核調節(径の52〜55%)
松脂溶着
筏の設置,籠収容(金網籠,ナイロン籠)
貝掃除,籠交換,籠掃除
コールタール染,垂下深度の調節
漁場移動
剥身(煮る)珠くり抜き
選別
↓
販
売
死 挿核直後
2〜6%
作によると見ら
率 養殖中の自然死
1〜8%
れる異常へい死
母貝1個当たりの挿核数
1.8〜2.2個
のため,漁場放棄した例からして,養殖漁場の適正使用は
2〜9%
緊要である。人工採苗から母貝養成の技術開発を早く確立
脱
核
率
浜
揚
げ
母貝1個当たり 1.25個優良珠40〜60%
半径真珠養殖の作業工程
して,半径真珠だけでなく,真円真珠の生産にも着業すべ
きである。
3)
まべ真珠養殖
(1)
生態特性
マベはマベ属1種の大型貝で良質の大型真珠を生産するほか,貝殻は装飾,ボタン材料として広
く利用される。烏帽子形で後方に伸び,左右両殻は甚だしく形を異にしている。左殻は外部に膨大
してふくらみがあるが,右殻はひらたく足糸窩がある。足糸は太く樹枝のように堅い。殻外面は黒
色を帯び,縁辺部は覆瓦状の薄板が相重なり,鱗片状突起は鋭く短小である。殻内面は美しい真珠
光沢の真珠層と,腹縁部には黒色の幅広い帯状の稜柱層がある。奄美大島以南の太平洋,印度洋の
熱帯水域に広く分布し,奄美大島でも大島海峡だけに限られ,沖縄では宮古島に多少多い程度で各
島では稀に散見される。高水温の潮流の強い水道部,岬付近に多く,水深5〜60m,底質は砂礫,
砂泥質を好む。雌雄異体で,6月上旬から10月下旬の水温25〜29℃のときに産卵する。水中で受精
し,D型幼生から発生して着生生活に入るまでの日数は,他の真珠貝類とさほど変わらない。致死
水温は約16℃内外で,23℃以下になると生理活動が減退する。
(2)
養殖の現状
奄美大島における天然のマベ資源は,人為的な乱獲などによって生存危急種にまで落ち込み,回
復の兆しさえ見えていない。幸い,人工採苗技術が確立されたことで完全養殖時代に入っている。
県水産振興課の調査では,1999(平11)年には百万個の人工種苗が生産されている。最近,奄美大
島に立地している7社では,シロチョウガイ,クロチョウガイ,アコヤガイなども人工採苗して真
珠養殖が進められているが,生産額として上がっているのは殆どまべ真珠と思われる。
表1
年
次
生産額
(3)
奄美大島における真珠生産額
[農林水産統計
単位;百万円]
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
2,268
2,616
2,728
1,852
2,106
1,980
1,538
1,237
3,287
883
養殖技術
水槽内で採苗して沖出し後の歩留まりは年々向上
しているが,奄美大島全体でも数十万個の母貝しか
天然貝の採取
稚貝の人工採苗
筏の設置,養成篭の垂下,
静
養
稚貝〜母貝の養成
用意できない。その大半は半径真珠養殖であって,
核可能となるが,この稚貝〜母貝の養成管理が重要
で,漁場条件に適合した収容密度,篭交換,貝掃除
などが特に要求される。真円真珠養殖の場合ほど母
(3〜4年)
母貝の仕立て
基地筏,麻酔剤,仕立篭
挿 核
原核の調節,接着剤養生
手 術
(2〜3個))
筏の設置,養成篭の垂下,
ものと大きく変わっていない。1年半〜2か年で浜
施術員の養成
上げして商品
貝掃除,篭交換垂下深度の
調節,疾病の防除
化できる。
市
選別
貝立て・栓差し
貝の仕立ては難しくない。挿核部位は下図に示した
(4)
貝掃除,篭交換,垂下深度
の調節,疾病の防除
右図に作業の基本パターンを示した。人工採苗して
3か年で,殻長13〜19cmに成長することから十分挿
選抜育種
(1.5〜2年)
況
浜
揚
げ
剥き身,珠くり抜き,選別
まべ真珠は
他の真珠より
高く評価され
裏 張 り 加 工
裏生地,真珠箔,研磨剤
販
指輪,ペンダント
売
,他の真珠の
追随を許さないものである。
(5)
マベ半径真珠養殖の作業工程
今後の課題
母貝の品種改良・漁場の適正使用・計画的安定生産の3点に要約される。
4)
ひおうぎ養殖
(1)
生態特性
イタヤガイ科に属する暖海性の食用二枚貝で,殻の形は扇型にして左右両殻とも同じような膨ら
みをもつ。貝殻の表面には24条内外の放射肋がある。貝殻の色は赤,橙,黄,紫,茶など多彩で,
細工物によく利用される。貝殻の色は遺伝することから人工採苗によって,任意の色彩の貝が選択
できる。潮間帯から水深10数mまでの岩礁地帯に生息し,本州中部以南に分布する。成長が早く発
生して 1.5年で殻長7〜8cmに達し,食用として非常に美味である。雌雄異体で,水中で受精して
約20時間後にはプランクトン生活に入り,さらに約20日後には他物に付着する生活に移る。数セン
チメートルまでの稚貝時代は,自から足糸をきって頻繁に移動する。食性はアコヤガイなどと変わ
らない。
(2)
養殖の現状
アコヤガイの採苗に混在した稚貝を自家用として養殖していたが,真珠不況につれ母貝養殖の転
業種として注目された。天然稚貝発生の絶対量が足りないため,人工的な稚貝生産が時代要請され
た。1975(昭50)年には人工採苗による稚貝の量産技法が確立し,鹿児島県内では,1980(昭55)
年から県栽培漁業センターが,人工種苗を8か年に亘って生産配布してきた。現在,この養殖は長
島町・東町・上甑村内の地先でしか行なわれていない。奄美大島に立地している真珠養殖業者の数
社は,この人工種苗も生産供給している。最近の養殖実態は明確でないが,生産の多い長島町漁協
によると,最近また養殖個数が増えつつあるという。1980(昭55)年代当初,県内で50以上の経営
体が50トンを越す生産をしていた水準には程遠い。
(3)
養殖技術
人工種苗の生産技術は,5月上旬〜7月下旬温度刺激などで産卵誘発し孵化させてから始まる。
D型幼生から付着仔貝まで,一貫してコンクリートタンク内で行なう方法と,付着期直前まではコ
ンクリートタンク内で行なうが,その後は1 â のポリカーボネート水槽内で,沖出しまで飼育する
手法を併用している。飼育餌料生物は,キートセラス. モノクリシス. パブロバなどの微小藻類が
使用される。付着仔貝のコレクターとしてダイオシートが利用され,殻長が約1mm以上に伸長して
から,自然海面での中間育成に入る。この沖出しは,仔貝の着生したコレクターを段篭に挟み込み,
30目〜60目のサランネット網袋に収容して行ない,水深8〜13m層に垂下して養成する。その後稚
貝の成長に伴い1分目の「ちょうちん篭」に移し,10mm以上に成長して配布するまで2回篭換えを
行なう。この篭交換と選別,密度調整が歩留りを左右する。
養殖管理としては,筏の設置,篭収容,垂下,貝掃除,篭交換,疾病の防除などの作業となるが,
それぞれの漁場の特質にあった管理が要求される。管理作業の基本的な骨格は,アコヤ母貝養殖の
場合と同じである。成長は,漁場や収容密度による差はあるが,垂下深度別には大差はない。生残
率低下の原因として付着物,貝掃除による傷み,貝同士のかみ合い,ポリキータの侵入などがあげ
られる。垂下水深は 1.5〜5mが多く,フジツボ着生の多い鹿児島湾では,8〜13mの深吊りが多
かった。収容数は篭の底面に貝を敷き詰め,その数の70%以下を標準とするが,それ以上になると
成長率は低下する。生残率は密度が高くても良い場合があり,網目の大小では小さいほうが良いと
いう例もある。養殖篭としては,1〜2分目の「ちょうちん篭」が多い。貝掃除は漁場による差が
あるが,年間1〜4回程度実施する。
(4)
市
況
養殖規模が零細で大きな市場に出荷する程ではないが,それぞれ顧客を開拓して贈答品としても
販売している。最近における生産者の販売価格は,1個当たり80〜100円となっている。
(5)
今後の課題
貝毒プランクトンの発生には,常に監視を怠らないよう注意が必要である。養殖漁場の競合につ
いて,自家汚染の少ない無給餌養殖としての利点を生かす時機でもある。
5)
かき養殖
(1)
生態特性
国内で養殖されているカキはマガキ1種であるが,食用としてはこのほかイワガキ,スミノエガ
キ,イタボガキ等がある。日本のほかアメリカ・韓国・フランス・メキシコなど,古くからカキ養
殖の盛んな国とその漁場は,おおむね北半球の北緯20度から60度の海域にある。南北両極を除き全
世界の浅海に分布し,約 200種が生息する。マガキは北海道から沖縄に至る日本全海域の内湾河口
域から外洋にかけて分布し,イタボガキは東京湾以南のやや深い高かん浅海域,イワガキは中部以
南の干潮線下の岩礁に付着生息して,スミノエガキは有明海に多い。食性については,積極的な選
択性は認められないが,主に珪藻類や鞭藻類である。産卵は,水温が20℃をこえる6月頃に始まり
9月上旬頃終るが,盛期は水温24〜25℃に達する7〜8月頃である。水中で受精し,浮遊生活に入
って約2〜3週間後には,付着生活に移行する。
(2)
養殖の現状
県内では,水産試験場などが1920(大9)年代以降,断続的に先進地の技法を取り入れて養殖試
験を実施したが,養殖事業としては定着しなかった。これは種苗入手の難しさ,外敵生物・付着生
物による成長阻害などによるものであった。特に,フジツボ・ムラサキイガイ・カサネカンザシな
ど付着生物による影響は大きかった。
(3)
養殖技術
一部では今でも杭打式(簡易垂下式)のほか,ひび建式や地蒔式も行なわれているが,圧倒的に
多いのは筏式と延縄式による垂下養殖である。参考までに,広島湾の方法を図示した。
