携帯電話端末の回収とその効率化に関する検討 A Study

携帯電話端末の回収とその効率化に関する検討
A Study on Collecting Waste Cellular Phones for Reusable Rare Metals
梅澤 光希(流通経済大学大学院)、増田 悦夫(流通経済大学)
Mitsunori UMEZAWA(Ryutsu Keizai University)、Etsuo MASUDA (Ryutsu Keizai University)
要旨
貴金属やレアメタル(希少金属)の今後の安定した調達に向け、ほとんど使われずに自宅などに置かれている未回
収携帯電話端末の回収が期待されている。業界団体、通信事業者、メーカ、販売店、国や地方自治体などによる回収
率向上に向けた取組みが活発化しているが今のところ思うようには進んでいない。
本論文では携帯電話端末の回収とその効率化に関する検討を行った。具体的には、回収の取り組み状況、回収実績、
未回収状態端末数の増加状況を示すとともに、回収拠点に出された端末だけでなく利用者宅に置かれた端末も含めて
効率良く回収し得るシステム案を提案し更に今後の具体化に向けての課題を示した。
Abstract
The collection of the waste cellular phones put on user houses is important study subject for the future steady
procurement of precious metals and the rare metal. In this paper, we have firstly investigated the present status
and pointed out the study subjects, and proposed the basic system which can efficiently collect waste cellular
phones put both in the collecting places (boxes) and in user houses.
1.まえがき
の一環として検討が行われている。検討の報告
携帯電話端末には金、銀などの貴金属の他に、
書(1)では、携帯端末回収の必要性、リサイク
LED、コンデンサ、バッテリ、液晶部分などに
ル費用と効果の関係、リサイクルなどに関する
20 種類程度のレアメタル(希少金属)が使用さ
海外も含めた取り組み、端末を手放さない利用
れている。産出国は中国、ロシア、南アフリカ
者への対応、今後の推進策などが整理されてい
等であるが、BRICsからの需要が増したため安
る。また、文献(2)(3)では、使用済み携帯
定した調達が難しくなってきた。このため、使
電話に関する利用者行動の調査・分析結果など
用済み端末の回収が重要な課題となっている。
が示され携帯電話リサイクルのために回収の
携帯電話端末の回収は、これまで民間の業界
必要性が強調されている。
団体、通信事業者や端末メーカなどの携帯関連
本論文では、これまでの関連研究の状況を踏
業者、政府・地方自治体などによって進められ
まえ今後に向けての回収方策について検討を
てきているが、ここ数年、回収実績は減少傾向
行う。まず、関連業者や行政の取り組み状況、
にあり、出荷台数の 10%台に留まっている。
端末の回収状況、利用者の手元に置かれた未回
本論文では、携帯電話端末の回収率の改善を
収状態の端末数の状況などを整理するととも
課題に取り上げ、課題の解決に有効と考えられ
に、回収量の拡大を図るための課題やその解決
る方策の提案を狙いとしている。
に向けての方策を提案する。
携帯端末の回収に関しては、2008 年 11 月∼
2 章では携帯電話端末のライフサイクルにお
2009 年 5 月に総務省の「情報通信分野における
ける端末回収の位置づけ、回収の取り組み状況
エコロジー対応に関する研究会」において 3R
と回収実績の推移を示す。続く 3 章では、回収
1
メーカ/通信事業者/販売店
が進んでいない要因の分析、未回収状態の端
