目次 - 新学術領域研究「分子自由度が拓く新物質科学」

目次
◆巻頭言
鹿野田
一司 (東京大学)
3
◆ 活動報告
A01 班
鹿野田
一司 (東京大学)
4
A01 班の総括
A02 班
小林 昭子 (日本大学)
分子軌道設計による新規電子相の開拓
5
A03 班
宇治 進也 (物質・材料研究機構)
「スピン自由度を利用した電子相制御」を終えて
6
A04 班
岡本 博 (東京大学)
光による電子相制御
7
A05(a)班
矢持 秀起(京都大学)
新しい電子機能を目指した分子内自由度の開発
8
A05(b)班
9
森 初果 (東京大学)
A05(b)班の活動報告と今後の展望
◆ ISSMMD2012への若手派遣
宇治 進也(物質・材料研究機構)
古川 哲也(東京大学)
舟浴 佑典(神戸大学)
杉井 かおり(物質・材料研究機構/筑波大学)
辻本 啓次郎(大阪府立大)
土屋 聡(物質・材料研究機構)
10
◆ 海外若手派遣
高吉 慎太郎(東京大学)
隈本 友樹(富山大学)
宮川 和也(東京大学)
16
◆ 国際会議MDF2012
座長報告
プログラム
22
◆ Tokyo workshop on spin/charge liquids near ordering
42
1
◆ アドバイザーからの言葉
榎 敏明(東京工業大学)
鹿児島 誠一(明治大学)
福山 秀敏(東京理科大学)
44
◆ 参画者名簿
47
2
巻頭言
ついにMDFを閉じる時が来ました。時間というものを実感します。私達の領域は新学術領域
研究制度発足元年に採択され、実質4年余りの研究期間ではありましたが、
「分子自由度」という
物理、化学、実験、理論、そして分野を問わずに共有できるキーワードの基で、一つのベクトル
に向かってというよりは研究の広がりを求めて進んできたと言えるのではないでしょうか。あま
り強く束縛されない、"適度に結びついた研究者集団"がこの研究領域に対する私のイメージです。
結びつきが弱すぎて個人プレーに走ってはグループ研究の意味がありませんが、強すぎると身動
きが取れなくなり多様性の芽を摘む危険性があります。2つの極限の中間に創発が生まれること
は、電子の社会が語ってくれています。
新学術領域は、特定領域研究の後継として発足した制度ですが、理念において大きく異なりま
す。課題を絞って集中投資するのではなく、来るべき新しい学問領域の創成を目指すものです。
5年で新しい領域を作るのは無理です。やるべきことは新しい学問領域にいたる芽を育てること
にあると思います。ゆるい枠の中で個々人に自由な発想で研究を行ってもらい、そこで出た芽を
発展させ応援する。この4年余りの期間で、広い分野で実りがありました。超伝導、強相関物理
学、磁性、半導体科学、光物性、物質開発、新機能、......枚挙に暇がありません。通常、こういう
ことを言うと、総花的過ぎる、成果のポイントは結局何なの?という批判が出ます。しかし、本
領域はそれに当たらないと考えています。それは、これら分野分散的に放射状に発展していくそ
の中心に分子軌道という共通の核があるからです。ばらばらに発展しているのではなく、常に核
を共有しながら(見えない)糸で繋がって発展していると私は考えています。分野間に程よい相
関を持って、各分野が伸び伸びと発展する。これが私が抱いている分子性物質科学であり、物性
科学における分子性物質の立ち位置ではないかと思います。このコミュニテーが明るく健全に成
り立っている最大の理由かもしれません。この4年余りで、分子性物質科学としての基盤が強化
され、決して短期間で終わる花火ではない学問の醸成がしっかりできてきたと思います。次のス
テップに何とか繋げたいところです。
領域アドバイザーの先生には深く感謝いたします。MDFでは、組織としての評価班は設置せ
ず、自由なお立場からアドバイスをいただくという趣旨で、福山先生、鹿児島先生、榎先生、中
筋先生にアドバイザーをお願いしました。ご多忙にもかかわらず、領域会議や国際ワークショッ
プにご出席いただき、ご指導を仰ぎました。この研究分野がこれから進むべき道、社会に対する
本研究コミュニティーの姿勢、世界の中での我が国の研究の位置づけと国際連携のあり方、応用
研究に対する基礎研究の意味づけなど、数々のご助言をいただきました。更なる発展への糧とさ
せていただきます。
最後に、MDF に関わってこられたすべての皆様に感謝して、この最後のニュースレターをお届
けしたいと思います。
MDF領域代表
3
鹿野田
一司
A01 班の総括
鹿野田 一司
A01 班では、分子配列自由度が物性を豊かにする重要なパラメータであるとの認識のもと、様々
な分子配列を持つ物質を対象に物性科学の根幹に関わる問題に実験的及び理論的に取り組むとと
もに、新しい電子相の開拓を目指してきました。参画者は総勢34名。内訳は、計画研究12名
(代表者/分担者3名、連携研究者9名)、公募研究22名(代表者10名、連携研究者12名)。
これに大学院生を含む多数の研究協力者が加わって、実りある成果が生まれたと思います。それ
を概観してみたいと思います。
まず、田島-梶田の実験研究と鈴村・小林の理論研究で立ち上がった Dirac 電子系の物理学をど
う発展させるかが A01 班の重要な課題の一つでしたが、7グループ(A01 班の半数を超えるグル
ープ)がこのテーマに取り組み、Dirac コーン発現の条件、強相関効果とその実験による検証、
巨大ネルンスト効果の観測、強磁場における新しい電子相あるいはヘリカル端電流発現の示唆、
Dirac 電子系新物質の発見など、"強相関 Dirac 電子系の物理学"の礎を築いた4年余りではなかっ
たかと思います。
分子性物質はモット物理学研究の格好の舞台であることは今や世界が認めるところです。モッ
ト転移における電荷揺らぎとスピンフラストレーションの関係が調べられ、反強磁性絶縁体とス
ピン液体では低温の金属絶縁体転移に質的な違いがあることが分かり、2重占有を禁止すること
で絶縁化を起こす電子相関効果と波動関数の干渉により電子を局在化させる乱れの効果の鬩ぎ合
いを見ることにも成功しています。スピン液体についてはその磁性、熱力学的性質が詳細に調べ
られる一方で、誘電異常の観測から電荷自由度が何らかの形で関与している可能性が示唆されま
した。フラストレート磁性、金属絶縁体転移、超伝導が同一物質で発現するのは分子性物質のみ
です。強相関物理学にとって分子性物質は無くてはならない存在になりました。
元祖有機伝導体/超伝導体である擬1次元伝導体について、熱力学測定と強磁場下輸送実験が行
われました。磁場角度分解型の比熱測定によって超伝導の対称性の議論が一段と精巧なものにな
り、また、磁場誘起密度波転移にも新たな展開が見られました。誘電物性に関連しては、擬1次
元系におけるアニオンの双極子モーメントと伝導電子の相互作用や、中性-イオン性転移に伴う新
規な誘電相の存在が明らかになりました。また、A01 班では、"圧力"がキーワードになっていま
すが、これに関する挑戦的な研究が行われました。加圧環境下での電解結晶成長、走査型トンネ
ル顕微鏡による電子相の観察、微小結晶の比熱測定です。この真に挑戦的な研究には物質科学の
フロンティアを切り拓く大きな期待がかけられています。今後の発展が注目されます。
以上のように多様な物質と相に対し様々な手法で行ってきた研究を配列の物理学という観点で
整理し、次の展開への糸口を探りたいと思います。
4
A02 班
分子軌道設計による新規電子相の開拓
小林昭子
A02 班は物質開拓と電子状態計算、電子密度解析とを一体的に研究し、分子軌道設計に基づい
て新規電子相を開拓する事を目指してきた。A02 班の計画班の主な成果は以下のとおりである。
A02 班の物質開発加藤グループはモット絶縁体 EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 について、共同研究者と
共に比熱、NMR、ESR、磁気トルク、μSR 等を用いて調べ、この系が量子スピン液体(QSL)の極
めて有力な候補であることを明らかにした。また、混晶化によって三角格子の異方性を精密に制
御し、QSL と反強磁性秩序や電荷秩序とが競合する領域の観測を可能とした。さらに、対カチオ
ンによる三角格子の異方性制御が、分子変形と密接に関係することを明らかにした。小林グルー
プは強い-d 相互作用を持つ分子性伝導体の開発をめざし分子性稀薄磁性合金[Ni1-xCux(tmdt)2]
の合成を行い、x0.15 の狭い範囲において、磁化率が温度低下とともに急激に上昇し磁場増加
によりその異常が抑制されること、またフォノン散乱による抵抗を測定抵抗値から差し引き、低
温での磁気散乱による抵抗変化を推定する試みを行い、この分子性伝導系が Kondo 系であるとい
う可能性を提唱した。堀内グループは水素結合系については、12 例余もの超分子型強誘電体の
発見し高キュリー点化を実現し、単一成分系のクロコン酸では有機系最高で BaTiO3 に匹敵する
自発分極を実現した。また、電荷移動錯体については、TTF-BA の自発分極の磁場制御性や TTF-CA
の電子型強誘電性を見いだした。また小林グループは分子の骨格変格に伴う巨大な誘電率を持つ
分子性リラクサー系を開発した。理論計算石橋グループは単一分子性金属・有機強誘電体につい
て、電子状態の解明を行なった。Au(tmdt)2 について、静水圧が電子状態に及ぼす影響を、フェ
ルミ準位近傍の Au5d 軌道のエネルギー変化と磁性の発現に着目し調べた。TTF-QBrCl3 の自発分
極を計算し、その発現機構について考察した。1/4-filling の擬一次元拡張ハバード模型により、
TMTTF 塩の電子相図を得た。電子密度精密解析澤・西堀グループは SPring-8 において7K までの
単結晶 X 線回折実験が可能な冷凍機を立ち上げ 多くの単結晶の精密な構造解析を行いその電子
密度解析を行った。一例が(TMTTF)2PF6 の定量的な電荷秩序の決定と 18K におけるスピンパイエ
ルス転移に伴う超格子反射の観測、消滅側によるその格子の決定と電子密度解析である。また粉
末構造決定法の高度化を行い、20 を超える多自由度の構造決定をルーチンワークとして可能に
した。世界最高となる配向の自由度 45 の分子性固体電解質の構造決定に成功した。
このように、分子の構造自由度や軌道自由度を利用した、新規物質の開拓や、それをサポート
したり、牽引する理論計算や、放射光を使った高精度の構造研究が協奏的に働き、顕著な成果が
生まれたと思っている。班員から、電子型強誘電性のように、理論計算家との連携がきっかけで、
当初は想像もしなかった現象を発見できたことなど、有意義な経験ができたとの感想もきかれ、
各班員にとって実りある4年半であったと思われる。
最近米国では、物質開発が停滞するとともに、物理のこの分野の研究者が大幅に減ってきて
いるという話を聞く。新たな試料が入手出来ないことが大きな原因のひとつとなっている可能性
があるようである。先日の MDF2012
ではフランスの化学分野の研究者がフ
ランスでも日本のような物理と化学の
良い協力体制を復活させたいといって
帰ったという話を聞いた。物理分野の
研究者と化学分野の研究者がうまく連
携して研究が進められていることが日
本のこの分野の優れた特徴といわれて
いる。先端的な測定技術も先端的物質
研究と切り離して考えることは出来な
い。物質開拓のフェイズと物性研究の
フェイズにはズレがあるが、両者を遊
離させることなく物理と化学が両輪と
なり今後も広範な分子物質研究の環が
世界的に広がることを期待したい。
5
A03班「スピン自由度を利用した電子相制御」を終えて
物質・材料研究機構
宇治進也
分子性伝導体研究では、密度波相、電荷秩序相、モット絶縁相、さらに超伝導相まで多様
な電子相の存在が明らかになって来ています。その状態は、有機分子上の電子のみが決め
ていました。この研究の流れに対して、過去 10 数年、分子性導体において遷移金属などの
局在 3d スピンを導入し、その磁気モーメントと・電子スピンとの相互作用(π-d 相互作
用)を積極的に利用して、新規の物性を発現させようとする試みが行われてきました。π
電子の輸送特性は 3d スピンとの相互作用を通して、大きく 3d スピンの状態の影響を受け
ます。そのため、3d スピンを高周波電磁場で反転、かく乱することで、π電子の伝導性を
制御できる可能性があります。A03班では、この点に注目し、各種π-d 系でπ-d 系特
有の新規物性の発現や、そのメカニズムを解明し、さらに局在スピンの向きを外場で積極
的に制御し、動的な新規電子相制御を目指してスタートしました。
この観点での研究にもっとも貢献したのは、大島氏(理研)による BETS 系磁場誘起超伝
導体におけるESRと電気抵抗の同時測定でしょう。Fe イオンの 3d スピンの電子スピン共
鳴により、電子が引き起こす磁場誘起超伝導の制御に初めて成功を収めました。これは強
磁場中で精密に磁場方位を制御しながらの実験であり、前例のない困難さを伴っていたは
ずです。今後も様々なd系物質で興味深い業績があげられていくことと思います。
上記以外にも、A03班ではd系新物質合成、d系 NMR、FFLO 超伝導状態や超伝
導対称性、スピン液体、さらにさまざまな理論研究が発展しました。物質科学は「物質合
成」から「基礎物性測定」「理論解明」までを含む総合的・包括的な科学です。A03班で
は、これら分野の研究者を抱え、5年間ですばらしい研究成果を上げることができました。
ここに改めて参画者や関係者の方々に感謝させていただきます。班会議は残念ながら1回
(箱根1泊2日)しか企画できませんでした。普段はなかなか会えない方々と密度の濃い
議論ができ、また親睦を深めたという点でも大変有益であったと思っています。たとえ多
忙でも、班会議をもっと企画すればよかったと少々後悔しています。これまでの研究を踏
まえ、次のプロジェクトへと大きく発展していくことを願っています。
6
光による電子相制御(A04 班) 東京大学 大学院新領域創成科学研究科
岡本 博 A04 班では、
“光による電子相制御”を掲げて、この 4 年余りの間研究を進めてきまし
た。その中心的な役割を果たしたのが、フェムト秒レーザー分光です。フェムト秒レーザ
ーパルスを照射すると、他の外場では到達できない電子励起を瞬時に生成することができ
るため、その電子励起をきっかけとして、電子系と分子自由度の集団応答、更には相転移
を引き起こすことが可能ではないか、というのがこの班のコンセプトです。 本新学術領域の開始以前、このいわゆる“光誘起相転移”の研究は、光物性の分野では
市民権を得ていたものの、分子性物質の研究分野、特に、伝導体の分野の研究者の方には
なじみの薄いものだったと思います。そこで、この班の最初の使命は、フェムト秒レーザ
ー分光という分子性導体の分野では極めて特殊なアプローチを良く知って頂き、当該分野
の研究の主要なアプローチの一つとして根付かせることだと考えていました。これについ