6)
ばい養殖
(1)
生態特性
バイは,ほぼ卵形をして螺塔は高く尖り,螺層は約6階を有し,各層は肩の部分が膨れている。
殻の表面は滑らかで,白地に紫褐色の斑紋があって「こま」に利用された。北海道南部から中国・
朝鮮沿岸にかけて.水深10〜20m前後の砂泥底に広く分布し,篭網や小型底びき網で漁獲される。
肉食性である。産卵期は5月〜9月で,卵粒を遊離して分散的に水中に放出するのではなく,卵嚢
を形成する。これは「ほほづき」の代替品として利用される。産卵から孵化までの期間は2〜3週
間で,孵化後1か月で平均殻長3mmに成長する。
(2)
養殖の現況
ばい養殖業は,企業的・生業的両方とも全国的に経営された事例がない。1970(昭45)鹿児島水
試で,2か年に亘りポリ篭と網篭に収容して筏に垂下する方法と,地蒔式で養成試験を試みた。県
栽培漁業センターでは,1981〜'84(昭56〜59)年種苗生産試験を実施した。
(3)
養殖技術と問題点
養殖事業として定着できなかったのは,肉食性で給餌型養殖にもかかわらず,成長が遅く成品価
格が低かったという経営的な欠陥によるが,採捕漁業者自身による価格調整のための短期蓄養は有
用である。近年価格が上昇していることからして,種苗生産して適地に放流し,自然の生態系で成
長させて収穫する方式も望まれる。
7)
しろちょうがい真珠養殖
(1)
生態特性
シロチョウガイは,30種余りの真珠貝中最も大型である。大きいものは殻長が30cmをこえ,重さ
は4.5 〜5.5 Kgにも及ぶ。貝殻には真珠層縁が銀白色のものと,特に腹縁が金色をおびたものがあ
り,その出現割合は産地によって異なる。軟体部の形態について他の真珠貝と異なる点は,成体に
なると,足糸腺の退化,収足筋の退化が起り,足糸がなくなり足も機能を失うことである。おもに
オーストラリア・東印度諸島・マレー半島・フイリッピンなどに分布するが,奄美大島でも採取さ
れた例がある。干潮時に露出するところから 100mをこえる水深まで生息し,潮流の速い20〜50m
層が良い漁場とされている。雄性先熟で性転換のおこることが知られている。オストラリア木曜島
付近での産卵期は,10〜11月が盛期で2〜3月にも2次的な産卵がおこなわれる。水中で受精しマ
ベ・クロチョウガイと同じような発生経過をたどる。
成長は右表に示したとおりで,1年で殻長は11cm以上
となり,成熟年令に達する。
表1 シロチョウガイの成長
年令
殻高
殻長
蝶番線長
殻幅
(㎝)
蝶番線の深さ
0.5
0.9
7.3
6.8
1.40
ー
1
10.8
11.4
9.5
2.05
0.33
10mm以上の大珠を生産するのは,南洋真珠というこ
2
16.0
16.7
12.4
2.92
0.66
とで,日本の養殖業者がセレベス・オーストラリア・
3
18.8
19.4
13.7
3.45
0.90
ミャンマーなどで生産したものである。養殖母貝はほ
4
20.6
20.9
15.2
3.92
1.14
とんど天然貝に依存している。最近では母貝事情の逼
5
21.8
22.0
16.0
4.35
1.47
(2)
養殖の現状
迫に伴ない,人工採苗による母貝の確保にも努めるようになったが,数量的なものははっきりしな
い。奄美大島に進出している大手の真珠養殖会社は,1975(昭50)年,国内で初めてシロチョウガ
イの人工採苗にも成功し,真珠養殖の端緒を開いた。県水産振興課によると,1999(平11)年には
百万個の人工種苗を生産しており,西之表市や坊津町町内でも,この人工採苗が開始されている。
県内のしろちょう真珠生産量については,まだ試験的段階で不明である。
(3)
養殖技術と今後の課題
シロチョウガイ真珠養殖は,天然母貝がないため人工種苗に頼らざるをえないが,母貝生産〜挿
核手術〜浜上げの技術体系については,アコヤガイ・クロチョウガイ等と大差はない。県内の各漁
場が成育北限になっているので,海域の特性に見合った海事作業が要求される。成長率が優れ,軟
体部の特異性から,大珠生産が比較的に容易である利点をどう生かしていくか,各養殖業者の技術
開発力が試されている。
8)
はまぐり養殖
(1)
生態特性
ハマグリは,北海道南部から以南,台湾・韓国・中国まで広く分布し,内湾の河口に近い干潟に
生息する。砂泥質の砂質の多い所を好み,砂質が50〜90%のところが良い。干潮線上2mから水深
12m位までのところに多い。雌雄異体で,産卵期の盛期は6〜8月で9〜10月にもう一つの山があ
る。水中で受精し浮遊生活に入るが,約3週間で底棲生活に変わる。移動する習性があるが,特に
殻長3〜5cmの発育期のものがよくする。6月産卵のものは9月には殻長10mm,翌年4月には20mm
以上に成長し,種苗として取引きされる。
(2)
養殖の現状
人工受精による稚貝生産は,まだ産業的には定着していないため,天然貝を種苗として養殖が行
なわれている。これは米国の企業が,給餌プランクトンとその連続培養特許をもつもので,県内で
は1995(平7)年頃からこの技術を導入して,陸上タンク内養殖が始まった。県水産振興課の資料
によると,1999(平11)年には,3企業体が約 149トン,61百万円の生産を上げている。この種苗は
全て中国から導入したもので,種苗生産から商品サイズまでの,完全養殖事業を完成するには,解
決すべき問題点が多い。
9)
くるまえび養殖
(1)
生態特性
日本近海に生息するクルマエビ類で,産業的に利用されている主なものはクルマエビ,フトミゾ
エビ,クマエビ,ヨシエビ,アカエビなど6属16種で,大体東京湾以南の内湾とその近くの沖合浅
所が好漁場とされている。産卵に先立って,
脱皮直後の軟甲雌と硬甲雄との間に交尾が
行なわれ,雌は雄から精子の入った精莢を
受取る。産卵は夜間行なわれ,雌は泳ぎな
がら卵をまき散らし水中で受精する。水温
27〜29℃の場合13〜14時間で孵化し,約10
〜12日間のプランクトン生活では,ノウプ
リアス〜ゾエア〜ミシス期と変態脱皮した
後干潟に底着するようになる。海底に潜る
習性は底着生活に入る幼エビ期に徐々に現
われ,成長に伴ってますます顕著となると
同時に,夜行性となる。自然海でのクルマ
エビの生長は図示した通りで,生長に応じ
て生息場所を変える。大部分は一年の寿命
で,少数は2年生残ると考えられている。食性に選択性は特に認められず甲殻類,多毛類,二枚介,
巻貝等が胃内容物としてよく見られるという。
(2)
養殖の現状
明治中期に始まった天然産エビを蓄養する事業から,昭和30年代後半には種苗〜商品サイズまで
の完全養殖業へと発展した現行の養殖技術は,掘削または築堤して造池し,干満差による海水の交
流によって養殖する粗放的な方法と,陸上における大型の円形コンクリートタンク内で,ポンプア
ップした海水を連続注排水して,高密度に養殖する集約的な方法に2大別されるが,陸上のタンク
養殖は,鹿児島県独特の方式
年
次
1993
1994
1995
1996
1997
1998
である。鹿児島県における最
近の養殖生産は左表に示すよ
経営体数
30
25
25
24
24
26
うに,疾病等による大量斃死
生 産 量
427
480
448
431
678
646
で低下していた生産量が復元
生 産 額
4,066
3,834
3,340
3,108
4,429
3,556
し,1997(平9)年には最高
の生産を上げている。奄美大
[県水産要覧;㌧,百万円]
島での養殖は,粗放的な方式
によるものであるが,県全体の約40%の生産を占めている。
(3)
①
養殖技術
種
苗
1965(昭40)年以降,特殊な技術や飼育経験を必要とせず,単純な施設で容易に大
量の種苗生産が可能となったことで,少数の小規模養殖業者を除きすべて自家生産している。
1999(平11)年の県内における種苗生産数は,県水産振興課によると82百万尾に達するという。種
苗サイズは0.05〜 0.2gで,よく潜砂行動をとり夜行性となったものである。1g前後まで中間育
成してから養殖池に放養する例と,種苗生産水槽から直接移す場合がある。
②
施
設
瀬戸内海地区では塩田跡地の利用が大部分で,殆ど築堤式の池で一面4〜5haの広
さのものが多い。熊本県天草地区の池は,湾形の地形の場所で埋立て許可を受け石垣を築いて上部
を金網張としたもので,一面の広さもそれほど広くない。両地区とも干満差が大きいため,池の換
水は樋門を通じて自然の潮位差を利用する。県内での粗放的養殖も大体同じであるが,奄美大島・
沖縄地区の養殖池では,ポンプによる注水も加担させている。鹿児島方式と云われる集約的養殖で
は陸上に建設された一面1千㎡の円形水槽で,深さ
1.5 〜2m,底は二重底とし,排水口は中央部に設
けて汚物の流出を促し,注水は6倍量を水槽上部に
さし渡したパイプからシャワー式に行なう。
③
飼育密度
中間育成して1g前後になった種
苗は,1㎡当り20〜25尾放養するのが一般的で,種
苗生産水槽から移す場合では多少多くする。陸上タ
ンク内での高密度養殖では,大体1㎡当り150 尾の
密度で養殖が始められる。
④
飼餌料・増肉係数
アサリ,ムラサキイガイの新鮮なものは,嗜好の点でも餌料効率でも最
も優れているとされている。このほかアカエビ,イソアミ類,イカ類,カタクチイワシ,白身の雑
魚等も使用されるが,配合飼料の品質向上に伴いその使用比率が高くなって来た。県内のタンク養
殖では,1973(昭48) 年以降配合飼料のみを使用している。増肉係数は,生餌では8〜12,配合飼
