2020 年までに世界の電力の 12%を風力発電で まかなう計画書 “Wind

連載
Wind Force 12
の全訳
佐藤建吉
2020 年までに世界の電力の 12%を風力発電で
まかなう計画書 Wind Force12 の全訳
― その2 ―
千葉大学工学部都市環境システム学科
佐 藤 建 吉
■ 前号に引き続く Wind Force 12 の和訳である。本
号では、第2章で風力発電の世界の現状を、ヨーロッ
パ諸国、アメリカ、インド、それにこれから台頭するオフ
ショア・ウインドファームについて述べている・・・・。
2. THE GLOBAL STATUS OF WIND POWER
(世界の風力発電状況)
表 2.1 1996-2001 年の世界における風力発電市場
の成長
年
設置容量
(MW)
1996
1,292
1997
1,568
1998
2,597
1999
3,922
2000
4,495
2001
6,824
5 年間の平均成長率 39.5%
増加率
%
21
66
51
15
52
累積容量
(MW)
6,070
7,636
10,153
13,932
18,449
24,927
表 2.2 2001 年の風力発電市場の上位
国名
p.10
2001 年の年末までに、世界で設置されている風力
発電は約 25,000MW のレベルに達した。これは
1,400 万世帯、3,500 万人以上の電力をまかなうの
に十分な量である。
1999 年、はじめての WIND FORCE 10 が発表さ
れて以来、風力発電は堅実に期待を大きく越えて拡
大し、世界で著しく発達しているエネルギー源とし
ての立場を維持している。主なエネルギー問題アナ
リストたちは、気候変動を和らげるすぐれて有望な
ビジネスの 1 つとして風力発電をあげている。実際
に何ヶ国かでは、優勢を誇っている従来型電力供給
よりも風力発電は安全かつ利益のあがる投資であ
るとする風力発電会社が出現している。
1996 年以来、
世界の風力発電容量の年間増加率は
40%近い割合で増え続けている。過去 10 年間にお
いて風力発電機の設置数は 2 年半ごとにおよそ2倍
という割合で増え、2001 年の1年間だけでも、新た
に世界中で 6,800MW 近くの発電容量が送電網に投入
されている。
ドイツ
アメリカ
スペイン
イタリア
インド
日本
デンマーク
イギリス
ギリシャ
中国
その他
世界合計
新規設置容量
(MW)
2,627
1,635
1,050
276
236
217
115
107
84
75
402
6,824
2001 年末での
累積容量(MW)
8,734
4,245
3,550
700
1,456
367
2,456
525
358
406
2,140
24,927
2001 年末までに、
世界で設置されている風力発電
は約 25,000MW のレベルに達した。これは 1,400 万
世帯、3,500 万人以上の電力をまかなうのに十分な
量である。ヨーロッパでは総電力量の約 70%を風力
発電が占めており、これは 2001 年度に増加した分
の 2/3 に相当している。他の地域では風力発電が
産業として定着しはじめたばかりである。現在、世
界の風力の総発電量は、45 カ国でまかなわれており、
世界中でこの産業に関わっている人はおよそ 7 万人
と見られている。
Wind Force 12 の全訳
連載
佐藤建吉
表 2.3 上位 10 ヶ国の風力発電市場の成長
国名
ドイツ
スペイン
アメリカ
デンマーク
インド
オランダ
イギリス
イタリア
中国
ギリシャ
10 ヶ国合計
MW
1998 年末
2,874
880
2,141
1,420
992
379
338
197
200
55
9,476
MW
1999 年末
4,442
1,812
2,445
1,738
1,035
433
362
277
262
158
12,964
MW
2000 年末
6,107
2,836
2,610
2,341
1,220
473
425
424
352
274
17,062
世界の風力発電市場
ドイツはヨーロッパ市場のリーダーである。2001
年度、ドイツの風力発電容量は 2627MW、総風力発電
量は 8734MWにまで達した。
この総量はドイツ国内
の電力需要量の 3.3%であり、2003 年までに 5%増
加が期待できる。
デンマークとスペインでの風力発電市場も拡大
し続けている。スペインは 2001 年度に 1,000MW 以
上も拡大し、ヨーロッパ市場でトップのドイツを追
い続けている。デンマークは風力から国内電力需要
の 18%を満たすことに成功しており、
これは世界の
どの国よりも貢献度が高い。
EU 加盟国のほかの7ヶ国、イタリア、オランダ、
スウェーデン、ギリシャ、ポルトガル、アイルラン
ドおよび英国は、現在それぞれ 100MW 以上の風力発
電所をもち、効率的に発電する段階に到達した。フ
ランスの風力発電容量も急激に拡大している。フラ
ンス政府は 2001 年に関税システムを改善すること
で、2010 年までに 1 万 MW をまかなうことを決定し
た。
アメリカ市場は、2001 年には飛躍的に伸び 1,635
MW という、大きな復活を遂げた。この半分以上は、
石油を産出するテキサス州によるもので、アメリカ
の総風力発電量は現在 4,245MW に達している。
カナダはアメリカと同様に生産税控除(PTC)の
導入により、198MW という現在の水準よりも拡大す
る準備が整った。南アメリカではブラジル政府が、
新エネルギーを活用すべきとする差し迫った要求
に応えるべくプロエオリカ(Proeolica)計画の開
始を促し、3,600MW 以上の計画が直ちに認可された。
MW
2001 年末
8,734
3,550
4,245
2,456
1,456
523
525
700
406
358
22,953
増加率
2001-2002 %