末数の拡大状況、拡大防止に向けての課題を
資源
調達
製品化・在庫状態
示す。さらに、第 4 章では回収拠点だけでな
機種変更時
の回収
く回収し得るシステム案を示し今後の具体
化に向けた課題を示す。5 章はむすびで全体
未回収状態
(使用済)
機種変更後の
回収
を総括する。
再資源化処理
の状態
2. 携帯電話端末の回収状況
図1は携帯電話端末の状態に着目したラ
使用状態
(注)
く利用者宅に置かれた端末も含めて効率良
2.1 端末回収の位置づけ
利用者
販売/購入
回収された状態
(回収拠点内)
リサイクル業者
メーカ/通信事業者/販売店/自治体
(注)売れ残り端末の回収があり得るが使用済み品とは異なるため、リサイ
クルのための回収とは区別して扱う。
図1 携帯電話端末のライフサイクル
イフサイクルである。貴金属やレアメタルな
ーク産業協会(CIAJ)により、モバイル・リサ
どの資源が調達・製品化され在庫状態となり利
( 4)
イクル・ネットワーク(MRN)
が構築され、
用者により購入される。利用者は購入した携帯
電話端末を使用状態にする。新規契約者の場合
関連する通信事業者や端末メーカなどと連携
には次の購入あるいは解約まで使用状態とな
した取り組みが積極的に行われてきた。最近で
る。一方、既存契約者の場合は購入機種を使用
は政府も回収の必要性を重視し、審議会や研究
状態にするとともに、それまで使用していた端
会の発足により法整備の検討や回収状況の把
末は回収に出すか、持ち帰るかのいずれかとな
握、回収促進の取り組みなどに乗り出している。
る。回収に出されたものは販売店(回収拠点)
取り組み状況を整理して表1に示す。
などに一時保管され、一方、持ち帰られたもの
2.3 端末の回収状況
(5)
図2に年度毎の端末回収台数(実績)
の推
は利用者宅などにそのまま置かれる。自宅など
に置かれた使用済端末の状態を、図1では「未
移を出荷台数(6)とともに示す。なお、回収台
回収状態(使用済)」と表現している。携帯端
数については、機種変更時のものと機種変更後
末の回収とは、図1において太線で示した 2 つ
のもの(図1の 2 つの太線)が含まれるが両者
を指している。なお、販売店で売れ残った端末
の内訳は明確ではない。回収台数は、2003 年度
の回収も存在し得る
が、これは未使用端
末であり回収後多く
は中古品として再販
売される。使用済み
端末とは異なるため、
リサイクルのための
回収とは区別して扱
うこととする。
2.2
端 末 回収 の 取
り組み状況
表1
携帯電話端末回収の取り組み状況
分類
取り組み状況
民間業 ・電気通信事業者協会(TCA)/情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が、2001年4月、モバイル・リサイクル・
界団体 ネットワーク(MRN)を立ち上げ、以降、端末本体、電池、充電池の自主的回収活動を推進している。
・全国約10400(2008年3月末)の専売店・ショップにて回収を進めている。回収は、通信業者やメーカの
区別なく無償。
・2009年4月時点で、MRNには携帯・PHS業者5社、メーカ16社、販売会社1社が参加している。
通信事 ・MRNに参加している業者が、政府や地方自治体などと連携しながら回収を進めている。
業者・ ・携帯・PHSなどの通信事業者、端末メーカが以前から対応しており、最近では電気量販店(ビックカメ
メーカ等 ラ)も参加、積極的な対応を進めている。
政府
・経済産業省、環境省:使用済み携帯電話のリサイクルを考える合同審議会にて携帯電話の回収・リサ
イクル体制に関する検討を進めている。通信事業者には回収を義務付ける方向。また、端末メーカに
はリサイクルしやすい携帯の開発を義務化する方向で進んでいる。
・総務省:情報通信分野のエコロジーに関する研究会(2008年11月発足)にて検討を行い2009年6月
に報告書を公表している。
・環境省、経済産業省、総務省:自治体、通信事業者、メーカなどと連携して、クールアース・デー(7
月7日)にちなんで約1カ月間の回収促進キャンペーンを実施した。