料では3〜4である。
⑤
成
長
養殖
密度や開始時期・種
苗サイズ等によって
差がある。右図に配
合飼料による陸上タ
ンク養殖の場合と,
瀬戸内海地区におけ
る粗放的養殖池で生
餌を使っての例を示
した。いづれも7月から養殖を始めると,11月には20g以上の商品サイズに達する。
⑥
歩留り
疾病その他大きなトラブルがない限り,広い池で粗放的養殖する場合,1g以上の
種苗から始めると,80〜90%の歩留りが期待されるが,P 20(ポストラーバに変態して20日経過し
たもの)から開始した場合では,65〜70%が良い部類で50%を割る例が多い。タンク内での高密度
養殖では,P 20から開始しても80%の歩留りは期待できる。
⑦
生産性
1985(昭60)年頃までは,粗放的養殖で㎡当たり8〜9尾,約200〜230g程度が標
準的な成績とされていたが,近年では種苗放養数を増やし,間引き出荷や池の環境管理の向上もあ
って㎡当たり350〜500gの生産をあげている。陸上タンクの高密度養殖では,㎡当たり2〜2.5Kg
の生産は見込める。
⑧
収
穫
瀬戸内海地区の広大な池では,11月下旬までは夜間枡網で漁獲するのが能率が良い
とされ,それ以後は日中,ポンプ網で収穫する。このポンプ網で約98%のエビが収穫出来る。
(4)
市
況
東京中央卸売市場における,活きくるまえびの㌔当たり平均価格[円]を下表に示した。
年次
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
1981
5,663
5,898
6,498
7,728
8,362
8,934
6,040
5,982
4,806
4,703
5,344
6,364
1999
6,366
6,905
8,338
9,174
9,082
7,619
6,730
5,463
5,232
5,022
5,081
5,784
(5)
今後の課題
1993(平5)年に発生して大被害を受けた,ウイルス感染に対する防疫対策が特に緊要である。
10)
(1)
ごかい養殖
生態特性
体はやや扁平なミミズ型で一般に頭部,躯幹,尾部に区分され,頭部には感覚器官として目,触
手を具え,体節毎の1対の疣足には剛毛と針がある。雌雄異体で,産卵期は6〜9月盛期は7月で
ある。この時期になると,雄は体全体が白色を帯び,雌は淡黄緑色を呈するようになり,夜間水中
に泳ぎ出て,水面近くキリモミ状の複雑な遊泳を行なう。産卵,放精した成虫は沈下して底にとま
り一生を終わる。受精した卵は直ちに沈降し,周囲にゼリー状の被膜が形成され,この被膜によっ
て互いに連結し他物に付着する。3〜4日で孵化し浮遊生活に入るが,7日後には第5対の疣足が
発達して匍匐生活をするようになる。生後3か月で体長約5cm,1年で約9cmに成長する。
(2)
養殖の現況
全国的な傾向は全く分らないが,県内の中種子町熊野地区では,1978(昭53) 年頃から養殖が試
みられ,現在では1企業体が生産供給を続けている。熊
毛支庁農林水産課の資料によると,最近の生産量・生産
年
額は右表に示すように,9,500 ㎡の養殖池で平均した成
生産量 12.0 13.3 12.9 12.2 11.2
績を上げている。
生産額 71.5 77.4 77.6 77.8 67.0
(3)
次 1995 1996 1997 1998 1999
養殖技術
[単位;㌧,百万円]
三重県水試・大阪府水試に次いで,鹿児島県水試でも
1971(昭46)から4か年に亘り試験研究を継続し,生活史や飼育条件等を明らかにして養殖の基礎
を確立した。中種子町熊野地区の養殖業者は,これらの技術情報を基に,自助努力で技術開発を進
め現在に及んでいるもので,全国でも特異な存在である。詳細な養殖管理については,不明である。
(4)
今後の課題
産卵・孵化が容易で,仔虫が比較的大型で短時日で沈着するという,採苗には絶好の好条件を備
え,しかも6か月足らずで商品化できるメリットがあるが,商品の弾力性がないので広く普及され
る養殖業ではない。副業的な事業としては成り立つ可能性はある。
11)
(1)
うしえび養殖
生態特性
ウシエビは,クルマエビ科に属する大型のエビで,全長33cm, 体重100 〜150 gにも達する。イ
ンド洋・東南アジアから,我が国南部にかけての浅海域に広く分布する。生理的には広範囲の塩分
や高水温に耐えることができ,水深30m位の砂泥質のところに多く生息する。他のクルマエビ類よ
り成長が速く孵化後3か月で体長9.5 cm, 6か月で体長14cm,体重22g,10か月では体長21cm,体
重62gに成長する。
(2)
養殖の現状
台湾から東南アジアにかけて池中養殖されているのは,ほとんどこのウシエビである。1968(昭
43) 年人工採苗技術の確立によって,1980年代後半(昭60〜)には,台湾での種苗生産尾数は百億
尾以上に及んだ。県内においては,鹿児島県水試が1983(昭58)年から7年間,ウシエビ養殖技術
基礎研究,1985(昭60)年から県栽培漁業センターは,種苗生産試験を5年間継続して,奄美大島
の特産品作りを図ったが,1987(昭62)年,3 トン,16百万円の生産をピークにその後漸減し,1991
(平3)年には廃業されて県内定着はならなかった。
(3)
養殖技術と問題点
くるまえび養殖事業が奄美大島を含め県内に普及されたことからみて,ウシエビについても技術
的には問題点はないが,地理的な障壁は何ともし難いものがある。特に種苗の安定的確保や,養殖
漁場条件など決定的な課題がある。
2
内水面養殖
1)
こい養殖
(1)
①
生態特性
分
布
温水性の魚種で水の流れの緩やかな河川又は湖沼に生息し,温水性の代表的な淡水
魚で,全国的に広く分布している。
②
品
種
コイは動物上一種とされているが,生息場所の状態や,人為陶汰の結果などにより
形態や色彩の異なった品種が数多くできている(例 マゴイ,大和種,ドイツ種,錦鯉等)。
③
習
性
食性は天然での餌料は貝類,みじんこ等の甲殻類,水棲昆虫類,水草等の雑食性で
産
卵
通常産卵親魚の成熟年齢は,満4年以上であるが,雄は2年で成熟する。産卵期4
長
天然魚では生息環境により違いがあるが,おおむね3年で1kg位になる。
ある。
④
〜6月。
⑤
成
養殖魚では普通の飼育では1kgになるのに生後1年半かかるが,温水中であれば1年で成長する。
(2)
現
状
本県のコイ養殖は,1955(昭30)年代から主に北薩地方を中心に生産されていたが,1962(昭37)
年頃から水田に使用された除草剤(PCP)により大きな被害を受けた。その後は生産の中心は農
薬等による被害の少ない湖沼を利用した網生簀養殖へと変わっていった。1977(昭52)年には生産
量が最高となり1,059㌧,生産額は501百万円,経営体は381であった。しかし,その後網生簀養殖が
湖沼の水質汚染に関与している懸念も指摘され,経営規模の縮小が図られた。その結果,1982(昭
57)年から急速に生産量は減少した。さらに1990(平2)年頃からは経済不況による消費の低迷が
続き,平成11年にはわずか23経営体で年間300㌧と,ここ数年減少傾向で推移している。
(3)
養殖技術
①
流水養殖
施
設
水 を大量に流し込んで飼育するため, 高密度飼育ができる。 河川から水を引くので, 清浄な
水が十分得られること,有害物質が流れ込む恐れがあってはならない。 池面積は比較的小さく60〜100㎡
が多い。 水深は1.5〜2m, 換水率を良くするには池の注水口と排水口の位置及び構造が重要である。
種
苗
飼育密度
流水養鯉では種苗として俗に言う2歳魚の中羽(70〜150g)を用いる。
用水の流入量や含有酸素量の多寡によって,放養量は異なる。3月下旬頃1㎡当り2
〜12kgの種苗を入れる。条件が良ければ1㎡当り17kg位まで放養可能である。
成
長
飼料効率
4月から給飼を始めて,11月頃までにおよそ1kgの食用サイズになる。
昔は蛹等の自家餌料が使用されたが,現在はほとんど市販の配合飼料が使われている。
飼料効率は給飼技術により差異があるが,50〜70%程度である。
②
網生簀養殖
施
設
湖やダム湖で行われている小割式生簀で,5m×5m×5m,網地は化繊のハイゼック
スを使用している。耐用年数は5年以上である。
種
苗
食用コイを養成する場合,秋または3〜4月に2歳ものの中羽(70〜150g)を放養する。
網生簀での種苗養成は2〜5gの稚魚を7月にもじ網の生簀に放養して,翌春までに 50〜100gの
中羽に養成する。
飼育密度
飼育密度の基準は5m×5m×5mの生簀1面に 3,000尾である。過密飼育では魚病
の発生や生育不良が起こる場合がある。
飼
料
市販の配合飼料で十分である。給飼に際しては環境汚染に十分配慮して適正給飼を行な
うことが必要である。給飼回数を多くすることでロスを防ぐことができる。コイの給飼率は,稚魚
期は水温,大きさによるが1日体重の5〜12%,成魚期になると2〜6%を目安とする。
成
長
適水温である24〜30℃の期間が長い所では成長が早い。おおむね秋の終わり頃には1kg
前後に成長する。
飼料効率
歩留率
飼育管理の技術によって異なるが,60〜70%である。
魚病の被害が少なければ,食用生産では90%以上,種苗生産では70〜80%。
コイの養殖方式
無 処 理 養 殖−溜
池
施
池
粗放的
無給飼養殖
食用鯉養殖
給飼養殖
肥
養
飼 付 け 養
