ニーズの掘り起こしを起点とした提案型ソリューションの仕組み 株式会社イシダ 田 尻 祥 子 積水ハウス株式会社 中 道 隆 明 Hitz 日立造船株式会社 杉 本 巖 生 理研ビタミン株式会社 松 本 吉 史 レンゴー株式会社 田 中 章 雄 Ⅰ.研究の背景 研究テーマを設定するにあたり、メンバーが自社分析を行ったところ、次のような問題点が抽 出された。 ・㈱イシダ:新規市場の開拓が必要であるが、顧客のニーズが的確に捉えられていない ・積水ハウス㈱:顧客のニーズを超える高い提案力が求められている ・Hitz 日立造船㈱:価格競争に巻き込まれやすく、顧客の御用聞きになりがちである ・理研ビタミン㈱:業界は飽和状態にあり、製品の差別化が困難である ・レンゴー㈱:外部要因による変動が激しく、市場は成熟している 各社に共通する課題としては、いずれも市場が飽和状態にあり、製品の改良・改善だけでは差 別化が困難になっていることがあげられる。その結果として、継続的な成長が見られず、利益率 が低いという現状があった。 Ⅱ.仮説の設定 このようなメンバーの状況に対して、成熟市場の中にあっても何らかの工夫により成長してい る企業も見受けられた。例えば、自転車部品メーカの㈱シマノは、消費者が参加できる自転車大 会を開催し、認知度を高めると共にニーズの掘り起こしにつなげている。さらには、有名選手と の共同開発で性能・機能を高め、自転車メーカへの部品供給を独占することができている。また、 ㈱島精機製作所は、単に横編機製造に留まらず、自社横編機ならではのデザイン提案を行うため に、直接の顧客企業であるニットメーカをはじめ、デザイナー、アパレル業などとのコミュニケ ーションの場として、アプリケーションセンターを設けて活用している。 このように様々な企業を調べる中で、製品の改良・改善以外に、ニーズの掘り起こしや付加価値 創造を行うことが、企業の成長に寄与している例があることに気づいた。 ここから次のような仮説を設定した。 仮説:ニーズの掘り起こしを起点とした提案型ソリューションを作り出す仕組みがある企業は 業績が良い。 ここで提案型ソリューションを『消費者や顧客企業のニーズを掘り起こし、その視点を重視し、 製品の改良・改善に留まらない+αを提案すること』と定義し、業績に関しては、収益力を示す 『売上高営業利益率』と、生産性の指標である『従業員一人当たりの営業利益額』に着目した。 Ⅲ.仮説の検証 表 1 に示すように、着目企業としてケーススタディ企業から 8 社、訪問企業を 4 社選定した。 主な着目理由は、住友金属工業㈱の SMICAT といった『アプリケーションセンター』がある点、あ るいはプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン㈱に代表される消費者ニーズの掘り起こし方 に特徴がある点などである。 表1 1. 調査項目 (1)ニーズの掘り起こし 企業名 訪問企業 調査項目には(1)∼(3)を設定した。 消費者の声や顧客企業の声をつか (2)提案型ソリューションの仕組み 提案の仕組みやそれを活用して生 まれた製品やサービスの具体的な成 功事例、さらに、次の製品開発につ ケーススタディ企業 む仕組みについての調査 着目企業および主な着目目的 なげるフィードバックの仕組みにつ 主な着目理由 住友金属工業㈱ カスタマーアプリケーションセンタ(SMICAT) 小林製薬㈱ 「あったらいいな」に代表されるニーズの掘り起こし方 ㈱島精機製作所 トータルデザインセンター、コミュニケーションスペース タビオ㈱ サプライチェーンマネジメント、テスト販売 住友スリーエム㈱ カスタマーテクニカルセンター(CTC)、顧客訪問の仕組み 日東電工㈱ テクニカルサポートセンター、三新活動、提案営業の仕組み テルモ㈱ テルモメディカルプラネックス、テルモビジネスユニット(TBU) 不二製油㈱ フジサニープラザ TOTO ㈱ 専任マーケッター プロクター・アンド・ Home Visit(消費者のリサーチ) ギャンブル・ジャパン ㈱ 日本ゼオン㈱ 先見性を持った未来予測、産官学協業 オムロン㈱ 京阪奈イノベーションセンター いての調査 (3)アプリケーションセンター 表2 設立目的や時期、それを活用して 成功事例についての調査 2. 