ては、本班のメンバーは、講演や議論の中で、例えばポンププローブ分光とはどういうも
のか、レーザー分光で何が検出できそうか、また、基底状態近傍の伝導性や磁性、誘電性
の研究とどのような接点があるのか、について解り易い説明を加えるよう常に意識してい
たと思います。これについては、今後も続けて行くことが重要だと考えています。 この班のもう一つの使命は、本領域のメインテーマである“分子自由度が拓く新物質科
学”において、レーザー分光ならではの新しい切り口を示すことであり、こちらが最も重
要な使命でした。これについては、光励起によって生じる電荷と分子のダイナミクスを出
来得る限り直接的に検出することが必要であり、そのための測定法として、フェムト秒レ
ーザーを使った三つの最先端分光法を取り入れることが有効だと考えました。高時間分解
能ポンププローブ分光、テラヘルツ時間領域分光、レーザー光電子分光、がそれです。こ
の新学術領域が始まる以前は、いずれも分子性結晶に適用されたことが殆ど無い手法であ
り、これらを使った研究は、ほぼゼロからスタートすることになりました。幸い、これら
の手法に関して優れた技術を蓄積しつつあった精鋭、東北大の岩井先生、東大の島野先生、
石坂先生に計画班メンバーとして、また、東工大の恩田先生に公募班メンバーとして参加
して頂くことができ、さらに、光物性、伝導物性・磁性、理論を専門とする公募班メンバ
ー(山本薫先生、寺崎先生、岡先生)や本領域内の多くの物質開発の専門家の協力のもと、
A04 班の研究は当初の予想以上に進展したと思います。新規に開発した高時間分解能過渡
分光による光誘起絶縁体―金属転移における電子ダイナミクスの観測、また、中性―イオ
ン性転移における電荷移動と分子変形の実時間検出、レーザー光電子分光によるバンド分
散の観測、テラヘルツ分光による光誘起 SDW 融解ダイナミクスの観測、高強度テラヘル
ツ電場による強誘電分極の高速制御など、上記の先端レーザー分光法でしか得ることがで
きない新しい結果が次々と提示されました。
このような中、この 3 月で本新学術領域が終わるのは非常に残念ですが、今後、このプ
ロジェクトの成果を基盤に、物質開発、基礎物性研究、レーザー分光研究が一体となった
さらに魅力的な物質科学研究の進展が期待できるのではないかと思っています。 7
A05(a) 新しい電子機能を目指した分子内自由度の開発
京都大学 低温物質科学研究センター
矢持 秀起
本研究課題では、研究分担者である御崎 洋二 (愛媛大学)、藤原 秀紀 (阪府大)、森田 靖 (阪大)
らと共に、分子の内部構造自由度に着目した分子設計を行い、新しい電子機能を持つ分子性凝縮系
を開拓し解析して来た。研究代表者・分担者各人の自由な発想に基づき、複数の課題について研究
を行った。具体的には、多重不安定性に基づく特異な金属-絶縁体転移を起こす物質の本質を調べ
るための混晶化[1]や、新たな相転移物質の開拓が行われた。後者の例として、相転移に伴い分子の
充填様式が劇的に変化する金属的錯体が開拓された[2]。また、光応答部分を持つ導電性分子の開拓
と光導電性、および、光照射後の電子・エネルギー移動の時
間分解計測[3]、更には、中性ラジカル分子の安定化を成し
遂げた新規機能性分子の開拓[4]等々が行われた。
これらの研究を遂行する上で、班内外との共同研究も多数
実施された。物質開拓研究と構造・物性の検討、更には理論
研究との連携の重要さが再確認され、また、それぞれの分野
に精通した研究者がひとつの領域研究に集っている事が物 図 文献[1]のウェブ目次用に準備した
性科学の進展にとって重要であることを全班員が体感した。 原図。実際の出版時には文字の位置
等が少し変更された。
従来の機能性分子集合体の開拓研究を振り返ると、例えば
分子性導体に金属状態や超伝導状態を実現させるなど、静的な状態を構築する事に多くの努力が捧
げられて来た。これらの課題に対応する物質を開拓し続ける事は合成化学に携わる者の責務である
が、同時に近年では、二次電池などのエネルギー・環境問題に対応する実用材料の基礎を与え得る
分野への展開も行われつつある。また、当然ながら、物質開拓研究は curiosity-driven な基礎研究の
進展をも牽引している。上述の通り、従来は静的状態の実現を目指す研究が多かったが、近年の物
質開拓研究は、光照射等の外部刺激への応答や相転移の起こり易さを強く意識した方向に向かって
いる。この背景として、刺激に応答する物質がメモリー、スイッチング素子、或いはトランジスタ
等の電子デバイスの材料となる実用材料の基礎研究としての側面を持っていることに加え、動的過
程の計測技術が近年、急速に向上したことが上げられよう。従来から磁気共鳴などにより固体中で
の分子や電子の運動に関する情報を得ることは出来ていたが、A04 班で盛んに研究されている通り、
近年では主に分光学的な手段により相転移の過程や光照射後の固体内での電子・エネルギー移動の
状況などをコマ送り動画の様に時間分解された形で知ることが出来る様になった。さらに、例えば
光照射によって動的過程が開始された系に遅延時間を持って第 2 の光照射を行い、反応座標の方向
を変化させる事も試みられている。これら先駆的な実験が開始された事は、分子や結晶の動的挙動
に基づいて新たな機能性分子を設計する事が可能となる日が来ることを夢見させてくれる。
上述の通り、A05(a)班の実績には実用材料の基礎を与える研究や、外部刺激応答物質の開拓が含
まれており、研究分担者、連携研究者、領域内外の共同研究者の御尽力により、先導的な物質開拓
研究が行われて来たと自負している。今後も、各分野の研究者と協力し合いながら、物性科学が夢
見る事が出来る範囲を広げ、それらの夢を実現させるための"物"の開拓を続けたい。
参考文献
[1] T. Murata, X.F. Shao, Y. Nakano, H. Yamochi, M. Uruichi et al., Chem. Mater., 22, 3121 (2010)
[2] T. Shirahata, K. Shiratori, S. Kumeta, T. Kawamoto et al., J. Am. Chem. Soc., 134, 13330 (2012)
[3] K. Furukawa, Y. Sugishima, H. Fujiwara, T. Nakamura, Chem. Lett., 40, 292 (2011)
[4] Y. Morita, S. Suzuki, K. Sato, T. Takui, Nat. Chem., 3, 197 (2011)
8
A05(b)班の活動報告と今後の展望
A05(b)計画班代表者
森
初果
鹿野田新学術領域の中で、A05 班は、物質開発を担当している。その中でも2班に分かれ、A05(a)
班が分子内の自由度開拓で、我々の A05(b)班が分子間相互作用の自由度開拓に軸足があり、
「新しい
電子機能を目指した分子間相互作用の制御」という課題で、研究を進めてきた。この約 4 年半の活
動報告と、さらに今後の展望について述べる。
物質開発の手法として、物理的アプローチと化学的アプローチがあると思う。物理的アプローチと
して、我々の A05(b)班では、強相関分子性導体の強相関パラメータを系統的に変化させた物質開発
を行った。通常、分子性導体は D2A (D:電子ドナー、A;-1 価のアニオン)の組成を持つので 3/4 充填
バンドを形成する。そこで、二量化の大きな物質はダイマーモット絶縁相、二量化の小さい物質は
電荷秩序絶縁相を創出すると理論から指摘され、実験的にも確かめられてきた。本研究では、さら
に二量化が中程度の物質を開発し、他の班との共同研究で、この系においてダイマーモット相と電
荷秩序相の競合が明らかとなってきた。具体的には、β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6 は、70K でダイマー
モット相から電荷秩序相への特異な相転移があり、β-(BDA-TTP)2I3 は、一軸性圧縮下でダイマーモ
ット相から電荷秩序相へ電子状態が変化すると報告されている。
一方、化学的アプローチとしては、分子の面白さを生かし、その分子集合体の電子機能性に繋げ
ようとする試みで、化学者が考える「分子自由度の開拓」である。まず、A05(b)班では、キラル分
子の集合体は、対称性の破れた結晶構造、特異な電子機能を持つというアイディアで、キラル分子
性物質の開発を行っている。キラルドナーとキラルアニオンの組み合わせのキラル導体も作成され
てきている。また、プロトンと電子が相関する分子性物質の開拓は、化学分野の大きなテーマとな
っているが、カテコールというプロトンー電子連動分子を用い、その集積結晶で、スピン液体、純
有機単成分導体、基底状態を変える重水素効果など、特異な電子機能が見出されてきており、今後
の展開が興味深い。
また、A05(b)班では、物質開発をする化学者と物性物理の理論家でチームを構成しているところ
にも特徴があった。得られた特異な超伝導体について、超伝導ギャップが計算されたが、今後、対
称性を決める物性物理実験が待たれる。
分子の特徴は、やはり分子軌道の偏り、つまり電気双極子にあると思う。双極子が作る電気分極
が、分子内、ダイマー内、ミクロ、マクロな相で、ダイナミックスとして観測されているのが、ダ
イマー系のκ型 ET 塩、電荷秩序系β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6 の誘電応答である。今後も、様々な時
間スケール、エネルギースケールを持つπ電子系を探索し、電子強誘電体、エキシトン超伝導体な
どの機能性物質、それらの光、電場による大きな外場応答など、ダイポールの素励起(ダイモン)
を意識した展開が物理的アプローチとしては期待できる。また、ダイモンは、分子性結晶にとどま
らず、薄膜の有機エレクトロニクスや、非周期系の生体系物質など広範なπ電子系に広がると思う。
また、魅力的な分子に注目し、それを集積体にして機能性を創出するボトムアップ型の化学的アプ
ローチは、まだまだ未開拓の領域で、荒野が広がっていると感じている。自然に身を委ねたこのよ
うな化学的アプローチは神からの贈り物で、分子性物質ならではの科学の展開が期待できると思う。
9
ISSMMD2012 への若手派遣
宇治進也(物質・材料研究機構)
若手研究者インターナ
ショナル・トレーニン
グ・プログラム(ITP)は
平成 19 年度より日本学
術振興会により行われて
いる事業で、東工大では、
平成 21 年度より、本事業
を推進しています。新学
術領域「分子自由度が拓
く新物質科学」では、若
手研究者の育成も重要な
課題の一つとして位置付
けており、本年も、本プ
ログラムへの若手派遣(5
会議参加者集合写真(ダラム城内にて)
人)のための旅費の援助を行いま
した。今年は、本プログラムとし
て
International
School
&
Symposium on Molecular Materials
& Devices (ISSMMD2012)が 9/22-29
の期間 Durham(UK)で行われまし
た。会場は Durham 大学キャンパス
の講義室を利用し、参加者は大学
内の college に宿泊しました。
Durham 大 学 は 、 イ ギ リ ス で は
Oxford 大学や Cambridge 大学に次
ダラム城の夜景
ぐ古い大学で、市内には世界文化遺
産に登録されているダラム城とダラム大聖堂があります。本会議のバンケットは荘厳な雰
囲気を持つダラム城内で行われました。ISSMMD2012 は、若手研究者向けのスクール形式(90
分講義)とそれに続くシンポジウム(30 分講演)で構成され、若手研究者は全員ポスター
セッションで発表を行いました。様々な分野の研究者が集まったこともあり、日頃なかな
か聞けないような講演も多く、若手にとっても有意義な会議となったと感じています。
10
ISSMMD2012 へ参加して
古川哲也(東京大学
工学系
物理工学専攻 D3)
Durham 大学で行われた今回の会議は、様々な研究分野をバックグラウンドに持つ人が
参加し、普段は聞けない話を聞くことができた。
特に 90 分のスクール形式の講義は、担当の先生方が丁寧なイントロから話を始めてく
れたおかげで非常にわかりやすく、知らない分野の基礎知識がついたり、今まで断片的
だった知識が整理されたりした。
また、個人的にはポスターセッションの際に、他の学生やポスドクの方々に普段は聞け
ないような細かい話を聞くことができ、とても有意義だった。
宿舎のあるカレッジ’は Durham 大学の新学期開始にともなう新入生歓迎会が行われて
おり、現地の学生と交流することもでき、愉快な体験となった。
会議の行われた Durham は歴史のある落ち着いた街であり、連日の雨天にもかかわらず
街の醸し出す情緒的な
雰囲気を味わうことが
できた。特に大聖堂、
Durham 城という2つの
建造物はそのスケール
や保存状態の良さに圧
倒された。
最後に唯一心配だった
食事に関しては、思いの
外おいしいものが多く、
ある意味期待を裏切ら
れるものだった。
Durham 大学のカレッジ。右の建物で毎日食事をした。
11
会議参加報告書 (ISSMMD2012)
舟浴佑典(神戸大学 大学院理学研究科 化学専攻・博士 2 年)
今回、新学術領域「分子自由度が拓く新物質科学」の若手派遣の一人として、9/23–29 の
期間に英国、
ダラム大学で開催された International School & Symposium on Molecular Materials
& Devices (ISSMMD2012)に参加させていただきました。
24 日、25 日は若手研究者向けのスクールということで、各先生方の 90 分に及ぶ講義を
聴講しました。各分野の先生方の最新のトピックスはもちろん、分野の歴史や若手へのメ
ッセージも含む講演が続き、非常に実りある講義であったと感じます。26 日以降はシンポ
ジウムと銘打って、各先生方の 30 分または 60 分の講演を聴講しました。講演内容は、機
能性分子物質の合成・物性・デバイス特性・理論計算と非常に広範な分野を網羅しており、
どの発表も非常に興味深いものでした。
また、
25 日と 27 日にはポスターセッションがあり、
国内外の若手研究者の方と、お互いの研究について討論を行いました。ここでは、分子性
導体分野の発表はもちろん、錯体超分子、色素増感太陽電池、単分子接合、機能性ゲルな
どを題材とした、多分野に渡る発表を聴講しました。
私 も "Structures
and
Magnetic
Properties
of
Ferrocene-Based Charge-Transfer Salts"という題目で、
フェロセン系錯体およびイオン液体の電子物性に関
する発表を行いました (左図)。十数人程度の方と実
りある議論を交わしましたが、本会議では比較的珍
しい物質群である「金属錯体系イオン液体」が興味
図. ポスター前で議論を交わす筆者 (右).