事業者協会(TCA)
自治体 ・東京都、その他各都道府県、市区町村で取り組みが進行している。
・東京都では2008 年10 月から2ヶ月間、MRN や区市町村と連携し、地下鉄駅・大学・庁舎など都内
20 カ所に回収箱を設置し、端末の回収実験を実施。さらに、都民の意識や行動実態についてアン
ケート調査も実施した。
と情報通信ネットワ
その他 ・リサイクル業者(横浜金属、DOWAなど)や物流会社(NTTロジスコなど)などがビジネスとして携帯
電話のリサイクルや回収を進めている。
2001 年に電気通信
2
以降減少しており、2008 年度は 2001 年度
(1311 万台)に対し半分以下(617 万台)し
か回収できていない。出荷台数の 10%台の回
収率である。
3.未回収状態端末数の拡大と当面の課題
3.1 使用済端末を手放さない理由と考察
利用者が使用済み端末を手放さない理由
は、アンケート調査などにより除々に明確に
なってきている(例えば、文献(7)の資料
図2 端末の出荷台数と回収台数
105 などを参照)
。これまでの調査結果を踏ま
に分けて以下に示す。
え著者らなりに整理した手放さない理由を、
(1)使用済み端末数の算出
図3に示す。即ち、機種変更の際などに持ち帰
携帯電話の契約数(t)
(即ち、t 年度の契約数)
る理由としては、
(1)出したくない、
(2)出し
は、契約数増(即ち、契約数(t-1)からの増加
てもよいが出しにくい事情がある、
(3)出す機
分)を用いると、
会を逸した、という 3 点に整理できると考えら
契約数(t)
れる。
=契約数(t-1)+契約数増(t)
このうち(2)に含まれる理由は使用済み端
となる。ここで、
末に搭載された機能や保存されたデータの扱
契約数増(t)
いに関係し、最近の携帯電話の多機能化、高性
=新規契約数(t)−解約数(t)
能化、長寿命化などの傾向と深く関連している
・・・・・②
携帯端末の出荷台数(t)(即ち、t 年度の出荷台
と考えられる。回収台数の年毎の低下は携帯電
数)が、新規契約数(t)(即ち、t 年度の新規契約
話のこのような動向にもよると考えられる。
数)及び機種変更数(t)(即ち、t 年度の機種変更
なお、回収の容易性については、
(1)は難し
数で既存契約数の一部)に充てられるとすると、
いが(3)は容易と考えられる。(2)は通信事
出荷台数(t)は
業者や端末メーカの努力で新機種への移行や
出荷台数(t)
個人情報の無効化が容易となれば回収も難し
=新規契約数(t)+機種変更数(t) ・・・・・③
くはないと思われる。
3.2
・・・・・①
となる。
未回収状
態端末数の拡大
状況
使用済み携帯
電話を手放さな
いことによる未
回収状態端末数
の拡大状況を使
用済み端末数の
算出とそれに基
づく未回収状態
端末数の算出と
回収の容易性
×∼△
【手放さない理由】
(1)出したくない
①愛着がある
②自分のものだから(自分で所有していたい)
(2)出してもよいが出しにくい事情あり−−△
①ソフトを新しい方へ移行できない
②保存データ(住所録・予定表など)を継続
利用したい
③カメラ・ゲーム機機能などを継続利用したい
④個人情報の漏えいが心配
⑤まだ使えるのでもったいない、予備として
持っていたい、子供のおもちゃとして
(3)出してもよいが出す機会を逸した−−−○
①回収に改めて出すのは面倒
【最近の携帯電話の特徴】
(1)多機能
①電話、インターネット、メール
②その他色々:カメラ、ワンセグTV、
音楽プレーヤ、ゲーム、GPS、
電子マネーなど
(2)高度な機能
①各種データファイル(テキスト、
静止画、動画、音楽など)
の保持
②ネットワークとの連携
(3)高性能・高信頼
①高速転送
②豊富なメモリ容量
③長寿命(故障しにくい)
図3 手放さない理由と携帯電話機能等との関連
3
踏まえ、当面の基
本的課題として、
表3に示す 4 点を
挙げることができ
る。
表3の課題(1)
については、イベ
以上より、
回収候補となる使用済端末数(t)(即
ントやキャンペーンなどを通して取り組みも
ち、t 年度における使用済端末数)は、