43
25
63
5
19
11
24
65
15
31
35
3 年間平均
増加率 %
45
59
26
20
14
11
16
53
27
87
34
アルゼンチンのもつ大きな潜在性も同様な計画を
待っている。スペイン系民間会社は、これまでの風
力開発経験を提供しその実施を促している。
ほかの国々でも新たに市場が開拓されつつある。
オーストラリアでも活動が増大している。アジアに
おいては、インドの市場は 1990 年後半の停滞期の
のち復活し、中国では 2005 年までにその生産容量
を 1,200MW まで増加しようとしている。一方、日本
は着々と市場を拡大しつつある。アフリカでは、エ
ジプトとモロッコの両国は、国家政策とヨーロッパ
の開発者の支援により何が実施できるかを探り当
てている。モロッコはすでに国内電力の 2%を 50MW
のウィンドファームで供給しており、さらに 460MW
を供給する計画がある。
気候変動プロジェクトによる緊急予測
風力発電は、地球の気候変動に対処するための差
し迫った必要性からますます拡大しつつある。国連
が後援する気候変動プロジェクトの政府間委員は、
世界の平均気温は次世紀には 5.8℃上昇すると予測
している。多くの国々は、進行している環境破壊を
回避するために、温室効果ガスの排出を徹底的に削
減しなければならないということを認めている。
風力及び他の再生可能エネルギー関連技術は化
石燃料や原子力による汚染物質を発生させず、温室
効果ガスの最大の原因である二酸化炭素を発生す
ることなく発電できる。
1997 年に定められた京都議定書が動き出し、2008
年から 2012 年までに 1990 年のレベルから 5.2%の
温室効果ガスの削減を目標として、国や地方レベル
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Wind Force 12 の全訳
での段階的な温室効果ガス削減目標が段階的に定
められている。これらは再生可能なエネルギーを導
入しその供給割合を増やすことと解釈されている。
例えばEU加盟の 15 ヶ国は、2010 年までに供給割
合を 22%にする目標を立てた。これは 1997 年での
供給割合の 14%という基準値に由来する。
目標を達成するため、ヨーロッパ各国、その他の
地域は様々な市場支援制度を採用した。この制度は、
再生可能エネルギー施設によって生産された電気
には電力単位ごとに報奨金を支払うという単純な
制度と、再生可能エネルギーによる電力の供給割合
を増加させるように発電業者に義務を課すより複
雑な制度まである。
これらの制度の背景には2つの論拠がある。第一
に、実際の産業として成り立つところまで市場を活
発化する必要性があること。第二に、化石燃料や原
子力を支持する市場には歴史的な歪みがあること
である。従来のエネルギー源は、世界で年間 2,500
〜3,000 億ドルの補助金を得ている。原子力はアメ
リカ合衆国及びヨーロッパにおいてエネルギー研
究助成金の主要な割合を占めている。同時に従来型
燃料による発電コストは、健康や社会的コストとい
った経費を算入していない。世界中のエネルギー市
場における自由競争とともに、これらの歪みは新し
い技術が定着することを困難にさせている。
対照的に、環境報奨金の支援の有無は別にして、
発展途上国では、風力発電は点在している孤立した
地域にフレキシブルに、安く電気を供給する手段と
して魅力的である。今後数十年間は、新エネルギー
需要の大半が発展途上国によるものとなり、風力発
電は送電網に産業規模の電力を供給し、クリーンな
産業を支援し、汚れた技術を取り除く機会を提供す
るだろう。
風力発電のコスト低下
風力発電はその市場の発展とともに、めざましく
そのコストを下げている。風力で 1kW 発電するため
にかかるコストは 20 年前の 5 分の 1 である。
過去 5
年間振りかえると、約 20%減少している。風力はす
でに新しい石炭火力と競合し、現在最大のエネルギ
ー供給源であるガス火力に挑戦している。例えば英
国では、風力発電開発業者はガス火力と比べて kWh
あたり 3 セントだけ値段が安いため風力発電所を建
てる契約をしている。
平均風速が上がるにつれて発電コストは減少す
る。業界誌 Windpower Monthly の最近の分析が
佐藤建吉
示すように、風力発電の生産コストは、風速 7.5m/s
の平均的な地点で、
設置コストが 700 ドル/kWh であ
れば、風力発電はガス火力に対抗できる。
経済的な魅力が高まるにつれて、風力発電は大き
なビジネスとなりつつある。主な風力発電メーカー
は、需要に応えるため何億ドルを世界中の工場につ
ぎ込んでいる。風力発電メーカーのうち主力の 5 会
社はヨーロッパの株式市場における株価の急激な
増加が大きな関心を呼んでいる。市場トップの
Vestas は 2001 年には約 12 億の売り上げを獲得した。
風力ビジネスが外部の投資家たちから重大な関
心事として注目されているということは、最も重要
な点である。たとえば 2002 年のはじめ、銀行、保
険、そして法律関係者からなる合弁会社は、英国海
岸沿線に計画されたウインドファームに 13 億ドル
をつぎ込むことを発表した。風力発電メーカーの
Enron Wind は世界最大企業のひとつである General
Electric に買収された。
多くの石油会社の風力発電
からの電気を買い上げるという決定もまた重要な
ことである。米国ではすでに Shell が 140MW 以上の
風力発電を受入れている。これは風力がエネルギー
市場で確立されてきていることを証明していると
いえるだろう。
[以上、本文 12 ページ]
風力発電技術
風力発電は見かけ上では単純な技術である。しか
し、高く細いタワーやゆっくりと回転する羽根は、
軽量な素材、空気力学に基づいたデザイン、計算さ