を惹いたようでした。
会議期間中は雨天日が多かったのですが、26 日午後の自由行動時間には晴れ間も見え、
市内観光を楽しみました。また、ダラム城で開かれた夕食パーティーでは、英国の古城独
特の雰囲気に酔いしれながら食事を頂きました。世界遺産に登録されており、通常の観光
ではツアー行動のみでしか入城できないとのことであり、非常に貴重な体験をさせていた
だきました。主催の K. Prassides 教授初め関係者の方々には感謝の限りです。
ところで、英国では街中に多数の Pub が存在し (右図)、大
学の寮 (Collage)内にまで Bar があるのには驚きました。最終
日の晩には、日本人学生やダラム大学の院生たちと共に Pub
に集まり、お互いの研究などについて熱く語り合いました。
このような国際交流も海外での国際会議ならではであり、素
晴らしい機会を与えて下さった若手派遣プログラムに感謝い
たします。
図. ダラム市内の Pub の様子.
12
ダラム大学での ITP スクール・シンポジウムの報告
物質・材料研究機構、筑波大学
博士課程2年
杉井かおり
2012 年 9 月 23~29 日にイギリスのダラム大学にて行われた ISSMMD2012 について報告
します。
特に若手のためのスクールの講演は 90 分時間をかけているぶんわかりやすく、自分のた
めになる話が多かったと感じました。Prof. Brooks の話では一次元から三次元物質まで順番
に物質を示して実験結果が説明され、次元性という括りで有機伝導体を包括的に解説して
いる点が面白かったです。Prof. M. Yamashita のレクチャーでは単分子量子磁性体(SMM)
がどういうコンセプトで作られてきたかを学びました。SMM は各分子のスピンの間に交換
相互作用が働かず、一軸異方性が強いため、バルクの金属とは全く異なる物性が期待され
てきました。SMM と伝導 f 電子を持つフタロシアニン分子を足し合わせ、伝導性を持たせ
た系を作りだし、STS 測定により近藤効果を観測したり、SMM で FET を作るという研究
の戦略が非常に興味深かったです。シンポジウムでは、Prof. Hill の講演で、ラジカルスピ
ンの強磁性体のスピン軌道相互作用により大きな磁気異方性が生じるという話が印象に残
りました。その他、ポスターで印象にのこったものは、R. H. Zadik の RbxCs3-xC60 のモッ
ト転移のに関する研究や、T. Furukawa のモット転移近傍の量子臨界性についての研究な
どがあります。
「-(BEDT-TTF)2NH4Hg(SCN)4 の面間インコヒーレント伝導」という題名でポスター発
表を行いました。同じ物質について以前研究されていた何人かの先生に説明し、議論して
いただきました。インコヒーレントな面間伝導がフェルミ面の異方性を完全には反映して
いないという事や、超伝導転移温度が Dingle 温度に依存しない事などに興味を持ってもら
えましたが、より深い考察が必要だと感じました。
全体の感想は、講演では研究結果を具体的に説
明してもらえたので、なじみのない話でも理解で
き、自分とは少し離れた分野に関してももっと勉
強したいと思いました。ポスター発表はとても活
気があり、話も聞きやすく有意義でした。会場と
なったダラム大学やダラム市内の景観は素晴らし
く、歩き回るのが楽しかったです。食事も想像以
上に美味しくて満足です。
さいごに、海外の研究者とディスカッションし
たり、良質な講演を聞けるという貴重な機会を与
ポスター発表風景
えてもらったことに感謝いたします。
13
英国Durham、ISSMMD2012 への若手派遣
辻本啓次郎(大阪府立大院理・分子科学専攻・博士後期課程2年)
今回、私は新学術領域「自由度が拓く新物質科学」の援助を受け、イギリス
Durham 大学での国際スクールシンポジウム(ISSMMD2012)へ参加させて頂き
ました。
前半の講義形式では、様々な分野の研究について、そのバックグラウンドか
ら応用までを学生にも理解できるようわかりやすく説明してくださったことか
ら、新たな知識をたくさん得ることが出来ました。今後はここで得た知識を基
にして、様々な論文を読むことでさらに知識を拡張していきたいと思います。
また、途中のポスターセッションでは私自身も発表させて頂きました。ここで
は多くの先生方、および学生の皆様と議論させていただきました。これまで知
らなかった測定法や理論など、様々なアドバイスを頂くことができ、研究の幅
が広がりました。発表では英語でうまく説明できなかった部分もたくさんあり
ましたので、そちらは今後の努力目標にしたいと思います。
なお今回、私は他の学生に一人も知り合いがいない中で参加させて頂きまし
たが、本シンポジウム中での生活(議論、宿泊、食事、自由行動など)を通じ
て、たくさんの知人や友人に巡り会うことが出来ました。
また、私事ではありますが、滞在中どう
してもイギリスらしい経験がしたくて、一
人で PUB にフィッシュ&チップスを食べ
に出かけました。見知らぬ街での一人外出
には不安がありましたが、これは素敵な経
験となりました。道に迷っていると助けて
くれる、観光情報を教えてくれる、一人で
食事していると輪に加えてくれる等(他に
もたくさん)、噂にきいていたイギリス紳
PUB でのフィッシュ&チップス
士・淑女の精神を実際に目の当たりにしました。これらの出来事は私の国際交
流への意欲を高めてくれるきっかけになったことは間違いありません。
このように ISSMMD2012 は私にとって学術的にも、それ以外でも有意義な
経験となりました。この機会を私に与えてくださった新学術領域「自由度が拓
く新物質科学」のオーガナイザーの皆様に厚くお礼申し上げます。
14
ダーラム国際スクール&シンポジウムに参加して
物質・材料研究機構 量子物性グループ
ポスドク研究員
土屋 聡
<学会の詳細>
期日: 2012年9月23日(日)~29日(金)
場所: ダーラム大学、ダーラム、イギリス
<印象に残った講演>
“Electronic and magnetic properties of nanographene” presented by Prof. T. Enoki, Tokyo
Institute of Technology
近年グラフェンの研究が注目を集めています。グラフェンの電子状態は質量ゼロのディラッ
ク電子として記述されるため、新しいゼロギャップ半導体の性質が期待されます。この研究で
は、ナノサイズのグラフェンを用いたエッジ効果を調べています。その中でも特にジグザグエ
ッジにおける電子の閉じ込め現象が興味深を持ちました。これはサイズ効果によるディラック
電子の局在を観測した報告であると思います。今後この研究をもとに、人工欠陥の導入など
によるアンダーソン局在など、ディラック電子の局在現象の研究がさらに進むことが期待され
ます。
<自分の発表について>
今回私は “FFLO state in the Organic Superconductor -(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 studied
by Magnetic Torque”というタイトルで発表しました。-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 における FFLO
状態は様々な実験が報告されていますが、未だ確定的な証拠は得られていません。そこで低
温強磁場における磁気トルクの角度依存性の系統的な測定行い、FFLO 状態の新たな証拠
を得たことを報告しました。本発表に対し、解釈の妥当性、相図の決め方についての有意な
質問、コメントを数多く頂きました。
<感想>
国際スクール&シンポジウムには2回目の参加でしたが、若手研究者、学生の数が多く、
皆とてもフレンドリーで議論しやすい雰囲気の会議だったと思います。先生方の講義も最新
の結果報告といよりは、科学の面白さを伝えようとする講演が多く、個人的に非常に勉強にな
り、また今後の研究姿勢についても深く考えさせられました。
<謝辞>
今回の学会参加に向けて多くの議論をして頂いた宇治教授に感謝いたします。また、参加
に際して新学術領域研究「分子自由度が拓く新物質科学」より援助いただいたことに感謝しま
す。
15
フリブールに滞在して
東京大学大学院工学系研究科
高吉
物理工学専攻
岡研究室
特任研究員
慎太郎
平成 24 年 9 月 2 日から平成 24 年 9 月 16 日まで
私は今回フリブール大学のフィリップ・ウェルナー教授のもとに滞在して、共同研究を行
った。フリブールはスイスの首都ベルンから 30 km と程近い場所にあり、日本から訪問す
る際には、チューリッヒまたはジュネーブの空港から鉄道を利用する。鉄道網は発達して
おり、車内も快適である。特にジュネーブとチューリッヒを結ぶ路線は幹線であり、本数
も多く速達列車もある。私はジュネーブから乗車したが、フリブールまでの 100 km に対し、
所要時間は 1 時間 20 分程度であった。駅や車内での放送は、英語・ドイツ語・フランス語
と 3 種類の言語で行われ、4 つの公用語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ
語)を定めている多言語国家スイスの特徴が良く現れているといえる。東部がドイツ語圏、
西部がフランス語圏であり、フリブールはちょうどそれらの切り替わるあたりに位置して
いる。鉄道駅の周辺を含め、街の中心部ではフランス語が優勢であるが、バスに乗って郊
外に向かうと途中からバス停の地名がドイツ語になることがわかる。街の中を川が流れて
いるが、それによって使用言語が隔てられているわけでもなく、境界は非自明である。言
語地理学の対象としても興味深い街ではないだろうか。
駅から南東に向かって 20 分ほど歩くとフリブー
ル大学のキャンパスに到着する。キャンパスはそ
れほど大きくなく、歩いてもすぐに一周できる。
私は駅前に宿泊していたので、徒歩で楽に大学へ
通うことができた。朝食はだいたいパンを 2 つぐ
らいとコーヒーを取った。小さな街の割にパン屋
は多く、購入してテラスで食べられるようになっ
ているので、毎日パン屋を変えて気分転換をした。
大学へは 9 時ごろに出勤する。当時はウェルナー
フリブール駅。
教授がチューリッヒから異動してきてまだ半年
程度で、研究室メンバーはポスドク(当時)の辻氏だけであり、また東大の院生の村上氏もち
ょうど訪問中であったため、私の滞在中は日本人の比率が極めて高くなっていた。12 時過
ぎごろに午前の仕事を終えて昼食に向かう。他の物理系研究室のポスドクや大学院生も参
加し、結構な人数になる。物理学科の建物のすぐ前に大学のメンザ(学生食堂)があるのだが、
多くの場合、少し離れた専門学校のメンザに行っていた。そちらの方が、値段がそれほど
変わらないのに料理の味が良いとのことである。メニューはじゃがいも、野菜、メインの
肉か魚というプレートが一般的である。特にじゃがいもはメンザ以外でも外食をする際に
頻繁に出てくるので、主食なのかもしれない。このプレートで 10 フラン近くするが、物価
16
の高いスイスでは外食をするともっとお金がか
かる。スイスへの出張は現金を多めに持って行っ
た方がいい。
午後も午前と同じ調子で仕事をこなす。日によっ
ては午後 3 時ごろに大学のすぐ近くのカフェで
コーヒーを飲みながらディスカッションをする。
理論研究は同じ環境で同じことをしていると煮
詰まってしまいがちなので、たまに場所を変えて
フリブール大学物理学科の建物。
気分転換をすることで良いアイデアが浮かぶこ
とがある。このカフェはチョコレート工場の直営
であり、コーヒーもチョコレートもとてもおいしい上に店内の雰囲気も良く、議論をする
にはもってこいの場所といえる。仕事を終えるのは少し早目であるが午後 6 時ごろである。
スイスのスーパーは午後 7 時には閉店してしまうので、夕食を買ってホテルに戻ろうとす
ると、そのぐらいの時間に退出しなければならない。確かに大学で仕事をする時間は日本
にいるときよりも短いが、研究の進み具合は変わらないか、むしろはかどるように思えた。
日本にいるときには長時間研究していても、非効率なスタイルになっているのかもしれな
いと反省した。
滞在中に行った研究の内容に関しては、私が最近取り組んでいる磁性体にレーザーを照射
したときに起こる非平衡現象について議論をさせていただいた。動的現象は静的現象に比
べて理論的取り扱いが難しいため、研究に取り組んでいるところは世界的に見てもそれほ
ど多くはない。ウェルナー教授はこの分野で数値計算によるアプローチをしている第一人
者であり、多くの有益なコメントを得ることができた。さらにウェルナー氏と辻氏が取り
組んでいるハバード模型のクエンチに関する研究について詳しく説明を聞くことができた。
近年では電子メールやスカイプの普及により、世界中の研究者と議論をすることは比較的
容易になったとはいえ、やはり距離的に近くにいていつでも好きな時にディスカッション
をできる方が、格段に研究が進むことは間違いない。また昼食やコーヒーブレイクの時間
に交わす気張らない会話に研究のヒントが隠れていることもしばしばである。その意味で
海外研究機関に滞在し、そこの研究者と意見を交わす重要性は、今後技術が進歩しても変
わることはないだろうと思う。
最後になりましたが、今回の滞在を援助してくださった新学術領域研究の関係者の方々に
心よりお礼申し上げます。おかげさまで滞在を大いに楽しむとともに、研究に関して多く
の有益な情報を収集することができました。これからも自分の研究に一所懸命取り組みた
いと思います。
17
フランスに滞在して
富山大学大学院理工学教育部 環境応用化学専攻
宮崎研究室
隈元
滞在期間
友樹
二週間
私は、富山大学大学院の修士一年生で有機伝導磁性体について研究しています。この研
究はフランスのレンヌ大学と共同研究で行っています。日本での私の仕事は、有機伝導体
である E,Z-Me2TTF 誘導体の合成であり、これをフランス側の研究室で有機鉄ユニットを