水 田 養
池 中 養
溜 池 養
殖−溜
殖−溜池・人工湖
殖−稲
田
殖−養
魚
池
殖−溜
池
網 い け す 養 殖−湖・人 工 湖
流 水 養 殖−河 川 流 域 等
循環濾過式養殖−循 環 濾 過 池
(4)
市
止水養殖
流水式養殖
集約的
況
観光地や飲食店への活魚出荷が主で,最近はスーパー等の量販店で刺身としても扱われている。
価格は活魚で池出し価格は450〜500円/kg,小売り価格は650〜700円/kgで取引されている。
(5)
今後の課題
本県のコイ養殖は池田湖の網生簀養殖が食用生産の大部分を占めているが,生産効率が高い反面,
湖沼利用では環境問題を十分検討する必要がある。流水養鯉も生産効率が高い養殖法であるが,河
川水を利用するため,農薬等の流入危険要因があり,立地場所が限られる。現状では活魚での需要
が伸びないなかで,量販店での刺身パック等付加価値を高めて販路拡大を図るべきである。
2)
あゆ養殖
(1)
生態特性
①
分
布
アユは日本,韓国南部及び中国沿岸部に生息するアジアにしかいない魚である。
②
品
種
アユは分類的には1属1科の特殊な魚である。奄美大島及び沖縄に生息しているリ
ュウキュウアユはアユの亜種で形態的に若干の差異が認められ,遺伝子レベルでも違いが分ってい
る。なお,リュウキュウアユは奄美大島南部の河川に生息しているが,生息数が減少しており,環
境省のレッドデータブックの絶滅危惧種に指定されている。生態的にもアユとほぼ同じである。
③
習
性
アユは春先に河川に遡上し,河床に着生している藻類(硅藻,藍藻等)を食べ,上
流へと遡上して大きく成長する。条件の良い場所に縄張りを占め,餌場を確保する。秋になり生殖
巣が発達すると,河川の中流域や下流域に降下して,瀬の砂礫の中に産卵して,一生を終わる。
産卵された卵は10日から20日でふ化し,すぐに海や湖にくだり,そこで稚仔魚期を過ごし,動物プ
ランクトンを食べ成育する。春には体長6〜8cm,体重3〜5gとなり,河川に遡上する。
④
産
卵
アユの産卵期は日照時間が短くなる秋であるが,地方によってかなり相違がある。
水温とも密接な関係にあり,寒冷地ほど早く温暖地は遅い。本県は10〜11月,奄美のリュウキュウ
アユは12〜2月に産卵盛期が見られる。
⑤
成
長
アユは年魚で成長は非常に早い。適水温は 15〜 24℃であるが,水温 20℃前後では種
苗から販売体型(60〜100g)まで90〜150日で成長する。
(2)
現
状
本県におけるあゆ養殖は,1962(昭37)年県水産試験場大口養魚場で始まった。その後霧島山系
や地下温水を利用した民間養殖が行われるようになった。1966(昭41)年から1970(昭45)年には
40数経営
体あったが,その後漸減し,1999(平11)年は県内で9経営体となった。生産量は131㌧,
生産額は259百万円であった。
(3)
①
養殖技術
施
設
アユ養成池はさまざまな形があるが,円形や正方形で池の中心部に排水口をつける
のが汚物の排出効果が高い。池の大きさは100㎡位が良く,水深は100〜150cmで中心に勾配をつける。
使用する用水は地下水や河川水が利用できるが,1日の池の換水は5〜6回転とするのが良い。酸
素補給と水流をつけるため,水車を2〜3台設置する。給飼回数が多いので,省力化を目的に自動
給飼機を設置する。立地条件としては,春先から一定温度の地下水が得られる場所が望ましい。
②
種
苗
種苗としては海産稚アユ,湖産稚アユ,河川産稚アユ及び人工稚アユがあるが,早
期に入手できる人工産と海産が多い。種苗価格はそれぞれ異なる。人工産と琵琶湖産は1尾11〜12
円で取引されている。本県の種苗価格は河川産,湖産アユは3〜4月 6,500円/kgで,県外向けは
500円増し,出荷数は河川産は6,000kg程度,湖産アユは2,000kg程度である。海産稚アユは出水,
高尾野,川内(自家採捕) 志布志湾の大崎,有明で採捕が行われている。出荷量は200〜300㎏位で,
価格は10,000円/kgで取引されている。
飼育期間が短いのがアユ養殖の有利さでもある。優良種苗をいかに早く池入れできるかが大事で
ある。飼育密度が高く1㎡当り200〜250尾程度の飼育が可能である。
③
成
長・飼料効率
アユの成長は非常に早く,20℃以上の適水温では,3〜5か月で60g程
度の成品サイズに成長する。取り上げ時の飼育密度は1㎡当り10〜15kgである。飼料は稚魚期から
成魚期まで市販の配合飼料を用いる。給飼回数は多い方が良く,自動給飼器で調整して与える。
表1
アユの給飼率表(体重%)
体重g
水温℃
17
〜3
〜5
〜10
〜20
〜30
〜40
〜50
〜60
5.7
5.4
5.1
4.2
3.5
2.9
2.4
2.1
18
6.1
5.8
5.5
4.5
3.7
3.1
2.6
2.2
19
6.5
6.2
5.8
4.8
4.0
3.3
2.7
2.4
20
7.0
6.6
6.3
5.1
4.2
3.5
2.9
2.6
21
7.5
7.1
6.7
5.5
4.5
3.7
3.1
2.8
22
8.6
7.6
7.2
5.9
4.8
4.0
3.4
2.9
23
8.0
8.1
7.7
6.3
5.2
4.3
3.6
3.2
24
7.5
7.6
7.2
5.9
4.8
4.0
3.4
2.9
(飼料メーカーパンフレットから)
(4)
市
況
本県は大消費地から遠いため,流通コストが高くなる。最近ではスーパー等の店頭にも並んでい
るが価格はサイズや入荷量,出荷時期により大きな開きがある。
(5)
今後の課題
養殖技術は確立しているが,本県の温暖な地下水を利用するアユ養殖は,年内に優良な人工種苗
を確保して,他県の産地より早く出荷できる鹿児島ブランドを確立する必要がある。
3)
にじます養殖
(1)
生態特性
ニジマスはサケ・マスに分類される北米原産の冷水淡水魚で,日本へは1887(明10)年に輸入さ
れて以来,日本各地で養殖が行なわれ,かなりの生産量をあげている。一方,河川等のゲームフィ
ッシュ用の魚として,各地で長い間河川湖沼への放流が続けられているが,天然水域で繁殖してい
るところはきわめて少ない。
なお,ニジマスの近縁種であるヤマメは,県内にも自然生息河川があり,一部の地域で,わずか
ではあるが養殖が行なわれている。飼育方法等はニジマスと同様である。
(2)
現
状
本県のニジマス養殖は,1962(昭36)年に県水産試験場大口養魚場で始められた。その後県内各
地の地下水が湧出するところで養殖されるようになった。1977(昭52)年には経営体数は37になり,
その後経営体は漸減し,1999(平11)年には15経営体になった。生産量は最高で年間約 200㌧であ
ったが,現在は180㌧と安定した生産が行われている。
(3)
①
養殖技術
施
設
適地は用水として良質の地下水や河川水が豊富に取水できれば理想的である。養殖
池の規模は水量によって制約されるものであり,取水可能な水量を正確に把握する事は極めて重要
である。主な施設としては,発眼卵のふ化施設,稚魚池及び養成池が必要である。本県では稚魚を
県養鱒漁業協同組合から入手できるので,小規模の副業や初心者にはこれが得策である。また,ニ
ジマスは観光養魚としても行われている。併設の釣り堀や魚料理などで自家消費する施設もある。
②
種
苗
発眼卵で県外から購入してふ化管理するか,県養鱒漁協が大口の養魚場で自家採卵
して生産した稚魚を購入して養殖する。春先の稚魚(1〜3g)と成長を抑制した秋稚魚(5g以
上)がある。種苗は健康で数量が正確であることが求められる。適正収容量の基準は水温,水量,
魚の大きさ,池の構造によって変化するので困難であるが,各県の試験から得られた収容量の一部
を表1に示す。
表1
毎秒1リットルの水量で飼育できるニジマスの量
体重
水温℃
1g
DO
90%
(単位:㎏)
10g
70%
90%
100g
70%
90%
70%
5
137
82
186
111
286
170
10
59
32
82
45
131
72
15
33
16
44
21
67
32
20
20
8
27
11
41
16
(注)排水部の酸素量3.5ml/ç まで使用するとして計算
DO(溶存酸素量)90%は酸素の多い水,70%はやや少ない水(養魚口座10ニジマスより)
③
飼料と給飼
現在ニジマス用配合飼料は,魚の大きさによって各種市販されており,入手は
簡単である。配合飼料による栄養障害は過去にみられたが,魚類栄養学の進歩によって,最近では
非常に少なくなった。
給飼回数は稚魚は4回,食用魚は1〜2回で十分である。給飼方法は手撒きでもよいが,省力化
するには自動給飼機が使われる。飼料効率は稚魚期には 90〜 100%,大きくなると 70〜 90%の成績が
得られる。1日に与える飼料の量は魚の大きさ,水温によって変わるので,基準を示した給飼率表
が作られている。
表2
体重g
水温℃
15
以下
7.2
0.18
〜
1.5
6.0
16
7.7
6.4
5.2
17
8.3
6.8
18
8.8
19
20
0.18
ニジマスの給飼率表
1.5
〜
5.1
4.9
5.1
〜
12
3.8
12
〜
23
〜
39
〜
62
〜
23
2.8
39
2.3
62
1.9
92
1.7
92
〜
130
1.5
4.1
3.1
2.5
2.0
1.8
1.6
1.4
1.3
5.6
4.4
3.3
2.7
2.1
1.9
1.7
1.5
1.4