れた電子制御という複雑な相互作用を基礎として
設計されている。ドイツの業界データは、陸上設置
の発電機自体の資本コストは全体の 65%であるこ
とを示している。残りの 35%はほかのシステム関連
部品、地代、それに基礎工事や道路建設コストであ
る。
風力発電は多様に拡大しつつあるが、最も一般的
に普及している形式は、タワーの風上に 3 枚の羽根
のロータが水平に取り付けられたタイプである。こ
の広い回転面積において、できるだけ多くの風のエ
ネルギーを得るために、風車の性能の改良がなされ
ている。パワフルな発電機、大きなブレード、改良
された電子機械、高機能材料、高いタワーから構成
されている。2,3の風車では可変速運転ができ、
完全にギヤボックスは不要の直結駆動のタイプと
なっている。
最も著しい改良点は、風車の大型化と高出力であ
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Wind Force 12 の全訳
る。20 年前の 25kW サイズから、今日売られている
典型的なサイズは 750〜1300 kW である。ドイツに
設置された風車の平均サイズは 2000 年に初めて
1,000 kW を越えた。商業的に可能な最大の風車は、
70〜80m のタワーに直径 80mのロータを持つ出力
2,500 kW 機である。2,000 kW 機は 1980 年代の 200
機分の発電能力を持っている。これは、少ない台数
で同じ発電出力が得られることを示している。
将来は、より大きな風車が新しく興るオフショア
風力発電の市場で稼動するために生産されるだろ
う。現在 3,000 kW から 5,000 kW までの風車が開発
中である。2002 年、ドイツの会社 Enercon は、ロー
タ直径 112mの最初の 4,500 kW 風車の試作機が建設
される計画がある。
発電風車は 20〜25 年の設計寿命があり、その運
転とメンテナンスにかかる年間コストは、一般的に
風車コストの約 3%である。
風の持つばらつきは悲観論者が予想していたよ
りも送電網の維持管理にはx、ほとんど問題を与え
なかった。例えば、デンマーク西部では冬の強風の
夜、風力発電の発電量が 50%までに達したとき、こ
れを送電運転員は上手に管理した。これから 10 年
以上先に、発電を開始すると予想される多くの大規
模オフショア・ウインドファームをつなぐ巨大送電
網が新しく整備されれば、ヨーロッパでの風力利用
の有効性と信頼性は大いに改善されるだろう。
[以上、本文 13 ページ]
風力エネルギーの利点
・ 低コスト―風力は原子力、石炭、ガスに競合
できる
・ 燃料が不要―二酸化炭素を放出しない
・ 輸入燃料に心配な価格高騰がない
・ 規格化され設置が迅速である
・ 大規模工業向け電力を送電網へ連系可能
・ 有効土地利用―農業・工業が継続して可能
である
・ MW 当たり、費用当たりで原子力発電・火力
発電に比較して雇用が多い
ドイツ-風力発電の牽引役
ドイツは風力発電の比類なき牽引役だ。1990 年代
の初頭から、連邦政府と地方政府の支援政策により
一気に拡大した産業が、他のヨーロッパ諸国に将来
の道を示すこととなった。
佐藤建吉
現時点での発電量―2001 年末のドイツにおけ
る風力発電の総設置容量は 8,734MW 以上である。
国内 11,000 機の風車はドイツ 8,200 万人の電力
需要の 3.3%をまかなうことができる。重要なこ
とは、この傾向がこのまま継続すれば、2003 年に
は総電力の 5%を簡単にまかなうことができるだ
ろう。
ドイツの風力発電設備容量
2001 年の1年間だけで、2000 機以上の新たな
風車が送電網に接続され、その発電量は 2,659MW
に相当している。これは 2000 年に導入された風
力発電の発電量に比べ 60%の増加であり、専門家
が予測した以上の成果であった。ドイツの風力発
電量はここ 7 年間、
目覚しい速度で成長している。
1998 年からの年間平均成長率は 43%である。
ドイツの電力産業史におけるいかなる発展も
これには及ばない。ドイツ風力エネルギー協会は、
原子力発電が商業利用されてから 10 年後の出力
(1970 年で 6.5TWh)と、風力発電の政府の支援
が始まってから 10 年が経過した時点での出力
(2000 年で 11WTh 以上)を比較している。
この間に、ドイツ国内において新たな一大産業
分野が生まれ、すでにその工業技術は認知されて
いる。ドイツで運用されている風車のほとんどは、
現在、主要な生産基地となっている Enercon、
Nordax、そして Enron Wind で国内生産されてい
る。現在では推定で 35,000 人が直接的・間接的
にこの産業に従事している。2001 年には、風力発
電部門の売上げは 30 億ドルに達すると期待され
ている。
ドイツでの画期的な法整備
1980 年代の政府による 100MW と 250MW 風力発電
連載
Wind Force 12 の全訳
プログラムに続き、1991 年に革新的なできごとが
起こった。「電力供給法(Stromeinspeisungs‑
gesetz: Electricity Feed Law(EFL))がドイツ
議会を通過した。この画期的な法律は、すべての
再生可能エネルギー供給者に国内市場小売価格
の 90%までの価格で風力発電による電力を買い
取ることを定めている。この法律は、クリーンな
エネルギーを普及させるために、歴史的に補助金
を与えられてきたは石炭や原子力に対抗できる
ような市場を設立する必要があるという観点か
ら制定されたもので、管理のしやすさと実効性の
高さが保証されている。
2000 年に EFL の原則は「新再生可能エネルギー
法」によってさらに確立された。風力発電を 5 年
間運用した後、出力単価を低下させ競争強化する