二か所に導入して、その物性を研究することを目的としています。
ある日、フランスの共同研究先の研究
室へ行って実際に自分で有機鉄ユニット
を導入してみないか?という話がでまし
た。これまで私は、日本から出たことが
なかったのですが、海外の大学へ行って
実験できるという経験はなかなかないこ
とで、いい経験ができると思い行くこと
に決めました。自分の研究のことをフラ
ンスで見られるということが、すごく楽
しみになりました。
実際にフランスに行ってきて思ったことは、やはり言葉の違いでした。自分は決して英
語が得意なわけでなく、むしろ苦手な方です。まして、フランス語なんかまったくわかり
ません。それでも片言の英語でもコミュニケーションをとらなければと話しかけますが、
なかなか通じないこともあり、言葉に苦戦したフランス滞在でした。ほかにも実験環境や
実験器具、操作など日本で自分が行っているものと少し違ったりしていて、この違いは当
然なのかもしれませんが、とまどいつつも良い勉強になりました。フランスで学んだこと
は日本でも実践していこうと考えています。
研究では、有機伝導体であるテトラチアフ
ルバレン ( TTF ) の二か所に有機鉄ユニッ
トを導入したものを合成し、物性を評価する
ということを目標としました。合成したもの
を化学的に酸化させることで、有機鉄ユニッ
トの Fe の d 電子系と TTF のπ電子系との
間で相互作用があると考えられ、また、2 つ
の Fe 原子との間で交換相互作用があると期
待されます。
18
フランスには 2 週間しか滞在できなかったため、物性の評価まではできませんでしたが
合成には成功しました。滞在期間がもう少し長ければ合成したものをもっと研究したかっ
たのですが残念でした。これからの研究のためにも、日本へ戻って共同研究がより進むよ
うに自分の仕事をしっかりとこなしたいとフランス滞在でモチベーションが上がりました。
自分が携わった研究がうまくいくことが楽しみです。
実験では、大学のドクターの方にいろいろと教わりながら行っていました。実験操作な
ど、いろいろと勉強させてもらいました。
今回の滞在では海外での実験のほか
に、初めてのことがたくさんありました。
まず、海外に行くことが初めてで、その
ため飛行機も初めてでした。フランスに
行くのにパスポートを取りに行くなど
準備を進めるうちに、楽しみだという感
情と一緒に日本から出ることに不安と
緊張を感じていました。いざ空港に行き
飛行機に搭乗すると、どんどん緊張して
いきます。初めての飛行機に少し感動し
ながら、フランスに着くまで空の上を楽しみました。フランスに到着すると、とうとう海
外に上陸したのだと思い、ここでも不安がこみ上げてきました。それでも、2 週間がたつの
は早くて、最初は不安ばっかりでしたが帰るまでには少しだけフランスにも慣れ、もう少
し滞在したいと思えるようになりました。それも、大学でいろいろな人と接したことや、
休日に外へ出かけるなど様々な体験ができたからだと思います。
お世話になった大学のみなさんに感謝しています。貴重な経験ができて、とてもよかっ
たです。これからも、この経験を活かせるよう努力していこうと思いました。
私が考えていたことよりも、いい経験ができました。私がフランスへ行くということで
助けてくださった方々には大変お世話になりました。最後に、今回の私の渡航滞在費用を
支援していただきました、新学術領域研究の先生方に厚く御礼申し上げます。
19
グルノーブル強磁場実験に同行して。
グルノーブル強磁場実験施設(グルノーブル、フランス)
2012 年 7 月 18 日~ 7 月 25 日
東京大学 工学部 物理工学科 宮川和也
グルノーブルという地名はウィンタースポーツ好きな人なら冬季オリンピックの開催地として、サッ
カー好きの人なら日本人選手が所属したチームがある街として知られています。さらにフレンチア
ルプスの玄関口としても有名な街です。
物性研究という視点では、世界有数の強磁場施設がある街として認識されていると思います。
このグルノーブルの強磁場施設に、昨年の 7 月、共同実験をすべく新学術領域研究の博士研究
員(当時)だった平田倫啓君と行ってきました。私は二度目の、平田君ははじめてのグルノーブル強
磁場施設での実験になります。平田君の旅費を新学術領域研究の若手派遣から支援していただ
きました。目的は学会などの講演題目風にいうなら、「有機導体ディラック電子系における Landau
準位の強磁場下 NMR による研究」というものです。具体的には圧力下での核磁気共鳴測定
(NMR)を 29T という強磁場で行いました。
NMR は「ゼロ磁場下では縮退していた核スピンのエネルギー準位が磁場によってゼーマン分裂
を起こし、、、、」で始まる基本原理からもわかるように磁場をかけることが必須の実験です。NMR 信
号を観測するための磁場なら研究室所有の(超伝導)磁石でほとんどの場合、事足ります。しかし、
磁場の強さが現象に対して本質的に重要になる場合があり、今回はそのケースでした。実験室で
は前年度から 15T までの実験を行っており、その結果はさらなる強磁場での実験の必要性を要求
していました。グルノーブルには超伝導磁石ではないものの 30T クラスの強磁場マグネットがありま
す。さらに、Berthier 教授、Mayaffre 教授といった NMR の専門家が在籍しており実際にこの磁石を
利用しています。今回も両先生には前年度から実験について相談にのっていただきました。実際
の実験でも両先生および研究室の方々に手厚いサポートも含め大変お世話になりました。
グルノーブル側では圧力セルを使用
した NMR の経験が少なく、平田君は始
めての訪問ということで、両方経験のあ
る私も一緒にこの実験に参加しました。
といっても私はグルノーブル行きが決ま
る前にすでに前後に研究会が決まって
いたので、グルノーブルに滞在できたの
は 5 日間のみでした。NMR 測定に関し
てはグルノーブルチームの装置を使わ
せてもらえますし、打ち合わせてもして
いました。なので、私は圧力セルの組み
立て加圧を行い NMR 信号の確認まで
グルノーブルの街にはトラムが走っています。このトラム
が研究所まで延長される計画があります。
20
をミッションとして行い、さあこれからという本格的測定はグルノーブルグループと平田君に任せて
帰国しました(分かっていても残念でした)。決して平田君のお目付け役としてではありません。
実験以外のことを書きますと、研究所の食堂は平日のお昼のみ営業しています。昼食はこの食
堂の二階で研究室の方々ととりました。食後に必ず(コーヒーではなく)エスプレッソを一階で飲むわ
けですが、勝手にフランスだなーと思ったりしました。昼食以外や土日の食事は、自分で用意しなく
てはいけません。研究所内の宿泊施設には共同のキッチンはありますが、周りにはコンビニは言う
におよばず売店はありません。そこで到着初日にグルノーブルの街に平田君とくりだしてスーパー
で買出ししました。研究所はグルノーブルの街から若干離れたところにあります。街まで徒歩で移
動できない距離ではありませんが 20、30 分はかかるので一汗かけるくらいの運動になります。到着
初日はスーパーまで Berthier 先生が車で連れて行ってくれました。安いお店や、日本食材を取り
扱うお店を教えていただき大変助かりました。
石造りの建物が並ぶグルノーブルの街並みはヨーロッパの街にきたことを実感させてくれます。
街中をトラムが走っています。これが研究所まで延長される計画もあるそうです。
実験の合間には Mayaffre 教授のご自宅に招待していただき研究室の方々とワインやチーズ、
Mayaffre 先生の手料理などをご馳走になりました。日本にはバカンスというものがないので大学の
先生は夏も休みをとらない(とれない)なんて話をしたりしました。
実験に関しては、測定上の問題も含め、まだまだこれからも強磁場での実験を継続する必要は
あると思いますが、フランスのベストシーズンとも言われる時期で過ごしやすい気候と研究室の方々
もバカンス直前(中)ということもあってかリラックスした雰囲気の中、研究をすることができました。平
田君にとっては大学の学部の研究室とは違った実験環境、生活スタイル、東京と違い周りがビル郡
ではなく山々が見える環境、多国籍な研究者の方々との交流は、研究結果はもちろんのことです
が、大変有意義だったかと思います。
それもあってか、彼は今、グルノーブルでそこの研究者の一人としてすごしています。
この研究遂行に際し、平田君の旅
費を新学術領域からサポートをして
いただきました。グルノーブル強磁場
施設、特に Berthier 教授、Mayaffre
教授のグループの方々に大変お世
話になりました。グルノーブルでの実
験の様子、圧力セルの取扱等につ
いては、東京大学 物性研の瀧川先
生、大阪市立大の村田先生、学習院
大学 開先生に相談にのっていただ
きました。この場を借りて感謝の意を
表したいと思います。
グルノーブルの街中。左の山にはロープウェイがあるので
すが今回も乗れませんでした。
21
International Symposium on Materials Science Opened by
Molecular Degrees of Freedom
(MDF2012)
会議報告
2012 年 12 月 2 日(日)- 4 日(火)の日程で、本新学術領域が企画した標記の国際
シンポジウムが宮崎県シーガイヤリゾートにて開催されました。本会議では分子性結晶
分野における「分子自由度が拓く新物質科学」に関連する研究発表(口頭発表約50件、
ポスター発表約80件)が行われました。国外から約20人の招待講演者を含む約 150
名ほどの規模となりました。下記に会議風景、セッション報告、プログラムを示します。
22
国際シンポジウム報告
会議名:
International Symposium on Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom
略称:MDF2012
開催期間:12/1-12/4 2013
開催場所:宮崎県
シーガイヤリゾート
[Session 1]宇治
本セッションでは、超伝導をトピックスとした5件の発表がありました。最初の3件は
超伝導秩序変数が実空間で周期的に変調を受ける超伝導状態(FFLO 状態)に関するも
のでした。まず Wosnitza は2次元超伝導体である κ-(BEDT-TTF)2Cu(SCN)4 の比熱や磁気
トルク測定から、超伝導相内の 20T付近で相転移があることを指摘し、それが FFLO
状態の証拠であると主張しました。次の Agosta はやはり同じ物質で、高周波応答の実
験から 20T付近で相転移があることを指摘し、Wosnitza らのデータと矛盾ないことを
指摘しました。また λ-(BETS)2GaCl4 においても同様の測定から、超伝導相内 10Tで相
境界があること指摘しています。次の Brown はやはり κ-(BEDT-TTF)2Cu(SCN)4 で、NM
R測定で FFLO 状態の存在を主張しました。このように2次元性の強い有機超伝導体で
は、平行磁場で FFLO 状態が存在するというコンセンサスがほぼ得られて来た状況にあ
ると思います。今後は、秩序変数の空間的な振動成分がどのようなものか、より定量的
な議論が必要になってくると思われます。安塚は κ-(BEDT-TTF)2Cu(SCN)2 の面間抵抗の
磁場方位依存性を精密に調べ、超伝導秩序変数の空間対称性とボルテックスのピニング
力との相関を議論しました。中澤は、κ-(BEDT-TTF)2Hg2.89Br8 の圧力下の比熱測定から、
超伝導がバルク性について議論しました。どの講演も活発な討論が行われました。
[Session 2]黒木
初日午前の後半は、光などの外場によって物性を制御する、あるいはプローブする研究
に関するセッションであり、D. Mihailovic (Jozef Stefan Inst.), H. Okamoto (ISSP), K. Onda
(Tokyo Inst. Tech.), T. Naito (Ehime), K. Yamamoto (IMS) の各氏らの講演があった。分子性
結晶が元来持つ分子間相互作用、分子内自由度、電子相関といった特徴に加えて、外場
によって物性を動的に誘起、制御、プローブするという切り口が加わることによって、
分子性結晶特有の新たな面白さが浮き彫りとなる成果発表が続き、活発な質疑応答が行
われた。本セッションの内容に関係するポスター発表も興味深い発表が多く、今後の研
究の新しい方向性を示していると言えよう。
23
[Session 3]矢持
本セッションでは、超伝導体と電荷秩序化の見られる分子性導体が議論された。中国科
学技術大学の陳(Chen)が炭化水素超伝導体について招待講演を行った。K, Rb, Sr, Ba と
+3 価の形式電荷を持つフェナントレンの塩が 5 K 前後の臨界温度を持つこと等が報告
された。更に、ピセンの超伝導体とは逆に加圧によって臨界温度が上昇する事が紹介さ
れた。白旗は、ドナー・アクセプター双方が部分酸化状態を持つ初の常圧超伝導電荷移
動錯体である(EtDTET)(TCNQ)を報告した(転移温度は約 5 K)。山田と相澤は、それぞれ、
β-(BDA-TTP)2X に関する超伝導性の 1 軸歪依存性とバンド構造の対イオン依存性を報
告し、実験と理論の協同の重要性を示した。西川は(DODHT)2XF6 について、X = P と
As の場合で異なる電荷秩序化パターンが発生してる事を示す実験結果を紹介した。
発表用機材の不調への座長の対応がまずく、関連発表が連続しない講演順序となって
しまいました。この不手際にもよらず、各御発表の質の高さにより活発な質疑応答が交
わされました。
[Session 4]加藤
本セッションでは、新しい分子性導体の合成開発に関連した5つの発表があり、多様な
新物質が報告された。N. Avarvari(CNRS-Angers Univ.)と L. Martin(Nottingham Trent Univ.)