7.3
6.0
4.8
3.5
2.8
2.2
2.0
1.8
1.6
1.5
9.3
7.9
6.4
5.1
3.8
3.0
2.3
2.1
1.9
1.7
1.6
9.9
8.2
6.9
5.5
4.0
3.2
2.5
2.2
2.0
1.8
1.7
「魚体重別,水温別,1日当たり給飼量を体重の百分率で示す」
④
成
長
130
〜
180
1.3
180
以上
1.3
(ライトリッツ)
本県の17〜18℃の地下水による適正な給飼管理のもとだは,10か月ほどで130〜200
gに成長する。ニジマスの商品サイズは150g程度が多い。通念出荷をするには,選別飼育や成長抑
制等の操作も必要である。また,少ないが大型ニジマスは刺身用にも利用されている。
(4)
市
況
ニジマスは県内生産がほぼ安定しているため,価格は750円/㎏前後で取引されている。消費の大
半は開聞町の唐船峡等の官公施設であるが,最近はスーパー等でも販売されている。
(5)
今後の課題
県内のニジマス養殖は,技術的に確立しているものの,経営的には生産規模が小さく副業的要素
が強く,後継者不足による経営体の減少が懸念されている。
4)
うなぎ養殖
(1)
①
生態特性
分
布
世界のウナギ属は,15種3亜種の18種に分類されている。温帯域にはニホンウナギ,
ヨーロッパウナギ,アメリカウナギの3種が大きな集団で生息し,他の種は主に南半球の熱帯圏に
生息している。ニホンウナギの分布は台湾,日本,中国及び韓国である。
②
産卵生態
ウナギは産卵生態が不明な種が多く,ニホンウナギは最近になり産卵場が特定さ
れつつあるが,産卵と回遊などの生態はまだ十分に解明されていない。ふ化後木葉状のレプトケフ
ァルスから細いシラスウナギに変態して,11月から4月頃川に遡上してくる。親ウナギは5〜12年
間川で生活して,下りウナギとなり太平洋の産卵場へ向かう。ちなみに大西洋産のヨーロッパウナ
ギ,アメリカウナギの産卵場は特定されているものの,産卵生態,初期生活史など未解明な部分も
残っている。
(2)
現
状
世界のウナギ養殖生産は1991〜95年には18〜19万㌧,このうちニホンウナギ種は10万㌧位である。
消費もわが国が一番で,年間10〜15万㌧を消費している。国内の養殖生産量は年間2〜3万㌧台と
なっている。本県のウナギ養殖は愛知県と肩をならべて上位を占め,2県で全国生産の6割を超す
生産を誇っている。農林水産省の「漁業・養殖業生産統計」速報によると2000年の本県内の養殖ウ
ナギの生産量は7,637㌧で,1位の愛知県についで2位となっている。県内生産量を年毎にみると,
1994年以降,安定生産が続いている。1998年には愛知を抜いて1位になるなど,常に上位にランク
インしている。生産額は100億円を上回る重要な産業となっている。主な産地は志布志から串良に
かけての大隅地区が中心で,他に川内や南薩等である。しかし,近年ははさまざまな要因により,
経営環境は非常に厳しい状況にある。
(3)
①
養殖技術
施
設
現在のウナギ養殖場は施設養鰻法といわれ,ハウス加温設備や水質,水温自動監視
装置等を備えたシステム養殖が導入されているところが多い。経営規模も大きく,1経営体で200㌧
以上を生産している例もある。池の形状は正方形のコンクリートで中心部から排水する方式が多い。
水深は1.5〜2mと深く,1面の面積は400〜500㎡程度が多く,地面より上に造ることが望ましい。
高水温による成長促進と省エネを図るため,池全体をビニールで二重三重に覆っている。取り上げ
選別出荷等の省力化を図るため,フィッシュポンプ,自動選別機等も備えている。
ウナギ養殖では水質管理が重要で,良質の地下水が得られることは重要な要素となる。養魚用水
車の利用や注水量調節など各自の経験と研究が生産向上に役立っている。
②
種
苗
ウナギは人工種苗生産が実用化されていないため,冬から春にかけて川に遡上して
くるシラスウナギを採捕して養殖用にしている。近年河川環境の悪化によりウナギの生息場が少な
くなり,シラスウナギの漁獲増加もあって,ウナギ資源は減少傾向にある。1970(昭45)年以降台
湾,中国などが養殖に力を入れ,主要産地となり種苗不足は慢性化している。シラスウナギ価格は
資源量によって大きく変動し,一時は金(ゴールド)と同等の価格まで高騰したこともある。
近年,中国は種苗不足対策としてヨーロッパウナギの養殖に力を入れ,寒冷地での養殖に成功し
ている。過去において,日本でも外国産ウナギ種苗が試験的に飼育されたが,実用化されるまでに
は至らなかった。
③
飼
料
シラスウナギから成鰻まで配合飼料が市販されている。特に近年になってシラスウ
ナギの餌つけ用人工餌料が開発されて,魚病の予防,飼育成績の向上に役立っている。飼料効率は
非常に良くなり90〜95%程度になっている。給飼は稚魚期は1日2回与え,成魚では1日1回の給
飼でよい。
④
成
長
ハウス養鰻で12月シラスウナギで池入れした場合,水温29〜30℃で十分な管理をす
れば,6か月で商品サイズに成長する。勿論この間サイズをそろえるための選別作業があり,出荷
は夏場を中心に周年行なわれる。以前は1年以上かかって成品にしていた頃のウナギと比べると,
皮の柔らかい良質のウナギとして若者にも人気が出ている。
(4)
今後の課題
天然種苗に依存しているウナギ養殖業は,シラスウナギの確保が重要である。これまで魚病や飼
育技術中心に研究が行なわれ,産卵生態や資源の動態についての研究取り組みが少なく,研究資料
が乏しい事も資源対策の遅れとなっている。一方,人工ふ化技術開発の研究もかなり進んでいるが,
実用化の目途はたっていない。
ウナギ資源の維持に必要な親ウナギの生息数は,日本の河川ではダムや河川改修等で生息環境が
悪化し,極端に減少しているため親ウナギの河川への放流が必要である。台湾,中国においても同
様の状況にある。本県養鰻業にとって当面の課題は中国や台湾等から安い外国産ウナギ成品の輸入
が急増してウナギの販売価格が低迷し,経営を圧迫し深刻な問題となっていることである。日本養
鰻漁業協同組合連合会は,平成13年に國に対して「セーフ ガード」(緊急輸入制限)発動を求める
状況にまでなっている。
5)
てぃらぴあ養殖
(1)
①
生態的特性
分
布
分類上ではスズキ目型の魚であるティラピア属は,アフリカ大陸原産の食用熱帯魚
である。アフリカ大陸には約 60種がおり,亜種を含めると 100種以上といわれている。分布は北方へ
向かい,イスラエル,ヨルダン地方まで分布し,種によっては世界の熱帯域,亜熱帯域,温帯域と
広範囲にわたって分布している。発展途上国においては重要な蛋白源として,養殖が行なわれるよ
うになっている。生息水域は,淡水域をはじめとして汽水域,まれに沿岸域にも生息しており,広
塩性を持つ魚として知られている。
②
品
種
養殖用としては,大型に成長するニロチカ種(商品名:いずみだい,みさきだい,
チカダイ等)が多く飼育されている。わが国へは1954(昭29)年にモザンビカ種が導入された。そ
の後ニロチカが1960(昭35)年に,さらに1966(昭41)年にかけて数種が導入された。現在養殖さ
れている食用ティラピアはニロチカがほとんどである。ティラピア属の分類は古くはすべてティラ
ピア属に分類されていたが,近年になり育児習性が異なる3種に分類する説が有力となっている。
わが国ではすべてティラピアの呼び名が一般的であるが,商品名(チカダイ)を和名としている検
索図鑑もある。ここではニロチカ養殖を中心にして述べる。
③
習
性
熱帯性の魚であるので,生息水温の範囲は,水温15℃〜45℃である。適温範囲は24
〜32℃で,10℃以下では数日間しか生存できない。産卵習性は特異的でニロチカでは,雄が群れか
ら離れて産卵床を水底にすり鉢状に掘り,ここへ成熟した雌を誘い産卵する。雌は産卵した卵を口
に含んで,稚魚がふ化して独立するまで,35〜40日位そばに付き添い保育に専念する。
ティラピア属は広塩性を有するものが多いが,ニロチカは塩分耐性は低く,馴化すれば3分の1
の海水中でも成長する。しかし,海水濃度が高くなるとビブリオ病等に感染しやすい。
ニロチカは高温,塩分耐性の他にも低酸素に強い性質がある。さらに,麻酔剤(オイゲノール)
に対しては,他の魚種にみられない抵抗性がみられる。この性質を利用して選別時に使用されて効
果をあげている。ちなみにオイゲノールは植物由来で,歯科領域でも使用されるものである。この
ようにティラピア属は生命力や,水質悪化に対しても強い性質を持った魚である。
食性も前に述べたように,雑食性で比較的低蛋白での飼育も可能であるなど,養殖魚としてのす
ぐれた点が非常に多い魚である。現在は飽食の時代と言われているが。将来重要な蛋白源として見
なされる時期が来るかもしれない。
表1
濃度 ò
ニロチカのオイゲノール長時間麻酔と回復
麻酔時間
回復尾数
養魚池での使用状況
6分(2〜17)
10/10
選別,取り上げ時に池の水位を落とす
120
7分(2〜12)
10/10
か,網等で魚を池の一角に寄せ,シー
180
12分(5〜12)
10/10
トで囲みオイゲノールを 150ò にする。
240
8分(6〜10)
5/5
4〜5時間しても回復する。
300
16分(15〜18)
5/5
60分
200
回復に要した時間
(1979鹿児島水試)
④
産
卵
水温が20℃に上昇すると,雄は産卵の準備行動を始める。雌は21℃以上にならない