強化されつつあるが効果が十分には表れてい
使用済端末数(t)
ない。現時点の取り組みに加え、他の課題の検
=機種変更数(t)+解約数(t)
討状況も示しながら多面的に粘り強く対応し
=出荷台数(t)−新規契約数(t)+解約数(t)
ていくことが必要と考えられる。
=出荷台数(t)
表3の課題(2)や(3)は、近く回収の義務
−{新規契約数(t)−解約数(t)}
=出荷台数(t)−契約数増(t)
化も想定されることから早期の検討が必要と
・・・・・④
考えられる。が、現時点での検討はあまり進ん
で算出することができる。
でいない。回収された端末に含まれる金属の価
(2)未回収状態端末数の導出
値は 100 円程度との見積りもあり(1)、通信事業
従って、未回収状態端末数(t)(即ち、t 年度に
者や端末メーカなどには費用負担を極力小さ
おいて使用済みとして利用者の手元などに置
くできる効率よい業者間連携(共同)による回
かれている未回収状態の端末数)は、回収実績
収システムの構築、回収を支援する携帯端末の
(t)(即ち、
t 年度に回収された端末数)
を用いて、
開発が求められる。
未回収状態端末数(t)
表3の課題(4)については、経済産業省や
=使用済端末数(t)−回収実績(t) ・・・・・⑤
環境省が具体的な検討に入っており、通信事業
となる。ここで、利用者は使用済み端末を自ら
者や端末メーカなどに何らかの義務が近いう
廃棄することはしないものと仮定した。
ちに課されるものと思われる。海外、特に EU
表2に未回収状態端末数の算出に関連する
の主要国では、WEEE 指令に基づいて製造業者、
数値および算出結果を示す。表2において契約
地方自治体、小売業者などに回収義務が課され
数、契約数増、出荷台数、回収実績が実データ
ている(1)(7)。
であり、これらを基に算出された値が網かけ部
本論文では、上記の課題のうち、現時点であ
分の使用済数、未回収端末数、および
その累積である。
図4に年度毎の未回収状態端末数
累積(02年度∼)
とその 2002 年度以降の累積をグラフ
で示す。図4に示すように回収に出さ
れず未回収状態となっている端末数
の累積がコンスタントに拡大を続け
ている。
3.3 回収率改善に向けての課題
回収率を高めるために積極的な対
応が望まれる。3.1 節の理由や考察を
図4 未回収状態端末数とその累積(02年度∼)
4
まり検討の進んでいな
表3 回収拡大に向けた当面の課題
い課題(2)を取り上げ、
No
効率的な携帯端末回収
(1)
回収に対する利用者意識の向上
・回収率向上のために利用者の協力が必須であり、意識
の向上に対する取り組みが必要
システムとしてどんな
ものが望ましいかにつ
(2)
効率的回収システムの構築と運用
担当
検討状況
・携帯/回収関連業者
・国/自治体
◎
・携帯/回収関連業者
△
・携帯関連業者(通信事
業者/端末メーカ)
△
・国
○
・端末あたりの金属価値は100円程度と小さく、関連業者
協働による効率的回収システムの構築・運用が望まれる
いて検討を行う。
(3)
回収に対応しやすい携帯端末の開発
・利用者サイド、業者サイドの双方にとって、回収に対応し
やすい端末の開発
4.効率的回収システム
(4)
の検討
回収などを義務化する法の整備
・現状、小型家電のリサイクルに関する法令がなく、未回
収端末は増加の一途。法的な規制が必要な時期となりつ
つある。
回収の進んでいない
現状を考慮すると、業
課題項目
検討状況の意味 ◎:かなり進んでいる、○:進んでいる、△:あまり進んでいない
者側の検討による回収
るため回収ロットを極力大きくした効率的な
システム案を利用者へ積極的に提案していく
システムの構築が必要となる。そのため、通信
ことが必要と考えられる。
事業者、端末メーカ、販売業者が連携し、自治
4.1 回収システム案の検討
体などの協力も得た上での共同化が望ましい。
システム案の構築に向け、明確化すべきシス
販売店が回収拠点の場合は製品納品後の帰り
テム条件、検討上の前提条件、システム構成案
便を利用し個別回収する方法も効率的と考え
を示す。