ことを認めているが、投資家の風力発電への意欲
は衰えていない。
国家政策は、強力な地方開発計画に影響を受け
た。例えば、2010 年までに総電力の 25%を風力
発電でまかなうという北部の Schleswig Holstein
州による目標は、すでに達成された。成功要因の
一つには、風力発電事業者に対する非営利投資銀
行による低金利ローンがあげられる。近隣で人口
の多い Lower Saxony 州でも、これに匹敵する強
力な風力発電支援政策により、現在、電力供給の
10%が風力発電によってまかなわれている。風力
発電開発を迅速に行うために、多くの州はある一
定の区域を風力発電事業計画の場所と定めてい
る。
市民による発電所の投資・所有
ドイツ連邦政府と地方政府による強力な財政
的インセンティブは、ほかに二つの重要な結果を
もたらした。第一に、北海に面したもっとも風の
強い地域以外の広範囲でも風力発電を設置する
ことを可能にしたことである。その結果、North‑
Rhine Westfalia (2001 年 末 ま で の 設 置 容 量
1,010MW)や Saxony‑ Anhalt (796MW)、Brandenburg
(769MW)といった風が弱い内陸部でも、風力発電
ブームに乗って発電所が建設された。そして、産
業界は弱風で効率良く作動する風力発電機を製
作し貢献した。
第二に、ドイツでは幅広い市民層が風力発電所
自体のオーナーになったり、風力発電所への投資
者となったりする道が開かれたことである。ある
大きなウインドパークは、投資による税金の割引
佐藤建吉
制度によって利益を得る小規模経営者や会社が
大半の出資者である投資基金により開発がおこ
なわれた。ある見積もりによれば、現在までに
100,000 以上のドイツ人が風力発電計画に関わっ
ている。
ドイツやデンマークのように風車の設置密度
が極めて高い国では、風力発電の開発を地域住民
が支持している。多くの地域では風力発電が農家
の重要な収入源となっている。
グリーン政策
風力発電への支援は、社会民主党と政権を担当
している「緑の党」を含む環境主義者よって行わ
れている政策から強い影響を受けている。緑の党
‑社会民主党の党員連合はいくつかの州の政権も
握っている。
最近の政策決定では、現在 30%の電力供給を行
っている国内 19 の原子力発電所は、耐久年数を
終える 30 年以内に閉鎖予定であると発表された。
ドイツ連邦政府はグリーンピースの提案を受け
入れ、2025 年までに少なくとも 25%の総電力需要
を風力で発電するという、新たな長期目標を設定し
た。この電力の多くは北海やバルト海のオフショア
(海上)風力発電所によって供給されるだろう。現
時点では 3,000MW のオフショア風力発電所の建設が
2010 年までに北海で行われることが確実となって
いる。産業界は 2005 年までにオンランド(陸上)
風力発電が 16,000MW の発電量に達すると期待して
いる。その結果市場は、現存の古くなった風車の建
て替えや、オフショア開発により再活性化へと向か
うだろう。2010 年までには、風力発電はおおよそ
20,000MW の発電容量を有し、ドイツの総電力需要の
10%を供給することが、予測される。
[以上、本文 15 ページ]
現在、直接・間接的にこの産業に従事している
者は 35,000 人であると推定される。
アメリカ合衆国−目覚める巨人
アメリカの風力エネルギー市場における設置の伸び
率は、1990 年代は緩やかであったが、いまは急激な
伸びを見せている。2001 年にはアメリカ風力産業界は
過去の方針を転換し、16 州で約 17 兆ドルの資産規模
連載
Wind Force 12 の全訳
にあたる約 1,700MW の発電設備を設置した。これで十
分な発電量を確保した。最終的には合計で 4,245MW と
いう 1999 年の二倍以上の発電容量に達している。
米国の風力発電所の総出力は約 100 兆 kWh であり、
これは 100 万世帯に十分な発電量といえる。風力発
電業界は非常に早い速度で成長している(ここ 5 年
間の平均成長率は年に 23%である)が、米国風力
エネルギー協会の現在の目標は 2020 年までに総電
力の 6%を風力発電で行うとしている。この目標は
強力で持続的な政策により簡単に上回ることがで
きるだろう。
連邦政府と州政府の政策
これらの開発を促してきた連邦政府の重点施策
が、生産税控除(PTC)である。1994 年に誕生した PTC
は、発電風車を設置した最初の 10 年間は風力発電
事業に対し、kWh 当たり 1.5 米セントをインフレ調
整税控除するというものである。連邦政府は 1999
年と 2001 年末に PTC の期限切れを決定したが、2002
年には二年間の延長を決定した。PCT は産業界に風
力発電普及の促進期・停滞期を左右している。
風力発電の促進に対しては各州の政策は批判的
であった。テキサス州では 1999 年の再生可能エネ
ルギー導入最小値基準(再生可能エネルギー・ポー
トフォリオ基準、Renewable Portfolio Standard,
RPS)の導入が継続している間は、風力発電は州内
の再生可能エネルギーの中でもっとも低価格にな
り、風力エネルギー開発が飛躍的に成長した。テキ
サス州は 2001 年にそれまでの全米の合計年間導入
量を上回る出力(900MW 以上)の風力発電所を導入し
た。テキサス州は、再生可能エネルギーでの発電量
を 2009 年までに 2,000MW にするという目標を、数
年早く、実現しつつある。他の 11 州でも RPS 制度
やそれと類似した制度を持っている。後者は特に
PTC と組み合わせた場合、RPS と同様の法制度によ
り国家レベルで何が達成できるかの実例となって
いる。その他の重要な州によるインセンティブには、
払戻金や投資による税金控除(特に小規模風力発電