と産卵しない。産卵の水温範囲は21〜38℃位であり,適温範囲は24〜32℃である。産卵回数は温度
条件によって左右され,周年適温であれば,4〜8回産卵する。生後1年以内で成熟する個体もい
る。産卵数は雌親の大きさや産卵経験回数によって異なる。初産では150粒位,大型魚では2,000粒
位である。ふ化日数は,水温によって長短はあるが,25℃前後では6〜7日,水温がさらに高いと
4〜5日でふ化する。
⑤
成
長
多くのティラピア属のなかで,本種は成長が早い。飼育環境がよければふ化後14〜
15か月で 800g以上に達する。ただし,雌魚は成長が遅く商品価値がないため,養殖対象にならな
い。したがって,現在は効率の良い全雄生産が行なわれている。交雑による方法と稚魚に雄性ホル
モンを投与して,性転換する方法がある。また,飼育密度を高くして産卵行動を抑制することもで
きる。
(2)
現
状
本県におけるティラピア養殖は,水産試験場指宿内水面分場で1973(昭48)年から試験養殖を始
め,3年後には民間でも養殖されるようになり,刺身商材として当時高価であった養殖マダイの代
替品として,価格が安かったこともあり急速に進展した。背景にはウナギ養殖の種苗高騰や成鰻価
格の不振等で,温泉利用の養鰻場がテラピア養殖に転換できたことである。1991(平3)年には経
営体数47で生産量は約4,200㌧,金額は23億円となったが,その後台湾から安い輸入品が増加したこ
とや,マダイ価格の下落により,消費が急減した。その後廃業が増加し,1999(平11)年には15経
営体となっている。今後厳しい状況は続くものと思われる。
(3)
①
養殖技術
施
設
ティラピアは熱帯魚であるため,周年24℃以上の温度を保つことが条件的に有利で
ある。したがって,温泉水を確保する必要がある。養殖池はウナギやアユ等の池と変わりはないが,
大きさは100〜200㎡,水深1〜1.5mのコンクリート池が養成池として適している。ティラピアは高
密度飼育が可能で,そのために養魚水車は十分配置する。給飼回数が多く,省力化のために給飼機
を設置するのが良い。池の保温のためのハウスも必要となる。ウナギ養殖のように加温にボイラー
を熱源にしたのでは,ティラピアではコスト高となり経営が成り立たない。
②
種
苗
種苗は一般に自家生産できる。産卵池はコンクリート池で80〜100㎡あれば良い。水
深は100〜120cmで池底は勾配をつけ,排水部には魚溜り部を造る。水温が24℃以上であれば,周年産
卵する。親魚の数は,雄は 3.3㎡当り1〜2尾,雌は3〜4尾入れる。35〜40日頃稚魚の成長に伴
い,親を取り上げて別の池へ移す。ニロチカ雌とオーレア雄の交雑稚魚は90%以上が雄になる。
性転換処理をする場合は,稚魚が餌を取り始めたら雄性ホルモンのメチルテストステロンを飼料
に混合して3週間与えれば転換可能である。
③
飼料・成長
ニロチカは雑食性である。養殖では市販配合飼料が使われる。飼料は他の魚種
に比較して低価格のもので良い。餌は食性から浮き餌タイプで,給飼回数は多くした方が良い。雄
の成長は12〜15か月で1kgと早く,高密度飼育ができる。1㎡当り30〜50尾も放養可能で他種に比
べて生産性が高い。但し,高密度飼育の弊害として,ティラピア特有の連鎖球菌による病害も多く,
適切な治療法がないので,飼育密度を少な目にすることが大事である。
表2 ティラピアの標準的な給飼率表(体重に対する%)
体重区分
水
50g以下
50〜200g
200〜500g
500g以上
温
15〜17℃
1.0〜2.0
1.0〜2.0
0.5〜1.0
0.1〜0.5
17 〜20℃
2.0〜4.0
2.0〜3.0
1.0〜2.0
0.5〜1.0
20 〜25℃
4.0〜6.0
3.0〜4.0
2.0〜3.0
1.0〜1.5
25 〜30℃
6.0〜8.0
4.0〜6.0
3.0〜4.0
1.5〜2.0
30℃以上
4.0〜6.0
3.0〜4.0
2.0〜3.0
1.0〜1.5
(1983(昭58)養殖10月号)
(4)
市
況
ティラピヤの消費形態は,わが国では刺身用として約8割,他はなべ物など惣菜用に使われてい
る。この魚は本来食味的にやや淡白なため,マダイの代替品として低価格帯で人気を得た商品であ
るが,マダイと価格帯が変わらなくなった時点から,需要が急速に低下した。現在では一部を除い
てスーパー等の量販店の取扱も見られなくなった。生産者価格は400〜500円/kgと低迷している。
(5)
今後の課題
ティラピア養殖は,わが国においてはさまざまな情勢から成り立ちにくくなっており,経営の維
持が危惧されている。今後魚病体策やバイテク技術による肉質改善を図るなどの研究開発が望まれ
る。
6)
おにてながえび養殖
(1)
①
生態特性
分布・品種
テナガエビ科,テナガエビ属のエビで,東南アジアの主に熱帯域の河川に生息
しインドネシア,タイ,マレーシア等に多く分布している。オニテナガエビは,わが国に分布する
テナガエビ類の仲間であるが,天然水域では冬場の水温が低いため,生息できない。
②
習
性
雑食性で貝類,甲殻類,水生昆虫,穀類,水草等多くの種類をよく食べる。また,
他のエビの脱皮殻も好んで食べ,共喰いもしばしば見られる。低水温には弱く,成長適水温は25〜
30℃で,14℃以下が数日続くとへい死する。高水温は35℃位が限界である。摂餌は昼間でも見られ
るが,夕方から夜にかけて盛んに餌をとる。
③
成
長
ふ化直後の幼生(ゾエア期)は,体長1.7〜2.0㎜で,25〜35日かかって,体長7〜
9㎜の稚エビになる。その後の成長は,ふ化後60日で25㎜(0.25g),100日で50㎜(3g),180
日で80㎜(12g)となり,雌は交尾可能となり,さらに270日で130㎜(60g)に達する。実際の養殖
池では成長のバラツキが大きい欠点がある。
(2)
現
状
本県でのテナガエビ養殖は1965(昭40)年代の終わり頃から始まっている。養殖形態はさまざま
で,一時は各地で養殖がされた。専業的な養殖場は少なく,2業者が年間4〜5㌧の生産を続けて
いたが,現状では行われていない。また,種子島においては第三セクターが稚エビを生産し,農家
が休耕田で養殖する副業養殖が行なわれたが,採算性が低く最近ではわずかに行われているに過ぎ
ない。
(3)
養殖技術
東南アジア原産の大型の淡水エビで,わが国では1967(昭42)年頃から,大学や試験研究機関で
飼育試験が始められた。養殖対象種としての長所は,成長が早い,種苗の自給自足が可能,雑食性
で餌料費が安価ですむ,管理が比較的やさしい,味が良く商品性があるなどがあげられる。一方,
短所としては,低水温に弱い,闘争性があり,共喰をしやすい,空中露出に弱い,種苗生産には海
水と淡水を混合した汽水が必要であることがあげられる。
①
施
設
稚エビ生産のための保温できるハウス,1㌧型の水槽,通気設備等が主である。養成
池は夏場は休耕田に水を30cmに張って使えるが,普通の養魚池が管理の点で利用しやすい。池の中
には竹の束等のシェルター(隠れ場)を設ける。ただし,年間を通じて飼育する場合は,20℃以上
の温水を常に確保する必要がある。
②
種
苗
1㌧のふ化水槽に抱卵した雌を1尾入れる。30〜40%海水にして通気しながら飼育
する。ふ化したら親エビを取り出し,餌としてワムシやアルテミアを与え,10日位からはアサリや
魚肉の細片も与え,稚エビに変態したらアサリや配合飼料を与える。最高1㌧水槽で2万尾ふ化し,
およそ70%の稚エビ生産が可能である。管理の巧拙により成績は大きく左右さる。
(4)
市
況
最近はまとまった生産がないため,ほとんど流通していないものと思われる。過去の取引価格は
1,600〜5,000円/kgであった。また,鑑賞用や釣り餌としても利用できる。
7)
すっぽん養殖
(1)
①
生態特性
品種・習性
スッポンは脊椎動物,爬虫綱,カメ目,スッポン科,スッポン属の一種である。
同属のスッポンとして中国産等がいるが,日本のスッポンとは体色や味など若干違いがあり,品質
的に劣るといわれている。他のカメ類に比べて長時間水中に潜れるが,性質は臆病で警戒心が強く,
人前では餌を食べたりしない。反対に闘争心は旺盛であり,稚亀のときから噛み合いをする。水温
が15℃以下になる秋には砂泥中に潜って冬眠する。春の水温が15℃になると冬眠から醒めて,水温
25〜30℃で盛んに餌を食べて成長する。このようにスッポンは天然水域では,1年の内2/3は冬
眠し,摂餌期間が短いため,商品サイズの700〜800gに達するのに,通常4〜5年の長い期間を要
する。自然飼育によるスッポンの産卵期は6月下旬〜8月中旬で,生後5年以上経ないと産卵しな
い。一方,養殖スッポンでは加温飼育と日長時間のコントロールによって,産卵は2歳から始まり,
10年以上生み続ける。産卵数は親の大きさによるが,20個から130個くらいである。
(2)
現
状
本県においては古くからスッポンを養殖していたが,事例は少なく粗放的であった。平成40年代
から温泉利用や加温飼育が行なわれるようになった。とくに奄美群島では1965(昭50)年代に10経
営体位あったが,経営状況が思わしくなくだんだん廃業していった。県本土内でも各地で養殖され
たが,同様の経過をたどり,現在ではわずかな経営体となっている。川内市には大規模養殖場があ
り,かなりの生産をあげている。
(3)
①
養殖技術
施
設
表1
親の養成池は,面積100〜150㎡とし,深さ
月別
スッポン月別収容密度