られる。ただ、自治体などとの連携も考慮し
(1)明確化すべきシステム条件
た場合、コンビニや駅など販売店以外の拠点
①明確化すべき回収システムは使用済み端末
も存在し得る1。個別回収の併用も考慮する必
を回収しリサイクル業者へ渡すまでのシステ
要があるが、第 1 段階の検討として、販売店
ムとする。
以外の拠点も含めた業者間連携による回収シ
②すべての利用者が機種変更時に使用済み端
ステムをまず明確にする。
末を回収に出してくれれば、回収拠点(販売店、
(2)検討上の前提条件
コンビニ、他)からの回収のみを考えればよい。
①リユースの扱い
しかしながら、携帯電話の多機能化、高性能化
使用済み携帯を中古品と
してリユースする場合の引取もリサイクルに
により、使用済み端末を機種変更時に出さない
含めて扱い、集荷後にリサイクル用とリユース
利用者も多く残ると想定される。むしろ、機種
用とに仕分けるものとする。
変更時の回収はほとんどなく機種変更後の回
②端末回収のリードタイム
収が大半を占めると予想される。このため、
「回
リードタイムを
「回収可能となった時点(即ち、機種変更時あ
収拠点に集められた端末」だけでなく、「利用
るいはその後の自発的持ち込みによって回収
者宅に置かれている未回収状態の端末」も含め
拠点に出された時点、あるいは業者の呼びかけ
た効率よい回収システムの構築を条件とする。
等に応じて利用者が未回収状態端末の引取依
即ち、図5の点線で示すように、回収拠点をバ
頼を行った時点)からリサイクル業者へ届けら
イパスして直接集めることもシステム構築の
れる時点まで」と定義した時、リードタイムに
条件とする。
関する条件は明確ではない。リユースのための
③回収の責任を負う可能性が高い携帯関連業
者(通信事業者・メーカ・販売業者)にとって
1
プリンタメーカなどの連携による「インク
カートリッジ里帰りプロジェクト」があり、
そこでは郵便局が回収拠点となっている。
費用負担を極力抑えたシステムを構築する。回
収される端末あたりの金属価値はわずかであ
5
メーカ/通信事業者/販売店
資源
調達
製品化・在庫状態
利用者
販売/購入
使用状態
(利用者が携帯)
討などを通してこの
種の需要を掘り起こ
し顕在化させていく
ことが回収率拡大の
検討対象
未回収状態
(利用者宅内)
考えられる。例えば、
配送拠点
再資源化処理
の状態
リサイクル業者
ための重要な課題と
通信事業者の製品サ
回収された状態
(回収拠点内)
イト上でのインター
通信事業者/メーカ/販売店/自治体
ネット広告、電子メ
ールや TV などの媒
図5 回収システムの検討対象範囲
体を活用した広告、
引取りも含めて扱うことから、ここでは、暗に
ポイント制の導入などにより回収への協力を
1 ケ月∼3 ケ月程度と想定する。
呼びかけ、賛同した利用者からの情報に基づい
(3)回収システムの構成案
て利用者宅にて引き取る形態が考えられる。利
回収拠点内および利用者宅内にある使用済
用者によっては、回収拠点が近くに存在しな
み端末の集荷・配送に着目した検討を行う。
い場合、存在してもそのための時間を使いた
①回収拠点内の使用済み端末の集荷・配送
くない場合も存在すると考えられる。回収量
これは機種変更時あるいは変更後に回収拠
を増やす観点から、次の 4.2 節に示すオーバ
点へ自主持ち込みされた使用済み端末が集
ヘッドが問題とならない範囲での利用者宅か
荷・配送の対象となる。位置の固定した回収拠
らの回収も考慮するのが望ましい。
点からの集荷は、業者間の連携、配送計画がし
このケースの集荷・配送として、上記①のケ
やすいと考えられ、かつリードタイムの条件も
ースとは独立に、利用者からの引き取り依頼に
厳しくなく集荷ロットを大きくできる余地が
応じて駆け付けるオンデマンド集荷方式(8)も
あることから、定期的巡回による集荷・配送方
考えられるが、端末 1 台のための駆けつけは費
式が効率的と考えられる。回収のための巡回車
用対効果の面で禁止的である(4.2 節の評価結
(あるいはバイク)が、定期的に(毎週、隔週、
果を参照)。大ロット化という業者間連携のメ