に対して適用される)とネットメータリング(これ
は自己消費電力量までは割引料金として風力発電
の電気を送電網に供給することが可能な制度)があ
る。
経済的な魅力
佐藤建吉
風力発電市場のめざましい発展により、これまで
風力発電を避けてきた米国の大手エネルギー会社
は、再びその技術に注目し始めている。例えば巨大
原子力発電所やガス火力発電所を所有・運営してい
るフロリダ電力照明会社(Florida Power and Light、
FPL)の傘下にある FPL Energy は、2001 年に新た
に導入された風力発電所の約半分の建設と融資に
関わりをもっている。巨大複合公益企業体である
American Electric Power はテキサス州内で 150MW
の風力発電所を建設し、その他にも風力発電所を所
有した。ダラスに本社を置く TXU は、ガス・石油・
原子力を扱う会社で、最大の電力小売会社の一つで
ある。2002 年当初、巨大企業 General Electric 企
業連合は、破綻した Enron の優良子会社であった
Enron Wind Corp.を買収した。このような巨大企業
は、経済的利益が大きく見込めることができる巨大
プロジェクトには投資する。テキサス州内や州外の
立地がよいところでは巨大風力発電所の発電コス
トは 5 セント/kWh 以下であり、従来型発電方法に
対抗できる電力価格範囲になっている。最近の長期
契約は 4 セント/kWh 以下で行われている。
風力発電は参加した企業だけに利益が得られる
のではなく、地域全体にも経済的な利益をもたらす。
田園地帯では、地元の農家が風車のタワーの下で農
業や牧場を行いながら、副収入(一台あたり、年間
2,000 ドルかそれ以上)を得ることができるために、
風力発電所の建設を歓迎している。
アメリカ全土に広がる風力発電所
アメリカ合衆国の新規風力開発のほとんどは、
1980 年代の風力発電ブームの発祥地であるカリフ
ォルニア州を以外の地域で行われている。2001 年
末には、実用的な規模の風力発電風車が、52 州の
うち 26 州で運用されていた。カリフォルニア州と
テキサス州はともに 1,000MW 以上の発電をほこり、
アイオワ州やミネソタ州は約 320MW の発電量を持
つ。そして、100MW ではワシントン州、オレゴン州、
カンザス州にまで範囲が拡大する。
現在、連邦政府の見通しによれば、風力による潜
在的な発電量は、全米の総電力消費量の 2 倍に達し
ている。
風力発電開発は、途上であるが、増大する二酸化
炭素の排出・大気汚染・人体への悪影響・天然資源
の枯渇の加速等のない電力をアメリカに大幅に供
給することができるのである。
連載
Wind Force 12 の全訳
佐藤建吉
源の多様化を推進することが目的であった。人口が
10 憶人以上の国であるインドの風力発電の総潜在
力は、45,000MW であることが推定される。
アメリカの風力発電設備容量
アメリカは、風力発電ブームにもかかわらずヨー
ロッパには大きく遅れをとったままである。潜在的
に大きな風力資源を持っているアメリカは、現在ド
イツの半分以下の発電量しか持っていない。ノー
ス・ダコダ州だけでも、ドイツ全体の 50 倍もの風力
資源があると見積もられている。
今後数年間におけるアメリカでの風力発電の著
しい拡大は、連邦政府と州政府の政策の結果にかか
っている。
[以上、本文 17 ページ]
米国の風力発電所の総出力は約 100 兆 kWh で
あり、これは 100 万世帯に十分な発電量である。
インド-----発展途上世界の先駆者
発展途上世界の中でインドは、化石燃料へ依存す
ることなく代替資源としての風力エネルギーの活用に
おいては先駆けている。風力エネルギー利用において
の平穏期ののち、アジアの風力の先導者としてのイン
ドは、今、新しい世代のよりパワフルなウインドファー
ムで再び跳躍する準備をしている。
1500MW 以上の生産では、
インドの風力発電量はす
でに世界第 5 位を占めている。2001 年はこれまで最
も生産量の多い年で、240MW が生産され、前年を 28%
も上回った。特に、高い潜在能力をもつ風の強い沿
岸地域では、風力発電のより早い発展が見られるだ
ろう。
インドで最初に風力発電を推し進めたのは、新エ
ネルギー省(MNES)である。国内の急速な経済成長
に伴い増加した石炭や石油やガスの需要量、燃料資
インドの風力発電設備容量
風況モニタリングステーション
新エネルギー省(MNES)は、最適な供給源を正確
にねらうために、国全体に風速測定局のネットワー
クをつくりあげた。出資者には主な費用の原価償却
費や消費税・販売税の控除を含む資金的なインセン
ティブも与えられた。事業の開始から 10 年間は発
電収入にかかる税金の 100%の払い戻しを、2002 年
に施行されている。各州では独自のインセンティブ
制度を持っており、中には資金助成制度もある。
これらのインセンティブの一つの成果は、風力に
投資する産業会社やビジネスを促進していること
である。最大の魅力は、風車を所有することで彼ら
の工場への電力供給を保証するということ、すなわ
ち停電がしばしば起こる国でのビジネスを保証す
ることである。それゆえ、インドのウインドファー
ムは、しばしば個人的に所有された風車群で構成さ
れている。報奨金制度は、多くの信頼性の低い風車
納入業者をはびこらせ、結果として稼動しない風力
発電所をつくり、さらに投資家を失望させることに
なるという恐れがある。
過去の数年間、インド政府と風力発電業者は、イ
ンド風力発電市場により高い安定性をもたらすこ
とに成功している。これは大企業と公的企業への投
資を促進し、国産部品の利用を高めるという二点の
効果を生み出している。現在、インドの風車メーカ
ーのうち、ヨーロッパの大手メーカーから輸入せず、
風車の構成部品 70%を自社で生産している会社も