調査結果 表 2 のように、着目企業の仕組み とそれを活用した提案型ソリューシ ョンの具体事例が得られた。 3. 着目企業の業績 着目企業から提案型ソリューショ ンの成功事例があると考えた企業に ついて、業績の評価を行った。 ニーズの掘り起こし方法/ 提案型ソリューションの具体例 提案の仕組み SMICAT 熱間成形技術を用いた自動車用部材 アイデアダイアリー 熱さまシート トータルデザインセンター ホールガーメント インクジェットプリント ソックス テスト販売 企業名 生まれた製品やサービスの具体的な 調査結果 住友金属工業㈱ 小林製薬㈱ ㈱島精機製作所 タビオ㈱ ブラックアウトフィルム 家電製品の吸音材 住友スリーエム㈱ 顧客企業密着 CTC 日東電工㈱ テルモ㈱ 三新活動・提案営業 ウェハ固定用熱剥離シート テルモメディカルプラネックス 高機能カテーテル 不二製油㈱ フジサニープラザ TOTO ㈱ 専任マーケッター ティラミスチョコレート (近年は見出せなかった) (見出せなかった) プロクター・アンド・ Home Visit ギャンブル・ジャパン㈱ 日本ゼオン㈱ オムロン㈱ ファブリーズ 先見性と未来予測 ゼオノアフィルム 京阪奈イノベーションセンター (見出せなかった) 図 1 には着目企業の業績と共に、 メンバー企業についても示す。図中 目企業の業界における上場企業の売 上高上位 10 社の平均値である。着目 企業は平均値に対して概ね右上の象 限に位置し、業績が良いことが分か った。 以上より、仮説『ニーズの掘り起 こしを起点とした提案型のソリュー 白抜き ・・・・2003年度(P&Gのみ2002年度) 塗つぶし・・・・2007年度 1200 800 P&G 島精機製作所 日本 ゼオン 小林製薬 3M テルモ 600 平均値 500万円/人 400 積水ハウス イシダ 200 レンゴー 日東電工 理研ビタミン 日立造船 0 0 5 7% ションを作り出す仕組みがある企業 は業績が良い』が検証できた。 住友金属工業 タビオ 1000 生産性 当たりの営業利益額 500 万円は、着 *平均値:着目企業の業界の上場企業の売上高上位10社の平均 1400 営業利益額/従業員数 (万円/人) の売上高営業利益率 7%、従業員 1 人 図1 収益力 10 15 20 売上高営業利益率 (%) 着目企業の業績 25 30 Ⅳ.分析の深掘り 住友金属工業/熱間プレス用鋼材 1. バリューチェーン分析 原料 メーカ さらに、着目企業のニーズ の掘り起こし方、提案型ソリ ューションの仕組みのエッ センスを抽出するため、各企 部品 メーカ 自動車 メーカ 日本ゼオン/ゼオノアフィルム 産官学協業 販売店 消費者 原料 メーカ APC 位置付けを分析した。図 2 に 結果を示す。 住友スリーエム/ブラックアウトフィルム 原料 メーカ 部品 メーカ 自動車 メーカ 販売店 消費者 販売店 島精機製作所/ホールガーメント 消費者 原料メーカ ニット メーカ デザイナー 販売店 消費者 APC 自動車メーカの工場に入り込む顧客企業密着の活 動が特長 日東電工/ウェハ固定用熱剥離シート 原料 メーカ 半導体 メーカ 電機 メーカ 販売店 消費者 部材 メーカ 2. 提案型ソリューションの APC 編機製造 メーカ 契約デザイナー トータルデザインセンター活用で自社機ならではの 製品の発信が特長 APC 顧客企業現場に入り込む顧客密着の活動が特長 仕組みの分類 電機 メーカ カスタマーアプリケーションセンタ(SMICAT)活用で 未来予測に基づく産官学協業で顧客企業に先行提 製品技術利用の発信が特長 案が特長 業の具体的な成功事例に注 目し、バリューチェーンでの 部品 メーカ :アプリケーションセンター :自社製品の流れ :情報・サービスの流れ :消費者に届く製品の流れ 次に、提案型ソリューショ ンの仕組みと製品の関連性 について分析を行い、図 3 に タビオ/靴下 原料 メーカ ニッター 不二製油/ティラミスチョコレート 物流 センター 販売店 消費者 原料 メーカ 食品製造 メーカ 示す通り、以下の 2 つの切り 口で整理できることがわか った。 