毎月、隔月など)、回収拠点を巡回し、使用済
リットも出にくい。そこで、この対策として、
み端末を集荷する。効率的な実現案として、例
上記①のケースの巡回方式の巡回タイミング
えば、宅配便業者などと協業し、その取扱店を
に同期させ巡回ルートの中に依頼者宅を一時
回収拠点にして、巡回回収するという案も考え
的に組み込む方式が有効と考えられる。類似の
られる。どのような間隔で巡回するかは機種変
システムとして、Web 経由で集荷依頼を受付け
更時あるいは変更後の回収拠点への自主持ち
利用者宅にて集荷を行う宅配便サービスも実
込み端末数の状況、集荷費用などのデータを基
運用されており、これに近い形での実現が考え
に決める必要がある。
られる。
②利用者宅内の未回収状態端末の集荷・配送
以上より、上記①と②の集荷・配送を実現す
これは、利用者宅内に保管され自主持ち込み
る基本的システム案を図6に示す。
されないが回収に出してもよい使用済み端末
4.2 利用者宅引取に伴うオーバヘットの評価
を対象とした集荷である。この種の需要がどの
利用者宅からの回収依頼に対し、
(a)巡回ル
程度存在するか明確ではないが潜在需要とし
ートに組み込まない個別引取、と(b)巡回ル
て大きいと考えられる。表3の課題(1)の検
ートに組み込んで引き取る巡回組込引取(提案
6
方式)の 2 ケースに
通信業者サイト
(ネット広告経由など)
ついて引取のための
配送拠点
(宅配便/バイク便など)
オーバヘッドを基礎
②受付
的なモデルにより評
価する。ここで、オ
ーバヘッドは利用者
⑤巡回から
の戻り
宅引取を行うことに
より通常の巡回の場
合よりも余計に走行
携帯関連業者
①´引取依頼
(引取関連情報)
①´巡回への組み込
み依頼(関連情報)
インターネット
④巡回へ出発
回収拠点1
①引取依頼
(引取関連情報)
回収拠点n
利用者宅
③巡回拠点へ組込
・販売店
・コンビニ
・他(駅など)
通常の定期的な巡回
回収拠点2
する距離とした。
巡回拠点に
一時組み込み
・・・
図7に評価モデル
を示す。半径 10km の
図6 利用者宅を必要に応じて巡回拠点に組み込む方式案
エリアを配送拠点が
分担するエリアと考え、中央に配送拠点(回収
4.3 今後の具体化に向けた課題と考察
拠点も兼ねる)
、周囲 6 箇所に回収拠点が設置
(1)業者間の連携方法
効率良く回収するためには、携帯電話の機種
されている。回収拠点間の距離はいずれも 5km
とする。回収のための巡回は配送拠点を出発し、
を問わず、携帯電話会社、端末メーカ、販売店、
矢印(→)の順に行われる。×印が利用者宅で
配送業者などが連携したシステム運用が必須
あり、引取依頼が発生した場合、
(a)の個別引
となる。MRNを中心に自治体が支援する形で
取では、現実的ではないが、配送拠点−利用者
システム運用が図れるようになるとよいので
宅間を往復して回収し、
(b)の巡回組込引取(提
はないかと考えられる。
案方式)では、最寄りの 2 つの回収拠点が選ば
(2)リードタイムの条件の明確化とそれに基
れ、破線の矢印のような巡回ルートとなる。利
づく巡回間隔の明確化
提案方式の費用対効果を評価するには、回収
用者宅はエリア内に一様に分布し任意の利用
リードタイムの条件と使用済み端末を保持す
者から引取依頼が発生するものとする。
最初の 30 人の引取依頼に対しオーバヘッド
る利用者の行動が明確になっている必要があ
を評価した結果を図8に示す。一人分引取のオ
る。携帯関連業者からすると、リードタイム条
ー バ ヘ ッ ド は 、( a ) 方 式 で は 平 均 12.4km
件の下での費用対効果が最大となるように回
(=372/30)となるが、提案方式の(b)方式で
収拠点間の定期巡回の間隔を決める必要があ
は平均 2.7km(=81/30)で済む。基礎的なモデ
る。しかしながら利用者の行動には不確定なと
ルでの結果であるが、現実のモデルでも方式間
ころがあり、業者や自治体などの今後の対応の
の傾向は同様と考えられる。
仕方にもよるため、巡回の間隔は適応的(アダ
プティブ)とする方式
◇
×
◇
◇
◇
(0,0)