は、キラルな構造を有する TTF 系ドナー分子を用いた一連の機能性分子性導体の構造
と物性について報告した。T. Mori(東工大)は、高移動度有機トランジスタを与えるこ
とで知られている非 TTF 系ドナー分子 BTBT([1]benzothieno[3,2-b]benzothiophene)を
用いてカチオンラジカル塩(BTBT)2PF6 を合成し、その構造と物性を報告した。H.
Fujiwara(大阪府大)は、TTF 系ドナー分子骨格に蛍光特性を有するベンゾチアゾール
グループを組み込むことによって、光応答特性を有する分子性導体の合成を試みた。J. A.
Schlueter(Argonne National Lab.)は、分子性導体合成の重要なプロセスの一つである電
解合成に焦点を絞り、多くの多形を与えることで知られる BEDT-TTF 塩を中心に報告し
た。特に、分子配列が異なる伝導層がカチオン層をはさんで積層することによって形成
された multi-layer 系が紹介された。
[Session 5]岡本
このセッションでは、有機伝導体の磁場誘起現象に関する三つの実験と二つの理論の講
演がなされた。ここでは、前者について紹介する。まず、韓国からの招待講演者である
Kang が、-(BEDT-TTF)2I3 において静水圧・強磁場下で観測される Kartsovnik-梶田-山地
(KKY)振動について報告した。磁気抵抗の角度依存性に、周波数がわずかに異なる二つ
の振動を重ね合わせたノードを持つ特徴的な振動が観測されることを示し、それをスピ
24
ン分裂によって説明した。次に、大阪市大の村田が、擬一次元伝導体 HMTSF-TCNQ が
圧力下で磁場誘起 CDW 相となり、そこで量子ホール効果に特徴的なホール抵抗の磁場
依存性を示すことを報告した。今後、より詳細な現象の解明が期待される。引き続いて、
京大の前里は、π 電子系の SDW と鉄スピンの反強磁性が共存する(DIETSe)2FeCl4 にお
いて、1.5T という比較的低い磁場で鉄スピンのスピンフロップが起こり、π-d 相互作用
を通して非常に大きな正の磁気抵抗が生じることを報告した。さらに、そのスピンフロ
ップ状態が磁場を下げても保持されることを示した。極低温の現象ではあるものの、こ
の種の伝導体では少ないメモリ効果の発現という観点で興味深い結果である。
[Session 6]佐々木
本セッションでは,モット転移近傍の分子性導体における電子相関とスピン/電荷フラ
ストレーションが引き起こす特異な電子状態についての講演と議論が行われた.Pratt
(ISIS)は,量子スピン液体物質 κ-(BEDT-TTF)2Cu2CN3 の μSR 実験から,極低温スピン状
態について理論との詳細な比較を行った.Dressel (Stuttgart)は,同物質の遠赤外光学伝
導度スペクトルの測定結果を示し,低エネルギー領域でべき乗に従うギャップレスな振
舞いが見られるがスピノン励起とする理論提案とはべき乗数が異なることを示した.
Abdel-Jawad (理研)は,EtMe3P[(dmit)2]2 のモット転移臨界終点近傍における臨界性を,
ヘリウムガス圧力中の電気伝導度スケーリングにより議論し,
κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl とは異なる臨界指数を示すことを報告した.Yamashita(理研)
は,EtMe3Sb[(dmit)2]2 の極低温下での強磁場トルク磁化測定から,強磁場下においても
常磁性的振舞いに変化が無く,スピン液体状態はギャップレスであり,また液体状態は
臨界点としてでは無く,有限のパラメーター領域中に存在することを示した.
Merino(Madrid)は,ハバードモデルに従って分子性導体と遷移金属酸化物の擬ギャップ
的性質を議論した.本セッションでは,スピン液体の起源に関する白熱した質疑応答が
時間を超過して活発に行われた.分子性導体の特長である低エネルギーで複合・拮抗す
るスピン/電荷/軌道自由度がもたらす新しい物理の発展を予感させる充実したセッショ
ンであった.
[Session 7]小林
本セッションでは、分子自由度に基づく新物質の探索とその構造、物性について報告が
あった。M. Fourmigue は電荷移動錯体(EDT-TTFI2)2(TCNQFn)(n=1,2)が2:1塩には珍し
い中性―イオン性転移をすることを I...Nの距離の短縮、C-N 基の伸縮振動数の変化、
磁化率変化等から明らかにした。森(初果)はプロトンー電子が相関する新しいタイプ
の単一成分分子性導体 κ-H3(Cat-EDT-TTF)2 について、H 体が有力なスピン液体候補であ
ること、D 体は異なる基底状態をもつことを報告した。L.Zorina は放射光を用いて解析
したドナー間の水素結合やアニオンとの静電的相互作用により出現する倍周期構造や
25
結晶中での分子の回転運動のX線観察について報告した。村田はレアメタルを使わない
大容量のバッテリーとして注目されている、トリオキソトリアンギュレン誘導体のラジ
カル塩や混合原子価錯体の電気伝導度や磁化率測定を報告した。C.Robira は Au(111)
や高配向性結晶黒鉛表面上に堆積したラジカルポリマーの種々の特異的な階層的自己
集積構造の STM による画像観察と、それらの物性について報告した。新物質探索とい
う観点からどの講演も興味深かったが、特に C.Robira の講演は新しい方向性を示したも
ので、筆者は感銘を受けた。
[Session
8]小形
3 日午後後半のセッションは、ディラック電子系に関する理論と実験のセッションだっ
た。α-(BEDT-TTF)2I3 系における電子相関の効果、ユニットセル内分子の役割、ディラ
ック電子特有の輸送現象などについて報告と議論があった。鈴村は圧力下におけるディ
ラック電子の出現について、電荷秩序を引き起こすクーロン相互作用とアニオンポテン
シャルの効果についての理論を報告した。平田は NMR の実験から、グラフェンの場合
と似たような(電子相関による)フェルミ速度のくりこみを議論した。さらに、ユニッ
トセル内の分子を識別して、B サイトでのフェルミ速度が大きく、かつ反強磁性揺らぎ
が大きいことを指摘した。鴻池は熱電能とネルンスト効果について報告した。ゼロモー
ドのランダウレベルが重要となる量子極限の磁場で巨大なネルンスト効果がみられる
ことを報告した。最後に長田は、磁場下でのヘリカル表面状態の存在についての報告を
行った。ヘリカル表面状態は、量子ホール効果でのエッジ状態と似たものであるが、上
向きスピンと下向きスピンが逆方向に流れているものである。以上の報告をもとに有機
系におけるディラック電子系の特徴や今後の問題点についての議論が行われた。
[Session 9]鈴村
2 量体化をともなう 2 次元有機導体について以下の 5 名の発表があった。特に分子内又
は分子間の電荷分極やその揺らぎに関するものが多くあった。堀内は、巨大分極に陽子
や電子が重要な役割を果たす有機強誘電体において、水素結合鎖の双安定性が高い分極
を示すことや、電気分極の大きさと方向が分子内のドナーとアクセプター間の電荷移動
の分極により決定される電子型強誘電性の発現機構を報告した。Lang は、強誘電相転
移とネールオーダーの温度がほとんど一致する κ 型の有機導体での multiferroicity を発
表した。強磁場下での誘電定数の異常が変化しないことからスピンが強誘電の原因では
なく、2量体内の弱い電荷不均一が三角格子のフラストレーションを弱め反強磁性を出
現させると主張した。岡崎は、2 量体化によるモット状態と電荷秩序が互いに競合する
β 型有機導体の金属絶縁体転移の発表を行った。高温ではモット状態であり、低温の2
量体内の電荷秩序状態による絶縁状態ではモット状態も部分的に存在することから、温
26
度変化に依存すること、量子的性質を示すことを主張した。石原は、2 量体化をもつ κ
型有機導体での超伝導は、2 量体内のクーロン斥力と inter dimar transfer の競合による
polar charge fluctuation により生じることを主張し、この 2 つの量をパラメータとして相
図を導出し超伝導の対称性も理論的に調べた。Powell は、κ 型有機導体の絶縁相はフラ
ストレーションが存在するので、ハイゼンベルグ模型を超えるリングスピン交換相互作
用を考慮した異方的三角格子の相図導出し、スピン波近似を用いて、バンド構造のパラ
メータと比較した。
[Session 10]森
最後は化学のセッションで、凝集様式の多様性を生かした新規機能性分子性物質の発表
が続き、個性溢れる研究に外国人化学者から感嘆の声が上がっていた。B. Zhang (Chinese
Academy)は、ヤーンテラー効果で歪んだ Cu-oxalato アニオンを有する磁性伝導体につい
て報告した。石田(電通大)は、スピンエントロピー駆動による広義のスピンクロスオ
ーバー錯体[Ni(phpyNO)2Cl2]について発表した。この現象はラジカル配位子ー金属イオ
ンの分子内構造変形により、π―d スピンが強磁性から反強磁的にスイッチするためで
ことが議論された。持田(神戸大)は、イオン液体であるメタロセン錯体[Fe (C5H4Et)2]
[Tf2N]が、液体―固体相転移に伴い磁場誘起磁気異方性を示し、磁気メモリー効果を有
することを述べた。
最後に、Ouahab (Rennes 大)は、TTF が TTF
(Today, Tomorrow Forever)
分子であること、その誘導体を配位子として、新規単分子磁石 [Dy2(hfac)6(H2O)2(L)]、
および蛍光性単分子磁石 Yb 錯体を開発したことを報告した。
最後に、鹿野田領域代表と福山秀敏領域アドバイザーからクロージングの挨拶が有り、
会議は盛会のうちに終了した。
27
DECEMBER 1(SATURDAY)
December 1(Saturday) 16:00 – 18:00
Registration
December 1(Saturday) 18:00 – 21:00
Welcome Reception
DECEMBER 2(SUNDAY)
December 2(Sunday)8:20-8:40
Opening
December 2(Sunday)8:40-10:20
Oral Session 1
Chair: S. Uji
8:40-9:00
Oral-1
The FFLO State in BEDT-TTF-Based Organic Superconductors
J. Wosnitza
9:00-9:20
Oral-2
The Search for Inhomogeneous Superconductivity In OrganicSuperconductors
C. Agosta
9:20-9:40
Oral-3
Field-dependence of NMR properties of the quantum spin liquid EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2
S. Brown
9:40-10:00
Oral-4
Fourfold Symmetry in Flux Flow Resistivity and Normal State Magnetoresistance in the
d-wave Superconductor κ-(ET)2Cu(NCS)2
S. Yasuzuka
10:00-10:20
Oral-5
Thermodynamic Studies of κ-(BEDT-TTF)4Hg2.89Br8 under Pressures and with
Magnetic Fields
Y. Nakazawa
Break(10:20-10:40)
28
December 2(Sunday)10:40-12:20
Oral Session 2
Chair: K. Kuroki
10:40-11:00
Oral-6
Coherent Trajectories to Hidden States in Layered Chalcogenides
D. Mihailovic
11:00-11:20
Oral-7
Ultrafast Control of Ferroelectricity by Terahertz Electric Fields in Organic Charge
Transfer Compounds
H. Okamoto
11:20-11:40
Oral-8
Photoinduced Dynamics in Charge Transfer Complexes Examined by Time-Resolved
Vibrational Spectroscopy
K. Onda
11:40-12:00
Oral-9
Molecular “Photomagnetic Conductors”
T. Naito
12:00-12:20
Oral-10
Ferroelectric Charge Ordering in (TMTTF)2X Identified by Optical SHG Microscopy
K. Yamamoto
Lunch(12:20-14:00)
December 2(Sunday)14:00-15:40
Oral Session 3
Chair: H. Yamochi
14:00-14:20
Oral-11
Hydrocarbon Superconductor:Alakli- Alkaili-Earth and Rare Earth Metals
Doped Phenanthenrene
X. Chen
14:20-14:40
Oral-12
New Donor-Acceptor Type Organic Superconductor (EtDTET)(TCNQ)
T. Shirahata
29
14:40-15:00
Oral-13
Variations of Tc and Pc in β-(BDA-TTP)2I3 Depending on the Orientation of
Uniaxial Strain
J. Yamada
15:00-15:20
Oral-14
Anion Dependence of the Band Structure of β-(BDA-TTP)2X:Comparison between
X=I3 and MF6 (M=Sb, As, etc.)