連載
Wind Force 12 の全訳
ある。これにより、価格を低下させる、地域内での
新規雇用をつくり出すことができた。
いまや、多くの風車メーカーが、インドに風車を
供給している。そのなかの一つ Vestas は、1980 年
代半ばから営業活動をしている。最近参入して成功
している業者は、Suzlon(ドイツの Sudwind Energie
System からの技術をベースにしている)で、この会
社は現在二つの工場で 800 名を現地雇用している。
2000 年には、世界の風車メーカーの トップ 10
のなかの第 9 位の地位を得ているが、インド市場に
初めて1MW モデルを送り出した。
いまのところインドでの風力発電は、地理的にみ
て 2,3 の限られた地域に集中している。特に、タミ
ル地方の南部は、インドの総設備の 3 分の 1 を占め
ている。Maharashtra, Karnataka, Rajasthan など
の地域を追跡してみると変化が生じているのがわ
かる。2001 年までのインドの風力設備容量は、BTM
Council による予測を簡単に超えている。BTM はイ
ンド政府による事業見込みを、2006 年までの実施で
2,800MW の設備容量が達成されると期待している。
[以上、本文 18 ページ]
デンマーク−商業面での成功
佐藤建吉
行政の参加
デンマークの風力発電が成功した理由の一つに、
行政が継続的に国のエネルギー計画に関わったこ
とが挙げられる。その政策は、輸入燃料にはなるべ
く頼らず、環境を改善し、高い持続性を目指すこと
を目的としている。政府は原子力発電は選択肢の一
つに過ぎないとして却下し、発電所において石炭を
燃料としては一切使わないと決定した。今後新たに
石炭火力発電所が建設されることはないだろう。こ
れらの国内政策は、徐々に風力発電設備の輸出産業
繁栄へと押し上げた。1981 年、初めてデンマーク政
府が打ち出したエネルギー計画では、2000 年までに
は電力消費の 10%が風力発電でまかなわれ、それは
平均 15kW の風力発電機を 60,000 台導入すればこれ
を達成できると想定していた。この 10%の目標は、
平均 230kW の風力発電機を 5,000 台導入して 3 年も
早く達成された。Energy 21 と呼ばれる最新の計画
(1996 年発表)では、二酸化炭素の排出量の削減をう
たっている。現在の目標は、2005 年までに 1988 年
排出量の 20%、2030 年までに同 50%を削減すること
である。これを達成するには、総エネルギー量の 1/3
以上を再生可能エネルギーに頼らなければならな
い。そのうちの大半は風力エネルギーになるだろう。
デンマークの風力関連産業は成功例としてよく知ら
れている。1980 年代にスタートし、2001 年には 26 億ド
ルの産業になった。その成長率はインターネットや携
帯電話のそれに迫る。デンマーク製の風車は世界市
場を席捲し、現在デンマークは世界で最も新エネルギ
ー開発が進んだ国となった。
デンマークの風力関連産業はこの 15 年で、機械
製造業の重要な一角を占めるまでに成長した。さら
に、Vestas, NEG Micon, Nordex, Bonus のような主
な発電機メーカーをはじめ 20 社もの大会社と、多
くの小さい供給業者がある。デンマークにおける風
力関連産業の労働者は 1981 年には数百人だったが
現在 20,000 人となり、さらに世界各地で風車の供
給や導入に従事している人は 8,000 人以上にのぼる。
特にこの 8 年間でデンマークの発電機メーカーの
生産力は飛躍的に向上した。年間に輸出した風力発
電設備容量は、1994 年には 368MW だったが、2001
年にはおよそ 10 倍の 3000MW となった。ライバルと
される国が出現しているが、今日世界中で導入され
ている風力発電設備容量のほぼ半分は、デンマーク
製である。
デンマークの風力発電設備容量
記録的な割合
すでにデンマークはこれらの目標を達成する段
階にきている。2001 年末までに導入された風力発電
容量は 2,417MW にのぼる。平年通りの風況ならこれ
らの風車で、
国内の電力の 18%をまかなえるだろう。
デンマーク風力工業協会は 2003 年までには風力発
電によって要求量の 20%は満足できると期待してい
連載
Wind Force 12 の全訳
る。これは世界でも高水準の割合である。
風力発電の利用により、デンマークは京都議定書
で規定された削減量の 1/3 をすでに達成した。この
量は、デンマーク全体における温室効果ガス排出量
の約 7%分に当たる。
技術的革新
デンマークの成功の重要な要素には、技術革新が
上げられる。1980 年代は発電機のデザインは「大き
ければ大きいほどよい」方向に凝り固まっていたが、
デンマーク人は基本に戻り農業工学の技術を部分
的に用いてより小さく、よりフレキシブルな機械を
製造した。よく知られているロータとブレードを風
上(タワーの受風方向)に向けた 3 枚翼のデザインは、
現在では古典的コンセプトとして採用されている。
最近では、デンマークは沿岸の海域に大規模な風
力発電基地を建設する提案で世界をリードしてい
る。デンマークエネルギー庁は主要電力会社 2 社と
共同で、2008 年までに総容量 750MW のオフショア風
力発電所を 5 ヶ所建設する計画を練り上げた。政府
はこれまでに当初の 2 ヶ所の建設を承認した。最終
的には 2030 年までにオフショア風力発電で 4,000
MW までまかなう計画である。
デンマークの風力開発におけるもう一つの特徴
は、設置されている風車の 80%が、個人もしくは風
力発電組合によって設置されているということで
ある。デンマークの 15 万以上の世帯が個人所有か
共同所有で風力発電を行っている。コペンハーゲン