◇
◇
5km
10km
円内:回収エリア。半径10kmの円と想定。
×:引取依頼の利用者宅(エリア内に任意に分布)
◇:回収拠点(販売店など。簡単な比較評価のために、
図の位置に合計6か所と想定)
■:配送拠点(回収拠点も兼ねる。エリアの中央に存
在。通常は→の順に回収拠点を巡回、引取依頼の
利用者が発生すると
のように組込み
を指向せざるを得ない
のではないかと考えら
れる。
(3)個人からの引取依
頼の潜在需要の掘り起
こしと巡回ルート組込
図7
提案方式の評価モデル
方法の明確化
7
表3の課題(1)に関連
し、インターネットや携帯
個別引取
(累積)
電話などの IT 機器を利用
した回収依頼広告の活用
などが需要の掘り起こし
に有効ではないかと考え
巡回組込引取
(累積)
る。また、組込方法につい
ては、リードタイムの条件
の範囲で費用削減を図る
巡回組込引取
個別引取
方向での検討が必要と考
えられる。
(4)リユースのための
引取りとの整合性検証
図8 個人宅からの携帯引取に要するオーバヘッド(走行距離)
参考文献・サイト
携帯電話端末の多機能化、高性能化、長寿命
化などにより中古品として再利用が考えられ
(1)総務省:移動電話端末のリサイクル等の推進、情
環境調和の面からも望ましい。そのため、リサ
報通信分野におけるエコロジー対応に関する研究
イクルのための回収だけでなくリユースのた
会報告書 第三部、H21.6.2、http://www.soumu.go.jp/
めの回収も割合が増していくと想定される。こ
main_content/000016923.pdf
の点から、今回提案のシステムについて両者を
(2)村上進亮:グローバル化する循環型社会を見据え
一緒に扱うことが有効か否かについての検証
た携帯端末リサイクルシステムの在り方、
を含めた検討が必要になると考えられる。
http://www.moba-ken.jp/wp-content/pdf/shiryo_muraka
mi_0903.pdf
(3)村上進亮、他:携帯電話の寿命及び退蔵動向の調
5.むすび
以上、本論文では携帯電話端末の回収とその
査とストック量の推定、日本 LCA 学会誌、Vol.5、
効率化に関する検討を行った。即ち、回収の取
No.1、2009 年 1 月
り組み状況、回収実績、未回収状態端末数の増
(4)モバイル・リサイクル・ネットワーク、http://
加状況を整理して示すとともに、回収拠点に出
www.mobile-recycle.net/
された端末だけでなく利用者宅に置かれた端
(5)平成 20 年度携帯電話・PHS におけるリサイクル
末も含めて効率良く回収し得る基本的システ
の取り組み状況について|プレスリリース|社団
ム案として、回収拠点の巡回を基本とし更に個
法人 電気通信事業者協会(TCA)
、
人利用者宅を一時的に巡回拠点に組み込む方
http://www.tca.or.jp/press_release/2009/0721_321.html
式を新たに提案し、今後の具体化に向けての課
(6)2008 年度の携帯電話出荷台数が過去最低を記録、
題を提示した。
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,
携帯電話端末の回収及びそのリサイクルに
20392160,00.htm
ついては、取り組みが強化されているものの今
(7)総務省:
「情報通信分野におけるエコロジー対応に
のところ十分満足のいく成果が得られていな
関する研究会」報告書の参考資料、http://www.
い。未回収のまま家庭内などに埋もれている端
soumu.go.jp/main_content/000024710.pdf
末の掘り起こしの強化と並行して回収を容易
(8)澤邊佳代子,増田悦夫:オンデマンド・リアルタ
とするシステム構築の検討をさらに進めてい
イム集荷型配送の特性と導入に関する検討、本学
く必要があると考えられる。
会誌、No. 15, 2007 年
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