H. Aizawa
15:20-15:40
Oral-15
Structural Study on Charge Ordering Insulating State of β″-(DODHT)2AsF6
H. Nishikawa
Break(15:40-16:00)
December 2(Sunday)16:00-17:20
Oral Session 4
Chairman: R. Kato
16:00-16:20
Oral-16
Chiral Molecular Conductors Based on Methylated TTF Derivatives
N. Avarvari
16:20-16:40
Oral-17
Chiral Conductors from Chiral Donors, Anions, and Solvents
L. Martin
16:40-17:00
Oral-18
A New Charge-Transfer Salt, (BTBT)2PF6
T. Mori
17:00-17:20
Oral-19
Development of Multifunctional Materials Using TTF-Benzothiazole Dyads
H. Fujiwara
17:20-17:40
Oral-20
Synthetic Challenges for the Crystallization of Cation Radical Salts with κ-type Packing
J.A. Schlueter
Dinner(18:00-20:00)
Poster Session-odd numbers- (20:00-22:00)
30
DECEMBER 3(MONDAY)
December3(Monday)8:40-10:20
Oral Session 5
Chair: H. Okamoto
8:40-9:00
Oral-21
High Field Characteristics of Kartsovnik-Kajita-Yamaji Resonances and the
Coherence Peak of Quasi-Two-Dimensional Electrons
W. Kang
9:00-9:20
Oral-22
Field-Induced Phases and Quantum Hall Effect in HMTSF-TCNQ
K. Murata
9:20-9:40
Oral-23
High Magnetic Field Study of Molecular Conductors (DIETSe)2FeX4
M. Maesato
9:40-10:00
Oral-24
Microscopic Solitons in Electronic Crystals
S. Brazovski
10:00-10:20
Oral-25
First-Principles Electronic-Structure Calculations for Single-Component Molecular
Metals
S. Ishibashi
Break(10:20-10:40)
December 3(Monday)10:40-12:20
Oral Session 6
Chair: T. Sasaki
10:40-11:00
Oral-26
A Molecule-based Quantum Spin Liquid studied using μSR
F.L. Pratt
11:00-11:20
Oral-27
Power-Law Dependence of the Optical Conductivity Observed in the Quantum
Spin-Liquid Compound κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
M. Dressel
31
11:20-11:40
Oral-28
Critical Exponents of the Mott Transition in EtMe3P[Pd(dmit)2]2
M. Abdel-Jawad
11:40-12:00
Oral-29
Novel Pauli-Paramagnetic Quantum Phase in a Mott Insulator
M. Yamashita
12:00-12:20
Oral-30
The Pseudogap Phase in Cuprate and Organic Superconductors from Quantum
Cluster Theories
J. Merino
Lunch(12:20-14:00)
December 3(Monday)14:00-15:40
Oral Session 7
Chair: A. Kobayashi
14:00-14:20
Oral-31
Neutral-Ionic Conversion in Halogen-Bonded Charge-Transfer Salts
M. Fourmigue
14:20-14:40
Oral-32 On Molecular Degrees of Freedom in TTF-based Organic Conductors:Two Polar
Examples
L. Zorina
14:40-15:00
Oral-33
Development of Functional Molecular Materials Based upon Molecular Degree of
Freedom
H. Mori
15:00-15:20
Oral-34
Transport Property of π-Stacked Radical Polymer of Trioxotriangulene Derivatives
T. Murata
15:20-15:40
Oral-35
Nanostructured Objects by Hierarchical Self Assembly of Open Shell Molecules
C. Rovira
Break(15:40-16:00)
32
December 3(Monday)16:00-17:20
Oral Session 8
Chair: M. Ogata
16:00-16:20
Oral-36
Dirac Electrons in Organic Conductors under Pressure
Y. Suzumura
16:20-16:40
Oral-37
NMR Studies on Massless Dirac Fermions in an Organic Conductor
M. Hirata
16:40-17:00
Oral-38
Thermopower and Nernst Effect of Massless Dirac Fermion System α-(BEDT-TTF)2I3
under Pressure
T. Konoike
17:00-17:20
Oral-39
Surface Magnetotransport due to Helical Edge State in the Organic Dirac Fermion
System at the Quantum Limit
T. Osada
Bunquet(18:00-20:00)
Poster Session-even numbers- (20:00-22:00)
33
DECEMBER 4(TUESDAY)
December4(Tuesday)8:40-10:20
Oral Session 9
Chair: Y. Suzumura
8:40-9:00
Oral-40
Organic Donor-Acceptor Ferroelectrics with Large Polarization
S. Horiuchi
9:00-9:20
Oral-41
Multiferroicity in the Organic Charge-Transfer Salt κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl
M. Lang
9:20-9:40
Oral-42
Novel Dimer-Mott to Charge-Order Transition in a Quarter-Filled Organic System
R. Okazaki
9:40-10:00
Oral-43
Polar-Charge Fluctuation and Superconductivity in Dimer Mott–Insulating System
S. Ishihara
10:00-10:20
Oral-44
Ring Exchange in the Anisotropic Triangular Lattice and the Insulating Phases of Organic
Charge Transfer Salts
B. J. Powell
Break(10:20-10:40)
December 4(Tuesday)10:40-12:00
Oral Session 10
Chair: H. Mori
10:40-11:00
Oral-45
Dual-functional Molecular Crystal from Jahn-Teller Distorted Cu-Oxalato Anion
B. Zhang
11:00-11:20
Oral-46
Spin-Transition-Like Behavior in a Novel Heterospin Triad: Bis(nitroxide)-Chelated
Nickel(II) Chloride
T. Ishida
34
11:20-11:40
Oral-47
Physical Properties of Metallocene-Based Charge-Transfer Salts
T. Mochida
11:40-12:00
Oral-48
Single Molecule Magnet Behaviour and Luminescence in Lanthanide Complexes Based
on Redox Active Ligands Derived From Tetrathiafulvalene
L. Ouahab
Closing 12:00-12:20
Lunch(12:20-14:00)
Shuttle Bus to Miyazaki Airport(14:00-)
Shuttle Bus to Miyazaki Airport(14:15-)
Shuttle Bus to Miyazaki Airport(15:00-)
Shuttle Bus to Miyazaki Airport(15:15-)
35
POSTER SESSION
P-1
S. Ashidate
Molecular Motions in Charge-Transfer Crystals and their Dielectric Properties
P-2
T. Akutagawa
Gas Adsorption-Desorption and Dielectric Responses of Cu Coordination Polymers
P-3
M. Danda
Calorimetry of Organic Charge Transfer Complexes under External Pressures
P-4
S. Fukuoka
Heat Capacities of π-d Interacting System of κ-(BETS)2FeCl4 and κ-(BETS)2FeBr4
P-5
T. Haraguchi
Phase Transition Behavior of [(EDO-TTF)1-x(CLEDO-TTF)x]2PF6
P-6
K. Hashimoto
Study of the Charge Glass State in θ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4 Investigated by Optical
Conductivity Measurements
P-7
C. Hashimoto
Chiral Charge-Transfer Salts Based upon New BEDT-TTF Derivatives Having
Hydrogen-Bonding Functional Groups
P-8
K. Hiraki
Se-NMR Study on λ-type BETS Based Field Induced Superconductor
P-9
Y. Hirao
Construction of New Electron Transfer Pathways across Hydrogen Bonds
P-10 S. Iguchi
Relaxor Ferroelectricity in a Dimer Mott Insulator β’-(BEDT-TTF)2ICl2
P-11 T. Inabe
Charge Transport at the Crystal-to-Crystal Interface
P-12 K. Inoue
Spin Structures and Dynamics of Chiral Magnets
P-13 Y. Ishii
μSR Study of a Quantum Spin Liquid, EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2
P-14 M. Ishikawa
Substituent Steric Effect on the Donor Morphology and the Packing Structures in the Salts
of EDO-TTF Derivatives
P-15 T. Isono
Possible Quantum-Spin-Liquid State in a Dimer-Mott Insulator κ-H3(Cat-EDT-TTF)2
36
P-16
H. Itoh
Photoinduced Phase Transition in a Charge-Ordered Ferroelectric α’-(ET)2IBr2
P-17
M. Ito
μSR Studies on Organic Antiferromagnets, d8-κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br
and κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl
P-18
M. Itoi
Magnetic Anisotropy of (TMTTF)2X (X = PF6 and SbF6) Investigated by Cantilever Torque
Measurement in High Magnetic Field
P-19
T. Kanao
Defect-Induced Zero-Energy Localized State in α-(BEDT-TTF)2I3
P-20
K. Katono
STM Observation of the Density Wave State in α-(BEDT-TTF)2KHg(SCN)4
P-21
M. Kato
Anthraquinonoid-Extended Analogues of Bis-Fused TTF Donors
P-22
R. Kato
Conducting Pd(dmit)2 Radical Anion Salts with Fluorinated Onium Cations
(dmit = 1,3-dithiol-2-thione-4,5-dithiolate)
P-23
T. Kawamoto
Transport and Magnetic Torque Studies of the Dual-Layered Organic Superconductor
κα’1-(BEDT-TTF)2Ag(CF3)4(TCE)
P-24
S. Ohira-Kawamura
Phonon Modes Reflecting Ferroelectricity in β’-(BEDT-TTF)2ICl2 Studied by Inelastic
Neutron Scattering
P-25
N. Kirova
Expectations for Electronic Ferroelectricity in Conjugated Polymers
P-26
Akiko Kobayashi
Magnetic Single-Component Molecular Conductors Exhibiting Strong π-d Interactions
P-27
Akito Kobayashi
Node of Wave Function and Nuclear Magnetic Resonance for Dirac Electrons in Molecular
Conductor
P-28
J. Kobayashi
Angle-Resolved Thermoelectric Power in κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
P-29
Y. Kudo
Electronic Functionalities of Alloyed (Pb,Sn)-I Organic-Inorganic Hybrids
37
P-30
S. Kumeta
Structural and Electronic Properties of the New Organic Conductors
(DMEDO-TTF)2X (X = ClO4, BF4, and TaF6)
P-31
S. C. Lee
Crystal Structures and Physical Properties of Hydrogen-Bonded Charge Transfer Complexes
Based on Pyridyl-Substituted TTF Derivatives
P-32
M. Matsuda
Introduction of Asymmetry in Axially Substituted Iron Phthalocyanine toward Construction
of New Molecular Ferroelectrics
P-33
H. Matsuura
Theory of Mechanism of π-d Interaction in Iron-Phthalocyanine
P-34
M. Mitsumi
Structural Phase Transition and Dielectric Property of Hydrogen Bonded
p-Benzosemiquinone Complex
P-35
A. Miyazaki
Synthesis and Properties of TTF Derivatives with a Redox-Active Organoiron Building
Block
P-36
T. Nakamura
Preparation, Crystal Structure and Magnetic Properties of New Dithiolene Ligand,
1,3,2-Dithiazole-4-thione-5-thiolate, and its Metal Complex
P-37
K. Nakamura
Ab initio Low-Energy Models for Organic Materials
P-38
Y. Nakajima
Nano-Sized Crystal Growth of Conductive Molecular Compounds on Organic
Semiconductive Crystal Surface
P-39
M. Nomura
Multiple Band Molecular Conductors Based on Pt(dmit)2 Complex
(dmit = 1,3-dithiol-2-thione-4,5-dithiolate)
P-40
R. Ogasawara
Development of Dye-Sensitized Solar Cells Using a TTF-Hydroxyquinoline Dyad
P-41
T. Oka
Theory of Nonequilibrium Superconductivity in Cuprates
P-42
Y. Oka
STM Spectroscopy on λ-(BETS)2GaCl4
38
P-43
Y. Onodera
Study on Mott Transition of κ-ET2Cu[N(CN)2]Cl by Measuring DC Susceptibility under He
Gas Pressure
P-44
T. Osaki
Electrical Properties and Electronic Structure of Organic-Inorganic Hybrid Cubic Perovskite:
CH3NH3(Pb1-xSnx)I3 (0≦x≦1)
P-45
Y. Oshima
Spin-Driven Insulating Mechanism in λ-(BETS)2FeCl4
P-46
K. Otsuka
The Magnetic Structure in Antiferromagnetic State of Frustrated Spin Systems,
β’- Me4P[Pd(dmit)2]2 and β’- Et2Me2P[Pd(dmit)2]2
P-47
T. Sasaki
Charge Degrees of Freedom Probed by Infrared Spectroscopy in Molecular Dimer-Mott
Insulators
P-48 M. Sato
Experimental Verification of the Surface State in the Multi-layer Dirac Fermion System
P-49
H. Sawa
Charge Density Study of Molecular Conductors
P-50
H. Seo
Effective Model and Spin/Charge Ordering in Pd(dmit)2 Salts
P-51
T. Shimokawa
Structures and Electronic Properties of Mixed-Stacking Ni (dmit)2 Salts
P-52
T. Shinkawa
Physical Properties of Organic Insulators,PT2X (X=ICl2, IBr2 and I3), under Ambient and
High Pressures
P-53
K. Sugii
Incoherent Interlayer Transport in α-(BEDT-TTF)2NH4Hg(SCN)4
P-54
H. Tajima
Low-Temperature Photo-CELIV Measurement in P3HT:PCBM Bulk-Hetero Junction
P-55
R. Takagi
Orbital States and Physical Properties of Single-Component π-d System Probed by NMR
P-56
K. Takahashi
Pressure and Photo Responses of Spin Crossover Related Compounds
P-57
K. Takayama
Functional Organic Crystals Fabricated by Contact Carrier Doping
39
P-58
S. Takayoshi
Photo-Induced Phase Transition in a Quantum Spin System: Laser Induced Magnetization
and Breakdown of the Haldane Phase
P-59
R. Takehara
Neutral-Ionic Domain Wall Excitation in the NI Crossover of TTF-CA
P-60
Y. Takita
π-d Interaction in the Axially Ligated Metal Phthalocyanine Conductors
P-61
Y. Tanaka
Checkerboard Charge Order and Nonlinear Conduction in β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6
P-62
M. Tsuchiizu
Intramolecular Charge Ordering in the (TTM-TTP)I3 Compound
P-63
S. Tsuchiya
Systematic Studies of Fluctuating Superconductivity under In-plane Magnetic Field for κ-and
α-Type Organic Superconductors
P-64
K. Tsujimoto
Development of Photo-functional Conductors Based on TTF-Pyrene Dyads
P-65
T. Tsumuraya
First-Principles Study on Electronic Structure of β’-X[Pd(dmit)2]2 (X = Me4P and Et2Me2P)
under High Pressure
P-66
A. Ueda
Introduction of Selenium Atoms into Catechol-Fused TTF System: Synthesis, Structures, and
Properties of Novel Organic Conductors
P-67
K. Ueda
Quantum Spin Liquid Behavior Controlled by a Frustration Parameter in
(Et2Me2As1-xSbx)[Pd(dmit)2]2 Mixed Crystals
P-68
T. Uehara
Study on Superconducting Fluctuation of κ-ET2X (X=Cu(NCS)2, Cu[N(CN)2]Br) by
Susceptibility Measurement
P-69
S. Uji
Is FFLO Phase a Universal Feature of λ-(BETS)2FexGa1-xCl4 ?