の沖合での巨大な 40MW ウインドファームについて
も 8,500 の会員により共同所有が行われている。
デンマークにおける風力関連産業の労働者は
1981 年には数百人だったが今や 20,000 人とな
り、さらに世界各地で風車の供給や導入に従事
している人は 8,000 人以上にのぼる。
佐藤建吉
ラルタル海峡沿いのアフリカ大陸に面したタリフ
ァ地方に集中していた。しかし、2000 年末までには
総容量 2,836MW にまで急成長し、うち 1/3 以上はわ
ずか1年間に設置された。2001 年には再び急成長し、
風力発電設備は 3,550MW に達し、スペインはヨーロ
ッパで第 2 位を維持している。
重要な点は、こうした開発が多くの地方でおこっ
ていることである。大西洋に面した北西部のリアス
式海岸から、ピレネー山脈の裏側のナヴァル山、太
陽が燦燦と照りつけるカスティリア地方のラマン
チャ高原までに及んでいる。
国を挙げての支援
スペインの成功の背景には、デンマークの 10 倍
以上の広大な国土にしっかりした風力発電の体制
が浸透していったこと、地方の発展に焦点を当てた
政策、そして強力で実質的な国の計画がある。
政府が再生可能エネルギーの実質的な支援に関
する法律を最初に制定したのは、1994 年、この法律
では全ての電力会社に、5 年単位でグリーンなエネ
ルギーのための保証金を割増して払うことを義務
付けている。これはドイツの送電法と同様の効果を
発揮している。1998 年末には、政府は従来の施策を
刷新してヨーロッパの風力市場の中で十分競争で
きるように、一致団結してしっかりとした足場を築
くための新たな法律を、再び打ち出した。
1998 年の法律では、EU の目標に沿って、2010 年
には少なくとも 12%を再生可能エネルギーでまかな
うことと、各種のグリーンな電力に対する奨励金の
規則を設けることを目標にしている。風力発電業者
にとっては、この価格は発電量に応じて、消費者料
金の 80〜90%が支払われることになる。2001 年中の
政府との協定価格は 1kWh につき 5.4 米セントであ
り、これは風力が魅力的な投資の対象であることを
示している。
地方の計画
スペイン―南ヨーロッパの風力発電国
スペインの風力関連産業は、他の南ヨーロッパの
国々と比較してここ数年で大きく躍進した。人口が少な
い地方と、政府の強力な政策とが直結して、スペイン
は、製造・開発両面で代表的な風力発電国になった。
1993 年には国内で稼動していた風力発電機の容
量は、ほんの 52MW であった。そのほとんどはジブ
国の政策も重要であるが、スペインの風力発電発
展の決定的な原動力は全体的な底上げ、つまり工場
の建設や雇用の創出に熱心な地方政府が引っ張っ
ている。最も盛んな地方は Galicia、Aragon、Navarre
であり、Castilla Leon や Castilla la Mancha はそ
れらに追いつこうとしている。地方政府のインセン
ティブは単純で、地方の風力資源を活用しようとす
る会社は、その地方で製造された部品に投資をしな
連載
Wind Force 12 の全訳
くてはならというものである。
この風力発電の開発計画を先駆けて行ったのは
海岸線が大西洋に突き出た北西部のガルシア地方
である。10 年以内に 2,800MW の容量を導入する地方
政府の壮大な計画が 1997 年から始まった。これは、
この地方の電力消費量の約 45%に相当する。この計
画を実現するため、送配電事業と風力発電設備製造
のノウハウをもつ奨励企業 10 社が、98 の特定調査
地域における潜在エネルギーの一定量の開発特権
が与えられた。総投資額は 26 億ドル以上になるだ
ろう。
ガルシア地方の目的は、投資された額の少なくと
も 70%は、直接的に 2,000 人分以上、間接的に 3,000
人分の雇用の創出によって地元に還元することで
ある。結果として、風車翼、部品、タービンをつく
る工場が地方の各地で成長した。2001 年にはガルシ
アでは 973MW が達成され、これは国内全体のほぼ
30%に相当している。
スペインの風力発電設備容量
山地であるナヴァル地方も、ガルシア同様に熱心
である。2001 年中に 5,96MW に達し、2010 年までに
650MW の目標に向け、着実に進んでいる。他のグリ
ーンなエネルギー源と併用して、再生可能エネルギ
ーに関しては完全に自給するつもりである。風力発
電所のほとんどは、EHN(ナヴァル水力発電事業)の
代わりとして建設された。そのほかの地方でも似た
ような産業発展計画があり、2012 年までの期間にこ
れらの計画が達成された場合の総容量は、11,500MW
以上になる。ヴァレンシア地方が発表した最新の計
画では、2,000MW の容量が潜在していると見込まれ
る 15 ヶ所に開発特権を与えている。
各地で環境への関心の度合により、異なった現象
佐藤建吉
が浮かび上がってきた。ナヴァルでは初期段階での
建設場所の選定の際、環境負荷を重要な評価基準の
一つに加えた。ガルシアやカスティリアでは環境へ
の影響といった問題を十分に取り組んでいなかっ
たため、組織対住民の争いに至ってしまった。カタ
ルーニャではこういった争いへの取組み方の決め
手を考える機会は生まれたけれども、風力発電計画
は遅々として進んでいない。
財政的確実さ
風力開発におけるこのようなスペインの取組み
は、他のヨーロッパの国々とは様相が異なっている。
ほとんどの風力発電所は大規模で、発電事業は電力
会社・地方政府・風車メーカーからなる共同体から
の投資によって建設されている。スペインは、2,3
年で 1,000MW 以上の規模に達する計画をもっている
世界でも大きな風力開発会社、Energias Eolicas
Europeas を誇らしく思っている。同社は、EHN と
Ilerdrola との共同ベンチャー会社である。2001 年