平均体重
㎏/㎡
100
0.5
が1.3〜1.5mで底には砂を10〜20cmの厚さに入れる。池壁
9
は水面より30cm高くして,5〜7cmの返しが必要である。
10
10
100
1.0
池の中に島状の砂場を造り産卵場とする。親亀の収容密度
11
20
50
1.0
は㎡当り1尾とする。産卵場から掘り出した受精卵はふ化
12
40
50
2.0
1
80
40
3.2
ふ化した稚亀の餌付けは,イトミミズ,ミ
2
100
40
4.0
ジンコ等動物性餌料がよい。1週間後には徐々に配合飼料
3
150
30
4.5
に馴れさせる。稚亀の飼育温度は30℃が良く,これを保つ
4
200
20
4.0
場のふ卵器でふ化させる。
②
種
苗
5g
尾数
ことが大切である。稚亀は成長と共に表1のように飼育密
度を薄くする。外国産の台湾産稚亀が輸入されたが,病気等で死亡率が高く,安易に購入すべきで
ない。
③
成
長
最近では温泉水やボイラー加温による本格的養殖が行われ,8〜10か月で600〜800
gの商品サイズになる。養殖技術は産卵制御や人工ふ化等飛躍的に向上している。
(4)
市況・課題
スッポンも他の魚種と同様不況の影響もあり,台湾から安価なスッポンが輸入されており,生産
しても販売が難しい状況にある。特に高級食品であるため,消費は一段と冷え込んでいる。加えて
今後とも品質の良い美味しいスッポン生産に一層の努力が望まれる。
8)
ぺへれい養殖
(1)
生態特性
① 分布・由来
スペイン語で「魚の王様」と言う意味のぺへレイは,南米アルゼンチンなどに
生息する魚でスズキ目,ボラ亜目,トウゴロウイワシ科に属し,淡水,汽水域に分布している。南
米の温帯域以外には生息していない。日本への移殖は1966(昭41)年に神奈川県が導入した。その
後全国的に養殖されるようになった。本県においては1984(昭59)年に水産試験場指宿内水面分場
が卵で導入して試験を開始した。
②
習
性
ぺへレイは淡水域から海水域まで生息している。数種が確認されているが,養殖対
象種は淡水及び汽水性のものである。生息温度はほぼアユと同様である。
(2)
現
状
水産試験場指宿内水面分場が生産した種苗を県内数箇所の養殖場へ配布して,試験飼育を試みた
が,成長が他の魚種に比べて遅く,生産性が低いため普及できなかった。しかし,姿,味は格別に
良いことから,養殖魚としての魅力をもっていると言える。水産試験場指宿内水面分場で遺伝資源
として系統保存飼育がされている。
(3)
養殖技術
飼育水温
生息可能水温範囲は4〜30℃,養殖適水温は17〜24℃でアユやニジマスと変わりはな
い。30℃以上の高水温での飼育は良くない。
種
苗
ぺへレイは生後2年で成熟し,それ以降毎年産卵する。産卵期は4〜7月で,最盛期は
5〜6月である。卵は粘着性があり,魚巣等に産み付ける。産卵は数回にわたり,500gの親魚は1
万3千粒位を産む。卵径は小さく1.6〜1.8㎜のやや緑色を帯びた透明で付着糸を有する。ふ化適水
温は20℃前後で,10日あまりでふ化する。ふ化率は40〜50%で低い。
飼料・成長
ふ化後の初期餌料はワムシ,ミジンコ,アルテミアの生餌を十分与え,その後アユ
稚魚用人工飼料等を与える。幼魚期になるとコイ用配合飼料で十分である。成長は遅く,1年でお
よそ15cm(60g),2年で25cm(200g),3年で30cm(350g)程度になる。
(4)
今後の課題
外来魚のなかで魅力的な養殖種であるが,種苗生産に関しては,産卵期が長く大量採卵が困難で,
しかもふ化率,稚魚の生存率が低いなどの問題がある。商品価値が高く量産技術の確立ができれば,
養殖種として普及が見込める。
9)
さばひー養殖
(1)
①
生態特性
分布と由来
サバヒーはインド洋と太平洋の熱帯・亜熱帯域に棲み,その分布は,西は紅海・
アフリカ東岸から,東は南部カリフォルニア・中米西岸に及ぶ。わが国でもサバヒー稚魚が沖縄か
ら相模湾の海岸まで出現しており,まれに指宿の二反田川河口で幼魚が採れることがある。
水産試験場指宿内水面分場では,かつお一本釣り漁業の活餌(カタクチイワシ)の代替餌料とし
てサバヒー(ミルクフィッシュ)の利用を検討するため,1998(平10)年にインドネシア産の稚魚
を導入し,飼育試験を続けている。
②
種
苗
サバヒーの産卵親魚は高年齢で,海水中で水温25℃以上が必要と言われ,わが国で
はまだ人工採卵の実績はない。水産試験場指宿内水面分場が現在飼育試験している稚魚はふ化後間
もない仔魚期で2000(平12)年6月に10万尾を導入したものである。
③
成
長
サバヒーの成長は水温29〜30℃では非常に早く,ふ化後約60日で釣の活餌サイズで
ある全長5cm以上に達する。飼育適水温は25℃以上が好ましく,急激な低水温への変化には弱い。
④
飼
料
餌付け飼料としては,シオミズツボワムシ,アルテミアが使われ,稚魚期以降は配
合飼料で飼育できる。
(2)
今後の課題
サバヒーは淡水から海水への馴致が容易なうえ,かつお一本釣り漁業の撒き餌としてカタクチイ
ワシと何ら遜色のないことが証明されているが,現在は外国産種苗に頼らざるを得ない。
先ず,サバヒーの親魚養成を行い,種苗生産の技術を確立することが急務であるが,大量生産が
軌道に乗れば,海面漁業や地域振興にも大いに寄与するものと期待されている。
3
魚
1)
病
鹿児島県内の養殖魚種で確認されている主な魚病
(1)
海面養殖魚種
本県の海面養殖における魚病の種類は,生産量の増加,魚種の多様化,漁場環境の悪化等に伴って増
える傾向にあり,その中で細菌病(類結節症,ノカルジア症,連鎖球菌症)及びウイルス病のイリドウ
イルス感染症が被害額の大きいものとしてあげられる。
細菌病
ビブリオ病
類結節症
ノカルジア症
連鎖球菌症
細菌性溶血性黄疸
ミコバクテリア症
ウイルス病
ウイルス性腹水症
イリドウイルス感染症
寄生虫病
ベネデニア症
ヘテラキシネ症
血管内吸虫症
1970
図
1975
病
魚
類
細
菌 病
名
宿
主
原
因
1985
1990
1995
2000
本県養殖魚(ブリ類)における魚病発生の推移
竹丸
①
1980
症
巌(2001),私信,鹿児島県水試
状
発生時期
対
策
α溶血性連 海面養殖魚
鎖球菌症
球菌ラクトコッカス 眼球突出白濁,尾鰭 周年,高水温 餌止め,ワクチン
・ガルビアエ
基部潰瘍,内臓出血 期多発
投薬治療
類結節症
桿菌フォトバクテリ 腎臓や脾臓に小白
ゥム・ダムセラ
点(結節)
海面養殖魚
水温20℃以上 アンピシリン等の
梅雨期多発
投与
細 菌 病(続き)
ウイルス病
ビブリオ病 海面養殖魚 桿菌ビブリオ・アン 体表黒化,背鰭スレ ほぼ周年,高 オキシテトラサイ
グイラルム
内臓出血
水温期多発 クリン等の投与
ノカルジア ブリ類,イサ 糸状菌ノカルジア・ 皮下膿瘍,鰓結節,
症
キ,ヒラメ等 セリオレ
腎臓等粟粒状結節
周年,7〜10 慢性的疾患
月多発
ミコバクテ ブ リ 類, 無芽胞桿菌ミコバク 腹部膨満,腎臓等粟 秋以降低水
リア症
シマアジ等 テリウムの一種
粒状結節,体色黄化 温期
細菌性溶血 ブ
性黄疸
リ
原因細菌未同定
滑走細菌症 海面養殖魚
病
寄生虫病
名
宿
主
体色黄化,脾臓肥
大,腹水貯留
桿菌フレキシバクタ 体表・背鰭先端に
ー・マリチムス
潰瘍病巣
原
因
症
状
夏〜秋
稚魚期,4〜 投薬治療
6月多発
真 菌 病
発生時期
イリドウイ 海面養殖魚
ルス感染症
マダイイリドウイ
ルス
体色黒化,鰓褪色,
脾臓肥大
夏〜秋多発
ウイルス性 ブ
腹水症
YAV
腹部膨満,鰓貧血,
肝臓発赤
3月〜6月
病
名
リ
宿
ヘテラキシ ブ
ネ症
主
リ
類
原
因
症
状
発生時期
対
栄養性障害
策
ビタミン剤投与
ワクチン投与
対
策
ヘテラキシネ・ヘテ 鰓褪色,貧血
ロセルカの鰓弁寄生
周年
ゼウスサプ ブ リ
タ症
カンパチ
ゼウスサプタ・ジャ 鰓褪色,貧血
ポニカの鰓弁寄生
周年
ベネデニア ブリ類
症
ベネデニア・セリオ 鰭・体表のスレ
レの体表寄生
周年
淡水浴,マリンサワ
ー浴,薬剤投与
ベネデニア ヒラメ
症
ハタ類
ベネデニア・エピネフ 鰭・体表のスレ
ェリの鰭・体表寄生
周年
淡水浴
鰓カリグス ブリ類
症
カリグス・スピノサ 体色黒化,食欲低下 周年
スの鰓周辺寄生
体表カリグ ブ リ
ス症
カンパチ
カリグス・ラランデ 体表のスレ
ィの体表寄生
血管内吸虫 ブ リ
症
カンパチ
パラデオンタシリック 体色黒化,緩慢遊泳 7 〜8月稚
ス 属の卵による窒息
魚に発生
発生漁場を避け
る
奄美クドア ブ リ
症
カンパチ
粘液胞子虫 クドア・ 体内に白色のシス
アマミエンシスの寄生 トを形成
成体で発現
発生漁場避ける
繊毛虫類クリプトカリオン・ 体色黒化,摂餌不良 高水温期に
イリタンスの寄生
体表白点
多い
養殖環境の改善
スクーチカ ヒラメ
症
スクーチカ繊毛虫目 体色黒化,摂餌不良 4 月〜7月
の一種の寄生
皮膚潰瘍
養殖環境の改善
べこ病
ミクロスポリジウム・セ 体表に凹凸ができ
リオレの筋肉内寄生 る
周年
淡水浴
脳粘液胞子 ブリ,カンパ シュードヘキサカプスラ・セレブ 脳に白色のシスト
虫症
チ,スズキ ラリスの寄生
が点在
白点病
病
海面養殖魚
ブ
名
リ
宿
主
イクチオホ ブ リ
ヌス症
カンパチ
病
名
宿
主
原
因
症
状
5 月〜6月
稚魚
発生時期
イクチオホヌス・ホ 摂餌低下,脾臓腫大 5月〜7月
ーフェリの感染