P-70
K. Yakushi
Raman Study of κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
P-71
H. M. Yamamoto
Electric-Field Induced Superconductivity in an Organic Mott-Insulator
40
P-72
S. Yamashita
Thermodynamic Properties of the Spin-Liquid State in Dimer-Mott Systems
P-73
H. Yamochi
Hidden State of (EDO-TTF)2PF6 in Thermal Process
P-74
S. Yonezawa
Anisotropic Superconductivity in (TMTSF)2ClO4
P-75
H. Yoshioka
Enhancement of Charge Ordering due to External Magnetic Field in One-Dimensional
Molecular Conductors
P-76
B. Zhou
Dielectric Properties of 1D Water Clusters Confined in Porous Crystal,
[Co3(2,4-pydc)2(μ3-OH)2]·9H2O
41
会議報告;Tokyo workshop on spin/charge liquids near ordering
鹿野田一司
表記の国際ワークショップ(A01 班拡大会議)が 2012 年 11 月 29 日-30 日の 2 日間、東京大学本郷キャ
ンパスで開催された。最近の強相関物理学における話題の一つがスピン液体である。三角格子やカゴメ格子
の格子点に置かれたスピンが隣同士で反強磁性的に相互作用するときに、基底状態は如何なるものか?3角
形の頂点にある 3 つのスピンを仲良く反平行に配置することはできないというスピンの三角関係(スピンフ
ラストレーション)が問題となるが、1970 年代前半に P. W. Anderson が、スピンの一重項対が三角格子全体
を埋め尽くす無数のパターンが量子力学的に共鳴する RVB 状態を基底状態として提案した。以来、この状
態の探索が続き、銅酸化物の高温超伝導の発現機構など様々な文脈で顔を出してはきたが、今世紀に入るま
で、"三角格子における磁気秩序の無い状態"は存在しなかった。しかしついにその最有力候補が現れた。そ
れが-(ET)2Cu2(CN)3 と EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2、である。以来、スピン液体は実体のある物理学として研究が加
速している。この両物質、フラストレート磁性の会議では必ず取り上げられているが、いつも散発的で、集
中的に討論されることが無かった。今回の workshop では少人数でそれを徹底的に行った。また、フラスト
レーションはスピンだけの問題ではなく電荷自由度にも存在する。そこで、本 workshop では、電荷秩序間
際の電荷集団の問題も取り上げた。参加者は外国人 5 名、日本人約 25 名で、発表時間は一人当たり30分
又は40分で、討論を重視するため議論に十分な時間を割くよう努めた。
初日は主に Pd(dmit)2 系について討論した。加藤(RIKEN)が物質、構造、物性全般について紹介した。
Pd(dmit)2 系は様々なカウンターカチオンと電荷移動錯体をつくり、基底状態は、スピン液体の他に、反強
磁性体、valence bond solid、2種類の電荷秩序相など多彩で、カチオンを混晶化することにより系統的な物
性研究が可能となることが示された。その一連の混晶系についての比熱測定の結果が中澤(阪大)によって
紹介された。特に、スピン液体と反強磁性体あるいは電荷秩序相の相境界での振舞いが詳細に報告され、重
水素体での電子比熱係数の異常な増大などの問題点が挙げられた。比熱と熱伝導率はフェルミ粒子的な励
起を示唆するが、これと相容れないのが NMR 緩和率の結果で、Brown (UCLA)と伊藤(東大)から報告が
あった。緩和率が温度降下に対して急に減少する温度が存在すること、磁場あるいは周波数に極めて敏感で
あることが未だに謎のままである。理論からは、妹尾(RIKEN)が電子状態計算について報告し、分子軌
道が分子内でかなり非対称になっているのが印象的であった。また、Mo3S7(dmit)3 という Mo トライマーを
ユニットとする系がバンド充填 1/2 から大きくずれているにもかかわらず新種のスピン液体になる可能性
が Powell (U Queensland)から提案された。2日目は、
-(ET)2Cu2(CN)3 が主なテーマであった。この物質はダイマ
ーモット絶縁体として認識されているが、最近、ダイマー
内の電荷揺らぎがスピン液体との関連で議論されている。
佐々木(東北大)が誘電率と分極測定から、岩井(東北大)
が高速光応答実験から、石原(東北大)が理論からこの可
能性を論じた。電荷不均衡の揺らぎが低温まで続くのか、
どこかで凍結するのかがスピン液体との関連では焦点と
なろう。SR 実験に関して、後藤(上智大)から低温で相
分離を示唆する結果が紹介された。NMR で示唆された不
均一な磁性と符合する。Pratt(Appleton Lab)からは、磁
場で磁気モーメントが誘起され、それがスピン励起の BEC
とその deconfinement で説明できるとの報告があった。
電荷秩序の不安定性に関しては、岡崎(名大)が、-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6 が電荷秩序転移する前に
ダイマーモット絶縁体の性質を持つことを光学伝導度測定によって示し、Dressel (U. Stuttgart)は、
-(ET)2Hg(SCN)nCl3-n が 30Kで電荷秩序転移し、それより高温の金属相がスピン一重項揺らぎを伴う bad
metal であることを光学測定で示し、賀川(東大)は、三角格子系-(ET)2RbZn(SCN)4 が電荷秩序転移前及び
急冷低温域において、ガラスに特徴的な時空構造を持つ電荷/格子揺らぎを持つことを電気抵抗の雑音測定
と X 線散漫散乱で示した。電荷秩序相近傍には多様な電子相が存在することを暗示している。
Merino (U. Autonoma Madrid) は 、 - 型 塩 を 念 頭 に 置 い た バ ン ド 充 填 1/2 の ハ バ ー ド モ デ ル を
DCA(dynmical cluster approach)という方法で調べ、モット転移近傍にいわゆる擬ギャップ相が存在し、格子
が三角形に近くなるほど擬ギャップが抑制されるという実験と一致する理論結果を報告した。
今回の workshop では、少人数で形式張らずざっくばらんに議論を深めることができた。参加者の外国人
からも、好評であった。次頁にプログラムを掲載する。
42
Tokyo workshop on spin/charge liquids near ordering
Scope; Quantum spin liquids have been long anticipated but unknown in correlated electron systems. With organics,
however. we now have those in hand and are going to the next stage of research to clarify the natures. The puzzling
data in experiments, such as gapped or not, the 6K anomaly, an inhomogeneity, field-induced phases and the possible
involvement of charge degrees of freedom, seem to suggest new physics about to emerge in front of us. This
workshop provides the first opportunity to intensively discuss the spin liquid-related results in organics. Moreover,
melting, short range order or vitrification of charge order possibly shares physics with respect to frustration. This
workshop addresses these spin and charge states as novel electronic phases near ordering.
Dates; Nov.29-30, 2012
Venue; Ito International Research Center in Hongo Campus of University of Tokyo
東京大学本郷キャンパス内 伊藤国際学術研究センター3F 中教室
Chair; Kazushi Kanoda Secretariat; Kazuya Miyagawa
Nov.29 (Thursday)
11:00 K. Kanoda (Tokyo) Opening
Session; dmit --materials and thermodynamics
11:15 R. Kato (RIKEN) A variety of ordered states around the spin liquid in the Pd(dmit)2 system
11:55 Y. Nakazawa (Osaka U) Thermodynamics of Dimer Mott Systems with Spin Liquid Characters
12:35-14:00 lunch
Session; dmit --theory
14:00 B. Powell (Queensland) Mo3S7(dmit)3, a strongly correlated insulator far from half-filling
14:40 H. Seo (RIKEN) On the frustration parameters in Pd(dmit)2 salts; Effect of charge degree of freedom
15:10-15:40 break
Session; dmit --NMR-15:40 S. Brown (UCLA) NMR in the frustrated antiferromagnets EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 and (TMTTF)2SbF6
16:20 T. Itou
(Tokyo) Spin liquid state in EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 studied by 13C-NMR measurements
Nov.30 (Friday)
session; Mottness and charge degrees of freedom I
9:00 T. Sasaki (Tohoku) Dielectric properties of molecular dimer-Mott insulators with triangular and square lattices
9:40 S. Ishihara (Tohoku) Competition between Dimer Mott insulator & Polar charge order in kappa-type ET salts
10:10 S. Iwai (Tohoku) Ultrafast/THz responses of dimer Mott insulators -(ET)2(CN)3 and '-(ET)2ICl2
10:40-11:10 break
Session; Mottness and charge degrees of freedom II
11:10 M. Dressel (Stuttgart) Paired-electron-crystal ground state in -(BEDT-TTF)2Hg(SCN)2Cl: interplay of charge
order and spin degrees of freedom
11:50 J. Merino (Madrid) Mott transition, spin liquid behavior and pseudogap in cuprates and organics
12:30-14:00 lunch
Session; SR
14:00 F. Pratt (Appleton Lab) The triangular lattice QSL: confronting theory and experiment
14:40 T. Goto (Sophia U) Microscopic phase separation in triangular-lattice quantum spin magnet -(ET)2Cu2(CN)3
probed by muon spin relaxation
15:20-15:50 break
Session; charge order/liquid/glass
15:50 R. Okazaki (Nagoya) Optical evidence of competition between charge-order and dimer-Mott insulators
16:20 Fumitaka Kagawa (Tokyo) Charge glass behavior in -(ET)2RbZn(SCN)4
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新学術領域の成果を踏まえ、日本の次の研究の発展と世界への発信を期待しています
東京工業大学
榎 敏明
本新学術領域も最終年度を迎え、5 年間の研究推進も 3 月で終了となります。この間の代
表者鹿野田先生を始め、総括班、参加された研究者の方の精力的な研究推進に大きな感銘を
受けるとともに、得られた素晴らしい研究成果の世界の分子性導体研究の中での大きな存在
感を感じております。
1950 年代に赤松、井口、松永先生らによって、有機分子に伝導性があることが発見され、
分子性導体の歴史の扉が日本から開かれました。その後、
分子伝導体の研究は世界に広がり、
1973 年に金属性分子伝導体 TTF・TCNQ、1979 年には TMTSF 錯体での有機超伝導が発見さ
れ、分子伝導体の研究が大きな学問分野となりました。この中で、当初のきっかけを作った
日本での研究は次第に存在感が薄れ、欧米諸国の研究がこの分野をリードしてきました。
1980 年代になると日本での若手研究者を中心とした研究の萌芽が生まれ、BEDT-TTF 等の
新規物質を用いた物質開拓と、構造解析、伝導測定、ハンド計算、低次元電子系の物理の研
究が一体となって研究が進められ、幅広い、包括的な分子伝導体の研究分野が構築され、日
本がその後のこの分野の研究を大きくリードする基礎が築かれました。この中で、特定領域
研究等の研究プロジェクトが継続的に組まれ、分子性伝導体の組織的な研究活動が行われ、
研究コミュニティ―が成長してきました。
本新学術領域研究はこのような日本の分子性導体研究の歴史を基礎に、新たに” 分子自由
度”を基軸として物質開拓研究を進めてきました。新物質の開拓、新しい電子相・磁性相の
発見、特異な新規現象の発見、新しい手法の導入、電子デバイスへの展開等、本プロジェク
トに参加した研究者の貢献は極めて大きなものがあります。そのことは ICSM や ISCOM 等
のこの分野の主要国際会議での本プロジェクト参加者の大きな貢献や研究発信から明白な
事実であります。現在、世界の分子性導体研究は日本のリーダーシップ無しには語れないも
のがあり、取り分け本新学術領域研究の存在がこのことに重要な役割を果たしております。
一方、翻って日本の研究活動を見ますと、世界の研究の中でのその地盤沈下の急激な進行
には目を覆うものがあります。私は雑誌 Carbon の編集委員をしておりますが、ニ次電池材
料、キャパシタ、炭素ナノチューブ、グラフェン等の十八番を持ち、アジアの中でトップの
投稿数を有していた日本は、現在、中国、韓国、インドに抜かれ、4 位となっております。
日常的な雑誌編集作業の中で、日本の地盤沈下を実感として肌で感じております。
分子性導体は、基礎科学としての展開は勿論、次世代電子デバイス応用を担うものとして
極めて重要な分野となっております。このような厳しい日本を取り巻く世界の中で、本新学
術領域研究の 5 年間の研究成果を踏まえ、本プロジェクト参加の研究者が過去の栄光に自己
満足することなく、リーダーシップをもって、分子性導体、分子性機能物質の新しい独創的
な研究を展開し、日本の研究を大いに世界に発信して行くことを期待しております。
44
「更に一層の飛躍を」
鹿児島誠一(明大・理工)
本領域研究は、中間評価で A+という高い評価を受け,研究の最終年度を終えようとし
ている.このプロジェクト研究の運営上の特徴は,外国を含む関係他分野との交流に
力が入れられたことであろう.まずは,研究態勢の維持・運営の任務を担ってこられ
た皆様のご苦労に感謝したい.
研究成果の新たなキーワードは,各種報告書などにも書かれているように,量子ス
ピン液体,分子性結晶の強誘電性、光による伝導性の制御、磁場による誘電性,超短
パルス光励起による不安定状態などであろう.これらのキーワードと「分子の自由
度」との関係は容易に想像がつくとおりである.
さて,次は何だろうか.これは「衆目が一致」するものであってはなるまい.一人
一人の研究者が我が道を行くなかにこそ,新たな展開があるに違いない.中間評価で
は「より挑戦的な課題を推進し、従来の分子性固体の次元を超えた、我が国オリジナ
ルの新学術領域を創成することを」期待されている.科研費による研究といえども基
礎研究であるから,「我が国オリジナル」にこだわる必要はない.ぜひとも「我がオ
リジナル」を目指していただきたい.