販売手法を活用した情報の共有化が特長 原料 メーカ 日用品 メーカ 油脂メーカ フジサニープラザ活用で、顧客企業密着が特長 販売店 消費者 原料 メーカ 医療器具 メーカ 医療 機関 患者 APC ットが、『顧客企業に対する ものか』あるいは『消費者に 消費者 テルモ/高機能カテーテル P&G/ファブリーズ ①横軸:製品のもたらすメリ 販売店 APC 消費者密着の活動が特長 テルモメディカルプラネックスの活用で、医師と の対等な関係作りの構築(=信頼獲得)が特長 小林製薬/熱さまシート 対するものか』 ②縦軸:製品自体のバリュー 原料 メーカ 日用品 メーカ 販売店 APC チェーンにおける位置が『川 上よりか(原料に近い)』ある いは『川下よりか(最終形態 消費者 消費者密着の活動が特長 図2 :アプリケーションセンター :自社製品の流れ :情報・サービスの流れ :消費者に届く製品の流れ :着目企業 バリューチェーンの中での位置付け に近い)』 図3 製品と提案型ソリューションの仕組みの関係 3. 提案型ソリューションの仕組みの適合性 図 4 に提案型ソリューションの仕組みと製品のポジショニングの適合性を示す。 ①右上の第一象限は、顧客企業への製品の展示・発信に留まらない、消費者ニーズを掘り起こ した製品開発に有効な『消費者ニーズをより意識したアプリケーションセンター活用型』が 適していると考えた。 ②左上の第二象限は、応用範囲が広いため、顧客企業への製品の展示・発信に有効な『アプリ ケーションセンター活用型』、製品開発における不確実性を少なくし、顧客企業ニーズを先取 りした提案が可能な『未来予測に基づく産官学協業型』および、顧客企業の問題点を見つけ ることで、多くの解決方法の提案が可能な『顧客企業密着型』が適している。 ③左下の第三象限は、顧客企業に特化した川下の製品であるため、応用範囲は限られやすく、 顧客企業のニーズの掘り起こしが有効な『顧客企業密着型』が適している。 ④右下の第四象限は、消費者に密着したニーズの掘り起こしが有効な『消費者密着型』、販売店 の売れ筋情報を川上に位置する一連のメーカと共有することが重要で、欠品させず、消費者 が欲しいものがいつでも入手可能となる『サプライチェーンマネジメント型』が適している。 ⑤バリューチェーンが川下でメリットが顧客企業と消費者の双方にある場合には、消費者に密 着した製品の顧客企業への展示・発信に有効な『アプリケーションセンター活用型+消費者 密着型』が適している。 アプリケーションセンター活用型 + 消費者密着型 消費者に密着した製品の顧客 企業への展示・発信に有効 川下 顧客企業密着型 川下に位置する製品は顧客 企業に特化したものであるた め、利用ニーズが限られ、顧 客企業のニーズの掘り起こし が有効 製品のバリューチェーン 製品が 顧客企業にメリット 川上 アプリケーションセンター活用型 利用ニーズが多く、応用範囲が広いため、原料 メーカが顧客企業への製品の展示・発信に有効 未来予測に基づく産官学協業型 製品開発における不確実性を少なくし、顧客企業 ニーズを先取りした提案が可能 顧客企業密着型 川上に位置しているため、顧客企業の問題点を 見つけることで、多くの解決手法の提案が可能 消費者ニーズをより意識した アプリケーションセンター活用型 顧客企業への製品の展示・発信に 留まらず、消費者ニーズを掘り起こ す、製品開発に有効 製品が 消費者にメリット 消費者密着型 消費者に密着して、消費者ニー ズの掘り起こしが有効 サプライチェーンマネジメント型 販売店の売れ筋情報を川上の 一連のメーカと共有することが重 要で、欠品せず、消費者が欲し いものがいつでも入手可能 図 4 提案型ソリューションの仕組みと製品のポジショニングの適合性 Ⅴ.研究の総括 本研究の成果をまとめると以下の通りである。 ①仮説『ニーズの掘り起こしを起点とした提案型のソリューションを作り出す仕組みがある企 業は業績が良い』が検証できた。 ②適切な提案型ソリューションの仕組みは、 『バリューチェーンにおける製品の位置と製品メリ ット』により異なることが見出せた。 ③さらに、顧客が、企業、消費者の何れにおいても活用できる『製品のポジショニングと提案 型ソリューションの仕組みの適合性』のマップを提案した。 以上により、それぞれの製品に適した仕組みを選択することで、製品の差別化が可能になり、 企業の業績向上に寄与すると考える。 以上
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