腹水貯留
主に稚魚
原
因
症
状
発生時期
餌料性障害 ブリ,カンパ 脂肪が酸化した餌料 体表黒化,体表出血 周年
チ,シマアジ
等の連続投与
体表粘液少
対
策
固形配合飼料使用
対
策
鮮度良餌投与
ビタミン剤添加
② 甲 殻 類
病
細
名
菌
病
宿
主
ウイルス病
原
因
真
菌 病
症
状
発生時期
対
策
ビブリオ病 クルマエビ
桿菌ビブリオ・ペナ 第6腹節筋肉の白
エイシダ
濁
18〜27℃
オキシテトラサイ
クリン投与
糸状菌症
ロイコスリックス属 鰓全体黒褐色
の糸状細菌
周年
水質浄化,過マン
ガン酸カリ薬浴
病
クルマエビ
名
宿
主
急性ウイル クルマエビ
ス血症
類
病
名
宿
原
症
状
発生時期
外骨格に小白点,体 稚エビから
色赤変
親エビ
因
症
状
高等菌類 フサリウム属の 鰓の黒化
菌が鰓組織に浸入
発生時期
対
策
卵ヨード消毒,池
消毒
対
策
対
策
水温20℃か
ら高水温
内水面養殖
① 魚
病
因
PRDV
主
フサリウム クルマエビ
症
(2)
原
細
名
類
菌 病
宿
主
パラコロ病 ウナギ
原
ウイルス病
因
症
寄生虫症
状
発生時期
桿菌エドワジエラ・ 鰭,肛門の発赤
タルダ
周年
投薬治療
ビブリオ病 ウナギ,ニジ 桿菌ビブリオ・アン 体表,鰭の発赤
マス,アユ
ギラルム
周年
水温27℃以上にす
る
カラムナリ ウナギ,ニジ 桿菌フレキシバクタ 鰓の貧血,欠損,尾
ス病
マス,コイ他 ー・カラムナリス
部の欠損
周年
投薬治療
エロモナス コイ
症
桿菌エロモナス・サ 立鱗,体表出血と潰 秋〜春
ルモニサイダ
瘍,穴あき
投薬治療
連鎖球菌症 ニジマス,テ 球菌ストレプトコッ 体色黒化,狂奔遊泳 春〜秋
ラピア
カスの一種
,体表出血潰瘍
投薬治療
冷水病
スルフィソゾール
の投与他
アユ
桿菌フラボバクテリウ 体表出血潰瘍
秋〜春
ム・サイクロフィラム
病
名
IHN
宿
主
因
症
状
発生時期
対
策
IHNウイルス
不透明な粘液便,体 稚魚期
側のV字状出血
低水温期
飼育密度を下げる
他
ウイルス性血管 ウナギ
内皮壊死症
不明
胸鰭基部・鰓蓋発
赤腹腔内出血
周年
高水温浴
点状充血症 ウナギ
不明
鰓薄板内に赤血球
血粒の形成
周年
病
マス類
原
名
宿
主
シュードダクチロ ウナギ
ギルス症
原
因
症
状
対
策
周年
トリクロルホン浴
キロドネラ コイ,テラピ 繊毛虫キロドネラ・ 鰓の上皮細胞の変
症
ア
シブリーニ
性
秋〜冬
塩水浴
トリコジナ ウナギ ,コイ,
症
テラピア ,アユ
繊毛虫トリコジナ
周年
塩水浴
白点病
繊毛虫イクチオフスリ 鰓・体表の粘液異
ウス・マルチフィリス 常分泌
秋〜春
塩水浴,水温を25
℃以上にする
ウナギ,コイ,テラ
ピアアユ
単生類シュードダク 摂餌不良
チロギルスの鰓寄生
発生時期
鰓・体表の変性
寄生虫症 (続き)
ミクソボル コイ科魚類 粘液胞子虫ミクソボ 鰓の変形,湾曲
ス症
ルス
粘液異常分泌
春〜秋
感染魚の早期除去
ギロダクチ ウナギ ,コイ,
ルス症
テラピア ,アユ
単生類ギロダクチル 鰓,体表の粘液異常 周年
ス
分泌
トリクロルホン浴
アルグルス コイ科魚類
症
甲殻虫アルグルス
春〜夏
トリクロルホン浴
イクチオホ ニジマス,ア 接合菌イクチオフォ 腎臓肥大,腹水貯留 春〜夏
ヌス症
ユ
ヌス・ホーフェリ
感染魚の早期除去
グルゲア症 アユ
微胞子虫グルゲア
感染魚の早期除去
べこ病(プリ ウナギ
ストホラ症)
微胞子虫プリストホ 体表の陥没,筋組織 周年
ラ
の融解
4
赤
体表の粘液異常分
泌
心臓,肝臓に白色胞 春〜夏
子嚢形成
感染魚の早期除去
潮
1976(昭51)年から2001(平13)年までの26年間に鹿児島県沿岸で発生した赤潮は,37種類の赤潮生
物により 231件で年々多種多様化の様相を示している。このうち漁業被害を伴った赤潮は,10種類の38
件,被害総額は35億円弱にまで達し,なかでも近年大きな漁業被害をもたらしたのは,ヘテロシグマア
カシオによる赤潮で,主に鹿児島湾で1995(平7)年と2001(平13)年に発生している。
20
非被害件数
件数
15
被害件数
10
5
0
76
79
82
85
88
91
94
97
2000
年
図
本県海域における赤潮発生状況
和田
実(2001),私信
鹿児島県海域の主な赤潮生物
種
名
形
状
シャトネラ マリ 細胞長30〜50㎛,黄褐色,涙
ーナ
滴形,後端はやや尖る
シャトネラ アン 細胞長50〜130㎛,黄褐色,
ティーカ
紡錘形,後端は尾状に尖る
コクロディニウム 細胞長30〜40㎛,黄褐色,
楕円形,8個以下の細胞連
ポリクリコイデス 鎖
コクロディニウム 細胞長27〜30㎛,黄褐色,樽
タイプ笠沙
形,2個の細胞連鎖
ギムノデニウム
細胞長18〜37㎛,背腹に扁
ミキモトイ
平
鹿児島水試
1)
ヘテロシグマ
カシオ
ア
細胞長8〜25㎛,褐色〜黄褐
色,楕円形,細胞前端は鈍
円,後端は尖る
時期・海域
6〜7月
鹿児島湾
7〜9月
八代海
5〜9月
八代海
水 色
暗赤色
暗黄緑色
暗黄緑色
暗青緑色
暗赤橙色
暗黄橙色
7〜9月
笠沙片浦湾
7〜8月
冬季も発生
八代海
4〜7月
鹿児島湾
東町浦底
黄褐色
暗黄色
暗黄緑色
暗橙色
暗黄色
漁業被害
被 害 大
ブ リ 類
被 害 大
ブ リ 類
被 害 大
ブ リ 類
タ イ 類
被 害 大
ブ リ 類
被 害 大
ブ リ 類
天然魚介類
被 害 あ り
ブ リ 類
タ イ 類
備
考
粘土散布効
果あり
粘土散布や
や効果あり
粘土散布効
果あり
粘土散布や
や効果あり
粘土散布や
や効果あり
粘土散布や
や効果あり
セラチウム フス
ス
プロロセントラム
コンプレッサム
ノクチルカ シン
チランス
アレキサンドリウ
ム カテネラ
ヘテロカプサ サ
ーキュラリスカー
マ
2)
(1)
細胞長300〜600㎛,細胞は
細長く背部へ弱く湾曲
細胞長30〜50㎛,黄褐色,
楕円形〜小判形,前端窪む
直径150〜2000㎛,淡紅色
細胞背面球形,側面茄子形
細胞長30〜40㎛,深黄緑色
〜褐色,細胞は上下に圧縮
された球形
細胞長15〜20㎛,黄褐色,ド
ングリ形
1〜6月
鹿児島湾
8〜9月
鹿児島湾
2〜7月
県内海域
4〜6月
山川湾
東町浦底
8〜12月
暗黄橙色
暗緑色
暗緑色
摂 餌 低 下
桃色
濃紅色
暗赤橙色
暗黄緑色
被害は見ら
れない
麻痺性貝毒
の原因種
褐色
緑色
今後発生危
惧種,他県で
二枚貝等
摂 餌 低 下
赤潮対策
赤潮発生防止・被害軽減対策
赤潮調査事業
鹿児島県水産試験場では,赤潮の発生の多い時期に赤潮調査を実施し,調査後速
やか に「赤潮情報」として物の出現状況などを関係機関に情報提供している。
この調査の中で対象とする赤潮生物(鹿児島湾にあってはシャトネラ
コクロディニウム ポリクリコイデス,シャトネラ
マリーナ,八代海にあっては
アンティーカ)が10細胞/
ã
を超え,かつ赤潮前
駆現象が見られた場合(増殖する兆しのある場合)「赤潮注意報」を出して関係漁業協同組合に注意を
促している。
また,その他の害赤潮生物(過去に本県で漁業被害をもたらした種または他県で漁業被害が知られて
いる種)については,おおむね 100細胞/ãを目安として,増殖する兆しのある場合には「赤潮注意
報」を出している。
さらに,その赤潮生物が赤潮を形成した場合もしくは直ちに赤潮を形成する恐れのある場合には「赤
潮警報」を出し,監視を強化して餌止めを行うよう指導すると同時に「赤潮速報」として,隣県及び水
産庁に報告している。
赤潮情報伝達事業 漁業者,漁業協同組合などの協力を得て,赤潮の発生状況などの情報を収集し,
関係県などに通報する。特に,鹿児島湾内では赤潮が発生する兆しのある場合または発生後は,漁業協
同組合や養殖場で細胞数を計数を計数し,結果をファックス等で水産試験場に通報し,水産試験場で湾
全体の分布状況を取りまとめのうえ,関係機関に送付する体制をとっている。
自家汚染の防止:残餌等が海底にたまり,漁場の底泥の有機物が増加することは海底の富栄養化につ
ながる。投餌量を適当にするほか,ドライペレットの使用等餌が拡散しない工夫をする。
(2)
発生した赤潮への対応
餌止め
魚類は餌をとるときには平静時の何倍もの酸素を消費する。一方,有害赤潮の多くは鰓に直
接作用して酸素を取り込めなくしてしまう。従って,赤潮の中で窒息状態にある魚に餌を与えると,さ
らに酸素を必要とするため,魚は窒息死してしまう。赤潮が発生したら,まず餌止めをして魚を落ち着
かせて酸素消費量を極力抑えるようにする。
粘土散布
鹿児島湾のシャトネラ
マリーナや八代海のコクロディニウム
は有効な対応策である。しかし,シャトネラ
アンティーカやヘテロシグマ
ポリクリコイデス赤潮に
アカシオでは大量の散布
が必要であったりするため,散布に際しては,発生した赤潮の種類を確かめて、粘土が効く種類か確認
してから広範囲に一斉に散布することが望ましい。
イケスの移動
粘土散布の効果のない種類の赤潮では,被害をできるだけ軽減するために安全な場所
へイケスの移動を行う。ただし,事前に赤潮の分布調査などを行い,避難時期,安全な場所(密度の低
い),方法を十分に検討しておくとともに漁業協同組合などの関係機関にも連絡して,トラブルのない
ように努める。
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