9. 医療サービスの経済的評価 医療資源の効率的利用という観点から,医療サー ビスや医療プログラムに対する経済的評価が求 められている. ⇒複数の選択の余地がある場合,どれを選ぶの が資源配分上望ましいか? 治療方法,薬など (1)基本的な評価方法 (2)QOL(Quality of Life)の測定方法 1 ◎ CBA(Cost-Benefit Analysis)とは 公共投資プロジェクトで,社会全体の費用と便益を 求め,利潤にかえて便益と費用の差である純便益 を計算.それに依拠し,実行可能性や優先順位が 判定される.(例,プロ野球?,スーパー林道など) z便益⇒消費者の自発的支払い意思額(WTP)で 評価.払っても良い「最高額」.限界的便益を足し 合わせた,すなわち需要曲線の下側の面積となる. ¾いま異時点間の費用や便益を評価・比較するため,割 引現在価値を求める.あるプロジェクトのt期の便益をBt, 費用をCt,割引率をr,プロジェクト年数をTとすると,当該 プロジェクトの評価基準となる0期からT期までの純便益の 4 割引現在価値PDV(Present Discounted Value)は, 9.1. 経済的評価の必要性と基本的な考え方 経済状況により,医療費抑制が急務でも,人命や健康改 善にかかわるだけに,ただ医療費を抑制すればよいとい うわけにはいかない. 希少資源の効率的利用と最適配分の問題 z以前に学んだように,医療サービスは私的財だが,準 公共財的性質をもつ.伝染病予防に代表されるように外 部性がある.そして情報の非対称性.治療成果の不確実 性も. ⇒公的介入→公的介入が必要な財を効率性の観点から 評価する手段→経済的評価 PDV=∑t=0T (Bt−Ct) / (1+r)t ¾PDV>0なら実行.正値のプロジェクトは,潜在的 にパレート改善するという基礎の上にCBAという評 価方法は成り立っている.他にもいろいろあるが, いずれ割引率の選択が重要.どの利子率を使うの が適当か? z医療では,すべてを金銭的価値に換算するのは 困難であり,「費用・効果分析」や「費用・効用分析」 も用いられる. 2 5 z新技術による治療時間の削減 金銭的費用に加 えタイムコストも評価する必要性 z内視鏡手術(非開腹) QOLの改善 QOLへの影 響も考慮すべき まとめると, 「費用」対「結果(効果)」の関係を代替案間で比較 する 優先順位がわかる→代替案の選択重要に!! ■効率性に重点を置く経済的評価では,すべての 個人に等しいウェイトを付与 例 ある疾患に対する新薬物療法の代替案として は,既存の薬物療法,外科的手術などが比較対象 に(無治療).しかし,1次のデータ源となる多くの臨 床試験では,1つの代替案との比較が多い.利用 可能なデータは不足しがち. ■経済的評価は,絶対的基準ではなく,あくまで利 用可能情報を増やす1つの手段 3 ■経済的評価以外に,分配の公正や公平性も重 要.しかし,それらの評価は一層困難 6 1 9.2. 経済的評価の方法 9.2.1. 費用と結果の評価 データ→無作為臨床試験より得る 【プロトコル】 ①治療法の決定→②治療結果予測 →③治療計画実行→④患者の状態は動学的に変 化→⑤最終状態 z経済的評価では,この一連のプロセスをモデル 化し,臨床試験データ,疫学データ<用語注)因子 分析による結果>,費用面では経済データなどを用 いて費用と結果を予測.プログラム間の比較は機 会費用(逸失最大利益)で!! 7 《費用》 直接費用: 広い意味での治療費 (直接非医療費→通院費,待ち時間など) 間接費用: 失われた労働所得など (精神的苦痛や悲しみ,不安などは金銭に換算す るのが著しく困難で,通常は除外) ¾さらに保険料や補償金などは金銭の移動であり, 社会的立場での評価には含まれるべきではない. 《医療サービスによる健康改善の評価》 死亡率, 罹 患 率 の 変 動 , 効 用 , QOL で 調 整 し た 生 存 年 (Quality-Adjusted Life Years: QALYs) 8 9.2.2. 分析のタイプ 費用・便益分析(CBA): 費用と結果は金銭単位 で測定.便益はWTPにより測定されるが,機会費 用としての便益を間接的に測る方法もある.例とし て,新医療技術によって消費されずに済んだ医療 資源や,不必要になった家族のケアなどを便益とし て評価する.職場復帰による回復所得や死亡回避 による生産所得も間接便益として評価.前に述べ たように,評価の基本は「純便益」である.結果も金 銭表示なので比較が容易.便益評価に恣意性が 残るという指摘も.生命を金銭評価することへの抵 抗感. 9 ●生命の金銭評価 (1)人的資本アプローチ →死亡しなかったら稼得できた生涯所得 (2) WTPアプローチ →仮想的な評価方法により,死亡回避にどれだけ 支払うかを測定 10 費用・効果分析(CEA): 結果を救命数,治癒数, 延命年数等で測定.恣意性の程度は薄まるが,同 一尺度で計測されたものとの間でしか比較不能. 効果をE,費用をCとすると,効果を1単位追加的に 改善するのに費用がどれ位変化するかを表すΔC /ΔEで検討.CEAでは,効果指標として延命年数 がよく用いられるが,問題は年数が同一でも「どの ような状態」でそこまで生きるかである.QOLが重 要に.QOLとQuantity of Lifeという2つの側面(質 で調整した生存年: QALYs).また障害で調整した 生存年(Disability-Adjusted Life Years: DALYs) も用いられる(World Bank, 1993). 11 費用・効用分析(CUA): 健康結果として健康状態 に依存する効用が測定される.実際に健康尺度と して用いられるのはQALYs.クオリティーを調整す るウェイトに個人の健康状態に対する選好を反映 した効用指標が用いられる.CEAの特殊ケース. 費用・最小化分析(CMA): 代替案の間で効果が 同等である場合に適用される.費用を最小にする ものを選択.CEAの特殊ケース. 12 2
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