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新学術領域研究「分子自由度が拓く新物質科学」
終了に際してのコメント
2013.1.18
福山秀敏
本研究領域は物性物理学と固体化学の連携に基づき「分子性結晶」における(1)電子相
の開拓、(2)外部刺激による電子相制御、(3)分子および分子配列の開発と制御、を目
指して発足した。
(1)2)については「スピン液体」
「Dirac 電子」等世界的に大きな注目
を集める顕著な成果を挙げに研究活動は極めて順調に展開された。
「スピン液体」については P. W. Anderson が 1971 年に予言して以来その実現を目指して
世界中が競っていたが、本領域代表が 2003 年についにそれに成功した。その後別種の「ス
ピン液体」が本領域メンバーによって合成されそれらの共通性と個別性が明らかにされた
が、正体はいまだに謎であり、解明が待たれる。なお、「スピン液体」の最初の例において
発見された「モット絶縁体での誘電異常」は「モット絶縁体」の概念を拡げる重要な成果
であり、反強磁性・スピン液体という磁気的性質と低エネルギー電荷励起との関連の解明
は今後の課題である。
「固体中のニュートリノ」ともいうべき「Dirac 電子」の本領域メンバーによる発見とその
物性探求については「グラフェン」と比較しつつ共通性と特異性が明らかにされた。とり
わけ crossing point 近傍でのホール係数の化学ポテンシャル依存性に関して、ホール係数
によって「有効キャリア数」を決定するという伝統的な手法がまったく不適切であるとの
理論予言とそれについての詳細な実験検証は「教科書的」意義を持ち、今後 topological
insulator における電気伝導等の理解においても役割を果たすと想像される。加えて他の系
における「Dirac 電子」の実現による広汎な研究展開を期待したい。
本領域では上記のように「分子性結晶」物性研究において顕著な成果を挙げた。この成果
を踏まえることにより今後異なったしかし相互に関連する2つの方向への研究の展開が可
能であると期待する。一つは、ポリマー・有機デバイス・太陽電池等有機材料に関する基
礎物性研究、他方はアミノ酸・タンパク質、塩基・DNA 等生物物質科学研究、である。実
際、後者に関連して、本領域メンバーにより世界に先駆けて合成され、その電子状態の詳
細が追求された「単一分子種金属」(single component molecular metals)は金属タンパク質
と共通の要素を持っていることは注目に値する。生物系モデル物質・有機材料いずれの観
点からも新しい「分子系」の開発を期待したい。
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参画者名簿
領域アドバイザー
榎 敏明
東京工業大学 大学院理工学研究科 特任教授
鹿児島 誠一
明治大学 理工学部 物理学科 特任教授
中筋 一弘
福井工業大学 教授
福山 秀敏
東京理科大学 理学部 教授
A01班:分子配列自由度を利用した新規電子相の開拓
研究代表者 鹿野田 一司
東京大学 大学院工学系研究科 教授
研究分担者 高橋 利宏
学習院大学 理学部 教授
研究分担者 小林 晃人
名古屋大学 大学院理学研究科 准教授
連携研究者 鈴村 順三
名古屋大学 大学院理学研究科 名誉教授
連携研究者 宮川 和也
東京大学 大学院工学系研究科 助教
連携研究者 開 康一
学習院大学 理学部 助教
連携研究者 土射津 昌久
名古屋大学 大学院理学研究科 助教
連携研究者 森 健彦
東京工業大学 大学院理工学研究科 教授
連携研究者 田嶋尚也
東邦大学 理学部 准教授
連携研究者 市村 晃一
北海道大学 大学院工学研究科 准教授
連携研究者 谷口 弘三
埼玉大学 大学院理工学研究科 准教授
連携研究者 菅原滋晴
東京理科大学 理工学部 助教
A01班:公募研究
佐々木 孝彦
研究代表者 「ダイマーモット型分子性導体に内在する特異な電荷自由度 東北大学 金属材料研究所 教授
の研究」
研究代表者
長田 俊人
東京大学 物性研究所 准教授 「有機多層ディラック電子系におけるヘリカル表面状態」
米澤 進吾
研究代表者 「精密比熱測定と第一原理バンド計算から明らかにする有機 京都大学 大学院理学研究科 助教
超伝導体の超伝導秩序変数構造」
研究代表者
中澤 康浩
大阪大学 大学院理学研究科 教授 「熱容量測定による分子自由度のエントロピー評価」
村田 惠三
研究代表者 「ゼロ質量的分散関係を持つ有機導体における制御された
大阪市立大学 大学院理学研究科 教授 高圧・強磁場下での物性の探索」
連携研究者 井口 敏
東北大学 金属材料研究所 准教授
連携研究者 米山 直樹
山梨大学 工学部 助教
連携研究者 山本 貴
大阪大学 大学院理学研究科 助教
A02班:分子軌道設計による新規電子相の開拓
研究代表者 小林 昭子
日本大学 文理学部 教授
研究分担者 西堀 英治
名古屋大学 大学院工学研究科 准教授
研究分担者 堀内 佐智雄
産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター チーム長
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研究分担者 石橋 章司
産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 研究グループ長
研究分担者 加藤 礼三
理化学研究所 加藤分子物性研究室 主任研究員
研究分担者 澤 博
名古屋大学 大学院工学研究科 教授
連携研究者 周 彪
日本大学 文理学部 助教
連携研究者 熊井 玲児
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授
連携研究者 寺倉 清之
北陸先端科学技術大学院大学 先端融合領域研究院 特別招聘教授
連携研究者 山本浩史
分子科学研究所 電子物性研究部門 教授
研究協力者 小林速男
日本大学 文理学部 客員教授
研究協力者 徳本 圓
産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 客員研究員
A02班:公募研究
研究代表者
稲辺 保
北海道大学 大学院理学研究院 教授 「化学修飾による電子相関効果とπーd相互作用の制御」
川本 正
研究代表者 「2種類の分子配列層をもつ新型有機超伝導体における超
東京工業大学 大学院理工学研究科 助教
伝導発現機構の解明」
研究代表者
藤田 渉
首都大学東京 大学院理工学研究科 准教授 「有機ラジカル結晶における分子自由度と磁気相転移」
連携研究者 武次 徹也
北海道大学 大学院理学研究院 教授
連携研究者 花咲 徳亮
大阪大学 大学院理学研究科 教授
連携研究者 内藤 俊雄
愛媛大学 大学院理工学研究科 教授
連携研究者 高橋 幸裕
北海道大学 大学院理学研究院 助教
A03班:スピン自由度を利用した電子相制御
研究代表者 宇治 進也
物質・材料研究機構 超伝導物性ユニット ユニット長
研究分担者 小形 正男
東京大学 大学院理学系研究科 教授
研究分担者 妹尾 仁嗣
理化学研究所 古崎物性理論研究室 専任研究員
研究分担者 大島 勇吾
理化学研究所 加藤分子物性研究室 専任研究員
連携研究者 山口 尚秀
物質・材料研究機構 ナノフロンティア材料グループ 主任研究員
連携研究者 鴻池貴子
東京大学 物性研究所 助教
連携研究者 大塚 雄一
理化学研究所 計算化学研究機構 量子系物質科学研究チーム 研究員
連携研究者 伏屋 雄紀
大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教
連携研究者 吉岡英生
奈良女子大学 理学部 准教授
研究協力者 石原 純夫
東北大学 大学院理学研究科 教授
研究協力者 求 幸年
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
研究協力者 西尾 豊
東邦大学 理学部 教授
A03班:公募研究
研究代表者
安塚 周磨
「強相関電子系におけるスピン揺らぎと異方的散乱の制御」
広島工業大学 工学部 准教授
瀧川 仁
研究代表者 「鉄フタロシアニン錯体におけるパイd相関と新規な量子秩序 東京大学 物性研究所 教授 相」
山下 穣
研究代表者 「極低温磁気トルク測定による量子スピン液体状態の磁気励 理化学研究所 加藤分子物性研究室 研究員
起の研究 」
A04班:光による電子相制御
研究代表者 岡本 博
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
研究分担者 岩井 伸一郎
東北大学 大学院理学研究科 教授
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研究分担者 島野 亮
東京大学 大学院理学系研究科 准教授
研究分担者 石坂 香子
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
連携研究者 松﨑 弘幸
産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 研究員
連携研究者 辛 埴
東京大学 物性研究所 教授
連携研究者 Chainani Ashish
理化学研究所 放射光科学研究センター 専任研究員
連携研究者 伊藤 弘毅
東北大学 大学院理学研究科 助教
連携研究者 米満賢治
中央大学 理工学部 物理学科 教授
連携研究者 恩田 健
東京工業大学 大学院総合理工学研究科 特任准教授 A04班:公募研究
岡 隆史
研究代表者 「多バンド系における光誘起幾何学効果と相関電子系の非
東京大学 大学院工学系研究科 講師 平衡相転移」
研究代表者
寺崎 一郎
名古屋大学 大学院理学研究科 教授
「ダイマー系有機導体の電場下顕微分光」
山本 薫
研究代表者 「フラストレーションで抑制された強誘電性電荷整列の分子
分子科学研究所 物質分子科学研究領域 助教 自由度操作による秩序化制御」
連携研究者 青木 秀夫
東京大学 大学院理学系研究科 教授
連携研究者 岡崎 竜二
名古屋大学 大学院理学研究科 助教
連携研究者 安井 幸夫
明治大学 大学院理工学学研究科 准教授
連携研究者 薬師 久弥
豊田理化学研究所 フェロー
A05(a)班:新しい電子機能を目指した分子内自由度の開発
研究代表者 矢持 秀起
京都大学 低温物質科学研究センター 教授
研究分担者 御崎 洋二
愛媛大学 大学院理工学研究科 教授
研究分担者 藤原 秀紀
大阪府立大学 大学院理学系研究科 准教授
研究分担者 森田 靖
大阪大学 大学院理学研究科 准教授
連携研究者 大塚 晃弘
京都大学 低温物質科学研究センター 助教
連携研究者 中野 義明
京都大学 低温物質科学研究センター 助教
連携研究者 白旗 崇
愛媛大学 大学院理工学研究科 助教
連携研究者 前里 光彦
京都大学 大学院理学研究科 助教
A05(b)班:新しい電子機能を目指した分子間相互作用の制御
研究代表者 森 初果
東京大学 物性研究所 教授
研究分担者 山田 順一
兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 准教授
研究分担者 西川 浩之
茨城大学 理学部 教授
研究分担者 黒木 和彦
電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授
研究分担者 高橋 一志
神戸大学 大学院理学研究科 准教授
連携研究者 上田 顕
東京大学 物性研究所 助教
連携研究者 磯野貴之
東京大学 物性研究所 特任研究員
連携研究者 圷 広樹
兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 助教
連携研究者 有田 亮太郎
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
連携研究者 相澤 啓仁
神奈川大学 工学部 特別助手
連携研究者 近藤 隆祐
岡山大学 大学院自然科学研究科 准教授
研究協力者 野上由夫
岡山大学 大学院自然科学研究科 教授
研究協力者 渡邉真史
東北大学 未来科学技術共同研究センター庄子プロジェクト 准教授
研究協力者 小林 由佳
物質・材料研究機構 ナノ材料科学環境拠点 グループリーダー
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研究協力者 糸井 充穂
日本大学 医学部 助教
研究協力者 小林 夏野
青山学院大学 理工学部 助教
研究協力者 加藤 岳生
東京大学 物性研究所 准教授
A05班:公募研究
研究代表者
芥川 智行
東北大学 多元物質科学研究所 教授
「超分子ローター型強誘電体の物性制御」
中村 和磨
研究代表者 「有機化合物強相関電子系に対する第一原理有効模型構
九州工業大学 大学院基礎科学研究系 准教授
築:『物質差異』の定量化」
研究代表者
笹川 崇男
東京工業大学 応用セラミック研究所 准教授 「ダイヤ分子凝集相の電子機能開拓」
石田 尚行
研究代表者 「ヘテロスピン系の特異な結合を利用した材料群の創出と構 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授
造相転移物質への展開」
今久保 達郎
研究代表者 「ヘテロ元素の特性を活用した有機超伝導体の電子物性制 長岡技術科学大学 工学部 准教授
御」
宮崎 章
研究代表者 「TTF系ドナーを配位子とした有機鉄化合物を用いた新規分 富山大学 大学院理工学研究部(工学) 准教授
子磁性電導体の開拓」
平尾 泰一
研究代表者 「プロトン共役電子移動を利用した機能性有機電子材料の
大阪大学 大学院理学研究科 助教
開発」
研究代表者
持田 智行
神戸大学 大学院理学系研究科 教授
「金属錯体系電荷移動錯体における価数転移・磁気転換」
松田 真生
研究代表者 「巨大負磁気抵抗を発現するフタロシアニン系に基づいた磁 熊本大学 大学院自然科学研究科 准教授
場応答分子性強誘電体の構築」
研究代表者
満身 稔
兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 助教
「分子双安定性を示す磁性伝導体の創出」
吉岡 直樹
研究代表者 「水素結合を利用した強磁性ニトロキシラジカル集積体の開 慶應義塾大学 理工学部 教授 発」
連携研究者 星野 哲久
東北大学 多元物質科学研究所 助教
連携研究者 岡澤 厚
東京大学 大学院総合文化研究科 助教
連携研究者 花咲 徳亮
大阪大学 大学院理学研究科 教授
連携研究者 前田 千尋
慶應義塾大学 理工学部 助教
研究協力者 田島 裕之
東京大学 物性研究所 准教授
研究協力者 木俣 基
東京大学 物性研究所 助教
※名簿の所属は2013年2月現在のものです。
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