には同社は、カスティリアのラマンチャで 31 の風
力発電所を建設するのに 8 億ドルの記録的な取引を
行った。
スペイン市場の大きな特徴の一つに、財務当局が
自信を持って介入してくることが挙げられる。法律
では現行の奨励金支給の継続期間が規定されてい
なが、大手銀行は風力事業に積極的に資金融資を行
う。競争が激化すれば、金利が下がりさらに有利な
状況になる。
主な技術的問題としては、送電線網が整っておら
ずいくつかの地域では風力発電所までの何 km に及
ぶ送電線網を敷設する必要があることが上げられ
る。この問題は、送電線網を整備して利益を得る開
発業者間で費用分担する協定を結ぶことで解決し
ている。小規模業者は送電線管理会社と協定を結ぶ
実質的な困難を余儀なくされている。多くの場合、
送電線管理会社、特に独立系事業会社の場合はなお
さらであるが、新規風力事業者の参入をきらい、参
入を妨げたり遅らせたりして独占しようとしてい
る。アラゴン地方では送電線網への参入の困難を克
服するための拘束力あるシステムを導入している。
[本文 21 ページ]
スペインは、2001 年中には再び急成長し、風力
発電量が 3,550MW に達し、ヨーロッパで第 2 位
を維持している。
連載
Wind Force 12 の全訳
オフショア―新たな道を拓く
世界の風力産業界は、沖合で新たな道を切り拓い
ている。北ヨーロッパだけで 10 以上の国の沖合に
20,000MW 以上の風力発電が計画されている。ゆくゆく
は、この新たなオフショア事業には、石油・ガス火力発
電会社も、地元で参入することになるだろう。
オフショアに展開する第 1 の理由は、海上では風
速がより高く、より予測しやすいことである。海面
から高さ 60m での平均風速は 8m/s あり、構想され
ている北部ヨーロッパ海域では、潜在エネルギーが
高いと見込まれている海岸部よりさらに 40%余計に
エネルギーを供給できると予想されている。
オフショア風力発電所の第 2 の利点は、海岸から
はほとんど見えないくらい離れた沖合に立地する
ことにより、景観への影響をできるだけ少なくする
ことが可能なことである。
だがその反面、海上に建設する計画では一般的に
余計な費用がかかる。オフショア風力発電所は、海
底にしっかり固定された強固な基礎の上に設置さ
れなければならない。陸地へ電気を送るためには、
相当な長さのケーブルが必要である。建設もメンテ
ナンス作業も、特殊な船と装置を使い穏やかな天候
の日に行わなければならない。しかしオフショア風
力発電産業においても、需要が高まるとともに、陸
地と同様に電力コストが下がり、より安い標準部品
や設備に切り換えられるようになるだろう。
大規模事業計画
風力産業の一部の事業計画は、スケールメリット
と単位発電コストの削減が図れ、収益増が望めるこ
とになる大型化プロジェクトへと移行している。ド
イツで沖合に計画されたいくつかは、例えば総容量
1,000MW 以上の導入をうたっている。ここで、オフ
単機出力が 2MW から 5MW の範囲で、海上での過酷な
気象条件に耐えられるよう設計された風車が、オフ
ショア風力のニーズに応えるために製造されてい
る。同時に、多数の専門会社が、その建設・設置・
営業販売に参入している。
オフショア導入競争で最先端を走っているのは
デンマークであり、すべてのオフショア風力発電容
量 100MW のうち半分を占めている。今年、デンマー
クの北海沿岸から 14〜20km 離れた Rev 岬沖合に世
界最大のオフショア風力発電所が建設されている。
2MW 風車を 80 機、合計 160MW の規模である。同じ規
佐藤建吉
模の開発が、バルト海の Rodsand 沖で 2003 年から
建設が始まる計画がある。
しかし、デンマークの計画はドイツにすぐに追い
抜かれるであろう。10 数以上の企業や共同開発事業
体が、ドイツ沖に 12,000MW を超えるオフショア風
力発電所を提案している。これは沿岸の自然保護区
域を避けるため、沖合 60km で水深 35m の海域に計
画されている。北海の Borkum 島沖での 1,000MW 規
模の第 1 次開発のパイロットとして、60MW の建設許
可が 2001 年に海事局より下りている。
助成金
ドイツ政府の目標は、2025 年までにオフショア
風力発電で 25,000MW をまかなうことである。これ
によって、国の電力需要のおよそ 15%が満足できる
だろう。再生可能エネルギー法のもとで、2006 年以
前に始まったオフショア計画では、助成金が支出額
に応じて従来の 5 年間に対して 9 年間以上与えられ
る。
ほかにオフショアの計画が進んでいるヨーロッ
パの国は、オランダ、ベルギー、アイルランド、ス
ウェーデン、イギリスである。スウェーデンはこれ
まで、バルト海入口に 86MW という最大の計画に許
可を出した。ベルギーは 100MW の計画を準備してい
る。一方、アイルランドが最近、単独の事業で 520MW
もの大規模開発に許可を出している。イギリスでは、
18 の資本団体が、少なくとも総潜在容量 1,500MW
の沖合数カ所でのオフショア風力発電の調査権が
与えられている。
オフショア開発は長いリードタイムや動植物へ
の詳細な調査期間が必要であることを考えると、こ
れらの計画が本格的に動き出すのは 2003 年以降に
な る だ ろ う 。 最 終 的 に は 、 水 深 が 35m 以 下 の
150,000km2 の海域がオフショア風力発電に利用で
きると予想されている。これが実現できれば、現在
のヨーロッパの電力需要の全てをまかなうことが
できるだろう。
[以上、本文 22 ページ]
ドイツ政府の目標は、2025 年までに海上風力
発電で 25,000MW をまかなうことである。これに
よって、国の電力需要のおよそ 15%を満足でき
るだろう。
(以下,次号につづく)